第1部   〜動き出す運命〜

 

 

 

 

第22話 それぞれの戦い

 

 

もう少しで神の封印されている三 昧真火へ着くというときに風が4人を襲った。

 

4人の前に風の刃の雨が降り注ぎ 道をさえぎる。

 

「お出ましか」

 

上空から2つの影が4人お前に降 り立つ。

 

『ここから先は通さん』

 

「ふふ、行かせないよ」

 

蠱雕そして流也が立ちはだかる。

 

だが和麻が何事もないように足を 進める。

 

「悪いがそうもいかない。俺たち は前に進まなくちゃならないんでね」

 

ここで止まる訳にはいかないの だ。自分の大切な人を助けるためにも・・・

 

「ねぇ、和麻、君は一体何を考え ているんだ?」

 

「何?」

 

流也が和麻へと話しかけてきた。

 

「ふふふ、君は僕と同じように神 凪の馬鹿な連中から散々酷い目に合わされてきただろ」

 

「・・・・・・何が言いたい?」

 

鋭い目付きで和麻が流也を睨みつ ける。

 

「壊したいと思わないのかい、神 凪をあいつら全てをさ!? 自分たちが強いなんて、選ばれた存在なんて間違った考えをしている愚かな人間を? 生きている価値もない無能な人間を?」

 

「・・・・・・・・・」

 

「和麻、僕たちは同じだろ。奴ら には生きる価値がないのは誰なのかを教えて上げなくちゃならないんだよ。僕らを無能者と馬鹿にしてきた奴らに一体誰が本当の無能者なのかをね、違うか?」

 

和麻は黙って流也の台詞を聞き続 けている。

 

「それが今なんだよ、和麻。風牙 神が目覚める今、あの調子に乗った神凪を滅ぼす。君はそれだけの力を持っているじゃないか、僕らと一緒にあの無能たちを撃ち滅ぼす力をね。なのになぜ君は 邪魔をするんだ?」

 

「・・・・・・・・・」

 

和麻は何も答えない。

 

「いい加減、自分に正直になりな よ。奴らの言う通り無能者は生きる価値がない、ならそれを実行す・・・!!?」

 

スパッ!

 

流也の顔を蒼い風が通り過ぎて いった。

 

頬を薄く切られ血が流れる。流也 は驚き和麻を見る。

 

和麻は無言で腕を振り下ろしてい た。

 

「・・・・・・くだらねぇな」

 

「なに?」

 

「くだらねぇって言ってんだよ。 お前らの考えはくだらな過ぎて聞く気もおきねぇ」

 

流也の方へと顔を向け和麻は続け る。

 

「いいか、俺は神凪の連中なんて 滅びようが、馬鹿やってようが、周りから見放されようがどうだっていいんだよ。俺はお前らのやっていることが許せねぇからここにいるんだ。俺の名を勝手に 使って好き勝手やってくれたお前らがな」

 

和麻はイライラしながら流也に言 う。

 

「時間がねぇんだ。お前の馬鹿な 演説聞いている暇なんてないだ。くたばりやがれ!」

 

風の刃が和麻から放たれる。

 

「ふん、やっぱり君も神凪の血が 流れているみたいだね。厳馬と同じで頭が固いよ」

 

「冗談言うんじゃねえよ。俺はあ んな奴とは違う」

 

「僕らの邪魔をするなら和麻、君 も死ぬがいい!」

 

「ふっ、お前が死ね!」

 

和麻と流也の風がぶつかり合っ た。

 

「和樹、先に行け! こいつは俺 が相手する」

 

和麻の声を聞き和樹たちは走り出 す。

 

『逃がさん』

 

黒い羽が和樹たちへと降り注ぐ。

 

「氷壁」

 

氷の壁が羽を全て食い止めた。

 

「あたしが相手になるわ」

 

千早が蠱雕に向け槍を構えた。

 

「今度はちゃんと相手してあげる わ」

 

『人間ごときが我に勝てるとでも 思っているのか?』

 

「ならその答えを教えて上げる。 あたしの本当の力を・・・」

 

千早を中心に水と氷の精霊たちが 渦巻き始める。

 

「千早ちゃん?」

 

「2人は先に行って!」

 

