まぶらほ  無限の魔力

 

 

 

 

修学旅行編

第三話

 

 

どこか遠くの夢と妄想の世界へ旅 立っていた夕菜を現実世界に呼び戻し、観光バスはホテルへと到着した。

 

ホテルに着くと和樹はまず駿司に 電話で連絡を入れる。神城家に行ったとき以来、駿司とはたまにメールのやり取りなどをしている良く知った仲だ。

 

ちなみにメールの内容は『凛ちゃんのワクワクドキドキ高校生ライフ〜一年生編〜』。

 

駿司並び、神城家の方々により命 名。

 

最初は断ったがあまりにもしつこ く頼まれたのでしぶしぶOKしたのだ。

 

駿司に晴明神社、京都御苑で起 こった出来事を和樹が分かる範囲で説明し対応するように言う。

 

『さっきも凛からも電話があって 怒鳴られたばかりでね。「家の問題に私達を巻き込むな。喧嘩するならそっちで勝手にやっていろ! この爺狼がぁぁ!!!」って鬼のような声で怒られた。冗 談抜きで鼓膜破れるかと思ったよ。僕が原因の騒動じゃないのに・・・・・・それに式森君、僕は確かに百近い長寿の人狼だけど、けど、百五十を超えている銀 君の父の銀河さんのほうが年上だろっ・・・それにそれに外見と心はまだバリバリの二十代なんだぁぁぁぁ!!!』

 

爺狼と呼ばれたことが相当ショッ クだったらしい。

 

電話口から何度も『お兄ちゃんは まだ若いんだぁぁ!!』と聞こえてきている。

 

とりあえず和樹は最後の頃の駿司 の叫びは無視することにした。

 

「・・・・・・まあ、凛ちゃんと 杜崎さんはいいライバルですからね。いがみ合って入るわけではありませんから巻き込まれたらたまらないでしょう」

 

『・・・・・・・・・当主と話を してすぐに手は打つよ。もし危ないときは式森君、すまないが何とかしてもらえないか?』

 

最初の間は無視されたことへの嫌 味かそれとも叫びつかれたのか・・・和樹にはどっちでもいいことである。

 

「いいですけど、なるべく早く手 を打ってくださいね。他の生徒にまで被害が及ぶと力を隠している以上あまりみんなの前で力を示したくないですから」

 

『わかった。今日のことは本当に すまなかったとレオン君と杜崎家の子にも言っておいてくれ』

 

「分かりました、伝えておきま す。あぁ〜、言っておきますけど、もし僕らが巻き込まれて千早が怪我をしたら・・・・・・楽しみにしていてくださいね。メールも送らなくなるかもしれない なぁ〜」

 

明らかに声色が変わる和樹。最後 の『楽しみにしていてくださいね』は子どもをあやすような優しい言い方であるが・・・・・・言葉の裏の恐ろしさを感じ取り子供が泣きそうである。電話越し でもその空気は十分に伝わるほど・・・・・・恐ろしかった。

 

『式森君さっき言ったことは訂正 させてもらう。すぐにそちらに行く。いえ、行かせていただきます(汗)』

 

十分すぎるほど伝わったおどろお どろしい雰囲気に駿司は慌てて答えると電話を切った。

 

九州で慌てふためいている駿司の 姿が目に浮かぶ。

 

ちなみに九州の駿司はどうしてい たかというと・・・

 

「皆急げ、凛ちゃんのドキドキ高 校生ライフのために急ぐんだ!!!」

 

『はいっ!!!』

 

「萌えてるかぁぁぁ!!!」

 

『萌え萌えで〜〜〜〜す!!!』

 

もちろん九州でこんな騒ぎが起き ているなど和樹は知る由もない。

 

さらにもちろんだが、凛も知るわ けがないが・・・・・・

 

「(ビクッ)っ!!!?」

 

「どうしたの、凛?」

 

喫茶店にいた玖里子は一緒に来て いた凛がいきなり椅子から立ち上がり刀を握ったのを見て問いかけた。

 

凛はしっかりと九州での騒ぎを感 じ取っていた。

 

「いえ、なにやらおぞましいもの が・・・・・・背中を不気味なものが通り過ぎたような・・・・・・以前に秋葉原で『巫女服萌えぇぇ!!』『巫女服バンザ〜〜〜〜〜イ!!』と叫んでいる人達に追いかけ回されたようなそんな寒気がしたんで・・・・・・」

 

「・・・・・・何気に凛っ て・・・凄い体験してるのね・・・(汗)」

 

青ざめながら今にも倒れこみそう な凛に、玖里子は顔を引きつらせ嫌な汗を流しながら答えるのがやっとであった。

 

ちなみに秋葉原に行った理由は和 樹に頼んでパソコンを自分の部屋に一台置いてもらうために買い物に行ったのである。

 

その経験から凛は二度と羽織袴の 巫女服(モドキ)で秋葉原に行かないことを心に決めたらしい。

 

凛と玖里子が寮の中でそんな話を している頃、修学旅行中の和樹達は夕食の時間になっていた。

 

夕食は大広間で取ることになって いる。班ごとに座席を割り当て、それぞれ食事を取った。どこのクラスも修学旅行の楽しさで話に花を咲かせていた。

 

F組もそれぞれ今日見て回ったと ころの話などをしている・・・・・・・が、B組はそうもいかない。

 

どうやら京都御苑で何かを売ろう としたらクラス内での争いが起こり失敗に終わったらしくその責任の擦り合いがおこなわれていた。

 

仲丸はホテルで用意された浴衣の 腕をまくり、声を張り上げている。(他も似たようなもんだが・・・・)

 

「はい、和樹君」

 

千早が茶碗にご飯をよそって渡し てくれる。

 

(修学旅行万歳!!! これぞ修 学旅行の醍醐味、来てよかった修学旅行・・・・・・僕は今生きている――――!!)

