第1部   〜動き出す運命〜

 

 

 

 

第21話 激突

 

 

2台のレンジローバーは、妨害を 受けることもなく、快適な走行を続けた。市外を出ると観光ルートを突っ切り人が滅多に通らなそうな道を進み、山の裏側へと回り込んでいく。

 

和麻の運転するレンジローバーの 後を適度な間隔をあけレオンの運転するレンジローバーが着いてきていた。

 

「ねぇ、和樹君」

 

「何?」

 

千早が助手席に座る和樹へと声を 掛けた。

 

「今、気になったんだけど、流也 や妖魔が使う風が狂ってるって言ってたよね」

 

「そうだけど何か気になることで も?」

 

「うん、和麻お兄ちゃんは相手の 風の精霊を奪うことはできないって言ってたけど・・・」

 

「ああ、あいつらの風は狂って る。コントラクターの俺の干渉を全く受け付けようとしなかった、だから最初俺と同じやつがとも考えた」

 

千早の疑問に答えるように和樹を 制して和麻が答える。

 

「まあ、今はあいつらの風が何で 干渉できないか分かった。妖気を混ぜられたりしたせいかは分からないがあいつらの風の精霊は発狂してんだか、狂っているような状態だ。例えで言ったら人が 酒飲んで酔っ払った泥酔状態、酔ったせいで何がなんだか分からない状態なんだ。そのせいで俺の干渉を受け辛くなってやがるうえに感知もしづらい」

 

「それでちょっと思ったんだけ ど、お兄ちゃんの風が奪われることはなくても狂わされたりって事はないの?」

 

「ど、どうなの和麻?」

 

千早の言葉に綾乃もはっとして和 麻を見て聞いた。

 

「安心しろ、攻撃や防御には問題 はない。集団で張り付かれたり、長時間付かれたりしたらさすがに保障はできないがな」

 

「向こうも兄さんに風を奪われな いようにしてるからお互いに千早の考えは当てはまっているんだ」

 

「そうなんだ」

 

「ねぇ、でも本当に大丈夫なんで しょうね?」

 

それでも、綾乃はどこか疑いの目 で和麻を見ていた。

 

「信用しろって。それじゃあ、 さっそく実際に確かめてみようか? ―――「来た(ぜ)」!」

 

和麻と和樹の声が重なり合った。

 

 

 

 

 

 

 

後ろの車両では――――

 

レオンの運転するレンジローバー は駐車場をでて和麻の運転するレンジローバーと一定の間隔を開け着いている。

 

「今のところ、襲ってくるような 気配は無しか」

 

「俺の方も同じだな」

 

助手席にはカイが座り窓を開け周 りを見ていた。

 

ちなみに街中を出るまでそれを見 た女性たちが黄色い悲鳴を上げていたのはここだけの話である。

 

「ちなみに今回のことには関係な いんだが・・・」

 

カイがそういいながら言う。

 

「凛、何でいつもと服装が違うん だ?」

 

「べっ、別に意味はない」

 

凛はカイの言葉に少し慌てたよう に答え窓の外を眺める。

 

カイの言うように凛の服装はいつ もの巫女の服装とは違っていた。

 

刀はいつもと変わらないが、上は 胴着ではなく黒のインナースーツに白のTシャツを重ね着し、その上に厚手の黒いジャケットを着ている。下は袴でなく黒のアーミーパンツを穿き、靴は黒のコ ンバットブーツを履いている。全身は黒で統一している。ついでに車に乗ってから額には青のバンダナをつけていた。

 

凛らしくない服装だがその姿で刀 (レオン確認済み)を握るその姿もどこか様になっている。

 

「どことなくその服装見たことが あるような気がするんだが・・・」

 

「きっ、気のせいだ!」

 

凛は先ほどよりも少し強めでカイ に言い返した。

 

(しかし・・・)

 

カイは凛の隣に座る沙弓もいつも と少し雰囲気が違うと考える。

 

やはりこちらも色は黒で統一して いた。

 

上は同じくインナースーツを着込 みその上に青のタンクトップ、その上にコンバットベスト。下はスリムパンツを穿き、ハーフブーツを履いている。

 

その上に愛用のプロテクター(レ オン確認済み)を装着していた。

 

