第1部   〜動き出す運命〜

 

 

 

 

第23話 水と炎

 

 

時間は少し戻る・・・

 

レオン、カイ、饕餮、馬腹、褐狙 は目にも留まらぬ速さで空中戦を繰り広げていた。

 

「お前との戦いは何年ぶりだ!?  レオン」

 

「昔のことなど覚えていない!」

 

ガチッン!

 

レオンと饕餮の刀が火花を散らし て激しく鳴り響いた。饕餮はわざとそうしているのか人間の姿になりレオンと戦っている。

 

さらにその姿はレオンと類似し髪 の色が青かオレンジの違いだけである。

 

「なら教えてやろう。最後に戦っ たのは2000年以上前だ」

 

黒い風がレオンへと襲い掛かるが その風をレオンは蒼い風で向かえ撃った。

 

「そしてまたこうしてお前と戦え るとは!」

 

風ではない。黒い炎がレオンへと 放たれた。だがその炎は和樹の黒炎とは力が違う。妖気を含んだために黒くなっただけの炎だ。

 

「それが何だ!」

 

レオンは紅い炎を放ち応戦する。

 

「なぜお前が人間ごときと手を結 ぶ」

 

「なに!?」

 

刀と刀がぶつかり合い鍔迫り合い に入る。

 

「いつからお前はそこまで弱く なった」

 

「私が弱くなっただと」

 

「そうだ。貴様は我より弱い!」

 

「そんな戯言!」

 

2人は刀を弾き距離をとる。

 

「戯言などではない。現に貴様は 我の未だに一太刀も浴びせられていない」

 

「それがどうした」

 

レオンは風の刃を放つ。だがその 対象は饕餮でない。

 

『グオッ!』

 

馬腹の顔をかすめさらに褐狙も避 けなければ傷を負っていた。

 

「レオン」

 

カイがレオンに背を合わせるよう に後ろへと立つ。

 

「和麻たちが戦い始めたようだ」

 

「和樹の気配も三昧真火の辺りか ら感じる」

 

戦いながらも先に行った4人の気 配を感じ取ることができた。

 

「和麻の奴が流也、千早が蠱雕、 綾乃が兵衛かな」

 

「和樹は・・・神か・・・」

 

和樹のいる場所から感じる力、完 全ではないが神の力を感じることができた。

 

捜さなくても嫌でも感じ取ること のできる巨大な力が目覚めようとしているのがひしひしと感じた。

 

「山の中だからだろうが、こいつ らの力も上がってやがる。2対3なら十分だなんて大口叩いたが結構際どいな」

 

「それでも向かってくるなら倒す しかない。幸い、饕餮ほど馬腹と褐狙は強くはない」

 

『聞こえてる』

 

『我らが弱いだと』

 

馬腹と褐狙はレオンに向けて殺気 を放つ。普通の人間ならそれだけで精神に異常をきたしそうなほどである。

 

だがその殺気を受けてもレオンは 全く怯むような気配は見せない。

 

「事実を言っただけだ」

 

『お、おのれぇぇっ!』

 

『我らを愚弄するとは!! 後悔 するがいい!!!』

 

馬腹と褐狙は黒い風をレオンとカ イに向けて放った。

 

「それはお前らだ」

 

青龍刀を構えレオンは炎を召喚す る。

 

そして刀を横に構える。

 

「吹き飛べ!」

 

炎が爆発すると風は全て飲み込ま れ何も残らなかった。

 

『なっ!』

 

『なにっ!』

 

馬腹と褐狙は自分たちの風が簡単 に止められたことに衝撃を受けた。

 

だがそれに驚かないものがいる。

 

饕餮、レオンの力を目の当たりに してそれが当たり前だと言わんばかりに笑みを浮かべていた。

 

「そうだ。その力だ」

 

『饕餮、貴様何を!?』

 

自分たちの風が止められたという のにも拘らず、それを楽しむ饕餮を見る馬腹と褐狙の心中は穏やかでない。

 

『貴様、一体何を考えている』

 

「あいつを倒せるのは我だけ、お 前らは下がっていろ」

 

刀を握り締め饕餮は黒い妖気の炎 を体へと纏う。

 

「悪いが貴様だけの相手をするつ もりは私にはない」

 

青龍刀を構えレオンも炎を召喚す る。

 

「お前らしくない、以前はそんな ことを考える君ではなかった」

 

「お前にレオンの何が分かる?」

 

