まぶらほ  無限の魔力

 

 

 

 

出会い編

第六話 目覚め雪

 

 

源蔵が家に着くと直ちに和樹の魔 力の封印が行われた。封印は代々伝えられていていた強力な封印の札を使ったことにより成功した。

 

だが問題はここからである

 

源蔵の他にも、予感していた者達 はいたのだろう。知らせを聞いて式森家の関係者達がただちに集結した。

 

これからの和樹に関しての対応を 考えるためである。

 

源蔵が真ん中に座り、源蔵を含め て十人の人が集まっていた。

 

式森源氏。源蔵の父であり和樹の 曽祖父。式森家最長老、術者達からの信頼がつく術者達の中心人物である。

 

式森ゆり。源氏の妻で源蔵の母。 和樹の曾祖母。

 

式森ひさね。源蔵の妻であり和樹 の祖母。

 

式守健二。源蔵のいとこであり、 術者としての腕も確かなものである。

 

式林久郎。源蔵の弟で主に式森の 事務関係を担当しているが術者として現場でも動くことができる。

 

神那貞伸(カンナ サダノブ)。元、神凪貞伸。炎術師一族の 神凪から追い出され、式森家に仕えている。源氏、源蔵の信頼も厚く、それに応える働きから他の家から式森に入った術者のまとめ役という重要な役割を任され ている。

 

森川透生(トウキ)。術者としての力はそれほど強 くないが、事務面では欠かせない存在。式森家の事務柱と言える存在。

 

その他にも源氏、源蔵の側近とし て仕えている徹山、才蔵の二人が控えていた。この他にも徴集したが家を留守にしていた者もいたためこの人数しか集まらなかった。

 

「さて、どうしたらいいものか」

 

源氏が目をつぶりながら自分に言 うように言う。

 

「源蔵殿、源氏殿。和樹君の具合 を聞いてはよいでしょうか?」

 

貞伸は和樹のことが気になる様子 で言葉を発した。

 

「封印は成功したが、今は落ち着 いているがあの力の強さでは私達でも完全に押さえ込むことは不可能だ」

 

和樹の目覚めてしまった魔力は空 前絶後の力である。

 

和樹は生まれたとき、魔法回数が 極端に少なかった。式森家でも魔法回数が三桁に届かなかったのは和樹が始めてである。

 

そして和樹が生まれ魔法回数を 知ったと同時に一つの言い伝えが源蔵たちの頭を過ぎった。

 

『我が子孫、魔法回数少なき者に 無限の魔力が宿りし』

 

式森家は魔力の力は代々比べるも のが無いといわれるほど強力なものであったが魔法回数が十万にとどく者は片手で数えられるほどであった。だがその分、十万に届いた者は億単位の魔法回数と 強力な魔力を持ち生まれてきた。その中でも特に秀でた回数と魔力を持った者がいた。

 

式森葉賢。

 

魔法回数五百億・・・・・・

 

普通では考えられないほどの力を 秘めた式森家最強と言われる術者である。

 

その葉賢の言い伝えが無限の魔力 であった。

 

和樹は生まれた時から魔力が少な かった。なので、もしやと懸念する者がほとんどであった。

 

だから皆、和樹には魔法を使うな と言っていたのだ。何かの拍子で力が目覚めたときどうすればいいのかその対策をたてるために・・・・・・

 

だが、源蔵たちの考えよりも早く 和樹の力は目覚めてしまった。

 

「まさかここまで早く和樹が魔法 を使ってしまうとは・・・」

 

「あの子には何の罪も無いことだ というのに・・・」

 

「和樹を、哀れんでも仕方が無 い。これからどうするかが問題だ。」

 

葉賢の言い伝えから約五百年、式 森家には三桁に届かなかったのは和樹だけだということをもっと考えておくべきだったと後悔してももう遅い。

 

「源蔵、確か葉賢殿の書物には式 神を生み出したと書かれていたはずだ。それと魔法具を生み出したとも・・・」

 

健二が書物に載っていた対処法を 思い出しながら源蔵へという。

 

「確かにその方法で、そのときは うまくいったと記されている。だが今の和樹は、それでも有り余るほどの魔力を持っている。まるで湧き上がる水のごとくな」

 

無限の魔力、いくら使っても数が 減ることは無い。無限にあるのだから・・・

 

「辛いかもしれんが、魔力を使い こなすようになるしかあるまい」

 

「しかし、父上それは和樹にあま りにも負担になります。ましてや和樹はまだ幼過ぎる」

 

