血のバレンタインと呼ばれる ユニウスセブン崩壊から既に数ヶ月……同時に地球連合とプラントが開戦してから数ヶ月だった。

世界は今、激しいうねりと砲 火のなかにあった。

開戦とともに地球各国でも大 きな動きが起こり、非理事国であった南アメリカ合衆国が大西洋連邦により武力侵攻を受け、強制併合…貴重な宇宙への道である宇宙港:パナマポートが接収さ れた。

宇宙港を擁さなかった大西洋 連邦はこれによって連合内での立場をより強固なものにすると同時にこの武力侵攻を非難し、大洋州連合とアフリカ共同体は親プラント国家を表明し、食糧や物 資、資源の輸出と引き換えに防衛戦力強化と工業製品の輸出強化を具申。

そして、当初プラント防衛だ けを目的に設立されたザフト軍は国防委員長であるパトリック=ザラの強硬政策により、積極的自衛権を行使することを表明し、地球連合国家の地球と月を結ぶ L1の宇宙ステーション:世界樹コロニーに侵攻を開始。

C.E.71.2月22日、 世界樹攻防戦が開始…連合軍はユーラシア連邦の第1から第3機動艦隊を投入するも、血のバレンタインによりプラントで開発された原子炉を抑制し、尚且つ レーダー波などを阻害する新兵器:ニュートロンジャマーを投入し、これにより連合軍は致命的な打撃を受け、第1と第2艦隊を壊滅させられ、第3艦隊も敗走 した挙句、世界樹コロニーは崩壊し、デブリベルトと呼ばれる地球の衛星軌道に四散することになる。

無論、ザフトが受けた損害も 決して低くはなかった…だが、連合が受けた損害はなおも肥大化し続けた。

地球侵攻を開始したザフト軍 は第一次ビクトリア攻防戦の敗退を鑑み、NJを積極的に使用した赤道封鎖作戦:オペレーション・ウロボロスを発動。

C.E.71.4月1日… NJが地球上に投下され、原子力発電という旧来のエネルギー生産に頼っていた地球連合国家はエネルギー不足による生産能力低下により、多くの死者を出す。 血のバレンタインの報復とも取れる『エイプリル・フール・クライシス』と呼ばれる事件により、地球連合国家内での反コーディネイター思想は高まり、より戦 況は混迷を極めていく。

また、地上における軍事拠点 として大洋州連合領海内:カーペンタリア湾に建設されたカーペンタリア基地に対して連合太平洋艦隊が応戦するも敗退する。

押される連合軍上層部は戦況 打開のために、今一度プラント本国を強襲する作戦を発動し、大西洋連邦の第5、そして第6機動艦隊に対し出撃を命じる。

プトレマイオスクレーターよ り発進した艦隊はプラント所有の資源衛星:ヤキン・ドゥーエ付近に差し掛かる。

先の作戦より約2ヶ月……プ ラントはまた新たな脅威に晒されようとしていた。

 

 

 

 

プラント群のほぼ直前に位置 する巨大な岩の塊…プラントにとっては貴重な資源衛星であったもの、Y字型に突起した形状を持つそれは、プラント所有の資源衛星:ヤキン・ドゥーエだ。今 や、採掘もほぼ終わり、ただの岩の塊でしかないヤキン・ドゥーエは臨時の前線基地になろうとしていた。

月基地より連合の2個艦隊が 発進したという情報をキャッチしたのだ。2ヶ月前の悪夢がザフト兵の脳裏を掠める。

プラントコロニーの一つで あったユニウスセブンを崩壊させた核ミサイル……あろうことか、連合国家内ではコーディネイターの自演自爆と報じられていたのだ。

そのためか、ザフト兵達の表 情は鬼気迫るものがある。

あの悪夢を繰り返すわけには いかず、今度は防衛ラインを構築して迎え撃とうとしている。だが、ただでさえ地上への侵攻で兵力も決して充分とは言えない。

その分をカバーするために、 ザフトは新開発の高速艦:ナスカ級に現在主力兵器となっているZGMF−1017:ジンに代わる次世代型機の開発を急務とし、その過程で開発された次期主 力MSであるZGMF−515:シグーも試験的に導入し始め、このヤキン・ドゥーエにも配備されていた。

