海岸線の防衛ラインを突破 し、進軍するストライクダガー隊……そのなかの一部隊がカーペンタリア基地のエネルギータンクを狙い、進撃していた。

ジンやザウートが必死で阻も うとするも、数で推す連合の物量の前に呆気なく崩れ去る……ストライクダガーがエネルギータンクに向けてビームライフルを構える。

これさえ破壊すれば、もはや カーペンタリア基地の機能は落ちる。

だが、次の瞬間……ストライ クダガー横から飛来するビームに機体を撃ち抜かれ、爆発する。僚機の爆発に慌てて振り向くと……ラゴゥ5機を筆頭にバクゥ隊が4脚で駆けてきた。

跳躍し、空中からミサイルを 発射するバクゥ隊……ミサイルの応酬を受け、ストライクダガーが次々と吹き飛ばされる。

大地をローラー駆動で疾走 し、ビームサーベルを展開し一気に加速する。

刹那……ストライクダガー2 機の脚部が斬り裂かれ……そのままバランスを崩して倒れ伏した瞬間、爆発する。

だが、連合側も必死に体勢を 立て直し、ストライクキャノンダガーがリニアガンで砲撃する。

密集させた砲撃にバクゥが被 弾し、吹き飛ぶ。

だが……爆煙の奥から姿を見 せたラゴゥのビームキャノンが火を噴き、リニアガンごとボディを吹き飛ばされる。

ラゴゥ隊は俊敏な動きをいか し、ストライクダガーを翻弄する。

まるで、獣の群のよう に………瞬く間に全滅するストライクダガー隊……それは、人と獣の差を表わしているようであった………

 

 

《イ、イメリア中尉! こち ら第4小隊! 現在敵の激しい反撃に晒されている! 至急応援……ぎゃぁぁっ!》

耳を刺すような悲鳴とともに 通信が途切れる。

「第4小隊? 第4小隊!  返事をしなさい……!」

必死に呼び掛けるも、通信機 からはノイズしか返ってこない。その事から、どうなったかを予想するのは難しくはなかった。

「流石に予想以上の防衛網 ね……一個小隊、私と一緒にエネルギータンク制圧に…」

指揮下の3個小隊を率いて中 央突破を図ろうとしていたレナは動きを止め、指示を出そうとした瞬間、前衛のデュエルダガーがビームに撃ち抜かれ、爆発した。

その爆発に怯むレナ……爆発 の奥からはビームの嵐…………

「全機、防御を!」

間髪入れずレナが叫び、自身 のバスターダガーを遮蔽物の陰に身を隠す。

デュエルダガーはシールドで 防ぐも、ストライクダガーはビームコーティングを施されていないために、次々と撃ち抜かれていく。

「これはビーム兵器……」

明らかにこの威力は実弾兵器 ではない……ならば、ザフトの新型かと思考を巡らしていたレナの耳に戸惑う部下の声が響いてきた。

《ちゅ、中尉! て、敵のな かにダガーが……うあぁぁぁっ!》

前方にいたデュエルダガーや ストライクダガーがビームに機体を撃ち抜かれ、爆発する。

その爆発の奥から姿を見せた 敵機にレナは眼を見開いた。

奥から姿を現わしたのは、な んとストライクダガー……しかも、ザフト系のMSと思しき機体とともにこちらへと向かってきている。

「ちっ、鹵獲された機体!  ザフトも姑息ね……!」

瞬時にそれらが鹵獲された機 体だと察するや否や、毒づく……連合の現在の旗頭でもあるストライクダガーがコーディネイターに使用されているなど、どこか悔しげな思いが浮かぶ。

「それにデータに無い機体 ね……ザフトの新型?」

ストライクダガーと並ぶゲイ ツに眉を寄せるも……敵はビームライフルを放ちながら進撃してくる。

突如敵機のなかに友軍機が現 われれば当然困惑する……その隙を衝き、ストライクダガーがビームサーベルを抜き、連合の同型機を斬り裂く。

そしてさらには、ゲイツがス ラスターを噴かし、突進してくる。ビームクローを振り上げ、ストライクダガーを切り裂く。

恐怖にかられてデュエルダ ガーやストライクダガーが我武者羅にビームを放つも、ゲイツは無謀にも突撃してくる。

鬼気迫る気迫でビームクロー を振り、一体のボディを貫く……振り返るやいなやビームライフルでボディを撃ち抜き、爆発させる。

もはや死さえも厭わないザフ ト兵の勢いに徐々に押し返される連合……死を覚悟するのとしないのではやはり強さが違うのを切に表わしていた。

その勢いのままさらに獲物を 求めようとするゲイツ……だが、突如一体が撃ち抜かれ、爆散した。

ビームの放たれた先には、イ ンパルスライフルを構えるバスターダガーの姿……コックピット内でレナは吼える。

「いくら新型だろう と……!」

レナはペダルを踏み込み、バ スターダガーは加速する……砲撃機で接近戦に入るなど、無茶もいいところであるが、レナは類まれない反射神経をいかし、ビームを掻い潜りながら、一気に肉 縛する。

