まぶらほ  無限の魔力

 

 

 

 

修学旅行編

第四話

 

 

レオンに向って大型の男達が二人 今まさに刀を振り下ろそうとしていた。

 

(図体ばかりでかい相手が二人。 沙弓をかばいながら・・・)

 

レオンは状況を把握しそれに合わ せた戦いをしようとする。そんなことをしなくても目の前の二人など相手ではないのだが他の門下生がやってきたときのことを考えると備えは必要だろう。

 

(斬撃の力は雷道より二人とも上 だが、荒々しさのせいか太刀筋が比べ物にならないほど悪いな・・・・・・まあ、総合的に診ればどんぐりの背比べだ)

 

目の前に迫っていた二人がレオン に刀を振り下ろす。それをレオンは青龍刀を出し片手で受け止めた。

 

(まだまだだな・・・・・・)

 

「はぁっ!」

 

刀を力で押し戻し、二人を弾き飛 ばすと一人の男に斬りかかる。男は刀でレオンの刀を受け止めるが、刀はまるで木の棒のように鋭い一閃を受け簡単に斬りおとされた。男は驚き慌てて後ろに下 がるが力が抜けよろめいたところをレオンに蹴り上げられて近くの木に叩きつけられる。その隙を突いてもう一人の男が斬りかかってきたがレオンは体を倒して 裂けると、その反動を利用し男の鳩尾に容赦なく拳を叩き込みさらに掌底を放ち、男を軽々と吹き飛ばす。男の手から刀が離れ宙を舞い地面へと刺さり、男は地 面に叩きつけられた。

 

まさに一瞬の出来事である。

 

「がぁっ! はっ!」

 

男は腹を抑えながら地面をのた打 ち回る。

 

「さて、意識のあるうちに名前聞 いておこうか?」

 

「て、てめぇっ・・・」

 

そのとき、木に叩きつけられたほ うの男が地面に突き刺さった刀を抜きレオンに後ろから斬りかかった。

 

ガッ!

 

レオンはそれを青龍刀で余裕を 持って受け止める。

 

(はぁ〜・・・頑丈さも似ている ようだな)

 

刀を受け止めながら面倒だとレオ ンはそんなことを思っていたりする。

 

男の目は血走り怒りに我を忘れて いるように見える。

 

「教えてやるよ! 俺は雷道の兄 の火斬(かざん)だっ!」

 

火斬はレオンから飛び下がると大 太刀をレオンに向かって振り下ろした。雷道の使っていた技に似ている。

 

レオンはその風の刃に飲み込まれ る。

 

「終わりだ」

 

火斬はレオンを倒したと思った が、煙が収まって視界が晴れるとそこには無傷どころか塵一つ付いていないで立っているレオンがいた。

 

「・・・今、何かしたか?」

 

「くそっ!!!!」

 

火斬は風の刃を何度も放つ、だが レオンは何事もなかったかのようにその場に立っている。

 

「もう休め・・・お前では一生私 には勝てない」

 

フッ!

 

レオンが火斬の前から消えた。だ がすぐにレオンは現れた。火斬の目の前に・・・

 

ドカッ!

 

刀の柄が火斬の鳩尾に深々と食い 込むと火斬はそのまま意識を失いその場に倒れこんだ。

 

「貴様はどうする。悪足掻きする か? 負けを認めて大人しく降参するか?」

 

レオンはもう一人の男に声をかけ る。だが男はすでに戦う気はないらしく恐怖のため青ざめた顔を横に振った。

 

「沙弓、傷は大丈夫か?」

 

レオンは体を引きずって移動した のだろう木に寄りかかっている沙弓に声をかけた。制服がボロボロなので羽織っていたコートをそっとかけた。

 

「いっ・・・大丈夫・・・ではな いわね」

 

起き上がろうとするが体が動いて くれない。

 

「ヒーリングでとりあえず動ける 程度までは治す」

 

「・・・お願い」

 