そして、ヤキン・ドゥーエの 格納庫では幾体ものMSが立ち並び、そのなかで一際異色を発する機体が在った。

ハンガーに固定されているの は、シグーだが、そのカラーリングは他の同型機が白であるに対し、全身を漆黒に染めている。

その漆黒のシグーの足元に佇 む少女……紫銀に近い髪を靡かせる少女は、リンであった。

あの2ヶ月前の開戦よりリン は幾多の戦場で名を上げ、今やザフトでもラウ=ル=クルーゼらと並ぶ屈指のパイロットとなっていた。

その功績を鑑み、こうして新 型機を優先的に配備され、リンは機体のカラーリングを漆黒へと変更させた。

別段この機体がどうこういう つもりはないが、ただ白が気に入らなかったのだ。

己の機体を見上げながら、リ ンは肩を竦める。

(やれやれ……かなり性急 ね)

ここ最近のザフトの戦略はど うも強引さと無茶が否定できない…ただでさえ物量や資源問題を抱えているというのに、地球への侵攻まで開始したのだ。

世界樹コロニー攻防戦におい てはNJという新兵器を投入し、連合戦力を封じ込められたために3個艦隊という相手を叩けたのだ。MSという兵器もアドバンテージにはなっている…だがそ れは、あくまで宇宙という地の利を生かした作戦だ。

地上侵攻も資源や食糧確保と いう名目はあるが、それでも急ぎすぎだとは思う。まだ連合の宇宙の最大基地であるプトレマイオスも陥ちておらず、完全な制宙権も得ていない。

まずは月基地への補給線を カットしてから、月基地を干上がらせ、兵糧攻めで完全に消耗させてから宇宙を抑えればいいものを…だが、ユニウスセブンが崩壊し、自給自足で未だ満足に活 動できないプラントでは長期に渡る作戦行動は現実的ではない。

ましてや、地上には数少ない プラント支援国家である大洋州連合に対してのアプローチもある……だがそれも、全ては頂点に立つ一人の男の激情が反映されているかもしれない。

パトリック=ザラ……あの 日…崩壊したユニウスセブンには彼の妻であるレノア=ザラが滞在していた。市民に対して開戦という不安な情報を与えることをよしとしなかったのが裏目に出 たようだ。

事前に警戒を促し、市民を シェルターなりに避難させておけばまだマシだったかもしれないというのに…それは明らかにトップの怠慢だが、そんな事を漏らそうものなら周囲からは疎まれ るかもしれないなと内心苦笑を浮かべた。

たった2ヶ月でザフトも次々 と新兵器開発を進め、今ではジンに代わるシグーを筆頭に対地上戦用の機体開発も同時に進められている。

だが、この戦況に業を煮やし た連合軍はまたもやプラントへの直接攻撃に乗り出してきた。ただでさえ地上侵攻に兵力を割いている状態で、兵力が足りないというのに……だが、愚痴っても 何が変わるわけでもない。

既に連合の艦隊はヤキン・ ドゥーエの臨時防衛ラインに差し掛かっている。第一次防衛ラインには機甲大隊が約6配置されている。

《第一次防衛ライン接敵!  繰り返す、第一次防衛ラインにて接敵!!》

刹那、ヤキン・ドゥーエ内に 戦闘開始の報が届く……そして、兵士達はその報に身を強張らせる。

《第3から第7機甲大隊が迎 撃中! 二次防衛ライン……》

前回の教訓を生かし、今回は ヤキン・ドゥーエを最終防衛ラインとし、第一と第二防衛ラインを設定し、第一防衛ラインにヤキン・ドゥーエ防衛隊の約3割を配備し、二次防衛ラインには予 備戦力合わせて約4割が待機している。

