第1部   〜動き出す運命〜

 

 

 

 

第24話 甦った神

 

 

綾乃と兵衛の戦いは綾乃が完全に 主導権を握っていた。

 

「うええええええい!!」

 

綾乃は炎雷覇に炎を纏わせ兵衛に 放つ。

 

その炎の量はまるで別人のようで ある。最初から綾乃の戦いを見ていなければ信じられないような光景である。

 

防戦一方だった綾乃が、逆に兵衛 に反撃を許さない。

 

兵衛は炎を避ける続けるだけで精 一杯、攻撃することどころか防御さえも破られかねないほど追い込められた状態であった。

 

(こ、こんなことが・・・小娘1 人にわしが反撃できぬだと・・・)

 

兵衛は風を使い炎から逃れている がそれも次第に困難になりつつある。確実に自分は追い込まれつつあることは認めざる得なかった。

 

(ありえぬ、そんなことあっては ならぬのだ!)

 

だが自分は歴代の長たちの力、神 の力を手に入れたのだ。しかしその自分が・・・力を手に入れた自分が・・・

 

兵衛は幾度となく反撃を試みてい るが綾乃の炎に全て阻まれてしまう。

 

今の綾乃はそれだけ驚異的存在と なっているのだ。

 

「やあああああっ!!」

 

炎雷覇から黄金の炎が放たれ兵衛 の風を飲み込んだ。

 

「はああああっ!」

 

絶え間なく放たれる炎に兵衛の風 が全て相殺される。風の召喚速度が四大一だといっても今の綾乃の炎を止めえられるだけの風を召喚することはできない。

 

「これで終りね、兵衛!」

 

炎雷覇に全て炎が集められる。綾 乃が今まで召喚した事がないような莫大な炎が炎雷覇に集まった。

 

「お、おのれ・・・おの れぇぇぇぇぇ!!」

 

「突き抜けろ!!」

 

兵衛は全力で黒い風を自分の正面 に召喚し壁を作る。

 

綾乃はそこへ炎雷覇を振り下ろし た。

 

「ぬ、ぐおおおおおおおお!!」

 

炎は風の壁と激しくぶつかり合 う。お互いに全力である。

 

だが浄化の炎、神凪の黄金の炎を 止めることはできなかった。

 

炎は兵衛の召喚した壁を破り兵衛 へと襲いかかった。

 

「ぐあああああああああああああ ああ!!!」

 

炎の中から兵衛の断末魔が響き渡 る。

 

黄金の炎は兵衛の体を完全に包み 込み燃え上がった。

 

全ての魔を燃やしつくす浄化の 炎、それを受けて兵衛が立っていられるなどと綾乃は考えもしなかった。

 

だが・・・

 

「・・・わしは・・・死にはせん ぞ」

 

兵衛は体を炎に包まれながらも生 きながらえていた。体はケロイド状になり、顔は焼け爛れ見るに耐えない。

 

兵衛は綾乃のほうに進もうとする がその場に倒れ込む。

 

「ひぃっ!」

 

綾乃は兵衛の姿に悲鳴を上げた。

 

目を覆いたくなるような姿に綾乃 の顔が青くなる。

 

「わしは・・・死なぬ ぞぉぉぉ!!!」

 

喉は焼け獣のような声になり血を 吐きながらも兵衛は声を張り上げる。

 

体はアスファルトに引き摺られ未 だに炎に包まれ燃え上がり続けている。黒く炭化し炭状になった皮膚が小さな音を立てながら剥がれ落ちていく。

 

「うああ・・・ああああ・・・」

 

綾乃は恐怖のあまり足が後ろへと 無意識のうちに下がる。

 

「いやあああああああ!!!」

 

綾乃は無我夢中で炎を兵衛に放ち 続ける。兵衛の体は炎に弾かれ宙に浮き地面に叩きつけられる。それでもなお兵衛は綾乃へと向かいまた地面を這いずりだす。

 

体は炎を受けるたびに皮膚の色か ら黒へと変わり嫌な異臭を放ちだす。

 

しかし兵衛は止まらない。不敵な 笑みを浮かべながら綾乃に近づく事をなめない。

 

「何で・・・何で死なないの よ!!!?」

 

綾乃は目に涙を浮かべながら炎を 放ち続ける。自分の炎は効いているはずだ、それなのに兵衛の動きが止まらない。現実が受け止められず綾乃は気が狂いそうになる。

 

『ふはははははは・・・我ら風牙 を甘く見るでない』

 

「えっ!?」

 

間違いではない。兵衛からいくつ もの声が聞こえてきた。

 

すると兵衛の体はゆっくりと起き 上がり立ち上がった。

 

シュゥゥゥゥゥゥ・・・・・・

 

兵衛の体が煙に包まれ出す。する と炎で焼け爛れた体が元へと戻りだした。

 

「そ、そんな!」

 

『驚きましたかな、神凪の姫君。 我らの怨念の凄まじさ』

 

驚きの声を上げる綾乃に兵衛の体 をした風牙の長たちは言う。

 

『我らの怨念、姫1人で浄化でき るほど弱くはありませぬ。300年間、積もりに積もった我ら風牙の怨念は神凪の浄化の炎でも跳ね返しますぞ』

 

「ふ、ふざけないで! そんなわ けある訳ない!!」

 

炎雷覇を振りかぶり綾乃は兵衛に 炎を放つ。

 

『無駄である』

 

兵衛の黒い風が綾乃の炎を軽々と 消し去った。しかし、今までの兵衛の風の威力ではない。

 

『我ら歴代の風牙の長の数、兵衛 を合わせ6名。1人で我らを相手にできますかな?』

 

「ろ、6人・・・」

 

兵衛の中にいるのは6人の長の 魂。そしてその力はそのまま兵衛の体を通し使われている。

 

つまり、綾乃の炎は6人の長の力 にねじ伏せられたのである。

 