「だが、それ以上は治さない。つ いでに蘭が許可するまで修行はトレーニングも含めて基礎から技の研究全て禁止だ」

 

「そ、そんなぁ〜〜・・・ (泣)」

 

「文句があるなら言いつけを護 れ」

 

「うぐっ・・・・・・」

 

沙弓にとってはこれ以上の罰はな い。レオンとの修行が禁止、つまり自分が修行のできない期間空いている時間は凛がレオンを独り締めにできるのである。

 

そんな豪華特典を凛に献上するこ とになろうとは・・・・・・

 

(うぅぅぅ〜〜〜、神城に絶対文 句言ってやる・・・絶対に邪魔してやる・・・絶対に呪ってやる・・・・・・)

 

レオンが沙弓の傷を治している 間、沙弓は心の中で号泣しながら神城家を呪った。B組の呪いのスペシャリストから呪い方を本気で習おうかと本気で考えていたりする。

 

ちなみに、凛に対して修行禁止期 間念仏のように文句を言い続けるのはすでに決定済みである。

 

・・・・・・余談だが、学校に 戻ってから神城凛と書かれ釘の刺さった藁人形が校舎の中で無数に発見された。

 

・・・・・・さらに余談だが『か 〜〜み〜〜し〜〜ろ〜〜』とおどろおどろしい声と共に金槌を片手に首を藁人下ように打ち込む白装束を着た髪の長い長身の少女が数多く目撃され葵学園の七不 思議を生み出すこととなるのであった。

 

「レオン君」

 

駿司がやってきた横には雷道もい た。

 

「すまなかった、遅れて」

 

「いいえ、ところで他の門下生 は?」

 

「楼門の前に山積みにされていた よ。他にもボロボロにされたものがそこらかしこに大勢倒れていた。全員そのまま病院送りになったよ」

 

「・・・カイのやつ派手にやった な」

 

すでに分かっていると思うが夕菜 達を助けたのは人間体になったカイである。

 

「君達には迷惑をかけた。本当に すまない」

 

「いいえ、ところであの二人 は?」

 

「あの二人は俺の兄と従兄弟だ」

 

レオンの質問に雷道が答える。

 

「気絶しているのが兄の火斬。も う一人が従兄弟の煉磁(れんじ)だ」

 

「それじゃ、雷道も京都出身なの か?」

 

「そうだ。兄達は俺が本家に行っ たことを悔しがって同時に本家に自分達を選ばなかったことで恨みを持っていた。だからこんなことをしたんだろ」

 

「本家でも京都のことは手を打た なければと話していたんだが、尻尾を出さなくてね。だけど昨日の式森君からの電話で宗家は彼らの破門を決めたんだ」

 

「きっかけが無かったと言うわけ か、今まで・・・」

 

「そう言うことになるな。本当に すまなかった。後のことは僕らに任せてくれ」

 

「もちろん、そのつもりだ」

 

これ以上の厄介はごめんだと駿司 と雷道に後始末は任せる。

 

「・・・レ、レオン・・・」

 

「カイか?」

 

カイが近くの草むらから出てき た。猫の姿なのにもかかわらずなぜか顔に疲労の色が見える。息は上がって全身で疲労を表現している。

 

「レオン、周りに葵学園の女子生 徒はいないな?」

 

「いないがどうしたんだ。門下 生、そんなに強かったのか?」

 

「ちがう・・・門下生を全員倒し た後、周りの女子生徒に追い掛け回されたんだ。山を越えたり、一つ町を移動しても着いてきたぞ。軍人かあいつらは・・・ストーカーのレベルを超えてるぞ!  猫の姿に戻る暇もなかった上に、瞬歩を使っても引き離すことができなかったぞ!! 今度こんなことが会ったらストーカー規正法で・・・いや、その前につ かまったら絶対に殺される・・・殺人未遂だ!!」

 

カイの目にはうっすらと涙が見え る。

 

「・・・そ、それまた・・・大変 だったな・・・・」

 

どうやら、相当すごい逃走劇が あったらしい。カイをここまで追い詰めるとはB組女子侮りがたし・・・

 

「カイ、とりあえず和樹達のとこ ろに行こう」

 

「・・・・・・わかった」

 

「沙弓、動いても大丈夫か」

 

「ヒーリングが効いたみたいだけ どまだ少し痛いわね」

 

「そうか」

 

(・・・えっ!?)

