――――ヒビキ=ヤマト、ルイ=クズハ……いや、キラ=ヤマト君? そして…漆黒の戦乙女、リン=システィ君?



ガーティ・ルーを追撃するミネルバの艦橋にて、連れ立って席に着く一同に向けて放たれたデュランダルの言葉は、波紋を静かに拡げていた。

キラは決して親しい者しか知らぬ本名を呼ばれたことに驚愕に言葉を失い、目を見開くのだった。

そして、リンはにこやかに重大な暴露をしたデュランダルを睨むように鋭い眼差しを向けていた。やはり、とっくにリンの正体に気づいていたのだ。

(偽名も無駄でしか無かったか)

内心舌打ちする。経歴はラクスにも手を貸してもらい、かなり巧妙に偽ったはずだが、仮にも評議会の議長になるのだ。リンの顔ぐらい知っていても不思議ではない。

だが、何故この場で…しかも、キラの名まで呼んだのか。困惑と微かな憤りを内に滲ませつつ、そんな動揺を億尾にも出さないようにリンは己を抑する。

その横でラクスはハラハラした面持ちで明らかに動揺を浮かべ、雫は怪訝そうに両者を見比べる。

(漆黒の戦乙女…確か、前大戦時にザフトにいた……)

リンを横で見やりながら雫は思考を巡らせる。デュランダルの発した名は、一度だけ聞いたことがある。名前までは流石に聞き及んでいなかったものの、前大戦開戦時から中期頃までザフトにおいて名を馳せたパイロットの名。それが、この女性なのだろうか…自分とさして齢も離れていないはずのリンを見やりながら眉を寄せた。

キラが思わず視線を逸らしたので、ラクスが声を上げた。

「議長! あの…」

腰を浮かし、普段の冷静な彼女らしくない狼狽した様子に雫は眼を瞬くも、それを制するようにデュランダルは穏やかに笑い掛ける。

「御心配には及ばないよ、クライン外務次官。私は何も彼らを咎めようと言うのじゃない。そして、貴方のことも追及はしない」

ラクスが微かに息を呑む。

キラが偽名を使っているのは、前大戦時においてザフトに打撃を与えたストライクのパイロットとして、その名が僅かに議会にも知るところとなり、ラクスの体面を考えてのことだった。なにより、迂闊に本名を名乗れば、そこからキラの過去に繋がるかもしれないという配慮もあった。

そしてリンは脱走したまま処分は有耶無耶になっており、本来なら反逆罪で極刑も免れないはずだ。そんな二人を庇おうと思っていたラクスの考えは簡単に覆され、今度は逆に眼を白黒させている。

そんな会話を管制シートに着くメイリンが耳を傾けてチラチラ覗いている。タリアも前を向いたままだが、その交わされる会話の内容に耳を立てている。

「全ては私も承知済みです…ジュセック前議長が彼らに執った措置のこともね」

そう…キラの戸籍に関しては前議長であるジュセックが懇意であったこともあり、全て取り計らってくれた。脱走兵であったリンに対しての追求も戦後処理の名目で取り消してくれた。いや、それだけではない…他にもいろいろな面においてラクス達の責任を軽減してもらった大恩があるのだ。

そのジュセックが退陣となった今でもその恩に報いようという意志は変わらないが、ジュセックがそれらをデュランダルに話していたとは考えにくい。

なら、そこまで調べていたのだろうかと…リンはデュランダルの手回しのよさに思わず舌打ちした。

(ただの狸じゃないか)

かなり目ざといと内心に呟く。だが、それを理由に何かしらの思惑があるのかとリンやラクスはデュランダルの次の言葉を警戒した面持ちで構える。

不信の眼で見やる一同に向かい、デュランダルは座席ごと向き直り、視線を合わせる。

「ただ、どうせ話すなら……本当の君らと話しがしたいのだよ、キラ=ヤマト君。リン=システィ君」

デュランダルは見る者を惹きつけるような柔らかな笑みを浮かべたままだというのに、キラは何故かその視線にいいようのない罪悪感のようなものを憶え、表情を俯かせる。

「……なら訊きたい。私を処罰するつもり?」

挑発じみた視線と口調でリンが告げる。

わざわざ本名を暴露したのだ…ただで済ませるつもりなどないはずだ。そこに感じるのはぼやけた悪意。リンに対し何かしらの思惑と含み…それを探るようにリンはデュランダルを見やるも、デュランダルは肩を竦める。

「いや、そのようなつもりはない…そう警戒しないでもらいたいな」

「私は既にプラントの戸籍上では死亡しているはずだけど…死んだ人間に話もなにもあるまい」

鼻を鳴らす。

そう…リンは脱走後、そのままザフト軍内部ではMIA扱いになっている。これはTDOD活動において余計な痕跡を残すまいという思惑でコンピューターをハッキングしてデータを書き換えた。公式には、A.W.最終決戦でリンはMIAとなったとなっているはずだ。