「沙弓は・・・」

 

「き・の・せ・い・よ!」

 

「・・・・・・はい」

 

触らぬ神にたたり無しとカイは何 も言わずに引き下がる。

 

まあ、今から神に触れるのだから どうでもいいことだとも思ったが・・・・・・

 

そして自分の横に座り運転をして いる相方を見た。

 

「どうした?」

 

「・・・いや、なんでもない」

 

(こいつが原因か・・・)

 

カイはレオンを見て自分の疑問が 消えた。

 

2人の服装、全てではないがレオ ンが好んでいる服装と類似するところが多過ぎる。さらに青はレオンのヘアカラーでもある。

 

そうカイの考え道理2人はレオン の服装を見て自分たちなりに服をコーディネートしてきたのだ。

 

しかも、それぞれ動きやすさ、機 能性などもしっかりと計算に入れている。

 

カイはここで少し2人に気を聞か せた言葉を言った。

 

「なあ、レオン」

 

「なんだ?」

 

「お前2人の服装どう思う?」

 

ビクッ!!!

 

前を向きながらにしてカイは表面 上は冷静に見える2人がレオンの言葉を聞き逃してたまるかとばかりに耳を立てていることが、否が応でも分かった。

 

ウサギの耳でもつけたらどうなっ ていたかなとカイは思った。

 

さらに学校でそんな2人の姿を見 たらどうなるかと思い浮かべ怖くなった。

 

おそらく大パニックだろう・・・

 

2人共そんなキャラじゃな い・・・

 

レオンは少し考え言う。

 

「そうだな・・・似合ってるん じゃないか。私はいいと思うが」

 

『ヨッシャアアアアアア アァァァァァァァァァッッーーーーーーーーーーー!!!!!

 

(凛、沙弓)』

 

【注意:心の叫びです】

 

カイには2人の心の中の叫び声が 聞こえた。

 

まるで本当に叫んでいるかのよう に・・・・

 

(この女殺し、ナルシスト、ペテ ン師、唐変木、朴念仁、鈍感男・・・・・・レオン、お前・・・天然にもほどがあるぞ・・・この馬鹿が・・・)

 

まあ2人のやる気が上がるのはい いことだがとカイはポジティブに考えることにした。

 

全くそれに気づく様子もなく和麻 の運転するレンジローバーと一定の間隔で運転を続けさらには気配を探るレオン。

 

そんなレオンにカイは何も言い返 せなかった。

 

(2人の努力はいつ実るんだ か・・・)

 

カイは2人に心の中でエールを 送ったのであった。

 

そんな中車は山の裏側へと回る。 次第に周りの邪気が強くなってきていた。

 

「・・・凛、沙弓。すぐに車から 出れるようにしておけ、下手したら飛び降りることにもなる」

 

「分かった」

 

「了解」

 

レオンに言われ2人はそれぞれ気 を高め、戦闘態勢に入った。

 

「「来るぞ!」」

 

その刹那、前のレンジローバーに 黒い風が叩きつけられた。

 

 

 

 

 

 

 

上空から強力な風の圧力が降りか かりそれを迎え撃った和麻、和樹の風が凄まじい乱気流を発生させ四駆の状態で走るレンジローバーさえも激しく揺さぶった。

 

後ろのレオンたちも同様に風に揺 さぶられていた。

 

「出ろ!」

 

和麻の声に押し出されるように綾 乃はドアを蹴り開けて外に飛び出す。しかし、外に出てから和麻に命令されたことに気づき眉を吊り上げむっとした顔になる。

 

「あたしに命令―――」

 

文句を言いながら運転席を睨む が、すでにそこには誰もいなかった。助手席も、自分の隣も同じである。

 

3人ともいつの間にか外へと出て いた。一体いつ、どうやって出たのか、丁寧にドアも閉められている。

 

動き出したのは、綾乃と同じか少 し遅いはずだったのだが・・・・・・

 

「ちょ、ちょっと―――」

 

3人を追いながら改めて口を開い たが言葉が出なくなる。

 

「僕の後ろに!」

 

和樹の声に慌てた綾乃はもたつい てしまったために和麻に首をつかまれ後ろに引っ張られた。

 

「うげぇっ!」

 

そして見事に綾乃の首は絞まっ た。

 

