その頃、デカベースでは、送られてきたデータを元に、バンが発見した謎の物体の研究が進められていたのだが………

『ドゥギー、大変よ!』

デカルームにおいて、戦闘状況を見ていたドギーにかかってきた連絡は、整備室にいる技術者のスワンの声だった。

「どうした?」

余りの焦り様に、ドギーも影響を受ける。なるべく平常心でいながら、それでも危機感を感じていた。
スワンは本来こんなに取り乱すような人ではない。それがここまで緊迫した表情にしているのだ。どうやらスワンが伝えようとしている事実は、尋常ではないらしい。

『今、例の機械の解析が終わったの。本人以外に使えないようにマスター登録機能があったわ』

マスター登録機能は、本来インテリジェントデバイス等に使われるものである。異世界の技術はそこに使われていたというわけだ。

『それで、その持ち主が特定できたんだけど……』

「どうした?」

『……持ち主は、サチョウ星人のベンド』

「何だって!」

その連絡を聞くや否や、ドギーは念話をしようと試みる。
一刻も早くこの事実を伝えなければ、最悪の事態を招いてしまう。
最早機械の用途よりも、持ち主が彼だという事自体が問題なのだ。

だが………

「くそっ! テレパシージャミングか!」

念話が繋がらない。それどころかノイズが掛かった様な感覚が頭を支配した。
誰かが魔法で妨害しているのか、それとも何かアイテムを使っているかは定かではないが、このままでは危険を知らせる事も出来ない。

仕方無しにドギーは自分の持つ警察手帳―マスターライセンスを取り出した。
本来なら全員に知らせるべきだが、通信端末を彼女達は持っていない。
手段はこれしかなかったのだ。

「バンっ! 全員を呼び戻せ。彼女達を単独で行かせるな!」

『えっ、どういう事ですか、ボス?』

「説明は後だ! 急げ、特になのはとの合流を最優先だ!!」

その時のボスの声は、なのは達が来てから最も大きく、一番冷静さを失っていた。





「レイジングハート!」

『All right.』

なのはの最も得意とする攻撃魔法、ディバインシューターが、彼女の周りに現れた魔法発射台―スフィアから放たれる。
スフィアから放たれたその数は、十発。

『Divine Shooter』

「シュートッ!!」

襲い来るアーナロイドを綺麗に撃ち抜きぬく。
アーナロイドは、その場で風穴を空け、爆発するか活動を停止していた。

「っ!?」

横下を見ると、ドロイド兵がこちらへ向けて機銃を構えている。先端からエネルギーの反応が感じられた。このままでは恐らく蜂の巣だ。
しかし、彼女は動じずに防御魔法を展開させる。

『Round Shield』

一斉に放たれたエネルギー機銃の雨だったが、桜色を発する光の壁によって遮られ、少女に当たる事は無かった。
なのはが有能な魔導師である理由はここにある。
強固な防御魔法を使う事で、近接戦闘手段を持たずとも、戦えるのだ。

攻撃が止むのを見計らって、再びスフィアを展開させ、相手に命中させていく。

「シュートッ!」

全部で五体の量産型ドロイドが、またも胸を貫かれ粉々に爆散した。
その後も、敵の攻撃を次々とかいくぐりながら、ディバインシューターを次々と命中させてくなのは。この魔法の最大の長所は、その操作性だ。

無論、狙った所に的確に、かつ即座にヒットさせるこの技術は、なのはの日々の修行によって培われたものではあるが、たかだか十数体のドロイド兵如きが相手になるはずも無かった。



「これで……全部かな?」

バラバラになった機械の破片に散らばる中、なのはは静かに息を整える。ゆっくりと敵の気配を探るが、もう狙ってくる反応は見受けられなかった。

メカ人間の破壊によって爆発の硝煙が辺りにまきおこるが、仕方が無い事だった。敵が機械である以上、非殺傷設定の魔法は意味を成さないため、直接破壊するしかない。

「お疲れ様、レイジングハート」

飛行魔法を解き、戦闘の跡に降り立つなのは。

『All right.』

「随分ボロボロになっちゃったね……」

魔法少女は周りの惨状を改めて確認した。
敵をかわしつつ攻撃を当て、距離をとって逃げようとするドロイド兵を追いかけていったら、いつの間にかこんな所まで来てしまったのだ。

