第1部   〜動き出す運命〜

 

 

 

 

第33話 まだ見ぬ未来へ

 

 

5日後

 

神凪家を滅亡寸前まで追い込んだ 風牙衆の風牙神の復活を後ろ盾に起こした大騒動は大きな傷を残していった。

 

神凪家では術者の半分が死傷し、 屋敷は3割が全壊、半壊した建物も5割に上りその対応に追われていた。

 

だが彼らの残した功績は無に等し い。

 

この事件を沈静化したのは2人の コントラクターと最強の水術師、2人の最強の式神、そして式森家の術者たち。

 

式森和樹、八神和麻、山瀬千早、 レオン、カイ、八剱士である。

 

騒動の原因である神凪家の人間は 唯逃げ回っていただけである。

 

神凪家が原因で起きたことにもか かわらずほとんど和樹達と和麻によって解決されたのだ。

 

それによって受けた傷も大きい。

 

特に和樹は身体的にも精神的にも ボロボロとなった・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

「真に申し訳ありませんでした。 何と言ったらいいのか言葉も見つかりません」

 

「気にするでない。和麻はともか く和樹には少なくともかかわりが有ったことだ」

 

式森家のある一部屋では2人の男 が会話を交わしていた。

 

その存在感と影響力の強さ、式森 家最長老の式森源氏。そして神凪家現宗主であり源氏の弟子の1人でもある神凪重悟である。

 

「蒐斗が後ろにいるということは その後ろに大きな組織がある。もしその組織が今回出てきていたらどの道、神凪家だけで相手になるものではなかった」

 

「しかし、その原因を作ってし まったのは我々神凪家です。そして和樹君達には我々のせいで大怪我を・・・・・・」

 

「和樹と千早はすでに評議会の人 員に含まれておる。自分で考えて行動した結果じゃよ。後悔しとるかどうかは分らんがお前を攻めたりするようなことはせん」

 

「ですが、神凪家宗主としての責 任は取らせてください。私は風牙衆を・・・・・・反乱を起こすまで追い込んでしまいました。そして反乱を止めることもできず、反乱を止める戦いにも参戦す ることができませんでした。私に責任を取らせて下さい」

 

「・・・・・・どう責任を取るつ もりじゃ?」

 

「宗主を辞めるべきなのでしょう が、今私がその座を降りてしまってはまた同じことを繰り返すだけになります。周りからのどんな罵詈騒音にも耐え宗主としてその地位に着いたままできる限り のことをします。しかし、神凪家を取り潰すべきと言うならばその覚悟もあります」

 

宗主としての立場を考えたら辞め ろと言われても文句を言うことはできない。しかし今自分が辞めてしまったら神凪は再び同じことを繰り返すことになるのは目に見えて明らかである。

 

神凪を存続させるならば自分は宗 主の立場から降りることはあってはならない。

 

だが神凪家を潰すべき言うならば それに対しての覚悟を重悟は既に持っていた。そして一族のその後のことも考えている。

 

重悟は頭を下げ、師である源氏の 言葉を待った。

 

「神凪は潰させん。そしてお前の 言う通りお前は宗主の立場から降りるべきではない。お前が降りれば頼道が何をしでかすか分らん。それこそ神凪はつぶれ術者達へ与える混乱は大きくなる」

 

今回の事件の間どこに逃げていた のか、戻ってきたと思ったら再び好き勝手をし始めようとする頼道を重悟は宗主の権限で押さえ込んだ。

 

もしそれがなくなればそれこそ頼 道の行動は歯止めが効かなくなるだろう。そして周囲の混乱も・・・・・・

 

「宗主としてその身を削れ、重 悟。それが今回の事件に対するお前の責任だ」

 

「はっ! 申し訳ありません」

 

重悟は深々と頭を下げ心から謝罪 した。

 

「それで和樹君達は・・・」

 

「今日には退院のようじゃ」

 

「もう退院ですか? 和樹君は3 日も眠ったままだったと聞きましたが・・・」

 

「傷は紅尉と蘭が治療した。回復 はしたようじゃが、精神面はまだ不安定と聞いている。和樹もまだ高校生だ。どれだけ力があろうと、どれだけ修羅場を潜ってきたといってもな・・・・・・和 樹はまだ16年しか生きとらん」

 

「・・・・・・そんな和樹君に私 は頼り切ってしまった。情けなくて何も言えません」

 

「和樹は自分で決めて行動したの じゃ、お前を恨んでおらん。もしお前が自分のことを恥じるならば、それを消す行動をすることじゃ」

 

「はい」

 

重悟は源氏の言葉に深々と頭を下 げて答えた。

 

 

 

 

 

 

 

「もう病院食なってごめんだ。さ あ、これから食べ放題の店に行くよ!!」

 

病院のベットの上ではレオンが 『食・我が命!』と書かれた鉢巻が巻かれている。

 

「ああ、中華にしようか、それと も洋食か!!」

 

「・・・・・・ああ、何でこいつ と同じ病室何だか?」

 

その隣のベットでは呆れきった顔 でレオンを見るカイの姿があった。

 

病院に運ばれてから5日、紅尉と 式森家の関係者が経営の柱となっている病院に和樹達は運び込まれそのまま入院していた。

 