加速し、先頭のゲイツ一機を 踏み台にするように駆け……そのままバーニアを噴かして飛び上がる。

完全に上を取ったバスターダ ガーは収束ライフルとガンランチャーをドッキングさせ、対装甲散弾砲にして放った。

雨霰と降り注ぐビームの弾丸 が、直下にいたゲイツ数機を粉々に撃ち砕く。

そのままビルの屋上に飛び乗 ると、呆然としている僚機に向かって叱咤した。

「なにをしている! 敵は怯 んだ…そのまま進め!!」

力強く言い放つその言葉に、 先程まで動揺していた連合側のパイロット達の表情が引き締まり、一気に反撃に出る。

やられたままでおかない…… 連合側のストライクダガーやストライクキャノンダガーの攻勢に押し返される。

支援するストライクキャノン ダガーのリニアガンがザフトの使用するストライクダガーを吹き飛ばす。

自軍の兵器を略奪した卑怯者 と罵りながら、パイロット達はトリガーを引き、次々と撃ち砕いていく。

完全に逆転してしまった今、 もはやザフトには耐える余裕もない……次々と防衛戦が瓦解していく。

最後の抵抗とばかりにゲイツ がバスターダガーに襲い掛かる。他とは明らかに違う形状に隊長機と判断したのか、せめて一矢報いようとビームクローを振り上げる。

だがバスターダガーは後方に 飛び、その一撃をかわす……足をつくと同時に肩のミサイルポッドを開放し、ミサイルを発射する。

一斉に放たれるミサイルの応 酬を受け、ゲイツは沈黙した。

防衛網は崩したものの……こ ちらの損耗も大きい。既に指揮下の3個小隊のうち、既に2個小隊を損失し、残存兵力も損傷が大きいのも少なくはない。

「グリーンリーダーよりHQ へ……こちら司令部制圧隊…敵最終ライン突破。エネルギータンク方面とこちらへの増援をお願いします」

最終的な判断として、レナは 援軍を要請した。

ほどなくして、海岸線に横付 けされた臨時の中継基地から予備戦力の5個小隊を回してもらい、内3個小隊と合流し、レナは司令部制圧に向かう。

 

 

 

その頃……エネルギータンク 制圧に向かった部隊はほぼ壊滅に近い状態に陥っていた。

バクゥ、ラゴゥといった4脚 MSが相手ということもあるが……なにより、ここに派遣されたストライクダガー4個小隊の内、半々が東アジアと赤道連合の兵士なのだ。

中立国だった故にMSの配備 が遅らされ、赤道連合内ではMSを満足に扱えるパイロットが極端に少なかった。

ここにいる2個小隊のパイ ロット達はそんな数少ない面々ではあるが、隣に肩を並べたのは犬猿の仲の東アジア共和国のパイロット……いくらこの戦いが近隣の国々兵力を集結させている とはいえ、下士官レベルでの禍根がそう簡単に消えるわけがない。結果……どちらも相手に負けまいと我先にと先走る者が増え、結果、足を引っ張り合うことに なり、苦もなく撃破される。

ラゴゥ5機のフォーメーショ ンに翻弄され、またもや一機ビームサーベルにボディを斬り裂かれ、爆発する。

そのまま大地を駆けるラゴゥ は新たな獲物を求める……恐怖に歪むストライクダガーのパイロット……その時、上空からビームが降り注ぎ、ラゴゥは思わず制動をかけ、ターンする。次の瞬 間、ビームがラゴゥの進行方向に着弾し、蒸発させる。

