眼前に迫り来る刃。

彼の眼に映る様は、死神の鎌。

周囲を全て塗り潰したかのような闇の黒が包むなかで、その暗闇を纏ったかのような機体が己の命を刈り取ろうと迫る。

「ぐっ」

向けられる刃に歯噛みしながらも、操縦桿を切る。それに連動し、自身の駆る機体が反応し、行動を起こす。

次の瞬間、眼前には刃を振り上げたまま硬直する死神の姿が変わり、別のものへと変わる。振り上げたままの体勢で止まる機体のボディを貫く青い光刃。その光刃を握り締めるのは、紛れもない自身の機体の手…いや、己の手。

それを知覚した瞬間、言いようのない悪寒と吐き気が身を襲う。震えるように手を顔の前に近づけ、眼を驚愕に見開く。

赤く染まった両の手…それが激しく息を乱し、動悸が胸を鳴り叩く。

「兄…さん………」

耳に…いや、まるで頭に直接響いたかのようにハッとすると、赤く染まる手の下には、こちらを覗き込む顔。

金色に深く彩られるその瞳が、真っ直ぐに凝視していたが、その額から血が流れ、顔の輪郭が崩れていく。肉片が砂のように崩れ落ち、顔の形がみるみる変わり、まるで泥でできた死者のような苦悶に歪んだ顔が眼前に迫る。

ほぼ直前まで迫った瞬間、意識が暗転した。







「うわぁぁぁぁぁっ」

悲鳴を上げながら、ガバっと身を起こすマコト。

「はぁ、はぁ、はぁ………」

呼吸が乱れ、顔には汗がビッショリと浮かんでいる。ただ息を乱していたが、弾かれたように手を見やると、そこにはただの見慣れた手。トラブルコントラクターとしての生活のなかで荒れた、カサカサに近い無骨な手があるだけだった。

「ゆ、め……」

搾り出すような声でようやく発した。先程まで見ていたのは夢だったのだろうか。だが、それにしては妙にリアルな感覚が内に残っている。

「気がついたかね?」

呆然となっていたマコトは、唐突に掛けられた声にハッとし、振り向くと、見知らぬ白衣を着た男が佇んでいた。

困惑するマコトを他所に、男は手元のカルテらしきものを見やりながら頷く。

「うん、打撲跡が多少あるが、それ以外は問題ないな」

一人完結し、そのまま離れていく男にマコトが慌てて声を掛けた。

「あの、俺はどうしてここに? それにここは…」

「ここは、戦艦ミネルバの医務室だ。君は、救助されてここへ運び込まれたんだ」

簡潔に伝え、そのままデスクに向かう男に、マコトは聞かされた内容に眉を寄せる。

確かミネルバは、シン達が搭乗予定の新造艦ではなかっただろうか。それに救助されたとは…そこまで考えて、ようやく記憶が戻ってきた。

あの死神の戦闘に巻き込まれ、そのままコロニー外へと放り出され、そこでまた見知らぬMSによる強襲を受けたことを。

(そう言えば、カスミは…)

セレスティには自分のほかにカスミも乗っていたはずだ。慌てて、周囲を見渡すと、すぐ傍に置かれたベッドに眠るカスミがあった。

まだ目覚めていないのか、静かな表情で眠りに就いている。その寝顔を覗き込みながら、先程まで見ていた夢が脳裏を過ぎる。

崩れていくカスミの姿…まるで、死霊のように迫る光景が甦るも、慌てて被りを振る。

「あまり女の子の寝顔を見ちゃダメですよ」

そんなマコトに今度は先程の男とは違う声が掛かり、振り返ると、今度は見覚えのある顔があった。

「あれ、マユ…ちゃん?」

そこには看護士用の制服に身を包んだシンの妹のマユがいた。

「はい、カスミちゃんも大丈夫ですよ。ただ気を失ってるだけですから」

頷くと同時にカスミを見やり、笑みを浮かべる。その言葉に一応の安堵を憶えるも、すぐさま先程の疑問を口にする。

「あのさ、何で俺達ここにいるんだ? ミネルバって確かドックに固定されてたやつだろ?」

いくら救助されたからといっても、その治療でわざわざ軍艦に運ぶのはどうも腑に落ちない。だが、肝心のマコトは一つの点を抜け落ちさせていた。それを次のマユの言葉に認識させられた。

「ああ、それはマコトさん達をお兄ちゃん達が救助したからです。それと、ミネルバは今は宇宙にいるんです」

「へ?」

思わず、眼が点になり、間抜けな声を上げる。

今、マユは何と言ったのであろうか…聞き間違いかと思い、もう一度問い返してみた。

「あのさ、今ミネルバが宇宙にいるって……」

「なんだか、あの事件の犯人達を追っているみたいなんです。お兄ちゃん達はそのせいでずっとハンガーに詰めっきりで……」

屈み込み、小声で呟く。後ろにいる軍医を気にしているようだ。マユは正式なクルーではないうえ、おまけに軍事行動を民間人に伝えるのは規定に反する行為だからだ。だが、そんなマユの気遣いも、マコトには意味が無く…眼を驚愕に見開く。