 

これぞ修学旅行と心の中で喜びの 涙を流して喜ぶ和樹。千早の浴衣姿なんて何度も見たことがあるだろうに・・・・・・

 

・・・だが幸せの涙はすぐに止 まった。

 

「はい、和樹さん」

 

同じように夕菜が渡してくる。

 

ちなみに本来は夕菜の席はそこで はない和樹の横に座っていた人と友好的交渉(夕菜本人曰く)(譲った〈奪われた〉側曰く、ありとあらゆる恐ろしい顔を凝縮した顔を見たとのこと)によりそ の場を譲り受けて(乗っ取りし)陣取った。笑っているがどこか押しの強さを感じる。千早とは違い喜びというよりも恐怖ばかりを感じた。

 

(・・・はは・・・どこかの戦争 馬鹿の気持ちが分かったような気がする・・・・・・)

 

悲しみの涙と大量の冷や汗を流 し、和樹はどこかの島の軍曹に強い親近感を覚えた。

 

夕食が終わり部屋に戻る。

 

ゆっくり休もうとしたが神様の虫 の居所が悪いのか和樹に休みなどは訪れない。

 

「松田のやつ、俺を売りやがった な!」

 

「薮田があそこで先走りしなけれ ばよかったんだ!」

 

「いや、他にも先走りしたやつは いたぞ」

 

B組男子が和樹達の部屋に集ま り、討論を続けようとしていた。

 

「お〜い〜、何でここに集まって るんだ?」

 

和樹が声をかけたが今のこいつら にはそんな言葉は届かない。

 

「だからあそこで・・・」

 

「・・・・・・・・・はぁ〜」

 

和樹は部屋で安らぐことをあきら めホテルの中にある売店やゲームのあるホールに行くことにした。

 

 

 

 

 

 

 

ゴトン!

 

「のんびりできないもんかね〜、 はい」

 

「ありがと。まあ、B組じゃなく なればのんびりできるんじゃないの」

 

「まあ無理だけどね」

 

和樹とレオンとカイはホールの椅 子に座りながら、飲み物片手に雑談していた。

 

しばらくそうやって話をしている と後ろから目をふさがれた。

 

「だぁ〜れだぁっ?」

 

「千早」

 

和樹が手を取って引いて見ると顔 のすぐ横に千早がいた。その後ろには沙弓がいた。

 

「も〜う、もっと考えてよ」

 

「千早の声なら、どんなに離れて いても聞き分ける自信あるんだけどな」

 

後ろから和樹に抱きつきながらい ちゃつく千早。二人の姿は惚気全開である。

 

「それブラック?」

 

「・・・うん」

 

「その・・・はずなんだけ ど・・・甘い

 

見ている三人は口の中に砂糖を大 量に入れられた顔をしていた。

 

「式森君、どうしてこんなところ にいるの?」

 

「仲丸達の京都御苑での商売失敗 の反省会、誰が足を引っ張った事件の議論が部屋で始まっちゃったんだよ」

 

「そ、それは・・・災難だったわ ね」

 

何を言ったらいいのか分からない ような顔をしている。

 

「ねぇ、みんなでUNOやらな い!」

 

和樹の隣に腰を下ろし千早がカー ドを出しながらいった。

 

「いいわね」

 

「やろやろ」

 

和樹達はしばしUNOを楽しん だ。

 

UNOを始めて十数分 後・・・・・・

 

「ドロー!」

 

「私もドロー!」

 

「何で僕に!」

 

カイが手にカードをたくさん持っ て嘆く。

 

「カイ、カード運なさすぎだよ」

 

「う〜〜〜」

 

UNOを始めてから三回のうち二 回カイは負けている。残りの一回も紙一重であった。

 

「はい、スキップ!」

 

「ウニャーー! 僕のカードを減らさせてぇぇ〜〜〜〜〜!!」

 

すでにカードが手から溢れかけて いる。勝負は決まったも同然であった。

 

「ウノ!」

 

「私も、ウノ!」

 

「僕も、ウノ!」

 

「あっ、ラッキー、あたしあが りっ!」

 

「おにぃぃぃぃっ!!!」

 

カイの四回目の負けは確実なもの となったのだった。

 

結局この後もUNOを続け、十回 やって七回、カイは負けた。

 

千早は全て一番で上がった。

 

(チェスはともかくカードでは千 早に勝ったためしがないんだよな)

 

ちなみに和樹は万年二位だった。

 

 

 

 

 

UNOを終わりにして千早と沙弓 は風呂に入るといって、部屋に戻っていった。和樹達も部屋に戻りテレビを見ることにした。

 

部屋に戻ると仲丸と御厨、他数名 がショルダーバックを片手に部屋を出てくるところだった。

 

「仲丸、どこに行くんだ?」

 

「うるさい、俺達は今から重大な 任務をおこなうんだ」

 

そう言ってそそくさと廊下を走っ ていってしまった。

 

「何なんだ、一体?」

 

「ろくでもないことは間違いない ね」

 

「むしろそれ以外なら、明日の自 由行動は雨だな」

 

「・・・カイ、後をつけて行って くれない」

 

「いいよ」

 

カイに仲丸達の監視を任せて和樹 とレオンは部屋の中に入ってテレビを見ることにした。

 

『和樹』

 