源蔵の気持ちは一同みんな分って いた。

 

源蔵と和樹はほんとに仲のよい祖 父と孫だった。

 

和樹にはこんな辛い思いは一番い してほしくないと思っている人物だろう。

 

だがその気持ちは皆同じである。

 

和樹はこの場にいる誰からも好か れ、和樹もこの場にいる十人を慕っている。

 

皆、和樹が辛い思いをする所など 見たいわけが無いのだ。

 

「何とかならないのでしょうか?  和樹を救う手立ては・・・・」

 

貞伸が源氏へと問いかける。

 

「もちろん色々と方法は尽くすつ もりじゃ・・・・・・じゃが、逃げてばかりもおれんじゃろう」

 

源氏の言葉に皆ただ頷くしかな い。頭では納得できなくても、この事実から目をそらすわけにはいかないのだ。

 

「透生、久郎。お前らには調べて 欲しいことがある」

 

「はっ、何なりと」

 

「任せてください」

 

「母上とひさねは千早ちゃんのこ とをお願いします」

 

「わかりました」

 

「あの子は強い子じゃ。わしらに 任せなさい」

 

そう言うと二人は部屋を出て行っ た。

 

「貞伸、健二は術者のまとめ役と してこれから負担が掛かるかもしれないが」

 

「いいえ、私をこの場に呼んでく ださった御二人の私への信頼を裏切ら無いためにも何なりとお申し付けください」

 

「二人は和樹のことをまず第一 に」

 

「ではすまないが頼む」

 

『はっ!』

 

「徹山、才蔵」

 

『はっ!』

 

「二人にも迷惑をかけるかもしれ ん」

 

「いいえ、私達はなんとも思いま せん」

 

「和樹は私達にとっても大事な子 です、私達の一部と同じです」

 

そういい二人は源蔵と源氏に誓い を立てた。

 

話し合いは終わった。

 

 

 

 

 

 

 

その後色々なことがあった。

 

まず、一番大事になったのは和樹 と千早が大喧嘩をしたことだったりする。

 

大人たちではどうすることもでき ず最終的には丸く収まったが二人が喧嘩をしたことなんて始めてみた周囲は大パニックになった。当人達は知らないが家上げての大騒動になっていたのである。

 

和樹には色々な方法が尽くされ た。

 

源蔵はまず、式森葉賢の残した書 物を和樹に与えた。

 

そして和樹は一体の式神を・・・ 伝説としてしか知られていない神獣この世に甦らせ、その神獣を式神とした。

 

その式神がレオンだ。レオンの本 当の姿を見たのは和樹だけである。

 

他にも、魔法具の作り方を学ばせ た。和樹の魔力をその中に収めるために『変化の木、ヴアルサ・リグナム』を探し出した。その木が残っている場所は限られているがその木でなくては和樹の魔 力を収めることができなかったのである。

 

だがそれだけのことをしても結局 和樹の魔力を抑えることはできず、魔力に耐えられるだけの体を作り上げるしかなかった。

 

物心のついたころから源蔵と一緒 に訓練していた和樹だったが、魔力を抑えるための訓練はさらに地獄だった。

 

何度も逃げ出したくなったが自分 が魔法を使ったことが原因なので、逃げだすことなんてできなかった。それに、自分のために必死になってくれている周りの人たちを裏切ることなんて和樹には できなかった。

 

そして、小学校を卒業するころに なり和樹は自分の魔力を使いこなすことができるようになった。無限の魔力と同等の力を手にして・・・・・・

 

無限の魔力に目覚めて、ついに和 樹は魔力を自分のものとしたのだ。

 

だが一人ではできなかっただろ う。

 

自分の魔力によってこの世に甦っ たレオン、千早、源蔵ら、さまざまな人達の助けが無ければ自分は魔力に喰われ闇の中に堕ちていたであろう。

 

特に、自分の魔力を知っても一緒 にいてくれた千早には感謝している。

 

千早の魔法具は絆の証だ。

 

初めて作った魔法具は自分でも源 蔵達でもなく千早に渡した。

 

その魔法具を受け取ったときの千 早の笑顔は決して忘れることはできないだろう

 

そして源蔵、源氏にも魔法具を渡 した。

 

自分のためにかなり苦労させてし まった。

 

三人はその魔法具をいまだも宝物 として大事に使っている。

 

和樹との絆の証として。

 

和樹は自分のために動いてくれた 人達にも和樹は期待にこたえようとしている。

 

 

 

 

 

