今……眼の前で起こっている のは現実なのであろうか…………

それがここにいる者の心持ち だった………

 

―――――斬りつけられ、鮮 血を噴出しながら倒れ伏すワルキューレ…………

―――――その斬りつけた相 手は……彼女にとって最愛の相手………

 

だが……そんなワルキューレ を……和人はただ無機質に見詰めているのであった。

「ひ、姫様!」

そのあまりに衝撃的な光景に 暫し茫然自失なっていたが…やがて弾かれたように真田さんが駆け出し……ゴーストが駆け寄ると、ワルキューレの身体を起こす。

そのまま脈を取ってみる と……弱々しいが微かに響いている。そして傷を確認すると……僅かに急所から逸れて、斬撃もそれ程深くはない。

状態を確認するゴーストの横 では、真田さんがスカートの端を切り裂き、必死にワルキューレの身体に巻き付けて止血しようとする。

そして……アキドラはよろよ ろと立ち上がり…和人を睨む。

「和人! あんたいった い……!」

「なんてことしやがんだよ!  ワルキューレはおめえの……!」

激昂するアキドラに対し…… 和人は無表情を向けたまま…そして、その怒りに怪訝そうに表情を顰める。

「君は……誰だ? おかし い…君からは、二人分の魂を感じる………」

「はぁ? 和人、何言ってん のよ……私はアキドラ…七村秋菜とハイドラが一つになった存在よ」

首を傾げるアキドラに……和 人は表情をまったく変えない…そして……逡巡していたアキドラが、やがて一つの答えに辿り着いた。

「和人…あんたまさか……私 達のこと解からないの!?」

半ば信じられないといった表 情……だが、そう考えれば和人の豹変ぶりにも納得がいく。

そしてなにより……和人がワ ルキューレを傷つけることなど絶対にないはずなのだから………

「変なことを訊くな……僕は 君とは初対面だ………」

まったく動揺も困惑もせ ず……無表情で言い切った和人…………記憶を失っている……

「そんな……和人、しっかり しなさいよ! 私達のこと、全部忘れちゃったの!?」

言い募るアキドラ……そし て…一抹の望みとばかりに叫ぶ。

「ワルキューレも……彼女の ことも全部!」

「ワル…キューレ………っ」

片言で反芻した和人は、頭を 抑えて苦しみ出す。

呼吸が荒くなり……そんな和 人に寄り添い、不安げに尋ねるアーリィ。

「セイ! 無理はダメ……貴 方はまだ眼醒めたばかりなのに………」

「うっ、ううぅ……」

なおも呻く和人の身を案じ、 アーリィは和人に寄り添いながら、意識を集中させる。

「ちょっとあんた! 和人に なにしたのよ!?」

喰って掛かるアキドラに、 アーリィは鼻を鳴らす。

「なにも……ただ、そんなあ さましい女の魂を出しただけ。これ以上、話すことなどないわ………」

右手に槍を振ると、それを構 える…穂先に光が収束していく。

身構えるゴーストとアキド ラ……ここでよければ、動けないワルキューレ達が巻き込まれる。

防御しようとする二人に向 かって光は大きくなっていく。

「さようなら………こちらの 皇女達」

小さな声で囁かれた不可解な 言葉に……一瞬、ゴーストとアキドラの注意が逸れる。

次の瞬間、槍から放たれた光 は拡散し……幾条にも分裂し、弧を描くように襲い掛かった。

「「「きゃぁぁぁぁっ!!」」」

油断を誘われ、光の直撃を受 けるゴーストとアキドラ……そして、ゴーストは戦闘装束が解け、アキドラも融合が解除され、秋菜とハイドラに戻り、その場に倒れ伏す。

呻く3人に、嘲笑を浮かべ る……そして、トドメを刺さんとばかりに槍を振り上げた瞬間……夜の闇を裂くように光が差し込む。

「っ」

その光に驚き、顔を上げる アーリィとゴースト達……そこには、降下してくるヴァルハラの船……そしてメームの姿が…………

「メーム様!?」

「あ、姉貴……」

真田さんが声を上げ、ハイド ラは傷みを堪えながら呟く。

その姿にアーリィは微かに表 情を顰める……そんなアーリィを見下ろしながら、メームは気丈に言い放った。