「いやっほうっ!」

陽気な声を上げて降下してく るレイダー……その後方にはスカイグラスパー隊…既に空中ではディン、インフェストゥスともに全滅させられていた。

まあ、連合側もスカイグラス パー10機にスピアヘッド37機、レイダーを3機ほど損失しているが、制空圏を握った今、地上の制圧に乗り出してきた。

スカイグラスパー隊がビーム 砲を放ちながら急上昇する……そのヒットアンドアウェイにさしものラゴゥやバクゥも動きを抑制される。

主翼に飛び乗ったレイダーが 機関砲を両手に構え、連射してくる。

銃弾の嵐を受け、ラゴゥ一機 が被弾し、爆発する。

僚機の撃破に怒りにかられ、 レイダーを叩き落そうとラゴゥが跳躍するも、エドは口笛を吹くようにひょいっとかわす。

虚空を斬るラゴゥはそのまま 大地に足をつく。いくら俊敏さを誇ろうとも、大地をかけるしかできない獣では大空を自由に舞う鳥には勝てない。

やがて、スカイグラスパーは 火線を集中させてきた……3機がそのまま急降下し、ビーム砲を撃ち続ける。

ビームに頭部、ビームキャノ ン、そしてコックピットを撃ち抜かれ……ラゴゥ2機がバラバラに吹き飛ぶ。

動きの鈍る残存部隊に、横か らビームが飛来する……援軍として向かったストライクダガーがビームライフルを手に進軍してきた。

ビームの集中砲火を浴び、バ クゥが次々と沈黙していく。

残ったラゴゥ2機が急加速 し、ストライクダガー迫る……ビームの集中砲火を浴び、機体を破壊されながらも突き進み、連合のMSの密集地帯へ突進する。刹那、ラゴゥのボディが爆発 し……周囲にいたストライクダガーを多く巻き込み、朽ち果てた。

その爆発の余波がエネルギー タンクを巻き込み……タンクが裂けるように爆発し、辺り一体を炎に包む。

地を覆うような炎は天にまで 昇り……低高度を飛行していたスカイグラスパーを巻き込み、爆発させていく。

「全機上昇しろ!」

エドの素早い指示に反射的に 反応した機体が一気に高高度に逃れる。

濁流のごとき炎が舞う地上に エネルギータンクが壊滅し、カーペンタリアの機能はほぼ失われてしまった。

 

 

 

陸上の勝負が決しようとして いた頃、水中でも決着が着きつつあった。

ボズゴロフ級潜水母艦3隻の 内、既に2隻がディープフォビドゥンの集中砲火にあい、大破している。

加えて、グーンやゾノ部隊も ほぼ壊滅に近い……地球軍側も既に10機近いディープフォビドゥンを損失している。だが、そんななかで奮迅の活躍を見せるジェーンのフォビドゥンブ ルー……リフターに描かれた白鯨のエンブレムのごとく……海の中を暴れ回る。

その攻撃に次々と撃破されて いくザフト側のMS……態勢を崩した隙を衝き、友軍機のディープフォビドゥンが集中攻撃で撃墜していく。

残存のグーンやゾノ部隊も自 分達の敗北を悟るやいなや、最後の意地とばかりにディープフォビドゥンや潜水艦に特攻する機体もある。

ディープフォビドゥンに体当 たりし、至近距離でメーザー砲を放ち、自爆する。

水中に爆発がいくつも巻き起 こる……そして、ザフトと連合のMSの残骸のみが水中に散乱する。

そして……もはや潜水艦一隻 のみとなったザフト側……潜水艦の艦長は、最後の指示を下す。

刹那……潜水艦のエンジンが 唸りを上げ……海上の揚陸艦に向かって上昇していく。

その行動に怪訝そうな顔を浮 かべるジェーン……だが、次の瞬間ハッとしたように眼を見開く。

「特攻……!? ぐっ!」

意図を悟るやいなや、上昇し ようとするも、長時間の戦闘で既に機体も半ば限界に近く、なかなか上昇速度が上がらない。

歯噛みするジェーンの前 で……潜水艦は遂に海上の艦艇が集結している地点まで浮上する。

「ザフトに…栄光あ れぇぇぇぇぇ!!」

狂信者のごとく叫び、潜水艦 は艦底部に体当たりし……底部を破って抉り込んだ潜水艦のエンジンが爆発し……イージス艦を巻き込み、爆発する。

巨大な水上爆発を引き起こ し、その余波が周囲の艦艇にまで及び、爆風により転覆する艦艇が連鎖爆発を起こしていった……

その光景に連合兵士は暫し呆 然となるのであった…………

 

 

 

