「ぐぅぅ」

リジェネレイドにタクティカ ルアームズを破壊されたフリッケライ……シンはコックピットを襲った衝撃に呻く。

「ひゃははは、いい様だぜ!  死にな……不恰好なMS!」

トドメとばかりにロングビー ムライフルを構える……照準のロック音が響く。

息を呑むシン……だが、そこ へガトリングの弾丸が降り注ぎ、軌道を逸らされた砲身からのビームはフリッケライを掠める。

ブルーセカンドLがガトリン グ砲で狙撃しながらリジェネレイドの周囲を飛ぶ。

その様子に鬱陶しげにアッ シュはビームライフルを構え、トリガーを引く。ビームの軌跡を正確に見切り、その機動性をいかしてビームをかわす。

舌打ちするアッシュ…そこ へ、別の攻撃が機体を掠め……ハッと振り向くと、M2の1号機と3号機、M1Aがビームライフルを斉射しながら向かってきた。

ビームの集中砲火に動きを抑 制され……グランはM2のキリサメを掴み、ブルーセカンドLに向けて放り投げた。

「使え!」

その意図を察した劾もキリサ メを掴むやいなや、リジェネレイドに肉縛する。

「むっ!」

眼を見張るアッシュに向か い、ブルーセカンドLはキリサメを振るう。

振り下ろされたビーム刃がリ ジェネレイドの左腕を斬り裂く……PS装甲のリジェネレイドにブルーセカンドLの実剣であるタクティカルアームズは効果が薄い。

だが、M2のキリサメはビー ム刃を施せる対艦刀……当然のことながら、PS装甲でも防げない。

劾がやったかと…致命傷を与 えたかと思った………だが、アッシュはコックピット内で不適に笑い……リジェネレイドに備わったもう一つのシステムを作動させた。

コンソールを叩き、それに連 動して周囲を浮遊していたバルファスの残骸へと近づけ、怪訝そうに見る一同の前で……バルファスの左腕を装着した。

驚愕に眼を見張る一同……こ れがこのリジェネレイドのシステム……コネクターのある機体やパーツなら、それを乗っ取ることが可能……モジュール構造から設計されたそのボディは、予備 パーツや残骸がある限り、何度でも再生する。

「残念だったなぁ……いい手 だったが、こいつには通じない………」

嘲笑を浮かべ、リジェネレイ ドは右腕と両足のビーム刃を縦横無尽に振るう……劾は表情を顰めてキリサメで捌きながら防御する。

だが、既に戦闘でブルーセカ ンドLもバッテリー残量が残り少ない……劾はこの場を切り抜けるための手段を模索する。

この常軌を逸したような相手 に下手に後ろは見せられない……だが、それが僅かな隙を生み、リジェネレイドの振るったビーム刃がブルーセカンドLの右腕をキリサメごと斬り飛ばした。

「ぐっ!」

歯噛みする劾……弾かれるブ ルーセカンドL……

「血祭り一号目……トド メ……!」

ビームライフルを構えた瞬 間、横殴りからの衝撃が響く……態勢を崩すリジェネレイド……フリッケライが体当たりし、照準をずらす。

「この……クズども がぁぁぁぁ!!」

衝撃に憤怒にかられ、リジェ ネレイドはフリッケライ殴り飛ばす……その衝撃で、フリッケライの回路がショートし、APUがダウンする。

「なっ…くっ、動け! 動け よ!!」

回路系統がやられ……沈黙す るフリッケライ……なんとか再起動させようとするも、フリッケライは沈黙したまま………そして、アッシュは醜悪な笑みを浮かべ、ビーム刃を展開して加速す る。

