人里外れた山の奥深く……生い茂る原生林から微かに昇る硝煙………

黒雲が立ち込め、雷鳴が轟 き、激しい豪雨が降り注ぐ………

 

 

煙が立ち昇る場所……焼け落 ちた家屋と思しき納屋は、黒く変色し、灰と化している。

崩れ落ちた家々に転がる炭の ような物体……それは、人の形を成していた………

冷たく降りしきる雨が、それ らを粉々に洗い流していく………

 

死と静寂が漂う村の中を、一 人の少女がフラフラとした足取りで歩いていた………

眼は虚ろで、足元もおぼつか ない。

当然だろう……自分のいた村 のこの惨状を見れば………うまく働かない思考………悪夢のような光景………そして、少女はつまずき、倒れ伏す。

だが、もはや傷みなど感じな い…眼前に転がった人だった炭が眼に入る。

全身を焼け爛れ…もはや誰か を判別することもできない……しかし、少女の視界にある物が飛び込んできた。

手と思しき場所に輝くも の………先端に水晶のようなものが取り付けられたペンダント………それを見た瞬間…少女は掠れた声を上げながら、その手を握る………

ペンダントを持った手を握り 締める…だが、相手の手が崩れ落ち……少女の手にペンダントのみが残る………

「あ……あぁぁ………」

眼に涙が浮かび……その人物 の炭に縋りつく。

 

 

うぅぅぅ…… うぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっ

 

 

少女は眼から血の涙を流 し……悲痛な叫びを上げた………

雷鳴と豪雨に混じり…その叫 びは轟いた………

 

 

 

風の聖痕    黒の断罪者・蒼き継承者

第零話    黒衣の復讐者

 

 

 

「………うっ…うぅん…」

閉じていた瞼が動き……一人 の女が眼を覚ました………

「うぁぁぁぁっ……よく寝 たぁ………」

軽く背伸びをし、身を起こし ながら、脚についた埃を払う。

「目覚めは最悪だけ ど………」

愚痴りながら、女は凭れ掛 かっていた壁から起き上がり、ゆっくりと前に向かって歩いていく。

周囲には、オフィスビルが建 ち込め、ネオンが煌びやかに輝いている。

人気のない一つのビルの屋上 に立つその女は、ゆっくりとビルの手すりに近付くと、眼下を見据える。

そこは……豪邸であった。

権力者の館らしく、広大な敷 地に煌く輝き……そして、庭には多くの警備員が控えている。

見回していると…女の眼が細 まる。

邸の玄関口に、黒塗りの高級 車が現われた………その窓から微かに覗く顔を見た瞬間…女の口端が微かに吊り上がった。

車が邸の中へと入っていく と……再びその重厚な扉は閉じられる。

だが……その瞬間を待ってい たように、女は手すりの外に立った。

「さぁ………始めよう……… 断罪を………」

小さく呟くと……女は数十 メートルはあるビルからなんの躊躇いもなく飛び降りた。

風が、女の黒髪と漆黒のコー トを靡かせた………

 

 

 

数分後……その邸から大きな サイレンが響いた。

正面玄関が破られ、何者かが 侵入してきた。

警備に就く者は当初、単なる バカの暴走と解釈した……自分達が仕えている人物には、敵が多い……だが、ここには最新鋭の警備設備と中にはプロと呼ばれる者まで揃っている。

それこそ、軍隊や特殊部隊で もなければ突破できないほどの警備網……緊張した一同の中で告げられた侵入者は、たった一人……それを聞いた瞬間、誰もが気を抜き、罵り合った。

だがそれは……数分後には覆 された。

外で警備に当たっていた者全 てが殺されたのだ……カメラには、警備員に向かっていく黒い人影が映っている。

警備員が発砲するが、人影は まるで風のように弾丸を避け、懐に飛び込み……手に持った刀を振り上げ、警備員を惨殺していく。

血が飛び散り…悲鳴が響 く………

 

人影は逃げ出そうとする者ま で、手当たり次第に容赦なく斬り捨てると…目標の邸へと侵入する。

邸の扉を叩き潰し……その瞬 間、玄関ホールに控えていた特殊部隊が一斉に発砲する。

数分間に渡って続く発砲…… それが止み、皆が舞い上がる噴煙の向こう側に注意を向ける。

だが……噴煙が晴れる と………そこには誰も居なかった………

怪訝そうな表情で窺う一人が 妙な感覚に襲われ…自分の身体を見ると……自分の片腕がなくなっていた………血が噴出し…悲鳴を上げる警備員…だが、それも次の瞬間には遮られた。

天井部から降りてきた人影 が、その男の口を掴み、そのまま頭を床へと叩き付け、後頭部を殴打され、男は絶命する。

一同が呆気に取られる中 で……その人影が顔を上げる………長い、艶やかな黒髪…全身を漆黒の服装に漆黒のコートを羽織り、さらには黒曜石のような深い輝きを持つ瞳……絶世の美女 と形容する女がそこに立っていた……手に、血で真っ赤に染まった刀を携えて………

 

 