テレビをつけるとすぐにカイから 念話が入った。

 

「カイ、どうした」

 

『どうしたじゃないよ。あいつら 覗きをしようとしてるよ』

 

「でも、ホテルだって対策くらい 考えてるだろう。無理なんじゃ」

 

『近くに行って盗み聞きしたんだ けど、透視防止の素材で壁は作ってあって、魔方陣も画かれているんだけど、水蒸気を逃がすための小窓があるんだよ。』

 

「・・・・・・よく見つけたな」

 

そこまでするかと思いながら和樹 は頭を抱えた。頭痛がするのは気のせいではないだろう。

 

その力をいい方向へ使ったらどう なるかと考えたが絶対にありえないので無駄な考えは止めた。

 

「でも、中に入っている人の誰か が気づくんじゃ?」

 

『御厨が薬を作ったみたい。その 匂いを嗅いだら一発で寝ちゃうらしいよ。あっ、今、薬を中に入れた』

 

「悪どいな〜」

 

それがB組です。

 

「カイ。それってどこの浴場?」

 

『南禅だけど・・・』

 

ブチッ!

 

何かが切れた音をカイの耳は拾っ た。

 

「・・・はっはは・・・カイ、全 員この世に生まれたことを後悔させろ。いや、殺せ! 跡形もなく消滅させろ!」

 

聞こえてきた和樹の声は低くなり 声に殺気がこもった。

 

今なら声だけで人を殺せそうであ る。

 

『わ、わかった。けど・・・何 で?』

 

「千早が今入っているのは南禅の 浴場だ」

 

『・・・・・・キメラになって暴 れていい? いや暴れさせて・・・』

 

「カイ、これでもかって言うくら いボコボコにしていいよ。いや、引きちぎれ、食いちぎれ!」

 

「そう、これでもかっていうくら いにな」

 

今の三人なら五秒で地球がなくな るであろう。それくらいやばいオーラが三人からは出ていた。

 

千早に手を出したのが運のつき、 不倶戴天という言葉はこのためにあるのだろう。仲丸達の地獄の夜がここに切って落とされた。

 

教訓、千早には手を出すな。でな きゃ、和樹、レオン、カイの三人が黙っていないぞ。

 

ちなみにUNOで万年二位だった せいか今の和樹はいつもより三割り増しで機嫌が悪かったのは仲丸達にとって不運であった。

 

 

 

 

 

 

時間は戻る。

 

夕菜は風呂好きである。今日もス キップしながら浴場に入った。昼間のことを思い出し非常にハイテンションである。

 

浴場には余り人はいないようで伸 び伸びと入れそうである。ガラス戸を開けて中に入っていくと先客が何人かいた。

 

「松田さん、杜崎さん、山瀬さ ん?」

 

「あら、夕菜も来たの」

 

和美が縁に座って、足だけ湯につ けて、湯船の中にはタオルを巻いた沙弓と千早がいた。

 

「今朝も入っていたわね?」

 

「好きですから」

 

そういいながら湯船につかり、 ゆっくりと全身を伸ばした。

 

和美がオーストラリアの優先投票 制をB組に適応したらどうなるかという話をしていた。

 

修学旅行で話すネタじゃないだろ う。

 

千早と沙弓はほとんど聞き役に 回っている。

 

夕菜はそんな三人をボーッと見て いる。

 

千早は夕菜と身長は同じくらいで あるが和樹と一緒に剣術・槍術。薙刀術や格闘技の修行をしているためか体はバランスがとてもいい。女だと思って油断して相手をしたら相手は痛い目を見るだ ろう。実際に痛い目を見た男の数は星の数。和樹に痛い目を見せられた男の数も星の数であった。

 

沙弓はクラスの中でも一番背が高 いが合気術を始めとしたありとあらゆる格闘術の特訓を欠かさないため、無駄な肉もなかった。

 

二人はタオルを体に巻いてはいる がタオル一枚程度ではその芸術的な体ラインは隠しきれていない。むしろそれを際立たせる結果になっていた。

 

和美は特に武術はやっていないが 身体のバランスがとれている。そういう体質なのだろう。

 

夕菜は三人を見ていると溜め息が 出た。自分の体と交換できたら交換してほしい。

 

「夕菜どうかした?」

 

「いえ・・・うらやましいなあっ て・・・・」

 

「なにがよ」

 

「その体・・・。うらやましいな あって」

 

「・・・変なこと言うわね」

 

「だって私、胸ないです し・・・」

 

恥ずかしそうに笑う。

 

「気にすることないんじゃない。 夕菜十分かわいいし」

 

そういうと和美は夕菜の後ろに回 り胸をつかんだ。

 

「キャッ!」

 

「それほど小さくないわね。気に することないわよ。それに凄い綺麗な肌しているしね。何かしているでしょ?」

 

「そんなことないですよ」

 

「うそうそ、これは何かしてい る?」

 

ネタは上がっているんだ、吐きな さいとばかりに和美は夕菜を後ろから抱きしめて放さない。

 

「でもホント綺麗な肌よね」

 

いつの間にか千早まで夕菜の肌を じっと覗き込んでいた。

 

「でも私もてないんですよ」

 

「・・・夕菜、それ嫌味にしか聞 こえないし、下手したら学園の女子半数を敵に回すことになりかねないわよ」

 

学校で行われる美少女ランキング で転校して来たときから夕菜はトップを守り続けている。

 

本人は知らないが学校の男の三分 の一は夕菜のファンクラブのメンバーという噂もある。

 

だが夕菜本人の頭の中では和樹に 見られていないイコールもてないという定義ができていたりするのであった。

 