言葉と同時に千早は蠱雕へと走り 出した。

 

「行くよ」

 

和樹はすぐに動くがその前に立ち はだかる者がいた。

 

「兵衛!」

 

綾乃が声を上げる。和樹は黙って 見返した。

 

「これはこれは綾乃様、遠いとこ ろわざわざお越しいただきありがとうございます」

 

相手をからかうように兵衛は感情 の篭らない台詞を言った。

 

「式森和樹だったかな、君に用は ない」

 

「・・・・・・・・・」

 

和樹は無言で兵衛を見返す。

 

「さあ、先に進むがいい。その勇 気があるのならばね」

 

和樹は兵衛の台詞に疑問を持つ。

 

「和樹、行け!」

 

「和樹君!」

 

和麻と千早の声が聞こえた。兵衛 の台詞は何か裏がある、だがここで止まっているわけにもいかない。和樹は飛翔し三昧真火へ向けて先を進んだ。

 

「綾乃様、残念でございますがあ なたはここにいてもらいましょう。神が甦るまで」

 

「ふざけるんじゃないわよ! そ こを退きなさい!」

 

「ふははははははははは!」

 

兵衛は笑い声を上げ綾乃をおちょ くるように言う。

 

「『嫌だ』と申したらどうなりま すかな? 綾乃様」

 

「こうなるのよ!」

 

炎雷覇を抜き綾乃は兵衛へと炎を 放った。兵衛はそれを見て軽く手を振った。すると綾乃の炎は風に掻き消された。

 

「うそっ!」

 

「考えが甘いですな。綾乃様」

 

兵衛はそう言いながら綾乃へと黒 い風を放つ。

 

綾乃もそれを黄金の炎を召喚し迎 え撃った。炎は風を消したがそのまま消えていく。

 

(な、何この力?)

 

綾乃は兵衛から感じる異様な力に 体が震えた。

 

「綾乃様、どういたしました?  お体が震えておいでのようですが?」

 

「ふざけないで!」

 

炎雷覇を振りかぶり綾乃は兵衛へ と炎を放つ。だが風の壁に阻まれて炎は兵衛まで届かない。

 

(何なのよ、兵衛のこの強さは)

 

綾乃が知る兵衛の力ではなかっ た。自分の炎と同等の風を兵衛は操っている。

和麻も兵衛の風に違和感を感じて いた。

 

流也から距離をとり綾乃と兵衛を 挟むように対峙する。

 

「兵衛、お前何をしやがった?」

 

「これはこれは和麻様ですか、あ なたが風を使うようになるとは思いもしませんでした」

 

「質問に答えろ!」

 

和麻は殺気を放ちながら兵衛へと 問いただす。

 

「怨みとは恐ろしいものですな。 私のこの力、歴代の長たち怨念の塊。これぞ私の力・・・・・・」

 

兵衛の背から髑髏のようなものが 浮かび上がった。

 

「自分の体に長たちの霊を憑依さ せたのか・・・」

 

「我ら風牙の怨念、死してなお消 えること叶わず今日まで封印され眠り続けてきた。だがその眠りも覚め力は開放されし・・・・・・」

 

ウオオオオオオオオオオオオオオ オォォォォォォォォォォォォォ!!!

 

山の中から次々と霊が飛び出して いく。どの霊も怒りに顔を染めていた。

 

「さあ、風牙の霊たちよ。今こそ 我らとともに力を合わせ神凪を滅亡させようぞ!!」

 

霊が地上へと降り注ぐ。その場に は風牙衆の遺体、さらにはまだ動ける風牙衆関係なく憑依したのであろう。

 

(ただ憑依しただけでなく長たち の力まで・・・)

 

綾乃では荷が重いと和麻はすぐに 判断した。おそらく今の兵衛は綾乃の知る兵衛の倍以上の力を持っている。

 

炎雷覇をまともに扱えない綾乃で は兵衛にとって勝てない相手ではないだろう。

 

流也の相手をしながら綾乃の援 護。

 

(腕の1本ぐらいは本当に覚悟し とかないとな・・・)

 

千早は綾乃のことを気にかけるほ どの余裕は無いだろう。自分が何とかしなければならない。和樹を先に行かせたときにそれは覚悟していた。

 

「鎌鼬」

 

和麻は兵衛に向け鎌鼬を放つ。だ がそれは流也によって阻まれた。

 

「だめだよ、和麻。君は僕の相手 をしてくれなきゃ」

 

流也が和麻へと向けて黒い風を放 つ。それを和麻は手を振って相殺した。

 

「ならてめえをさっさとぶっ倒 す!」

 

「やってみな!」

 

和麻と流也の風が2人の間でぶつ かり合う。

 

光と闇の力がぶつかり合った。

 

 

 

 

 

 

 

(急がないと!)