その力は流也にも匹敵するほどで ある。

 

『逃げるなら今のうちですぞ。ま あ、逃げることもできぬでしょうが』

 

「ふ、ふざけないで! 誰が逃げ るもんですか!!!」

 

綾乃は声を上げて兵衛に炎雷覇を 構える。

 

(さ、下っちゃ駄目よ。ここで下 がっちゃ・・・・・・)

 

しかし、立っていられることが不 思議なほどである。目の前から掛かるその圧力に倒れこんでしまいそうなほどである。

 

先程まで兵衛を圧倒していた綾乃 の勢いはない。

 

「うわああああ!!」

 

兵衛に向かって炎を放とうとする が炎は綾乃へと集まる気配がない。

 

「何で!?」

 

綾乃は炎の精霊を召喚しようとす るがさっきまでの炎は集まろうとしない。元の自分に戻ってしまったような、さっきまでの出来事が夢のようなふうに思えてしまうほど・・・・・・

 

「何で・・・何で!? どうして よ!!!?」

 

今までここまで精霊たちが自分の 呼びかけに答えてくれなかったことがない。理由が分からず綾乃は頭の中がパニックになりどうして良いのか分からなくなる。

 

『なぜだか理由を知りたいか、神 凪の姫よ』

 

長たちは綾乃の姿を楽しむように 不気味な笑みを浮かべながら語りかけてきた。

 

『精霊術は術者の心の持ち様しだ いで強くもなり弱くもなる。術者の心が強ければ強いほど精霊はそれに答える、術者の心が弱ければ弱いほど精霊は力を貸さない。今の姫は先ほどまでの強い意 志がありませぬ。我らに恐怖し心が揺れ動き動揺している。そのような者に精霊は力を貸したりなどせぬ』

 

「そ、そんなことない。あたし は・・・あたしは・・・」

 

綾乃は長たちの言うことを理解で きないわけではない。

 

だがそれを認めたくない、そんな ことがあるわけがないと・・・

 

だが綾乃は今心が完全に崩れかけ ている。先程までの強い心は皹が入り今にも崩壊してしまいそうなほどに。

 

自分は今まで強いと思っていた。 自分の力で戦ってきたと思っていた。自分の力に自信を持っていた。

 

神凪宗主、重悟の娘として周りか ら持てはやされ自分は強いのだと思っていた。

 

実際に家の中では重悟、厳馬以外 には自分に勝てるものなどいなかった。だから自分は強いのだと信じて疑わなかった。

 

その全てが、今自分が勝手に思い 描いていた妄想だったと分かった。

 

自分は弱かった。周りに助けられ ていたことにも気づかず何でもできるなどと思い上がっていたのだと知らされた。

 

綾乃の心は完全に砕かれた。

 

綾乃は自分の感情をコントロール できない。さっきの力も一時的な感情の高ぶりによって眠っていた力が目覚めただけである。

 

自分で先程の力が自由に出せない 以上、今の兵衛に勝つことなど不可能である。

 

重悟は強い心を持っていた。そし て強い力を持っていた。

 

綾乃も強い力を重悟から引き継い だ。

 

だが重悟の強い心だけは得ること ができない。

 

力は受け継いでも、心だけは自分 で・・・自分自身で作り上げ磨いていくしかないのである。

 

綾乃にはまだ磨き上げられた強い 心はない。少しの不安、恐れ、悲しみなどが原因で簡単に折れてしまう。

 

今の綾乃に兵衛を倒すすべはな い。

 

勝敗は決したのである。

 

『神凪の姫君、我ら相手によくぞ ここまで戦った。敬意を表し最後に我らの力を見せてやろう、己との力の差を思い知るがいい!!』

 

「あっ・・あっぁっ・・・いやあ ああああああああああああ!!!」

 

綾乃の悲鳴が戦場に響き渡った。

 

 

 

 

 

 

 

「!?」

 

「綾乃ちゃん!?」

 

和麻と千早は綾乃の悲鳴を聞き一 瞬動きが止まった。

 

「よそ見しない方が良いよ!」

 

ここぞとばかりに流也が和麻へと 風を放つ。

 

「はあっ!」

 

その風を防いだのは和麻ではなく 千早の水の壁だった。

 

和麻は舌打ちしながら流也へと風 を放ち返す。

 

「くそっ、何してやがんだ、あの 馬鹿は!!」

 

思ったことを口に出す、和麻。あ れだけの力を見せておきながらなぜやられるのかと綾乃に対して怒りが湧く。

 

和麻は綾乃のもとへと行こうとす る。

 

『死ね!』

 

だが蠱雕が和麻と千早に向けて風 の羽を放ってきた。

 

「お兄ちゃん危ない!」

 

「ちっ! 爆風障壁!」

 

千早の声を聞き和麻は風の壁で攻 撃を弾く。千早も氷壁を作り防いでいた。

 

「あの野郎、あんだけの炎を召喚 しといてなんで負けてんだよ!」

 

和麻は自分の隣にいる千早に愚痴 る。

 

「今はそんなこと気にしている場 合じゃないでしょ! 冷静になって!!」

 

「・・・すまん」

 

(千早は俺より冷静だ・・・ついでに怖い・・・)

 

愚痴っても仕方がない。和麻は千 早に逆に自分の心が乱れていることを察しさせられた。

 

そして自分より年下の千早が状況 を冷静に判断しようとしていることを知り自分の甘さを知らされた。

 

そして予断だが昔、翠鈴に怒鳴ら れたことをこんな時にもかかわらず不意に思い出した。

 

流也と蠱雕は2人を挟むようにし ている。

 

「安心しなよ。すぐに同じところ に行けるんだからさ」

 

『どの道貴様らは我らに殺され る』

 

和麻と千早は背中を合わせ、構え を取る。

 