マコトの認識では、まだアーモリー・ワンにいるとばかり考えていたのだか、それを大きく覆して作戦行動中の軍艦…おまけに、先の強奪事件のための新造艦のなか。

あまりの状況に、暫し呆然となる。そんなマコトを首を傾げながらマユは見詰めた。







機動戦士ガンダムSEED ETERNALSPIRITSS

PHASE-11  迷図







宇宙を航行するミネルバ艦内において、移動する人影。

頭を包帯で巻いたラクスが先導し、その後ろをキラがつき、随行されるこちらもやや憔悴したような表情を浮かべる雫と、作業服に身を包んだ刹那。その後ろをリンが歩んでいた。

一同は怪我の手当てを終え、これから面会のために艦長室に向かっていた。

後方でつくリンはやや溜め息混じりに息を吐く。アーモリー・ワンを発ってから既に半日。あのまま連行されていたが、その過程でラクス達が見咎め、なんとか保証人ということで一応の解放にはなったものの、やはり憂鬱さは晴れない。

その原因は、考えるまでも無い。あの姿を消した死神の行方だ。

(いったい、奴は……)

何度も内に反芻させる疑問。身柄が解放され、こうして面談までの僅かな時間、リンはラクスの計らいで滞在部屋を用意され、そこの端末で先の戦闘で得たライブラリデータを検証した。

ザクウォーリアのレコードデータを艦に収容された時に持ち出し、それを端末で再生し、今一度あの死神の動きを見てみたのだ。

画面越しに映る死神の動きをトレースし、リンの脳内でシミュレートしてみる。死神の動きを幾度となく見た姉の機体の動きに重ねる。姉は元々接近戦を好むような性格ではなかったが、それでもその動きはやはりどことなく重なるものがある。データ以上に、実際に戦ってみて感じたのだ。

だが、奇妙な違和感に気づいた。

(いくら動きを見覚えたとしても、パイロットの癖までは真似できないはず)

動きを真似るだけなら、確かに不可能ではない。だが、そこにパイロット自体の操縦の癖や特性までが出るとなると話は変わってくる。

全体的に見れば、確かにレイナと似てはいたが、それは精々7割程。だが、戦闘の最中に感じた瞬間の反射神経や動体視力、反応速度などはリンにレイナを錯覚させる程の動きをみせていた。

(そして…何故、奴がアレを持っていたのか……)

もう一つ…気に掛かることがある。相手の顔を確認しようと強引に接触回線を繋げてみたが、肝心の顔はバイザーに隠されていて解からなかった。だが、ゼロの胸元で揺れていたのは、間違いなくリンとレイナ…二人にとって命より大切なもの。

アレを身から離すことは決してないはずだ…なら何故、あのゼロがそのペンダントを持っていたのか、そして何故レイナと同じ動きができるのか……そして…そのゼロが、失踪したレイナの行方に関して何かしら関わっているかもしれないという可能性。

だが、それを判断するのも探るのも現状では無理だ。小さく溜め息を零し、やがて一同は部屋へと到着する。

「お待たせしました、こちらで議長はお待ちですので」

乗艦し、手当てを終えてようやく面会の許可が下り、案内してきたラクスが促すと、雫も頷く。

「失礼します」

先導して入室し、艦長オフィスの来賓用のソファには、デュランダルが腰掛け、その後ろにはタリアが佇んでいる。

「議長、斯皇院外交官、及び随員の真宮寺氏をお連れしました」

一礼すると、デュランダルは柔和な笑みを浮かべ、ソファより腰を浮かす。

「ありがとう。どうぞ」

促す先に頷き、ラクスがデュランダルの隣に移動し、キラはタリアの隣に立つ。リンはドア付近の壁にもたれ掛かり、そんな不遜な態度が気になったのか、タリアが視線を一瞬向けるも、気にも留めない。デュランダルをチラリと見やると、頷き返したので渋々視線を戻す。

そして、その向かい側に雫が座り、その後ろに刹那が立つ。

「このような状態でお顔を合わせることを、申し訳なく思います。ですが、御了承を…」

戦闘に巻き込まれた影響か、雫の顔には細かな傷があり、そして服装もやや汚損している。一国家元首との面会としては最悪の身なりだが、流石に駆け込んだだけにどうしようもない。