公に存在しない人間…だからこそ、利用はできないと暗に示唆させたが、その思惑を悟ったのかどうかは解からないが、デュランダルははにかんだままだ。

一方のキラは俯いたままデュランダルの言葉を反芻させていた。

その存在そのものが偽り…確かに、立場上過去の自分を棄て、偽名で今は生きてはいるが、その意志は変わっていない。キラ=ヤマトではなくとも、自分は何も変わっていないはずだ。なのに何故こんなにもデュランダルの言葉が自分を戸惑わせるのか、キラは己の混乱する思考に苛立つ。

そんな互いの思惑が渦巻くなか、戦闘は刻一刻と近づいてきていた。先行する敵艦の反応が徐々に射程圏内に捉え始めた。

「敵艦に変化は?」

アーサーの問い掛けにレーダーを確認していたマリクはむっつりと答えた。

「ありません。針路、速度、そのまま」

その報告に暫し会話に聞き入っていたタリアもようやくハッと我に返った。いけないと内に被りを振る。

あまりに予想を大きく超えた内容がすぐ背中で交わされていただけに思わず聞き入ってしまった。それも仕方ないはずだ…前大戦のエースにして戦後行方不明となっていた漆黒の戦乙女がすぐ後ろに座っているのだから。

だが、とタリアは疑問を巡らせる。

何故今になって再びザフトに姿を現わしたのか…それも、ラクス=クラインの随員として…思考の片隅でそんな疑念を浮かべながら、タリアはレーダーに映るボギーワンの反応を一瞥する。

「よし! ランチャーワン、ランチャーシックス、1番から4番、ディスパール装填! CIWS、トリスタン起動! 今度こそ仕留めるぞ!」

意気込むアーサーの指示に応じ、ミネルバは各種兵装をアクディブに切り替え、起動させていく。

戦闘に臨む艦橋には混濁とした雰囲気が漂うなか、デュランダルは会話を中断し、視線を前へと向ける。不審な視線はまだ消えないものの、リン達もまた戦闘に注意を移す。

「メイリン、シン達は?」

タリアが徐に尋ねるも、返事が返ってこず、思わず叱咤するように声を上げる。

「メイリン!」

「あ、はい! インパルス、セイバー、ザク、ボギーワンまで1400です!」

メイリン自身も先程からすぐ傍で交わされていた内容に呆然となっていたようだ。タリアは内心溜め息を零す。

だが、それもメイリンの報告に一瞬にして掻き消え、艦橋のいる面々に疑問を浮かばせる。

「未だ針路も変えないのか? どういうことだ……?」

アーサーが当惑気に首を捻る。

リンもモニターを見詰めながら眉を寄せる。確かにおかしい…既にこちら側のMSは射程圏内に入っているというのに未だに何のアクションも起こしていない。普通は加速するなり、艦載機を出すなりするはずだ。

それが進路さえ変えないということは……その可能性に思い至ったのはリンだけでなかった。

「っ、しまった!」

相手の思惑を悟り、タリアが声を張り上げる。

「え?」

「囮…ですわ」

一人戦術に疎い雫が眼を瞬くも、間髪入れずラクスが漏らす。

リンは内心舌打ちする。嵌められたのだ…デュランダルの言葉に気を取られて、相手の動向を察するのが遅れた自身に対しての憤りに思わず拳を握り締める。

だが、そんなリンの様子にデュランダルは一人、僅かに笑みを浮かべていた。







機動戦士ガンダムSEED ETERNALSPIRITSS

PHASE-12  再醒の刃







ミネルバより先行して発進したインパルス、セイバー、ザクウォーリアの3機は無数に浮かぶデブリや岩塊等の網目を縫うように飛行していた。

深遠の宇宙の闇に浮かぶ無数の物体。それは、旧世紀の…そして、死の象徴。

様々な金属片は旧世紀の人工衛星や宇宙船…なかにはコロニークラスのステーションの残骸もある。宇宙で散った様々なデブリは時折こうして地球の重力に引かれるように接近し、その軌道周回に乗る。それは永遠の鎖であると同時に墓標となる。

ただただ朽ちることもなく悠久の時を過ごすことを運命づけられた哀れなる骸…モニターに映る様々なそうしたなかにはMSの残骸も時折見える。

まるでそれが、自分の未来を暗示するように…そんな暗い思考を振り払うようにシンは頭を振った。

「ステラ、ルナそろそろ密集地帯に入るぞ」

わざわざ口に出して言うまでもないが、無意識に声が張り出る。それはこの暗然たる墓場のような宙域に対して自身を鼓舞するように。

「うん、解かった」

「はいはい」

それぞれの返事が返り、シンは一瞬表情を緩めるも、すぐさま引き締める。モニターにはデブリが密集する空間が映し出される。

墓場で始まる殺し合い…それは、一体どのような事態を導き出すのだろうか。

やがて3機は密集地帯に入り込み、僅かな感覚を空け、周囲を警戒しながら慎重に進む。乱雑するように無数に浮遊するデブリは視界を遮り、おまけに機体の動きも抑制される。攻めには不利な地形だ。