一刻も早く綾乃のもとに行かなく てはならない。そのためにはどうしたら良いのか冷静に考える。

 

(どうする、鎌鼬じゃ大したダ メージにはならねぇ・・・他の攻撃を使っても妖魔はともかく流也は傷がすぐに回復しやがる)

 

和麻は最善の方法を考え出す。

 

(やってやるか・・・)

 

切り札、聖痕を使えば流也の回復 力でもダメージが大き過ぎて治すことはできない。うまくいけば倒すこともできる。

 

「お兄ちゃん、手を貸し て・・・」

 

気を練りだした和麻に千早が声を 掛けてきた。

 

そして頭の中に千早の声が入って くる。念話である。

 

千早が自分の考えを簡潔に伝えて きた。

 

「・・・・・・わかった。それで 行こう」

 

和麻は気を練りだす、千早も精霊 を召喚し出す。風と水の精霊が2人の上空を中心に渦巻き始めた。

 

2人が精霊を集めだしたその瞬 間・・・・・・大地が悲鳴を上げた。

 

「なっ!?」

 

「なっ、なに!?」

 

火山の噴火か、大地震が起こった のかと思うほどの凄まじい揺れが襲ってきた。

 

「・・・まさか!?」

 

グオオオオオオオオオオオオオオ オオオオオオオ!!!

 

刹那、凄まじい咆哮が響き渡っ た。

 

和麻はその声の聞こえる方を見て 眼を見開いた。

 

千早はその光景を見て声を上げ る。

 

「黒蛇が!?」

 

巨大な力のぶつかり合いである。 黒炎の蛇と黒い風が激しくぶつかり合っていた。

 

だが優勢なのは黒い風・・・

 

感じたことのないような力が未だ に強くなっていく。それは目覚めてはいけないものが目覚めたということをまがまがと証明していた。

 

「どうやら僕らの勝ちのようだ ね、和麻」

 

『我らの未来は今開けた ぞ!!!』

 

流也と蠱雕は声を上げて笑い出し た。

 

「間に合わなかったか・・・」

 

空が次第に闇に包まれ始めてい た。

 

風牙の神・・・・・・

 

風牙神が現代に目覚めた瞬間だっ た・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

「うああああああああああ!!」

 

和樹は黒蛇を放ち何とかして神を 倒そうとする。

 

黒い風をぶち破ろうと炎をさらに 召喚し黒蛇で風を締め付ける。

 

『グオオオオオオオオオオ オ!!』

 

風牙神も黒蛇から逃れようと全力 で力を発している。

 

まだ完全に力を出し切れていな い。黒蛇に封印から出されるのを押さえつけられ完全に力を出せないでいる。

 

(今を逃したら・・・)

 

和樹はなんとしてでも神を甦らせ まいと力を出す。完全でない神との力はまだそれほど離れていない。今なら封印を解かせないことができる。

 

だが自分は完全に押されている。 少しずつではあるが神は封印から出ようとし和樹の炎を弾き始めている。

 

三昧真火も使い何とかして対抗し ようとしているが一度崩れだした炎は力が弱まっていた。

 

「くっ・・・くそっ!」

 

(力だけでも削らないと・・・)

 

和樹は黒炎に自分の魔力を混ぜさ らに強くする。天気をも変える和樹の強力な魔力は神に巻き付く黒蛇を巨大化させ神の力を少しでも削ろうとする。

 

『無駄だ!!!』

 

「!?」

 

黒い風が爆発した。黒蛇を弾き返 しながら無理やり封印か解いた。

 

「ふははははははははは!!!」

 

神は高笑いを上げ和樹の前へと降 り立つ。1人の男が和樹の前へと現れた。

 

「風牙神・・・」

 

和樹は目の前に現れた風牙神を前 に殺気を放ち対峙する。

 

「さすが黒炎、ここまで我を前に 善戦するとはな」

 

風牙神の体は無事ではなかった。 腕はちぎれ体も何かに削り取られたかのようにボロボロになっている。

 

黒蛇から逃れるのに無理に脱した ために受けた傷である。

 

「・・・だがそれもここまで」

 

風牙神は勝ち誇ったように和樹へ と言う。甦ったからには自分を止めるものはいない、無敵だと言わんばかりに・・・

 

「それはどうかな・・・」

 

和樹の目はまっすぐに風牙神を見 ている。

 

「僕は負けるつもりはないよ」

 

両手に黒炎を召喚し和樹は風牙神 に向けて放とうとする。手にだけでなく周りにも黒炎の球体が浮かんでいる。

 

「滅せよ! 瞬炎」

 

「無駄だ!」

 

空へと飛翔する風牙神に向け炎が 放たれる。今までで一番威力のある瞬炎が放たれた。

 

体を蝕む炎だがそれにもかかわら ず風牙神はその場を離れて行こうとする。

 

「なにっ!?」

 

風牙神はその場から立ち去ること ができなかった。周りに壁が張り巡らわされていて飛び出すことができない。

 

黒炎の球体は三昧真火を身にまと い幅を狭めだしてきた。

 

「封印は無理でも、しばらくの間 なら閉じ込めることは可能だ」

 

「お、おのれ! わしをはめよっ たな!」

 

「呪縛(ジュバク) 急々如律令 (キュウキュウニョウリツリョウ)」

 

風牙神は完全に閉じ込められた。

 

和樹は瞬炎を攻撃だけに使ったの ではなかった。風牙神を閉じ込めるために三昧真火の繋ぎとして瞬炎を放ち、黒炎を周辺に飛ばしたのだ。

 

攻撃だけだと考えていた風牙神は 周りを結界に囲まれ身動きが取れなくなる。

 

和樹は結界の外へと出る。

 

その姿を見た煉を抱えた蒼い炎の 女性が和樹へと近づいてきた。

 

「煉君は?」

 

『大丈夫、気絶しているだけよ』

 