最悪でも二次ラインまでで防 ぎたいのだ……だが、万が一に備えて最終防衛ラインのここでも警戒レベルは高いも、やはりここまでは来ないというある種の安心感が漂っていたが、そこへ信 じられない報が届く。

《こ、コマンドポストよりコ ンディションレッド発令! て、敵確認! 敵確認! コンディションレッド発令!》

アラートがヤキン・ドゥーエ 内に鳴り響く。

ヤキン・ドゥーエの司令部は やや混乱する……敵はまだ第一次ラインのはずだ。第一次の防衛隊があっさり抜かれるはずがない。

だが、これは連合軍の作戦 だった。

ヤキン・ドゥーエ付近の防衛 ラインに現われる地球軍第5艦隊旗艦:ルーズベルトと数十の艦隊。

ルーズベルト艦橋では、艦隊 司令のバンがほくそ笑んでいた。

「こんな陽動に引っ掛かり おって…所詮は民間の軍組織」

罵るようにうそぶく…第一次 ラインに差し掛かったのは第6機動艦隊とその他の小艦隊からなる部隊だ。前線に敵を引きつけ、その隙を衝いて別働隊が本隊を強襲する…先のユニウスセブン 崩壊の恐怖による前線強化を見越した布陣だった。

やはり、いくら能力が高くて も所詮は設立されて日が浅い民間組織…年月による軍組織としての経験は連合に及ぶものではない。

バンの指示のもと、艦隊より ミストラル群とそれに混じってメビウス隊も発進していく。まだ全体の3割ほどだが、このメビウスも初期型のマイナーチェンジ型で徐々に完成度を高めてい る。

そして、突然の奇襲を喰ら い、防衛ラインにいた少数の警戒機が集中砲火を浴びて撃墜される。このヤキン・ドゥーエの警備機にはまだプロトジンが使用されており、機動力は低い。

ヤキン・ドゥーエではすぐさ ま待機している全部隊に出撃が降る。

《ホーネット小隊、及び第 11から第15機甲中隊は正面に展開! ガーネット及びヴィクター、ダグラス隊は左翼に展開せよ!》

次々とドックから発進してい くローラシア級にナスカ級……戦艦の格納庫、そしてヤキン・ドゥーエのハッチから発進するMS隊。

ジンが迫り、突撃銃でミスト ラルを蹴散らす…ミサイルを放ち、駆逐艦の艦橋とエンジンを直撃し、轟沈させる。

駆逐艦が数隻掛かりで艦砲を 放ち、ローラシア級の船体を貫き、撃沈する。

激しい砲火が轟くなか、リン もまたシグーを駆って戦場を舞う……宇宙の闇に溶け込むような漆黒のボディに標的にされた連合兵は微かに恐怖を憶える。

ミストラルが機銃を放ち、銃 弾を浴びせるもシグーの装甲に跳ね返される。シグーは左腕のシールドから重斬刀を抜き、一気に加速してミストラルを叩き斬り伏せる。

装甲がひしゃげ、歪んだミス トラルが蛇行し、次の瞬間には宇宙に消える。

「流石…ジンとは機動性が違 う」

操縦桿を切りながら微かに感 嘆の声を漏らす。

シミュレーションで何度か やったが、やはり次期主力機だけはあり、機動性が高い。しかし、レスポンスの反応や細かな機動がまだ不満があるといえばそうだが…そこまで考えて、リンは 内心に向かって自嘲した。

(何を考えている…私 は……)

何時の間にか、こうしてMS を駆って戦場に出ることに慣れてしまっている自分がいる…そして、今の機体に…力を発揮できない状況にもどかしい思いを抱いている自分がいる。

死に場所を求めてザフトに 入ったというのに…だが、リンに齎されるのは相手の死ばかり……自身への侮蔑と不満…それがリンのなかに言い知れぬ靄を生み出す。

(私は何故ここにいる……)

