傷つけられた。

 

初めて対峙した時、あの男は、私 の正体を一目で見破った。

 

そして、二度目に対峙した時、あ の男は、私の誇りを傷つけた。

 

私に課した、唯一つの誇り を……………。

 

これを失えば、私は戦士として生 きる意味を失うだろう。

 

この手を、血に染めた、殺し屋の くだらない誇り…………。

 

だが、その誇りを傷つけたあの男 を、私は……………。

 

 

 

 

 

決着をつけよう

 

 

――――――――八神 和麻――――――――

 

 

 

 

 

 

 

風の聖痕 三色の旋風・目覚めし不死鳥

 

第十五話 交渉と契約 ―――前編―――

 

 

 

 

「ちっとは手加減しろ、お前 らっ!!」

 

「手加減しては、修行にならない でしょう?」

 

「そうだよー、いみないよー?」

 

「そっちが頼んできたんじゃな い、文句言わない!」

 

「ほらっ、和麻、気を逸らしたら 危ないよっ!」

 

「手加減するっつったろう がぁぁぁぁっっ!!」

 

青龍、玄武、イッコ、八房の攻撃 を何とかかわしつつ、和麻は切実に叫んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「行くわよっ!!」

 

「よかろう、本気でかかって来 い」

 

一気に踏み込んだ綾乃が白虎に迫 る。―――――が。

 

 

 

ドゴッ!!

 

 

 

「きゃうっ!!」

 

一秒後、綾乃は仰向けにひっくり 返っていた。

 

やたらと顔面が痛いのは、やっぱ り返り討ちにあったということだろうか。

 

「まあ、今のお前の力はこんなも のか」

 

「つ、強い…………」

 

仰向けにひっくり返っている綾乃 を見下ろし、白虎は静かに呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

「ほえ〜、あのお嬢さんの炎はた いしたもんやな〜。坊やの方はもーちょい出力上げれるはずやけど…………ま、気長に見学しとこーか」

 

静かに眺める先に、激しい組み手 を繰り広げる姉弟が見える。

 

「ほら、どうしたの、煉! 動き が鈍りだしたわよ!」

 

「は、はいっ!」

 

必死に攻撃を防ぎ、時には繰り出 し、少年は最強の存在に向かって拳を振るう。

 

「…………そやな…………てつど うたっても問題ないわな」

 

楽しげに、朱雀は二人を眺めなが ら呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「セイバー、そっちをお願い。魔 力と音素の暴走を食い止めておいて」

 

「了解しました。カートリッジの 弾丸が完成していますよ、凛」

 

「了解、こっちももう少し。 ――――――ちょっと開放しないとまずいか、私の魔力だけじゃ足りないしね」

 

「――――――気をつけてくださ いよ?」

 

「大丈夫よ、あなたたちのおかげ で、完全に取り込んじゃってるんだから」

 

「それならば、いいのです が……………」

 

さまざまな器具に囲まれ、セイ バーと凛は作業を進めていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

それぞれが修行を始めていた。

 

そんなこんなが始まる数時間前 ――――――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「とりあえずは、契約も終わった わけですし、私たちも修行のお手伝いをいたしますよ」

 

激しく一部分に反応した数名が和 麻を睨むが、既に目を逸らしていた。

 

「いいの?」

 

「問題はない。まあ、やる気がな いと思ったら即、下ろさせてもらうがな」

 

「ま、妥当よね」

 

白虎の台詞に焔が頷く。

 

「で、どーいうメンツに分けるん だ?」

 

和麻の疑問に、精霊たちは即座に 答える。

 

「そやなー…………属性がおんな じもん同士、うちはそこのお嬢さんらに付こうかな」

 

朱雀は焔と煉を指名する。

 

「私は…………綾乃、だったか?  お前に付くとしよう」

 

「あ、あたし?」

 

「不服か?」

 

「そ、そんな事はないけ ど…………」

 

精霊たちの実力はたっぷりと聞か されていたため、綾乃は拒まなかったが、一瞬、和麻の方に目が行ったことに、焔と凛だけは気づいていた。

 

「私たちはいいわよ、色々やるこ とがあるから。セイバーには付き合ってもらうけど」

 

「ええ、カズマたちのほうをお願 いします」

 

「では、残った者たちは和麻さん につくということで」

 

「まてこら」

 

青龍が綺麗にまとめようとしたと ころを、和麻がとめる。

 

「…………手加減しろよ?」

 

「わかってるわよ。心配性ねぇ」

 

ぜってー信用でき ねー……………。

 