なのはが今いる場所はかなり広い建物だが、逆に人の気配が全くしない。恐らくもう使われなくなった、廃工場か何かだろう。
そこら辺に討ち捨てられた機材やマシンから、もう何年も使っていない雰囲気が容易に伝わってくる。

「そろそろ、皆も終わってる頃だよね」

他の地点で戦っている人達の事を心配するなのはだったが、すぐに杞憂だと暗い考えを払拭した。
フェイトやはやての実力は今までの戦いで十分に分かっているし、ホージー達は一流の捜査官で、その道のプロだ。

「まあ……バンさんは、ちょっとね……」

実力そのものを疑っている訳ではない。
むしろ模擬戦で見せてもらった彼のアクロバティックな動きは、フェイトですら翻弄されている。

「結構突っ走っちゃう感じだし、大丈夫かな……?」

穴を探索しているときも、先に進んでいたばかりに落ちてしまっていた。

「でも、頼もしい所だってあるよね」

ホージーに言わせると無駄な動きが多いだけらしいが、あの気迫だけは管理局でも感じることは無かった物だ。


「大丈夫だよね……多分………」

杞憂だと思っても、最終的には懸念してしまう。

彼の持つ熱血ぶりが仇になって、ひょんな事から躓いてしまうではないか……。
心配と言うほどの物ではないが、それでも考えてしまうなのはだった。

「レイジングハートはどう思う?」

そう言った次の瞬間だった。

『Protection Powered』

なのはが自覚する前に、レイジングハートはオートで持ってバリアを展開し、襲い繰る弾丸を防いでいたのである。

「えっ!?」

『Master!』

突然の襲撃者になのはは驚いたが、レイジングハートが主に注意を促す。
今の銃撃そのものは一発だけだったが、後から来る可能性は十分にあった。
少女は気を引き締めなおして、辺りに気を配る。しかし、魔力反応は感じられなかった。

更に土煙と爆炎で、殆ど視界がはっきりしない。せめて何処から来ても確実に防げるように、準備を怠らないようにした。

が………

「いやーはっはっはっはっ……お見事、お見事………」

次弾は飛んでこない。
代わりに辺りを覆っていた煙が晴れると同時に、手を叩く音と豪快な高笑いの声が聞こえてきた。

「仕留められたと思ったんだが、まさかここまでやるとはね」

「あなたはっ………」

なのはがレイジングハートを声のする方向へと構える。

だがそこから現れたのは、明らかに人間の形状を取っていなかった。身に着けている鎧から除く手や足、そして顔つき、全ての形状が異なっている。

腰に挿してあるのは長い棒状のもので、ライフルのようにも見える。しかしこの銃も、見た事のない形だった。

積み重なった機材の上で、足を組みながら不敵に笑うその男を見て、なのはは一つの結論に至った。

「あなたが……山に墜落した宇宙艇に?」

「そうさ。あれは俺が乗っていた」

笑みを崩す事無く、横柄な態度で男は機材の上から降りた。

「じゃあ、あのデバイスみたいな物も……」

「ああ、ついうっかり、コンテナから落としちまってな。宇宙警察に拾われた時は冷や冷やしたぜ」

まるで演説でもするかの様に両手を広げて話すその男に、なのはは奇妙な感覚を覚えた。

(何…この人……?)

何かが違う。この宇宙艇に乗っていた者は、自分たちとは何かが根本的に異なっているのだ。

「折角、大枚はたいて買ったドロイドがパアだ。まあ、捨て駒とは言え、あいつ等のお陰で、俺の大事な仕事道具の在り処も分かった事だし……」

男となのはの目が合う。

「……持っているんだろ、君が?」

瞬間、なのはは一歩その場から下がっていた。
それは犯罪者に対する恐怖、という感情では説明できない。もっと深い、何かが彼女を下がらせていた。

「特定するのには手間が掛かったんだぜ。わざわざ、撃たずに全員おびき寄せて、その間にサーチして……」

(この人……さっきから話してばかりだけど………)

だが、魔導師としての経験と義務感が、彼女を踏みとどまらせていた。
犯人と接触したのだから、よく考えればこれはチャンスだ。
魔法を使うようにも見えないし、先程自分を撃った時使ったと思われる武器も、腰に挿してあるままだ。

「持っているのがその内の一人だと分かったら、即座に違う場所まで誘導して……」

魔法の発射準備を進めつつ、念話で持って皆に連絡を取ろうとした。

しかし、その策はまたも失敗に終わる。まるで頭にノイズが掛かったように、全く繋がらなかった。

(そんな……念話妨害………)