入院しているのは和樹、和麻、千 早、レオン、カイ、凛、沙弓である。ちなみに綾乃と煉は疲労の色は強かったが怪我も軽く入院するまでにはいたらなかったのであった。

 

部屋は傷の酷かった和樹、和麻が それぞれ一部屋ずつ与えられ、そしてレオンとカイ、千早と凛と沙弓が同じ部屋に入っていた。

 

「ねぇ・・・カイ、もうお菓子な いの?」

 

「・・・・・・あのなっ!! お 前が全部食ったんだろうが、僕の分まで全部!! しかも病院食おかわりするなんて聞いたことないぞ!!!」

 

「あんな量じゃ僕の腹は満たされ ないし、傷も回復しない!!」

 

(・・・・入院させないで食べ物 好きなだけ食わせとけばよかったんじゃないか? どっかの電気男みたいに・・・)

 

カイは入院してからの5日を思い 出してから毎日疲れだけが溜まったと思った。

 

目覚めてからのレオンの食欲は異 常の一言である。病院食はおかわりしまくるわ、見舞いに来た人が持ってきた物が食べ物だと分ったらその日のうちにレオンの胃袋に消えた。

 

レオンが喰い放題マップと睨めっ こをしていると病室の扉が開かれた。

 

「よっ、どうだ、調子は?」

 

「ちょっとした疲労が残ってい る」

 

「ムムム・・・この店はいいな」

 

「売店でメロンパン買ってきて やったぞ」

 

「メロンパン!!!」

 

「お前はまず俺に反応し ろ!!!」

 

「フムギュッ!」

 

病室にやってきた和麻は左手にぶ ら下げている袋に飛びつこうとしたレオンを足裏で止めて睨みつけた。

 

「失礼します」

 

和麻の後ろから続いて入ってきた のは既に回復しきった煉であった。

 

「煉、調子はどうだ」

 

「あっ、もう大丈夫です」

 

「メロンパン、よこせっ!!!」

 

「じゃがしい!! もうお前の分 は渡しただろうが!!!」

 

「・・・・・・」

 

「・・・・・・止めなくていいん ですか?」

 

「ほっとけ、付き合いきれない。 下手に介入して退院が延びるのはごめんだ」

 

命がけのメロンパン争奪戦 を・・・・・・とてもパンのためだけの戦いには見えないが・・・・・・見学しながらカイと煉は自分達の分のメロンパンを口へと運ぶ。

 

「千早姉様達も今日退院できるん ですね」

 

「まあ、あれだけの怪我をして5 日で退院できるんだから紅尉と蘭には感謝しないとな」

 

「でも蘭さんって凄いですね。あ んな凄い力を持っているなんて。僕の怪我も2日で完全に治しちゃうなんて」

 

「あれでも昔はあの力を周りから 変な目で見られて誰とも交流を持とうとしなかったらしいけど、中学の時和樹と千早のクラスに転校して2人と会って自分は救われたって言ってたな」

 

「あっ、僕も話し聞きました。治 療してもらっている時に話す機会があったんで」

 

煉はそのときのことを思い出しな がら言った。優しい声で自分と話をする蘭はとても生き生きして今を楽しんでいるように思えた。

 

「ホント凄すぎです。みんな」

 

煉は和樹の周りにいる人達を見て 心からそう思った。

 

「千早達は?」

 

「姉様も加わって4人で話をして ると思います」

 

その頃千早達の病室で は・・・・・・

 

「でも本当に凄いわね」

 

「私も最初は同じように驚きまし た」

 

4人はそれぞれ今回のことを振り 返りながら思い思いに話をしていた。

 

「八剱士は実を言うとJ達が勝手 に作ちゃったのよね」

 

「式森君はそういうの嫌がるから ね」

 

「でも八剱士って8人いるんで しょ? Jに法眼さん、銀にマオさん、蘭さん、ヴィンセント・・・・・・あと2人は?」

 

綾乃の疑問に千早が答える。

 

「最初はレオンとあともう1人、 小夜(さよ)ちゃんがメンバーになっていたんだけどレオンがそこから抜けたから今は小夜ちゃんも含めて7人なのよ」

 

「千早はメンバーに入らないでJ がレオンをリーダーにしたんだけど、カイが来てからはレオンとカイはコンビ組んで弁慶になってもらうってね」

 

「弁慶?」

 

「源義経に仕えていた坊主で、最 後まで義経のために命を尽くしたもっとも強い人物よ。和樹君を義経に例えてそうJが言ったのよね。『双式の神獣 RCX(アシックス)』なんてコンビ名 作っちゃったしね。ちなみに千早は静御前役だって」

 

「確かに式森が義経なら山瀬先輩 は静御前でぴったりですね」

 

「なるほど確かにあの2人の和樹 君への忠誠心を見ると弁慶って言われるとぴったりね。でもコンビ名って・・・・・・」

 

「『双』は2人、『式』は式森家 の『式』、『神獣』はそのままの意味。『RCX(アシックス)』はREON(レオン)の『R』でCAIの『C』、Xは未知、無限の可能性って意味で式森君 の魔力を意味して『X』にしたの。まあ式森君とあの2人が好きなバンド名からとったっているのもあるんだけどね」

 

綾乃の疑問に沙弓が答える。

 

