アークエンジェルではナスカ 級にロックオンされた事で騒ぎが起こっていた。

「前方、ナスカ級よりレー ザー照射感あり! 本艦に照準! ロックされます!!」

チャンドラの叫びにナタルは 躊躇いなく指示を出す。

「ローエングリン、発射準 備」

「待って! 大尉のゼロが接 近中です! 回避行動を!!」

マリューは慌ててその指示に 待ったをかける。

「危険です…撃たなければ撃 たれる!!」

ナタルが叫び返すと、マ リューはシートの肘掛を強く叩いて反論する。

今、浮き足立って自らの作戦 を崩せば、負ける。

奇襲作戦を成功させるため に、ムウを信じなければならないのだ。

握り締めた手から汗が滲ば む。

 

 

G4機に包囲されるストライ ク。

キラは恐怖に狩られて動きが 鈍くなる。

デュエルが斬り掛かろうとし た瞬間、ビームが過ぎる。

「ちっ! あいつか!!」

こちらへ真っ直ぐに向かって くるルシファー。

「キラ!!」

「レイナ…」

「何をやっているの! 早く 態勢を立て直しなさい!!」

レイナは叱咤しながらストラ イクの援護に回る。

ビームで敵を牽制するが、不 意に眼をやったエネルギーゲージが既にレッドゾーンに入りかけている。

(くっ…何やってるのよ、あ いつは!!)

あいつ呼ばわりし、未だ行動 に出ないムウに毒づいた。

 

 

ヴェサリウスへ向かって隠密 潜行するムウのメビウス・ゼロ。

コックピット内で汗を流しな がら、ムウはモニターを見詰める。

やがて、センサーが上方に熱 源を探知する。

(…捕まえた!)

その瞬間、一気にエンジンを 噴かした。

真っ直ぐにヴェサリウス向 かって上昇していく。

 

「……!?」

突如、クルーゼは顔を上げ た。

このざらつくような感覚は忘 れるはずもない。

「機関最大! 艦首下げ、 ピッチ角60!」

いきなりの命令にアデスが戸 惑った表情で上官を見る。この時、クルーゼは部下の反応の鈍さに苛立つ。

その時、管制クルーが驚きの 声を上げる。

「本艦底部より接近する熱 源!…MAです!!」

その報告にアデスも我に返 り、舌打ちしながら指示を出す。

「ええい! CIWS作 動!! 機関最大! 艦首下げ! ピッチ角60!!」

慌ててクルーゼの指示通りに ヴェサリウスは機体を傾けるが、全ては遅すぎた。

そして、1機のMAがヴェザ リウス下方から突き上げるように出現した。

「うぉりゃあああああああ あっ!!」

雄叫びを上げてムウが最大加 速でヴェザリウスに迫る。

ガンバレルを展開させ、リニ アガンと合わせてありったけの火力を機関部に叩き込む。

機関部を直撃し、ヴェサリウ スは激しい震動に襲われる。

「よっしゃぁぁぁぁ!!」

擦れ違いざまに機関部が火を 吹くのを見て、ムウは歓声を上げ、そのままヴェサリウス上方へと抜け、アンカーを発射してヴェザリウスの外装に撃ち込み、振り子のように慣性で方向転換 し、向きを変えて素早くその宙域を離脱する。

 

ヴェサリウスのブリッジは激 しく揺れ、警報が鳴り響いていた。

「機関区損傷大! 推力低 下!!」

「第五ナトリウム壁損傷!  火災発生! ダメージコントロール、隔壁閉鎖!!」

クルーの悲鳴のような声が、 艦の被害を次々に伝える。

「敵MA、離脱!!」

離れていく機影を睨みながら クルーゼは歯軋りする。

「ムウめ……」

形勢は完全に逆転された。

まさか護るべき戦艦とMSを 囮にして、旧式のMA一機で本陣を叩くとは……

「離脱する! アデス、ガモ フに打電!!」

 