「仲間は呼べないぜ。言っただろ……君を誘導したって……」

そう言って、男は腰の挿してあったライフルを取り出し、ゆっくりとなのはに対し歩き始めた。

「まさか……」

「そう、この工場一帯に君が入ったら、妨害電波が発動するように罠を張ったのさ。念話はもちろん、衛星サーチも届かないし、デバイスや機械による直接通信も不可能……」

そこで彼女は、先程の彼の態度に表れる姿勢が考え違いである事を理解した。

謎の襲撃者の黒幕は、話に夢中になっているのではない。
相手を追い詰めたという確信がって、今こうして余裕をもって接しているのだ。
しかも、ここまで動きを、全員に悟られないように、ドロイド兵に指示していたのである。

「普通に魔法を使ったんじゃ、すぐに気付かれるから機械で代用したんだが……高かったんだぜ………これはよぉ!」

男は態度を一変して、向けていた銃をなのはに対し発射した。

「くっ!」

ラウンドシールドを発動させ、弾丸をはじく。しかし今度は一発では終わらなかった。
次々と鉄の棒から凶弾が発射される。しかもライフルだというのに、まるでマシンガンでも撃っているかのような速度だった。

先程撃ってきたドロイド兵のエネルギー銃とは比べ物にならない威力と量だ。実弾とエネルギーの差こそあれ、一発一発の重さが圧倒的に違う。

「ほっほう……やるじゃねえか………そんな細っこい身体でよ」

しかしシールド自体が敗れるかどうかはまた別問題だ。
流石にこれ以上撃っても無駄と気付いたのか、男は銃を撃ち続けるのを止めた。

「貴方、一体何者なの? どうして、こんな事を………」

なのはは、この謎の異星人が話を聞いてくれることを望んでいた。敵の目的を突き止めるのも捜査官としての役割だが、何よりなのは自身のやり方だった。

しかし目の前にいる異星人犯罪者は……アリエナイザーは、彼女のその申し出をいとも簡単に踏み倒す。

「そうだな……」

言いかけて、男はなのはに対し走り出していた。

そこから感じられるのは、最早完全な殺気のみである。

「捜査官なら、自分で調べろっ!」

拳を振り上げ、勢いそのままに打ち下ろす。
だが不意を突かれたものの、一瞬早くなのはの魔法が発動した。

『Accel fin』

なのはの足から桜色の羽が生え、天井の近くまで彼女を導く。
飛行魔法である、『アクセルフィン』だった。
なのはが異動したとき、鈍い爆発したような音が聞こえる。先程まで彼女が居た場所は、深く抉り込まれていた。

(だめ、このままじゃ………)

自分がやられる。そうなってしまえば話し合いどころではない。

「速いな、隙を突いたと思ったのによ!」

吐き捨てるように言う男の目は、やはり笑っていた。

しかしなのはも、このまま甘んじて攻撃を受けるつもりは無い。

「レイジングハート、バスターモード!」

『Buster mode. Drive ignition.』

自分の頭の中でイメージする。
相棒がそれを探知し、自らの形状を変えた。
取り付けられたマガジンからカートリッジがロードされ、先端の形状が変化する。
レイジングハートの砲撃主体機構、バスターモードだ。

なのははマガジンをグリップ代わりに握り、照準を定める。これは今から行う砲撃魔法を行う際、照準のブレを抑える為だ。
杖の周りの三つの光点が取り巻き、力が増大していった。

(非殺傷設定なら……動きだけ止められる)

直接攻撃に切り替えれば、工場ごと破壊してしまいかねない。
だが相手はメカではなく、生物だ。ならば非殺傷設定でも効果は有る筈。
照準を定めながら、なのははそう考えた。

『Divine Buster Extension』

発生した三つの点から光が収束し、そして一気に放出された。

なのはの長距離砲撃魔法、ディバインバスター・エクステンション。超長距離からの射撃が可能になっている、なのはの主砲でもある。

相手は動いていない、握り締めた拳を壊した地面につけたまま、こちらを見上げている。

「これなら………」

当たる、今から回避行動を取っても間に合わない。

なのははそう確信した。

しかし………

襲撃者に向かって発射されたはずの光の柱は、なぜか命中しない。

ディバインバスターは、敵の目前まで近づいた後、自ら敵を避けたのだ。

「ええっ!?」

避けたディバインバスターが、顔を背けるかのように曲がり、地面に激突する。
横にいる男には当たる事は一切無かった。

「言っただろ……調べておけってなっ!」

男の足裏から細い管が展開され、そこから蒸気が吹き出る。
再び握り締めた拳に加えて、もう一方の手で銃を構え、なのはがいる方向へ向かって跳躍した。

この間も、なのはのディバインバスターは止む事無く撃ち続けられていたが、光の束は男を避け続けている。

「はあっ!」

一瞬にして男はなのはとの距離を詰める。

(速い……!?)