カイが炎をエクセリオンの糸に纏 わせながら饕餮へ言う。

 

「分からないね。馬鹿な人間など に仕えている君たちのことなど」

 

「貴様、それ以上和樹を馬鹿にす るようなことを言ったらどうなるか分かっているのか?」

 

レオンとカイを取り巻く空気がが らりと変わる。それに影響されたのか炎も強い気配を放ちだす。

 

「馬鹿に馬鹿といって何が悪 い?」

 

『人間など我らの敵ではない。た だの家畜に過ぎぬ』

 

『好きなだけ喰らいつくしてくれ るわ』

 

「許さん」

 

「灰にしてやる」

 

再び戦いが始まった。

 

 

 

 

 

 

 

「うらっ!」

 

和麻は流也に鋭い拳を放つ。流也 の体を外しても風の渦巻く拳は流也を吹き飛ばす。

 

「はあっ!」

 

流也は風の刃を放ち応戦する。和 麻はそれを紙一へ出かわしカウンターの風を放つ。だが召喚された黒い風に全て阻まれる。

 

だが風を放つと同時に和麻は流也 へと近づき回し蹴りを放つ。流也は体をそらしそれを避けると30cmほど伸びた爪を和麻へと振りかざした。

 

和麻は避けるが服を斬り裂かれそ の部分が爪の妖気に当てられ腐敗した。

 

(かすっただけでも致命傷になり かねないな)

 

もし皮膚を爪が引き裂いたらそこ から妖気に体を侵食されかねない。

 

(接近戦は無理か、でも・・・)

 

遠くから風を放つだけでは止めら れてしまう。だが近づけば爪が待っている。

 

(何か受けられるものがあれ ば・・・)

 

和樹だったら刀で流也の爪を止め ることができる、沙弓のようなプロテクターでもいい。しかし自分には爪を止めるものがない。ナイフ1本でもあればと和麻は思った。

 

武器が無くても戦える方法はいく らでもある。しかし、時にはそれが必要になるときもあるのだ。

 

(それでも負けるわけにはいかね え!)

 

風の刃が止められるならそれを上 回る技を放つまで。

 

「裂破風陣拳」

 

「うわあああああああ!!」

 

拳を振るい、風を起こして流也を 風の渦へと閉じ込める。中では風が荒れ狂い流也の体を斬り刻み続ける。

 

(このまま押し切る!)

 

和麻は両手を胸の前で合わし風を 圧縮させる。

 

ゴウッ!

 

流也が風の渦を破りでてきたと同 時に和麻はボール上に圧縮された風を流也へと放った。

 

「喰らいやがれ、風魂」

 

「ぐわああああ!!!」

 

流也は風魂をまともにくらい、地 面へと叩きつけられた。

 

「粉々に砕けろ、修羅旋風拳」

 

和麻は急降下で流也へと拳を叩き つけようとする。流也まで後3mまで近づいたそのとき、和麻の体を風が斬り裂いた。

 

「なに!?」

 

いきなりの攻撃に和麻はバランス を崩す。

 

(反応が遅れ・・・)

 

ドゴッ!

 

下から腹に衝撃が走った。見ると 流也の前蹴りが自分を捕らえていた。

 

「油断しすぎだよ、和麻」

 

鋭い爪が振り下ろされる。和麻は とっさに自分の体を風の渦で包み後退した。

 

「・・・げほっ!」

 

(馬鹿な、風魂を喰らってすぐに 動きやがっただと!)

 

和麻は決して油断していた訳では ない。体を斬り裂いた風は一瞬と惑ったが最低限の動きで回避した。風が狂わされているせいで判断がしづらかったがそれでも気づくことはできた。

 

しかし、流也の次の動きは予想外 だった。

 

風魂をまともに受けすぐに動ける はずがない。確実に内臓のどこかがおかしくなりまともに立てなくなるはずだ。

 

それなのに流也は動いた。

 

(どうなってやがるんだ?)

 

「混乱しているようだね」

 

流也は膝を付く和麻を見ながらい う。

 

「僕の体は妖魔、神の力によって 瞬時に回復される。あの程度の攻撃では僕の動きを封じることなんて不可能」

 

(完全に妖魔化しやがった か・・・マジ化け物だこいつ!)