「でも、三人ともスタイルいい じゃないですか」

 

「私はそれほどでもないけ ど・・・千早と沙弓はそうかもね」

 

「そんなことないと思うけど」

 

「千早と沙弓は中学のころより胸 大きくなってるわよね。二人とも後輩達が一緒にお風呂はいりたがる子が多いし」

 

「いや、それは」

 

「言うな」

 

困る千早と話をばっさり切る沙 弓。

 

「千早、どうしてそんなになった の」

 

「え〜と・・・自然 と・・・・・・お母さんもそれなりにあるし・・・」

 

「中学のころからでしょ、式森君 にどれくらい抱かれた?」

 

疑いの目で千早を見る和美。

 

「ないないないない!!! 絶対 ない!!!」

 

「あら、中学時代に初体験済み じゃなかったかしら」

 

「っ!!?」

 

「あら図星だったのね。中学頃か らラブラブだったものね」

 

「そんなことない。今も学校内で は普通にしていたもん!」

 

「・・・・・・・・・あなた 達・・・・・・あれで隠しているつもりだったの・・・・・・」

 

呆れた顔で和美は千早を見た。

 

あれだけイチャイチャしていたら 絶対に誰れであろうと分かります。

 

「・・・・・・ってな訳で!」

 

「な、なに?」

 

身を引きながら千早は和美に聞き 返すがそれを逃がすような彼女ではない。すかさず千早の前に行きポンッと肩に手を置いた。

 

なにやら嫌な予感のする千早は思 わず顔が引きつる。

 

「脱いで」

 

「は、はいぃぃぃぃっ!!?」

 

聞き間違いだと思ったが千早はさ らに顔が引きつった。それ以前にまずどういう経緯でそういうことになるんだ。

 

「だから、脱ぎなさい」

 

「か、和美?」

 

「脱いで」

 

「あの、和美」

 

「脱ぎなさいよ」

 

「ぬ、脱ぐって・・・」

 

「脱ぎなさい」

 

「・・・・・・・・・」

 

同じ言葉を繰り返す和美に思わず 千早は固まった。

 

その瞬間、獣の如きすばやさで和 美が千早に飛びかかった。

 

「だから、体を覆うこの大きなバ スタオルは何なのよ!!!」

 

「ちょっ、ちょっと和美やだ!  止めて!!」

 

千早が体に巻いているバスタオル を取り・・・・・・いや、この場合は剥ぎ取りにと言ったほうがいいのだろう。

 

周りから見れば美女が美女に襲い 掛かっていてとても危ない光景に見えるが本人達、和美はバスタオルを引きがはすことに夢中、千早はそれを死守しようと周囲を気にするどころではない。

 

バスタオルをかけて壮絶な戦いが 始まった。

 

剥ぎ取られるか死守するかのどち らかである。

 

「女同士でしょ! 中学からの仲 でしょ! 三年間同じクラスだったでしょ!! 二年以上一緒に生徒会活動した仲でしょ!! 中学の修学旅行のときにも一緒にお風呂入ったでしょ!! 恥ず かしがらずに全部見せなさい!!」

 

「女同士でも恥ずかしいものは恥 ずかしいのよ!!」

 

「見せてもらえないと余計に見た くなるのよ! 二年間見ていなかったその豊満な胸を私に拝ませなさい!!」

 

「和美そんなこと言って恥ずかし くないの!!?」

 

『全然!!』

 

一緒になって夕菜も答えた。どう やらバスタオルの下が彼女も気になるようである。

 

「山瀬さん、大人しく脱がされて ください!」

 

「そう年貢の納め時よ、千早!」

 

「いやぁぁぁぁっっ!!」

 

プライバシーも人権もあったもん じゃない。しかも和美相手ではそれ以外のものまで剥ぎ取られてしまいそうな恐怖感が千早を必死にさせた。

 

だがそれに夕菜も加わったことで 千早は完全に不利になった。そして千早のバスタオルは剥ぎ取られるのであった。

 

ドンッ!

 

和美と夕菜にはそんな効果音が聞 こえてきた。

 

「うっ・・・ま・・・マスクメロ ンが二つ・・・・・・」

 

「さ・・・詐欺よ・・・詐欺だ わ・・・いえ、ここまできたら犯罪よ・・・この胸で、このくびれ・・・・・・引き締まったボディーライン・・・・・・ミロのビーナスも真っ青よ」

 

夕菜と和美は、地球は太陽の周り を回っていたのは嘘だと言われたような顔で驚いた。

 

「あぅぅぅぅぅぅ〜〜〜〜〜〜」

 

そんな中、顔を赤くしながら千早 は湯船に入るというより沈み込んだ。いや、沈んでいっていると言ったほうが正しいかもしれない

 

もちろん隠そうと思って隠してい たわけではない。だがあれだけ言われれば女同士と言えど恥ずかしくなる。

 

そして和美と夕菜は次の標的に狙 いを定めた。

 

「さ・ゆ・み!」

 

「うっ!」

 

湯船の端のほうへ逃げていた沙弓 は一瞬にして和美に間合いを詰められた。

 

「あなたも脱いで」

 

「げっ!」

 

「杜崎さん」

 

「沙弓」

 

千早は自分だけでは不公平と言う 視線を沙弓に向けながら二人の側へとついた。その姿を見他沙弓の顔には裏切り者と千早に向けて視線を飛ばしたが千早は『助けてくれなかったじゃない』視線 を放ち返した。

 

「沙弓、バスタオル頂戴仕 る!!」

 

「いやぁぁぁぁぁっっ!!」

 

沙弓の悲鳴が浴場に響き渡り三人 に囲まれた沙弓は一瞬にしてバスタオルを奪われた。

 

ドッドォーーン!