「今はJが八剱士のリーダーに なってるけど、みんな個性的だからね。レオン、カイ、ヴィンセントが事実上纏めてるわね。まあ年の功ってやつ」

 

沙弓がメンバーを思い浮かべなが らしみじみと呟いた。

 

「・・・・・・それで、千早ちゃ ん聞きたいんだけど・・・」

 

「何?」

 

「煉にあのとき力を貸していた炎 の子・・・アオイっていったかしらあの子って一体何なの?」

 

綾乃の言葉を聞いて3人は顔を下 げて気まずそうな顔をした。

 

「あっ・・・ご、ごめん。ちょっ と何となく気になったから・・・別にいいの・・・・・・」

 

それに気付いた綾乃は自分が不味 いことを言ってしまったと思い話題を変える。

 

「綾乃さん、そのことは式森の前 では決して言わないで下さい」

 

「・・・・・・分ったわ」

 

凛に言われて綾乃は何も言い返さ ずに答えた。

 

「千早、式森君の様子はどうな の?」

 

沙弓は入院してから一度も顔を見 ていない和樹のことを千早へと聞く。あの事件のあと和樹の顔を合わせたのは千早と紅尉、蘭、そして源氏と源蔵だけであった。

 

他は誰も和樹の顔を見ていない。

 

だが話によると目覚めたと気の和 樹は別人のようであったと全員が聞いていた。

 

「・・・・・・とりあえず、蘭 ちゃんと紅尉先生ががんばってくれたから怪我は全部回復したわ。でも・・・・またあのときのこと・・・・」

 

「そう・・・思い出しちゃっ た・・・と言うより自分を苦しめ始めた・・・・・・」

 

沙弓は千早の言葉を聞いてそれ以 上のことは聞こうとしなかった。凛も綾乃も・・・・・・

 

「・・・・・・ちょっと出てくる わね」

 

そう言うと千早は病室を出て行っ た。

 

「式森君を助けられるのは千早だ けね」

 

「そうですね」

 

「凄いわね、千早ちゃんは」

 

3人は心のそこからそう思って疑 わないのであった。

 

 

 

 

 

 

 

空は雲一つなく病院の屋上には風 の音だけが静に響き渡るだけで他には何の音もなかった。

 

そして屋上にあるベンチに和樹は 寝そべり空を眺めていた。

 

傷は全て紅尉と蘭のおかげで回復 した。

 

だが和樹にとってはどうでもよ かった。和樹の身体は無限の魔力を使いこなせるようになった時から他の人よりも回復力が上がっていた。

 

どんな怪我でも普通の人の3分の 1の時間で和樹は傷を回復することができるのである。

 

だが今回の傷は紅尉と蘭が緊急手 術をしなければ何らかの後遺症が残ることになっていただろう。だから2人にはとても感謝している。

 

「くそっ・・・・僕は一体何をし ていたんだ!?」

 

5日経つが何も思い出せない。風 牙神を斃したところまでは完全に覚えている。そしてそのあと蒐斗が現れたあと頭の中が真っ白になりそのあとのことは覚えていない。どれだけ思い出そうとし ても・・・・・・

 

「・・・・・・・・・」

 

『・・・何を考えているの?』

 

「・・・・・・弱いなって思って さ・・・」

 

起き上がった和樹の背中から蒼炎 の翼が現れそこからアオイが姿を現した。

 

「結局僕は口だけだ。みんなに大 丈夫だって言っておきながら自分を押さえきることができなかった。君を・・・・・助けることができなかったあのときから・・・・・・何も・・・何も成長し ていない、何も変わっていない・・・・・・」

 

『・・・・・・・・・』

 

アオイはどう言い返していいのか 分らず無言で和樹の前に佇んだ。

 

「・・・・・・和樹君」

 

『千早ちゃん』

 

「・・・・・・千早」

 

屋上の扉が開かれるとそこから千 早が入ってきた。

 

「・・・・・・おかしいよね」

 

「・・・・・・」

 

『・・・・・・』

 

和樹の言葉を2人は何を言わずに 唯聞く。

 

「蒐斗を見た瞬間、何もかも分ら なくなった。怒りだけが先走って何も考えることができなかったんだ」

 

「和樹君」

 

『カズちゃん』

 

和樹は拳を強く握り締める。手の 皮を突き破り拳からは血が流れ出した。

 

「・・・・・・過去にとらわれて 何も見えなくなって自分の感情をコントロールできなくなる。蒐斗を見た瞬間まるで別の僕が出てくるかのように・・・・」

 

「・・・でも、それは誰でも言え ること」

 

「千早・・・」

 

「あたしも蒐斗を見た瞬間憎くて 憎くて仕方がなかったわ。エリスがいたせいで冷静さを取り戻したけど気持ちは和樹君と同じだったわ」

 

『私も同じよ。カズちゃん』

 

「アオイ・・・」

 

和樹は2人を見ながら何を言った らいいのか分らないような顔をしていた。

 

「1人で答えを出そうとしない で、和樹君」

 

『私達はずっと側にいるか ら・・・・・・どんな時でも』

 

「だから無理しないでね。あたし 達の前くらいでは辛い顔してもいいから」

 

「・・・・・・くっ・・・・」

 

和樹は下を向き泣くのを我慢する かのように歯を食い縛っていたが、一つまた一つと涙が地面へと落ちていった。

 