司令部のライトが点灯し…や がてフッと消え、非常灯の灯りのみが灯る。

「エネルギータンク方面で大 規模な爆発を確認!」

「パンサー1? パンサー 1、応答してください!?」

「最終防衛ライン、突破され ました!」

「潜水部隊…壊滅しまし た………」

それらの報告を聞きながら、 司令官はシートに腰が抜けたように座り込んだ。

終わった……そういった感情 がもはや胸中を占めていた。

エネルギータンクは消滅、 MS部隊も壊滅…基地機能もほぼ麻痺した今、もはや陥落は時間の問題であろう。

その時、司令部が激しい振動 に見舞われる。

「て、敵です! 距離 300! 第7ブロック消滅!」

モニター画面には、こちらへ と向けて砲口を向けるバスターダガーやストライクキャノンダガーが映っている。

最終防衛ラインを突破した一 群が遂に司令部に到達した。既に防衛のMSはなく……司令部周辺の砲台ではもはや抑え切れない。

砲台を次々に破壊され、やが て敵機の姿を映していたカメラが破壊され、モニターが途切れる。

それを確認すると、司令は静 かに命令を下した。

「総員、ただちに退避……地 下の潜水艦にて脱出せよ」

その指示に驚いて振り返る一 同……だが、司令官は有無を言わせぬ表情を浮かべていた。

「ここで死ぬのは簡単だ…… だが、敢えて生き延びてもらいたい………死ぬのはいつでも死ねる………ゆけ」

静かな声で呟く司令官に、兵 士達は一斉に敬礼し……その場から退避していく。

その背中を見送ると、司令官 の男はコンソールを叩きながら、ある準備を進める。

その時、気配を感じて振り向 くと……副官が佇んでいた。

「なにをしている……お前も 早く行け」

「しかし、司令は?」

「私は残る……司令官が逃げ 出すわけにはいくまい」

そう……司令という立場上、 責任を取るためにここにいる。カーペンタリア陥落を赦したこととこの無謀な防衛戦に送らねばならず、死んでしまった部下達に対する責任だ。

「早くゆけ……生き延びろ」

副官はなにかを堪えるような 表情で敬礼し、司令官もそれに敬礼で返した。

副官がだっと退出していく と、一人残った司令室で司令官はそのまま前を見据える……既に指令所にも炎の手が伸び、燃え盛っている。

「………ナチュラル…我らの 最後の意地…しかと見よ」

手元のボタンを押し込んだ瞬 間………タイマーが動き出し始め…次の瞬間、バスターダガーの放ったビームに司令所は吹き飛ばされた。

 

 

 

沖合に停泊していたパウエル に、司令部沈黙の報が届き、ダーレスはどこか肩の荷が降りたように息を吐いた。

「ようやく陥ちたか……流石 に最大の拠点だけはある」

どこか、畏怖と敬意が混じっ た表情を浮かべる……この作戦に投入した戦力の内、空母10隻、イージス艦47隻、揚陸艦31隻、潜水艦7隻…MS、戦闘機合わせて数百単位での損失に なった。

これだけの戦力を損耗して は、もはや地上での作戦行動は半ば不可能に近いだろう。もっとも、カーペンタリアさえ陥落させてしまえば、あとは宇宙だけだから地上の艦艇をいくら損失し ようが構わないのかもしれないが………

おまけに、この作戦での人的 損耗はほとんどが東アジアと赤道連合のみだ……大西洋連邦の人的被害は全体の10%にも及んでいないだろう………なにせ、大西洋連邦の兵で固められた艦艇 はこの沖合での待機を命じられているのだから……人員のほとんどを宇宙へと上げている今、無駄な損耗を出したくは無いという打算的な考えだった。

「よし……任務は達成した。 残存部隊を回収後、速やかにオーブの補給基地へと後退する」

いろいろ含むところはある が、これで地上のザフトはほぼ拠点を失った。あとは散発的なゲリラが多少出るかもしれないが、もはや地上では気に掛ける必要も無いだろう。

オーブの補給基地で補給後、 グリーンランドの本部に戻れば、ダーレスの任務は終わる。

後の大洋州連合政府への降伏 の旨を伝えるだろう。

オペレーター達が通信に向 かって呼び掛け、上陸部隊や水中部隊に向けて帰還信号弾が打ち上げられる。

肩の荷が降りたとばかりに シートに身を沈めようとした矢先、ブリッジに警報が鳴り響き、ダーレスは飛び跳ねるように身を起こした。

「何事だ!?」

まだザフトの残存部隊でも抵 抗をしているのかとも思ったが、オペレーターの報告は違った。

「ミサイルと思しき熱源3!  こちらに向かってきます!!」

沈痛な報告とともに、ブリッ ジの窓からもカーペンタリア基地から発射されたと思しきミサイルのようなものが向かってきた。

「迎撃!!」

多少驚かされたものの、ダー レスは冷静に指示を飛ばす。

なんであれ、たかが3基…… こちらには数十近い艦艇があるのだ。対空砲火を放てば、余裕で撃墜できる。

艦艇の砲台が動き……発射さ れようとした瞬間………突如、ミサイル3基が空中で爆発し、眩い閃光と衝撃波を放つ。

その閃光に思わず眼を覆うク ルー達……刹那、艦の計器類がショートし、火花を散らす。

先程発射されたのは、カーペ ンタリア基地内に保管されていたグングニール……パナマ戦でその効果を実証されたこの兵器は、万が一の事態に備えて対オーブ戦に使用される名目で数基が保 管されていた。