玄武の言葉に、和麻はそんな感想 を抱いたが、嘆息一つで諦めた。

 

どうせ人の話を聞くとも思えな かったし。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

で、そんなこんながあって、午前 の修行が終了。

 

 

 

「で、なんで俺が食事番をせにゃ ならん? 一番疲れてるんだが」

 

心底くたびれた表情で愚痴る和麻 (全身生傷だらけ)に、約三名を除いた全員が声を揃えて答える。

 

 

 

『和麻(カズマ)(さん)の料理が一番美味しいから』

 

 

 

「……………俺と煉以外、全員女 なんだけどな……………」

 

微妙に複雑というか、自分の中で は女性は少々の料理は出来るものと考えていたのだが…………認識を改める必要があるらしい。

 

女性は料理が出来るものとの幻想 は抱いていないが、自分が一番上手いというのはどうかと思った。

 

「だって、私より美味しいのは事 実だし…………」

 

「私は作れません…………」

 

凛とセイバーが微妙に傷ついた表 情で答え、

 

「私はあまり料理などはしません ので」

 

「いやー、カズぽんの飯食うのは 久々やし」

 

「面倒」

 

「悪いが、そのような技術は習得 していない」

 

「ボクは食べるの専門だよ」

 

「イッコもー」

 

精霊たちが揃って言い切り、

 

「操はどうだ?」

 

和麻の微妙にすがるような台詞 に、

 

「い、一応、一通りは出来ます が…………」

 

「和麻の料理見たら自信なくすわ よ、操」

 

「は、はあ…………先ほどもそう 言われたので、和麻様の手料理をご賞味したいのですが…………」

 

すごい恐縮したような表情で操が 答え、

 

「煉はともかく…………聞くだけ 無駄か」

 

「どーいう意味よ!?」

 

最後に綾乃が爆発した。

 

「別に? 言葉通りだ、料理ベ タ」

 

「なっ!? 適当なこと言わない でよ!!」

 

「えっ? 綾乃、料理できたっ け?」

 

「……………」

 

焔の突っ込みに、綾乃は黙り込ん だ。

 

「問答してる時間が惜しい。さっ さと作るか…………」

 

 

 

 

『おっなかすいた、おっなかすいたー♪、パオパオパオー♪』

 

 

 

 

「やかましい! 黙れ、八房、 イッコ!」

 

こめかみをひくつかせつつ、和麻 はまだ理性的に返答する。

 

「無理ー、だって退屈だもん」

 

「かずま、忙しいから遊べない しー」

 

「出来ることってこれしかない よー」

 

「ねー」

 

二人は見事な連携で屁理屈をごね ると……………

 

 

 

 

『おっなかすいた、 おっなかすいたー♪♪、パオパオパオー♪♪!!』

 

 

 

 

「ええいやかましいっ!! とい うか焔姉、一緒になってはやしたてるな! 朱雀と玄武も一緒に叫ぶな! 青龍、笑ってねーで止めろっ! 白虎、遠い目をせずに何とかしろよっ!?」

 

残る者たちが乾いた笑顔で見つめ ているのを尻目に、どんどんエスカレートする。

 

 

 

 

『おっなかすいた、 おっなかすいたー♪♪、パオパオパオー♪♪!!!』

 

 

 

 

「…………セイバー

 

和麻の心底低い声に、一緒になっ て叫びそうになっていたセイバーがびくりと震える。

 

「な、なんでしょう、カズマ?」

 

「容赦はいらん、薙ぎ払え

 

問答無用本気の口調で和麻は命令 (エクスカリバー使え)を下す。

 

「カ、カズマ? それはどうか と…………」

 

「そーか、わかった。なら俺がや る。―――――導く者は風の継承者――――――…………

 

スイッチを入れ替え、和麻は魔術 回路を起動させる。

 

「待った待った! 和麻、呪文詠 唱しない!」

 

凛が慌てて全員を黙らせ、和麻を 諫める。

 

「―――――次やったら殺す」

 

『はーい…………』

 

真面目に本気の口調だったので、 全員が震えながら従った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ほれ」

 

人数分の皿に様々な料理を載せ、 和麻は手際よく料理を並べていく。

 

見た目からして美味しそうであっ た。

 

 

 

『……………』

 

 

 

綾乃、煉、操の三人は驚いたよう な表情で料理を眺めている。

 

『いただきまーす!』

 

そんな三人には目もくれず、他の 者達はパクパクと食事に取り掛かった。

 

「どーした? お前らもとっとと 食えよ」

 

和麻が固まっている三人を促し、 自分も食事に手をつける。

 