「いえ、外交官が無事でなによりです」

「感謝を」

デュランダルが被りを振ると、雫は頭を下げる。そして、揃って腰掛ける。

「そう言えば、議長にはまだご紹介しておりませんでしたね。後ろに立つのは真宮寺曹長です。私の護衛を務めていただいております」

雫が促したので、刹那が静かに敬礼する。

「大日本帝国軍技術開発部所属、真宮寺刹那曹長です。議長に御眼にかかれて、光栄です。このような状態での御挨拶、誠に申し訳なく思います」

今現在、刹那が着ているのはザフト軍の整備士のツナギ。さしもの刹那もずっとパイロットスーツでいるわけにはいかず、ラクスに無理を言って一着融通してもらったのだ。そして、ここに来るまではかけていなかったが、ダテ眼鏡をかけ、なるべく相手の気分を害さないように敬礼する。

「いや、私は気にしていない。しかし、君のような女性が護衛とは驚きだ」

手を振るデュランダルの発した言葉に、刹那の表情が微かに固まり、ラクスやキラはあっと思わず声を上げそうになり、雫は小さく笑みを零した。

「おや、どうされた?」

そんな周りの状態に眉を軽く寄せるデュランダルに向けて、雫が説明する。

「議長、真宮寺曹長は私が信頼する男性です」

そう発した瞬間、デュランダルは虚を衝かれたように眼を僅かに瞬き、タリアは普段は見ないそんな様子に思わず噴出しそうになる。

自分の失言に気づいたデュランダルが軽く咳払いをする。場の空気が僅かに緩和されたのを見計らい、デュランダルは気を取り直す。

「まずは、謝罪を述べさせていただきたい。本当に、お詫びの言葉もない……」

デュランダルは滑らかな口調で謝罪の言葉を口にした。

「外交官までこのような事態に巻き込んでしまうとは…弁解の余地もありません。ですが、どうかご理解いただきたい。身の安全は、私が保証します」

「いえ、お気になさらず。こちらがこの艦に乗り込んだのですから」

これでようやく身の証を立てることのできた事実に刹那は胸中に小さく息を吐くも、暗然たる気分は晴れない。

それはキラも同様だった。互いに護衛対象の安全を確保するために避難した先が、よりにもよってこれから戦闘に向かう艦だったのだから。

その心境は幾ばかりのものか…筆舌に値しないほどのものだった。

まるで、ダイズの目が悪い方にしか出ないぐらい、運が悪いらしい。密かに嘆息するも、そんな二人の暗然した気分に当てられたのか、座した雫とラクスも、心なしか浮かない表情であった。

「ところで…あの、強奪部隊については何か?」

さしもの雫も、この状況には不安になっているのだろう。外交と実際の戦闘は違うのだから当然だが、流石に周囲の状況が解からないことには不安も募るばかりだ。

まずはあのアーモリー・ワン内で確認した強奪犯…そして、今現在追撃している相手の情報を求めるも、デュランダルは歯切れの悪い調子で答える。

「ええ、まあ……そうですね。はっきりと何かを示すようなものは………」

言葉を濁してはいるが、それは大方の予想ができているのだろう。雫はそれを察した。実際に自分の眼でも確認したのだ。プラント側を攻撃する…それだけで、どの勢力かを察するのは容易い。

流石に断定するにはまだ早計ではあるが、それを口にするだけの確固たる証拠がない以上、明言は出来ない、という事だ。

仮にもその候補に自分達も入っている以上、迂闊な言動は避けなければならない。

「しかし、だからこそ我々は、一刻も早くこの事態の収拾をしなくてはならないのです。そう、取り返しの付かない事になる前に」

「ええ、解かっております」

沈鬱な口調で訴えるデュランダルに、雫も同意するように頷いた。

「今ならまだ、小火で済みます。ですが、逃せばそれは大火になるでしょう。そうなれば、双方にとって好ましくない事態になるでしょう」

それは、政治に身を置くものなら誰でも知っている事だが、今、この世界はとても危ういバランスの上に成り立っている。たとえるなら、限界ギリギリまで膨らませた風船のような状態だ。

どこの国家も、緊迫したなかで各々の国力を隠し、そして虎視眈々と牙を研ぎ、機会を窺っている。その思惑がどうあるのかは違っても、ほんの小さな刺激で、その均衡は崩れ去る。

前大戦が終結して2年。だが、それはあの記憶を風化させ、そしてまた新たなる野心を抱かせるには十分だったのかもしれない。それは、限りない人という種の持つある種の闇。未だ、その均衡が破れていないのは、互いに牽制しあっているからだ。水面下での牽制で成り立っている今の状態は、崩れ去ろうとしている。

そんな予感がひしひし感じられる。外交という立場に携わる雫やラクスはそれが痛いほど実感できた。

日本は前大戦時には戦場にならなかった分だけ疲弊も少なかったが、今度はそうはいかない。だからこそ、降り掛かる火の粉は早めに元を断たねばならない。そんな雫の言葉に、デュランダルは急に晴れやかな笑顔になった。