 

またもや二人にはそんな効果音が 流れたのであった。千早のときよりも力強い・・・まるで巨大太鼓を叩いたような音である。

 

「・・・す・・・スイカが、大玉 スイカが二つ・・・」

 

「しかもこのくびれ・・・詐欺 よ・・・詐欺師よ、あんた達、詐欺師よ。いえ、犯罪者よ」

 

「そんなこと言われても・・・」

 

「好きで大きくなったわけじゃな い」

 

「マスクメロンとスイカ・・・マ スクメロンとスイカ・・・マスクメロンとスイカ・・・マスクメロンとスイカ・・・・・・」

 

「夕菜、その言い方止めなさい」

 

そんなあだ名で呼ばれて堪るかと 沙弓は夕菜に釘を刺した。

 

「さすがね。葵学園巨乳ランキン グに入るのは当たり前か・・・」

 

「えっ、そんなのあるんです か?」

 

「麻里子と来花がランキング付け てたのを聞いたの」

 

ちなみに玖里子や千早もランキン グに入っている。

 

「沙弓さん触っていいですか?」

 

「ばっ、馬鹿言わないで!!」

 

手を伸ばした夕菜から沙弓は思わ ず身を退いた。背中に嫌な汗が流れたのはその直後である。

 

「私はそんな趣味ないわ・・・」

 

ガシッ!

 

沙弓は機械の用にギギギと音を鳴 らしながら後ろを振り返る。

 

「か、和美・・・・・・」

 

「夕菜、今よ」

 

後ろから沙弓の腕を押さえ羽交い 絞めにしていた

 

「それじゃ遠慮なく」

 

「あひゃっ・・・・やめ てぇぇぇぇっっ!!」

 

抵抗しようとするがそれははかな い抵抗であった。

 

「おっきい・・・半分くれません か?」

 

「無理に決まってるでしょ!  ひゃっ!」

 

「あら、沙弓って意外に弱いの ね」

 

夕菜が沙弓から離れて自分の手を 眺める。

 

「どうだった?」

 

「差がありすぎま・・・ ふぁ・・・」

 

いきなり眠気に襲われる。

 

「なんで・・・いきなり・・・」

 

「眠い・・・」

 

そのまま四人は浴場で眠りこけ た。他にいた人達も同様に。

 

 

 

 

 

 

 

「聞えるな、夕菜さんもいるなん て俺達の日ごろの行いを神様はちゃんと見ていてくれたんだ」

 

屋根の上で仲丸がささやいた。な んか神様が聞いたら怒髪、冠を衝くようなことも言っているが・・・

 

「そろそろ薬が効き始める頃だ な」

 

御厨が時計を見ながら言う。

 

仲丸はできるだけ体を小窓に近づ け、目立たないように、両手両足をぴたっと伸ばしている。周りから見たら車に轢き殺されたカエルである。

 

「御厨、どうだ?」

 

御厨が時計を確認する。両腕で大 きく丸を作った。

 

「よし、準備はOKか?」

 

B組覗き参加者がカメラを片手に 手を上げる。

 

「では景気を付けるぞ」

 

『おう(一同)』

 

「スゥー・・・やろうども俺達の 特技はなんだ!」

 

『萌ーえっ! 萌ーえっ! 萌ー えっ! 萌ーえっ!』

 

「やろうども俺達の目的はなん だ!」

 

『覗きっ! 覗きっ! 覗きっ!  覗きっ!』

 

「俺達は金を愛しているか、株を 愛しているか、覗きを愛しているか!?」

 

『ガンホー! ガンホー! ガン ホー! ガンホー! ガンホー!』

 

「いくぞ、覗き達の未来のため に!」

 

『覗き達の未来のために!』

 

『覗き達の未来のために!』

 

〔注意:念話での会話です〕

 

どこかのロボットアニメと学園ア ニメがごっちゃです。

 

天窓に近づき手にしたカメラを内 側へと入れようとしたとき・・・・・・神様は罰を男達に与えた。

 

「うわっ!」

 

誰かが屋根から落下した。

 

仲丸達が後ろを振り向くとそこに は二メートルほどのキメラがいた。

 

もちろんカイである。

 

「グルルルルル」

 

喉を鳴らしながら仲丸達に近づき 次々と屋根の上から地面へと落とす。全員屋根からいなくなったのを確認しカイも屋根から飛び降りる。

 

「このヤロー、俺達の夢を邪魔し やがって・・・・・・」

 

普通のキメラよりもサイズが小さ いので仲丸達は強気に出ている。仲丸の手には白光が集まっている。

 

だが強気に出られるのもここまで だった。

 

バキ・・・バキバキ・・・・・・

 

カイは体を普通サイズのキメラへ と戻す。屋根に上がるために身を軽くしていただけなので地面に降りた今はその必要はない。

 

「・・・反則だろ」

 

「ルール違反だぞ!」

 

「グゥオオオオオオオオオオオ ン!!(お前らに言われたかないわ!!)」

 

カイが仲丸達に飛び掛った。

 

『ひぇぇぇぇぇぇぇぇぇーーーーーーーーーー!!!』

 

『ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーー!!!』

 

『おがあさぁぁ〜〜〜〜〜〜 ん!!!』

 

『マァッマァァァ 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!』(スネ〇かトン〇リか・・・・・・)

 

「ガァァァァァッァァァ!!(UNOで負けたストレス発散して やる!!!)」

 