 

裂破風陣拳と風魂は自分が使う技 の中でもかなり大技である。それを受けても動きをとめることができないとなるとかなりきつい。

 

「不可能かどうかは最後まで俺の 技を受け切ってから言うんだな」

 

「強がりはよした方がいいよ」

 

「それはどうかな?」

 

平静を装うが内心焦りはある。風 魂を受けて立ち上がられては今の自分だけの力では致命傷を流也に与えるのは困難。

 

(やるしかねえな!)

 

流也を倒すには他に方法はない。 和麻は全力で流也を倒す決意を固める。

 

「素直に負けを認めれば楽に死ね るよ、はあっ!」

 

流也は黒い風を放ちながらとい う。和麻は蒼い風を放ちそれを迎え撃つ。

 

「悪いが俺は世界一諦めの悪い人 間なんでね」

 

「なら苦しみながら死ぬがい い!!」

 

流也は和麻に向けて今まで以上の 力を持つ黒い風を放った。

 

「それはお前だ!」

 

和麻も全力で風を迎え撃った。

 

 

 

 

 

 

 

(綾乃ちゃんは大丈夫・・・)

 

綾乃は今の状態なら兵衛には負け ることはない。強い心を持った綾乃の炎は今まで閉じ込めていた炎雷覇本来の力をも呼び覚まそうとするほどの力を秘めている。

 

力では今の兵衛には綾乃は倒せな い。綾乃の気持ちが折れない限り・・・

 

問題は自分である。

 

左手は予想以上に酷い。千早を助 けたときに動かした瞬間鋭い痛みが走った。

 

さらに厄介なことは蠱雕の傷が少 しずつではあるがふさがりつつある。この山の中にいるためか力は相手の方が上。

 

もともと1対1で勝てるか分から ない相手である。力的には自分が不利である。

 

(でも、あたしはあきらめない)

 

千早は蠱雕に向けて槍を構える。

 

「水の精霊、氷の精霊。あたしに 力を貸して!」

 

槍に今まで以上の力が集まり出 す。精霊たちは槍に吸収されるように槍の中へと入っていく。

 

今までと違う精霊たちの動きに千 早は自分の握る槍を見た。

 

(何・・・一体・・・いつもと違 う・・・)

 

まるで槍本体が精霊たちと一体と なろうとし始めている。自分が召喚しようとしなくても自然に精霊が集まってくるのだ。

 

(・・・・・・千早・・・)

 

「えっ?」

 

自分を誰かが呼んだような気がし た。だが周りには誰もいない。蠱雕がいる以外はされの姿もない。

 

(千早、私はここです)

 

(どこに・・・)

 

(ここです、山瀬千早)

 

「!?」

 

刹那、水柱が上がり自分を包み込 んだ。

 

さらに槍が光り輝きだし千早の体 を包み込んだ。

 

「槍が・・・」

 

その声は自分の握る槍から聞こえ てきた。その声は女性の声で優しく、透き通るような綺麗な声をしていた。

 

「あなたは誰・・・?」

 

千早は声の主に問いかける。

 

「私は・・・です」

 

「えっ?」

 

名前が聞こえない。他の言葉は全 て聞くことができるのに名前の部分だけが無音になった。

 

「何・・・名前だけが聞こえな い・・・」

 

千早の言葉に声は優しく答える。

 

「それも仕方がないかもしれませ ん・・・あなたが私と会話できることだけでも凄いことなのですから」

 

「どういうこと?」

 

「・・・あなたは私に選ばれた存 在なのです」

 

「選ばれた・・・あたし が・・・」

 

千早は一体何を声がいっているの か分からない。選ばれたとは・・・会話できることだけでも凄いとは・・・

 

「あなたは魔法によって精霊を召 喚する魔術師であり、生まれたときから精霊術が使える術師ではない」

 

そう千早は声の言う通り神凪のよ うな術師の家系ではない。生まれたときから炎を使うことができる神凪家の人間と違い魔法で精霊を召喚しているのだ。

 

その千早がここまで精霊の召喚を 速くできたのは、そして力を操れるようになったのは千早の魔力の強さ、和樹の魔法具、そして何より血の滲むような努力の賜物である。

 

そのことを千早は誰にも言うこと はない。

 

言っても意味を持たないことだ し、誰かに褒められたいから努力したわけでもない。

 

約束を護るために千早は己から荊 の道を進んできたのだ。

 

和樹と約束したあのとき、幼い自 分があのとき言った言葉。

 

和樹は覚えているだろうか・・・

 

小さいころのことだったから覚え ていないだろうとあのときまで思っていた。

 

しかし和樹は覚えていた。

 

それを知ったのは中学2年のとき だった。

 

自分の心は変わっていなかった。 そして和樹の心も変わっていなかった。

 

約束は今も護られている。その形 が自分の左手に輝く指輪でもあるのだ。

 

「そう、あたしは魔術師だけどそ れを何とも思っていないわ」

 

千早にとってこのことは大したこ とではない。しかし周りから見たらそのことは大きな意味を持つ。

 

千早と綾乃の違い。

 

魔術師である以上魔法で精霊を召 喚するぶん体力的に千早のほうがかなり辛い。

 

もし千早が今使っている魔法を綾 乃の体力で使ったらどうなるか? 