グランらが眼を見開き、助け ようとするも高速に入ったリジェネレイドを止めることができない。

シンは迫りくる刃に……息を 呑む………刹那、脳裏に電流のような感覚が走る。

その時、レーダーが急接近す る機影を捉えた………フリッケライの後方に現われたのは、ハイペリオン3号機。

「護る……護る…護る!」

コックピット内でステラは叫 び、ハイペリオン3号機はフリッケライの前に庇うように立ち塞がる。

「んん? なぁんだ…仲良く 死にたいのかぁぁぁ」

獲物が増えたとばかりにほく そ笑むアッシュ……そのままビーム刃を振り上げる。

だが、ステラはハイペリオン 3号機のシステムを起動させ……バックパックのフォルファントリーが起ち上がり、そこから伸びたユニットが光を発する。

刹那……ハイペリオン3号機 とフリッケライは光の結晶に周囲を護られ……アッシュの眼が驚愕に開く。

「なにぃぃぃ!?」

振り下ろされたビーム刃は、 ハイペリオン3号機のアルミューレ・リュミエールによって遮られ、弾き返される。

内部では、シンは驚きに眼を 見張りながらハイペリオン3号機を見詰める。

「ステラ……?」

この感じる感覚は……間違い なく彼女のもの……だが、何故彼女が戦場に………

そんな感慨もお構いなしに、 アッシュは心底憤怒し、光波シールドを破ろうと向かってくる。

だが、それはあまりに無謀す ぎた……展開しているフォルファントリーの砲口が覗き、照準がロックされた瞬間、ステラはトリガーを引いた。

フォルファントリーから放た れる閃光……それがリジェネレイドに真っ直ぐ向かう。

「ぐっ……くそっ!」

アッシュは舌打ちしながら、 コンソールを叩き付ける……刹那、リジェネレイドの本体からバックパックが分離し、MSの本体がビームに焼ききられる………

そのまま浮遊するバックパッ クに劾やグランはハッと気づく。

「アレが奴の本体か…」

「ジャン、バリー! それを 逃がすな!!」

素早いグランの指示に、ハッ としたジャンとバリーはビームライフルでバックパックを狙い撃つ。

リジェネレイドはバックパッ ク自体が本体であり、MSのボディは言わば強化パーツに過ぎない……このパーツを交換することで幾度となく再生と機体の乗り換えが可能なモジュール構造に 基づいて設計されたが、今回は肝心の予備パーツを用意していない。