「大丈夫、和樹君は1人じゃない から」

 

「あっ・・あああああ あぁぁぁぁ・・・・」

 

和樹は堰を切ったように声を上げ て泣き出した。千早はそんな和樹の体を優しく抱きしめる。

 

和樹は千早の胸に顔を埋めて泣き 続けた。

 

千早は思った。幼児のように声を 上げて泣きじゃくる和樹を見て・・・・・・

 

みんな和樹のことを凄い、万能の ような目で見ることが多いがそれは和樹が作っているのだと・・・・

 

魔法回数7回のどうしようもない 式森和樹としての和樹。

 

無限の魔力を持ち、黒炎の精霊王 と契約した誰にも負けない何事にも動じたりしない完璧な式森和樹。

 

だがどちらも本当の和樹をさらけ 出していない。

 

本当の和樹は誰よりも優しく、そ して誰よりも傷つきやすい、弱い人間なのだ。

 

強がって見せているけど千早はす ぐに気付いてしまう。自分が生まれた時からいつも側にいたのだから・・・・・・

 

(絶対に1人に何てしないから ね)

 

千早は顔を上げてアオイと視線を 合わせる。

 

そして2人は心に決めた。絶対に 和樹を護ると・・・・・・

 

例えそれが世界を敵にすることに なろうと・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

数時間後

 

和樹達は退院となった。だがまだ やることがある。そしてそれは和樹にしかできないことであった。

 

病院の一室・・・・

 

「紅尉先生」

 

「式森君か」

 

入ってきた和樹に紅尉はそちらを 向く。

 

「準備は整っている。翠鈴っと 言ったな、彼女も今空港について今式森家に向かっていると連絡が入った。後は君の体調次第だ」

 

「・・・大丈夫です準備を続けて ください」

 

「わかった。言われたとおりの部 屋で変更はないな」

 

「はい」

 

「では準備を整えてお く・・・・・・もう一度聞いておくが・・・・・・本当に大丈夫なんだな」

 

「泣くだけ泣きましたからすっき りしました。後は前に進むだけです」

 

和樹はそう言うと紅尉との最終調 整を終え部屋を出て待合室へと向かった。

 

そこには千早と和麻が待ってい た。

 

「和樹・・・本当に大丈夫なの か? 無理する必要はないぞ。俺は4年間待ったんだ、あと数日や一週間なんてどうってことはない」

 

「大丈夫だよ。翠鈴さんが式森家 に着き次第呪いを解く・・・・・・でみんなはどこ行ったわけ?」

 

「レオンのおごりで食べ放題に出 かけたわ」

 

「やたら綾乃が乗り気だったな」

 

余談だがその日、レオン達は食べ 放題の店二店もはしごしたらしい。ちなみに二店目に行った理由は一店目の食材が全てなくなったからである。

 

「話はしてきたの?」

 

「ああ。お見送りしてきたぞ」

 

「・・・・・・えっ?」

 

「・・・お・・・おみ・・・おく り」

 

「あとシクラメンの鉢植えと椿と チューリップ、ユリの花持って行ってやった。ストック、スイセン、フリージアが無かったから残念だったな。あとケーキ置いてきたぞ」

 

「・・・・・・・・・そこまです る普通?」

 

「・・・・・・いや、しないと思 う・・・・」

 

和麻のしたことに和樹と千早は呆 気に取られた。

 

ちなみに和麻が話をしてきたのは この病院に入院している勘当されながらも元は父であった厳馬である。

 

蘭ならば1日あれば普通の生活が できることが可能まで回復させることができるが、重悟からこれを機会に休養するように言われ今も入院中であった。

 

そして同じ病院内なのだから『話 くらいはしてきたら』と千早に言われ今回の報告もかねて顔を出しに行ったのだ。

 

だが持っていったものが悪過ぎ る。

 

「『死』『暗い』『苦』・・・ 『根つく=寝つく』『首落ちる』・・・・・・レオンならばともかく普通の人にとっては『食生活の乱れ』・・・・・・」

 

「嫌味どころか、悪意を感じる ね」

 

シクラメンは『死』『暗い』 『苦』を連想させ、鉢植えは『根つく=寝つく』、椿とチューリップ、ユリの花は『首落ちる』を思わせるものである。さらに生菓子は日持ちしないもので入院 患者にとっては食生活を乱してしまい、レオン以外には持って行ってはなけないものと言えるだろう。

 

お見舞いのタブーというタブーを 犯すとは・・・・・・・しかもお見送りとは・・・・・・・

 

『悪魔(だ)(ね)・・・』

 

「さて、家のほうに向かうとする か!」

 

そう言うと意気揚々と歩き出し た。

 

「はぁ・・・」

 

「行こうか?」

 

「そうね」

 

ため息を付きつつ和樹と千早も和 麻の後に続いたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

ちなみに数時間前の和麻と厳馬

 

「うぃ〜すっ。お見送りに来て やったぜ」

 

「・・・・馬鹿もんが私はまだ死 なんぞ」

 

「1人じゃ起き上がることもでき ねぇ癖に何ってやがるんだ」

 

「・・・誰のせいだ?」

 

「はぁ〜、自分のせいだろ。自分 で行動した結果なんだからな」

 