「あ、はい………」

 

「いただきます………」

 

「い、いただきます」

 

目の前に並んでいる料理は特に変 わった所はない。

 

チャーハンをメインに、大皿には ポテトサラダが中心に盛られている。

 

その周囲には少々厚めに切ったハ ムが綺麗な焼き色で並べられ、ゆで卵が輪切りにされてトッピングしてある。

 

その下にはレタスを敷き、中心の ポテトを囲むようにミニトマトが添えられている。

 

そして小皿にはきんぴらゴボウが 盛られており、自家製らしいドレッシングがある。

 

コンソメスープも市販ではなく、 手作りのようであった。

 

――――――はっきり言って、 バックが物凄い光って見えるほどであった。

 

 

 

『………………』

 

 

 

いまだ三人が躊躇っているのに気 付き、和麻は苦笑を浮かべて告げる。

 

「カロリー抑えてあるから、太る 心配はないぞ?」

 

『っ!』

 

約二名、食べ過ぎてしまうので は、とか考えた二人の肩が跳ねた。

 

「栄養バランスも問題ない、味も 保障するさ。安心して食え。冷めるとまずいぞ」

 

そう言うと、和麻は再び食事に 戻った。

 

最後に。

 

「さっさと食わないと、全部食わ れるぞ」

 

ひょいひょいとご飯を食べまくっ ている八房を横目で眺め、和麻は目を瞑って静かにスープを口に運んだ。

 

『!!』

 

三人が急いで戦線に参加して行く のを、和麻は笑いながら眺めていた。

 

 

 

 

 

 

 

「あー、美味しかったー♡」

 

満足満足、と言った風に八房はニ コニコ笑いながら言い放つ。

 

最も多く食べたのが彼女だったこ とは言うまでもない。―――――――ちなみに、軽く五人分以上。他の連中の料理も被害にあっていたり。

 

「デザートは?」

 

「まだ食う気か、お前は!?」

 

とか言いつつ、しっかりとタルト を作っておくのが和麻だった。

 

ちなみに、レモンクリームのタル トで、メレンゲの甘みがとても効いていてすごく美味しかったとか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「では、おなかも膨れたことだ し、午後の修行と行きましょうか!」

 

妙に元気になった焔が楽しそうに 宣言する。

 

「さ、煉、行くわよー」

 

「あ、はいっ!」

 

さっさと走っていく二人の後姿を 眺め、和麻は苦笑を浮かべた。

 

「私たちはどうするの?」

 

綾乃は白虎に尋ねる。

 

「綾乃は基本はできているから な。次の段階に入る。これを付けろ」

 

そう言って白虎が出したのは、手 の平サイズの太い輪のようなものだった。

 

「こ、これはまさか、パワーリス ト!?」

 

白虎はどこからかアイテムを取り 出し、それを無造作に放り投げる。

 

「こっちが脚に嵌めるもの。こっ ちがベルトだ」

 

「また、ベタ中のベタだ な…………」

 

和麻がしみじみ呟くと、

 

 

 

ベシッ!!

 

 

 

容赦のない突っ込みが後頭部に炸 裂した。

 

「和麻が嵌めるわけではないだろ う」

 

「て、手加減なしで殴るなっ!  痛いだろうが!」

 

「殴られるようなことを言うから だ」

 

「言ってねー……………」

 

痛みがほんとに尋常じゃなかっ た。

 

一般人なら意識が飛んでいるだろ う。

 

そのとき、ふと綾乃を眺めた。

 

綾乃は、パワーリストを持ったま ま固まっていた。

 

「どーしたよ? 着けないの か?」

 

和麻が怪訝そうにたずねると、引 きつった表情で綾乃は答えた。

 

「いやあの、白虎? 無茶苦茶重 いんだけど…………」

 

和麻は地面に落ちていたアンクル を手に取ってみた。

 

「……………」

 

一瞬、持ち上がらなかったりし た。

 

「何を言っている。重くなければ 修行にならないだろう」

 

綾乃は引きつった表情のまま、無 骨なパワーリストを着けていく。

 

綾乃が装着した瞬間、リストは溶 けるように見えなくなった。

 

「便利だな…………白虎」

 

「なんだ?」

 

「俺にも一セットくれ」

 

「…………着けるのか?」

 

「ああ、ちょっと面白そうだ」

 

白虎が取り出したパワーリストを 和麻もはめ、青龍たちを促して歩き出した――――――幾分ぎこちなく。

 

綾乃はそれを信じられないような 表情で眺めていた――――――無理もないだろうが。

 