 

和樹は全速力で三昧真火の下へと 走っている。その速さは和麻たちといたときの比ではない。

 

この先に煉、そして風牙衆が数名 いる。

 

そしてその中心から感じる、強い 力。その力は少しずつ強くなってきている。

 

そのとき地面が大きく揺れだし た。

 

和樹は飛翔し先を急ぐ。

 

その目の前に燦然と輝く炎が洞窟 の中から現れた。

 

「・・・あれが三昧真火・・・」

 

純粋な炎、まさにその通りであ る。

 

和樹でさえ今まで見たことが無い 純粋な炎、三昧真火を前に言葉を失った。

 

そしてその前には煉が立ち、回り を5人の風牙衆が固めていた。

 

和樹の接近に気が付いたのか風牙 衆が・・・鬼と化した風牙衆が和樹へと襲い掛かってきた。

 

「くそっ!」

 

和樹は黒刀を右手に握り締め鬼へ と斬りかかる。目にも留まらぬ斬撃が鬼の体を細かく斬り裂いた。

 

さらに左手の装飾銃から4発の炎 の弾丸が放たれ鬼を燃やし尽くす。

 

「グアアアアア!」

 

和樹へ黒い風が放たれる、それを 和樹は空中で素早くかわすと炎を纏った刀で鬼を滅殺する。

 

「瞬炎」

 

残りの鬼へ炎の球体が襲い掛かり 全てを滅した。

 

風牙衆を全て倒し和樹は煉へと声 をかける。

 

「煉君」

 

「・・・・・・」

 

だが煉は和樹の声に全く反応しな い。

 

「煉!」

 

煉はゆっくりと振り向き和樹へと 視線を合わせた。

 

(あの目・・・操られている)

 

和樹が知る煉では無かった。和樹 を見る煉の目は殺気を含み、顔に浮かぶのは普段の煉が見せる表情ではない。悪意に満ち溢れ自我などは消え去っていた。

 

和樹は怒りを覚えた。あの心の優 しい煉をこんなふうにした相手に・・・・・・

 

ゆっくりと和樹は煉へ向けて手を 構える。

 

和樹の手に炎が召喚される。

 

それは神凪のものしか使えないは ずの黄金の炎、魔を浄化する炎が召喚された。重悟、厳馬を超えるかと思わせる最高の炎が和樹の手に凝縮される。

 

煉は炎を召喚し和樹へと放つが全 て和樹の手に集まる炎が吸収していく。

 

「・・・・・・君では僕に勝つこ とはできない」

 

和樹は動いた。

 

「煉君を帰せ!」

 

和樹は煉に手を当て、黄金の炎で 体を包み込んだ。

 

「!?」

 

刹那、和樹は大きく後ろに跳ん だ。煉の手が和樹へと伸びたのをさせるためだ。

 

さらに未だに煉の表情は戻る気配 は無い。和樹へと変わらぬ殺気を放っていた。

 

「・・・まさか、ここまですると はね」

 

和樹の瞳は紅の輝きを放ってい た。

 

神凪本家で見せた眼、『捜眼』同 様和樹の使う魔法の眼、『選眼』の1つその名は『心眼』。

 

名の通り心を見る眼。相手の心を 読む眼である。

 

だが和樹が今までにこの眼を使っ たのは片手で数えられるくらいである。相手の心を読むようなことを和樹は嫌っていた。その考えが『心眼』を使わせないでいたのだろう。

 

和樹はその眼で煉の心の中を見 た。

 

煉の心は眠ったままである。変わ りに別の存在が煉を支配していた。

 