「煉破反衝壁」

 

4人の周りに結界が出現する。そ れと同時に黒い風が次々と結界に当たり四散した。その風は全て浄化され和樹の手に集まる。

 

「鎌鼬」

 

・・・ぱくったな」

 

和樹の手から巨大な鎌鼬が放たれ る。黒い風を斬り裂き一直線に風の出所へと突き進んでいった。

 

和麻がぼそりと何かを言ったが誰 も聞いていない。

 

そして風がやむ。

 

「和樹!」

 

レオンたちが後ろから駆け寄って きた。

 

「・・・・・・周りは完全に四面 楚歌だな」

 

和麻が周りを見ながらそう言う。

 

「流也、あの妖魔たち、風牙 衆・・・それに霊と妖魔が辺り一面に蠢いている」

 

和樹も周りを見てそう言った。

 

「な、何その眼は!?」

 

綾乃が和樹の目を見て声を上げ た。今の和樹の瞳の色はエメラルドグリーンに染まっている。

 

「説明は後だ、行くぞ」

 

和麻の声とともに走り出す。綾乃 も慌てながらその後に続いた。

 

それを見ていたのか風牙衆、妖 魔、霊が一斉に襲い掛かってきた。

 

驚くべきはその数である。風牙衆 はざっと見て20、だが霊、下級、中級の妖魔の数は100は軽く超えている。さらに妖魔の数は迫り来る波のようであった。

 

「突っ切るぞ、鎌鼬」

 

蒼い風の刃が妖魔の大群へ放たれ た。

 

和樹は黒刀で目の前に迫る妖魔を 斬り、千早に近づく妖魔は氷付けにされ、カイに近づく妖魔はバラバラに斬り刻まれる。

 

「はあっ!」

 

上空から迫ってきた巨大な風の刃 をレオンの風が迎え撃ちお互いに四散した。

 

「・・・来たか、饕餮」

 

妖魔の波が真ん中で真っ二つに別 れた。そしてその間から饕餮、馬腹、褐狙が現れる。

 

レオンと饕餮の間で殺気がぶつか り合う。

 

お互いに敵として最大の相手と認 め合っているようなそんな眼をしている。

 

「くそっ、あいつら相手にしてい たら封印が解かれ・・・・」

 

「4人とも先に行け」

 

「えっ!」

 

「な、何考えてるのよ!?」

 

レオンの言葉に千早が驚いたよう に声を上げ、綾乃も声を上げて騒ぐ。

 

「あいつらの目的は俺とレオンだ ろ。2対3なら十分だ」

 

カイがエクセリオンを操りながら レオンの横へと並んだ。

 

「和樹、和麻は前に進め、あいつ らの相手は私たちがする」

 

レオンとカイを取り巻く空気がが らりと変わった。

 

綾乃は2人を見てその力の凄さに 後退る。自分の父、重悟がレオンを対等に見ていた理由が今嫌なほど見せつけられ肌で感じた。

 

「凛、沙弓は風牙衆、妖魔の相手 をしてくれ」

 

2人は頷く。

 

「私だけでも残った方がいいん じゃ」

 

「蠱雕がここにいない。流也もま だ先にいるんだ、千早は残らないほうがいい」

 

千早はレオンの言葉を聞き悔しそ うな顔をしながらも頷いた。

 

「行くよ!」

 

和樹が刀を握り締め前を向いたま ま言う。

 

「レオン、カイ、ここは任せた よ」

 

「ああ」

 

「お前は前で暴れろ」

 

そう言うと2人は空へと飛翔し、 饕餮たち、妖魔の群れの中へと向かった。

 

和樹が走り出そうとすると綾乃が 声を上げる。

 

「ちょ、ちょっと、本当に先に行 くの!?」

 

「封印が解かれたらもともこもな い。迷っている時間があるなら俺たちは先に進むんだ」

 

それでも綾乃は4人が危険だと判 断してここで戦うべきという。

 

「それに千早ならともかく、お前 がいても足でまといなだけだ」

 

和麻はそう言うと走り出す。和 樹、千早も走り出し、妖魔を蹴散らせながら前へと進んだ。

 

「ちょっと待ちなさい、和 麻ぁぁぁっ!!」

 