八つ当たり気味にカイの大暴れは スタートした。

 

哀れなB組の生徒(覗き魔)達の 悲鳴が京都の町に響き渡った。

 

この夜、京都の町の中をキメラに 追われたB組男子の姿が数多く目撃され、悲鳴が止むことはなかった。

 

 

 

 

 

 

 

夕菜達はうつ伏せのまま、ふと目 が覚めた。

 

目をこすって起き上がり周りを見 る。

 

「私・・・寝ちゃったんです か?」

 

「あたしもそうみたい」

 

「でもなんで、みんな寝ちゃった んでしょう」

 

「修学旅行で疲れたのかしら」

 

沙弓は浴場から出てすでに着替え ている。

 

すると浴場の外からなにやら物音 が聞えた。

 

「何かしら?」

 

浴衣を着た沙弓がガラス戸を空 け、外を見る。

 

「事故があったみたいね」

 

「事故ですか?」

 

「庭に人形がたくさん付いてい て、獣の大きな足跡があるんだけど誰もいなくて、ホテルの従業員が捜してるみたいだけど・・・・・・なんだかよくわからないわね」

 

千早はそれを聞いて何か分かった ようである。

 

「はあ・・・・?」

 

夕菜は何のことか分からず首をか しげていた。

 

 

 

 

 

 

 

三日目は班ごとの自由行動であ る。と言うわけで班によっては大阪や奈良に行く者達もいた。

 

B組とF組の合同班も朝食をとり ホテルを出た。駐車場の観光バスがなんかほっとしているように見えたのは間違いではない。

 

和樹達は市営バスに乗り、京都駅 に向かった。和樹のバックの中ではカイが夜の疲れからかよく眠っている。

 

和樹達の班を夕菜達が追ってバス に乗っていたが仲丸達の顔は一晩で頬がこけて青ざめていた。ついでに足が痛いのか、時々足を叩いたり伸ばしている。顔には擦り傷や切り傷がいくつもあっ た。他にもいくつかの班がバスに乗っている。

 

「みなさんどうしたんですか?」

 

夕菜が心配そうに声をかけるが、 その言葉も上の空である。

 

「式森君」

 

「何、杜崎さん」

 

「式森君。カイ、ちょっとやりす ぎたんじゃないの?」

 

「何のこと?」

 

和樹は笑顔でごまかしたが、その 顔にははっきりと『これくらいじゃ、気が収まらない』と書いてあった。

 

「う〜ん、式神でも放っておけば よかったかな。いっそのこと清明の式神呼び出すのもあり・・・・・・あっ、織田信長の霊呼び出せばよかったんだ。『覗くなら、有象無象の、首撥ねよ』って ね。ふふふふふふふふふ・・・・・・」

 

(う・・・うぞう・・・むぞ う・・・黒い・・・式森君が黒い)

 

笑顔で黒いことを呟く和樹に沙弓 は突っ込む勇気はなかった。

 

京都駅に着き、ここのターミナル で上賀茂神社に行くバスに乗り換えた。

 

バスに揺られ、上賀茂御園橋バス 停で降り五分ほど歩くと真っ赤な鳥居が目に入った。

 

上賀茂神社は、正式には、賀茂別 雷神社といい下鴨神社と並んで京都でも最も古い神社の一つでこの地を支配していた豪族、賀茂氏の氏神を祀ったのが起こりで、七世紀後半の天武天皇の時代に 社殿が造営され、下鴨神社の祭神・玉依姫命の子、賀茂別雷神が祀られている。

広大な社領に社殿が並び、一の鳥 居から二の鳥居までが芝生の素敵な馬場です五月の葵祭は京都三大祭りのひとつである。

 

五月五日の賀茂の競馬も有名であ る。馬場東側には桜の古木が数本有り見事な花が楽しめる。神社前の「神馬堂の焼き餅」が有名である。

 

世界文化遺産の一つであるだけ あって厳粛な気持ちになる。

 

和樹達は鳥居をくぐり中に入って いく。楼門、立砂と細殿などを見て回る。

 

「・・・・・・千早、誰かにつけ られてる」

 

「やっぱり・・・・・・」

 

何となく気づいていた千早は目だ け動かし和樹を見た。

 

「いくつか殺気を感じたんだけ ど、二人だけ僕らにだけ殺気交じりの視線があるんだよね」

 

「昨日の人達かな?」

 

「う〜ん、他はそうだろうけど、 二人は違うと思う。かなり強い・・・多分、雇われたりしたんだと思うけど・・・『選眼』使ったら気づかれそうだしね」

 

「それで、どうする。私達が二人 を相手するの?」

 

「駿司さんに連絡したからね。そ ろそろこっちに着く頃だろうからそれまで時間稼ぎできればいいよ。まだ体も本調子じゃないし倒せなくても倒されなければそれで十分だ」

 

「わかった」

 

「レオン、カイ」

 

『何?』

 

「僕らは二人を相手するから他の 門下生達は任せていい」

 

「任せといて!」

 

「了解!」

 

そういうとレオンとカイは脇の道 の中に入っていった。

 

和樹と千早は班から離れて人目に つかないところに自然に移動した。

 

「・・・・・・ついて来てるんだ ろ、ここなら人もこないから出て来なよ」

 

和樹が声を上げると、二人の男女 が出てきた。

 

「・・・・・・いつから気づいて いた」

 

「ここに着いて少し経ってからか な、僕らの後をタクシーとかで追ってきていたか、最初からここに来ると分かって待ち伏せていたか」

 

「まるで見ていた様に話すな。噂 以上のようだな」

 

「・・・噂ね。情報もう少し徹底 しないとな・・・」

 

あまり噂が一人歩きするのも考え 物だと和樹は思った。

 

「・・・何のようなの、こっちは 修学旅行を楽しみたいんだけど」

 

「何、簡単なことさ、俺達の相手 してくれればいい」

 

「嫌だ・・・って言ったらどうな るのかな」

 

「言わせない・・・って言った ら」

 

ゴゥ!