おまけに、この辺にも前大戦中に大量に散布されたNジャマーの影響が強く残っている。NJCの軍事転用が抑制された今、旧来通り、レーダー類のほとんどが役に立たない。頼りになるのはメインカメラからの有視界と僅かなセンサーのみ。

「ねえ、シン…相手はまたあの3機で来るのかしら?」

ルナマリアがふと疑問に思ったことを問い掛ける。

「可能性は高いな」

苦い口調で答え返す。アーモリー・ワンでは強奪してすぐに機体を乗りこなした相手の技量を見る限り、せっかく奪った戦力をそのまま保有する可能性は低いかもしれない。

だが、同時に思う。せっかく奪った新型機を壊すのは不本意のはずだ…なら、出てこない可能性もある。

そうであって欲しいが、戦場では常に最悪の可能性を考えて行動しなければならない。安易な楽観は即、死だ。

「シン、敵艦の位置を確認できた」

索敵を行っていたステラが座標データを転送する。それに眼を通した二人は事前にミネルバから送られてきたデータと一致したことを確認し、機体を静かに加速させる。

加速と同時に周囲を浮遊するデブリとの衝突が迫り、それを回避する。

「はぁ、あんまり成績良くないんだけどね、デブリ戦……」

通信機越しにルナマリアはぼそりと漏らす。ルナマリアのアカデミーでの成績は聞いている。あの当時は悠長の兵員を教育する余裕がなかったとはいえ、今この場で不安を口にするのは士気に関わる。

「ルナ、どうせ補習サボってただけ」

「うっさい! エレン教官の補習なんて真っ平ゴメンよ!」

ズバっとステラの言葉が胸に突き刺さるも、ルナマリアは負けじと言い返し、怒鳴る。そんないつものノリに苦笑を浮かべつつ、ここいらで気を引き締めねばとシンは二人に注意を促す。

「二人とも、じゃれるのはそれぐらいにしとけよ。向こうだってもうこっちを捉えているはずだ、油断するな!」

自身を引き締めるように言い放つも、次に返ってきたのは反論だった。

「シン、煩い!」

「黙っててよシン! レイみたいにいちいち余計な口きかないでよ!」

睨むかのような視線と口調にシンはたじろぐ。そんなシンを一瞥して、二人は再度睨み合う。

「お、おいおい…っ」

喧嘩してる場合じゃないと口を挟もうとした瞬間、シンの表情が僅かに強張る。その異変を感じ取ったのか、ステラとルナマリアは弾かれたようにモニターに視線を向け、覗き込むように、心配そうな眼の色で見やる。

「シン?」

「ちょっとどうしたのよ?」

明らかに違う怖い顔…そう形容すればいいのだろうか。眉間に皺を寄せていたシンは全神経をモニターに向けていた。

「おかしくないか?」

低い声で漏らしたシンに二人は首を傾げる。

「おかしいって…何が?」

「あっちの座標が全然動いてない」

モニターに表示されるボギーワンとの距離は縮まってはいるが、肝心のボギーワンの座標がまったく移動していない。既に距離は1500を切った。向こうもこちらの接近には気づいているはずだ。なのに何故まだ何のリアクションも起こさず、また移動しないのか。

そう指摘されてステラとルナマリアも表情を不審げなものに変えていく。

「シン、これって……」

シンと同じ結論に至ったのか、ステラとルナマリアが同時に視線を向ける。その瞬間、突如首筋あたりを襲う冷たい感覚に弾かれるように、シンは大声をあげた。

「っ、各機散開!」

言うや否や、シンは操縦桿を捻って身を翻し、ステラも半ば反射的に機体を反転させたものの、ルナマリアだけはその突発的な指示に経験不足故に反応が遅れた。

「えっきゃぁぁっ!」

次の瞬間、多方向より飛来する数条の光線が降り注いだ。その一部がルナマリアのザクウォーリアを掠め、バランスを崩したザクは咄嗟にシールドで防ぐも、その反動に耐え切れず、弾き飛ばされた。

「ルナ! くっ」

そんなルナマリアを気に掛ける余裕もなく、シンは襲い掛かる殺意をのせたビームを回避する。デブリの残骸の陰から飛び出す機影。

カオス、アビスの2機がその姿を現わし、蹂躙するかのように攻撃を浴びせる。

「へっ、待ってたぜっ!」

エレボスが口元を歪め、吼えながらビームライフルを撃ち、背面の機動ポッドを分離させる。

離脱した機動ポッド2基が無秩序な機動を描きながらビームを放ち、インパルスに襲い掛かる。

シンはビームを回避するも、纏わりつくように飛び交う機動ポッドの連射に防戦一方になる。歯噛みするシンは背後からのアラートにハッと振り向くと、アビスが両肩の兵装を展開していた。