女性は安心するように和樹へと言 う。見たところ煉に怪我はない。神をその体に宿していたにもかかわらずその後遺症もないようである。

 

「でも、何でここまで無事なん だ。神を宿していた負担は相当なもののはずなのに・・・」

 

『・・・カズちゃん、そのことな んだけどこの子の中に入ったときに強い力を感じたの』

 

「強い・・・力?」

 

女性は和樹に自分が感じたことを 話す。

 

『そう、カズちゃんの黒炎ってわ けにはいかないけれど千早ちゃんと同じくらいの力を感じたの』

 

「千早と同等!」

 

和樹は驚愕する。千早と同等の力 を煉が持っている。煉なら修行を積めば千早レベルまで力を上げることはそう難しいこともない基礎が出来上がっている煉ならば早ければ2、3年で到達できる だろう。

 

しかし、まだ小学生の煉が千早と 同等の力を眠らせていることに驚きを隠せない。

 

もしその力を煉が目覚めさせれば 相当な戦力になる。

 

神が目覚めた今、煉にも力をかし てもらわなければならないだろう。しかし目覚めても煉が今のままの力では足でまといにしかならない。

 

だが力に少しでも目覚めていれ ば、少なくとも炎雷覇を持った綾乃を超える力を手にしていればかなりの戦力になる。

 

(神を宿した影響か・・・三昧真 火の中で炎術師の血が騒ぎ出したのか分からないけど・・・何とかしてもらわないといけないな)

 

和樹は煉の力を目覚めさせるため にある方法を実行することを決めた。

 

「・・・煉君の力を引き出してく れないか?」

 

『私が?』

 

女性は驚いたような顔をして和樹 を見た。

 

「僕ができれば1番いいんだけど 今、それは無理だ。今僕が抜けることはできない、頼む」

 

『・・・・・・』

 

悩むような顔をしながら和樹を見 る。自分を信じて和樹は任せてくれようとしているのだと目を見て分かる。

 

『私で大丈夫なの?』

 

「大丈夫、君ならできる」

 

『・・・分かったわ』

 

炎の女性が頷いたのを見て和樹は 腕輪にしている自分の魔法具を煉の右腕へとつける。

 

「僕の魔法具の1つを煉君に渡 す。渡し方、使い方は任せるよ」

 

和樹は女性を見て言った。

 

「頼んだよ・・・アオイ」

 

『ええ』

 

炎の女性、アオイは頷く。

 

「こんなこと頼んでごめんね」

 

『いいのよ私はカズちゃんの力に なりたい、それだけだから』

 

アオイはそっと和樹の頬へ唇をつ ける。

 

『カズちゃん・・・』

 

和樹はアオイの身体を抱きしめ た。

 

「もう、誰も失いたくない。必ず 神を倒す」

 

『ええ』

 

アオイは頷くと煉の中へと入って いった。

 

(・・・時間がない)

 

和樹は煉を抱え直す。

 

(兄さんたちに合流する か・・・)

 

和樹は和麻たちの気配を探り場所 を確認する。それと同時に精霊たちから情報を得る。

 

レオンとカイが3対の妖魔を相手 に善戦している。凛と沙弓も問題はないようだ。

 

和麻が聖痕を発動させようとして いることが風の精霊から伝えられた。さらに千早が水術師となり今まで以上の力を手に入れたことが水の精霊から伝えられる。

 

しかし、綾乃が危険である。

 

眠っていた力に目覚めたが心が乱 れた瞬間に兵衛に攻められ瀕死状態であると言うこと。

 

(兄さんと千早も決して不利では ないけど、綾乃ちゃんを助けに行けるほど余裕がない。全力を出したとしても絶対ではない)

 

和樹は煉を抱え跳躍するとそのま ま和麻たちの下へと飛んだ。

 

 

 

 

 

 

 

「どうする」

 

和麻は考えていた。神は復活し た。

 

山全体を覆うほど強力な力が肌を 通して感じ取ることができる。さらに周りから邪気が山を中心に集まり出す。

 

最初に山に入ったときも感じるこ とはできた。しかし今はそのときの比ではない、何倍、何十倍もの邪気が渦巻きだしている。

 

神が復活しまだ数分、その数分の 間に周りの空気が完全に変わってしまった。

 

これからまだ周りの邪気は強ま り、神の気配を感じ妖魔たちが集まってくるだろう。

 

自分たちは完全に孤立してしまっ た。

 

「もう何をしようと無駄だ! 神 は甦った今、君たちに勝ち目はない!」

 

流也は高々と自分たちの勝利を宣 言する。神を倒せる者などこの世にはいない。

 

人が神を超えることはない、まし てや神を人が倒すことなど不可能である。

 

「諦める気なんてないわよ」

 

「・・・千早」

 

和麻は千早を見る。千早の目には 迷いなど何もない。

 

「誰も知らない未来には100% のことなんてない。未来は自分の手で掴み取るもの可能性が少しでもある限り私は決して諦めない」

 

(そうだな)

 

和麻は千早の言葉を聞き心の霧が 晴れた。

 

先のこと・・・未来のことなんて どうなるかわからない。

 

ここで自分が諦めれば、何もでき ないと思い本当に何もしないでいたら、もっと何もできない、何も変わらない、何も変えられない。

 

「そうだよな」

 

和麻は精霊を召喚しながら流也と 蠱雕を見上げる。

 

「俺たちは諦めるわけにはいかな いんだよ、それがどんなに馬鹿げたことだと言われようとな」

 

自分にはまだやらなければならな いことがある。それまで自分は・・・いや、その後も自分は彼女を・・・翠鈴を護り続ける。

 

そのためには自分はここで倒れる わけにはいかない。

 

「無駄なことだよ!」

 

『人間は所詮馬鹿な生き物! 我 らと戦うにな対しない!』

 