「どうやら君は僕の事を本気で怒 らせたいみたいだね」

 

煉は和樹の言葉を肯定するかのよ うに不気味に笑みを浮かべた。

 

「すぐに煉君の体から出 ろ・・・・・・風牙の神」

 

「ふふふ、気づいたかさすが黒炎 使い。だがそれは無理な話。我が復活するまではこやつがお前の相手をする」

 

煉の声ではあるが煉でない。その 声を発しているのは疑いようもない。風牙の神、風牙神。

 

和樹は『心眼』で煉を操る風牙神 の存在に気づいた。

 

「煉君じゃなくて、お前が相手す るんだろ」

 

和樹は手に炎を召喚する。

 

「炎を放とうとも無駄なことこや つの中にいる我を倒すことはできぬ」

 

「やってみなければわからないこ とも世の中にはあるんだよ」

 

和樹を炎が取り巻く。

 

「僕は1人で戦っているんじゃな い。今からそれを教えてあげるよ」

 

最強の炎が和樹へと召喚されよう としていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「うらああああぁぁぁ!!」

 

「はあああぁぁぁぁ!!」

 

和麻と流也は壮絶な空中戦を繰り 広げていた。

 

蒼い風と黒い風がぶつかり合い凄 まじい風が起きる。

 

「吹き飛びやがれ、修羅旋風拳」

 

腕で竜巻を作り出し、拳を流也に 叩きつける。それを流也は爪を伸ばし受け止めた。

 

2人の間で火花が散る。

 

(・・・こいつ本気じゃねぇな)

 

間合いを取りながら流也へと風を 放ちながら和麻は思った。

 

この山の中では風牙衆は神の力の 影響なのか力が強くなっていた。

 

もちろん、流也、兵衛も例外では ない。その証拠に兵衛は綾乃を圧倒していた。

 

だが流也は違う。

 

(何を考えてやがるんだ)

 

和麻は風を放つ。流也はそれを防 ぐが風を返しては来ない。

 

「やる気あるのか、てめえ。それ ともそれがお前の力の全開だって言うんじゃねぇだろうな」

 

「それは違うよ、和麻」

 

流也は風を放ちながら和麻へと返 答する。

 

「楽しみはあとにとっておかない と詰まらないだろ。神が完全復活するまでさ」

 

「本気でそんなことできると考え てるのか?」

 

和樹が止めると和麻は信じてい た。だが今になって思う、なぜ和樹を先に行かせたのか。

 

「彼は神を止めることはできな い」

 

「ふざけ・・・まさかお 前・・・」

 

和麻は気づいた。神は復活しては いない、だが力が使えるなら、人を操ったりできるならと・・・

 

「今頃神は彼と戦っているだろう ね。君の大事な弟の体を使ってね」

 

「・・・き、貴様!」

 

和麻は流也へと風を放つ。

 

「神を浄化することができるか な」

 

和麻の風は黒い風に止められた。

 

「さあ、考えてごらんよ、和麻。 かわいい弟が殺されるか、神が復活するか、和麻はどっちがいい?」

 

流也は楽しそうに和麻へと言っ た。

 

「テメェーーー! ぶっ殺す!」

 

怒りの風が和麻から放たれた。

 

 

 

 

 

 

 

「流星氷弾」

 

千早から蠱雕にナイフのように 尖った氷柱が放たれた。

 

『小ざかしい』

 

羽を羽ばたかせ黒い風が起こり羽 の形をした風がぶつかり合う。

 

蠱雕はその中を千早に向かって急 加速していく。

 

風を切り裂くような速さで千早に 迫る蠱雕の羽は刀のように鋭かった。

 

『その体バラバラにしてくれる』

 

横へ飛び千早は回避する。だが空 を自由自在に飛ぶ蠱雕は休むことなく襲い掛かってきた。

 

「花舞」

 

千早は花舞を使い蠱雕の動きを見 切り回避し続ける。少しでも気を抜けば致命傷は確実である。

 

『どうしたまた逃げるだけしかで きないのか!?』

 

挑発するように千早を翻ろうする 蠱雕。だが千早もただ避けているだけではない。

 

蠱雕も次第に千早の動きの変化に 気づき始める。

 

(動きを見切られている)

 

千早の動きが少なくなり自分の動 きに合わせて攻撃しようとタイミングを計っていた。

 

(ならもっと速く動くまで!)