 

今動ける時間の半分にも行かない だろう。

 

綾乃には炎の精霊が自然と集まる のに対し、千早には自然に集まっても綾乃の精霊の10分の1程度である。

 

生まれながらの精霊術師である綾 乃との違いは大きな差があるのだ。

 

「あたしは・・・今自分ができる 範囲のことを今ある力でするだけ」

 

「・・・さすがです、その強い 心。黒炎を持つ者の側にいる者・・・山瀬千早」

 

「!?」

 

なぜ、和樹のことを知っているの かと千早は驚愕する。

 

「安心しなさい、私はあなたの敵 ではありません。もちろん黒炎を持つ者、式森和樹も敵ではありません」

 

声は千早に自分が敵でないことを 言う。信じていいのか分からないが千早はなぜか疑うことができなかった。

 

「千早・・・あなたに私の力を授 けます」

 

「あなたの力・・・」

 

「しかし、これは私の力のごく一 部です。あなたにはもっと強くなってもらはなくてはなりません」

 

声の主は千早に続けた。

 

「あなたのその槍に私の力を与え ます。そして、次こそは私の名前を聞いてください」

 

「あなたの名前を・・・?」

 

「そうです。あなたにはそれだけ の力があります」

 

千早の槍が変化を始めた。

 

「槍が・・・」

 

「新しい力です。そしてあなたは 水術師となります」

 

「私が・・・水術師に・・・」

 

精霊術師の1つ、水術師。自分が 水術師になるということに千早は驚きを隠せない。

 

魔法を使うことなく、和麻の風の ように、綾乃、煉の炎のように・・・

 

黒炎と契約し、さらにそれによっ て全ての精霊を召喚できるようになった和樹のように・・・

 

自分も魔法を使わず水の精霊を召 喚できるようになる。

 

「千早、あなたのその強気心を信 じ我が力を与える。生命の源、水の精霊とともに戦うことを許す」

 

千早の槍がその姿を千早の前に現 した。

 

「薙刀・・・」

 

槍とは形が変わっていてその形は 薙刀に近い。

 

刃の部分は60cmの長さはあろ う、さらに幅も広い。刃と逆の方には把尖(槍先のようなもの)が付き、形は葉のような形で孔雀の羽のような模様が付いていた。

 

「あなたの新しい力です」

 

「これが・・・あたしの・・・新 しい力・・・水術師としての・・・」

 

「私ができるのはここまでです。 千早、次に会うときは私の名を聞いてください」

 

声は次第に小さくなり消えてい く。千早は光に包まれた空間で薙刀を構えた。

 

「これが私の力、すごい水の精霊 たちがあたしに貸してくれる・・・」

 

(感じる、精霊たちがあたしを包 んでくれている)

 

千早は精霊が自分の心の呼びかけ に今まで見たこともないほど答えてくれていることに驚きながらも嬉しかった。

 

「・・・あなたの名前を教えて」

 

薙刀を両手で持ち眼を閉じる。そ して頭の中に名前が流れ込んできた。

 

「それがあなたの名前」

 

千早は新たな力を手にしっかりと 握り締める。

 

刹那、光は全て消え、水の柱も消 えた場所に千早は立っていた。薙刀は元の槍へと戻っている、しかし何かが変わろうとしていた。

 

『おのれ、小娘!』

 

蠱雕は千早に向かって風の羽を放 つ。今まで以上に数が多く、強力な風である。

 

千早は槍を構えると名を言う。

 

薙刀の名を、新たに目覚めた自分 のパートナーの名を・・・

 

「その姿を今ここに・・・あたし はあなたとともに戦うことをこの場に誓う」

 

槍が強い光を放ち形を変える。

 

「吹き荒れろ、雪姫!」

 

ゴウッ!!