十数分後……邸は騒音から静 けさを取り戻していた……いや…それは、邸の中にいたほとんどの者が殺し尽くされ、人の気配が消えたからだ。

その死の静寂を生み出す女 は、ゆっくりと目的の人物がいると思しき場所へと歩んでいた。

それを阻む者はいない……い や…相手にすらならない。

女は目的の部屋の前に立 つ……そして………その扉に手をかけようとした瞬間…眼前が閃光に包まれた。

 

 

小規模な爆発が起こり…部屋 の中に煙が立ち込める。

「や…やったぜ………!」

部屋の中にいる重装備に身を 固めた男の一人が叫び上げる。

手には、バズーカ砲が握られ ていた…先程の爆発は、このバズーカによるものだ。

「ほっ……まったく…なんな んじゃ、あの女は……」

部屋の主……この邸の主でも ある男:倉岡哲夫は毒づいた。

「先生には敵が多いですから ね…大方、どこぞの奴が雇った鉄砲玉でしょうが……これには敵わなかったようですね」

部屋の中に布陣する哲夫を護 る護衛の傭兵…その中のリーダーらしき人物が揶揄するように呟く。

「まったくじゃ…やはり、高 い金を出して雇っただけのことはある……しかし、なにか妙に熱いのぉ……」

いい気分で笑っていたが、周 囲から立ち込める熱気に哲夫は汗を拭う。

「た、隊長……」

その時、部下の一人が震えた 声を上げ……二人が振り返る………部屋の入り口…先程、バズーカを放って粉々になった場所に立ち込めていた噴煙が拡散する。

その瞬間…全員が眼を見開い た。

そこには、女が無傷で立って いた……いや、なにか様子が違った。

黒髪が上へと靡き、周囲には 黒い炎のようなプロミネンスが立ち昇っている。

その中心に、眼を閉じた女が 佇んでいる……女がこちらを見やり…その瞳を開ける。

左眼は、黒曜石のような全て を吸い込むような黒……そして、右眼は…血のような真紅で染まっていた……その眼光には、冷たい殺気が漂っている。

部下達は恐怖にかられ、弾か れたように発砲する……だが、女性が右手に持った刀を翳し…振り下ろした瞬間………周囲に立ち込めていた黒い炎が一斉に襲い掛かった。

 

ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっ

 

断末魔の叫びが響き渡り…部 下達は一瞬のうちに灰となった………

その灰を踏み付け、女はゆっ くりと歩み寄ってくる。

「くっ……この化け物 がぁぁぁぁぁ!!!」

リーダーの男が最後の抵抗に 出るが……女は一瞬の間に男の懐に飛び込む。

「なっ……!!」

驚いたと同時に……彼の意識 は途切れた………

女は男の口に向かって刃を突 き刺し……喉を貫かれた男の頭を斬り飛ばす………

噴上げる血……夥しい血が哲 夫に降り掛かり……それを理解した瞬間、哲夫は恐怖に表情を変え、悲鳴を上げる。

「ひぃぃぃ…い、命ばかり は……」

見苦しい言い訳を始めた哲夫 の頭の横スレスレに刃を突き出し、壁に突き刺す。

頬を血が伝り……哲夫は腰が 抜け、その場に座りつくす。

「……聞きたいことがある。 3年前……爪ヶ村を襲わせたのは………あんたね?」

怯えて声が出ない哲夫の胸倉 を掴む。

「答えなさいっ!」

「ひぃぃ……そ、そうです!  あ、あの時は仕方が………」

言い訳を許さず、女は男の口 を抑える。

「最後にもう一つ……襲った 実行犯は………」

「あがっ……か、神 凪…………」

絞め上げられる中で、片言で 呟く……

(神凪……成る程………屈指 の炎術者………やはりね)

確信を得ると…女はその細腕 の何処にそんな力が、と思わせるように哲夫を持ち上げ……真紅に輝く右眼に黒い炎が宿る。

「………地獄で詫びなさい」

その瞬間…周囲を黒い炎が舞 い上がり……腕を伝って哲夫の身体を包み込んだ………

悲鳴を上げる間もなく……… 哲夫はその存在を完全に消された………

 

それを見届けると、女は突き 刺していた刀を抜き…血を振り落とすと、コートの裏に忍ばせていた鞘に収める。

そして………殺戮の邸から立 ち去っていく………

 

 

 

数時間後……けたたましいサ イレンが響き、邸の前には何台ものパトカーと救急車が駆けつけて来る。

その様を離れたビルの屋上か ら見届けながら、女は漆黒の夜に輝く月を見上げる。

「翔麻………もうすぐよ…… もうすぐ………終わる………終わらせる……私の手で」

首元のペンダントを握り締 め……女は唇を噛む。

「私は…そのためだけ に………生きてきた………」

握り締めた拳から、黒い炎が 零れる………

 

 

 

「神凪………私からすべてを 奪ったもの…………お前達に………黒き滅びを………」

 

 

 

風が吹き荒む……女を包み込 む殺意と狂気を乗せて………

 

 

 

 

 

【後書き】

SEEDも忙しいというの に、欲張って風の聖痕にまで手を出す始末・・・

堕天使殿のSSに触発されて 書き始めてみました。

和麻と百合の戦い・・・それ らを書いていきたいと思います。

ではでは・・・SEEDもよ ろしく。




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