 

 

「ふぅ・・・・」

 

一通り話を終えた和樹は小さく息 をついた。

 

(これで何人目だろうか・・・全 てではないにしろ自分の過去について話をしたのは・・・)

 

「これが僕の・・・偽りの式森和 樹でない、本当の式森和樹の秘密です。まあ。これでも一部に過ぎませんけど」

 

三人ともただ無言で和樹の話を聞 いている。

 

「魔力をコントロールできるよう になってからも色々なことはありました。でも魔力に目覚めてからの十二年間、僕は自分の人生を消したいと考えたことはありません。今までのことを否定する ことは僕を否定することになりますから・・・・・・だから僕の今ここにいられるんです」

 

和樹は決して過去を消したいと考 えない。それは自分を支えた人達を裏切ることになるからだ。

 

「ちなみに千早の魔法回数が上 がったのは僕の側にずっといたことと魔法具の影響が強いかららしいです。でもはっきりとした原因はわかっていません。それとレオンの魔法回数は約五十億。 魔力も僕と同じ強さです」

 

そう言うと和樹は軽く息を吐い た。

 

「話はこれで終わりです。帰って ください」

 

和樹の言葉に三人は驚きの声を上 げる。

 

「ちょっとどういう意味よ!?」

 

「最初に言いましたよ。『君達に 関わることはもう二度とないと考えてもらっていい。僕は君達の家のご都合に合わせて動くつもりなんてない』と、もう話すことはないですから」

 

確かに和樹は最初にそう言った。 だがここで三人が引き下がるわけが無い。

 

「帰るわけ無いでしょ! 今の話 であんたにもっと興味が沸いたわ」

 

玖里子は和樹の過去、そして無限 の魔力に興味を持った。何より姉の葉流華が家にも何も言わずに和樹と交流がある。姉が認めた男がどんなものなのか自分の目で見たくなったのだ。

 

「私も、お前の力に興味を持っ た。どれほどの力なのかこの目で見てみたい」

 

凛は和樹の剣術に興味を持ったよ うである。自分を軽くあしらった和樹の力をこの目で見てみたいと思ったのだ。

 

「それは家の命令も含めてって考 えていいの・・・」

 

「家の命令や遺伝子なんておまけ よ。あたし個人として興味が沸いたのよ」

 

「・・・なら、僕は先輩とは交流 を持つ気はありません」

 

和樹は玖里子を睨みつけていっ た。

 

「家のこと遺伝子のことを考えて いる人なんかと僕は交流を持つ気はありません」

 

「ちょっ、ちょっと」

 

「それにあなたは考えが軽すぎ る。僕の話したことを全く聞いていなかったんですか?」

 

「な、何がよ!?」

 

「神城さん君も同じだ。『僕の力 に興味を持った』自分より力のある人なら君は交流を持ってもいいって考えているのか?」

 

「き、貴様!」

 

「か、和樹さん私は違いますか ら!」

 

夕菜が和樹に自分は違うというが 和樹は聞いていない。

 

「先輩、じゃあ聞きますがあなた は僕に子供が生まれたら大魔術師なるって今でも思ってますか? いや、これは神城さんや宮間さんも同じだ」

 

「思っているって、あたしはそう なるって聞いたからここにきたのよ」

 

「私もそう聞いた」

 

「私もそう言われましたけ ど・・・」

 

「それで僕の話を聞いて考えは変 わらなかったんですか?」

 

「えっ、だって間違いないんで しょ?」

 

「私は別に興味が無い」

 

凛は子供のことなんてどうでもい いようである。

 

「なぜそう言い切れるんですか?  僕は無限の魔力を持ってそれに目覚めましたけど次に生まれてくる子も僕ほどにではないにせよ、大魔術師になるって言う保障がどこにあるんですか?」

 

「そ、それは・・・」

 

玖里子だけでなく凛や夕菜も和樹 の言葉にはっとした。

 

「もし大魔術師じゃない子が生ま れたらあなたはその子を護ることができるんですか? 自分が期待して生んだ子供が大魔術師じゃなくて周りから邪魔者扱いされる子を、命をかけて護りきる自 信がありますか?」

 

「あ、当たり前でしょ!」

 

玖里子は当たり前だとばかりに声 を上げた。

 

だがそんな玖里子に対する和樹の 目は酷く冷たいものだった。

 

「無理ですね。そのことを僕に言 われるまで考えもしなかったあなたが護りきれるわけがない」

 

「うっ・・・」

 