「・・・むっ・・・」

 

厳馬は和麻から一言に何も言い返 せなくなった。確かに自分で行動した結果こうなった。

 

例え和麻が自分へおわせた傷で あったとしても・・・

 

「報告は受けてると思うがとりあ えず一件落着したぜ。まあ、全てが元の鞘に収まったとは言えねぇけどな」

 

「宗主から報告は受けた。お前ら には感謝してもし尽くせないと聞いている」

 

「確かに、いくら感謝されてもし 尽くせないだろうな。とくに和樹達にはな」

 

ベットの上で横になったままの厳 馬と話をする和麻。その顔には厳馬に対する恐怖も何もない。

 

以前は意識的に厳馬と話をするこ とを避けていたが今はどうだ、対等な立場で臆することなく平然と会話をしている自分がいた。

 

「ほらよ。部屋にでも飾ってお け、あとこれは茶菓子だ」

 

「・・・・・・・・・・・・和 麻、これは天然か・・・それとも嫌味か・・・悪意か・・・?」

 

「さあな」

 

部屋に飾られる花、そして茶菓子 に厳馬は怒る気も失せた。さらには両手がふさがっている相手に食べ物をもて来るとは・・・・・・

 

「そんじゃ、俺はこれで」

 

「和麻」

 

「何だ?」

 

「これからお前はどうするの だ?」

 

「・・・・・・とりあえず、日本 にはちょっとした用があってきたから、そのあとは考えてねぇけど。自分の居場所くらい自分で決める」

 

和樹のおかげで日本に来た目的は 果たせる。その後はどうにでもなる。源氏の下で再び修行を積むのもいいだろうし、術者としての仕事も回してもらえる。自分のコネを使っても何とかなる。

 

「それじゃな」

 

そう言うと和麻は病室から出て 行った。

 

それも窓から・・・・・・

 

「・・・・・・これも嫌味 か・・・・・・」

 

開けっ放しの窓から風が入ってく る。今は心地よいがすぐにそれが寒さに変わるのは分りきっているはずだ。

 

「開けたら閉めろ、馬鹿が!」

 

動かない身体、一体どう窓を閉め ようか・・・・・・重悟ならば『気』を使い、窓を閉めることができる。不本意だが和麻もそれをすることができたのを覚えている。

 

だが自分は気を使い、窓を閉める ことはできない。

 

風邪をひくまで我慢するか、それ ともすぐ側に動かなくても押せるように備え付けられたナースボタンを押すか・・・・・・

 

こんなことなら重悟から『気』の 使い方を学んでおくべきだったと厳馬は後悔するのであった。

 

 

 

 

 

 

 

式森家に着いた和麻は呪を解くた めに用意された部屋の中で翠鈴と対面した。

 

翠鈴は床に寝かされそれを囲むよ うに燭台が置かれ蝋燭が立てられている。そしてその床には陰陽道の五行相剋図のようなものが床に描かれていた。

 

「・・・・・・翠鈴」

 

やっと助けられる。

 

やっと先の見えない闇の中から翠 鈴を救うことができる。

 

和麻は首にかけられているロケッ トに強く握り締めた。そしてロケットを開くとそこには笑顔の翠鈴が自分を見ていた。

 

眠ったままの翠鈴の首にも和麻と 同じロケットがかけられている。和麻は翠鈴のロケットに手を伸ばし、蓋を開くとそこには自分が映っていた。

 

「・・・お兄ちゃん」

 

「千早」

 

部屋の扉が開かれると巫女の服を 着た千早が手に筆と硯箱を手に持った千早が入ってきていた。

 

「そろそろ始めるわ」

 

「頼む」

 

千早は翠鈴の着せられている白衣 (白い浴衣見たいな物)を脱がせると筆を執りその身体に呪の梵字と五芒星を書き始めた。

 

「それは陰陽術の・・・・・・」

 

「ええ、黒炎をただ使うだけで呪 を解くことは難しくてまだ完全に使いこなせていないからリスクも大きいの。それに聖痕を発動した状態のお兄ちゃんが呪を解けないなら、おそらくそのまま やっても解くことはできないだろうから力を上げるために合わせ技で呪を解くって」

 

千早が筆を置くと陰陽師のような 服装をした和樹が入ってきた。

 

「2人とも下がっていて」

 

2人が下がったのを確認すると和 樹は翠鈴の周りに立てられている蝋燭へ手を翳し火をつけた。それは和樹にしか使うことのできない漆黒の炎、黒炎。

 

そして手にした扇を広げるとゆっ くりとその周りを扇ぎながら歩き出す。

 

「アメツチニ キユラカス サユ ラカス カミノミイブキ アメノミアラシ ツチノマクシキ キユラカス」

 

呪を唱えながら黒炎を翠鈴の身体 へと送っていく。黒炎は翠鈴の身体へと吸い込まれていき翠鈴の呪いの下を焼き尽くそうとする。

 

和樹は呪を唱え途切れることなく 黒炎を送り続ける。さらに蝋燭の黒炎はそれぞれつながり翠鈴の上で五芒星を描き出した。

 

「アメツチニ キユラカス サユ ラカス カミノミイブキ・・・・・・千早、刀を用意して」

 

千早は和樹に言われると用意され ていた刀を鞘から抜いて構えた。

 