「貴方ですね……ワルキュー レの月を覆う影は…何者です……婿殿をどうするつもりですか?」

軽く舌打ちすると、支えてい る和人が先程よりも呼吸を荒げているのに気づき、眼が曇る。

そのまま槍を翳すと……光が 二人の姿を覆っていく。

息を呑む一同の前で、アー リィは不適に笑う。

「もうこの次元には用はない わ……この人は私のもとに戻った………さようなら……」

その言葉とともに……二人の 姿は、光に覆われ…そのなかに溶け込んでいった………

「か、和人……さ、 ま………」

その光景に恐怖し、ワル キューレは霞む眼で手を伸ばす…………

置いていかないで欲しい…… 離れたくない………必死の想いで手を伸ばすが………それも虚しく……和人とアーリィの姿は、光の粒子に消え…粒子が弾けた瞬間……そこにはもう二人の姿は なかった………

 

 

「…和人………さ… ま……………」

 

涙を零しながら、その手が落 ち……ワルキューレの意識は深い闇に捉われていった………

 

 

 

 

 

円盤皇女ワるきゅーレ  

第3部  次元を超えた契り

第肆話  次元を超えて

 

 

 

 

 

数時間後……時乃湯の上空に 静止したメームの宇宙船内の医務室にて、意識を失ったワルキューレとゴースト、秋菜、ハイドラが手当てを受けていた。

「いててっ…も、もうちっと 優しくしろよ」

「も、申し訳ありませ ん……」

怪我を消毒する侍女に思わず 悪態をつくと、侍女はやや狼狽して謝罪する。

その横では、ゴーストや秋菜 が包帯を巻かれながらも表情は沈んでいた。

それらを見やりながら、メー ムも表情を顰めると、集中治療室に入ったワルキューレを見やる。

ガラス越しに見える病室に は、ベッドが置かれ、その上に眠るワルキューレの姿……横には、様々な医療器具が並び立ち、そこから伸びるチューブなどがワルキューレの身体に取り付けら れ、酷く傷々しい……

「どうですか、ワルキューレ は……?」

「はい……傷は浅かったので 大事には至らなかったのですが…精神的なものがあったらしく、昏睡状態が続いています」

治療の総指揮を執っていた真 田さんの暗い声……身体に刻まれた一閃の傷はそれ程深くはなかったものの……その傷をつけたのはよりにもよって彼女にとって最愛の人物……それが肉体的な 傷以上に精神的な傷となって彼女を傷つけた。

それに加えて……問題はまだ ある。

「ワルキューレのままってこ とは…やっぱり魂が戻った……ってことですか?」

そう……いくら時間が経って もワルキューレがわるきゅーれに変身しない……それはつまり、ワルキューレの魂が戻ったということに他ならない。

「恐らくは………」

重苦しく頷くメームに一同は 押し黙る。

「もう少し早くワルキューレ への災いに気づいていれば………」

今更言っても仕方がないこと だが……それでもメームもまた責任を感じずにはいられない。

不吉な予兆をもう少しでも早 くに察していれば……眠るワルキューレを見やりながら、表情を顰める。

「くそっ、何だったんだよあ いつは!」

「私達がまったく相手になら なかった……それに………」

悔しさに拳を叩くハイドラと 指を噛む秋菜……アキドラに変身したのに、まったく歯が立たなかった。

二人の自信を砕くには充分す ぎるものであっただろう。

加えて………謎はまだまだあ る。

「あの人が、秋菜ちゃんの 言ってた転校生ってこと?」

「ええ……でも、変なの よ……さっき学校側に問い合わせてみたら、イーファって転校生なんかいないって」

眼の前で変身してみせたイー ファ……秋菜はすぐさま学校側に連絡を取ってみたが、イーファという転校生の少女がいたという記録どころか記憶すらない………

「恐らく……その人物はかな りの力の持ち主なのでしょう……人の精神に暗示をかけ、惑わせる………」

ならば、自分達は暗示にか かっていたということだろうか……いや…学校にいた全員がそれに気づかないほどの強力な暗示……秋菜自身にさえもその影響があったのだ。並大抵の力ではな い………