玖里子は和樹の言葉に反論できな かった。実際和樹に言われるまで全く考えもしなかった。

 

もし自分が何も知らずに子供を生 んだら絶対に護ることができなかっただろう。それを和樹に言われた今でも護れるかといったら正直自信がなかった。

 

「護られない子供はどうなるか?  名前も知らない誰かが助けてくれるなんてそんな都合のいい話なんてまずあり得ない。よくて家から追い出され、悪ければ無能者としての汚名を着せられ殺さ れるでしょう。いや下手したらあなた達が自ら手を下すかもしれない」

 

「そ、そんな自分の子供にそんな ことできるわけ無いだろ!!」

 

凛が和樹の意見に真っ向から反論 した。だが次の瞬間凛は和樹から感じたことのないような殺気をぶつけられた。

 

「まさか、神城さんが言い返して くるなんてね。正直僕は君達の中で真っ先に子供を殺そうとすると思ったけど」

 

「き、貴様!」

 

和樹の殺気に耐えながら、凛は顔 を赤くして和樹を睨み返した。

 

「でも、あたしもそう思ったわ」

 

今まで黙って話しを聞いていた千 早が話に入ってきた。

 

「神城さん、あなた和樹君が軟弱 ものだから、自分の邪魔になるからってだけで殺そうとしたのよ」

 

「そ、それは・・・式森が 軟・・・」

 

「和樹君の強さを知っていたらそ んなのことしなかったとでも言いたいの!」

 

「・・・・・・」

 

「ひどいことを言うかもしれない けれどはっきり言うわ。神城さん、あなたは家に結局逆らえないから、自分より弱いと思った和樹君にその矛先を向けた卑怯者よ。自分より弱い者にしか向かう ことができない臆病者がすることをあなたはやったのよ。そのあなたが家から邪魔者扱いされる子供を家に逆らって護ることなんてできるわけが無いわ」

 

「うっ・・・・・」

 

千早の言葉に凛は言葉を失い何も 言い返すことができなかった。

 

「それに子供が生まれたとしても し、力のある子と無い子が生まれたときのことを君達は全く考えていない」

 

三人は和樹の言葉にさらに打ちの めされる。

 

「そんな兄弟を、僕は見た。炎が 使えない兄、炎を使える弟・・・・・・炎が使える、使えない、それだけの違いだけで兄は無能者扱いされて一族を追い出された。追い出されるまでだって周り から死に掛けることもあるくらいに虐待を繰り返された。それだけじゃない、力がある子供だって絶対に周りから受け入れられるなんて限らない。周りからその 力を妬まれて腫れ物扱いされるかもしれない。そのことを君達は一度でも考えたことがあるのか!?」

 

玖里子と凛は和樹に何も言い返す ことができない。

 

自分達は何も考えていなかった。

 

「もう話すことはない。帰ってく ださい」

 

和樹はそう言うともう何も言おう としなかった。

 

玖里子と凛は黙って部屋から出て 行こうとするが夕菜は違った。

 

「待ってください、和樹さん私 は・・・」

 

「帰ってって和樹君は言ったの よ」

 

千早は和樹を押しとどめるように 夕菜へと言い返した。

 

「あなた、和樹君が今の話するの にどれだけ辛かったかわからないの? はっきり言うけどあなた達に話したのは和樹君にとってはほんの一部・・・和樹君はもっと辛い思いをして来ているの よ。あなたそれを理解できないの!?」

 

「あなたに話しかけていません。 私は和樹さんに話しているんです。あなただって和樹さんを傷つけたことだってあるんじゃないですか!」

 

「!?」

 

夕菜が言ったその言葉に和樹は完 全にキレた。

 

何も言わずに夕菜を殴ろうと拳を 振り上げた。

 

だがそれは千早が和樹にしがみつ いたことによって寸前で止められた。

 

「和樹君、駄目!」

 

「ちょっと、カズ、落ち着い て!」

 

黙って見ていたレオンも和樹の手 を止めて落ち着くように言う。

 

和樹の怒りに驚き玖里子と凛は固 まってしまい動くことができずただ見ていることしかできなかった。

 

「離してくれ、今の言葉・・・千 早が許しても僕は絶対に許すことなんてできない。宮間さん、君に千早の一体何が分かるんだ!!? 千早が僕を傷つけただって・・・・・・僕を傷つけたのは 君達三人のほうだ。千早はずっと・・・昔から僕のことをずっと支えてくれた一番大事な、大切な人なんだよ。その千早を侮辱することは絶対に許せない!!」