 

蠱雕は速度をさらに速くし千早へ と襲い掛かる。急降下して地面すれすれを飛翔し千早へと迫ってきた。

 

『死ね、女!』

 

「私はあなたなんかに負けな い!」

 

声と同時に千早は槍を地面へと突 き刺した。

 

「突き抜けろ、つらら舞!」

 

『!! ぐあっ!?』

 

地面から巨大な氷柱が飛び出し蠱 雕の体を貫いた。

 

『舐めるな! 子娘が!!!』

 

「!!?」

 

だが体から血を流しつつも氷を砕 きながら蠱雕は千早へと体をぶつけてきた。

 

千早はとっさに槍で受け止めるが それでも衝撃は凄まじいものだった。

 

体を弾き飛ばされ地面も何度も回 転し体を起こす。

 

「っつ!」

 

左手に衝撃が走る。骨に響くよう な鋭い痛みを感じた。

 

(受け止めたとき・・・)

 

蠱雕の体を受け止めたときとっさ に左手を前にしたためライオンの3倍も巨大な蠱雕の体重が一気に左手に掛かってきた。

 

どれだけ体を鍛えていようとそれ を受け止められるわけがない。ましてや千早は力が強いとは言えない。

 

骨に異常があるかも知れないが、 左手だけで済んだのは幸運だったといえる。

 

『女ぁぁっ!!』

 

蠱雕が体を起こしながら千早へと 咆哮した。負傷したがそれは相手も同じである。氷に貫かれたところから蠱雕は血を流していた。

 

致命傷ではないがそれでも動きは 確実に鈍くなる。

 

『よくも我が体に傷を!!!』

 

血を流しながらも飛翔する、羽を 羽ばたかせ風の羽が千早へと襲い掛かった。

 

千早は氷の壁を前方に作り出し受 け止め、右手だけで槍を構える。そして蠱雕を睨み付けていた。

 

その眼に左手の怪我など感じさせ ない、強い決意を持ち千早は殺気を放ち対峙していた。

 

「女だと思って甘く見ないでほし いわね」

 

『減らず口を・・・その体バラバ ラにして喰ろうてくれる』

 

「私はあなたなんかに負けない」

 

女だから弱い、護って貰わないと 何もできない。そんな考えは千早にはない。

 

だが1人で戦える力を持っている わけでもないし、1人で全てができるとは千早は思っていない。

 

できないこともある、でもそれは 助け合うことができる。

 

(私は1人で戦っているんじゃな い)

 

自分の手に握られている槍。そし て、左手に輝く指輪。

 

側にいてくれる人が自分にはい る。

 

支えてくれる人が自分にはいる

 

必要としてくれる人が自分にはい る。

 

失いたくない大事な人、離れたく ない人が自分にはいる。

 

(何があろうと私はあきらめたり なんてしない)

 

千早に今まで以上の力が集まり始 めていた。

 

 

 

 

 

 

 

「綾乃様、何もできませぬか?」

 

「くっ!」

 

明らかに馬鹿にされている。綾乃 は兵衛の風を防ぐだけで精一杯である。

 

前、後、右、左、上、下・・・

 

四方八方から休み無く襲ってくる 黒い風に綾乃は防戦一方であった。

 

(このままじゃ何も・・・攻撃す るどころか動くこともできにないじゃない!)

 

炎で自分を包み込むようにして風 を防いでいるがそれでは何の解決にもならない。ただ悪戯に時間と体力が奪われていくだけである。

 

「ふははははははは、次期宗主で あるあなたがそれでは詰まらな過ぎますぞ。神凪の風前の灯火を見せてみるがいい!」

 

「ふざけないで、滅ぶのはそっち よ!」

 

綾乃は炎雷覇を振り回し、炎を当 ても無く放った。しかしそれが綾乃の狙い、この状況から抜け出す方法はそれしかない。

 

「ぬっ!」

 

炎がアスファルトを砕き兵衛へと 砕け飛び風が一瞬だけやんだ。

 