 

沙弓の返事を聞くとレオンは沙弓 のことを軽々と抱え上げた。お姫様抱っこのような・・・ってか、どう見てもお姫様抱っこである。

 

「和樹達のところに行くまで少し 我慢しろ」

 

我慢どころか沙弓の頭の中では カーニバルが開かれ学ランを着た男達が歌いながら踊ってていたりするが鈍感のレオンがそのことに気が付くわけもない。

 

沙弓はレオンに抱えられ、カイは 何度もふらつきながら和樹達のところに向かった。

 

途中カイが三、四回ほど転んだり した。

 

沙弓はレオンに抱えられて顔を 真っ赤にしながらもレオンのコートをしっかりと握り締めている。

 

(恥ずかしいけど、最高!!!)

 

傷の痛みも忘れてレオンに自分が 護られているということを嬉しく思った。そしてこうしてもらえるなら怪我をするのもたまにはいいかもと考えていたりするのであった。

 

 

 

 

 

 

「はぁっ!」

 

「えぇぇいっ!」

 

ガキィィン!!

 

槍と太極刀がぶつかり合い火花が 散る。

 

ガン! ガン! ガン!

 

千早と女の戦いは舞を踊っている かのように見えた。流れるように次々と技を出し合う。

 

「やるわね」

 

女はそう言いながら千早から距離 を取り太極刀をまわし始める。女の太極刀には縄が着いていて、縄の位置で太極刀の速度、軌道が変わり、指先、肘、頭、肩、腰、足・・・・・・体全身を使い 太極刀が操られている。

 

(・・・まだ、思ったように体が 動いてくれないわね)

 

沙弓同様に千早もまた怪我の影響 が残り万全の状態ではない。頭の中で考えている速さよりも僅かにだが動きに誤差が出てしまっていた。

 

それでもうまく戦いを組み立てて いられるのは多くの場数を踏んできた賜物である。

 

「ふぅ、流星錘(りゅうせいす い)を使っているみたいな動きね。まるで舞を踊っているように見えるわ」

 

距離をとりながら千早は呼吸を整 えながら槍を構えた。

 

「私は中国武術の武器を主体とし ていてほとんど使いこなせるの、武器の併用なんて簡単よ。もちろん、それが日本の武器だろうが西洋の武器だろうがなんだろうが関係ないわ。剣は人を選ば ずってね。私が手にすれば鈍ら刀も研ぎ澄まされた刀も変わらないわ」

 

そう言うと、千早の槍に縄絡め て、槍を奪おうとしてきた。さらに横から太極刀が風を切り裂き千早を襲う。

 

「くっ!」

 

槍の先にはまだ縄が絡まっていて そこを軸に再び太極刀が千早に襲い掛かる。

 

「遅いわよ」

 

太極刀を避けた千早に突っ込むよ うな形で女が太極刀を突いてくる。

 

千早は槍を双槍に変え、双節棍の ように女に振り下ろす。女はそれを後ろに飛びギリギリでかわした。

 

「わぁっ! ・・・・・・あなた の武器も仕掛けがあるのね。面白いわ」

 

「あなたほどじゃないけどね」

 

再びお互いの武器がぶつかり合い 火花が散った。

 

「でも、私は武器だけじゃない わ。この動きについて来ることできるかしら」

 

女はそういうと千早の回りを凄ま じい速さで動き出した。

 

「どう目で追うことができる?」

 

目にも留まらない早い動きで翻弄 してくるが千早もゆっくりと足を動かしだした。

 

(どうやら、手は抜けないよう ね)

 

次第に足の動きは早くなり千早の 残像が周りに現れる。

 

「花舞」

 

千早も花舞で相手の動きについて いく。

 

お互いの刃がぶつかり合い火花が いたるところで散る。普通の人達が見たら異様な光景だっただろう。

 

何せ火花だけが見えて人の姿が見 えないのだから。

 

だが、この速い動きの中で上を 行ったのは千早であった。

 

ガシッ!