戦闘のなかで囁かれる言 葉……自分は禍がいもの………この髪も…瞳も…顔も……能力も…全てが幻でしかないというのに………何故自分は今ここで存在している………

炎のなかに消えた一人の顔が 過ぎる……何故、と………何故私はこの世界に生かされていると………逡巡していたが、そこへ戦線の状況を告げるレーザー通信が届く。

《第一演習場に敵侵入! 第 4から第9防空隊は支援に向かえ!》

《くっそぉ! こちらヴィク ター中隊! 支援砲撃を要請する!》

ヤキン・ドゥーエ付近に設け られたMS演習場へと突撃してくる数十のミストラル群に対し、十のMS部隊では流石に分が悪い。

《CPよりヴィクター1、 360秒後に防空隊が支援砲撃に入る! 持ち堪えろ!》

第一演習場に殺到するミスト ラルに向けて広域攻撃オプション兵装:D装備のジン部隊が一斉にミサイルを発射し、ミストラル群に向かって伸びる数十のミサイルの弾頭……刹那、眩いばか りの閃光がいくつも発され、ミストラルが次々に破壊される。

だが、連合には一個艦隊の戦 力があり、数ヶ所に防御を強めれば、当然穴が空く。

《敵艦及びMA一群が第2防 衛線に侵入! ホーク小隊及びハーミット中隊は迎撃に向かえ!》

《了解! ハーミット1より 各機! ナチュラルどもを一匹たりとも通すなよ!》

いきり立つ指揮官に続き、 ハーミット中隊及びホーク小隊がヤキン・ドゥーエより飛び立ち、敵軍と接敵する。

《こちらホーネット2!  ホーネット1がやられたっ! 残存はダグラス2とホーネット5のみだ! 増援か支援砲撃を寄越せ!》

《CPよりホーネット2へ… 現在ヤキン・ドゥーエ正面に砲撃を集中中! 支援砲撃の再開の目処は立っていないっ!》

正面から突破を試みるような 部隊は少ない…故にそこへは防衛隊ではなくヤキン・ドゥーエの対空砲を駆使して防御しているが、元々資源衛星を臨時に急遽前線基地にしたために迎撃設備に 乏しいのだ。そのために各戦線への支援砲撃が円滑に進まない。

戦線は一進一退…少ない防衛 隊だけで耐え切っているのはシグーといった数少ない新鋭機とザフト兵個々の能力高さ故にだが、やはり連合の方が物量が上回っている。

確認されたのは地球軍の第5 機動艦隊…艦隊中央に確認されたアガメムノン級のIFFはルーズベルト…数ヶ月前にもプラントに攻撃してきた艦隊旗艦だけにザフト兵の怒りも凄まじい。

ルーズベルトを墜とそうと躍 起になるも、ルーズベルトは艦隊中央の後方に位置し、なかなか到達できない。

歯痒さが漂うなか、たった一 機で迎撃していたリンは口元を微かに歪める。

「こちらセイバー3、補給を 行ないたい…一番近い補給ポイントへの誘導を頼む」

素早く宙域図が表示される と、浮遊している補給コンテナへと接近し、コンテナ内の弾倉を突撃銃に装填し、さらにリンは大型のプロペラントタンクを機体へと装備させる。

そして、機体を翻して艦隊へ と加速する……ルーズベルトを最深部に配置し、周囲を護衛艦と駆逐艦で固める布陣…その布陣に自身の安全を確固たるものにしていたバン……シートに座りな がら、前方で繰り広げられる戦況をニヤついた視線で見詰めている。