その隙を待っていたかのように綾 乃は兵衛に向けて炎を放つ。風牙衆では止めることは不可能といえる炎の強さである。

 

だが今の兵衛にはそれを防ぐだけ の力があった。

 

「これしきの炎、我が力の前には 無力」

 

風が荒れ炎を削り消滅させてし まった。

 

「そんな・・・」

 

全力でないとは言え、ここまで簡 単に止められるとは思っていなかった。綾乃を驚きと相手の力に対する恐怖が心を揺さぶる。

 

「我が風牙衆の長たちの力甘く見 るな」

 

「このおおおぉぉぉ!!」

 

炎雷覇を振りかぶり、炎を放つが 風に削られて兵衛に届くまでいかない。

 

「死ぬがいい!」

 

兵衛から風が次々と放たれる。

 

「速い!」

 

綾乃は炎雷覇を振りかぶって炎を 放つが全てを止めるまでには至らない。

 

炎雷覇で叩き落すだけの剣技も綾 乃にはない。

 

(だめ、止め切れない!)

 

炎雷覇を振るうが風はすでに目の 前止めることはできない。

 

(やられる!!!)

 

綾乃は目を瞑り炎雷覇を握り締め たまま自分が風に斬り刻まれるのを覚悟した。

 

(・・・・・・・・・え!)

 

痛みは襲ってこない。

 

ゆっくりと目を開けてみると風の 刃は全て目の前から消えていた。

 

「ぬおっ!」

 

前を見ると兵衛が風を避けている のが目に入った。

 

「・・・和麻」

 

上を見ると流也がこちらに背を半 分だけ向けて和麻と対峙していた。

 

さらに右のほうから叫ぶような妖 魔の声が聞こえてきた。

 

『おのれぇ! 我をよくも利用し てくれたな!!!』

 

「えっ!」

 

最初妖魔の言っていることが分か らず呆気に取られたがすぐにその殺気が自分でない事に気づき視線を追った。

 

「千早ちゃん・・・」

 

妖魔の視線の先には千早が槍を手 に立っていた。水の精霊が千早の槍に召喚されていた。

 

よく見ると自分と兵衛の間が水で 濡れていることに気づく。

 

(・・・あたし・・・助けられ た・・・)

 

綾乃は和麻と千早を見た。そして 理解できた。2人は綾乃のことを見ていない。和麻は流也と、千早は蠱雕と睨み合っている。

 

だが間違いなく、2人は自分を助 けてくれたのだ。

 

千早は蠱雕を相手にしながら自分 たちの間を通るように水を放ち自分を風から護ってくれた。

 

和麻は攻撃を止めるために流也に 放ったと見せ掛け兵衛に風を放ち動きを止めたのだ。

2人とも自分を助ける余裕など無 いはずである。それなのに助けてくれた。

 

『自分は戦力になる、十分戦え る』

 

『護ってもらうほど弱い女じゃな い』

 

そんなこと言っていた自分が情け ない。

 

2人が助けてくれたのは嬉しい、 そして感謝している。

 

だけど許せない、自分が・・・

 

2人は自分のせいで全力で戦えて いない。足手まといになっている自分の援護をするために戦いに集中できていない。

 

(・・・カッコ悪いなあた し・・・なさけない)

 

「命拾いしましたな」

 

兵衛は綾乃を馬鹿にするような声 で話してきた。

 

「しかし、無能者と呼ばれていた 和麻に助けてもらうとは次期宗主がこれでは他は何と言っていいのやら」

 

兵衛の言葉は綾乃の心に深く突き 刺さる。

 

「所詮あなたは誰かに護って貰わ なければ戦うことができない半人前。1人では何もできない!」

 

兵衛の罵声は止まらない。

 

「我らは何を恐れていたのか?  何もできない貴様など私の相手にもならん、すぐに殺す!!」

 

「ふざけないで!! あんたなん かに負けるほど私は弱くなんてない!!」

 

「口ばかりの小娘が何を言 う!!」

 

兵衛は風を放ちながら言う。綾乃 は炎を召喚しそれを防ぐ。

 

「貴様など自分の力を扱いきれな い、半端者!! この場に来た中で1番弱い、能無しよ!!」

 