スピードが先程殴り掛って来た時とはまるで違っていた。
纏っている殺気の質も段違いに高い。

「くっ!」

『Flash Move』

ディバインバスターの発射を止めるなのは。

高速でダッシュ出来る魔法、フラッシュムーブを使い、距離を置こうとするが、今度は敵のほうが一枚上手だった。

「おらああっ!」

後ろに下がろうとしたなのはよりも、男が方向を転換させ、更にその後ろをとる時間の方が遥かに短い。

とっさに左腕を振りかざし、ラウンドシールドを発動させる。

桜色の壁と、襲撃者の拳が激突し、そこから起こる衝撃と閃光は回りに飛び散った。
だがここでも先程の砲撃と同じ結果になってしまう。

「無駄だっ!!」

今まで殆どの攻撃を防いできたなのはが誇る鉄壁の防御壁、それさえも、男の拳を拒否したのだ。

まるでブラックホールの所にポッカリ空いた穴は、安々と襲撃者の攻撃を腕ごと通した。

「きゃあっ!」

突き抜けた拳がなのはの腹部を直撃し、堪らずなのはの身体は機材が散らばる地面へと叩きつけられる。

「くっ……うう……」

身体全体が軋む。バリアジャケットの不可視フィールドにはある程度の衝撃緩和機能がついているが、それすらも追いつかない程であった。

なのはの服が防御主体に考えられているにも拘らず、である。

(何で魔法が……通じないの?)

魔法だけではない。防御すら意味を成していない。

「はっはっは。おいおい、この程度かよ……」

なのはが何とか機材を押し退けながら起き上がった時、左腕のライフルが向けられる。
そしてそこへ、光が螺旋状に集約していった。

そう、これはライフルの形を取ってはいたが、その実態は鉛の玉ではなく、エネルギーをチャージして放てるマルチガンのなのだ。

「もっと楽しませろや!」

一気に溜め込んだ分を吐き出すかのようになのはに対して向けられる銃の咆哮。

『Protection Powered』

すんでの所でレイジングハートのオートガードが働き、敵の弾が防がれる。
しかしその時、既に襲撃者は姿を消していた。

「流石に防御は硬いな……だがっ!」

全身を包んだはずの光の防護膜を突き抜け、またも醜悪な異性の腕が少女に襲い掛かった。
バリアジャケットの襟首を掴んだ男は、そのまま地面に放り捨てるように投げ飛ばした。

「あぁ!」

頬が地面と衝突した。
口の中から鉄の味がする。どうやら少し中を切ったようだった。

「やれやれ……宇宙警察に魔導師がいるってのは、珍しいと思ったら……」

醜悪な笑みのまま、胸倉を握り締め、力任せに持ち上げる。

「ううっ……」

自然と首が絞められ、喉が圧迫された。息が出来な程ではないのが、せめてもの救いだ。

「なぜ魔法が通じないのか……そう考えているな?」

気配で魔法は使うなと、威嚇する。使えば即座に首を折られる。それが言葉ではなく態度で伝わっていた。

「俺の装備しているこの鎧はな……光を屈折・湾曲させる効果があるんだよ。だから光を伴う魔法や、銃の類の一切が俺には効かねえ」

呼吸困難の苦しみの中、何故かはっきりと言葉だけは聞き取れた。

(そうか……だから………)

ディバインバスターも、ラウンドシールドも、プロテクションも………いや、恐らく現存する魔法の殆どはどのような形であれ光が発生する。
特になのはの得意とする砲撃魔法は魔力の発する光を直接敵にぶつけるというものだ。