「今度こそ、墜とさせてもらいますよっ」

眼鏡の奥に暗い光を浮かべ、ステュクスはアビスの火器をフルバーストする。

それを紙一重で回避しながら、シンは残骸に足をつけ、軸にするとともに背面からエクスカリバーを抜き、機体前方でドッキングさせ、それを大きく振り被り、身構える。

刀身に沿って走るレーザー刃を纏い、一瞬身を低く構え…次の瞬間、インパルスを加速させた。

「うおおぉぉっ!」

咆哮とともにインパルスはエクスカリバーを振り被るも、アビスは身を翻し、浮遊するデブリを保持するビームランスで弾き、インパルスに向けて飛ばす。

「なっ!?」

予想を外れた攻撃にシンも意表を衝かれ、インパルスの動きが僅かに鈍る。動きの固まったインパルスに向けて降り注ぐデブリが激突し、機体を揺さぶる。

歯噛みするシンに向かい、デブリも奥から姿を見せるアビスが眼前に迫り、眼を見開く。息を呑むシンに向けてステュクスの暗い笑みに呼応するようにアビスの眼が不気味に輝き、至近距離でカリドゥスを発射した。

胸部からこもれるエネルギーにシンは反射的にシールドを掲げるも、放たれた瞬間、両機の間から閃光がこもれ、シールドの表面が融解し、シンはすぐさまパージした。2期が同時に離脱した瞬間、シールドが爆発する。

「くそっ」

左腕で腰部のライフルを取ろうとするも、腕の動きが鈍い。ハッと計器を見やると、左腕の駆動回路からエラーを告げるシグナルが点灯していた。

「さっきの…っ」

あの攻撃で左腕がやられていたのかと理解する間もなく、アビスは再度肩を開き、内装砲を斉射し、インパルスを翻弄する。

だが、シンはカオスの姿が見えないことに気づいた瞬間…背後から響くアラートにハッと眼を瞬いた。

インパルスの背後の頭上から斬り掛かるカオスがビームサーベルを抜き、真っ直ぐに降下してくる。

「死ねよぉぉぉ!」

獣のように猛り、カオスが振り下ろすビーム刃をシンは強引に上半身を回転させ、エクスカリバーを振り上げて受け止める。

互いの刃がぶつかり合い、エネルギーがスパークする。歯噛みするシンに対し、エレボスは鼻を鳴らし、右腕をそのままにカオスを変形させた。

瞬時にMAとなり、カオスはバーニアを噴かし、インパルスに突進する。脚部のクローが開き、インパルスのボディを掴み、シンは身体を引っ張り上げられるような強烈なGが身体に襲い掛かる。

インパルスを抱えたまま、カオスはデブリのなかを飛ぶ。

2機にインパルスが苦戦するなか、最初に被弾したルナマリアのザクウォーリアが慣性に流れていたが、その機体をセイバーが受け止める。

「ルナ、大丈夫?」

「え、ええ。なんとかね…咄嗟に防御したから」

苦い口調ながらなんとか答え返す。これでもこの2年間、それなりに腕は磨いてきたのだ。伊達に赤を赦されたわけではない。

奇襲には流石に反応が遅れたものの、防御に身体が反応したのは訓練生時代に何度もそう仕込まれたからだ。

(感謝しますよ、教官)

無茶な訓練をさせた教官に感謝を述べながら、ルナマリアは機体を立て直す。左肩のシールド表面が少し焦げた程度で戦闘に支障はない。

「それよりシンが!」

「解かってるわよ」

カオスとアビスの2機がインパルス相手に攻撃し、インパルスの方が苦戦している。相手は2機で連携しながら相手を翻弄している。加えて相性が悪い…火力を重視している2機に対し、対近接戦闘用のソードでは、分が悪いはずだ。

「ステラ、私達は母艦を叩くわ! それが一番早いわよ!」

3機の交戦エリアまでここからかなり離れてしまった。しかも進路上にデブリが四散し、障害物となっている。ここからでは援護射撃もままならない。なら、位置的に敵艦を狙った方が早い。

母艦が墜とされれば、それだけでMSは動けなくなる。

シンの腕を信頼しているからこそ、二人は頷き、セイバーは飛行形態になり、その上にザクが飛び乗り、ルナマリアはぐっと振り落とされないように構える。

そして、2機は加速し、ボギーワンの位置する座標を目指す。距離がどんどん縮まる…だが、突如レーダーから敵艦の反応を告げる光点が掻き消えた。

「「え…?」」

唐突な事態にステラとルナマリアが眼を瞬く。そのままボギーワンを視認できる位置にまで到達した時には、そこには戦艦の影も形もなかった。

「ど、どういうことよ!?」

苛立たしげに呟くルナマリアだったが、ステラも戸惑ってまともに返事ができない。混乱して立ち往生する2機を陰から窺う機影。

灰色の機体のコックピットでゆっくりと顔を上げるのは、レア。その瞳が鋭く吊り上がり、2機を捉えた瞬間、己の内の獣が牙を剥いた。

スラスターが火を噴き飛び出す灰色の機体が鎧を纏うように黒く彩られ、鋭い加速で襲い掛かる。

突如コックピットに響いたアラートに二人がハッとした瞬間、モニターには迫るガイアが映し出された。

ビームライフルとビーム砲を連射し、セイバーは咄嗟に回避するも、その無理な機動にザクが振り落とされそうになり、踏み止まる。

だが、動きの鈍った2機に向かい、レアは手近のデブリに足場をつけ、弾くように機体を加速させた。

弾丸のように迫るガイアが獣形態へと変形し、咆哮するように襲い掛かる。ステラがセイバーをMS形態に戻し、ザクと距離を取る。その僅かな空間に向けて、ガイアは両翼のビーム刃を展開させ、鋭く過ぎる。