「・・・・・・風蹴魔 陽邪歴  討昇花(フウシュウマ ヨウジャクレキ トウショウカ)・・・・・・」

 

和樹はそれを見ると扇を閉じ口元 へ当てると今までとは別の呪を唱え始めた。

 

すると翠鈴の口から黒い煙が立ち 上がり始め、和樹の呪に対応するように出入りを繰り返す。

 

それを見た和樹はさらに強い口調 で呪を唱え始める。さらに黒炎にある変化が生まれる。

 

「黄金の炎・・・いや違う」

 

「・・・和樹君の魔力・・・魔力 を黒炎に混ぜているのね」

 

黒炎の中に入る黄金の魔力は黒炎 の力をさらに強力なものとする。

 

そして和樹の瞳の色が黄金に変 わった。

 

「風魔天帰(フウマテンキ)!」

 

次の瞬間、翠鈴の口から強い光と ともに何かが吐き出される。

 

吐き出されたものは結界の張られ た部屋から出ることができずに部屋の中で荒れ狂った。

 

「千早、斬るんだ!!」

 

和樹は呪を唱えながら千早へと叫 ぶ。

 

千早は飛び出してきた呪いの元の 強さから刀を棄て、雪姫を手にすると呪いの元へと斬りかかった。

 

ガキッ!!

 

「くっ!」

 

雪姫の刀身と正面からぶつかり合 う黒い煙から作り出された呪いの正体は髑髏の顔をしていた。

 

浄化の水を纏った雪姫と正面から ぶつかり合いながらもその力はまだ強力なものであった。

 

(押し負ける!!)

 

じりじりと千早は押されていく、 だがその千早に強力な助けが入った。

 

「はぁっ!」

 

和麻は聖痕を発動し千早の投げ捨 てた刀に蒼い風を纏わせると光り輝く刀身を髑髏の姿をした煙へと振り下した。

 

グオオオオオォォォォッッ!!!

 

髑髏は蒼い風に斬られ唸り声を上 げて苦しみもがく。

 

「氷縛、今よ!」

 

「兄さん!」

 

「ああ!!」

 

髑髏が氷に包まれ動きを封じられ ると和樹と和麻は黒炎と蒼い風を髑髏へと放った。巨大な炎と風の柱が張られていた結界を破ると天井を突き破り空へと上った。

 

そして黒炎と蒼い風に焼かれた呪 いの髑髏は2人のコントラクターの力を受け完全に消滅した。

 

黒炎と蒼い風の柱が消える。

 

3人は荒い息を整えながら呪いの 気配が完全に消えたのを確認した。

 

「・・・・・・やったのか?」

 

「大丈夫、呪いは完全に消し去る ことができた」

 

「もう大丈夫よ」

 

和麻は床に寝かされている翠鈴の 横に膝をついた。

 

千早が書いた呪の梵字と五芒星は 呪を解いたことで力を使いきったのか全て消えていた。

 

「翠鈴・・・翠鈴!」

 

和麻は翠鈴を抱き起こすと名前を 呼ぶ。

 

「目を覚ませ、翠鈴!」

 

翠鈴から聞こえる規則正しい呼 吸、そして一定の感覚で動く心臓。だが目を覚まさない。

 

「頼む・・・・・・目を開けてく れ・・・・・・翠鈴!」

 

和麻は翠鈴の手を握り締める。そ して翠鈴が自分の手を握り返してくるのを待った。

 

そしてそれはすぐに訪れた。

 

微かに指が動いたと思った次の瞬 間、和麻の手を翠鈴の手が握り返してきた。

 

「翠鈴!」

 

「ぁ・・・・・・・・・ま・・・・・・か・・・ずま・・・・・・」

 

「翠鈴!!」

 

ゆっくりと動く翠鈴の唇から和麻 の名が呼ばれた。

 

そして閉じられていた目が、ゆっ くりと開かれた。

 

「か・・・ずま」

 

「翠鈴!」

 

翠鈴の瞳が和麻を映し出した。碧 色の澄んだ瞳が和麻の顔をしっかりと見ている。

 

「よかった・・・本当 に・・・・・・」

 

和麻の目から一滴の雫が落ち、翠 鈴の頬を濡らした。そして和麻はそれを隠すように彼女を強く抱きしめた。

 

「和麻・・・泣いてる の・・・・・・」

 

和麻は答えず翠鈴をさらに強く抱 きしめた。

 

間違いない、今自分の腕の中には 翠鈴がいる。自分の名前を呼んでくれている。自分はこのために今まで過ごしてきた。そして今それは現実のものとなった。

 

翠鈴はその瞳に自分を映して自分 の名を呼んでくれている。そのことだけで和麻は嬉しくてしかたがなかった。

 

「わ・・たし・・・・・・何が あったんだっけ・・・ここは・・・・・・和麻はどうして泣いてるの?」

 

「嬉しいからかな・・・・・・お 前とまたこうして話せるのが・・・・・・」

 

和麻は翠鈴を抱きしめるのを止め ると正面から彼女の瞳と視線を合わせた。

 

「すまなかった・・・・・・俺は お前を護ることができなかった・・・・・・」

 