 

千早は一瞬の隙を突いて女の手首 をつかみ関節技を仕掛けようとする。すると女は手刀で首を狙ってきたがそれを見切り手首をつかみそのまま捻り上げた。

 

「あっ!」

 

千早はそのまま女を地面に叩きつ けると腕を後ろで押さえつけた。

 

「あっ・・・くっ!!」

 

「やっぱりね」

 

千早も筋力にはあまり自信が無い ほうだ。たぶん沙弓のほうが筋力はある。実際に腕相撲をしてぼろ負けしたほろ苦い思い出がある。だが、女も千早並に非力だったようである。

 

戦い方を見て何となくではあった が女の弱点を探っていたら健を合わせたときに技に力のなさを感じた。

 

そして相手が力技でなく速さを中 心に来たことで確信を持った。相手が明らかに力技を避けてきていることに。

 

さらに千早には相手の動きが時間 をおうごとに見えてきていた。その動きにはどこか見覚えがあったからだ。

 

「もう諦めたほうがいいわ。力技 での勝負で押さえ込まれたらそれを返すだけの力はあなたにはないわ。それに時間稼ぎが目的ならこれ以上の戦いは無意味よ」

 

「ちっ! まだよ。疾風が勝負を つけるまであなたは私と戦っていてもらうわ」

 

「大丈夫よ。あたしは二人の戦い に手を出すつもりはないわ。そんなことしなくても和樹君は負けないし、何より手助けなんて望まない。彼の方もそうなんでしょうけど」

 

「負けないわよ、疾風はあんな男 になんか!!」

 

女は千早の言葉に声を上げて反論 してきた。

 

「・・・いいえ、勝てないわよ。 特に今の和樹君には・・・誰も」

 

「あなた、あの男を信じてるみた いだけど私も疾風を信じているのよ! 疾風が負けるなんて絶対にないんだから!!」

 

女は力の限り抵抗した。話をして いるときに力が緩んでしまったのか千早はバランスを崩した。女はすぐさま横に転がり距離を取ると太極刀を取って突っ込んできた。

 

「・・・悪いけどその動きはもう 見慣れたわ」

 

千早は太極刀を槍で下から跳ね上 げると女の鳩尾に肘打ちを叩き込んだ。

 

「くっ!」

 

「安心して気は込めなかったわ」

 

千早の声が聞こえたかどうか分ら ない。女はそのまま前のめりに倒れ込み、気を失った。

 

「何か同じような経験あるから、 自分を見ているみたいね」

 

千早は槍をヘアピンに戻して女の 後ろに回るとつぼに気を流して目を覚まさせた。

 

「うっ・・・・・・あな た・・・」

 

「行くわよ。離れたところから二 人のこと見守りましょう」

 

「・・・・・・あなた、変よ」

 

女は千早を見て呆れたように呟い た。

 

「そう、どうでもいいわ。で名前 教えてもらえる?」

 

「・・・・・・千尋、佐々木千尋 よ。千に尋ねるって書いて千尋」

 

「あっ、一時違いね。あたし千 早、早いって言う字で千早。山瀬千早よ。よろしく」

 

「・・・・・・よろしく」

 

千早は千尋に対してさらに近いも のを感じた。

 

二人は挨拶を交わすと和樹達が 戦っている場所に向かった。

 

 

 

 

 

 

 

和樹と男はお互いに間合いを取り 合いながら、剣を交えることなく殺気のぶつかり合いで戦っていた。

 

「少し聞きたいことがある?」

 