「フラガ大尉より入電、『作戦成功、これより帰投する』!」

ムウからの作戦成功の報を受けたアークエンジェルのブリッジに歓声が上がる。

マリューは一度軽く息を吐き 出し、この気を逃さずに命令を下す。

「この気を逃さず、前方、ナ スカ級を撃ちます!」

クルーの間に再び緊張が走 る。
「了解! ローエングリン1番、2番、発射準備!」

「フラガ大尉に空域離脱を打 電! ストライクとルシファーにも射線上から離れるように言って!!」

「陽電子バンクチェンバー… 臨界! マズルチョーク電位安定しました!」

ローエングリンの砲口が両舷 艦首から突き出す。

「……キラ、離脱するわ!」

「は、はい!」

アークエンジェルの様子に気 付いたレイナがルシファーで離脱し、ストライクも続く。

ヴェサリウスが攻撃を受けた ことがガモフからのレーザー通信で告げられる。

「ヴェサリウスが被弾!?」

「何故…!」

「俺達にも撤退命 令……!!」

呆然とする敵機を前にルシ ファーとストライクは離脱していく。

「しまっ……!」

気付いた時には遅く……

―――てェッ!」

ナタルの号令と共に圧倒的な 火力を誇るローエングリンが発射された。

進路上の障害物を薙ぎ払い、 一直線にヴェサリウスへと向かう。

「熱源接近! 方位ゼロゼロ ゼロ!! 着弾まで3秒!!」

「右舷スラスター最大! か わせ――――!!」

ヴェザリウスは傷付いたエン ジンで必死に回避運動を行うが、ローエングリンは右舷を掠め、大きな被害を与えた。これでヴェザリウスは完全に戦闘力を失い、クルーゼは歯噛みしながら撤 退を命じるしかなかった。


「ナスカ級、本艦進路上より 離脱!」

「帰還信号! アークエン ジェルはこのまま最大船速でアルテミスへ向かいます!!」

撤退信号を出された事にアス ランは驚いたが、同時に敵艦からも撤退信号が上がるのを見た。

「帰還信号…させるかよ、こ いつだけでも!!」

それを見てルシファーとスト ライクは後退しようとしたが、イザークのデュエルが追撃を止めようとはしない。

動きの鈍いストライクに狙い を定める。

「イザーク、撤退命令だ ぞ!」

「煩い! 腰抜け!!」

だが、イザークはアスランの 忠告に耳を貸す事は無く、ストライクを追っていく。アスランは唇を噛んだ。

 

 

「くっ…どうする!?」

レイナは自身に問い掛ける。

ストライクのバッテリー残量 はほとんど残っていない。

かといって自分の機体も4機 を相手にできるほどバッテリーに余裕はない。

「…仕方ない!」

レイナはアークエンジェルへ レーザー通信を送る。

一か八かの賭けに出た。

「レイナ機より入電…『ラン チャーストライカーパック、射出準備せよ』!」

マリューはその通信に眼を見 開いた。

 

 

 

翻弄されるキラはがむしゃら にストライクのビームを放つが、デュエルとバスターが意にも返さず向かってくる。

だが、やがてトリガーが反応 しなくなり、ビームが止まる。

キラはその時になって初めて バッテリー残量に眼をやった。

エネルギーゲージは既にレッ ドゾーンに突入している。

「パワー切れ!…しまった、 装甲が……!!」

ストライクの装甲から色が落 ち、本来の灰色に戻る。

「もらったぁぁぁぁ!!」

それを見て猛然と突撃してく るデュエル!!

(――やられる!)

迫り来るビームサーベルにキ ラが息を呑む。

その時、ルシファーが2機の 間に割り込んだ。

ビームサーベルを抜き、デュ エルのサーベルを受け止める。

「レイナ…」

「ボケッとしない! 早くアークエンジェルへ!! すぐにランチャーが射出され る!!換装しなさい!!」

通信越しにレイナの叫びが聞 こえ、キラは急ぎその宙域を離脱した。

「邪魔しやがっ てぇぇぇ!!」

怒り任せにビームサーベルを 振り回すデュエルにレイナは回避行動に移る。

ルシファーが離れた隙にデュ エルはストライクを追う。

「くっ……!」

後を追おうとするが、そこに イージスとブリッツが立ち塞がる。

幾条ものビームを掻い潜り、 回避行動を繰り返す。

今、一発でもビームを受けれ ば、その瞬間にフェイズシフトは落ちる。

追撃してくる2機に向かって 上方から攻撃が降り注いだ。

「俺を忘れてもらっちゃこま るぜ!!」

ムウのメビウス・ゼロだ。

ガンバレルを展開し、2機を 牽制する。

 

 

離脱するストライクに追いす がるデュエル。

最後の推進力を使ってアーク エンジェルに近づくストライクに、アークエンジェルからの援護もかわし、みるみる距離を縮める。

アークエンジェルのカタパル トからランチャーストライカーが射出され、キラは機体からエールストライカーを脱着する。

コンピューターがストライク とパワーパックの相対速度と姿勢を制御し、アジャストモードに移行するが、ストライクは無防備となる。

その瞬間を狙ってイザークは スコープを引き出し、ビームライフルの175ミリグレネードランチャーを構える。

照準がロックされ、それは警 告音となってストライクにも響く。

「ロックされた!?」

次の瞬間には、グレネードが 放たれ、真っ直ぐにストライクへと向かい……一拍おいて、真空の暗闇に凄まじい閃光が拡がった。

 