「なっ!!」

 

和麻に言われたことと同じことを 言われ綾乃の頭の中の何かが切れかける。

 

千早は認めよう。レオンやカイ、 和樹・・・和麻も助けて貰ったばかりである。認めざるを得ない・・・だが認めたくない。

 

さらに凛や沙弓に劣っているなど ど認めることがなど到底できない。

 

「あたしが・・・弱いですっ て・・・」

 

「何もできずに護って貰ってばか りいる! 1人では戦うこともできない! 弱いと言わないで何と言う!? 貴様などあやつらと比べること事態が間違い。家に帰りあの能無し馬鹿宗主に泣き つくことしかできぬ、口だけの小娘よ!!!」

 

・・・ぶちっ!

 

「何ですって・・・」

 

綾乃の中で何かが完全に切れた。

 

心の奥底から今まで感じたことの ないような怒りが湧いてくる。自分の弱さをここまで言われたことは一度もない。

 

確かに自分は和麻、和樹、千早、 レオン、カイに比べたら弱い。それは事実である。

 

だがそれをこんな奴に言われるな んて・・・

 

さらに1番許せないのは父、重悟 のことを馬鹿にされたこと。これだけは許せない、決して許すことなどできない。

 

「私だけならまだしもお父様のこ とまで貶すなんて・・・」

 

綾乃は自分に対しても怒る。父を 誹謗中傷するような言葉を言わせてしまった自分に対して・・・自分に力があればそんなこと言わせはしなかった。

 

「能無しを能無しといって何が悪 い。所詮、神凪をまとめることのできなかった馬鹿な男よ」

 

「黙りなさい」

 

「口だけの男の娘はやはり口だけ よ。ハハハハハハハハハハッ!!」

 

「・・・・・・許さない!!」

 

綾乃の怒りが炎の精霊たちを呼 ぶ。

 

父を侮辱されたことへの怒りが強 い決意となり綾乃の炎術師としての、眠っていた神凪家直系の力を目覚めさせた。

 

「なに!?」

 

兵衛は綾乃の力に驚きを隠せな い。姿は綾乃である。しかし、今自分の目の前にいるのはまるで別人である。

 

まるで重悟が目の前にいるかのよ うなそんな感覚。

 

「ここまでとは!?」

 

綾乃の力がまさかここまでとは 思っていなかった。兵衛は重悟にも迫る綾乃の力の強さを感じた。

 

炎は次第に炎雷覇へと集中してい く。炎雷覇はその力を余すことなく集め今までにない強い光を放っていた。

 

綾乃はゆっくりと炎雷覇を兵衛に 向けて構えた。

 

「くっ!」

 

綾乃から放たれる殺気に兵衛は後 退する。

 

形勢は完全に逆転していた。今攻 められているのはまぎれもなく自分である。

 

「こ、こんな馬鹿なことがあって たまるものか!?」

 

16の小娘に自分が恐れを抱くな どあるわけがない。兵衛はそれを認めることができなかった。

 

「決意は固まったわ、兵衛!」

 

炎雷覇を中心に綾乃を炎が取り巻 いた。

 

「あたしはあんたを許さない!  神凪重悟を馬鹿にしたあなたを決して許さない!!」

 

綾乃の怒りは頂点に来ている

 

「あたしはあんたを倒す!!」

 

炎雷覇を兵衛に向け綾乃が決意を 表す。

 

「あたしは、あんた を・・・・・・お父様を貶したことを絶対に許さない!」

 

「小娘が! その心砕いてくれ る!!」

 

兵衛は風を召喚し綾乃に対抗しよ うとする。だがその力は今の綾乃の前では劣っていた。

 

「あたしはあんたを必ず倒す!」

 

力に目覚めた綾乃は兵衛へと炎を 放った。

 

 

 

 

 

 

 

(やっと力に目覚めやがったか)

 

和麻は綾乃を見ながらその急成長 に驚きながらもどこか嬉しそうな顔をしていた。

 

「どうだ、計算外だったかな?」

 

「ふん、少し有利になったくらい で喜ばない方がいいよ」

 

流也は和麻に平静を装って言い返 すがそれでも驚きは隠せてはいない。

 