「あの…………これを着けてやる の?」

 

「当たり前だろう。修行が終わっ ても外すなよ。私の許可が出るまで、決して外してはならない」

 

「……………」

 

綾乃の表情が、完全に凍りつい た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「では、稽古を始めるぞ」

 

「…………あの、白虎?」

 

「なんだ?」

 

「この状態で、何しろと?」

 

パッと見、ノーガード戦法に見え る。

 

だがしかし、当然のごとく、負荷 がかかりすぎて単に動けないだけである。

 

歩くことの出来た和麻が異常なの だろうか。

 

そして、白虎はかなり非情であっ た。

 

「私は攻撃をする」

 

「………………え?」

 

「出来る限り避けろ」

 

無茶を言う。

 

「いや、だから動けないんだって ば!」

 

「いくぞ?」

 

「全然聞いてないし!?」

 

 

 

 

 

ベシッ!! ドゴッ!! バキッ!! ゴシャッ!!! メキゴキャッ!!!―――――――――ドシャッ!!

 

 

 

 

 

白昼に起こった惨劇は、誰もが目 を逸らしたくなるようなものだった。

 

お子様にはとても見せられない光 景である。

 

「一発くらい避けろ」

 

「む、無茶言わないで よ……………」

 

ひっくり返って起き上がれないま ま、綾乃は呻く。

 

「早く起きろ、続けるぞ」

 

「こ、殺される………………」

 

綾乃は、自分の運命を結構予測で きてしまった

 

 

 

――――――合唱――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まあ、とりあえずはこんなもの か」

 

「…………ぁ、ありがとう、ご ざぃました……………」

 

数時間殴られ続けた挙句、仰向け にひっくり返って礼をする綾乃だった。

 

顔を狙っていないのは白虎の温情 だろうか。

 

「だらしがないな。和麻はまだ やっているぞ」

 

「そ、そう、な の………………?」

 

息も絶え絶えに綾乃は尋ねる。

 

「精神世界で戦っているようだか らな。こちらからは見えない――――――そうだな、見てみるか?」

 

「う、うん……………」

 

白虎の提案に、一も二もなく綾乃 は頷いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

で、数時間をさかのぼ り……………和麻は、へたばっていた。

 

「いや、ふざけん な………………!」

 

無理やり腕を突っ張って起き上が り、和麻は呻く。

 

「ただでさえ重いのに、八房につ いていけるわけないだろうが!」

 

凄まじい速度で駆けていく八房を 全力で追いかけ、一時間で数十キロを走破してしまった。

 

山の周囲を軽く一周はしただろう か。

 

「和麻、だらしないよ? ペット の世話はご主人様の義務なんだからね」

 

なかなか遊べて楽しかった、と 言った風体の八房が言い放つ。

 

「俺は権利は行使するが、義務は 受けないのが主義だ」

 

「脱税はいけませんよ?」

 

「証拠がなければ問題ない」

 

さらっと青龍のツッコミを流し、 和麻はとぼける。

 

「ま、そんなのどうでもいいじゃ ない。さっさと始めましょうよ」

 

玄武の言葉に和麻たちは頷き、適 当な木にもたれる。

 

「重量などは、そのまま身体に負 荷がかかるようにしておきますね」

 

「頼んだ」

 

和麻たちの戦闘修行は、基本的に 精神世界で行っている。

 

綾乃や煉のような格闘の修行はと もかく、和麻たちは力を前回にして戦うため、周囲の被害が半端ではなくなるのだ。

 

「では、いきますよ」

 

青龍の言葉と共に、和麻は精神世 界に入っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「っし、始めるか」

 

和麻は指先の切れた黒いレザーグ ローブを着けると、拳を打ち合わせる。

 

「それなーに?」

 

イッコの質問に、和麻は端的に答 える。

 

「音素の抑制装置みたいなもんだ よ。暴走したらたまらんからな」

 

「やめてよ、超振動引き起こすと かは」

 

「第四譜歌までしか使う気はない から大丈夫だろ。ほら、やるぞ?」

 

「リストを着けたままでいいので すか?」

 

「つけてないと意味ないだろう が。ま、何とかなるだろ」

 

「よーし。それじゃあ、行っく よー!」

 

次の瞬間、凄まじい衝撃が周囲を 震わせた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あとがき

 

修行が本格化しだしました。

 

少しずつ伏線を張っていこうと思 います。

 

少々内容が長くなったので、前、 後編に分けてしまいました。

 

後編は出来るだけ早く書き上げる ように頑張ります。

 

 

 


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