激しい衝撃音が轟く…ガイアが過ぎ去った後には、セイバーのシールドとザクのショルダーシールドに鋭い斬撃の融解跡が残っていた。

「ガ、ガイア!」

考えてみれば、カオスとアビスが出てきているのにガイアがいないというのはおかしかった。

「待ち伏せ…姑息な手使ってくれるじゃないっ」

見当違いな憤りを感じながらも、再度MS形態になり、反転して襲い掛かるガイアにセイバーとザクは対峙した。

ビームライフルとオルトロスを構え、一斉に砲撃するも、ガイアは各機動バーニアを小刻みに動かし、デブリのなかを飛び跳ねるように華麗なステップで攻撃をかわし、またはデブリを盾に防ぎ、豹のように接近してくる。

その相手の華麗な回避行動に、微かな憤りと操縦センスへの嫉妬を覚えながら、接近戦に臨もうとステラはビームサーベルを抜く。

「墜とす…っ」

レアがセイバーに狙いを定め、ガイアのビームサーベルを抜き、加速して振り上げる。

「でぇぇぇぇいい」

ステラも迎撃しようとビームサーベルを振り被り、互いの刃が交錯する。

エネルギーの干渉が互いを押し合うなか、ガイアとセイバーは睨み合う。

戦いの第二幕は墓場を舞台に上演が開始されるのであった。







MS同士の戦闘が開始された頃、緊張した艦橋に、さらなる混乱が齎された。

「ボギーワン、ロスト!」

敵艦の反応を示す光点が消失した事態に信じられないような当惑したバートの報告に、アーサーが驚愕の声を上げ、眼を剥く。

「何ぃ!?」

そのアーサーの声に反応し、一瞬硬直していたクルーの動きは慌しく通常に戻っていったのだった。

「イエロー62ベータに熱紋3!」

緊迫した空気のなか、新たな事態を告げるメイリンの報告が響き、その探知された熱紋のIFFを確認するためにモニターに集中した。

「これは……カオス、ガイア、アビスです!」

タリアは奥歯を噛み締める。

やはり、こちらが捉えていたボギーワンの反応は囮だったのだ。それを餌に誘き出されたMSに対する待ち伏せの奇襲。しかも相手がセカンドシリーズ3機とは…だが、母艦は近くにいるはずだ。

「索敵急いで! ボギーワンを早く!」

エンジンを切って息を潜めているのだろう。ここは身を隠す場所に事欠かないはずだ。おまけにこちらは相手からは丸見え…デブリの密集したこの宙域では戦艦は即座に対応できない。

焦るタリアは知らず知らず流れ出す汗ばむ手を握り締めた。





混乱に立ち往生するミネルバをモニターに捉え、ロイが口元を緩める。

「囮に引っ掛かってくれたようだな」

「こんな子供騙しに引っ掛かるとは…敵さんは、デブリ戦素人だな」

辛辣な言葉を漏らしながらも、エヴァは肩を竦める。だが、それならそれで助かる…ガーティ・ルーは岩塊に打ち込んでいたアンカーを引き戻し、振り子のように支点を支え、ガーティ・ルーの向きを慣性を利用して強引に変更する。

岩塊を中心に大きく進路を迂回したガーティ・ルーはアンカーを切り離し、その遠心力で船体を加速させる。

エンジンを使わずとも加速する術などいくらでもある…ロイは笑みを浮かべながら、声を出さずに手を上げることでエヴァに指示を促がした。

「MS隊発進と同時に機関始動! ミサイル発射管、5番から8番スレッジハマー発射!主砲照準、敵戦艦!」

ロイの意図を汲み、エヴァはクルーに指示を飛ばし、それに応えるようにエンジンに火が入ると同時にカタパルトハッチが開放される。

加速するガーティ・ルーの前部兵装が起動し、ゴッドフリートが展開される。この艦の前身となったAA級の主兵装であり、戦艦の装甲すら容易に撃ち抜けるほどの火力を備えているが、そのエネルギー量と維持コスト故に特殊な艦にしか装備はできない。だが、このガーティ・ルーは単独での行動任務故に6基合計12門もの砲塔を備えている。これを一斉射されては、どんな強固な装甲も一溜まりもあるまい。

ドッペンホルンを装着したダガーLが3機発進する。それに続けてカズイのストライクEがカタパルトベースに乗る。

「GAT-X105E、発進スタンバイ! 装備はランチャーストライカーを!」

天井部から現われるアグニを装備した砲戦用のランチャーストライカーがストライクEのバックパックに装着される。続けて右肩にガンランチャーが装備され、ストライクEはダークブルーに身を彩る。