謝罪の言葉を述べた和麻の頬に翠 鈴の手がふわりと触れ涙の線をゆっくりとなぞる。そして満面の笑みを浮べた。その微笑みは和麻が4年間ずっと待っていた微笑であった。

 

「いいの・・・私はまたあなたと こうして話しができている。夢の中じゃなくて本当の和麻と話ができている。あなたは私に明日をくれたわ。だからもう泣かないで・・・・・・和麻には涙なん か似合わないわ」

 

「翠鈴・・・」

 

翠鈴の一つ一つの言葉が和麻の心 を癒していく。今までの苦しみを全てその声とその微笑が綺麗に消し去ってくれた。

 

傷だらけになっていた自分の心の 中に・・・・・・穴の開いていた心を全て綺麗に入ってきて心の穴を塞いでくれた。

 

「ありがとう・・・・・・戻って きてくれて本当にありがとう」

 

そして和麻は再び翠鈴を強く抱き しめた。

 

だが翠鈴がそれを恥ずかしそうに していることに気がつく。

 

「・・・・・あの和麻・・・今、 私凄く恥ずかしいんだけど」

 

「・・・・・・・・・・・・・・・ あっ・・・」

 

和麻は思い出した。そして自分の 手から感じる人の肌の感触がそれを確信へと変える。翠鈴は今呪いを解いたままの姿である。つまりその身には何も纏っていない生まれたままの姿・・・・・・ 一言で言うなら裸であった。

 

「あ、いや、なんだ・・・・・・ その・・・」

 

「・・・和麻」

 

「はい」

 

パシッ!!

 

名前を呼ばれた瞬間和麻の背中を 氷のような汗が流れた。条件反射で返事をして視線を合わせる。翠鈴の澄んだ瞳が自分を見ていた・・・

 

満面の笑みで・・・

 

とても懐かしい笑みであったがそ の表情から感じるこれまた懐かしい危機感。そしてそれはすぐに痛みとなって自分を襲った。とてもいい音がしたなと和麻は後から思い出すのであった。

 

「・・・・・・なんか懐かしくて 凄く嬉しいけど・・・・・・やっぱり痛い」

 

「痛いのは当たり前でしょ、振り 抜かないで上げただけ私の優しさを感じなさい」

 

「はい、ありがとうございます」

 

和麻の頬から翠鈴の手が離れると そこには綺麗な彼女の手形が付けられていた。

 

(そう言えば2人は・・・)

 

和麻が後ろを振り返ると和樹は後 ろを向き身体を光に包んでいた。どうやら魔法を使って体力を回復しているようである。

 

「どうぞこれを着てください」

 

千早が浴衣の形の白衣を翠鈴へと 羽織らせていた。

 

「あ、ありがとう」

 

翠鈴は千早が羽織らせてくれた白 衣へと袖を通し千早に帯を結んでもらう。

 

「・・・もしかして、あなたが千 早ちゃん?」

 

「はい、初めまして、山瀬千早で す。和樹君もういいわよ」

 

和樹は千早に呼ばれて振り返っ た。

 

「あなたが和樹君?」

 

「はい、初めまして式森和樹で す」

 

「2人とも和麻からよく話を聞か されているわ。羨ましいくらいに仲が良い夫婦だって」

 

「・・・・・・兄さん」

 

「一体何を話したのかな?」

 

「あっ・・・まあ噂に尾びれ は・・・」

 

「噂じゃないでしょ!」

 

「まあ、仲良っていうのは本当の ことだし」

 

再び冷や汗を流しながら和麻は誤 魔化すのであった。

 

「とりあえず、部屋を変えよう ぜ。翠鈴、立てるか?」

 

「多分・・・・あっ・・・あ れ・・・・」

 

翠鈴は立ち上がろうとするがバラ ンスがうまくとることができず立ち上がることができない。和麻が彼女を支えて立ち上がらせるが支えがなければ1人で立つことができないようである。

 

「どうした、何かおかしなところ でも・・・」

 

「何か・・・体に力がうまく入ら ない・・・」

 

「もしかして後遺症が残ったの か?」

 

「わからない。でも大丈夫よ。こ うして和麻に会えただけでも私は幸せだから」

 

「でも俺はお前がこれから後遺症 を持ったままでいるなんて」

 

「いいの、例え後遺症が残ったと しても和麻の側にこれからいられれば、いさせてくれるだけでいいの」

 

「いさせてくれるって、俺はお前 を離す気なんて全くないからな。お前が離れたいって言っても俺は二度とお前を離さない。絶対に!!」

 

「嬉しい、和麻! 私も同じ気持 ちよ!」

 

「翠鈴!」

 

2人の世界に旅立ち、抱きしめ合 う和麻と翠鈴。

 

とても・・・

 

 

 

 

 

甘ぁ〜〜〜い♡

 

 

 

 

 

・・・光景である。

 

それを見ていた和樹と千早はどう 声をかけていいのか困りながら自分達のことを考えて見た。

 

(ああ・・・バカップルってこう いういうことをいうんだな)

 

(初めて見たわ。これが2人だけ の世界って言うのね)

 

もしここにレオン達がいて和樹と 千早の心の呟きを聞いたら何と言っただろうか・・・・・・

 

おそらく声をそろえてこう言った だろう。

 

『人のこと言えないだろうが!!  自分達の行いを考えてから言え!!』と・・・・

 

