まぶらほ  無限の魔力

 

 

 

 

出会い編

第一話 無限の始まり

 

 

和樹は懐かしい夢を見ていた。

 

それはまだ幼い子供のころの暑い 夏の夢。

 

まだ自分が力を手にする前のこれ から自分の身に起こることを全く考えもしていなかった頃のことだ。

 

あのときの自分は幼稚園から家に 帰りその後家を飛び出して約束の場所に走っている。いつも遊ぶ公園に自分の大好きな人が待っている公園に向かって。

 

このときに一人の女の子に出会っ た。

 

その女の子は両手を目にあて泣い ていた。和樹は困ってしまった。急いでいたが泣いている女の子をそのまま置いていくことなんてできない。約束には遅れてしまうかもしれないが泣いている子 を放って来たと知ったら絶対に怒るだろう。

 

「どうしたの?」

 

和樹は近寄って優しく声をかけ た。返事は最初返ってこなかった。何度か声を掛け、ようやく女の子は顔を上げた。

 

「誰?」

 

「僕? 僕は世界一の魔法使いだ よ!」

 

「本当?」

 

「本当だよ!」

 

「なら私のお願いかなえてくれ る?」

 

話を聞くとその女の子は、いつも 両親の仕事の都合で引越しを繰り返して、次はもう引っ越さないと言っていたのに、また引っ越すことになったそうだ。

 

「うぅっ・・わたしもうどこにも 行きたくない・・・ずっとここにいて友達も作ったりしたい・・・もう引越しなんかしたくないのに・・・えっく・・・」

 

それからじっと、和樹を見る。

 

「私のお願いかなえてくれる?」

 

「えっ!」

 

和樹は困ってしまった。大抵のこ とはできるがさすがに引越しを止めることはできないからだ。

 

どうしたらいいかと和樹が黙って ると・・・

 

「嘘つきっ! お父さんやお母さ んと一緒だ、いつも・・・いつも私のこと騙して・・・みんな嘘ばっかり! 本当は魔法うまく使えないんでしょ、お父さんたちと一緒で嘘言ってるんで しょっ!!!」

 

また女の子は再び声を上げて泣き 出してしまった。

 

和樹はあわてて他のことだったら 叶えて上げられるといった。

 

だが次に言われたお願いにも和樹 は驚いた。

 

「できる?」

 

和樹が、また困ったような顔をし ていると女の子はまた悲しそうな顔をした。

 

「・・・大丈夫できるよ」

 

「本当!」

 

「うん」

 

「じゃあ、見れたら・・・」

 

女の子はできた時の約束を言っ た。

 

和樹は『別にいいよ』と言った。

 

「今の言葉は大事な人に言ってあ げる言葉だよ」

 

そう言うと手を空にかざした。

 

小さな手から光が空に向かって放 たれた。

 

和樹はそのときに始めて魔法を 使った。

 

生まれて初めての魔法を・・・

 

女の子の願いは一人の少年が起こ せる奇跡を越えたものだったが、いや、大人でも起こすことはできないような願い事だった。

 

それに和樹は生涯魔法回数が八回 だった。

 

だが和樹にはそれが可能だった。

 

自分の中に流れる世界最強の力が あるからだ。

 

もちろんそんなことはこのころの 和樹は知らなかったが・・・

 

和樹が起こした奇跡それは、真夏 に雪を降らせるというものだった。

 

女の子はとても喜んで迎えに来た 親と帰っていった。

 

「世界一の魔法使いさん。約束だ よ」

 

という言葉を残して・・・

 

その後、和樹は思い出したかのよ うに走り始めた。

 

もう一つの・・・自分の大切な人 との約束に向かって・・・

 

 

 

 

 

 

 

ジジジジジジジジジジジ!!

 

バチン!

 

ジリジリジリジリジリジリジリジ リ!!!!

 

バチン!!

 

ピピピピピピピピピピピピピピピ ピピピピピピピ!!!!!!

 

バチン!!!

 

・・・・・・・・・

 

ヒューーーーーー・・・・・・ド スン!!!