 

千早とレオンを振りほどこうとし たが千早が腕にしがみついて和樹を放さなかった。

 

「止めて、和樹君。そんなことし てもあたしは嬉しくなんてない!」

 

「・・・・・・っ・・・」

 

千早の言葉に和樹は手を下ろすと 落ち着くように目を閉じた。

 

「・・・・もう二度と僕の前に姿 を見せないで」

 

そう言うと和樹はもう夕菜のほう に顔を向けようとしなかった。

 

だがそれでも夕菜はなおも叫ぶ。

 

「待ってください、和樹さん、話 しを聞いてください」

 

「・・・・・・・・・」

 

「和樹さん、約束覚えてないんで すか!?」

 

夕菜の言葉に和樹は少し反応し た。だが和樹から放たれた言葉は殺気のこもった低い声だった。

 

「君の事なんて僕は知らない。早 くこの部屋から出て行ってくれ」

 

そう言うと和樹はもう何も言わな かった。

 

「・・・・・・もういいで す・・・」

 

夕菜は弱々しく言うと玖里子と凛 の間を抜けて扉から出て行った。

 

 

 

 

 

 

 

「・・・あ、あのさ、和樹。 ちょっといいかしら」

 

「・・・・・・なんですか?」

 

夕菜が飛び出し静まった部屋の中 で玖里子が少し落ち着いてきた和樹に声を掛けた。

 

「実話さ・・・私、夕菜ちゃんの ことは家の関係で少し知ってるんだけどあの子帰国子女なのよ」

 

「それが何か・・・」

 

「それで、海外に行く前に・・・ え〜と、十年ちょっと前だったからしら、日本で優しい男の子に励まされたらしいのよ。それが今でも忘れられないって、あの子から何度も聞かされてるんだけ ど・・・覚えてない?」

 

「十年位前・・・・・・」

 

「それで私信じられなかったんだ けど・・・その男の子一人で雪を降らせたらしいのよ」

 

和樹の脳裏に子供の頃の記憶が 蘇った。

 

(・・・あの時、雪を見させてあ げた女の子か・・・)

 

「和樹君、もしかしてあの時雪を 見させてあげた子が宮間さんなんじゃ・・・・・・」

 

「多分そうだろうね」

 

和樹は自分が夕菜のことを覚えて いなかった理由が分かった。

 

あの後自分は魔力に目覚めてパ ニック状態であったのだ。

 

何があったか忘れて記憶がめちゃ くちゃになっていたのだ。

 

「じゃあ、夕菜ちゃんが言ってた 男の子って和樹のことだったの?」

 

「どうやらそうみたいですね」

 

「それでどうするの?」

 

「僕は何もしません。」

 

「えっ!」

 

「はっきり言って、僕は彼女のこ とをまったく覚えていない。彼女が僕の事を知っていても僕にとってはただの他人でしかないんです」

 

「そ、それは・・・・・・」

 

「中途半端な優しさは彼女を傷つ けるだけにしかなりません。酷いかもしれませんが僕は何もしません」

 

「し、しかし・・・それはあんま りじゃ」

 

凛が玖里子を援護するようにい う。だが和樹は何も言わない。

 

「仕方ないわ、凛。とりあえず、 あたしたちで夕菜ちゃん探しましょ」

 

玖里子は凛を連れてそのまま部屋 を出て行った。

 

数分後、不意に和樹の携帯が鳴り 出した。

 

「紅尉先生から?」

 

一体なんだろうかと和樹は通話ボ タンを押す。

 

『式森君か、すまないが頼みを聞 いてくれないか?』

 

「なんですか?」

 

『君のところに風椿君、神城君、 宮間君はいるかね』

 

「さっきまでいましたけど出て 行ってもらいました」

 

紅尉は遅かったかとばかりに唸り 声を電話の向こうで上げた。

 

『すまないがすぐに彼女達を見つ けてほしい。宮間君を、彼女の魔力を狙っているものがいる。彼女達だけでは危険だ』

 

和樹は一瞬迷いを覚えたがすぐに 考えを切り替えた。

 

「・・・わかりました」

 

和樹は電話を切ると千早とレオン を見た。

 

「紅尉先生から、宮間さんが狙わ れているから僕らで助けて自分のところに連れて着て欲しいって」

 

千早とレオンは一瞬驚いたような 顔をしたがすぐに気持ちを入れ替える。

 

「行くんでしょ、和樹君」

 