「でも、あの和人の変貌 は………」

そう……一同のなかで一番の 疑念は和人の変身だ。

イーファと唇をかわした瞬 間……和人はまるで人が変わったように変貌した。

なにより……ワルキューレ を………和人にとって一番大切な存在を忘れ…尚且つ傷つけるなど…………

「婿殿の変身とその謎の皇 女……なにか関係があるのでしょうか………?」

一抹の期待を込めてリカを見 やるも、その意図を察したリカはぶんぶんと首を振る。

「私もあんな人と逢ったのは 今回が初めてよ……それに、うちは特になにもない家だし………」

リカには少なくともあの人物 は見覚えがない……それに、自分達の両親や祖父母に至っても取り分け変わったところのない地球人だ………和人になにか遺伝的なものが備わっていたという可 能性も低い………

「それに……彼女が使ってい たのは…紛れもなく刻の武具………」

静まり返る一同のなかで…… ポツリと漏らしたゴーストに全員の視線が集中する。

「刻の…武具………?」

「ええ…こちらで言うなら、 刻の鍵……かしらね…この次元の調和を保つためのもの……」

ゴーストの言葉に一同は驚愕 の表情を浮かべる。

「どうやら……刻の武具につ いての伝承はされていないようね………もっとも、刻の武具の存在自体知られていなかったし………」

軽くぼやくように肩を竦める と、メームがどこか厳しい表情で先を促す。

「話してください……刻の武 具について…」

皆が眼と耳をゴーストに集中 させ……ゴーストは軽く息を一つ吐くと…静かに語り出した。

「アレは……もう遥かな 昔………そう…ヴァルハラに12の月と皇家があった頃……そして……私という存在が生まれる前…………」

やや切なげな表情で語るゴー スト……ゴーストを生み出した4人のヴァルハラ皇女の想い……今となってはもう他人の過去も当然だが、それでもやはり胸に走る傷みは消えない………孤独の 闇のなかで生き続けた彼女には…まだ…………

そんな感傷を抱きながらも、 気を取り直してゴーストは話を続ける。

「刻の武具は、この宇宙…… いえ、この私達が生きる次元のバランスを保つもの……いわば、バランスの集束点……故に、その力は惑星をも一振りで砕き…時には闇を光へと変えるほどの力 を持つ………」

「そ、そんなに凄いものだっ たの……アレ?」

リカがずり落ちそうになる眼 鏡を押さえながら上擦った口調で呟く。

だが、他の面々も同じように 驚きを見せている……メーム自身も、その力のほどは知っていたが…そこまでの意味を持つとは知らなかった。

そして同時に理解した……何 故刻の鍵の継承が白き皇女のみに徹底されてきたのかも………その力を決して無為に振るわせないために……純粋な白の皇女のみに託される………その意味を今 初めて知った………

「そして……ある刻…この次 元の調和を破壊しかねない現象が起こった………」

「……刻のブリザード」

ゴーストの言葉を継ぐメーム にゴーストは頷き返す。

遥かな昔……ヴァルハラを 襲った刻のブリザード…次元の狭間から現われ…そして次元の全てを呑み込むほどの闇………

「何故アレがヴァルハラを 襲ったのか…それは私にも解からないけど………それを封じるために、4人の皇女がその身を犠牲にして災いの吹雪を次元の狭間へ封印した…そして……代わり に刻の鍵がこの次元へと送り返された………」

そこまではヴァルハラ皇家の 伝承にもあることだ……この場にいる者達には既に知るところになっている………

「4人の皇女が次元の狭間へ と閉じ込められ……今まで次元の狭間で存在していた刻の鍵が代わりにこの次元へと送られた………」

4人の皇女達は次元の狭間で 見た……次元の調和を保つ刻の武具を………そして、自らを身代わりにその武具を次元へと送った……いつか…この刻の鍵が必要になるであろう事態に……さら なる災いに備えて………

奇しくも、その災いを齎して しまったのはゴースト自身だが……だが、刻のブリザードはワルキューレと和人によって封じられ、全ては終わったはずだ。

「じゃあ、その刻の武具って のはいくつもあるものなの?」

「いえ……少なくともこの次 元を保つのには一つだけのはず………」

この次元のバランスを保つた めの収束点が二つもあればそれはバランスの崩壊を起こしかねない………だが、それでは説明がつかない。

あの時、アーリィが振るって いたのは間違いなく刻の武具だが……何故、この次元に刻の武具が2つも存在するのか……それはバランスの崩壊を意味する。

「……並行世界の刻の鍵…」

逡巡するなか…静かに呟かれ たその言葉に一同の視線が集中する……そこには、リカが神妙な表情で顎に手を当てていた。

「どういうこと…リカちゃ ん?」

「うーん………刻の武具って のは次元に一つだけなのよね?」

確認を取るリカにゴーストは 頷くと…リカは自身の持論を組み立てる。

「これはあくまで私の推測な んだけど……一つの次元に一つの刻の武具………でも何故か存在する刻の武具にヴァルハラ皇女達と同じ人物………並行世界の…もう一つの刻の武具………」