「ちっ……俺の目論見が甘 かったのか……まあいい、今日はほんの挨拶代わり……」

忌々しげに毒づくと、方向を 変えて加速する。

「次は絶対に貴様らを殺し、 俺のコレクションにしてやるぜ……俺にとって、殺し損ねなどあってはならないからなぁぁぁ」

自身に向かって叫び、リジェ ネレイドは高速に入り、戦闘宙域を離脱していった。

「逃がしたか………」

「追うか?」

バリーが悔しげに歯噛みし、 ジャンが問い掛けると、グランは被りを振る。

「いや、深追いは禁物だ…… しかし、奇妙な機体だ」

その評どおり……まるで、寄 生虫のような機体だ。だが、アレは連合とは違う……どちらかといえば、動きはコーディネイターのそれに近い。

「ザフトも一枚岩ではないと いうことか………」

小さく呟きながら、向きを変 えて未だアルミューレ・リュミエールを展開しているハイペリオン3号機を見やる。

だが、それが展開の限界時間 に達したのか、光波シールドが周囲に拡散し、バッテリーが切れたハイペリオン3号機はその場に静止する。

「ステラ! ステラなんだ ろ!?」

ハイペリオン3号機に寄り掛 かり、機体を掴んで通信に叫ぶシン……だが、シンにはなにか怒りに近いものが内心を駆け巡っている。

《シン………》

「なんで…なんでこんな無茶 を……!」

まだ、満足に動ける身体でも ないのに……何故MSなどに乗って戦場へと出たのか………

思わず問い詰めるような口調 で言い放つが、ステラが返した答えに息を呑む。

《護る……シン…そう言っ た……だから…ステラも……護るの………》

護るために無理を推してきた ステラ……シンは、自身の不甲斐なさに情けなくなる。

護ると約束した方が逆に護ら れるなど……その時、通信からステラの返事がなくなり、ガバっと顔を上げて呼び掛ける。

「ステラ…? おい、ステ ラ」

「落ち着け……恐らく、気を 失っただけだ」

狼狽するシンに向かい、グラ ンが声を掛ける。

「早く連れていって休ませて やれ……まったく、無茶をするものだ」

呆れるように肩を竦めるグラ ンの前で、シンは急ぎハイペリオン3号機を掴み、アメノミハシラへと帰還していく。

「今回は、そちらにも随分世 話になった……」

グランが劾に声を掛けると、 劾はいつもの表情で冷静に答えた。

「いや、今回のは借りを返し ただけだ……それに、あの敵の特性は解かった。次は負けん」

傭兵というのはいつ如何なる 敵と遭遇するか解からない……仕事で…あるいは偶然の邂逅で……それに備えて常に情報収集はしておかなければならない。

あのリジェネレイドという機 体の特性と攻撃方法は大体把握できた……次は決して負けない。それが傭兵である劾の信条だ。

そして……この後、劾はまた リジェネレイドとあいまみえる機会が訪れることになるのだが、今の劾には知る由もない。

多少のイレギュラーはあった ものの、ザフトによるアメノミハシラ攻略戦は失敗に終わった。だが、オーブ側も決して軽い損耗ではなかったが、アメノミハシラが無傷なことだけが幸いだっ た。

 

 

 

 

その頃……アメノミハシラへ の帰還につくネェルアークエンジェル、オーディーン、ケルビム、スサノオの4隻……デブリ帯に入って既に半日…そろそろアメノミハシラへの帰還コースに入 る。

そんななか、オーディーンの ブリーフィングルームでは、先日の衛星軌道上で乱入した謎の機体についての会議が行われていた。

薄暗いブリーフィングルーム には、プロジェクターの映像が映し出され、それをレイナ、リン、ダイテツ、アスラン、ハルバートンらが見詰め、それをルフォンが説明している。

映像には、解体される天使の 様子が映し出され、そして天使のコックピットから出された生体パーツにされたと思しき女性の遺体が袋に包まれる映像が映し出され、誰もが嫌悪感を憶える。

「取り敢えず、回収した例の 機体……エンジェルって呼称するわ…詳細はまだ解かれへんけど、大まかに解かったことだけ説明するわ」

ルフォン自身もやや気が進ま ないようだが、仕方ない。

モニター画面には、エンジェ ルのCG映像と解析結果が表示される。

「まあ、どう表現していいん か……バイオメカニカル………生化学の技術が応用されとる。結論からいうと、機動性、パワー、火力…それにエネルギー面においても従来のMSの常識を覆す ほどのデータが表示されとる…数があったから量産機やとは思うけど、ザフトのゲイツや連合のストライクダガーが可愛くみえるわ」

表示されているデータに示さ れる数値は、下手をすればフリーダムらに匹敵するほどの数値を示している。

そして、それらのパワーの源 は、機体内部に内蔵されている核動力……NJCの恩恵が齎す現時点での大容量エネルギー発生機。

「それに……これだけの能力 を示すんは…やっぱ、その………」

視線を逸らし、言い淀むル フォン……口に出すのは躊躇われる。

「それだけの能力を発揮する には、生身のパイロットや人工知能では不可能……だから、中枢に生体パーツが必要になる」

ルフォンの言葉を継ぐレイ ナ……ルフォンは頭をガシガシと掻いて相槌を打つ。

「そうや……まったく、こん なシステム考えた奴の気がしれんで………」

嫌悪感と怒りを滲ませた 声……卓越した反射神経や瞬時の臨機応変能力は、どうセッティングしても機械では再現できない。生命のもつ潜在的なそれらはどうしても機械では賄えないの だ……だが、それがなにも生きたパイロットである必要はない。