だがそれも頷ける。綾乃の力は流 也もそうだが、風牙衆、風牙神もが足でまといとして見ていた。しかし今の綾乃は違う。

 

己の奥底に眠っていた力を呼び覚 まし綾乃の力は倍以上に上がっている。さらに今の綾乃の心は兵衛を倒すことだけに完全に向けられ完全に戦いに集中している。

 

兵衛に全く引けを取らないどころ かそれ以上の力を綾乃は手に入れている。

 

「だが、これで俺もお前との戦い に集中できる」

 

和麻を取り巻く風が一気に上が る。

 

完全に戦いに集中することができ る、綾乃の心配が無くなり自分の前にいる流也だけに意識を集中させる。

 

「今の綾乃なら兵衛相手にも十分 過ぎる力だ」

 

「彼の心配はしなくていいのか い?」

 

流也は和麻の心を揺さぶろうとす る。

 

彼とは和樹のことである。

 

「神は完全ではないがそれでも今 の僕と変わらない力を持っている」

 

煉のことは和麻も心配だ。そのこ とを完全に頭から消すことはできないはずだと流也は確信している。

 

「彼と弟が心配じゃないか? 和 麻」

 

(君は弟を皆殺しにはできない。 そうだろ・・・)

 

流也は和麻の心を崩そうとする。

 

「確かに心配だ。でもな」

 

和麻は両手に風の精霊を召喚して いく。感じたことのないような強い力が流也の前に集まりつつある。

 

「和樹の力をお前は軽視してる」

 

(あいつは俺の想像を遥かに超え ていやがる)

 

和樹の底知れぬ力。まだ自分が知 らない和樹の力を・・・いや、和樹自身を信じている。

 

「俺はあいつがガキの頃から知っ てるんだ。一度言い出したら聞かない奴でな。結構強情な奴なんだよ。それは今も変わっていない」

 

昔の和樹を思い出しながら和麻は いう。

 

「あいつの心は神だろうが壊すこ となんてできない」

 

(だから・・・俺は自分の役目を 果たす!)

 

和麻の心も決まっている。

 

「俺はお前を倒す!」

 

「無駄なことだよ! 和麻!!」

 

蒼い風と黒い風が激しくぶつかり 合う。

 

いつ終わるか分からない戦いが再 び動き出す。

 

 

 

 

あとがき

「千早の囁き・・・「あたしっ て・・・必ず怪我するのね・・・」spirits of DESTINY

は〜いレオンで〜す。今回のゲス トは大物が着てくれました。では今回のゲストはこの人です!!」

「皆さ〜んお久しぶり、山瀬千早 で〜す!」

「はい、千早はなんと13話以来 のあとがき登場です」

「そんなに成るんだ。カイもこの 前に出たみたいだけど?」

「カイは10話に出てから11話 ぶりにでてきたね。綾乃は異様にあとがき登場回数が多いけど、理由としてはあとがきくらいしか活躍する場が無いからみたいだね」

「・・・・・・レオン言い過ぎ じゃ・・・」

「そんなわけで精霊ニュースいき ます」

「流すのね」

「綾乃ついに力に目覚める(?)・・・兵衛に対して防戦一方 だった綾乃、しかし、父重悟の事を馬鹿にしたその言葉に綾乃は兵衛を前に力を解放する。そのころ、和樹は神に操られる煉の前に立つのであった」

「綾乃ちゃんは兵衛を倒すことが できるのかな?」

「無理! 理由はそんな簡単に倒 しちゃったら詰まらない。え〜と「綾乃の完全敗北」、「綾乃いいところまでいくけど敗北」、大穴の大どんでん返し「綾乃辛くも勝利」、金をどぶに棄てたい 人「綾乃傷一つなく完全勝利」。さあ、あなたならどれにかける!!?」

「レオン、B組に染まっているわ よ・・・・・・」

さりげなく、財布から2万円を取 り出し「綾乃いいところまでいくけど敗北」を買っている千早・・・女狐だ・・・

「次回は和樹vs神、カズは甦る 前に神を倒すことができるのか。煉は助かるのか?」

「次回もお楽しみにね♡」

「「それでは皆さん、待ったね 〜〜」」


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