カーペンタリア基地司令官の 最後の意地がこのグングニールミサイルであった。カウンターをセットしたグングニールをミサイルに搭載し、タイミングを見計らって発射…敵連合艦艇の直上 で炸裂するようにセットした。

内部に蓄積されていた圧電素 子が解放され、ほぼ沖合に停泊していた連合艦艇に直撃し、全ての電子機器が焼き切れていた。

そのために、グングニールが 引き起こした衝撃波が海上を襲い、海面が荒れ狂う。その海の荒波がもはや浮くだけになった連合艦艇に襲い掛かり、操舵することも不可能な艦艇はその波にも まれ、バランスを崩して転覆する。

転覆だけならいざ知らず、艦 同士の激突で爆発する艦艇もある。

「総員、対ショック!」

ダーレスの素早い指示にク ルー達は必死に至るところにしがみ付き、揺れて崩れそうになる艦のなかで耐える。

だが、次の瞬間……前衛に展 開していた艦艇が次々と爆発、炎上していく。

何事かと困惑するが、セン サーやレーダー類も制御不能の状態では確かめる術がない……これは司令官の最後の攻撃であった。グングニールを使っての敵艦艇の動きを止め、それに連動し て海中に設置してあった魚雷の発射管からの魚雷の応酬で動けない連合艦艇を撃破するという二段構えの作戦だった。

もはや海上の張子となった連 合艦艇はいい的だった……しかも、ザフト側の水中戦力が壊滅したと思い込み、水中MSを補給のために帰還させていたのも仇になった。

せめて、水中にMSが展開し ていればまだ被害は少なかっただろうに……停泊していた艦艇の内、30%近くが直撃を受け、損失した。

ダーレスはすぐさま生き残り の救助を命令する……だが、電子機器が全て停止しているためになかなか指示が実行できず、混乱するクルー達……そんな混乱を上に、一隻のボズゴロフ級潜水 艦がひっそりと出航する。

そのまま隠密潜行で連合艦艇 の真下を進んでいく…全ての計器類が沈黙している今、彼らには被弾した艦の救助とシステム復旧に忙殺され、こちらまで気が回らない。

そんな彼らを横に……潜水艦 が離脱していった………

 

C.E.71 8.15…ザ フト軍における地上最大の軍事拠点、カーペンタリア基地は陥落した。

この戦闘では双方に甚大な被 害を齎し、また地上のザフト勢力ほぼ壊滅と引き換えに、連合軍は揮下の洋上艦の内、約6割を損失し、MSと戦闘機も併せて1000近い損耗となった。

人的資源においては眼を覆い たくなるような損失だが、失われた人員はほぼユーラシア、東アジア、赤道連合と大西洋連邦以外の国々の兵士であり、連合内の中枢である大西洋連邦にはまだ かなりの兵員が残されていた。

カーペンタリア陥落に伴い、 連合政府は大洋州連合政府に無条件降伏を提示……護り手であったザフトが撤退した今、大洋州連合にこの要求を拒むことはできなかった。受諾後、連合政府は 大洋州連合政府に対し、地上の一国家として叛逆行為に及んだと糾弾…プラントとの通商線カットを課した。

これにより、大洋州連合から 輸出されていた資源、食料、水は全面的にカットされ、プラント内に暗雲を齎す。

だがそれは……次なるステー ジへの幕開けでしかなかった…………

 

 

 

 

同時刻…アメノミハシ ラ…………

医務室内では、検査器具を取 り付けられ、呼吸器を口に添えられたプレアが静かにベッドで眠っていた。

そのプレアを不安げに見詰め る風花とカナード……その横には、レイナの姿もある。

(この子が、少佐の……ね)

既にプレアのことはフィリア から聞かされていた。

アメノミハシラへと帰還した リ・ホームと同行していたオルテュギア……当初は警戒したものの、キラとロウの取り成しもあり、アメノミハシラへと招くことになった。

そして、リ・ホームから降ろ されたプレアは真っ直ぐに医務室へと運ばれ、フィリアの治療を受けることになった。

その検査の過程でプレアの遺 伝子パターンがムウに酷似していることを知ったフィリアは、その事をレイナとリンに伝え、レイナは意を決してムウに問いただすと、プレアがムウのクローン であることを告げられ、今に至る。