「並行世界?」

「そう…テレビやなんかでよ くあるでしょう? 私達の住んでいるこの次元とずれた別の空間にもう一つの世界がある……テレビのチャンネルみたいなものね」

SF並みの非現実的な話だ が……自分達が生きるこの次元とはなにかしらの壁を隔てて存在する次元……テレビのチャンネルのように無数に存在する世界………

「つまり……あのアーリィと かっていう女はその別次元から来たってこと?」

「まあ、確証はないけど…… でも、そう考えた方がなんとなくしっくりくるし………」

確固たる証拠はないが……刻 の鍵と似た武具……そしてヴァルハラ皇女に似通った容姿………だがこの世界には存在しない皇女………

この矛盾点を説明するも の……それはパラレルワールド………並行する極めて近く、限りなく遠い世界の存在………

「けどよ、仮にその並行世 界ってのが本当だとしても…どうやってこの世界に来たんだよ?」

リカの仮設に半信半疑といっ た様子で問うハイドラに、リカも言葉を濁す。

それだけが説明しにくい…… パラレルワールドがあるなど…恐らく誰もが信じないことだろう………リカ自身も突拍子もない発想だと思っているが………

「………恐らく、ある宇宙現 象によって…ある日突然、この世界とその世界の次元が繋がった………」

全員の疑念に答えるように ゴーストが呟くと、一瞬間を置いた後…全員がハッと眼を瞬いた。

数ヶ月前に起こった刻のブリ ザード……次元の裂け目からなる空間をずたずたに引き裂く宇宙現象………

「アレが……なんらかの偶然 によってこの世界ともう一つの世界を繋げてしまったとしたら……」

それは天文学的な確立であろ う……二つの次元がなんらかの作用により繋がり…もう一つの世界へと続く道を繋げてしまったとしたら……だが、それだけでは説明がつかないのもある が………

「問題はそれだけじゃないわ よ……あの和人の変貌…いったいどういうことなのかしら?」

もう一つの彼らの最大の疑念 はあの和人の変貌だ……自分達の存在を忘れたように……

「ワルキューレのことも…… まったく解からなかったと……」

唯一あの場に居合わせなかっ たメームの問い掛けに頷き返す。

「はい……姫様だけでなく、 我々のこともまったく解からないといった様子でした…」

なにより信じられないのは和 人がワルキューレを傷つけたことだ……和人にとって一番大切な者を………それがワルキューレだけでなくここにいる者達に大きな衝撃を与えている。

「とにかく…その女性と婿殿 を早く捜し出さねば………」

謎の皇女にもう一つの刻の武 具……そして和人の変貌………多くの謎があるものの、ここでいくら議論を交わしても答えは出ない。今は一刻も早く消えた二人の行方を掴むことが先決であっ た。