「進路クリア、どうぞ!」

《カズイ=バスカーク、出るよ!》

カタパルトベースが起動し、ストライクEを打ち出す。加速にのり、発進したストライクEは先行するダガーL部隊に合流し、アグニを構え、一路ミネルバを目指す。

「ミサイル発射! 奴を例のポイントへ誘い込め!」

いきり立つエヴァを横にロイは不適な笑みを浮かべたまま、小さく囁いた。

「さて…死の舞台の第二幕を始めるとしよう」

サングラスを持ち上げ、深く視線を覆い隠すも、そのサングラスの奥に見え隠れする視線が、モニターで狙い撃たれるミネルバを直視した。





ボギーワンが再びミネルバのレーダーに捕捉され、その事実に蜂の巣をつついたかのような騒動がミネルバの艦橋では起こっていた。

「ブルー18、マーク9チャーリーに熱紋! ボギーワンです! 距離500!」

タリアが索敵を命じて時間も経った実感も無いまま、驚愕を滲ませたバートの報告に、アーサーは再び奇声を上げてしまった。

「ええええっ!」

驚愕に腰を浮かすアーサーにタリアもまたその告げられた座標に愕然となる。

敵艦の位置はミネルバのすぐ真後ろだ…主に兵装が正面、または側面に集中する戦艦の絶対的な死角である後方を相手に取られるなど、艦長職に就く者にとっては最大級の屈辱であり、最低の恥であった。

やられたと悔しさを滲ませるも、そんな後悔さえ見逃さないとばかりに更に悪い報告が入ってきた。

「さらにボギーワンよりMS、4!」

レーダーに映る光点より分かれるように接近してくる熱紋。4機が分散し、真っ直ぐに向かうなか、敵艦からのロックオンを告げるアラートが響く。

「測敵レーザー照射、感あり!」

その方向と同時にガーティ・ルーから6基、計12門のゴッドフリートが火を噴き、進路上のデブリを蹴散らしながら、真っ直ぐにミネルバに降り注ぐ。

それだけの数の砲門なら、このデブリなど遮蔽物にもならない。いや、逆に破壊されたデブリがさらに四散し、ミネルバの後方の死角をより強めるだけだ。

続けてミサイルが一斉射され、ミネルバの向きを変えさせまいと周囲に向けて放ってくる。抜け目がないと毒づくも、タリアも動揺を抑え込み、指示を飛ばす。

「アンチビーム爆雷発射! 面舵30、トリスタン照準!!」

背面への攻撃オプションはミネルバにはほとんどない…艦首の向きを変えないことにはどうにもならない。多少のダメージは覚悟でなんとか体勢を立て直そうとするも、それを阻むようにバートが上擦った声で叫び返す。

「ダメです! オレンジ22デルタにMS!」

「くっ」

敵はそんな思惑さえお見通しとばかりに接近してきたMSが砲撃し、ミネルバを狙い撃つ。ドッペンホルンの砲門が火を噴き、周囲の岩塊を打ち砕きながら船体の装甲を傷つけていく。

カズイのストライクEもアグニを構え、スコープを引き出す。照準サイトのなかで狙いが定まると同時にトリガーが引かれ、アグニの高出力のビームが真っ直ぐにデブリを薙ぎ払いながらミネルバの装甲に突き刺さった。

一際激しい振動に船体が大きく揺さぶられ、クルー達は苦悶を上げる。

「左舷第28装甲板被弾! 排熱追いつきません!」

悲鳴のような報告を上げるメイリンにタリアは舌打ちをする。このままではいいように狙われるだけだ。せめて、敵の攻撃を僅かながらでも減少させ、体勢を立て直さなければ、こちらがやられる。

「機関最大! 右舷の小惑星を盾に回り込んで!」

そのタリアの指示に応じて、操舵を担当していたマリクは奥歯を噛み締めながら腕が痺れるほど舵を限界まで切るのだった。

ミネルバが攻撃を振り切るように走り出す。右舷に存在する巨大な小惑星を盾とし、岩面に沿うように飛行する。ゴッドフリートのビームが周囲にデブリを撃ち抜き、爆発した閃光を突き抜けてくるミサイルをミネルバの対空砲が撃ち落とし、小惑星の隆起が遮蔽物となって激突し、炎の華が咲き乱れる。取り敢えずの回避は成功したが、その副産物として生じた爆発の衝撃と、限界に近い駆動をさせたことで生じた船体への衝撃により、ミネルバ全体が激しく揺さぶられる。

艦橋が大きくシェイクされ、クルー達の悲鳴を噛み殺す声が響く。衝撃に身を投げ出されないようにシートに身体を張り付けながらタリアは歯噛みしつつもメイリンに叱咤するように指示を出した。