 

四人の回りの空気があきらかに変 わる。

 

「嫌だな・・・今あんまり運動し たくないんだよね」

 

笑ってはいるが和樹から流れ出し ている圧力は既に戦う者へと変化していた。

 

「後悔しても知らないけど・・・ それでもいいなら期待に答えるよ」

 

いつの間に手にしたのか、和樹が 黒刀を構えながら言う。どうように千早も槍を構えた。

 

「後悔・・・・・・どっちが だ?」

 

男が肩に担いでいた布に包まれた ものを取り出す。

 

「・・・三尖両刃刀(さんせん りょうじんとう)、珍しい武器だね」

 

「よく知ってるな」

 

「術者の中で似ている武器使う人 がいるからね」

 

中国武術の武器の一つで刀の基本 的な形は片刃だけだが、この「三尖両刃刀」は両刃になっていて名前の通り形も「山」の字に似ていて先端が三つに分かれている。「槍術」「大刀術」と共通し た部分が沢山ある。

 

「あなたの相手は私がするわ」

 

太極刀を両手に構えながら女が千 早に言った。

 

太極刀にはそれぞれ縄が付きつな げられ投げることもできるようにしてあるようである。

 

「それは間違いね。あたしが相手 してあげるのよ」

 

千早は槍を構え直す。

 

あたりが静まる・・・

 

そこに風が吹いた瞬間四人の姿は 消えていた。

 

四人の戦いが切って落とされた。

 

 

 

 

 

 

 

上賀茂神社では沙弓達が男達に囲 まれていた。

 

全員が胴着姿。神城家の落ちこぼ れ共である。人数は軽く二十人。しかも手には木刀ではなく真剣を構えていた。

 

武器を持っているからか、男達が 強気に出ている。

 

沙弓も引いてはいないが、こちら は素手、それも相手は二十人近く回りには葵学園の生徒がいる。

 

(状況最悪ね)

 

多勢に無勢、例え刀を持った人が 相手でも沙弓は引けを取ることはない。だが相手の人数があまりにも多すぎた。

 

すでに沙弓の腕や足からは血が流 れている。みんなを庇いながら戦いに集中できない状況のため不意打ちを何度か受けてしまった。それでもこれだけの傷ですんで入るが相手も本気できていると いうことだ。

 

「卑怯者、私だけが目的で しょ!」

 

「そのつもりだったがな、昨日本 家から電話があって俺達は破門になったんだよ。それも今日向こうから俺たちの処理に人がくるんだ。誰が知らせたか知らんがもう遠慮する必要はねぇんだよ」

 

ひときわ身体の大きな男が声を荒 げていった。

 

「邪魔者はすべて排除、手段はも う選らばねぇっ!」

 

「みんな逃げて!」

 

そういうと沙弓は男達に向かって いった。後ろ髪惹かれるが夕菜達はこの場を逃げることにした。

 

沙弓は男達の刀を裂けながら手近 な男の懐に飛び込み。鳩尾に重い一撃を放つ。休むことなく、次の男に目掛けて強烈な回し蹴りを叩き込む。男は車に跳ね飛ばされたように吹き飛ぶ。すると背 後からガタイのいい男が沙弓に刀を振り下ろした。沙弓はそれをギリギリでかわすが続けざまに横からもう一振りが来る。何とか避けたが制服には空圧で切られ たスカーフが地面に落ちる。

 

(ちっ、この二人他の門下生とは 違う! いつもならもっと体が軽いのに、気持ちと体の速さがバラバラよ!!)

 

沙弓はいつもの力を出せないため に感じている恐怖を押し殺し懐に飛び込もうとする。

 

刀が頭上から振り下ろされる。沙 弓は白刃取りの構えを取った。

 

ガッ!

 

その瞬間横からの衝撃が沙弓を 襲った。

 

「くあぁっ!」

 

衝撃と続けざまに電撃が身体を走 る。

 

「一人だけを相手にしてるなよ」

 

横からの衝撃はもう一人の男の拳 が当たった衝撃だった。

 

「ぐぅっ!」

 

立ち上がろうとしたが、アバラを 何本か折られたらしく立ち上がることができない。

 

(前痛めたところが・・・・・・ やっぱりちゃんと治しておけばよかった)

 

退院した後にすぐ修行をしてしま い、一番酷い怪我を負っていた箇所に軽い痛みが出てしまったのだ。蘭に頼んでみてもらったところ、退院した後にいきなり体を動かしたことが原因らしく蘭の 許可が下りるまで運動禁止を言い渡されていたのである。しかも力のコントロールも鈍くなっている。

 

今になってレオンに言われたこと をよく考えていなかったことを後悔した。

 

「残念だな」

 

「所詮この程度か」

 

男達はゆっくりと沙弓に近づい た。

 

 

 

 

 

 

 

夕菜達は楼門やら何やら色んな所 をただ逃げ回っていた。

 

「うひゃぁぁぁぁぁ 〜〜〜〜〜!」

 

御厨が緊張感のない悲鳴を上げな がら逃げ回っている。

 