「おおっ、すげぇ・・・」

 

黄金の炎が妖魔の群れへ(和麻が うまく避けたために)と突き刺さり妖魔が燃え上がる。

 

「足手まといってどういうこと よ!」

 

黄金の炎を巨大怪獣のように撒き 散らす綾乃、ほとんど行動が獣(ビーストモード)です。

 

「見て見ろよ、レオンとカイの戦 いにお前が着いていけるのか?」

 

和麻が後ろを見て言った。

 

綾乃は空で妖魔と戦うレオン、カ イを見る。

 

「・・・・・・無理」

 

その戦いはまるでサイヤ人、動き が速すぎて綾乃の目では動きが線としてしか見れなかった。

 

衝撃波と風、炎、光だけが空に 映っているだけだ。

 

「ば、バケモンよ、あの2 人・・・」

 

一体どうやったらあんな動きがで きるのかと綾乃は疑問に思えて仕方なかった。

 

「ぼやぼやするな、全力で走 れ!」

 

(最初から全力よ!!!)

 

綾乃の前を疾走する3人。綾乃は 自分の限界の速さで走っているにもかかわらず、3人はまだまだ余裕があるようだ。

 

坂道であるにもかかわらず速度は 全く下がることが無い。綾乃は次第に遅れだす。

 

(どんな足してるのよ!!)

 

決して足は遅くない、むしろ速い ほうである。前の3人があまりにも速過ぎるのだ。

 

走り続ける4人の前に妖魔の群れ が道をふさぎ始める。背後には風牙の人間が5人、さらに立ちはだかっていた。

 

「風牙の栄光のために!」

 

風牙衆たちが声を上げ4人に向 かってきた。

 

妖魔も4人へと襲い掛かる。

 

「鎌鼬」

 

和麻の両手から蒼い風が放たれ妖 魔を斬り裂く。数だけの妖魔たちは次々に和麻の風の前に倒れ消滅していった。

 

「花舞」

 

妖魔の間を千早が音もなく通り過 ぎていく。ただ槍を手にしたまま花びらが舞うように。

 

「・・・乱蜂(ランバチ)」

 

千早が言葉を発した瞬間。妖魔た ちが次々に凍りつけになり地面に叩きつけられ砕け散った。

 

一瞬にして30近くの妖魔が千早 の前に消滅する。

 

さらに千早から放たれた氷柱が妖 魔の波へと次々と突き刺さった。

 

遅れて追いついた綾乃はその光景 を見てただただ唖然とするだけである。

 

和樹のほうを見ると風牙衆の前へ と立っていた。

 

「我らの邪魔をするものは神凪で なくとも敵だ!」

 

風牙衆が1人和樹へと向かって風 を放つ。だが和樹の抜刀にその風はあっさりと防がれた。

 

「引くなら、追わない」

 

和樹は刀に炎を召喚しながら風牙 衆に言った。もし彼らが断れば和樹は迷うことなく彼らを斬るつもりだ。

 

「神凪への恨みを晴らさねば我ら の先祖は報われぬ」

 

「そのためには神にこの命預け た」

 

風牙衆は和樹へと向かって突進し てきた。

 

風を放ち、和樹へと捨て身で向 かってきている。

 

「なら、僕も君たちを・・・斬 る」

 

和樹の姿が風牙衆たちの目の前か ら消える。風牙衆たちが和樹を見つけたのはその数秒後、自分たちの背後に和樹は立っていた。

 

「おのれ・・・」

 

台詞はそこで止まった。

 

風牙衆たちは次々とその場に倒れ 付す、そして体から血が流れ出した。すでに命は尽きているのは見ただけでも分かる。

 

「君たちの覚悟、確かに感じた」

 

自分の背後に倒れ付す風牙衆たち は自分たちが斬られたことも分からなかっただろう。痛みも何も感じずに死んでいった。

 

だが死に顔に後悔の表情は浮かん でいなかった。

 

綾乃は口を開け自分は夢を見てい るのではと思い顔を抓ってみた。

 

(痛い・・・でも夢でも痛い夢っ て見たときあるわね・・・)

 

あんた魔邪コ〇グのネタですよそ れ・・・

 

何気に変な所だけ冷静な綾乃であ る。

 