「何だ?」

 

「いや、その前に名前、聞いてい なかったね。僕は式森和樹、君は?」

 

「高遠疾風だ」

 

「それじゃ質問、何のために僕と 戦いたいんだ? 神城家の人に知り合いがいるようには見えないし、脅されているようでもない。力で脅されているようには到底見えないしね。これだけの殺気 のぶつかり合いを繰り返しても君は全く臆していない」

 

「何のためか・・・まあ、『何で も屋』まがいのことやっているからな。金をもらった以上それに見合った仕事はする。あとは好奇心もある。式森和樹・・・最近お前が相手にした奴らのことを 聞いたらその力を確かめてみたくなった。お前が噂通り本当に強いなら、俺の力がどれほどのものなのかを知りたい」

 

「引く気は無いないのか な・・・・・・生憎、まだ傷が癒えていないから本気は出せないし、出せたとしても力加減もできないから下手したら君を殺すことになるかもよ」

 

「それでも構わない。本気でなく とも剣を交えるだけでもお前の力は分かるだろう」

 

「もう一度聞く。本気なんだ ね・・・・・・」

 

ガシン!

 

男が素早く間合いを詰めて和樹に 向かい三尖両刃刀を突く。和樹はそれを胸の前でクロスさせた黒刀で止めた。

 

「これが答えだ。はぁっ!」

 

そう言うと再び疾風は和樹に向 かって突きを何度も放つ。

 

(速いっ!)

 

和樹は疾風の突きをかわすがその 動きはとても鋭く、正確なものだった。かわしているはずなのに服や皮膚が切り裂かれる。

 

(空圧だけ・・・フェイントでも 風を切り裂いて空圧が飛んでくる・・・・・・)

 

だが和樹もただかわすだけじゃな く、反撃に出る。

 

ガン!

 

和樹の鋭い斬撃が疾風に向って 走った。疾風はそれを三尖両刃刀の柄の部分で受け止める。疾風は刀を押し戻すと同時に前蹴りを和樹に放つ。

 

和樹は黒刀の腹の部分でそれを受 け後ろに飛ぶとすぐに上段から斬りかかる。疾風は突きで和樹の斬撃を弾く、だが和樹は疾風の後ろに回ると胴に刀を払おうとする。疾風がそれを受けようとす るのを確認するともう片方の黒刀を下から振り上げる。しかし和樹の刀は空を切った。

 

疾風は姿勢を低くすると、膝を 狙ってローを放つ。和樹がかわすとすかさず突きを放つ。疾風はそれをぎりぎりでかわし上段から刀をおろす。

 

一進一退の攻防である。

 

常人なら、いや、それなりの心得 があるものが相手でも数十回はすでに殺されているだろう。

 

いつどちらかが腕や足を切り落と していてもおかしくない状況である。

 

二人が切り傷程度でいられること はある意味奇跡である。

 

そんな二人の姿を見る二つの影が あった。

 

千早と千尋であった。

 

千早は和樹が、千尋は疾風が負け るわけが無いと今でも思っているが、どちらも言い知れぬ不安に駆られていた。

 

(何・・・)

 

(どうしてこんなに不安になる の・・・)

 

和樹と疾風はまだ余力を残してい る。

 

「魔法も精霊も使う様子はないわ ね」

 

「自分の力だけのぶつかり合い か・・・・・・」

 

自分達もそうだったが、どちらも 魔法も精霊も使う気はないようである。純粋に武器と体術だけで戦うつもりのようだ。

 

お互いに凄まじい気迫を相手にぶ つけ合う。

 

その気迫が何か違和感を残す。

 

千早達が二人の攻防を見始めてか ら和樹の表情が変わっていない。途中から仮面をつけたかのように無表情になったのである。

 

(あんな目をしているなん て・・・・・・危険かもしれない)

 

和樹の目はいつもとまるで違って いた。千早は和樹が戦う姿を何度も見てきたが、今の和樹は今まで見たことが無いような目をしていた。

 