「フン、コーディネイターど もめ…核など無くても貴様らを叩き潰せることを思い知らせてくれるっ」

先のユニウスセブン破壊で盟 主より直々の昇進を受け、中将へと昇格した。

そして、この作戦に成功すれ ば参謀本部へと抜擢されることも夢ではないと野心を燃やしながらほくそ笑んでいたバンのもとに一人のオペレーターが声を上げた。

「提督、ザフト軍機が我が艦 隊に向けて加速中」

「何…数は!?」

「IFF確認…数は……正気 か? 一機です!」

一瞬眼を剥くも、その報告に クルーの誰もが我が耳を疑うように笑い飛ばした。

たかが一機……こちらは数十 の艦と百近いMAが旗艦を固めている。いくらMSでもたった一機で艦隊旗艦に向かってくるなど自殺願望としか思えない。

だが、だからといって見逃す つもりは無い…いや、むしろ自身の無謀さと愚かさを思い知らせるために派手に撃墜してやろうと黒い感情が渦巻く。

「対空砲準備! MA隊は配 置に就け!」

MS一機では艦砲は意味がな い…MAの防衛ラインを突破できるとは思わないが、一応念のために対空砲のスタンバイを行なう。

「敵機補足…モニターに回し ます!」

正面モニターに表示される高 速で接近する機影……漆黒のボディを映えさせるシグーにやや表情を顰めるも、迷彩用に塗装しただけと切り捨て、そしてMA部隊が一気に襲い掛かった。

 

 

 

数十のミストラルが集中砲火 を浴びせるなかを掻い潜るように機動するシグー…リンは操縦桿を巧みな操縦で切り、砲火を紙一重で回避する。

(まともな神経じゃできない な……っ)

内心苦笑を浮かべる…たった 一機で敵艦隊に突撃をかけるなど、傍から見れば自殺願望以外のなにものでもない。

だがそれでいい……こうして 感じる死の風が…刃が……リンのなかの不満を紛らわせてくれる。

狂っていると自身で罵りなが ら…狂気を抱いた漆黒の戦士が死神の舞踏会へと舞い踊る。

ミストラル群に急接近すると ミストラルは動きが鈍る…固まって行動し、尚且つ近接用装備が乏しいミストラルでは懐に入り込まれては対処手段が無い。

接近戦を仕掛けるシグーはミ ストラルのコックピット目掛けて突撃銃を放ち、弾丸が強化ガラスを破壊し、コックピット内のパイロットを肉塊に変えて爆発させる。

振り向き様に一機を叩き伏 せ、弾かれたミストラルが僚機に激突し、2機が爆発に消える。

数機を墜とし、気にも留めず 加速を緩めない…ここで加速を殺すのはそれこそ時間の無駄だ。

NJはザフトにも当然ながら 核動力を封じるという制約を与えた。そのためにMSは初期型を除いて全てがバッテリー駆動に換装している。

このシグーもバッテリー駆動 を前提に設計されている…そのために、単機での長距離航行及び長時間戦闘は不可能だ。

時間は無駄にはできない…加 速したまま一気に艦隊に迫る。

護衛部隊を突破された艦隊群 は対空砲を放ってくる…その弾幕に臆することなく、リンはシグーのバックパックに装備していたプロペラントタンク一基を解除し、駆逐艦に向けて放り投げ た。

高速で迫るタンクが真っ直ぐ 伸び…加速を得た質量は大きな破壊力となって駆逐艦の環境に激突し、爆発が起こる。

態勢を崩した駆逐艦…そし て、誤操作か……駆逐艦のビーム砲台が発射され、隣にいた僚艦にビームが着弾し、船体を貫かれて轟沈する。

その光景に艦隊を混乱が襲 う……弾幕の緩んだ隙を衝き、ルーズベルトへと迫るシグーの前にメビウスが立ち塞がってくるも…リンはシグーのシールドをパージし、振り回すようにメビウ スへと叩きつけ、弾かれたメビウスは蛇行して加速したままルーズベルトの前方にいた護衛艦の艦橋へと激突し、護衛艦の艦橋が潰れ、爆発が起こる。

それらの光景にルーズベルト の艦橋ではバンは驚愕に眼を見開いていた。

「バ、バカな……」

茫然と呟く…眼の前の光景が 信じられない……こちらは数十の艦隊にMAが布陣した鉄壁の防御網だというのに…それがたった一機のMSによって蹂躙され、いいようにされている。