さすがにこのまま見ているだけに もいかないので声をかけることにした。

 

「あぁ〜兄さん、ちょっといいか な」

 

「翠鈴さんも」

 

「・・・・・・あっ・・・すまな い」

 

「ご、ごめんなさい」

 

和麻と翠鈴は2人がいたことを思 い出して顔を紅く染めた。

 

「多分、翠鈴さんの体が動かない のは呪いの影響とずっと体を動かしていなかったせいで筋力が完全に落ちているのが原因だと思う」

 

「なるほどな」

 

「和樹君何とかできる?」

 

「もちろん、ただ筋力のほうは無 理に元に戻すと後々影響が残るだろうから一時的に軽く動ける程度に留めておくよ」

 

「なら和樹、頼めるか。ただ無理 はするなよ」

 

「わかってるよ」

 

和樹は右手を翠鈴の額へと手を当 てると魔力を翠鈴の身体へと流す。

 

黄金色の魔力が翠鈴の体を包み込 むと和樹は左手を翠鈴の身体の前へかざしゆっくりと後ろへ退いた。すると翠鈴の胸の辺りから残っていた呪いであろう黒い煙が取り出された。

 

「・・・これでもう大丈夫だ」

 

右手を翠鈴の額から離すと魔法で なく黒炎を左手に召喚する。

 

「消え去れ、悪しき呪いよ」

 

左手を握り締め残った呪いは全て 黒炎に焼き尽くされた。

 

「翠鈴、歩けるか?」

 

和麻はゆっくりと彼女の手を取 る。そして翠鈴が歩こうとするのに合わせてゆっくりと後ろに下がる。

 

するとさっきまで歩くどころか自 分で立つことさえままならなかった翠鈴がゆっくりと歩き出すことができた。

 

「歩けた・・・歩けた、歩けた わ、和麻!」

 

「ああ!」

 

「よかったわ、本当に」

 

「和樹、ありがと・・・和樹?」

 

和麻が振り返って和樹を見る。だ が和樹はふらつきながら額に手を当てて何とか立っているという状態で立っていた。

 

「だ、大丈夫・・・ちょっと疲れ ただけだから」

 

「ちょっとってお前、無理した な!」

 

「和樹君」

 

「病み上がりで・・・聖痕発動さ せるなんてやっぱり不味かったかな」

 

和樹は千早に支えてもらいゆっく りと深呼吸をした。

 

「大丈夫なの?」

 

翠鈴は自分を助けるために無理を したのとわかり心配そうに和樹を見た。

 

「大丈夫です。はぁ・・・でも、 初めて聖痕を発動させることができたよ。自分の意志で」

 

「あの黄金色の瞳か?」

 

「今までは発動させようとしたら 自分が自分でなくなるような気がしていたからね。でも今回は自分の意志を保つことができた」

 

「風牙神を倒したとき以上の力を 感じたのはそれでか」

 

和麻は黒炎の力を改めて知らされ た。そしてそれを使いこなした和樹のことも。

 

「本当にありがとうな、和樹、千 早」

 

「ありがとう。2人とも」

 

和麻と翠鈴は和樹と千早に心の底 から感謝した。

 

それに2人は満面の笑みで答える のであった。

 

4人が部屋を出ると外はもう夕方 になり綺麗な夕焼けが4人の目に映った。

 

「それで、お兄ちゃんと翠鈴さん はこれからどうするの?」

 

「これからか・・・・・・翠鈴は どうする?」

 

「そうね。今は何も思いつかない わ。聞きたいこともたくさんあるしね。でも何かとても楽しみなの、これから何がるか分らないけど凄く楽しく感じる」

 

「ああ、そうだな。俺も同じだ」

 

そう言って和麻は翠鈴の肩に手を 回しそっと抱き寄せた。翠鈴も和麻の肩に頭を傾け寄りかかった。

 

そんな2人を見て千早は和樹の顔 を見た。同時に和樹も千早と視線が合う。

 

そして千早も和樹の肩に頭を傾け た。

 

「お兄ちゃんたち幸せになるよ ね」

 

「なるよ。絶対にね」

 

幸せそうな和麻と翠鈴を見て和樹 と千早は微笑みあった。

 

きっと大丈夫だ。2人はこれから どんなことがあろうと幸せなままだと和樹と千早は幸せそうな2人を見ているのであった。

 

戦いは幕を閉じた。

 

ここに来るまで色々なことがあっ たがそれでも自分達は未来をつかみ取った。

 

これから先どんなことが待ってい るのか分らない。

 

決まった未来などない。だが、だ からこそ自分達は未来を作っていくことができる。

 

その未来が幸せなものになるよう に新たな戦いが始まる。

 

それは力だけの戦いではない。

 

幸せな未来になるように願うこ と、望むことも戦いなのだ。

 

運命はまだ動き始めたばかりなの だ。

 

 

 

 

 

 

spirits of DESTINY

第1部 〜動き出す運命〜

         

 

 

 

 

あとがき

レオンでございま〜す! ついに 第1部 終わりで〜す!!

いや〜長かったですがようやく一 部終わることができました。現在第二部が作者の手によって進行中です。新しいキャラクター達が登場しさらにパワーアップいたします。

それでは第1部をここで閉めさせていただき ます!

また会いましょう!!

 

 


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