「ありがとうございます。外交官ならばそう言っていただけると信じておりました」

そんな変わりように雫は思わず眼を瞬きそうになる。そして、刹那もやや呆気に取られていた。柔らかな笑みとともにかけられた言葉は、背後に控えている刹那にも向けられていたのだから。

いくら議長とはいえ、ただの随員である自分にも声を掛けるだろうか。それがただの気さくさから出た言葉なのか…困惑する刹那に雫はやや考え込むように眉を寄せると、何かを思いついたように表情を微かに緩めた。

「この件、議長やこの艦の方々の働きに期待します。それと、差し出がましいですが、この作戦に、微力ながら我々も助勢させていただきます」

唐突に発せられた言葉にデュランダルは眼を微かに瞬き、他の面々も一瞬意味が解からないように戸惑うも、リンだけは眼を細める。

「この艦に、我が国のMSも不可抗力ながら艦載しております。少しでもお力になれればと思います」

MS一機とはいえ、戦力の貸与。確かに、慌しく発進した上に戦力もミネルバ一隻のみ。魅力的な話ではあるが、部外者を加えての作戦行動など認められるものではない。ここは多国籍軍ではないのだ。艦長権限で断ろうとするも、タリアの言葉を遮るようにデュランダルが答え返した。

「それはありがたく思います。日本の方々の協力を仰げるなら、心強い」

それは、相手の申し出を受けるということ。いったい何を考えているのかとタリアは背中越しに睨みそうになる。そんなタリアを置き、話は進んでいく。

「いえ、私としても受け入れていただき、感謝を……よろしいですね、真宮寺曹長」

確認の意味合いで背中越しに問うと、表情を複雑そうに顰めていた刹那はやや一拍遅れながらも頷いた。

「了解しました」

雫の思惑を悟り、やや諦めが入ったように心中に嘆息する。表向きは事態の沈静だが、実際はここで、恩をプラントに売っておこうという打算があるのだろう。プラントの不手際によって起きたこの件。当然ながらプラント内でも問題視されるだろう。その内部の問題に日本が助勢したというのは今後の交渉で僅かながらも有利なものになる。

最も、そんな雫の思惑は解からないでもないが、肝心刹那は技術部の人間とはいえ、軍人だ。他国の軍と軍事行動を共にすることの問題も理解しているが、この状況では仕方ない。

(吹雪のデータ取りもしなくちゃいけないし…ここは、雫の言葉にのった方がいいか)

吹雪はまだ、実戦配備されている数が少ない。今後の開発のためにはあらゆる状況下でデータが必要だ。それらを天秤にかけ、刹那はなるべくリスクが少ない方へするべく決意した。心の奥の不安と僅かながらの不快さは取り除けなかったが……

それに、このデュランダルも気に掛かる…たかが随員にまで気を配る愛想のよさ。それが人柄なのか、もしくは何かしらの思惑あってのことか…刹那は政治家ではない。そこまで判断はできないが、今はそう納得しておこうと決める。

「よろしければ、まだ時間のある内に少し艦内をご覧になってください」

だが、またもや愛想よく呈されたデュランダルの招待に、雫達だけなく、今度は艦長であるタリアがたじろいだ。

「議長…!」

「議長、それは流石に…」

慌てて、それでも憚るように低い警告の声を発する。ラクスも表情を顰め、制するように覗き込む。二人の心情としては、この艦はザフトの最新鋭艦であり、言うなれば機密の塊だ。いくら友好国であるとはいえ、まだ正式な国交を結んでもいない他国の部外者に見せびらかしていいはずがない。

刹那はもとい、軍人ではない雫とてその程度は理解している。どうも、この議長の考えは理解しづらい。それとも、自分の考えがおかしいのだろうかと雫は本気で悩みそうになる。それぐらい、デュランダルの提案は軽はずみすぎる。

突き刺さる視線に気にも留めず、デュランダルは平然と自分の意見を述べた。

「一時とはいえ、外交官の命をお預けいただくことになるのです。外交官の命を預けるにこの艦が値するかどうか納得していただけるよう説明すること、そして、協力を申し出てくれた勇敢な兵に対し、この艦のクルー達の能力を見定めていただきたい。それが盟友としての、我が国の相応の誠意かと」

ハッキリとそう告げるデュランダルにラクスは唖然となり、タリアは表情が引き攣りそうになるも、俯くことで隠す。

戦闘時ならともかく、今現在この艦の最高権力者はこの眼前の傍若無人な議長だ。さしものタリアも無茶な言い分ではあっても反論はできない。

ラクスもまた立場的には議長の補佐役である以上、その方針を明確な意見がなければ反対はできない。

強硬に拒否すれば、それは『盟友』と称したデュランダルの面子を潰すことにもなる。おまけに対外的に友好に訪れている他国の代表をないがしろにしたというレッテルを貼られかねない。国際問題を発生させるリスクよりも、当たり障りの無い案内でとっとと終え、戦闘に入ってしまえば問題はないと結論付けるも、タリアは胃がキリキリ痛むのを抑えられなかった。