「メイリン! シン達を戻して! 残りの機体も発進準備を!」

「は、はい!」

衝撃に身を震わせながらも、気丈に応えるメイリンは振動に揺れるコンソールを叩きながらレーザー回線で通信を送る。

「マリク! 小惑星表面の隆起を上手く使って直撃を回避!」

「はい!」

「アーサー、迎撃!」

「りょ、了解! ランチャーファイブ、ランチャーテン、エスパール、撃てぇぇ!」

誰もがこの状況を切り抜けようと必死に模索するなか、後方に座するキラはどこか、歯痒い思いで見やり、表情を俯かせる。

そして、リンは振動に耐えながら、その視線は眼前の敵艦からの攻撃を見定め、相手の動きを読もうとしている。

その様子を、隣の席に座っているデュランダルはただ静かに、まるで観察するかのように眺めていた。







ミネルバが危機に陥っているなか、シン達の方も苦戦を強いられていた。

「くそっ」

ビームライフルを構え、発射するも、カオスとアビスは悠々とかわし、カオスの機動ポッドがランダムにビームを放ちながらインパルスを翻弄する。

2機を相手に持ちこたえてはいるが、実質逃げに徹するのが精一杯だった。奇襲という相手の手にのせられた以上、心理的なものも僅かながら響いている。

加えて、ステラとルナマリアの状況も掴めないことが今のシンには歯痒かった。そんなシンを嘲笑うように翻弄するカオスに続き、アビスが3連装ビーム砲を発射し、インパルスは回避するも、すぐ間近のデブリを撃ち抜き、金属の爆発が機体を揺さぶる。

「ぐぅぅぅ」

歯噛みしながらカオスとアビスを見据える。

何度もシミュレーションでは肩を並べていたきょうだい機とこうして相対するとはなんて皮肉だろうと思う。

だが、そんな感傷は関係なくカオスとアビスの猛攻は続く。

「くそっ落ち着け、落ち着けよ! 落ち着け、シン=アスカ!」

焦る自身に向かって怒鳴るようにシンは叫ぶ。ここで冷静さを欠けば、確実に敗北する。そして同時に思い出せと己に言い聞かせる。あの2年前の戦いで得た感覚を…シンは沸騰する思考を振り払うようにカオスとアビスの能力を頭に思い出させる。

相手は未知の機体ではない…自分も一緒に試験を行った機体だ。その性能も頭に入っている。それらを回避に徹しながら分析する。

厄介なのはカオスだ。機動性に加えてこのドラグーンシステム…展開している機動ポッドこそ2基だが、その動きは速く、捉えるのは難しい。高速で動く飛翔体を狙うのは至難の業だ。

「加えて、こっちも近接戦…相性最悪だっ」

今のインパルスには近接用の兵装しかない。相手は中・遠距離に特化した機体だ。そこまで考えて、シンはハッとした。

「まさか、ステラとルナを引き離したのは……っ」

今回はシンが前衛でステラとルナマリアが後衛のフォーメーションだった。とどのつまり、分散されては、それぞれの能力が偏り、不利となる。相手はそれを見越してこの布陣で攻めてきたのだろうかと逡巡する間もなく、再度アビスの攻撃が降り注ぎ、シンは回避する。

「このままじゃまずいっ!」

なんとかステラとルナマリアに合流しなければ、このままではジリ貧だ。2機の位置を捜しながらシンは回避に徹する。

そして、ステラとルナマリアもガイアと交戦を続けながらシンとの合流を急いでいた。ルナマリアのザクウォーリアがオルトロスを構え、発射する。

ビームの奔流がガイアに襲い掛かるも、ガイアは獣型に変形し、AMBACを利用して攻撃を回避する。

「なんて奴なのっ!」

そのあまりに常識外れの回避に思わず怒鳴る。

ガイアは地上での戦闘を視野に入れて開発されただけに獣型形態は本来、宇宙ではバランスが取れずにうまく活動できないが、レアはこの形態をむしろうまく利用していた。それは天性のセンスというものなのだろうか。バランスの取り方が難しい故に相手の意表を衝くような回避ができるのだ。

そのまま廃棄されたステーションの残骸の上を滑走し、再びMSになり、飛び出す。飛び上がるガイアに向けてステラはセイバーのビーム砲を放つも、射線上に現われるデブリに阻まれ、ビームが届かない。

「くっ」

歯噛みし、完全に相手の思惑通りになっている事態に憤る。ガイアは残骸の陰に飛び込み、姿を隠す。

「また隠れてっ」

ザクと背中合わせになり、ルナマリアが愚痴る。

さっきからガイアは積極的に攻めてこない…むしろヒットアンドアウェイに近い戦法で挑んでいる。だが、こちらがシンとの合流を目指せば強引に阻んでくる。

「それに、こちらの動きが読まれている……」

不可解といった口調でステラが漏らし、ルナマリアが当惑する。

「はぁ? 嘘でしょ?」

ルナマリアの疑問ももっともだ…だが、ステラは何故かそう感じるのだ。先程から動くたびに先手を取られている。こちらの進行方向をまるで予測しているように…いや、まるでお見通しと言わんばかりに先手を取り、回り込んでくる。