流也、蠱雕は風を召喚する。その 量は今までとはまるで違う。

 

「神が復活した今、僕の力はさら に上がった僕らを相手にしながら神を倒すことなど不可能、万に1つの可能性もない!」

 

「確かにお前から感じられる力は さっきまでと比べ物にならない」

 

流也から感じられ力今の和麻では 止めることはできないだろう。

 

「なら俺も、力を解放するまで」

 

和麻を取り巻く精霊の量が一気に 跳ね上がる。

 

「あたしは何があっても諦めたり なんてしない」

 

千早を取り巻く精霊の量も跳ね上 がる。その力は和麻に匹敵するほどである。

 

「喰らいやがれ、鎌鼬」

 

和麻の手から蒼い風の鎌鼬が放た れる。

 

「その技はもう効かない!」

 

『我らをなめるな!』

 

鎌鼬は流也と蠱雕の黒い風に飲み 込まれる。和麻が力を強くしても真正面からの攻撃では2人には止めることは十分可能である。

 

「流星水弾」

 

「なにっ!?」

 

『後ろから!?』

 

和麻の鎌鼬に続き後ろから水の氷 柱が2人へと襲い掛かる。タイミングを計り千早は2人の背後に水の氷柱を作り出したのだ。

 

「これくらいで!」

 

2人は全身に風を纏い水を弾く。

 

「突き抜けなさい!」

 

『なっ!』

 

水は風を突き抜け2人へと襲い掛 かる。雪姫を手にした千早の力はここに来たときの何倍にも上がっている。流也や蠱雕の力が上がっているとは言え

 

今の千早はそれと同等の力を手に している。完全に止めきることはできない。

 

身体を水がかすっていく。体を動 かしギリギリでかわしたのだ。

 

『人間ごときがよくも!!』

 

蠱雕が羽を羽ばたかせ風を放つ。 無数の風の羽が2人へと襲い掛かる。

 

「吹き飛ばせ、裂破風陣拳!」

 

2本の風の渦が天高く出現した。 風の渦、竜巻は蠱雕の風を薙ぎ払い突き進む。

 

「これくらいで僕らが倒せるとで も!」

 

流也も風の渦を作り出す。黒い風 が蒼い風とぶつかり合い突風が辺りを襲う。

 

「うらららああああああ!!!」

 

和麻は竜巻に力を上乗せし黒い風 の渦を押し返す。流也も、負けじと和麻の風を押し返す。

 

地面はアスファルトが粉々に砕か れ破片が風に飲み込まれる。周りの木々は根っこから抜き取られ薙ぎ倒され粉々に削られていく。

 

『死ね! 八神和麻!!』

 

蠱雕が流也と戦う和麻に向かい黒 い風を放つ。

 

だがそれは千早の水に全てかき消 された。

 

「氷霞」

 

巨大な氷柱が雪姫から放たれる。 流星氷弾と違い狙いを定めて放てる氷霞、千早は狙いを狂わすことなく蠱雕へ放つ。

 

『グオオオオ!!』

 

高速で放たれる氷柱に蠱雕の体が 貫かれる。だが胴体は僅かに外れ足へと突き刺さっていた。

 

(好機!)

 

千早はここぞとばかりに頭上で雪 姫を回転させ集まられるだけの精霊を召喚する。

 

「千早、行くぞ!!」

 

タイミングを合わせ和麻と千早は 技を放つ。

 

『吹雪!!』

 

「なっ!? うわああああ!!」

 

『グアアアアアア!!』

 

和麻の風と千早の氷が合わさり身 も凍るほどの冷気の嵐が起きる。

 

蠱雕に前に放ったときの何倍もの 威力を持つ吹雪が抵抗する流也と蠱雕をいとも簡単に飲み込んだ。

 

千早が念話を使い和麻に伝えたの はこのことである。和麻の風と千早の水・氷を合わせ攻撃する。

 

千早は本来1人でも吹雪を使うこ とが可能である。だがそれには水・氷だけでなく渦を作るために風の精霊も同時に微量ながら召喚しなければならない。そのため技の発動に時間がかかってしま う。

 

だが和麻の力を借りることでそれ も解消される。さらに和麻は専門である風、千早は専門である水・氷の召喚に力を全て回せることで技の威力は倍以上に上がった。

 

その力は1+1=2でなく、3に も4にもなったと言うわけである。

 

もちろんこれは2人が昔から知る 仲だからできたことでありいきなりできることではない。

 

「今のうちに!」

 

「おうっ!」

 

千早と和麻は同時に走り出した。

 

しかし流也と蠱雕を止めるために 全力に近い力で吹雪を使ったため2人共本来ならばすぐに走れる状態ではない。全力で長距離を走った後にそのまま走らされるのと同じ状態である。

 

それでも2人は足を止めるわけに はいかない。

 

神が復活した、それは信じたくな い。しかし、山を取り巻く空気、何十倍にも膨れ上がった神の気配、力の強さから神が復活したのは間違いない事実だ。

 

戦いの中で感じた異常すぎる力の 強さ、人間が持つ力の限界をはるかに超えた力を感じた。

和樹は間に合わなかった。

 

だが神の力がその後小さくなっ た。そして今もその状態が続いていることから結界か何かに閉じ込め一時的にだが神を封じることに成功したのだろう。

 

しかしそれも一時的ことで神を完 全に封じられたわけではない。あの神の力を封じるには精霊王の直接召喚でもしなられば完全に封じることは不可能。

 

和麻はまだそれだけの力を感じ 取っていない。風の精霊王と契約した自分がそれを見逃すはずがない。

 

和樹は・・・・・・直接召喚はし ていない。つまり神が再び暴れだすのは時間の問題である。

 

だがその前に2人には目の前の危 機を回避しなければならない。

 

そしてもう1つ問題があった。

 

「くそっ、綾乃を連れて来たのは 間違いだった」

 

今になって和麻は綾乃の同行を許 したことを後悔する。考えが甘かった、まさかあれだけの力を手にして負けるとは。

 

「はっ!」

 

和麻は高々と跳躍し綾乃の気配を 察知する。まだ綾乃の気配は消えていない。だが今のままでは確実に兵衛に綾乃は殺される。

 

(口だけかよ、結局は!!)