そんなタリアやラクスに、雫は思わず同情しそうになる。自分達はこの艦では部外者だ。余計な真似はしないつもりだったが、それを覆しかねないデュランダルの申し出。この場では断れば、相手の好意を無にしたということになりかねないため、胸中でタリアやラクスらに謝罪しながら、やや硬い表情で応じる。

「解かりました、ご好意に甘えさせていただきます。艦長や外務次官の方々にも、御迷惑をおかけします」

二人の方を見やり、静かに礼する雫の気遣いに気づいたのか、二人は嘆息しながらも表情をやや和らげた。

そんなやり取りを、先程から部外者のように観察していたリンは小さく唸る。

どうにもこのデュランダルという男は底が掴めない。まるで雲のような男だ…単なるお人好しか、それとも何か深い意図があるのか。まさかただこの艦を見せびらかしたいなどという子供じみた考えではあるまい。

(それに…)

柔和な笑みのなかに時折微かに浮かぶあの全てを見通すような眼。先程の会談時もそうだが、リンもあの視線には僅かながら警戒する。

やはり、もう少し警戒した方がいいかもしれないと、厄介事が次から次へと降り掛かることに、リンはらしくなく溜め息を零した。







そんな会談の水面下とは打って変わり、格納庫内では収容した各機の修理作業が急ピッチで行われていた。

インパルスとセイバーに関してはさほど目立った損傷もなかったため、修理は早く終わる。レイとセスのザクにしても同様だ。大方の目処がつくとともにマッドは残りの収容したザクの修理に人員を割く。

「何やってるそこッ! ザクのフィールドストリッピングなんざぁプログラムで何度もやったろうが! その通りやればいいんだぞ!」

片腕をそれぞれ喪ったザクウォーリアの修理を担当する整備士達のもたつきにハッパをかけ、次に踵を返して別の部署に行く。整備班長である以上、事はMSだけに留まらない。

そんななか、ルナマリアのザクウォーリアの修理を担当していたヴィーノはコックピットのコンソール画面を叩きながら、後方のヨウランに背中越しに話し掛ける。

「しっかし、まだ信じらんない。実戦なんてマジ嘘みてえ」

「ああ」

キーボードを叩きながらヨウランはややむっつりと答えた。

「なんでいきなり、こんなことになるんだよ」

「さあな」

向き直り、不満を隠さないヴィーノに憂鬱そうに答え返す。進水式も得ずに慌しく出航。それだけに留まらずいきなりの実戦。ミネルバが被弾した時は思わず震えそうになった程だ。この艦にはどちらかと言えばベテランは少ない。下士官はほとんど新兵か経験が少ない者に限られる。だからこそ、不安と戸惑いを隠せない。

「でもまさか、これでこのまままた戦争になっちゃったりは……しないよね?」

不安を滲ませながらやや潜めた声で同意を求めるヴィーノにヨウランも手を止める。不安なのはこちらも同じなのだから、そんなことを問われても困るが、ここで不安を煽るのもなんなので、自分を鼓舞する意味合いも込めて肩を竦めた。

「……と思うけどね」

そんな会話を聞き流しながらシンとステラは受け取ったドリンクを片手に格納庫内を浮遊する。愛機の整備は終え、今ようやく一息ついたところだ。まだ警戒態勢はイエローのままで、パイロットは格納庫待機だからだ。

「シン…また、起こるのかな?」

不安な面持ちで問うステラにシンも言葉を濁すように表情を険しく顰める。戦争…その言葉が、彼らのなかで靄のような翳りを燻らせる。

シンにしてもステラにしても、あの戦争で喪ったものは大きい。だが、それに負けずにここまで来れたのは独りではなかったからだ。傷の舐め合いと馬鹿にされるかもしれないが、実際にその苦痛を受けた者にしかそれは解からないだろう。喪ったことのない奴が何を言う…理不尽に奪われた者の心は同じ境遇の者にしか解からないのだ。

だからこそ、自分達はそんな理不尽な世界を変えるために戦ったのだ。なのにまた…世界はそんな不条理なものを繰り返そうとしている。

あの新型機を強奪した連中は、そんな世界を望んでいるのだろうか…そんな逡巡をするなか、ふと格納庫内を見渡すと、奥の方に固定された機体に気づいた。

左腕のないザクウォーリア…それは、確かアーモリー・ワンでの戦闘で援護してくれた機体だ。それに隣に立つのはあの時乱入してきたもう一機の未確認機。

「ああ、二人ともここだったんだ」

思考を巡らせる二人に声が掛かり、振り返るとこちらもドリンクを手に愛機へと近づいてくるルナマリアだった。

「ルナ」

「もう最低よ。せっかくのデビュー戦だったのに途中リタイヤなんて、ん」

来るなり愚痴を零し、乱暴にドリンクを口に含む。赤服になって初めての実戦。せっかく意気込んで出撃したというのに、機体トラブルで呆気なく戦線後退。不満を憶えるのも仕方なかった。