その光景に戦場にいた一同が 一瞬、呆然となる。

「やったか…!?」

閃光の眼前で静止するデュエ ル。

だが、爆煙を裂くように一条 の巨大なビームが放たれた。

「何!!?」

驚く間もなく、デュエルは ビームライフルごと右腕を吹き飛ばされた。

爆煙の中から姿を現わすラン チャーストライク。

「うわぁぁぁぁっっ!!」

咆哮を上げながらキラはアグ ニを連発する。

圧倒的な火力の射線に晒され たデュエル。

そこへルシファーとメビウ ス・ゼロも加わってきた。

「退け! イザーク! ディ アッカ! これ以上の戦闘は無理だ!!」

「何だと!?」

アスランの通信にイザークが 激昂する。

「アスランの言う通りです… このままだと、今度はこっちのパワーが危ない!」

ニコルからの通信にイザーク は悔しさに歯噛みし、モニターを殴りつける。

被弾したデュエルはバスター に手を貸してもらいながら離脱していった……

「敵MS群…離脱!」

その言葉に、クルー達は一様 にぐったりと力を抜いた……

自分達は生き延びたという現 実に……

 

 

逃げ延びたアークエンジェル に着艦したルシファー。

コックピットから出たレイナ はヘルメットを取り、首を振る。

汗が周囲に飛び交う。

不意に隣に固定されたストラ イクを見やる。

コックピット付近にムウや マードック達、整備班が集まっている。

軽くキャットウオークを蹴 り、無重力の中を跳ぶ。

「どうしたの、一体?」
「ああ、坊主が出てこないんだよ」
ムウの言葉にレイナは当然だろうとばかりに納得する。

これが言わば、本格的な初陣 だ…しかも訓練も何も受けていない民間人なのだから。

レイナはムウを押し退けて コックピットへと近づき、ハッチを強制解放し、コックピットに体を滑りこませた。予想通り…キラはレバーを握り締め、シートに座ったままの姿勢で完全に硬 直している。

「キラ=ヤマト……もう終 わったわよ」

貼り付いた指をスティックか ら外し、その身を引き寄せる。

引きずり出されるようにして キラの身体はコックピットから抜け、そのまま無重力の中を浮きながら、レイナの身体に抱き寄せられる。

汗ばんでいたが、女性特有の 匂いがキラを包み込む。

「よくやったわね……」

まさか、褒め言葉が出るとは 思っていなかったのだろう……キラはマジマジとレイナを見詰める。

その真紅に輝く瞳に…キラは 吸い込まれそうになった。

そんな二人の様子に整備班は 微笑を浮かべる。

だが、ムウだけは一人やや顰 めっ面でレイナを見詰めていた。

キラと同じく彼女もこれが初 陣である。

しかし、先の戦闘での戦い方 や状況判断といい、そして今の落ち着いた雰囲気……とてもではないが、初陣とは思えない。

もっとも…初めて会った時か ら普通とは違うとは思っていたが……

だが、ムウの脳裏には新たに これから寄港するアルテミスに、一抹の不安を抱えていた。

 

 

 

「クルーゼ隊長へ、本国から であります」

アークエンジェルへの追撃を 一旦中止し、スペースデブリの影で艦の修理を行うヴェサリウスへ一つの通信が届いた。

手渡されたメッセージを読み 終わったクルーゼは鼻をならし、アデスへと手渡す。

「評議会からの出頭命令です か……そんな! アレをここまで追い詰めながら!」

アデスもその内容に顔を顰め る。

「ヘリオポリス崩壊の件で、 議会は今頃てんやわんやといったところだろう、まあ仕方ない」

クルーゼは淡白に笑う。

「ヴェサリウスもこの状況で はどうにもならんしな……修理の状況は?」

「ほどなく、航行に支障のな いまでには」

「アレはガモフを残し、引き 続き追わせよう…アスランを帰投させろ。修理が終わり次第、ヴェサリウスは本国へと向かう」

数時間後…アスランが合流し たヴェサリウスはプラントへ向けて発進した。

 

 

アークエンジェルがアルテミ スへとゆっくり向かう。

そんな中で、着替えを終えた キラとレイナが出てくる。

キラは地球軍の軍服だが、レ イナは通常の黒い私服である。

軍服など、彼女の性に合わな いのであろう。

そこへ、待ち伏せをするよう にムウが待ち構えていた。

「ちょっと言い忘れていた」

秘密めかした口調でキラの首 に腕を回し、引き寄せる。

「ストライクとルシファーの 起動プログラムをロックしておくんだ…君ら以外、誰も動かすことができないようにな」

ムウの言葉の意味をキラは理 解できなかったが、レイナは素早く事情を理解した。

(ったく、笑わせるわね…所 詮は、かりそめだけの烏合の衆、か)

嘲笑うように冷笑を浮かべ る。

不意に、窓に眼をやり、傘の 展開しているアルテミスを見やった。

 

「アルテミス…臆病者の砦、 か……」

 

 

 

 

 

《次回予告》

 

 

思惑と欲望が渦巻く臆病者の 砦……

それはさらなる混迷を呼 ぶ……

 

戻ることもできない運命は、 子供達の未来を迷わせる……

 

次回、「臆病者の砦」

 

運命を切り裂け、ガンダム。

 


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