 

綾乃には決定的なものが足りな い。

 

負けない、私は弱くない・・・口 で言うだけなら誰だって言える。そしてそのときは強い心を持っていることもできる。

 

だがそれを戦いの中でも持続でき るか、心に決めた決意の柱を折ることなくいられるか。

綾乃にはまだそれができない。

 

自分が少しでも不利だと感じてし まうと簡単に心が揺らぎ柱に皹が入る、それていったん皹の入った柱は簡単に崩れ去る。

 

兵衛に恐れを感じてしまった綾乃 の心は簡単に崩れた。

 

和麻は重悟に怒りを覚える。

 

おそらく綾乃には重悟や厳馬以 外、自分より強い相手を綾乃に見せずにいたのだろう。綾乃の身を案じるために行った重悟の行為が心の面での成長を完全に弱めてしている。

 

「いた!」

 

上空で綾乃の姿を発見する。同時 に兵衛の姿も確認できた。

 

呼霊法で千早に場所を伝える。

 

(やばいな・・・)

 

勝敗は誰が見ても明らかである。

 

綾乃は体から血を流し今にも倒れ そうな状態、地面に突き刺さった炎雷覇を杖のようにし体を何とか支えているような感じだ。

 

立っていることだけでも奇跡に近 いのだろう。綾乃はもしかしたら気を失っているのかもしれない。本能だけで立っているのだろう。

 

(あの大馬鹿野郎が!!)

 

「鎌鼬」

 

兵衛に向け和麻の手から鎌鼬が放 たれる。道をふさぐように放たれた鎌鼬は兵衛の動きを封じ込める。

 

「綾乃ちゃん!」

 

その隙を突いて千早が綾乃に駆け 寄った。

 

「綾乃ちゃん!」

 

千早の呼びかけに綾乃は何も答え ない。それでもゆっくりと千早の声のするほうを綾乃は見た。

 

だがその目もどこか焦点が定まっ ていない。

 

綾乃は力なく目から涙を流しなが ら千早へと倒れこんだ。

 

その体には全く力を感じることが できない。顔は血の気が失せ、体は力がなく全身傷だらけである。

 

だがそれよりも酷い傷を受け た・・・綾乃の心である。

 

粉々に砕かれた綾乃の心は下手し たらこの戦いの中では修復されることがないかもしれない。いや下手したらその後も後遺症として残りかねない。

 

「はっ!」

 

『ぐおっ!』

 

和麻の鎌鼬が兵衛の右腕を斬り落 とした。

 

しかし斬られた腕は再び兵衛の体 へと戻り、斬られたことを感じさせることなどなかった。

 

「完全に人間止めやがったか、流 也もそうだがな。親子そろって狂いやがって!」

 

和麻は両手に風の精霊を召喚す る。

 

「喰らいやがれ!!」

 

和麻の手から次々に風の刃が放た れる。兵衛の体を次々に斬り裂き次第にその姿は煙に巻かれた。

 

「・・・やったか!?」

 

次の瞬間、和麻に向かって風の刃 が無数に向かってきた。

 

(やばいっ!)

 

和麻は風を放ち向かってくる黒い 風の刃を落とす。

 

風の壁を作り出そうとしたが精霊 の召喚が間に合わない。

 

「氷壁」

 

「!?」

 

目の前に迫っていた風の刃が全て 氷の壁に阻まれた。瞬きさえも許さない状況であった。

 

後ろを振り返ると雪姫を地面に突 き立てた千早の姿があった。

 

「ナイスタイミング、助かった ぜ・・・」

 

千早が氷の壁を張らなければただ ではすまなかった。おそらくいくつかの攻撃を受けることになっていただろう

 

「吹雪が破られた、こんなに早 く・・・」

 

「・・・無傷ってわけではないだ ろうがな」

 

ガシャーーン!

 

氷の壁が砕け散り視界が開ける。

 

その先には流也、兵衛、蠱雕の姿 があった。だが3人とも無傷ではない。

 

「あの攻撃を受けて追ってくると わな」

 

まさかこうも速くあの吹雪の中か ら脱出するとは考えもしなかった。上級妖魔の上を相手でも確実にしとめることができるほどの技であった。

 

自分と千早の合わせ技、それぞれ の力を合わせた吹雪から抜け出すとは・・・

 

「よくもやってくれたね、和麻」

 

『殺す!』

 

『人間ごときが!!』

 

3方から黒い風が風を斬り裂き放 たれる。神の力、妖魔の力を手にし人でなくなった流也と兵衛の力は予想を超えている。

 

特に兵衛は既に自我がかけてきて いる。

 

「ちっ!!」

 

和麻は精霊を召喚し自分と綾乃を 抱える千早を護るように風の壁を作り出す。

 

(1人じゃ・・・)

 

「水壁」

 

和麻の作り出した風の壁の中へ水 の精霊が入ってきた。風の流れに乗り水が動く。

 

「1人じゃ無理でしょ」

 

「ああ」

 

2人で壁を作れば防ぐことはでき る。

 

だが・・・

 

「・・・反撃ができないな」

 

綾乃がいるため動きが制限されて しまっている。

 

(結局は足手まといか・・・)

 

和麻は決断する、力を解放させる と・・・

 

「千早、衝撃に備えとけ」

 

「え!」

 

千早の返答も待たずに和麻は力を 高め始める。

 

「・・・・・・」

 

無言で和麻は目を閉じる。

 