 

光に包まれた槍を千早は大きく振 るった。同時に津波が蠱雕の放った風を全て飲み込んだ。

 

『なにっ!?』

 

蠱雕はその光景に驚き急いで飛翔 した。それと同時に蠱雕のいた場所を波が過ぎていった。

 

『・・・・・・』

 

言葉を失い、蠱雕は千早を空から 見下ろす。

 

千早の手には槍ではなく光り輝く 薙刀『雪姫』が握られていた。

 

「山瀬千早」

 

蠱雕を睨みつけながら千早は声を 上げて言う。

 

「あたしは水術師、山瀬千早!  雪姫と共にあなたを倒す!」

 

水術師として千早は新たなる力を 手にした。

 

 

 

 

 

 

 

その姿を流也と戦いながらも見て いた和麻は驚愕の表情をしていた。

 

(千早の奴、まだ強くなるの か?)

 

和麻は水術師として目覚めた千早 の力を戦いながらも感じた。そして、千早が自分と同等の力に目覚めようとしていることにも気づく。

 

(あいつ、もしかしたら化けるか もしれないな)

 

千早の力はまだ上がる。そう感じ てならない。

 

(俺もうかうかしていられない な)

 

和麻は気を引き締めると流也に向 かって風を放った。

 

 

 

 

 

 

 

三昧真火の中では和樹と神の戦い が始まろうとしていた。

 

「おろかな人間よ、神である我に 刃向かおうとはな」

 

煉の体を乗っ取り和樹と対峙する のは風牙神。笑みを浮かべながら和樹の言葉を軽くあしらった。

 

和樹は両手に炎を召喚する。

 

「風牙神、今すぐ煉君から離れ ろ」

 

「断ると言ったら・・・」

 

ゴゥ!

 

和樹の手に集まる炎が黄金に輝き だす。

 

「こうするまで!」

 

和樹の手から黄金の炎が放たれ る。煉の体を黄金の炎が包み込む。

 

「無駄だ、この小僧は炎術師、お 前の炎など効かぬ。お前の力がどれだけ強かろうがこの中にいる以上私は浄化できぬ」

 

「関係ない、お前がどれだけ奥底 に隠れようが滅するだけだ!」

 

和樹は黄金の炎を煉に何度も放ち 続ける。それを風牙神は和樹がやけを起こしたと思い気にも留めない。

 

「滅されるのは神凪に力を貸すお 前の方だ。我が小僧の中に隠れているだけだと思ったら大間違いだぞ!」

 

風牙神は煉の体を操り手を動かし だす。

 

「炎に焼かれて死ぬがいい!」

 

煉が手を振るう。それに反応する ように周りの三昧真火の炎が動き出した。

 

「煉君の力を使ったのか?」

 

「ふはははははははははは!!  小僧の操る炎に焼かれて死ぬがいい!!!」

 

和樹へと三昧真火が襲い掛かっ た。

 

「そんな炎で僕は燃やせない」

 

和樹は恐れた様子も見せず煉 を・・・風牙神を睨み付けている。

 

「燃え尽きろ!!」

 

風牙神の声とともに和樹は三昧真 火に包まれた。和樹の影は消え、炎が燃え上がる。

 

「はははははは、口ほどにもな い」

 

風牙神はそう言うと封印を解く作 業に戻ろうとする。封印は既に解けている。後は皹の入った卵のからを開く、それと同じくらい簡単なことである。

 

だがそのとき体に異変を感じた。

 

(・・・出て行きなさい!)

 

「何!」

 

自分が支配しているはずの煉の体 から声が響いた。

 

その声は煉ではない。女性の声で 自分を煉の体から追い出そうとしている。

 

(この体はこの子のもの、あなた が支配していい体ではないわ)

 

「ふ、ふざけるな! 貴様一 体・・・」

 

ゴウ!