「でも無事でよかった…あのままだったらきっと危なかった」

そんなルナマリアにシンが肩を竦め、ステラが苦笑を浮かべる。確かに、トラブルが起こったのがまだコロニー内でよかった方だろう。あれがもし宇宙で起こっていたら、どんな事になっていたのか…そう考えるとうすら寒いものが背中を過ぎるも、ルナマリアは跳ね除けるように首を振る。

「だから次は絶対活躍してやるわよ! あんた達、しっかり頼むわよ」

拳を振り上げるように豪語し、愛機の整備を行うヴィーノとヨウランは唐突に指差され、眼を瞬くも、お互いに顔を見合わせて肩を竦める。

「解かっておりますよ、整備させていただいて大変光栄です」

「誠意誠心込めてやらせていただきます」

芝居がかかった口調に、先程までの不安を感じさせず笑みを浮かべる。ルナマリアのこういったポジティブさはある意味助かる。

最も、当の本人からしてみれば、真剣なのだろうが…頷くルナマリアにシンとステラは乾いた笑みを浮かべていたが、やがてふと思いついた疑問をぶつけてみた。

「なあ、あの奥の2機って…」

「え…ああ、アレね。アレは日本のMSらしいわよ。で、ザクの方はクライン外務次官が乗ってたの」

シンの眼線を追い、その先を確認したルナマリアが説明する。

「それでさっきは大騒動だったんだから!」

やや大仰に肩を竦める。自分の早とちりとはいえ、日本の使者に銃を向けたのだからルナマリアの方も複雑な気分だ。状況を鑑みてお咎めはなしだったものの、失点じみてみ嫌なのであろう。

「そういや、ちらっと見たけどあのパイロット、ホント、驚いたよな」

ザクのコックピットから出たヴィーノがやや興奮した面持ちで話し、振られたヨウランも頷く。

「ああ、あれで男ってのが信じられないよな…どっから見ても女だぜ」

盛り上がる二人を他所にシンとステラは首を傾げる。どうにも話の論点が見えてこない。問おうとルナマリアを見やると、思わず二人は息を呑んで口を噤む。傍目からも解かるほど、不機嫌なオーラを発し、表情はなにか微妙な険しさを刻んでいる。

「ル、ルナ……?」

恐る恐るステラが話し掛けると、ギロッと睨まれたように感じ、ビクっと身を竦める。

「……日本のMSにね、斯皇院外交官の随員の人が乗ってたの」

「あ、ああ」

何故か低い声にシンは上擦った声で頷く。なにか、下手に口を挟んでは余計な怒りを誘発するような予感がひしひしと感じられた。だが、未だに何を言いたいのか解からず、困惑する。

「その人ね……男なのよ」

「は?」

一瞬、何を言ったのか解からず、間抜けな声を漏らす。

「いや、男って…それがどうかしたのかよ」

まったくシンの疑問ももっともだが、ルナマリアは口を閉ざしたまま、表情がますます不機嫌なものに変わっていく。

そんなシンに対し、意外なところから答が出てきた。

「なあシン、日本のMSに乗ってたパイロットなんだけどよ、見て驚いたぜ。すっげえ美人だったんだ」

ヨウランが話し掛け、そちらに振り向く。

「美人? パイロットって男なんだろ?」

ヨウランの発した言葉が解からない。ルナマリアの話からすればあの機体に乗っていたのは男だという。だが、男に対して『美人』などという言い回しをするだろうか。戸惑うシンに向けてヴィーノが身を乗り出さんばかりに話す。

「そうなんだけどさ、見た目はどっから見ても美少女なんだぜ! 俺、本気で思っちゃったもん!」

あの容姿を見れば、ほぼ9割の確立で女性と見間違うだろう。事実、あの場にいた全員が説明されるまで、女性と信じて疑わなかったのだから。

「ルナより美人だったもんな〜くぅ〜〜アレで男ってのは絶対不条理だぜ! 俺絶対お友達になったのによ〜〜」

拳を握り締め、力説するヴィーノにヨウランもウンウンと頷いている。だが、シンはどう反応したものかと表情を顰めている。

要約すれば、日本のMSに乗っていたパイロットは男だったが、見た目は美人とのこと。だか、肝心その本人を見ていないシンにはイマイチピンとこない。だが、背中から感じるオーラにハッと表情を引き攣らせる。

ギギギと音を錯覚させるように後ろに振り向くと…ルナマリアが俯きながら拳を握り締め、ワナワナと震えている。その様子にシンはようやく気づいた。

とどのつまり…ルナマリアの不機嫌の理由は……同僚の評価と女性としての不条理な敗北への嫉妬と怒りであった。

「キシャー! あんた達〜〜っ!」

次の瞬間、怒りを爆発させたルナマリアは鬼の形相で二人に襲い掛かる。それに気づいた二人はようやく事態を悟るも既に遅し。掴み掛かるルナマリアに悲鳴を上げるも、怒りは収まらない。