必要なのは脳だけ……脳を直 接機体本体と直結し、人工知能以上の能力を発揮させる。無人機なみの機動性が可能となってもパイロットは文句はいわない……その上、人の反射神経や臨機応 変能力を取り入れ、しかも脳を直結させているために機体自体を自らの身体のように扱えるので、通常のパイロットが操縦する機体よりもタイムラグが少ない。

パイロットはまず考えて、そ れから機体を操作する…だが、そこには実際にはかなりのタイムラグが現われる。こればかりはどうしようもない問題だが、この機体はそれを解決した機体とい えなくもない……かなり常軌を逸しているが…………

「人間の反射神経と能力…そ して機械の非情さと機動性か………厄介だな」

そう評するリン……この機体 形状とやり口がまず間違いなくこの天使が属する陣営を明確にしている。そして…こんなものまで造っている……それは、まず間違いなくきょうだい達の戦力は 侮れないものになっているということ。

「けど、一つだけ解かれへん 点があんね………」

調査レポートを片手に頭を掻 く。

「この機体に組み込まれてた 人……体内の状態調べてみたら、心臓の動きがかなり前から止まってた…つまり、脳の活動が停止してて………」

言葉を濁すルフォン……天使 に生体パーツとして乗せられていた女性は、脳だけは機械に繋がれて活動していたものの、心臓がかなり前……検査の結果、半年以上前には既に停止していたこ とが明らかになった。

心臓の活動が停止する…それ はすなわち体内組織の崩壊を意味し、脳も活動を停止して死ぬ……だが、それでは今まで生きていた人間を使ったにしては腑に落ちなさすぎる。

「つまり……あの女性はアレ に乗せられる以前に死んでいたと?」

低い声でアスランが問うと、 ルフォンは頷き返す。

「まだ断定でけへんけ ど………死体を使っても体組織が崩壊してるから、意味がないし…でも、それやと時間があわへんし………」

袋小路に陥ったように混乱す るルフォン……あの天使に関しては正直解からないことだらけだ。技術者としての能力が高いルフォンでも全容を掴み切れていない。

だが、死体を使っても脳組織 が死んでいれば生体パーツにはならない……生きた脳髄のみ必要でも、生きた人間が必要なはず……考え込むレイナ達だったが、背後からボソッとした声が響い た。

「………FRS」

その声に反応して、振り返る と……それまで無言だったダイテツがパイプを含みながら眼元を隠していた。

「ウェラ…いや、ダイテ ツ……なにか知っているのか?」

隣を見やるハルバートンが問 い返すと……ダイテツはパイプを噴かしながら、眼を隠す……だが、やがて顔を上げる。

「FRS……Fuse Revival System。恐らく、このMSに組み込まれているのはそれだ」

fuse、revival?」

融合と蘇生……首を傾げる一 同だったが、逡巡し…なにかに思い至ったのか、レイナが顔を上げると、ダイテツが頷く。

「機械との融合による……細 胞の蘇生…だけど、そんなこと……!」

自分が口走った意味が到底信 じられない……そして、その意図を察したリン達も驚愕に眼を見張っている。

だが、ダイテツは静かに被り を振る。

「間違いない……これは、セ シルが進めていた技術だ。もっとも、セシルはあくまで医療分野に活かそうとしていたがな」

苦々しい思いで呟き、パイプ を噴かす。

ウェラードの妻…セシル=ク ズハは生体工学や生化学において著しい才能を持つ人物だった。彼女は、医療技術の発展のために従事し、大きな努力を重ねてそれらの才能を育てた。

それは、両親を病魔で亡くし た彼女にとって生き甲斐であった。そんな彼女とウェラードは出逢い、惹かれあった……そして、彼女は画期的な脳死状態からの蘇生や崩壊した神経を機械に接 続して身体と一体化させる人工義体や機械との融合化を研究していた。

その研究結果の一部がキョウ の使用している義腕……崩壊した腕の神経細胞に機械パーツを繋げ、既に死んでしまった細胞の代替わりをさせ、従来の義体以上に人間の身体の一部と遜色ない ものを再現する。