「人が攫われたり殺されたりする 所をただ黙ってみているなんて僕にはできないから」

 

そう言うと三人は夕菜たちの後を 追って部屋を飛び出した。

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・・・・」

 

夕菜は無言で行き先も何も考えず に歩いていた。

 

自分はあのときの男の子のこと を・・・・・・和樹のことを忘れたことが無かった。

 

だが和樹は違った。和樹にとって 自分は記憶に残すどころではなかったのだ。

 

さらに自分のせいで和樹は魔力に 目覚めてしまった。

 

自分は嫌われても当たり前なので ある。

 

「夕菜ちゃん!」

 

「夕菜さん!」

 

夕菜の後ろから玖里子と凛が走っ てきていた。

 

「玖里子さんに凛さん・・・」

 

「やっと追いついたわ・・・」

 

玖里子は額に浮かんだ汗を拭いな がら言った。

 

「夕菜ちゃんが言っていた男の 子って和樹のことだったのね」

 

「・・・はい」

 

「なるほどそれであんなこと言 ちゃったんだ」

 

玖里子はそう言うと和樹のことを 話し出した。

 

「夕菜ちゃん、和樹はあなたのこ と忘れたくて忘れたわけじゃないのよ」

 

「・・・・・・」

 

「千早が言うように私達は全然和 樹の事を知らないわ。話を聞いたからって理解できることじゃないだろうけど」

 

「・・・はい」

 

「それに勢いで言ちゃったんだろ うけど千早のことは言い過ぎだったわね」

 

「そうですね。あれだけ怒ったと いうことは式森にとって山瀬先輩は一番大事な存在なんでしょうね。それをあんなふうに言ってしまったのは・・・・・・」

 

和樹にとって千早がどれだけ大事 な存在なのか、どれだけ大切な人なのか先ほどの怒りを見たら一目瞭然である。

 

「私、和樹さんに嫌われちゃいま した・・・」

 

夕菜はもう和樹に顔を合わせるこ とができないと絶望的な顔をしている。

 

今になって自分が和樹のことを大 きく傷つけたことに気づいたのだ。

 

「でも、和樹も誤れば許してくれ るんじゃないかしら・・・・・・そりゃ、すぐには私達のこと許してくれるわけ無いだろうけど・・・・・・」

 

「でも、二度と顔見せるなっ て・・・・・・」

 

「和樹も夕菜ちゃんのこと覚えて いなかったのと、勢いで言ちゃったって言うのもあると思うのよ。だから必死に謝れば許してくれないわけでもないんじゃない・・・・・・」

 

「・・・・・・そうでしょうか」

 

玖里子の言葉に夕菜は少し落ち着 きを取り戻したようである。

 

「とにかく、許してもらえないに してももう一度和樹にちゃんと謝るべきだと思うわ。私達も含めて・・・・・・何も知らずにあれだけ和樹のことを傷つけたんだから」

 

「・・・はい」

 

「そうですね。私も謝らなければ いけませんね」

 

三人はもう一度和樹に会うために 寮に戻ろうとすると周りに知らない男達がいることに気がついた。

 

「宮間夕菜だな」

 

「えっ!」

 

いきなり名前を呼ばれた夕菜は驚 いたように声を上げた。

 

「悪いが我々と着てもらう」

 

「誰だ、貴様ら」

 

凛が男達を牽制するように声を上 げるが今は手元に刀がない。和樹に折られてしまいそのまま和樹の部屋に置き忘れてきてしまったのだ。例えあったとしても柄だけではどうすることもできない だろうが・・・・・・

 

男達は凛を気にする様子もない。

 

「捕まえろ」

 

男達が自分達を捕まえようとして いるのはわかった。だが行き成りのことに三人は動くことができない。

 

「余計なことしようとするなよ」

 

リーダー格の男は三人に銃を構え る。

 

「大人しく捕まるんだ・・・」

 

バンッ!