 

「ギョ エーーーーーーーー!!!!」

 

目覚ましが三つで起きなかった和 樹が何か落ちる音とともに目覚めた。

 

「レオン、何するんだ!!」

 

「ハロー、目覚まし三つも使って 起きないから起こしてあげたんだけど・・・」

 

和樹の前をパタパタと飛びながら レオンは答えた。

 

確かに目覚まし三つ、それも音量 最大で起きない人はなかなかいないだろう。へたすりゃとなり近所の任まで起すことができる。

 

「だからって腹の上に落ちて起こ すやつがどこにいるんだよ!!!」

 

「火弾当てたほうがよかった?  それとも、電気ショック? 静電気くらいから十万ボルトまでコースは色々だよ。頼めば一億ボルトだって可能ですよ、お客さん」

 

手もみをしながらレオンは和樹へ と言った。

 

「・・・頼む、普通に起こしてく れ」

 

「普通なら目覚ましで起きるけ ど」

 

「・・・・・・・」

 

痛いところを突かれた和樹は何も 言い返せなかった。自分の能力によってこの世に甦らせられた生物に言い負かされてしまった。

 

なぜか和樹はこの生物と物心つい た頃からの幼馴染であり恋人の、山瀬千早にはいつも言い負かされて勝てることがなかった。

 

生物はボールみたいな体系にコウ モリのような耳がついた生き物【デジモンアドベンチャーに出てきたパタモンをイメージ】だった。

 

名前はレオン。

 

レオンはあることかきっかけで和 樹の式神となった、和樹の分身みたいな存在であり自分の心の支えでもある。

 

「第一・・・なんで千早が起して くれないんだ?」

 

いつもなら千早が朝に弱い和樹を 起しに着てくれる。そして朝食も用意してくれている。

 

和樹の朝はそれでスタートするの が当たり前になっているのだ。

 

「言ってたろ、今日は部活の助っ 人頼まれているから朝食だけ用意しておくって。冷蔵庫の中にサンドイッチあるよ」

 

「・・・あっ、そうだっ た・・・」

 

「遅くまで本読んで夜更かしして 忘れてたんでしょ」

 

「本じゃなくてパソコンの調子が 悪かったから調整してたんだよ」

 

「同じだよ。ここまで深い眠りに 入るなんて・・・早く学校行く準備しないと遅れるよ」

 

和樹が時計を見ると走らなければ 一限目に間に合わない時間になっていた。

 

「えっ・・・やばっ!」

 

和樹は布団から飛び出すと急いで 制服を着込んだ。洗面所に行き顔を洗い、軽く髪をセットした。

 

「おっ、千早さすが準備が良 い!」

 

冷蔵庫を開けるとプラスチックの 容器に入ったサンドイッチと飲物が纏めておいてあった。

 

どうやら和樹がギリギリまで寝て いるだろうと見越して準備をしていったようである。

 

「レオン行くよ!」

 

「アイアイさ〜!」

 

レオンは窓の鍵など戸締りを確認 すると扉の所に待つ和樹の肩へと乗った。

 

「玄関の鍵よし」

 

「戸締り完璧!」

 

『出発!』

 

和樹は寮の階段を勢いよく飛び降 り走り出した。

 

鞄は肩に掛けサンドイッチを食べ ながら走っている。

 

「行儀悪いよ、カズ」

 

「気にしない、気にしない」

 

かなりの速さで走っているにもか かわらず和樹は息も切らさずサンドイッチを食べていた。

 

「ちょっとショートカット!」

 

そう言うと和樹は塀に飛び乗っ た。そのまま屋根の上まで跳躍すると屋根伝いに学校へと向かった。

 

「よしこれで間に合うな」

 

「そうだね。そういえば今日って 魔力診断の日だよね」

 

「そういえば・・・」

 

「毎月、毎月、面倒だね。カズだ け別メニューで診断受けるの」

 

和樹の魔力は子供のころのあるこ とがきっかけで本来ならあり得ない数へとなった。そのために和樹は学園の保険医である紅尉晴明に個別で魔力の診断を受けているのである。

 

和樹はこの魔力によって今まで数 え切れないほどの辛い目にあってきた。だが和樹の回りにはいつも自分を支えてくれる人たちに恵まれていた。全ての人がそうであったわけではない。だが自分 を支えてくれる人は心のそこから信頼できる人ばかりであった。

 

和樹はみんなに感謝している。そ してみんなも和樹には感謝している。皆、和樹を最初から助けたわけではない、和樹と出会って皆も変わった。だからこそ皆、和樹のことを支えようとしている のだ。

 

紅尉もそんな中の一人である。

 

「仕方ないよ。そうでもしないと とんでもないことになるし」

 

「まあ確かに・・・もう着くね」

 

時計を見るとこのままなら十分前 には十分つくことができる。

 

だがその途中で和樹は慌てて進路 を変えた。

 

「レオン、鞄お願い!」

 

鞄をレオンへ投げると和樹はすば やい動きで道路へと飛び降りた。

 

そのまま道路へ飛び出すとボール を抱えた小さな女の子を抱きかかえて歩道へと飛んだ。

 

刹那、子供が立っていたところを トラックが通り過ぎていった。

 

「ふぅ・・・ギリギリセーフ」

 

周りでは子供を助けた和樹に拍手 が贈られている。

 

女の子は一瞬何が起こったのかわ からないような顔をしていたが怖くなったのか和樹へとしがみついてきた。

 