「くそっ!! 昨日はキメラで今 日はどこぞの門下生かよぉっ!」

 

ただでさえ疲れているのにまた走 らされている仲丸達、哀れで・・・・・・・・・いや、いい気味である。

 

「何で私達までぇぇぇっ!!」

 

「関係ねぇだろぉっ!!」

 

途中いた葵学園の生徒も巻き込み 火事が起きたかのごとく逃げ回る。

 

門下生達は家を破門にされた憂さ 晴らし目的で生徒達をところ構わず襲っている。

 

「あっ!」

 

「きゃっ!」

 

「夕菜、松葉!」

 

木の根に躓いて夕菜と松葉が転ん だ。

 

男達は躊躇なく刀を夕菜達に振り 下ろす。

 

「夕菜、松葉!!!」

 

和美が声を上げたが誰も助けられ ない。

 

みんな目をつぶったが、夕菜たち の悲鳴は聞えてこなかった。

 

恐る恐る目を開けると夕菜達の前 には一人の男が立っていた。

 

「間に合った」

 

男は片手で門下生達の刀を素手で 止めて平然とそこに立っていた。門下生達もいきなりの男の出現に驚いた様子である。

 

「っ! うおっ!!」

 

男が拳を門下生に放つ門下生はも ろにその拳を受けて近くの木にぶつかる。

 

「来いよ、憂さ晴らしが目的なら 相手になってやる」

 

門下生に向かって手招きをする。 男の挑発に乗った門下生が刀を振り上げて男に飛び掛った。

 

だが門下生たちの刀は振り下ろさ れることはなかった。飛び掛った門下生の刀は鋭い刃物によってバラバラにされていた。

 

「残念、そんな遅い動きじゃ何も 斬ることなんてできないぞ」

 

男の右手には黒い手袋が嵌められ て指先からは五本の銀色の細い糸が五メートルほど出ていた。

 

「本気で来いよな。ただの糸だと 思ってなめて掛かると刺身になるぜ」

 

男の回りを銀色の糸が生きている かのように動く。

 

「怯むな! 相手はどうせ一人 だ」

 

そういうと門下生は男に向かって 再び斬りかかった。

 

「・・・さぁ〜て・・・・・・大 掃除、開始だ」

 

数分後・・・・・・・

 

男の周りにはボコボコにされた門 下生の山が出来上がっていた。全員が半年はベットから起き上がることが出来ない状態にされていたりする。

 

「大丈夫だったか?」

 

夕菜と松葉のところに駆け寄り男 が声をかけた。

 

このとき夕菜達はやっと男の顔を よく見ることができた。

 

作られたような顔立ちと長身、夕 菜達だけでなくその場にいた女子生徒はみんな男に見とれていた。

 

「だ、大丈夫です。はい」

 

松葉は完全に目がいっちゃってい てただ見ているしかできない。

 

「そうか、ならよかった」

 

そういうと男はその場を立ち去っ て行った。

 

「あ、待って!」

 

「名前を!」

 

「王子様!」

 

男の後を追って女子達は走りだし た。そんな中、松葉はというと。

 

「来たわ。来たのよ。私の王子 様ぁぁぁぁっっっ!!!」

 

そういって誰よりも速く男の後を 追いかけた。どうやら王子様を見つけたようである。

 

 

 

 

 

 

 

沙弓は激痛で立ち上がることがで きず這いつくばりながら、この場から逃げようとしていた。だが男達はそれを楽しむように刀を振り下ろす。

 

ワザとあたらないように地面に刀 を振り下ろす。

 

「くっ!」

 

馬鹿にされていると分り、蹴り飛 ばしてやりたくなったが、立つことさえもできない。

 

自分の不注意でこのような状況に 追い込まれてしまった。そのことに沙弓は凄く腹立たしかった。

 

「まず右腕からだ」

 

男の刀が右腕目掛けて振り下ろさ れようとした瞬間、男達に飛び掛る影があった。

 

男達がそれに気づいて後ろに飛び のく。

 

「かなり鈍いが・・・・・・どう やら気配ぐらいは察知できるんだな」

 

影は庇うように沙弓の前に立っ た。

 

「沙弓、大丈夫か?」

 

「レオン」

 

沙弓の前には人間体になったレオ ンがいた。

 

「散々言ったはずだ。私が蘭から 何の話も聞いていないと思っていたのか?」

 

どうやら怪我のことも全てレオン には最初から知られていたようである。だからレオンは自分に何度も注意をするように言ってきていたのだ。今になってレオンが自分のことを気にして少し嫌味 なことも言っていた理由が分った。

 

「ご、ごめん」

 

「謝るくらいなら最初から無理す るな」

 

レオンはそう言うと男達のほうに 顔を向けた。そして男達の顔を見て何か驚いた顔をする。

 

「雷道・・・」

 

そこにいた二人は神城家で見た雷 道にそっくりな男達であった。だが手にしている刀、そして顔が少し違うことはよくみれば分った。

 

「雷道を知ってるのか、悪いが俺 達は雷道じゃない」

 

「兄弟か、親戚ってところか?」

 

「教えて欲しかったら俺達に勝ち な」

 

「・・・・・・そういうところは そっくりだな」

 

「うるさい!」

 

二人は刀を構えるとレオンに斬り かかった。

 

 

 

 

『レオンのインフィニティールー ム!』

どうもレオンで〜す!

カズと千早と戦うことになった謎 の男女。彼らは一体何者なのか!?

そして沙弓のピンチに駆けつけた 僕は!?

駿司達はいつ出てくるのか?

いよいよ次回は修学旅行編最後、 お楽しみに!


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