 

「えっ!」

 

「なんだ!?」

 

男の持っていた銃が弾け飛んだ。 何が起こったのかわからず男達は動きが止まる。

 

夕菜たち三人も何が起こったのか わからず唖然としている。

 

その三人の前に上から一人の男が 地面に花弁が舞い降りるように着地した。さらに一人その場に着地し、もう一つの影が舞い降りた。

 

「か、和樹さん」

 

夕菜が声を上げて驚いた。和樹、 千早、レオンが行き成り自分達の前に現れたのだ。

 

玖里子と凛も行き成り現れた和 樹、千早、レオンに驚いている。

 

「千早、レオン。三人を護って」

 

「わかった」

 

「了解」

 

「こ、こいつらを始末しろ!!」

 

リーダー格の男が叫び、周りの男 達が和樹たちに向けて銃を向けた。

 

だが次の瞬間、男達の銃は全て撃 ち落とされていた。

 

「遅いですよ」

 

何が起こったのかわからず男達は 唖然とする。自分達は確かに銃を手にしていた。だがいつの間にかその銃は手元から弾き飛ばされていた。

 

男達が和樹を見るとその手にはい つの間にか黒い装飾銃が握られていた。

 

銃口は自分達へと狂いなく向けら れている。

 

(撃ち落された・・・十人近くい る我らの銃を一瞬にして・・・)

 

「くっ!」

 

ドウッ!

 

動こうとした男達に向けて和樹の 銃口から魔法の弾丸が打ち出された。

 

「大人しく捕まってください。そ うすればこれ以上傷つける気はありません」

 

和樹は静に、だが強く男達に言っ た。

 

「な、何を・・・!?」

 

男達が動こうとすると足が何かに 掴まれたように動かないことに気がついた。

 

「ば、馬鹿な!?」

 

「氷河・氷縛(ヒバク)」

 

男達の足は地面に張られた氷に絡 め取られ身動きが取れないようにされていた。

 

「あたしの氷縛からは逃げ出せな いわよ」

 

千早は地面を氷で覆い男達の足を 氷付けにしたのだ。

 

「く、くそ!」

 

「動くな」

 

なおも抵抗しようとする。男に向 けて和樹が銃を構えた。

 

「それ以上動くなといったはず だ」

 

「くっ・・・」

 

男達はそのまま紅尉の呼んだ部隊 に拘束された。

 

ちなみに手錠で無く、千早によっ て全身氷付けにされて凍えながら運ばれていったりする。

 

 

 

 

 

 

 

「しかし、危ない所だったな」

 

和樹達は紅尉のいる学校の保健室 に集まっていた。

 

「式森君、源蔵から情報漏れはも う無いと連絡が入った。君に会うと言ったら伝えといてくれと言っていた」

 

「わかりました。ありがとうござ います」

 

「さて、問題はこっちかな」

 

紅尉は夕菜達三人を見ながらい う。

 

「どうだね。式森君のことを少し は理解することができたかな」

 

「・・・はい」

 

「そうね」

 

「はい」

 

「式森君だけでない山瀬君も彼を 支えるために多くの苦労をしてきたのだよ。君達の想像を遥かに超える経験を・・・力が在るとは良いことばかりじゃない、力があるばかりに先ほどのように攫 われそうになったことも何度もある。知らなかったとはいえもう少し考えてから行動すべきだった」

 

紅尉の言葉に三人は小さくなりな がら頷いた。

 

「まあ過ぎてしまったことはもう 変えられないがね。これから君達がどうするかは君達次第だ」

 

紅尉はそれだけいうと他は何も言 わなかった。

 

夕菜は和樹の方を見る。

 

「あの・・・和樹さんすみません でした。山瀬さんもすみません」

 

「いや、もう別に気にしてないか らいいよ」

 

「あたしも気にしてないから」

 

「でも・・・」

 

「僕も、気が立っていたから ね・・・・・・チェック・メイト!」

 

「むっ・・・」

 

紅尉が和樹の言葉に口ごもった。

 

「僕の三十三勝目ですね」

 

「だが私も三十勝している」

 

二人の間にはチェスが置かれてい る。どうやら話しをしながらチェスをしていたようである。

 

「宮間さんに雪を見せたあの日の 記憶が、僕はほとんどないんだ。覚えていたことは千早に会って倒れたこと、目が覚めたときに千早やゲン爺たちがいたことぐらいだった・・・・・・目が覚め たとき何か話をしていたのは覚えているけどその内容は覚えていない。後で千早からその日あったことは一通り聞いたけどね、誰に会ったかとか細かなことは覚 えていないんだ。だから宮間さんに雪を見せてあげたこと・・・つまり倒れる前の記憶は無いに等しいんだ」

 

「そうだったんですか・・・じゃ あ約束覚えてないんですか?」

 

「約束?」

 

何それとばかりに和樹は聞き返し た。

 

ふっと窓の外を見てみるとなぜか カラスが電線の上に並んでこちらを見ていた。

 

「・・・・・・・・・」

 

(何か・・・とんでもなく不味い ことがあったような・・・不味いことが起きそうな気がする)

 