「大丈夫だよ」

 

和樹は女の子の頭を優しく撫でて 落ち着くように言った。

 

「めみ!」

 

母親が、気がついたのだろうか慌 てた様子で走ってきた。

 

「ありがとうございます」

 

母親は何度も和樹に頭を下げた。 和樹は女の子の頭を優しく撫でてあげながら『今度は気をつけるんだよ』と言って学校へ向かった。

 

「和樹、鞄」

 

「サンキュー!」

 

上空から降りてきたレオンが和樹 へと鞄を渡した。

 

「遅刻決定だけど良いことした ね」

 

既に一時間目の授業は始まってい た。遅刻は決定である。

 

だがこういう遅刻ならば別にいい と和樹は思っていた。

 

 

 

 

 

 

 

靴を履き替えて教室に向かってい ると保健室の前に明らかに怪しい人がいた。

 

「・・・写真とって見せてあげた ほうがいいかな?」

 

「無駄だと思うよ」

 

しかも今は一時間目の最中であ る。こんな所で一体何をしているのか・・・

 

「仲丸か・・・となるとやってい ることは一つだけだな」

 

「覗きだね」

 

二年B組の癌細胞の核と言って良い要 注意人物的存在である

 

「仲丸、何してるんだ」

 

「おお、我が友、式森か、いいと ころに来たなお前も手伝え!!」

 

「何を手伝うのか分からないけど 断らせてもらうよ」

 

第一友とも思われたくない。

 

「で、授業をサボって一体何をし てるんだ」

 

「ふふふ、良くぞ聞いてくれまし た。これを見ろ!」

 

仲丸は両手の親指と人差し指で四 角を作り内部の様子を映し出し和樹に見せた。

 

だが結界が張ってあるのか空間の 歪みだけが見え他は何も見えなかった。

 

(さすが、紅尉先生良い結界張っ てるね)

 

和樹は紅尉の張った結界に素直に 感心していた。

 

「で、除き防止用のこの結界が張 られたドアが何なんだ?」

 

「いいか聞いて驚くなよ。この中 には三年の風椿玖里子がいる」

 

「・・・・・・・・・」

 

「少しは驚け!」

 

「我儘だな・・・」

 

驚くなと言っておきながらこれ だ。

 

「つまりこの中には生徒会を始め 学校のこと全てに関わりのある実力者がいるということだ。この意味が分かるか、分かるか式森!?」

 

「で?」

 

「くぁぁ〜〜〜〜〜〜〜〜〜鈍い 奴だな! つまり風椿嬢のあられもない姿を手にしてみろ、それをネタに揺すればどうなる? うまくいけばあんなことやこんなことも!!!」

 

「・・・・・・最後のは聞かな かったことにして、とりあえず、犯罪に手を染めるのはやめておけ、それ以上罪を重ねても何にもならないから」

 

「ふざけるな、これは犯罪でな い。交渉だ、神が俺に与えた使命だ!」

 

「・・・・・・随分と都合の良い 神がいるもんだな」

 

和樹がぼそりと言うが既に仲丸は 自分の世界に入り演説を続ける。

 

「これは友好的な取引だ! もし 悪い者がいるならばそれは弱みを握られたものだ! チャンスは自分の手でつかむものだ!」

 

「・・・・・・最後だけはまとも な意見だな」

 

だがそれ以外はとても肯定できる ものではなかった。

 

「いいか、式森。地位と名声と権 力を作ってくれるのは、学力や成績じゃない! 金と魔法を使える回数だ!! 我が学び舎の平均が約八千なのにおまえは何回だ? 一般庶民でさえ二桁だ ぞ!」

 

「七回だよ(表向きは・・・だけ どね)」

 

「七回・・・七回だよなぁ 〜〜〜〜〜。そのお前が学園生活をエンジョイするにはどうすればいいかよく考えろ」

 

「少なくとも犯罪者になってまで エンジョイしようとまで僕は思わない。それに今のままでも十分だよ」

 

「ぬぁんとっ!」

 

和樹の言葉に仲丸はマトリックス 張りに反り返って驚きを示した。

 

顔は隠すことなく和樹を馬鹿にし ている顔である。

 

「熱でもあるのか? いやついに 発狂したか式森! 魔力もない、運動も苦手、趣味もない、勉強もできないお前が楽しんでるわけないだろ!!! こんな鴨が葱背負ってやってきたような話を けるとは、お前はそれでも男か!!?」

 

「少なくとも発狂してるのはお前 だ。それにお前の言う楽しみは僕にとっては全く興味のないものだ」

 

仲丸にしてみれば和樹の言葉は異 常かもしれないが第三者から見ればどちらが正論かといえば明らかである。

 