試しに機体を障害物の陰に隠れさせたが、それを見越して正確にデブリごと狙撃してきた。

相手はこちらの動きをよんでいる…そんな確信を抱くも、その方法が解からず、ステラは苦悩する。

そんな二人に対し、陰から窺うガイアのコックピットで、レアはセンサー越しに相手の位置を確認する。

レーダーには、自身のガイアを中心にやや距離を空けて点灯する熱紋が2機。だがそれは、IFF反応に友軍を示すシグナルが点灯している。

ガイアを含めてカオス、アビスの3機は元々ザフトの機体。当然、IFFシグナル等の基本的なデータは既に入力されている。それを逆手に取っての戦法だった。同じNジャマーの影響下において同士討ちを防ぐためのIFF反応。だがそれは言い換えれば、相手の位置が丸解かりになるという事態を引き起こす。もし鹵獲された機体であるならば、それは宙域に存在する敵機の反応全てが筒抜けとなる。

そして、相手もまさかIFFで位置が割り出されているとは考えもしないだろう。故にレアは相手の先手を取れる。

レアらに命じられたのは先行した敵機の足止め…無理に戦う必要はないが、少しでも長くこの場に留めなければならない。だからこそ、この戦法は理にかなったものだった。

再びその身を晒し、ガイアはビームライフルとビーム砲を斉射しながら加速する。

その砲撃は、コロニーミラーの陰に隠れていたセイバーとザクの位置をピンポイントで狙い、二人は瞬時に身を翻す。あやうく蜂の巣だけは避けられたものの、状況は芳しくない。

「いい加減にしなさいよね! この泥棒がっ!」

飛び出した2機は一斉に攻撃し、その火力にはさしものレアも回避しきれず、微かに機体を掠め、装甲が融解し、コックピットにアラートが響く。

軽く舌打ちし、身を翻して後退するも、セイバーが瞬時に加速し、ガイアに肉縛する。目前で変形し、ビームサーベルを振り被るセイバーに対し、ガイアはシールドを掲げて受け止める。

だが、その勢いを止められず、2機はそのままコロニーミラーの表面に飛び込み、ミラーを踏み砕きながら疾走する。砕かれて散るミラーが乱反射し、2機の姿を万華鏡のように映し出す。

「ええいぃぃ」

ステラの気迫とともにセイバーは強引にガイアを弾き飛ばす。空中に弾かれるガイアに向けてデブリに足を据えたルナマリアが照準を合わせる。

ロックされるとともにトリガーを引き、オルトロスから高エネルギービームが解き放たれるも、レアは飛ばされながらバックパックのビーム砲を発射し、強引に射線をずらし、ビームを回避した。

「こんのぉぉぉっ!」

渾身の一撃を回避され、怒り心頭になったルナマリアは再度オルトロスを構えるも、その時、2機の機体にレーザー通信受信を告げる音が鳴り、思わずそちらに眼を向ける。

それに眼を走らせると、電文内容に眼を驚愕に見開く。ボギーワンがミネルバ背後から奇襲し、攻撃を受けている旨を告げる内容だった。

その内容に呆然となる。

「ミネルバがっ!?」

ステラはようやく相手の攻撃に納得がいった。最初にシンを引き離したのも、ガイアが積極的に攻めてこないのも、全ては母艦を墜とすための布石だったのだ。

「私達、まんまと嵌められたってわけ!?」

ルナマリアもあまりの状況に怒りを憶え、自身に憤る。自分達はまんまと相手の策にのせられた。自分達が最初に捉えたのはただの囮…その隙に敵艦はエンジンを切り、息を潜めて艦載機が母艦から離れるのをずっと待ち、頃合を見計らって一気に攻勢に出た。

悔しげに操縦桿を握り締める手が強くなる。だが、そんな後悔さえ相手は見逃すほど甘くなく、一度身を引いたガイアがスラスターを使って加速し、ビーム砲を放った。

「……墜とす」

相手を睨みながら、レアは被弾時の不快感に突き動かされながら連射した。

晒されるビームにステラとルナマリアは歯噛みする。焦りと不安が身を襲う…一番頼りになるインパルスとも引き離され、戦況は一方的に不利な状況だった。

帰還も困難なうえ、今はなんとか相手の攻撃を防ぐのが精一杯だ。とにかく、シンと急いで合流し、この包囲網を突破しなければならない。

2機はガイアに向けて加速し、降り注ぐビームをシールドで受け止めながら強引に突進する。シールド表面が排熱限界を超え、徐々に融解する。だが、そんなことはお構い無しだ。無謀とも取れる行動にレアが眼を剥いた瞬間、2機はガイアに突進し、ガイアを弾き飛ばした。弾かれたガイアはそのままデブリに叩きつけられるも、今は構うことなく2機はインパルスとの合流を目指す。

「シン…!」

「やばいわよ、シン!」

焦りながらも、二人はシンの存在を信じ、今はひたすら合流を目指した。


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