その茫然とした時間が……生 死を分けた………加速したシグーがそのままルーズベルトの甲板を滑るように飛行し、一気に艦橋に迫る。

ブリッジ正面の強化ガラスに 肉縛するシグー……そのモノアイが不気味に輝き、ブリッジにいる者達を凝視する。

「く、黒い悪魔……」

漆黒の衣を纏った死神……触 れてはならないものに触れたという禁忌と後悔…そんな感慨さえ抱く間もなかった。

シグーが右手の重斬刀を振り 被り、ブリッジに向けて振り下ろす…それが、クルー達の最期の光景となった………

刃がブリッジを叩き潰し、鋼 鉄の刃がバンの身体を真っ二つに斬り裂く…血が飛び散るなか、シグーは離脱をかける。

後退と同時に左手の突撃銃を 放ち、ブリッジを粉々に撃ち砕く。

火花が散り、艦橋が炎に包ま れる…連動し、船体にも炎が誘爆し、ルーズベルトの艦内を侵食していく。

刹那……ルーズベルトは宇宙 の塵となって燃え盛った………閃光が煌くなか、その爆発を無表情に見下ろすリン………

「………この程度では、まだ か」

無感動に…そして、己の手を 見やりながらリンは毒づき、離脱した。

この後、ルーズベルト消失と いう報が駆け巡り、中枢を喪った第5機動艦隊は敵陣深くにまで突撃していたのが仇となり、浮き足立って各個撃破され、艦隊は壊滅する。

また、陽動をかけていた第6 機動艦隊を中心とした機動軍も多大な損害を受け、撤退を余儀なくされた。

この戦闘で連合軍は一個機動 艦隊を喪うという大敗を喫するも、ザフト軍もヤキン・ドゥーエ本体には攻撃はなかったものの、防衛ラインの再構築を急務とし、ヤキン・ドゥーエを前線基地 へと改修を決定することになる。

こうして、第一次ヤキン・ ドゥーエ攻防戦と呼ばれることになった戦闘は終結することになった。

この戦いでリンは旗艦:ルー ズベルトを含めた戦艦3隻、そしてMA63機を撃墜するという功績を挙げ、搭乗していた漆黒のシグーから『漆黒の戦乙女』という二つ名を得ることになる。

 

 

 

 

数週間後……リンはヤキン・ ドゥーエにて改修されたシグーを見上げていた。

ハンガーに固定されているシ グーはその様相を大きく変えている。両肩および脚部に高機動用バーニア、バックパックには従来のスラスターを大型化し、スタビライザーを追加している。

 

――――――ZGMF− 515C:シグーカスタム機・ヴァルキリー

 

第一次ヤキン・ドゥーエ攻防 戦において戦績を上げ、リンは搭乗していたシグーのカスタム化をパトリックの承認され、内部パーツから精度の高いものに交換し、さらにリンの戦闘スタイル と要望でカスタマイズ化が施された。

そして、改修されたシグーは 『ヴァルキリー』というコードネームを与えられることになった。

恐らく、『漆黒の戦乙女』と いう名に沿ったものだろうが……リンは肩を竦める。

(ヴァルキリー…戦乙女…… 私にとってこれ程似つかわしくない言葉はないな)

第5艦隊旗艦撃破という戦績 は広報課によって異常なほど誇張されて報道されている。リン自身、戦績などに興味はない。

地位や名誉など、なんの価値 もないものだ。

佇む愛機を見上げながら、リ ンは眼を微かに細める。

「あんたは……死神よ…私と 同じ……死神に魅入られた…ね………」

嘲笑を浮かべるように悪態を つき、リンは背を向ける…不意に、胸元のペンダントが揺れる。

先端に輝く真紅のクリスタル が煌く。

(私は…いつになったら終わ れるのかしらね………姉さん………)

脳裏を掠める存在に呟き、無 意識にペンダントを握り締めた。

強化ガラスに映る宇宙……見 えない闇の先にある運命に……リンはただただ感じていた………

 

 