いや、どこかで見たことのある目 だ。それがいつどこでだから分らないが・・・・・・

 

和樹は剣の道を究めつつある者で ある。剣の真剣勝負の中で感情を表したりすることはまず無い。

 

刀を扱うものにとって、刀は己の 分身であり、心を移す鏡である。心に曇りがあれは刀も曇り斬れるものも斬れなくなる。

 

それゆえに、刀を扱うものは覚悟 が必要である。刀を抜いたときには迷いを捨て覚悟を決めなければならない。

 

だが今の千早の目には違う和樹が 映った。いつもと体の動きが違う・・・

 

まだ、本調子ではないからと思っ たがそれとはどこか違って見える。

 

(和樹君・・・何をするつも り?)

 

ザッ!

 

和樹と疾風が間合いを取った。

 

疾風が構えを取るのに対し、和樹 は黒刀を横に持ち立っているだけである。

 

(無の構え・・・)

 

疾風は目を疑った。一見構えてい ないように見える和樹だが、間合いに入った瞬間すぐに刀を振ってくるようにも見えた。いや、必ず振ってくると確信していた。

 

(なら・・・)

 

疾風は決めた。

 

次の一撃で決めると、迷いも何も かも消し次の一撃に全てをかけると。

 

ふぅぅぅぅぅぅぅ・・・・・

 

疾風はゆっくりと息を吐き自分の リズムを作ろうとする。自分のリズムの中に相手が入り込めば確実に自分のほうが有利になる。

 

すでにお互いともいつでも動ける 間合いに入っている。次に速く動いたほうの負けである。

 

千早達はただ息を止めて二人の動 きを見ているだけである。瞬きなど許される状況ではなかった。

 

二人の睨み合いが続く。

 

だが次の瞬間、二人の殺気に耐え られなくなったのか、鳥が木から飛び立った。

 

その瞬間二人が動いた。

 

疾風の突きは今までで一番凄まじ いものであった。彼は自分の勝ちを直感した。千尋も彼の勝利を思った。

 

そして千早の目には体を貫かれた 和樹の姿が映った。

 

・・・・・・がその姿が煙のよう に消えた。

 

(!!?)

 

(えっ!!?)

 

(!!!)

 

次の瞬間、疾風だけでなく千早と 千尋は何が起こったのか一瞬分からなかった。和樹が疾風の三尖両刃刀を左手に持った黒刀で突いたかと思うと、目にも留まらぬ速さで右手に持った黒刀が疾風 の右肩から左の腰に神速の刃の一線を描いた。

 

「斬」

 

疾風はそのまま地面に倒れこみ、 近くには折られた三尖両刃刀が傍らに落ちていた。

 

「疾風っ!!」

 

千尋が疾風のところに急いで駆け 寄る。

 

「千尋・・・」

 

疾風がかすれた声で千尋に話しか けた。

 

「安心しろ・・・・・・手加減し てもらったようだ・・・・・・」

 

千尋が疾風を落ち着いてみると斬 られたはずの疾風からは全く血が流れていなかった。だが、肩の骨は折られ青く腫上がっていた。

 

肩だけでなく胸骨、あばら、他に も折れている箇所がいくつかあるだろう。臓器にも影響があるかもしれない。

 

千尋に遅れて千早が和樹のそばに 駆け寄る。

 

「和樹君・・・」

 

「峰打ちだよ」

 

和樹は右手に持った黒刀を見せ た。黒刀の刀身は逆さにされていた。

 

「だけど、斬るつもりで振り下ろ したから何箇所か骨と臓器には影響があると思うよ」

 

千尋は疾風の体を改めて確認す る。峰打ちでなかったら体を二つに斬り落とされ確実に死んでいただろう。自分なら峰打ちでも死んでいたかもしれない。

 

今まで見たことのない光の速さの 斬撃。それほど凄まじい速さだった。

 

「どうして斬らなかったの?」

 