刹那、和麻の脳の中に周りの情報 が次々と流れ込んでくる。意思を強く持ち和麻は頭の中をクリアーする。

 

目を開くと和麻の瞳は蒼穹のよう に透き通っていた。

 

「はああぁぁぁっ!!」

 

和麻の背中から風の翼が・・・蒼 い風の翼が出現する。全てを浄化しつくす蒼き風の翼が和麻の体を浮かせる。

 

「・・・す、すごい・・・」

 

和麻から感じる巨大な力に千早は 言葉を失う。

 

(これがコントラクター、風の精 霊王と契約した和麻お兄ちゃんの力・・・)

 

力の上昇は止まることがない、時 間がたつごとにその力は強大なものとなっていく。

 

「・・・千早、俺が動いたと同時 に水の動きを止めろ。そして綾乃を連れてできるだけ離れてくれ!」

 

千早の答えを待たず和麻は動く。

 

(行くぞ!)

 

自分たちを護っていた風の壁を一 気に爆発させる。風の翼を爆発させ一気に空へと飛び立つ。

 

「くっ!」

 

『ぬおっ!』

 

いきなりの出来事に流也たちの反 応が遅れる。

 

それを見逃さず和麻は鎌鼬を放 つ。

 

「そんなもの今更無駄な攻撃だ よ!」

 

流也は黒い風の刃を和麻の蒼い風 へと放つ。2つの力がぶつかり合い四散する流也はそう考えていた。

 

「突き抜けろ!!」

 

「なっ!」

 

蒼い風は黒い風を突き抜け流也へ と迫る。慌てて後ろへと飛び黒い風を放ち蒼い風の刃を止めようとする。

 

「まだまだ!」

 

和麻は攻撃をやめない。

 

兵衛、蠱雕へも鎌鼬を放つ。

 

兵衛の体を蒼い風が斬り裂く、蠱 雕も全力で和麻の風を防いでいる。

 

「鎌鼬の舞」

 

和麻の手からさらに背中の翼から 次々と鎌鼬が放たれる。

 

聖痕(スティグマ)を発動させた 今、和麻の鎌鼬の威力は発動前の何倍にも上がる。神の力を手に入れた流也をも超える力を今の和麻は使っていた。

 

『人間ごときが我に逆らうな!』

 

蠱雕が体に風を纏わせ和麻へと急 加速する。

 

和麻は風に乗りすばやくその攻撃 を避けようとする。だが捨て身で突っ込んでくる蠱雕は鎌鼬を弾き返しながら迫ってくる。

 

「ちっ!」

 

(捨て身か!?)

 

さらに流也が和麻の行く手を阻も うと風を放ってくる。兵衛もそれに合わせて風を放つ。自我を失いかけてるせいか兵衛の攻撃は予測がつかない。

 

(くそ!)

 

鎌鼬を全力で放つがそれでも蠱雕 の接近を止めることができない。

 

「うっ!」

 

さらに背後から流也、兵衛も迫っ てくる。

 

「修羅旋風拳」

 

両腕に竜巻を作り出し和麻は正面 から蠱雕を迎え撃った。

 

「うっ!」

 

『吹き飛ばしてくれる!!』

 

(修羅旋風拳と同等かよ!)

 

和麻と蠱雕の間で凄まじい風のぶ つかり合いが続く。さきに気を抜いたほうが確実に致命

傷を受けるのは目に見えている。

 

「風の精霊王の力をなめる な!!!」

 

次の瞬間、風の翼が倍の大きさに なる。和麻の腕を取り巻く風の精霊の力も倍増した。

 

「うらああぁぁぁぁ!!!」

 

『な、なに!?』

 

和麻の腕が振り抜かれる。竜巻が 蠱雕の翼を削り取った。

 

『グオオオオオオオオオオ!!』

 

蠱雕が悲鳴に近い雄叫びを上げ る。

 

「くっ・・・」

 

(くそっ・・・さっきの傷 が・・・)

 

身体に激痛が走り和麻の動きは一 瞬だが止まってしまった。

 

「和麻ぁぁっ!!」

 

「流也!?」

 

「死ねぇぇっ!」

 

和麻が蠱雕に攻撃し精霊が収ま り、動きの止まったその瞬間をつき流也が和麻に風の刃を放ってきた。

 

「お兄ちゃん!!」

 

それを見た千早が和麻を援護しよ うとする。

 

『死ねぇ! 小娘!』

 

「兵衛!!」

 

千早は綾乃を連れて兵衛の攻撃を 防ぐ。だが和麻の援護はできない。

 

だがそれが兵衛にとっては十分過 ぎる時間だった。

 

「くそがあぁぁ!」

 

和麻は全力で自分の前に風の壁を 作る。

 

『おのれ、八神和麻ぁぁ!!』

 

「くっ!」

 

前からは流也、後ろからは蠱雕。

 

(防ぎきれない!)

 

「もらった!!」

 

『死ねぇぇっ!!』

 

和麻の体を風が真っ二つにする。 千早の援護は間に合わない。

 

(・・・右腕に風を全て集めれ ば・・・)

 

右腕に強力に風を集め和麻は攻撃 を回避することを決める。

 

避けきれないと悟った和麻は右腕 を捨てることを覚悟した。

 

これを止めたらこの戦いの中では 治すことはできない、下手したら腕がなくなっているかもしれない。だが腕を犠牲にしてでも自分はここで死ぬわけにはいかないのだと。

 

風が和麻を斬り裂く・・・まさに その瞬間だった。

 

ドウッ! ドウッ!