(今何が起こったの? 和樹君が 消えたと思ったら5人が倒れてた・・・)

 

綾乃の目に見えたのは和樹が立っ ていた、そして風牙衆に向けて『斬る』といった瞬間に姿が消えた。

 

次に自分が和樹の姿を見たのは風 牙衆の背後に立ち5人を見ている和樹の姿だった。

 

いつその場に動いたのか、いつ風 牙衆を斬ったのか、綾乃には何も見えなかった。影さえも・・・・・・

 

レオンやカイだけでない。和麻や 千早も強い、和樹も同じく。

 

(あたしよく生きていたわ ね・・・)

 

和麻に向かっていった自分がどれ だけ無謀なことをしていたかこのとき綾乃は嫌というほど理解した。

 

もし和麻が本気だったら自分はど うなっていたか、頭の上にワッカを乗せている自分が見えてくる。

 

(見方でよかった)

 

しみじみと綾乃はそう思った。

 

「綾乃ちゃん、急いで」

 

和樹の声に慌てて綾乃は3人と合 流する。

 

自分たちに向かってきた妖魔は和 麻と千早に半分以上倒されていた。

 

「ボケッとしてないでお前も戦 え、飾りだけなら分家の連中と変わらないぞ」

 

「し、失礼ね! 私だってやると きはやるわよ!!」

 

綾乃は炎雷覇を構えると黄金の炎 を妖魔のど真ん中へ叩き込んだ。

 

「いっけぇぇぇぇ!!」

 

黄金の炎を妖魔へと放ち次々と消 滅させていく。迫ってきた妖魔も炎雷覇で叩き斬った。

 

「流星氷弾」

 

千早から無数の氷柱が放たれる。 取り囲むように氷柱が妖魔を貫いた。

 

「ナイスだ、千早! 裂破風陣 拳」

 

和麻が拳を振るうと巨大な風の渦 が妖魔を飲み込んだ。渦に飲み込まれた妖魔たちは荒れ狂う風の刃に斬り刻まれ姿を消した。

 

「(カクッ)・・・・・・」

 

再び綾乃の口が閉じなくなる。一 体何度驚けばいいのかと綾乃は自分に自問するが答えは出なかった。

 

「綾乃、何大口開けてんだ・・・ 妖魔でも食べる気か?」

 

「あ、開けてなんていないわ よ!」

 

和麻に馬鹿にされ綾乃は大声で怒 鳴る。

 

「あんたに・・えっ!」

 

綾乃の体が誰かに抱かれ横に飛び 退った。

 

刹那、綾乃のいた場所を風の刃が 通り過ぎる。少しでも遅かったら致命傷だっただろう。

 

「か、和樹く・・・・・・ ん?・・・(カァーーーーー)

 

綾乃を助けたのは和樹だった。綾 乃は和樹に両手で抱えられていることに気づき顔を紅く染め慌てるが和樹は風が放たれた方向を見ていた。

 

「げへ・・ぐへへへへへ・・・」

 

そこにいたのは先ほど和樹に斬ら れた風牙衆の1人だった。

 

だが様子がおかしい。

 

「うっ・・・うあああえ あぁぁ・・・」

 

声を上げながら顔が変化し始め る。顔は青く染まり、目は血走り、歯は牙のように伸びる。

 

「な、何あれ!?」

 

綾乃は和樹に抱かれたまま声を上 げた。いきなりの風牙衆の変化に綾乃の頭が着いていかない。

 

「・・・鬼だ」

 

和樹が綾乃を下ろしながら言う。

 

「和樹君、あれ!」

 

千早が見ているほうを見ると髑髏 のような霊が地面に倒れている風牙衆の遺体に入り込んだ。すると遺体は起き上がり先ほどの風牙衆と同じような変化が現れ鬼へと変わった。

 

「風牙の霊が乗り移った。おそら く、墓を破壊して今まで死んだ風牙衆たちの霊を呼び覚ましたんだ」

 

「霊を使って死人にまで戦わせる つもりかよ。やっていることが狂ってやがるぜ」

 

和麻が怒りを含めた声で言う。

 

「成仏しやがれ」

 

和麻が風の刃を放つ。風牙衆の肩 から胸の辺りを斬り裂いたが、その体は少し揺れただけでそのまま和麻たちへと近づいてきた。

 