 

煉の体が炎に包まれる。

 

その炎は蒼い炎・・・

 

「・・・うおっ、ここれは神 炎・・・いや・・・」

 

神炎ではない。

 

さらに蒼い炎の神炎を使うのは神 凪厳馬である。この場に厳馬の姿はない。では一体誰が・・・・・・

 

「こ、こんなことが・・・」

 

「・・・君は触れてはいけない炎 に触れてしまったようだね」

 

「!?」

 

三昧真火の炎が荒れ狂い始めた。 内側で何かが暴れているかのように波うち出す。

 

「突き抜けろ!」

 

刹那、三昧真火が四散した。そし て針を入れた風船のごとく中の炎が爆発した。

 

「な、こ、こ、これは!?」

 

三昧真火を飲み込み支配していく 炎、その炎はどこまでも黒く、全てを黒く染めてしまうような強い炎、漆黒の炎であった。

 

その炎は精霊王たちの上に立つ最 強の炎の1つ、黒炎。

 

「ば、馬鹿な。三昧真火でさえ滅 することができぬだと・・・」

 

「黒炎は全てを滅する炎、三昧真 火でもそれは例外ではない」

 

炎の中から1人の姿が現れる。

 

その人間は紛れもなく和樹であ る。そしてその体には傷も何もない。

 

「ぬっ、こ、この炎は・・・ がぁっ!?」

 

風牙神は煉の体を包む蒼い炎が一 体何なのか疑問を浮かべた。

 

「声が聞こえるだろ、彼女の炎 だ。煉君は・・・帰して貰う」

 

(出て行きなさい!)

 

「グアアアアアアア!!」

 

煉の体の中から何かが逃げ出して いった。

 

その正体は風牙神、滅される前に 自分から飛び出してきたようである。

 

『お、おのれ・・・』

 

風牙神は蒼い炎に包まれ和樹の下 へと運ばれる煉の姿を怨めしそうに睨みつける。

 

そして煉の体から1人の女性が姿 を現した。

 

『な、なに・・・』

 

その女性は体が無かった・・・い や、体はある。

 

しかしその体は炎で作られた体で ある。蒼い炎が1人の女性の形を成し、背中には炎の羽を羽ばたかせていた。

 

炎の女性は和樹を見て頷くと和樹 の肩へと腰を下ろす。

 

和樹は煉を抱えながら自分に伸ば された女性の手を握り返した。おそらく年齢は和樹と同じくらいであろう。女性は笑顔で和樹を見ていた。その光景は恋人同士がお互いの存在を確かめ合うよう なそんな感じを覚える光景である。

 

和樹は風牙神へと視線を戻す。

 

「彼女の存在に気づかなかったよ うだね」

 

『き、貴様・・・』

 

「僕は黄金の炎を煉君に放ちなが らその炎の中に蒼い炎を混ぜて放っていたんだ。彼女を煉君の体に移すために」

 

そう、和樹はただ炎を放っていた のではない。外から駄目なら中からだと体の中に蒼い炎の女性を送り込んでいたのだ。

 

自分の身を危険にして相手の気を 逸らせながら。

 

「そして、煉君の体の中から君を 浄化しようとしたんだ。内部からなら煉君の力・・・炎術師としての力は盾としての意味はない」

 

『き、貴様そんなことを・・・』

 

風牙神は和樹に完全にしてやられ た。そのことに感じたことのないような怒りがこみ上げてきた。

 

「煉君をお願い」

 

和樹は煉を女性に渡す。女性は頷 き煉を抱えながら和樹から距離をとった。

 

それと同時に和樹を黒い炎が取り 巻き出す。

 

「封印は解かせない。黒炎よ、全 てを燃やし尽くせ!!!」

 

人間のものとは思えないような闘 気が辺りを包み込む。その力は神でさえも脅威と感じるほどのものである。

 

『おのれ、こんなところ で・・・』

 

神は封印の中へと入り込んだ。既 に封印は解けたも同然、後はそこから飛び出すだけ、それだけである。

 

「させはしない!」

 

和樹は右手を構え黒炎を一転に集 中させる。

 

『我は今ここに甦るのだ!!!』

 

「破壊しろ、黒蛇!!」

 

和樹の手から巨大な黒い蛇が放た れた。

 

神が先か・・・

 

和樹が先か・・・

 

2つの強力な力がぶつかり合っ た。

 

 

 

 

あとがき

は〜いレオンで〜す。

和樹と神がついに激突、はたして どちらがこの戦いを征するのか最後まで目をはなせません。

そして、千早が水術師としての力 に目覚めました!! もうなんでもアリじゃ!! 千早ならなんでも許されるぞ!! 『雪姫』を手にして戦う千早からも目がはなせません!

流也と戦う和麻もこれからどうな るか? 

次回は綾乃と兵衛の戦いに一度決 着が・・・

え〜と今のところ「綾乃傷一つな く勝利」にかけている人はゼロです。辛くも勝利も・・・0.7%・・・・・・

さあ結果はどうなるか乞うご期 待!!

 



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