「僕が彼を斬り殺したとき、君は どうしていた。多分、君は僕のことを殺そうとしただろう。そうなるのはごめんだからね。それに僕は彼に何の恨みも無いし、彼は僕が殺す人ではない。だから 斬らなかった。だが、本気で相手しなかったら彼にも失礼だと思ったし僕も危なかったしね」

 

「だから・・・峰打ちか・・・」

 

そういうと、疾風は気を失った。

 

和樹は疾風を一瞥すると黒刀を腕 輪に戻しその場を去ろうとした。

 

「あ、あの・・・」

 

千尋が立ち去ろうとした和樹と千 早に声をかける。

 

「あ、ありがとう。疾風を殺さな いでくれて・・・」

 

和樹は千尋に向かって笑顔を作る とこういった。

 

「彼に伝えといてくれないかな。 お互いに守るべき者のために刀は使おうって」

 

そういうと和樹と千早はその場を 去った。

 

「疾風・・・」

 

倒れたままの疾風に声をかけなが ら千尋は自分の大事な人の顔を見て微笑んだ。

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・はぁ〜」

 

和樹は倒れ込むように近くのベン チへと腰を下ろした。

 

「和樹君、あれっ て・・・・・・」

 

「源氏爺が『神光刃(シンコウジ ン)』って呼ばれるようになった由縁だよ。光のような速さで一瞬にして相手を倒してしまう。その動きから付いた名」

 

「全く目に見えなかったわ」

 

斬撃の瞬間、自分は和樹の姿を完 全に見失った。三尖両刃刀に貫かれたと思ったがその姿が消え動きととらえられた時には黒刀を振り下ろした後だった。

 

「はぁ〜、全く本当に源氏爺は人 間なの? まだ体が完全でないとは言えほんの数秒だけだったのに体中が痙攣起こしそうだよ」

 

「でもいつの間に和樹君・・・」

 

「実は一年前から少しずつ使える ようにはなっていたんだ。でも実戦で使えるレベルじゃないでしょ・・・この状態じゃ・・・・・・でも、使わなかったら僕は間違いなく貫かれていた」

 

「あの動き・・・一体どこで?」

 

「・・・・・・分らない」

 

疾風、千尋、あの二人の動きは自 分達にも引けをとらない動きである。だがそれだけなら、悩みの種は生まれない。

 

「式森家の流派・・・それに近い 動きがかなり入っていた」

 

「ええ、少し違いはあったけどあ たしと戦った千尋って子の高速移動方・・・あれは間違いなく『瞬歩』だった」

 

「それに、あの男、疾風の動 き・・・源氏爺と源爺の動きにかなり似ていた。間違いなく式森家に関係とある人が二人とはつながっている」

 

「・・・・・・でも、あのレベル の動きを学べる人って限られているわよね」

 

「僕らが生まれる前の誰かがあの 二人と関係しているのかもね。後で聞いてみよう」

 

「そうね。で、体のほうは大丈 夫?」

 

「・・・・・・駄目、動けな い・・・後十分は休ませて・・・・」

 

「・・・・・・ヒーリングかける わね」

 

「お願い」

 

肉を切らせて骨を立つ。疾風との 戦いは和樹にとってもかなりのダメージを残す戦いとなった。

 

 

 

 

 

 

 

その後、和樹達は駿司と雷道に後 のことは任すことにして警察が来る前にこの場を離れることにした。

 

一般の参拝客からどこかの学生が 暴れていたとの声はでるだろうが駿司がうまく対応してくれるとのことだ。

 

騒動に巻き込まれた生徒は疲れて いるだろうと和樹は思ったがそれは和樹の杞憂に終わった。

 

一部の生徒は燃え尽きていたが、 上賀茂神社いた生徒を中心、特に女子生徒はホテルのロビーを占拠して異常な盛り上がりを見せていた。

 

いつの間に作ったのか写真つきの 大弾幕が掲げられてその下ではB組女子が中心となり写真やらうちわが売られていた。

 

「・・・・・・・・・あれっ て・・・」

 

「レオン、カイ・・・あ れ・・・」

 

『シクシクシクシ ク・・・・・・』

 

いつ、どこで取られたのか? 