 

「!?」

 

「えっ!?」

 

「何だ!?」

 

『なにっ!?』

 

『どこから!?』

 

空中戦をする和麻たちのさらに上 空から黒い影が舞い降りる。

 

刹那、影から2つの黒い炎が放た れる。

 

「うわっ!」

 

『があっ!』

 

流也と蠱雕にその炎は迫る。風を 使い相殺しようとするが黒炎は黒い風をものともしないで突き進み続け流也と蠱雕はギリギリで身をかわして炎を回避した。

 

「・・・か・・・ずき」

 

「・・・・・・」

 

影・・・和樹は和麻の前に舞い降 りた。

 

腕には眠り続ける煉を抱きながら も、身体に黒炎をまとい隙のない姿は相手を圧倒するのに十分過ぎる力を感じさせた。

 

その闘気に影響されたかのように 和樹の回りに炎の球体が出現する。

 

「瞬炎」

 

瞬炎が流也たちへと襲い掛かる。

 

流也と蠱雕はそれをギリギリでか わし続けるが兵衛はそうもいかなかった。

 

『グオオ!!』

 

兵衛の体の中へ乗り移った風牙の 長たちも兵衛の体が受けた痛みを感じ取り、声を上げる。

 

腕、足を炎に焼かれ消滅させられ る。

 

「兄さん! 今だ!!」

 

和樹の声に和麻は手に精霊を集め る。

 

「これで!」

 

「消えろ!」

 

和樹から黒い炎の瞬炎が、和麻か ら蒼い風の鎌鼬が兵衛に向かって放たれる。

 

『グアアアアアアアアアアア ア!!!』

 

鎌鼬にバラバラに斬り裂かれ、瞬 炎に兵衛の体が消滅させられる。全てが風と炎に滅せられた。

 

流也と蠱雕はいつの間にかこの場 から撤退していた。

 

追おうと思ったら追えなくもない が今は状況が悪い。

 

和麻の蒼い翼はいつの間にか消え ていた。目もいつの間にか元に戻っている。

 

和樹と和麻は地面へと降り立つ。 2人とも地面に膝を突きつかれきった表情をしている。特に和麻は地面に足が着いたと同時に崩れ落ちるように地面に膝を突いた。

 

「・・・くそっ、体が言うこと利 かない」

 

聖痕(スティグマ)を発動させた 和麻は身体に反動がきている。傷ついていた状態、普段なら聖痕を使うような状態で無いのに無理矢理的に聖痕を発動させたのだ、無理もない。

 

「このままじゃ・・・不味 い・・・」

 

「和樹、煉は?」

 

「大丈夫、眠っているだけだよ。 外傷もない」

 

「そうか・・・」

 

煉は大丈夫そうだ。

 

「和樹君」

 

「千早、大丈夫?」

 

「私は大丈夫、でも・・・」

 

千早の視線が綾乃へと向く。

 

綾乃は危険だ。今のままでは確実 に死ぬだろう。

 

「・・・レオン・・・」

 

和樹の頭の中にレオンの声が響い てきた。

 

「念話か」

 

「レオンたちは?」

 

「・・・分かった。すぐに僕らも そっちに向かう」

 

和樹はレオンとの念話を切り和 麻、千早を見る。

 

「向こうも撤退したらしい。一 旦、向こうと合流するよ」

 

「分かったわ」

 

「分かった。千早、綾乃は俺が連 れて行く」

 

「お願い」

 

自分では綾乃を運ぶことができな いので和麻へと渡す。

 

「ぐっ・・・重い・・・、『聖 痕』の発動後の身体にはこたえるぜ・・・・・・」

 

和麻は綾乃を抱え本人が起きてい たら確実に炎雷覇を振り下ろされるかぶん投げられるようなことを言った。

 

「修行も必要だがそれと同時に脂 肪も燃焼させる必要があるのこいつは・・・」

 

本当に綾乃が気絶していたよかっ たと思う。

 

和麻は疲れた身体に鞭打ち綾乃を 担ぎ上げた。

 

煉は和樹が腕に抱えている。

 

3人はレオンたちと合流するため にその場から飛翔する。

 

「向こうに着いたらお前らにエリ クサーを渡す。今は回復に専念しとかないと次はやばい。人数分はあるから何とかなるだろ」

 

「そうだね。今は・・・カイ、ど うしたの・・・・・・えっ!? そんな、だってさっきは・・・・・・分かった・・・うん、すぐに行く」

 

和樹が驚いたように声を上げた。 だがすぐに冷静になり頷き念話を切る。

 

「・・・レオンが負傷した」

 

「えっ!?」

 

「あいつが!?」

 

「心配させたくないから黙ってい たみたいだけど、カイから今言われた。向こうについたら分かることだし」

 

「でもあいつが何で!?」

 

和麻は信じられないような声を上 げる。

 

自分の中でレオンが負傷するなん て考えられないからだ。

 

自分にとってレオンは未だに最強 の存在である。

 

式森家へ行ったそのときからレオ ンを目標にしていたのだ。

 

「凛ちゃんと杜崎さんを庇ったら しい。饕餮たちが2人を狙って攻撃したんだ」

 

「レオンは大丈夫なの?」

 

「攻撃を止めた左腕が動かない状 態らしい。エリクサーがあって良かった」

 

「急ぐか、いつ攻撃されるか分か らない」

 

3人はスピードを上げレオンたち と合流するために急いだ。

 

 

 

 

あとがき

あとがきフォ〜〜〜〜!

レオンで〜す。時代の流れにノリ ノリで〜すよ。

神はカズが一時的に封印しました が果たしてそれで終わるか、もちろん終わるわけありません!

煉と綾乃の2人もここから大きく 動き出します。

そしてついに和麻が聖痕発動! 

カズの黒炎とともに兵衛を倒しま した。でもまだ敵は倒していません。これから戦いは本格的に動いていきます。神を相手にするカズ、和麻がどうなるかこれから楽しみにしてください。

ちなみに賭けは『綾乃いいところ までいくけど敗北』でした。あなたは賭けに勝てたでしょうか? ちなみに千早はきっちりもと取りました!

ではまた会いましょう。レオンで した!


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