「ひで〜〜〜」

 

レオンが仲丸の言葉に引いた目で 突っ込んだ。ちなみに学校ではレオンは魔法で姿を消しているため仲丸の目にはまったく映っていない。

 

「悪いけど、石橋は叩いて渡りた いからね。バクチはやらないよ」

 

「見損なったぞ! お前は親友だ と思っていたのに・・・裏切り者!!!」

 

(その言葉・・・お前にだけは絶 対に言われたくないよ)

 

もはや言葉を返すのも馬鹿らしく なってきた。

 

(カズ、早く行こう・・・)

 

レオンがこんなところに居たくな いといった感じで和樹に言った。

 

「なんとでも言って・・・・・・ それと信長が敦盛の舞で言っていただろ。『人間五十年、下天の内をくらぶれば夢幻のごとくなり』自分の命は大切に使ったほうがいいよ」

 

仲丸は和樹の言っている意味が最 初分らなかった。

 

「ふははははは!! 俺は百まで 生きる男だ!!!」

 

和樹の言葉にふんぞり返って高笑 いをする仲丸。だがその笑いもすぐに治まった。

 

「ふっ・・・あんたの命はすぐに 消えるわよ」

 

底冷えするような低い声が仲丸の 背後からかけられた。

 

ギギギギギギギ・・・・

 

仲丸が錆付いた機械のような音を たてゆっくりと後ろを振り返るとそこには般若のごとき形相で仲丸を見下ろす松田和美がいた。仲丸がB組男子の中心人物ならば和美はB組女子の中心人物と いっていい存在である。そして、ことあるごとに二人は対立していた。

 

「ま、松田!」

 

「松田さんおはよう! またねぇ 〜〜」

 

和樹は素早く仲丸から離れる。

 

「あんたって奴は!! 授業エス ケープと覗き行為は、B組協定第三条第七項に違反だって決めたでしょうが!!!」

 

そういいながら両手に光球を出現 させる。見間違いようがないほどに敵意の込められた攻撃魔法である。

 

「黙れ、松田! いつからお前は 権力の犬になったんだ!! 法などすぐに変わる紙の上での約束事だぞ!!!」

 

「『B組協定作ろう』と言ってそ の約束事を作ったのはどこのどいつだ!!! この駄犬がぁぁぁ!!!」

 

「ギャァァァァァァァーーー!!」

 

ドゴン!

 

仲丸が慌てて逃げ出すがすでに遅 し、彼は朝から校舎が元気良く悲鳴を上げることとなった。

 

「待たんかこら!」

 

「待つわけねぇ・・・・・グ ワァァァ!!!」

 

ズドン!

 

「死ねぇ! 死になさい! いっ ぺん地獄を見て、釜で茹でられてきやがれぇ!!」

 

「ぎゃぁぁぁぁぁっっっ!!!」

 

ちなみに悲鳴は五キロはなれたと ころでも聞かれたとのこと・・・さらには周りの民家にも破片が飛んだとか飛ばなかったとか・・・

 

「朝から元気なことはいいことな んだろうけど、あれはちょっとねぇ〜〜」

 

「魔法の無駄使いだよね。ついで に学習能力ゼロ?」

 

和樹とレオンは地獄絵図としか呼 べない光景を目の当たりにしながらそんな感想をつぶやいた。二年B組ではこんなことなど日常茶飯事なので、いつの間にか当たり前の光景になりなんとも思わ なくなってきたが。

 

ガラッ!

 

二人が雑談を続けていると保健室 のドアが開かれた。

 

『ん?』

 

「まったく、またB組の馬鹿 共?」

 

そこから金髪の女性が出てくる。 自分よりも少し背の高い女性であるが、なぜか上半身は下着姿。

 

仲丸が狙っていた三年の風椿玖里 子である。

 

(あちゃ〜、タイミング最悪)

 

(逃げよ〜〜)

 

「同じクラスの馬鹿が失礼しました」

 

そう言うと和樹は一目散に逃げ出 した。

 

(あぁ〜〜・・・朝から無駄な体 力使ったな・・・)

 

(どっと疲れた)

 

朝から迷惑なB組である。

 

 

 

 

あとがきと書いて、『レオンのイ ンフィニティールーム!』

修正版でもあとがきは譲りませ ん。レオンがお送りします!!

あとがきと書いてレオンの『イン フィニティールーム!』では僕のトークとゲストキャラを時々招いて楽しんで以降と思います。

というわけで、『無限の魔力』修 正版がついに封切しました。設定上おかしい点などを修正するため、ついでに、付け足したい設定もあったために書き直したようです。

新たな内容が加わった『無限の魔 力』これからもよろしくお願いします。

レオンでした!! 

 
 
 



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