「・・・ゾンビかよ、って言うよ りもゾンビで決定だな」

 

和麻は風の刃を無数に放ち風牙衆 の体をバラバラに斬り裂いた。

 

「綾乃、燃やせ」

 

「私に命令するな!」

 

綾乃が和麻の声にあわせ黄金の炎 を叩き込んだ。

 

『グオオォォォ!!』

 

霊の断末魔が響き渡り消滅する。

 

「瞬炎」

 

和樹から黄金の炎の球が放たれ風 牙衆の体を焼き尽くし浄化した。

 

鬼たちは声もなくその場から浄化 され消えていった。

 

「急ごう!」

 

「思ったよりタイムロスしたぜ」

 

和樹たちは再び封印の場を目指し て走り始めた。

 

「ねぇ、和樹君。レオンたちはと もかく、あの2人は大丈夫なの?」

 

綾乃がレオンとカイとともに残っ た凛と沙弓の事を聞く。

 

神城家と杜崎家のことは同じ退魔 師でもあるため綾乃も大まかには知っている。

 

神城800年の歴史が編み出した 剣鎧護法、そして体術の杜崎。お互いに仲が悪く今でもそれは続いている。

 

だが綾乃が見る限り2人は仲が悪 くはなさそうであった。むしろ仲のいい友人、お互いをライバルと認め合っているそんな感じとして見ることができた。

 

聞いていたのと話が違うと思いな がらも今はあの2人が強いのかどうかが気になる。

 

2人が戦っているとき、自分は妖 魔にやられて気を失っていたので2人がどのような戦い方をするか全く見当がつかないでいた。

 

「さあね、2人の全力って僕は見 ていないから」

 

「えっ、ど、どういうことよ!?  それなのに2人のこと連れて来たの!?」

 

和樹の返答に綾乃が驚きの声を上 げる。だが和樹は表情を崩さず綾乃に答える。

 

「大丈夫だよ。レオンが認めてる んだから」

 

和樹は絶対的信頼をレオンに置い ている。レオンが着いて来ることを許したのなら大丈夫だと和樹は考えている。

 

「2人が戦っているところを1番見ているのがレオンなんだ。 レオンの目に狂いはない」

 

「で、でも本当に大丈夫なの?」

 

それでも綾乃は2人の力を信じる ことができなかった。

 

「大丈夫よ」

 

千早が綾乃に答える。

 

「2人とも目標があるからね」

 

「目標?」

 

千早の言葉に綾乃は疑問を浮かべ る。

 

「2人は・・・レオンに認められ たいのよ。自分のことを、自分の力をね」

 

(そう、パートナーとしてレオン に認められる。それが2人の目標なのよ)

 

自分が和樹のパートナーとなりた いと思いここまで来たのと同様に2人は今レオンに認めてもらおうとしている。千早はそんな2人の姿を自分と重ねていた。

 

 

 

 

 

 

 

「リャアアアァァァ!!」

 

妖魔が次々と斬られていく。迷い のない、曇り無き刀身をその手に凛は刀を振るっていた。

 

「伸(シン)!」

 

右斜めから刀を左下へ振り下ろ す。剣鎧護法が凛の刀を光り輝かせている、その光が刀身の3倍以上伸び妖魔を薙ぎ払った。

 

「ふっ!」

 

ぐさっ!

 

振り向きざまに刀を突き出す。後 ろから襲ってきた妖魔を貫いていた。

 

刀を抜くと上段から妖魔を斬り捨 てる。

 

周りを見渡す。妖魔は斬られない ようにと上空へと逃れていた。

 

「甘い!」

 

凛は刀を鞘に収めると抜刀の構え を取りながら勢いよく跳躍した。

 

その勢いを殺さず凛は体を錐揉み 状に回転落下させながら妖魔たちへと斬りかかる。回転による遠心力と抜刀の勢いを付けて空中でも地に足が着いているかのごとき速さで妖魔たちを斬り刻ん だ。

 

凛は着地の衝撃を利用し再び跳躍 する。下段からの斬撃が向かってきた妖魔の胴を真っ二つに斬り裂いた。

 

凛は思う。

 

今自分は自ら刀を握っている。

 