思わずシンは冥福を祈るように指を切り、ステラは首を傾げるのみだ。しかし、巻き込まれないように距離を取る辺り、なかなかいい手際である。

「何をやってるんだ、あいつらは」

唐突に背中から掛かった声に振り返ると、そこには呆れた面持ちで肩を竦めるマッドがいた。

「マッド主任」

「シン、ステラ…お前らの機体の戦闘レコードだ。後で確認しておいてくれ」

すぐ傍で勃発している喧嘩を気にも留めず、マッドは持っていたディスクを渡す。慌てて二人はそれを受け取る。

試験機であるセカンドシリーズの実戦での戦闘データというのは非常に重要で貴重なものだ。それを取り出す整備班にも気が回る。パイロットの確認後、それは艦長の承認を得て本国の開発部へと回れる手筈となる。

「しかし、複雑なもんだな。相手が同じ同系機とは」

やや表情を顰め、頭を掻く。実戦は想定されていたが、このデータを収集した相手は同じセカンドシリーズ。マッドも整備予定だっただけにそれが奪われたというのは怒りに難くない。しかし、その戦闘によってその奪われた3機の戦闘データまで収集する結果になったというのは複雑なものがある。

シン達も同じ気持ちなのか、ディスクを握り締める手が僅かに震える。

「あ、そう言えばマッド主任聞きたいんですけど」

「ん、何だ?」

「あのザク…ミネルバに配属予定の奴じゃないですよね?」

視線が奥のザクウォーリアに向けられる。予定では、セカンドシリーズ5機にザクが3機配備予定であったが、ノーマルのザクウォーリアが配備される予定はなかった。なら、臨時だろうかと思い、尋ねてみるとマッドもやや表情を強張らせる。

「ああ、アレな…クライン外務次官ともう一人、秘書官が乗っててな。確か…」

「ヒビキ=ヤマト…クライン外務次官付の秘書」

マッドの言葉を繋ぐように発せられた言葉に一同が振り返ると、そこには同じ赤い軍服を着込んだ女性が向かってきた。

「セス」

シンが声を掛けるも、無反応のまま、マッドに寄り、持っていた書類を手渡す。

「ザクウォーリアの整備レポートです。後で確認を」

「あ、ああ。しかし流石だな…アレだけ激しい戦闘をしたってのに各関節部への負担が驚くほど少ない。これならすぐ終わる」

受け取り、書類に眼を通しながら称賛するも、セスは興味がないのか、無言のままだ。そんな様子にフッと笑みを浮かべ、肩を竦める。

「ま、お前さんらも休めるときに休んでおけ」

セスの肩をポンと叩き、無重力のなかを跳び、他の整備士のところに向かっていく。

そんな背中を見送ると、シンがセスに先程の内容を問い掛ける。

「セス、ヒビキってヤマト秘書官のことだろ?」

「そうだ。それに、もう一機の飛び入りに乗っていたのはクライン外務次官の護衛のルイ=クズハと確認が取れたそうだ」

そっぽを向くように修理が進められるザクウォーリアを一瞥する。普段、感情をあまり面に出さないセスにしては不機嫌さをみせるのは珍しい。

だが、シンやステラの心持ちは、そんな変化を気に掛ける余裕はない。実際、駆け込みで飛び乗ってきた者達は、自分達にとって無関係とは言えない者達ばかりだ。

どう答えたものかと思案していると、そこへ制裁を終えたルナマリアが合流してきた。

「ったく、なによ。いくら綺麗だからって男でしょうが」

愚痴っているあたり、まだ怒りは収まっていないのだろうが、それでも不満をぶつけた分だけマシだろう。犠牲になった二人には気の毒だが。何気にシンは心のなかで冥福を祈った。

「でも驚いちゃったわね…前大戦の英雄、勝利の歌姫に生で会えちゃうなんて」

興奮した面持ちで語る様子に溜め息を零す。こうしたミーハー的な一面が彼女のやや苦手なところなのだが、それでもプラントに生きる人間にとって『ラクス=クライン』というのはある意味生きた伝説なのだ。

前大戦を終結に導いた勝利の歌姫。そしてプラントの誇る外交の女神と枚挙すればキリがない。公務以外ではほとんどメディアに顔を出さない彼女がすぐ傍にいれば仕方ないかもしれないが……