だが、彼女の研究ではあくま で死んだ細胞を機械で代替わりさせるものであり、死体を完全に蘇生するものではない。

だが、セシルが進めていた研 究成果は彼女の死後、所在不明となった……データの一部はフィリアの許へと転送されていたが、FRSシステムとγ線を用いた長距離航行システムのエネル ギーシステムに関してのマスターデータは紛失していた。

しかし、間違いなくこのシス テムはセシルの進めていたもの……ということは、セシル=クズハの研究が彼らに利用されたということ。

「死体を生体パーツに か………」

確かに効率はいい……死体は 別になにも言わない……それに、問題にならない。

そして……死体だからこそ、 どれだけ殺人的な機動を行おうが、関係ない。ある意味理想で…最悪なコアパーツだ。

今回襲ってきたのは3機…だ が、それが3機だけとは限らない……その上、今回以上に性能を上げてくる可能性も高い。

「……あのジャスティスに似 た機体…アレもこのシステムが使われている可能性は?」

リンがそう問うと、アスラン は微かに表情を強張らせ…ルフォンも歯切れが悪くなる。

コンソールを操作し、モニ ターに天使とともに襲ってきたジャスティスと同じ外観形状を持つ機体を表示させる。

「その辺の可能性は高いけ ど……アレはオリジナルとえらい変わっとる」

実際にジャスティス、フリー ダムの設計と建造に関わったルフォン……ジャスティスはどちらかといえば、対MS戦や強襲を目的として設計した機体……フリーダムに比べて火力不足は否め ない。

正直、ザラ議長による開発の 急務がなければ、ジャスティスも実弾兵器ではなくもう少しビーム兵装を追加する予定もあったが、結局試験もできないままに現在の形にロールアウトした。

そして……このジャスティス は腰部をフリーダムと同じレールガンに換装し、バックパックのリフターがかなり大型化とビーム兵装の強化が施されている。

加えて……この機体の中枢に も、この天使と同じ生体パーツが使用されている可能性は極めて高い。

「……ともかく、バーネット 君…詳細な調査を続行してくれたまえ」

「了解…まあ、あんま気進め へんけど…しゃあない」

ダイテツの言葉に、ルフォン はやや暗い表情で頷く。

正直、こんな非人道的な機体 を調査するのは気が滅入るが、それでもこの先のことを思えば、やっておかねばならないだろう。

この馬鹿げたことをやめさせ るために………会議が終了後、徐に席を立つ一同…その時、ダイテツがレイナに向かって声を掛けた。

「レイナ……それにリン君… あとで、艦長室に来てくれ」

唐突なその言葉に、首を傾げ る。

「何?」

用事ならここで済ませればい い……レイナやリンとてまだ自機の調整のために忙しいのだ。

だが、有無を言わせぬ視線に やや表情を顰めながら、頷き返す。

「解かった……あとで行く」

その返事に満足し、ダイテツ は席を立つ……そして、ルフォンに向かって言う。

「バーネット君…今の内容を レポートに纏めておいてくれ。それと、この事は他の艦艇の主要メンバーだけに留めてくれ」

このシステムもだが、まだま だ謎が多い上に、いらぬ混乱を引き起こす要因にもなりかねない。オーディーンの艦内でも実際に見た整備班にも緘口令をしき、他の艦の下層にも伝わらぬよう 緘口令をしいておかねばならない。

その旨はルフォンも同意なの か、頷き返した。

 

 

 

その頃……ネェルアークエン ジェルの格納庫では、各機の修理と補給に追われていた。ももうじきにアメノミハシラに帰還できるが、その前に各機の状態を把握しておいた方がいい。