 

大弾幕とうちわと写真に写ってい るのは間違いなくレオンとカイの人間体になった姿だった。

 

驚くのはその写真の枚数だ。軽く 五十種類はある。

 

次から次へと女子生徒がうちわと 写真を買っていく。

 

A組担任の西野真美子とD組担任 の早野浩美までその中にいた。

 

「いつ撮られたんだ・・・」

 

『知らないよ!』

 

「ずいぶんうまく撮られてるわ ね」

 

感心したように千早がつぶやく。 確かに写真は手ぶれどころか、全てがベストショットといえるレベルの写真であった。

 

「多分、あの写真を撮ったのは酒 井さんだな・・・・」

 

写真部に所属する酒井麻理子は神 出鬼没の油断のならない人物である。B組が気づいたときにはほとんどの生徒が弱みを握られていた。

 

「なぜにあれだけの腕をいいほう に使わないのかしら・・・・・・」

 

「今さらだけどね・・・」

 

確かに、普通に写真を撮ってコン クールに出せば入賞間違いなしだろう。

 

結局この騒ぎは終身時間まで続い た。

 

その間に二人のファンクラブまで できてしまっていたりする。

 

最終日はお土産などを見て回るく らいで特に有名な観光名所には行かなかった。

 

レオンとカイは鬱憤晴らしだとい わんばかりに『つぶあん入り生八ッ橋』『井筒八ッ橋』、そのほかにも『湯葉』をはじめとした京都の名物を買いまくった。もちろん和樹が金は全て出した。

 

(・・・・・・ はぁぁぁ・・・・)

 

溜め息しか出ない和樹であった。 もちろん、電話で『八ッ橋』を買って送れと言ってきた実家にも送くることは忘れなかった。

 

「楽しかったね!」

 

千早が笑顔で和樹に言ってくる。

 

「そうだね」

 

和樹は思う。千早と一緒ならいつ だって楽しいと。

 

だが和樹達を巻き込む事件はまだ 終わっていなかった。

 

 

 

 

 

 

 

修学旅行から一週間後の葵学園

 

「お前らぁ〜、B組に新しく転校 生が入るぞ」

 

珍しく朝からいる担任である伊庭 かおりの声と共に教室に入ってきたのは整った顔立ちに青みを帯びた黒髪に稲妻のような金色の髪が印象的な少年。まだ着慣れていない葵学園の制服がどこか息 苦しそうであった。

 

「大阪の高校から転校してきた。 んじゃ、自己紹介は任せた」

 

そう言うとそのままどこから取り 出したのか分らないゲームを取り出し始めてしまったかおりに一瞬戸惑うような表情を見せながらも少年は黒板に自分の名前を書いた。

 

「大阪にある魔法学校から転校し てきた高等疾風だ。よろしく頼む」

 

その後、疾風は自分に用意された 席へと座り、かおりは説明が面倒だからと連絡事項の書かれた紙を黒板に貼り付けて教室を出て行って朝のホームルームは終わった。

 

「式森和樹。よろしく」

 

「高等疾風だ。よろしく頼む」

 

残った朝のホームルームの時間、 二人は自己紹介をすると握手を交わした。

 

敵ではなく、新しくできた友人に 向けて。

 

しかしこれはこれから起きる事件 の始まりでもあった。

 

 

 

 

『レオンのインフィニティールー ム!』

レオンで〜す。ネタ切れで〜す!

やっと修学旅行へん完結しまし た。長い、とにかく無駄に長かった!

次は何を作者は更新するつもりな のか。リアルが忙しいようですが、僕、レオンは勝手に動き回ります。

作者に恵まれない時はオー〇〇 へ!(古!)

じゃあまたね〜〜

 

 

 

 


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