「それよりさ、私気になること聞いちゃったんだ」

気を取り直し、シン達に話し掛けるルナマリアは表情を輝かせる。

「クライン外務次官の秘書官の人、ヒビキって名乗ってるけど…ひょっとして、キラかも」

眼を輝かせながら秘密めかしてちぇしゃ笑いを浮かべるルナマリアにシンとステラは微かに息を呑む。そんな戸惑いに気づかず、話は進む。

「前大戦の英雄機、フリーダムのパイロット…もしかしたら、かも」

A.W.の最終決戦。天使の中枢に飛び込んでいき、勝利へと導いた英雄機。それらは戦後、大衆向けに報道されていた。戦後の混乱においてそうした英雄を持ち上げることで世論の暗雲を少しでも紛らわせようという思惑もあったかもしれないが、その中枢を担った機体は当時のザフトの最新鋭機であったこともプラントに生きる市民にとってはある種の誇りでもあった。自分達の国が造り上げた機体が戦争を終わらせたという錯覚を齎していた。

「な、なんでそう思ったんだよ?」

やや上擦った口調で問い掛ける。

「外務次官がそう呼んだのよ、咄嗟に。その人のことをキラって」

英雄機として取り上げられた機体群。

『ZGMF-X07A:シュトゥルム』、『ZGMF-X08A:ヴァリアブル』、『ZGMF-X09A:ジャスティス』、『ZGMF-X10A:フリーダム』、『ZGMF-X11A1T:スペリオル』、『ZGMF-X12A:マーズ』の6機。戦後にプラントに返還されたそれらは解体処分を受け、破棄された。そしてそのパイロットのことは一部を除いて公にはされていないが、軍に身を置く者ならその詳細を調べれば不可能ではない。

シュトゥルムのパイロット、シホ=ハーネンフースは戦後にザフトを除隊、その後消息不明。ヴァリアブル、ジャスティスのパイロットであったメイア=ファーエデン、アスラン=ザラはオーブに移住。スペリオルのパイロット、リフェーラ=シリウスは現ジュール隊副官。そしてマーズのパイロットが唯一公になっている外務次官であるラクス。

だが最後の一機…フリーダムのパイロットだけが情報は愚か、まともに記録も残っていない。

パイロットが誰だったのか、それは軍内部で一つのミステリーに近かったが、それに繋がる噂が当時のフリーダムが艦載されていた母艦:エターナルのクルー辺りから僅かながら流れた。

そのパイロットの名が…キラ。

ルナマリアもその噂を聞き及んでおり、興味津々に眼を輝かせている。だが、シンやステラは複雑な面持ちだ。

「そ、れ、に……」

背中を向けていたルナマリアが瞬時にこちらを見やり、虚を衝かれたように眼を瞬く。

「ステラが持ち帰ったザクに乗ってたパイロット……漆黒の戦乙女かも♪」

テンションを上げるルナマリアに反比例してシン達の方はどんどん汗が流れてくる。

「ねえセス、あんた実際に話たんでしょ?」

ルナマリアはラクスらの付き添いで一瞬遭っただけだ。だが、セスが彼女を拘束して連れてきたのは確認していた。

「……さあ? 本人はそう名乗ってはいなかった」

振られたセスは興味が無いのか、言い捨てる。そんなセスに不満気に表情を顰めるも、すぐさまシン達に向ける。

「でも絶対そうだって。私、何度か顔見たもん。漆黒の戦乙女、リン=システィ」

その言葉にシン達もザフト軍内部での情報が脳裏を過ぎる。

リン=システィ―――前大戦において『漆黒の戦乙女』と称されたザフトのエースパイロットの一人。戦史に残る大きな戦いには必ず参加し、そのなかでも最大の逸話は、大戦中期、当時の地球連合軍の新型MSを単機で撃破し、ネビュラ勲章を授与され、特務隊、通称フェイスのなかにおいてエースオブエースとまで一部では囁かれていたが、その後受領したZGMF-EX000AU:エヴォリューションごと軍を脱走し、A.W.の最終決戦においてはその戦いに加わっていたものの、戦後機体ごと行方知れずとなっていた。

そのため、メディアに取り上げられる英雄機に消息不明となったエヴォリューションとインフィニティの2機は上げられていない。

「英雄が3人…なんか興奮しちゃうわね」

自分の思考…シンからしてみれば憶測の暴走だが、それに興奮するルナマリアに呆れ気味に肩を竦める。

その渦中の人物達が、自分達の戦友であること…あの最終決戦には自分達も参加していたなど、決して話せるものではない。

どうしたものかと思うなか、彼らならあのセカンドシリーズと量産機でも互角に渡り合えるだろうと納得もする。だが、何故彼らがここにいるのか…そして、マコトはどうして宇宙にいたのか……解からないことだらけにシンは困惑する思考に苛立ち、髪をくしゃくしゃと掻いた。

そんな彼らを一瞥し、セスは今一度ハンガーのザクウォーリアを一瞥する。

「リン…システィ……黒の…騎士」

小さく囁かれた名…なんの感情も含まないか細い声。セスは無意識に左耳のピアスをなぞった。そのオッドアイの視線を微かに細めながら……


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