高校に入るまで・・・いや、和樹 たちに出会うまで自分は刀を握る自分をどこか嫌っていた。

 

心のどこかに中途半端な気持ちで 刀を握る自分を許せないでいた。

 

自分が刀を持つ理由がはっきりと しなかったからかもしれない。

 

子供のころ親から引き離され、本 家に連れてこられ今度は行き成り本家を継げと言われて修行をさせられた。

 

兄と思えていた駿司が自分の剣の 師となり稽古が始められ1日の大半が手に竹刀か刀を持っていた。

 

外で遊ぶ自分と同じ年と子供が遊 んでいるのを見てうらやましく思った。自分もあの中に入り一緒に遊びたい、笑いたいと思った。

 

でも駿司にすぐに見つかり道場へ 連れて行かれ地獄のような稽古をつけられる。

 

何で自分は遊んではいけないの か、みんなと一緒にいてはいけないのかと思った。

 

そして自分は中学卒業と同時に家 を飛び出した。

 

自分で手続きをし葵学園に入っ た。全寮制で、学力的にも問題なく入ることができた。

 

今思うと自分は逃げ出したのだと 思う。でも学園に入っても何も変わらなかった。

 

本家から何だかんだと命令され結 局はそれに従ってしまっていた。

 

和樹のときのこともそうだ。自分 は家の命令を断れず和樹に八つ当たりをしていた。

 

なんて馬鹿だったんだと今更なが ら思う。

 

その後、駿司が自分を連れ帰りに 来てレオンと駿司が戦って・・・

 

そして駿司と和解できた。和樹の 魔力で死に掛けていた駿司も助けられた。

 

家とは今も関係は大して変わらな いがそれでも駿司と和解できたことは凛にとってとても大きかった。

 

その後も色々あった。

 

先輩に弁当を作ったりもした。

 

多分そのときからだろう。レオン のことが本気で気になったのは・・・そんな自分に気がついたのは・・・

 

『泣きたいときに泣けばいい』

 

レオンの胸で思いっきり泣いた。 レオンは自分を優しく抱きしめてくれた。

 

自分の弱いところを隠さずに見せ ることができたのはレオンだけである。

 

駿司でもあそこまで心を許せるか と聞かれたら無理だと思う。

 

なぜかレオンには自分の本当の姿 を見せることができた。

 

喜怒哀楽を隠すことなく見せられ た。

 

家の仕事で仕方なく自分が出ると きになったときレオンが着いてきてくれた。

 

なぜかいつもは気が進まない、前 の自分だったらどうしていただろうと思う。

 

それでも今はどこか嬉しい自分が いた。

 

レオンに見られているのが嬉しい のだと思う。今まで感じたことのない気持ちだった。

 

そして思った。

 

『認められたい』

 

レオンに自分を認めてほしいと 思った。強くなっているとレオンに言われるたびに自分が認められている、そのときが自分を強くしてくれた。

 

今、自分は自ら刀を握り、刀を振 るっている。

 

その心に迷いは消えていた。

 

「はあああぁぁぁっっ!」

 

妖魔を一刀両断した。

 

(私は、もう逃げない!)

 

凛の刀が再び妖魔を薙ぎ払った。

 

 

 

 

 

 

 

ドン!

 

妖魔を鋭い蹴りが粉砕する。まる で刀を振るったかのような速さで放たれた蹴りが妖魔を襲う。

 

さらに風を斬り裂くような拳が妖 魔を襲った。

 

「はっ!」

 

鞭のように撓る足が横から襲って きた妖魔を粉々にする。

 

さらに左に回りながらその勢いで 妖魔に裏拳を叩き込んだ。遠心力と腕のスナップを効かせた拳が妖魔を吹き飛ばす。

 

沙弓は己の長身を生かす体術を学 んでいた。

 

長い足を使った鞭のように撓る斬 撃のような蹴り、リーチを生かした風を切る拳。自分の長所を生かして戦う方法を学んだ。

 

「はあああぁぁぁっっ!」

 

マシンガンのごとく拳が妖魔を吹 き飛ばした。妖魔が次々に粉砕され消滅する。

 

そして高々と沙弓は跳躍した。拳 に意識を集中し両脇を閉め、拳を構える。

 

ひゅぅぅぅぅ・・・・

 

息をゆっくりと吐きながら沙弓は 両拳に龍の形を作り上げる。

 

形が出来上がったと同時に勢いよ く拳を振るった。

 

「龍撃拳」

 

龍の口、拳から次々と魔法の球が 放たれる。妖魔は拳の雨を受け次々と消し飛んだ。

 

沙弓は思う。

 

自分はようやく目的を見つけた と。

 

自分は何のために体術を学んでい るのか?