マードックやカムイを中心 に、機体の整備を行っている。

「しっかし……あのお嬢ちゃ んもMSをちゃんと扱えるようになるとは……あの時からは想像もできねえな」

マードックは固定されている ストライクルージュを見上げながらそう呟き、隣にいたカムイが首を傾げる。

「あの時……? 何ですか、 マードックさん?」

「おおそうか、おめえらは知 らねえんだな」

元々いるアークエンジェルの 整備班の間では、アレはなかなか忘れられる事件ではない…マードックは頭を掻きながら話す。

「実はよ、地球に降りた時の ことなんだけどよ…あのお嬢ちゃんが砂漠でレジスタンスに加わっていたのは聞いてるよな?」

「ええ」

カガリがヘリオポリス崩壊 後、オーブに戻ってすぐアフリカへとレジスタンス活動に行ったと聞いた時は流石に驚いたものだが……

「あの時のアークエンジェル にはよ、ストライクとルシファー以外にデブリベルトで拾ったジンがあったんだ」

その話を聞きながら……カム イは予想し…なにかに思い至ったのか、表情を顰める。

「まさか……カガリ様がその ジンに乗って出ようとしたんじゃ………」

カガリの性情を知る身とし て……あのカガリがジッとしているような性格ではなく、またなにか使えるものがあればなにも考えずにやろうとする……そして、それが正解だとばかりにマー ドックは頷く。

「その通り……こちとら大変 だったぜ…いきなしジンに乗り込んで出ようとするは、挙句ビームライフルまで持ち出しやがってな……」

「ビームライフル…!」

流石にそれには驚きを隠せな い……当時のビームライフルはあくまでGATシリーズ専用の兵装でジンには扱えない。そんなものを持ち出しても、何の役にも立たない…いや、それ以前に戦 場は砂漠……そんな状態のジンでしかもカガリの操縦とくれば………

「威勢よく出たはいいけど よ……砂漠に足取られちまってな…もう大変だったぜ」

苦い口調で語るマードック に、カムイは引き攣った笑みしか浮かばない。

「大変でしたね……」

「ああ…ジンは大破しちまう し……まあ、大変だったのはその後なんだけどよ」

「え?」

「あっちの嬢ちゃんもルシ ファーを結構ボロボロにして戻ったんだけどよ……あの嬢ちゃん、降りるや否や殴りつけたんだぜ」

マードックが指しているのは レイナ……レイナがカガリを殴りつけた……その光景が脳裏に浮かぶ。

「まあ、無茶をした嬢ちゃん にも責任はあるけどよ……」

確かにそれは自業自得だろ う……だが、そんな満足に戦えもできなかったカガリが先の戦闘では獅子奮迅の活躍を見せ、正直驚いているのだ。

引き攣った笑みを浮かべたま まのカムイ……だが、今回の戦闘でストライクルージュも大方完成プランが纏まった。

アメノミハシラで製造中の IWSPストライカーの改修型に換装すれば、カガリは今の戦闘方法での戦いが望めるだろう。

「っと、無駄話ばっかしてる わけにはいかねえな…俺はあっちの方に行くわ」

「ええ……僕は、あの二機の 方に回ります」

「おう……けどよ、アレはも う正直直すってのは無理だと思うけどな」

頭を掻きながら、マードック が離れ……そして、カムイも別のハンガーへと移動する。

指示を出すカムイに、ニコル とラスティが近づく。

「カムイさん…これ、ブリッ ツの状態レポートです」

「こっちは俺の機体の分」

「解かりました」

手渡されたレポートを手に、 眼を通していく。

「ところで、バスターやスト ライクの方はどうですか?」

窺うように尋ねると、カムイ は表情を顰める。

「正直、かなり損傷が激しい ですね……このまま修理するにしても、時間が掛かります」

3人が見上げる先には、先の 戦闘で大破したストライクとバスターがメンテナンスベッドに収納されているが、両機の状態は眼を覆いたくなるほど損傷が激しい。

ストライクは四肢を失い、も はやボディだけ…だが、そのボディもバックパックのコネクターが破損し、しかもIWSPストライカーも大破・損失している。バスターは右腕、両脚、頭部半 壊…主兵装の大破と……両機とも、もう修理することが半ば不可能な状態だ。これなら、アメノミハシラに補完されている予備機を使った方が早いだろう。