この後……リンは幾多の戦場 を渡り歩き、特務隊へと転属となる。

『ヴァルキリー』という機体 を駆り…『戦乙女』と『死神』という相反する意味を持つ少女は戦場を駆け抜ける………

この半年後…彼女は自らの運 命と対峙することになる………『進化』という剣を得て……

過酷な運命へと導く嵐が静か に迫ることを………今の彼女は知る由もなかった…………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

PHASE-Silent Valkyries  〜リン=システィ〜

END

 

 

 

 

 

NEXT PHASE-Dance Party  〜リフェーラ=シリウス〜

 

 

 

 

 

 

プロトメビウス

形式番号:TS−MA

全長:14.26m

重量:21.1t

備考:連合内で試作された戦闘型MAのプロトタイプ。

主力兵器であるミストラルが作業用MAを改装したものであるのに対し、こちらは純粋 な戦闘兵器として設計されている。

武装はハードポイントにより換装が可能だが、装甲は従来のミストラルのものであるた めにやや脆弱。

連合軍がミストラルに代わる主力兵器計画の一環として開発をスタートさせ、ロールア ウトした数十機が第5艦隊旗艦:ルーズベルトに艦載され、実戦運用データ収集のためにプラント攻略戦に投入されるも、ザフト側が投入した新型兵器:MSと の戦闘で機体はほぼ大破か未帰還となり、データ収集もままならかったために計画は一時頓挫し、以降段階的にマイナーチェンジを施しながら大戦初期に少数が 戦線に投入され、データ収集と運用に当たる。

やがて、これらの実戦データから後に対MS戦を想定した特殊機開発コード:ZERO へと移行する。

武装:・機関砲×2

・ミサイル×4

・リニアガン

 

クラウス=ミラーズ

サイドストーリーオリジナル キャラ。

地球連合軍第5機動艦隊MA 部隊指揮官で階級は中尉。

連合で試作されたMA:プロ トメビウスのパイロットとして血のバレンタイン攻防戦に参戦。

だが、ジンとの性能差を覆せ ず、彼の率いる小隊は壊滅。そして、クラウスもまたリンのジンとの攻防の結果、撃破され、戦死する。

最終階級は2階級特進で少 佐。

同じ士官学校出身の技術士 官:マリュー=ラミアス少尉とは恋人同士であったものの、撃墜したリンはその事実を知らず、マリューもまたリンがクラウスを撃墜した相手だとは知らぬまま となる。

イメージCV:堀川 りょう

(幽遊白書:鴉、名探偵コナ ン:服部平次、聖闘士星矢:アンドロメダ瞬、ドラゴンボールZ:ベジータ、機動戦士ガンダム0083〜スターダスト・メモリー:コウ=ウラキetc……)

 

チェスト=バン

サイドストーリーオリジナル キャラ。

地球連合軍第5機動艦隊旗 艦:ルーズベルト艦長にして艦隊司令官で階級は少将。後に血のバレンタイン攻防戦において特務を果たしたことで昇進し、中将となる。(ただ、この昇進も特 務という以外、公式記録には残されておらず、またある一人の政治家の癒着があったとされるが、真相は定かではない)

40代の男であり、コーディ ネイター排斥を掲げるブルーコスモス強硬派の一員であり、ユニウスセブン崩壊を担った核ミサイルを極秘裏に運搬し、艦載させた。

後に第一次ヤキン・ドゥーエ 攻防戦において、奇襲を行なうも、リンの駆るシグーに艦橋を吹き飛ばされ、戦死。

その際に彼が漏らしたリンの シグーの姿を、『黒い悪魔』と称した。また、リンに『漆黒の戦乙女』という異名を持たせる戦績にもなった。

イメージCV:玄田 哲章

(Drスランプアラレちゃ ん:スッパマン、聖闘士星矢:アルデバラン、機動戦士ガンダム:スレッガー=ロウ、魔神英雄伝ワタル:龍神丸、クレヨンしんちゃん:アクション仮面、幽遊 白書:戸愚呂・弟etc……)

 


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