「和樹君、なんか約束でもした の?」

 

「いや、覚えていないんだけ ど・・・」

 

「忘れないでくださいよ! 私、 雪が見れたらお嫁さんになってあげるって約束したんですよ!」

 

「・・・・・・・・・・・・・・・ いや、それはない」

 

和樹は夕菜の言葉を否定した。

 

「よく覚えていないけどもし言っ たんなら僕は断ったはずだ。いや、絶対に断った」

 

「そ、そんな、『ありがとう』っ て・・・」

 

「言う訳ないね。あの頃、僕は千 早のことしか見えていなかったからね。恥ずかしい話だけど『千早と結婚する』とかよく言っていたの覚えてるし」

 

「ああ・・・確かに言ったね。僕 がカズの式神になった時はなんかもっとすごかったけど・・・『千早と結婚する』とか『和樹君と結婚する』とか毎日のように言っていたし、喧嘩したら仲直り するたんびに言ってたしね」

 

レオンが昔を思い出したかのよう に言った。

 

「もうヤダ〜! レオン!」

 

「ドワッ!」

 

バゴン!!

 

顔を赤くした千早に叩かれレオン は見事に吹っ飛び壁にめり込み壁には蜘蛛の巣状に皹が入った。

 

「か・・・壁の味はコンクリート 味・・・・・・」

 

風に飛んだ紙のようにヘロヘロと レオンは壁から剥がれ地面へと力なく落ちていった。

 

「てか、僕と千早もう婚約してる し」

 

「和樹さん私との約束破って酷い です!!」

 

「・・・・・・約束も何も僕は 断ったし、それに約束なら千早のほうが一年以上早かったと思ったけど、確か・・千早の三歳の誕生日だったよね。最初の約束は・・・」

 

「三歳のとき親戚で結婚式があっ て、あたしがウエディングドレス着たいって騒いだのよね」

 

「それで、ゲン爺達と誕生日のと きにミニ結婚式とかいってプレゼントとしてやったんだよね。母さん達も乗り気になっちゃって、誕生日ケーキとか言って凄いケーキ作っちゃって・・・写真見 たけど今思えばウエディングケーキとしか思えないよな、あれは・・・」

 

ある意味凄い誕生日だな・・・と いうよりも誕生日なのか、それ・・・・・・

 

「まあ、さっきちょっと言い過ぎ ちゃったし僕が使えるようになった魔法を見せてあげるよ」

 

そう言うと和樹の身体が光りだし た。

 

その光は和樹の右手へと移動し一 つの球体を作り出す。

 

そしてその球体を空に向けては なった。光は空で四散する。

 

すると白い結晶が舞い降りてき た。

 

「雪・・・」

 

「お詫びかな・・・」

 

「きれいね」

 

空からは白い雪の結晶が降り始め た。それは幼い和樹が始めて魔法を使ったときに起した奇跡である。それが再び和樹の手によって起こされた。

 

「すごい・・・」

 

「天候を変えるとは・・・本当に こんなこと一人で・・・」

 

「言ったはずだ。式森君の力は君 達の想像を超えているものだと、私達にできないことを式森君ならできる。だがこの力は使い方を間違えれば全てを奪いかねない力ともなる。だから君達の家も 式森君の遺伝子を手に入れようとしたのだよ」

 

紅尉がいった言葉は玖里子と凛の 心に深く刻み込まれた。

 

「やっぱり、和樹さんは・・・あ れっ? 和樹さんは・・・」

 

「えっ?」

 

「式森は!?」

 

雪に夢中になっていた三人はいつ の間にか和樹が部屋の中から消えていることに気がついた。さらに千早とレオンもいなくなっている。

 

「式森君ならさっき出て行った が・・・気づかなかったのかい?」

 

何を今更といった感じで紅尉は いった。

 

ちなみに和樹たちは雪を降らせて からすぐに部屋を出ていたりする。

 

見事に逃亡に成功した和樹達で あった。

 

 

おまけ

この後和樹の部屋に向かった夕菜 だが和樹の魔法で結界が数えるのが面倒になるほど張られていたために部屋に進入することができなかったらしい。

 

 

 

 

『レオンのインフィニティールー ム!』

は〜い、というわけで一段落着き ました。

訂正前と比べてかなり内容をい じっている模様。でも僕の活躍の場がない・・・・・・

あの壁、アスベスト使ってないよ ね・・・まさか?

修正前より話がよくなっているの か分からないが、とりあえず作者にはがんばってもらいましょう。




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