「けどよ、このまま修理して もなぁ……辛いんじゃないしょ…」

ラスティの指摘は正鵠を得て いる……現状のストライクやバスターももう性能的には劣る。

この先、戦闘は激化すること が予想される…ならば、このまま予備機に乗り換えるよりも……機体を改修するべきなのかもしれない。

「二機は取り敢えず、改修の 申請をしておきます……時間は掛かりますが………」

アメノミハシラに帰還後、ト ウベエやエリカらとともに二機の改修案を出し、予備機をベースにこれまで培ったノウハウを基に改修するしかないだろう。

「そう言えば、ディアッカさ んの方は……」

カムイが思い出したように尋 ねると、ニコルとラスティは揃って表情を渋くした。

怪訝そうになるカムイの前 で、ニコルがやや真剣な面持ちで呟く。

「今、フラガ少佐と一緒に医 務室にいるんです……傷はそれ程酷くなったそうなのですが………」

それなら、問題はないのでは なかろうか……意図が掴みきれぬカムイに、ラスティが言葉を紡ぐ。

「さっき見に行ったら……ラ ミアス艦長とハウ二等兵が見舞ってた」

刹那……カムイが眼を見開 き……表情が同じように険しくなる。

先日のあの事件を知るだけ に……逆に怪我が悪化するのではなかろうかという危惧……そして……自分達はそれに関与できない………

ここは友人らしく温かい眼で 見守ろうと……なにか、内心にそう考えているが、単に余計なとばっちりを受けたくないという心理だろう………

 

 

医務室では、カムイ達の予想 通り……あ、それ程酷くはないか………ムウは。

ディアッカはベッドに寝かさ れその隣ではミリアリアが不遜な表情で座っている。

「まったく……しぶといわ ね、あんた」

素直に心配だったと言えばい いだけかもしれないが……ミリアリアの内心は複雑であり、ディアッカもどう受け答えすればいいのか困惑しているだろう。

そんな様子を苦笑を浮かべて 見詰めるながら、マリューはムウに話し掛ける。

「傷の具合は?」

「ああ、別に酷くはない…た だの打撲だ。そんな顔すんなよ」

ベッドの上に横になるムウが 元気付けるように軽薄な笑みで笑い掛けるが、マリューは苦い笑みを浮かべるだけだ。

「そう…でも、あまり無理は しないで」

「なんだよ……艦長まで俺を 年寄り扱いかぁ」

やや拗ねたような口調でぼや くが、マリューはクスっと笑みを噛み殺すだけだ。

だが、その表情はやはり曇り がちだ……パイロットが恋人…それは複雑なものがある。

一番、戦場で命を落とす可能 性が高く……また、肝を冷やす場面に幾度となく遭遇する。

今回も運良く助かったが、下 手をしたらあの瞬間……ストライクは撃破され、ムウも死んでいたかもしれない……そう思うと、このままもうパイロットとして戦場には出ないでと言いたくな る。

だが、そんな事をしてもやめ る人物でないこともマリューは嫌というほど解かっている。

そして、そんな恋人が生き抜 くことを祈るしかない……そんな葛藤を胸に、マリューは苦悩する。

「お、おいおい…なんだよ、 冗談だよ……そんな顔すんなって。美人が台無しだぜ」

マリューの表情が沈痛そうに 歪んでいることに、自分の失言が原因かとムウが取り繕うように話し掛ける。

そんなムウに、人の気持ちも 知らないでと……内心、軽くぼやいた。

「心配すんなって……俺は絶 対に死なねえよ………死ねねえからな………」

その言葉に、心を見透かされ たみたいに息を呑むマリュー……だが、ムウの眼は天井を…いや……それを通して遥か遠くを見詰めていた…………

 


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