だから男のいた部分だけは湾曲し、あたかも避けている様に見えたのである。

今もディバインシューターを撃とうとしているが、上手くレイジングハートに魔力が伝わっていかない。

男の視線はなめずり回す様になのはの全身を移動して言った。目から始まって鼻、口、喉、肩、胸、腹、足……。

そうして最終的に、腰の辺りのある膨らみ―なのはが何時もレイジングハートの予備カートリッジを入れてある所に、それは集中した。

「っ!?」

腕がバリアジャケットの中まで入り込む。その瞬間、言葉に出来ない悪寒が襲い掛かった。
機械質な腕とカートリッジが絡み合う音が聞こえる。それが余計に嫌だった。
だがやがて目的のものに当たったのか、腕の動きが一瞬止まり、その後再び外へと這いずり出た。

「おー、おー、あったぜ。武器商人への納金前に無くしたとあっちゃ、犯罪者としては二流だからな」

そう言ってなのはのバリアジャケットを取り出したのはデバイスもどき、バンが発見し、偶然にもなのはがそのまま持ち続けていた、例の謎の機械だった。

「なんで……」

少女は、魔法はおろか殆どの自由を封じられた中で、必死に言葉を搾り出した。

「……なんで、こんな………」

かつてフェイトと戦った時もそうだった。

なのははこのやり方を忘れない。敵の目的を聞くと言う事。
それは、魔導師してのみならず、人間としてあくまで自分の信念を貫くという意志の現われであった。

まずは話を聞く。

どんな犯罪者であっても、それだけは破りたくなかった。

「自分で調べろって言っただろ……まあ、結構楽しめたし、ここの言葉で言うそうだな………『冥土の土産』ってやつだ。教えてやるよ」

だが、そんな信念は、彼らの前では通用しなかった。次の瞬間、男の腕がゴキゴキと音を立てながら変形していったのだ。
それを見た時、なのはの全身はまたも硬直した。

(これは変身?……違う、こんなの………)

ユーノが姿を変える変身魔法とは違う。

デバイスが形状を変化させる時とも異なる。

自分たちがバリアジャケットを身に纏うのとは、比べようが無い。

もっと醜悪で、禍々しい物だった。少なくとも管理局にいる間は、こんなのは見た事もない。

男の左腕は、全体をトゲ状の金属針が覆う蟹のハサミの様な物になっていた。

「ただ、好きなだけだ……今の君のみたいな………初々しくて、可愛い……」

なのはと襲撃者の目が再び合う。
その時、なのはの精神は完全に凍りついた。

(………怖い……)

今、完全に理解した。

初めて対峙した時の奇妙な感覚、その正体が。

(これが……『悪人』って事、なの…?)

この男はこれが『普通』なのだ。どんなに異常と思える行為でも、どんなに常軌を逸していたとしても、それが『当たり前』であり、『何時もと変わらない』のだ。

だから笑いながら殺気を出せるのだ。故に『悪人』と呼ばれるのだ。

「……吐き気のするような、表情がっ!!」

ハサミが振り下ろされる。

魔法によって周りの温度は上がりきっていたのに、何故か自分と男の間だけは、冷めきっていた。
ヴィータと初めて出会い、そして敗北した時とは比べ物にもならない、真の恐怖がなのはの周りを支配する。

抵抗もできない、考え付く事すらない。
男はそれを分りながら『敢えて』潰そうとする。

ハサミは男の意思にきっちりとシンクロし、正確になのはの顔面を捉える。

「いい声で鳴いてくれよっ! 頭が無くて口が聞けるならな!!」


ドギーが教えようとしたデバイスの元の持ち主……サチョウ星人のベンドが頭を砕こうとして………



そして、止まった。



「なにっ!?」



なのはの代わりに、腕をハサミに喰われ、血に染めた………



「バン……さん?」



スーツの色ではない真紅の液体が、滴り落ちて……それでも眼光から発する『気迫』で敵を睨みつける、赤座伴番が立っていた。









次回予告

『Episode03』


「なのは、君はバンを看てやってくれ。予想以上に重症だ」

「駄目です、まだ動いたら……っ!?」

「そうこうしてる内に……ビビッてる間に誰かが死んだら、俺は俺を許せねえっ!」

「私も……私もいきます!」

「よっしゃあっ! パトストライカー、GO!!」


次回『ソウル・ファイターズ〜燃えるハートでクールに戦うなの〜』


君のハートに、ドライブ・イグニッション!




あとがき

何とか予告どおり、一週間以内に終わらせましたが……なんだこの終わり方は?
反省としてはなのは自身のセリフが少ないと思いましたね、我ながら(オイ
次回は絶対に、なのはとバンが叫びまくります。絶対に、約束します。



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