「あの……プレアはどうなん ですか?」

風花が不安げに問うと、フィ リアは表情を顰める。

「……結論から言うと……こ の子は、もってあと数年の命よ…しかも、絶対安静が条件よ」

重く…それでいて苦い口調で 告げるフィリア……だが、その発せられた言葉に風花は眼を見開く。

「そんな………」

「この子は遺伝子自体が不完 全なの……こればかりは、どうにもならないわ」

まだ胎内から生まれた子な ら、遺伝子の治療も行えたかもしれない……だが、プレアはクローン……そのコピーされた遺伝子情報自体が欠陥だとすれば、いくらフィリアでも打つ手がな かった。

無論、ないこともない……遺 伝子欠陥を補うナノマシンを投入すれば、もしかしたら身体を持ち直せるかもしれないが……それは半ば人としての身体を捨てることになる。フィリア自身も気 が進まない……

「………そうか」

絶句する風花とは対照的に、 カナードは落ち着いた表情で呟くと、身を翻す。

「ちょっと! あんた……そ れだけ!」

そんなカナードの態度が癪に 障ったのか……風花は睨む。

プレアがこうなった原因の一 端もこの眼前の男にあるというのに……不遜な態度を取るカナードに腹を立てるなといわれても無理だった。

「……こいつはもう戦う必要 はない…………それに、こいつが望んだことだ」

そのまま、医務室を出て行 く……その背中を見送りながら、風花は悪態をつくが、レイナはカナードの考えを感じ取っていた。

何があったかは知らないが、 少なくとも彼らが望んだこと……そして、プレアの想いは受け継がれていく………もっとも、それを表に出さない不器用さは誰かさん達と重なる。

「………彼は彼で、この子の ことを心配してるのよ」

レイナがそう呟くと、不可解 な表情を浮かべる。

「それに、この子自身が望ん だことだったんでしょう………なら、私達がとやかく言っても仕方がない」

そう……実際にぶつかり、想 いをぶつけ合ったからこそ解かる絆もある………それは当事者達以外には理解しがたいものもある。

少なくとも、カナードはプレ アの想いに答えるために、あの機体の改修を恥を覚悟でロウに依頼したのだろう。

ならば、プレアやキラの戦い は無駄ではなかった。

「このまま、マルキオ導師の ところへ預けた方がいいかしらね」

「そうね……ここでいても療 養はできないでしょうし………」

難しい表情ながらもフィリア も応じる。

このアメノミハシラもつい先 日にザフトの襲撃を受けたばかり……いうなれば、ここも決して安全とはいい難いのだ。

ならば、ここよりはマルキオ 導師の許へ送った方が、静かに療養できるであろう……プレアが意識を取り戻したら、その話を切り出そうと決める。

風花は未だ複雑な表情でプレ アを見詰めている。

「どうして……プレアはこん な無茶をするの…死んじゃったら、なんにもならないじゃない」

物心ついた時から既に傭兵世 界にいた風花はリアリズムで客観的な考えを持っている。傭兵は死んだらなににもならない……傭兵は生き残ることが重要だと身体に憶えている。

そんな観点から見れば、プレ アのように自分の命を削ってもなにかを成そうとするのは理解できない……プレアの目指すものがあまりに抽象的で大きすぎるから………

 

―――――僕は、人々の平和 な生活を護りたいんです………

 

以前、プレアと最初に出逢っ た時にプレアが風花に言った言葉。

あまりに思想的で抽象的な不 明瞭な想い……風花には理解しにくい言葉だった。今でも半ばそう感じている。

「人はね……長く生きること だけが生き方じゃないと思う………長くても短くても…自分の生きている生のなかでなにかをやり遂げることが、人の生き方なんじゃないかと私は思うわ」

逡巡する風花に向かってレイ ナが呟く。

「命は決して永遠じゃな い……どんなものにでも、等しく滅びはくる………」

人は…いや、命あるものはい ずれ死ぬ運命……それは絶対に変えられないことだ。その死という扉が早いか遅いかの違いだけ……だが、どんなに短くても生のなかで自分の生き様を全うする ことが人の生き方………

そして……想いは継がれてい く……………

「………貴方がこれから先の 生き方で、この子が選んだ道の意味も解かる時がくる」

いつかは気づくだろう……プ レアがなにを望み…そして、なにを成したか………風花は、当惑しながらも……今一度、静かに眠るプレアを見やった…………

 

 

 