 

物心ついた頃、自分はすでに体術 を学んでいた。

 

そしてそれが当たり前だと思って いた。別に嫌でもなく素質があったのか中学に入る頃には家の中でも自分に勝てる人はそういなくなっていた。

 

大会などにも出たが自分の相手に なる人はいなかった。

 

中学に上がったとき最初に仲が良 くなったのは千早だった。偶然同じクラスで席が隣同士になった。

 

和樹も席は離れてはいたが同じク ラスの中にいた。

 

千早はとても明るく一緒にいて楽 しいと思える存在だった。

 

部活も2人が剣道部、自分が空手 部にいた。同じ道場での練習だったので帰りなども一緒になることが多かった。

 

その頃はまだ2人の強さに気づい ていなかった。剣道部で2人は圧倒的強さを見せていた、大会でもその強さは1つ上を行っていたがそれは自分も同じだった。

 

2人の強さに気づいたのは、それ でも一部だったが自分が家の仕事に着いていたときだった。

 

そのとき自分は周りの人と逸れて 森の中をさ迷っていた。自分の目の前に妖魔が現れもう駄目だというときに、助けてくれたのが和樹、千早、レオンだった。

 

そのとき見たレオンの強さは今で も覚えている。たった一撃で自分や家の人が手子摺っていた妖魔を倒してしまった。

 

後で聞いた話で和樹の祖父である 式森源蔵と父が師弟の間柄で頼んで3人を向かわせたのだと聞いた。

 

それから父と3人に頼んで稽古を つけさせてもらった。

 

自分は強いと考えていたがそれは 間違いであったことに気づいた。

 

始めのうちは全く2人についてい くことができなかった。最初の土台が違いすぎた。剣術は凄いとは思っていたが体術でも2人は自分の上をいっていた。

 

レオンに関しては比べる方が間違 いであった。

 

高校に入って本当の3人の強さを 目の当たりにした。

 

ベヒーモス・キメラを相手に3人 は今まで自分に見せていなかった力を見せた。

 

そう自分が今までやっていた事は 和樹たちにとって準備運動の段階だったのだ。

 

それで自分は満足していたことに 気づかされた。

 

その後、凛も加わり本当の修行を 始めた。

 

和樹たちは自分の長所を伸ばして くれた。効果はすぐに現れた、戦いやすくなった。体が自分のイメージ道理に動く。

 

仕事でもレオンが着いてきてくれ るお陰で今までの自分の欠点が分かり状況判断力も上がった。

 

レオンに『良くなったな』と言わ れることが嬉しかった。

 

自分が認められていることが自分 をさらに強くしてくれている。

 

今、自分は何も考えずにいた頃の 自分とは違う。

 

自分には目指すものがある。

 

「鋼拳砕裂」

 

光り輝く拳が妖魔を粉砕した。

 

(私は、もう迷わない!)

 

沙弓の拳が妖魔に放たれた。

 

 

 

 

 

 

 

もう凛と沙弓は家の操り人形では ない。1人の退魔師として花開いた。

 

 

 

 

あとがき

「どうもみなさん、マルマインで す!」

「違うだろ!」

「今日のゲストはこの人」

「カイです。かなりお久しぶ り・・・で、マルマインてなんだ? レオン」

「レオンのあとがきの達人。まい う〜〜のごっ!!」

「精霊ニュース行きます。ついに 戦いの扉が開かれる。妖魔を相手にするレオンとカイ、先へと進む和樹と和麻たち、そんな中凛と沙弓は己の迷いをたち1人の術者として立ち上がったのであっ た」

「カ、カイ・・・酷い」

「うるさい、お前あとがき下ろさ れるぞ」

「大丈夫、綾乃の二百倍ましだか ら!!」

「・・・その自信、一体どこか ら・・・」

 

 


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