アメノミハシラのファクト リー内は現在喧騒に包まれていた。

連日に渡っての大破した機体 の改修や新型機の調整……まさにやることは多々ある。

そんななか、ドックの一画で は、オルテュギアの改装が進められていた。

オルテュギア内の整備士達が 中心となって、アメノミハシラのドックの設備を借りてオルテュギアを改装している。

もはや脱走兵扱いであり、尚 且つ拠点としていたアルテミスの崩壊を聞き、彼らもまた孤軍の道を選んだ。

「そこっ、エネルギーバイパ スの接続に注意を」

改装の陣頭指揮を執るメリオ ルに、カナードが歩み寄る。

「カナード……もういいので すか?」

「余計なことは聞くな……そ れよりも、何故そこまで俺に付き合う…これは俺が決めたことだ。お前らには関係ないはずだ」

ややぶっきらぼうに呟く。

カナードは自分の道を探すた めに……敢えて戦う道を進むことにした。だが、それはあくまで自分独りだけ……少なくともメリオル達には関係ないことだ。

だが、そんなカナードの疑問 に対し、メリオルはいつもの冷静な表情を張り付けたまま答えた。

「……それこそ余計なことで す。我々は特務部隊X……貴方をサポートするために集まったのです。部隊の要である貴方の意向がなんであれ、それを全力でサポートするのが我々の役目で す」

特務部隊という部隊に集った のは皆、祖国を建て直したいと願う者達だ。

牙を持たず……今まで辛い立 場にあったユーラシアにとって、カナードはまさに牙であり希望であった。ガルシアや上層部の思惑がどうであれ、それをサポートできるというのはある種の誇 りであった。

そんな彼らだからこそ、敢え て脱走まがいの行動にも出られたのだ。

そして、カナードが進もうと する道をゆくための……カナードの新たな剣の鞘となるために……こうしてオルテュギアも改装を施している。

「まあ、私達のこれからのこ とを思えば、コレぐらいは必要でしょう」

したり顔で改装の進むオル テュギアを見詰める……もはや、アガメムノン級の面影が半ばなくなっている。

艦首部分は突き出し、帆船の ごとく伸び、その下部にはドクロを模したレリーフがつけられ、艦周辺にもレーザー突撃銃などを増加している。

またエンジン部も改築し、航 行能力を上げている。まるで、海賊船のごとき様相を醸し出すオルテュギア……そう、彼らはこれから海賊に近い立場になるのだ。

やるからには徹底的にや る……それがメリオルのポリシーらしい。

「……勝手にしろ」

素っ気なく一瞥すると、カ ナードは身を翻す。

「カナード……よければ、こ の艦の名前…考えておいてください」

もはやオルテュギアなどとい う名は要らない……この艦も自分達もこれから変わっていくのだから………

カナードは無言のまま、その 場を去り、オルテュギア内の格納庫に歩んでいった。

その後姿を、どこか微笑を浮 かべて見送った。

 

 

 

格納庫へと移ったカナード は、その一画に歩み寄る。

今現在、そこでドレッドノー トの再調整が行われているはずだ……ハイペリオンが失われた今、このドレッドノートこそがカナードの新たな剣となる。

だが、そこを訪れたカナード は思わず息を呑んだ。

そのあまりの出で立ち に………

「しっかしよ〜いくらなんで もこいつはやり過ぎじゃねえか?」

ドレッドノートの足元には、 改修を担当しているロウとそれに手を貸すトウベエがいた。

「なんのなんの……せっかく だからとことんやらんとな」

したり顔で答えるトウベエに ロウも苦笑を浮かべる。

「……おい」

低い声で後ろから話し掛けら れ、ロウとトウベエが振り向く。

「ん……なんだ、あんちゃん か。どうだ、あんちゃんの新しい機体………」

「なんだ! このふざけた格 好は!?」

大声で怒鳴り返し、何事かと 周囲の整備士達が振り向くが、カナードは気にも留めない。

「なんだよ…気に入らねえの か……せっかくグレートなパーツを付けてやったのに……」

さして気分を害したようにも 見えず、そのまま首を傾げるように改修の済んだドレッドノートを見上げる。

ドレッドノートはその風貌を かなり変えていた。

まず後部のドラグーンユニッ トが取り外され、逆に大型のビーム兵器が搭載されている。

イーゲルシュテルンUとビー ム砲にもビームサーバーにも用途を変更できる複合兵装のHユニット……さらには腰部のプリスティスを外し、ハイペリオンの予備パーツを移植したアルミュー レ・リュミエールの発生ユニットを装備させている。

カナードはドラグーンを操作 するための空間認識能力がなかったために、それに応じて攻守に渡ってハイペリオンに通じる機能を持たせたカナードの専用機と改修を施した。

それだけならまだいいだろ う……しかし、それでは済まないのがトウベエとロウだった。

カナードが海賊に近い立場に なると聞くやいなや、そのための改装をドレッドノートに施した。

ドレッドノートの胸部には、 海賊のマークであるドクロを模したレリーフが取り付けられ、御丁寧にも右のカメラアイには、眼帯を模したようなスコープが固定され、命中精度を強化してい る。

「この他にもまだ試作された やつじゃが、アンチビーム粒子をコーティングした迷彩マントもオプションでつくぞ」

悪びれもなく言いのけるトウ ベエとロウにカナードは殺意にも似た感情を憶えそうになった。

「ああ、それとよ……」

そんなカナードの怒りも気づ かず、マイペースでロウは話し掛ける。

「こいつにエンブレムでもつ けておけよ……あんちゃんだって解かるようにな」

笑みを浮かべて呟くと、ロウ とトウベエは最終調整のためにその場を離れていった。

残されたカナードは顰めた表 情でドレッドノートHと命名された機体を見上げる。

こうなってしまった以上、も はやなにも言えまい……わざわざ戻せと言うのもなにかおかしい気がする。

「………プレア、貴様の機 体…貴様の言葉がどれ程のものか、試させてもらうぞ…」

静かな決意を込め……カナー ドはドレッドノートHに向かって囁いた。

 

 

 

 

数日後……改装の終えたオル テュギア……いや、コスモシャークがアメノミハシラを発とうとしていた。

先端艦首部分にはドクロを備 え、艦側部には鮫が描かれている。

これは、カナードは自らの機 体のエンブレムとして書き込んだ鮫を模したパーソナルマークが基になっている。

鋭い牙を持つハンターとして のカナードの生き様を表わしたようなエンブレムだろう。

そして、特務部隊X改め宇宙 海賊:シャークレギオンとして宇宙の海原に旅立つ。

その出発が進められるドック には、見送りにきた一同とカナード、メリオルが相対していた。

「いろいろとありがとうござ いました、タチバナ技師……わざわざMSまで譲渡していただいて」

この設備を使ううえでの便宜 を図ってくれ、さらには連合から鹵獲したストライクダガーとストライクキャノンダガーをコスモシャーク内のパイロット達に譲渡してくれた。

「構わぬ……お主らの決めた 道のためじゃ」

笑みで応じるトウベエにメリ オルも頷き返し、タラップの付近で対峙するカナードとキラを見詰める。

カナードとキラは無言のま ま、お互いを見据えている。

いろいろなことがあった…… そして、互いにまだ複雑な感情を抱いたまま………

無言でいた二人だったが、や がてカナードは踵を返し、タラップをつたってコスモシャーク内へと歩んでいく。

その歩みが途中で止まり…… 静かに呟く。

「……あいつが目覚めたら伝 えろ…貴様の示した道がどうなのか、確かめるとな」

振り返らず、背中越しにそう 伝えると、カナードの姿はコスモシャーク内へと消えていった。

そのまま静かに見詰めるキラ 達の前で、コスモシャークはエンジンを噴かし、駆動音を響かせる。

やがて、臨界に達したエンジ ンが火を噴き、コスモシャークはドックから発進していく。

それをドック内のモニターか ら見詰めるキラやレイナ達の前で、突然コスモシャークの格納庫からドレッドノートHをはじめとしたMS達が現われ、甲板に立つ。

やや眉を顰めて見詰める一同 の前で、ドレッドノートHと同じようにドクロマークを機体にマーキングしたストライクダガーとストライクキャノンダガーが一斉に敬礼し……最後にマントを 羽織ったドレッドノートHが指を立て、振る。

それは、彼らなりの敬意と感 謝の言葉だった………そして、真剣な面持ちで見詰める前で、コスモシャークは艦首の向きを変え……宇宙へと向かっていく。

 

 

宇宙海賊シャークレギオ ン……彼らの戦いも、これから始まる…………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《次回予告》

 

混迷を深める世界………

そして……破滅への扉はゆっ くりと開かれていく…………

世界の裏で最大の試練が目醒 めようとしていた………

 

世界の運命は今…破滅へと向 かってゆく……

忍び寄る悪夢が齎す闇を切り 裂くために…………

少女達は戦う……己の全てを かけ…最後のステージへと………

 

 

運命という名のプレリュード が静かに流れる………

物語は今……終局へと向けて ゆっくりと加速していく………

 

 

次回、「終局へのプレリュード」

 

戦神の衣を纏いて…舞え、 マーズ。


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