だが、それも今は待ちの一 手………沈痛な面持ちで無言が続くその場にドアが開く音が響き……コーラスが入ってくる。

「あ、あんた……」

「今まで何処にいたんだよ、 おめえは? この大変なときに」

愚痴るようにハイドラが悪態 をつくが……コーラスはよろよろとした足取りで虚空を見詰める。

「……離さない………離し は…しない…………」

なんの前触れもなく語り出し たコーラスに一同は息を呑む。

「………ずっと…貴方 を………永遠の刻…………渡さない………哀しいよ……でも、怖いよ……僕は」

胸を抑えながら苦悶を浮かべ るコーラスにメームが歩み寄る。

「コーラス……なにかを感じ ているのですか?」

ヴァルハラ皇女のなかで誰よ りも感受性の高いコーラスは人の思念を感じ取る……そして、コーラスは俯きながら胸を抑える。

「感じる…哀しい……でも、 暗い…………解からない…全てがごちゃ混ぜになっている…こんな感情初めて………」

なにかに怯えるように唇を噛 むコーラスをメームは抱き締める。

「………感じる…彼女 は………和人さんは……もう…いない…………」

その言葉に衝撃を受けたよう に秋菜とリカが詰め寄る。

「ちょっと! いないってど ういうこと!?」

「お兄ちゃんは何処にいった の!?」

鬼気迫る表情で問う二人で あったが……コーラスは眼を伏せたまま………

「解からない……でも、和人 さんの気が感じられない………もう…この世界には…いない………」

愕然となる二人…そして、 ゴーストやメームは確信を得る。

「どうやら、並行世界とやら に連れていかれたようね……これで、あの時の言葉にも確証が出た」

そう……あの別れ際にアー リィが発した『この世界に用はない』という言葉の意味……そして、『こちら側の皇女』と謳った意味も………

「そして……我らもいかねば ならないようですね…その並行世界……もう一つのヴァルハラへと………」

相手の意図はまだはっきりと 解からないが、和人を捜していたのはまず間違いない……ならば、目的を果たした以上この世界に留まる必要はないだろう……そして…自分達はそれを追いかけ ねばならないことも。

「でもどうやって!?」

秋菜が苛立たしげに叫ぶ。

並行世界へなどどうやってい くのか……だが、その問いにゴーストが答えた。

「相手は刻の武具を使ってこ の世界への道を開いた……ならば、こちらもそれと同じ方法が取れる……次元の境界が薄くなっている空間に飛び込めば……」

次元の狭間……二つの世界を 繋いだのはほんの偶然………だが、向こう側からその境界が弱くなっている部分を破ってこの世界へと来たなら、その逆もまた然り………

一度開かれた次元の道はそう 簡単には消えない……ならば、その狭間への扉を開ければ…後を追える可能性がある。

「でも、大丈夫なの?」

並行世界と一口に言ってもそ れこそ無限……運良くその世界へと行ける保証はない。

「解かっている…なら、諦め る?」

挑発するような物言いでゴー ストがそう問うが……皆は表情を引き締めて応えた。

諦めるなんてことはできな い……和人はここにいる者にとって大切な存在なのだ。

その答にゴーストも満足げに 笑みを浮かべる。

「だけど、その道を開くのに は刻の武具が必要なんでしょ……どうやって…」

リカが表情を顰めて治療室に 眠るワルキューレを見やる。

肝心のワルキューレは今昏睡 状態……道を開くための刻の鍵を使える人間が………そこまで考えて、リカはあっとなにかに気づいたように声を上げた。

反射的にゴーストを見やる と、御名答とばかりにゴーストが頷く。

「私が刻の鍵を使う……一 応、私も刻の鍵の継承者だからね」

なんの考えがなかったわけで もない……刻の鍵をこの世界へと飛ばしたのは他でもないゴーストを生み出した4皇女…その皇女達の力を継ぐゴーストにも当然、刻の鍵を使う能力は備わって いる。

ゴーストがメームを見やる と…メームもやや逡巡したが、意を決してその手に刻の鍵を持つ。

「ヴァルハラ皇家の長とし て、お頼みします……」

「……ええ」

差し出された刻の鍵を受け取 ると……ゴーストはその手に構え、その鍵の刀身に自身を映す。

「ではすぐに参りましょ う……」

メームがそう促した瞬間、突 如部屋へのドアが開き…全員が振り返ると……

「あ、シロ!」

開かれたドアに立っていたの はシロ、マル、ミュウの3人……シロがニヒルな笑みを浮かべると、マルとミュウも同じように笑みを浮かべる。

「話は聞いたぜ……俺らも付 きあわせてもらうぜ」

「え、でも……」

「野暮はなしってことよ…… それに、俺らも昔の血が久々に騒ぐんでな」

「……いこうぜっ、あのバカ を連れ戻さなきゃな」

そう言って親指を立てるシロ に…もはやなにも言えなかった。

「解かりました……貴方方の お力、お借りします」

メームが頷くと…今一度ゴー ストを見やり、ゴーストは頷く。

 

 

 

数時間後……メームの宇宙船 は大気圏を突破し、宇宙へと舞い上がっていた。

ブリッジで見守る一同の前 で……円盤の前方に浮遊するゴーストが右手に刻の鍵を構え、眼を閉じて意識を集中させている。

緊張感の漂うなか……集中し ていたゴーストが刻の鍵を振り上げる。

「刻の鍵よ……我らが前に、 次元の扉を開け!」

刹那、ゴーストの瞳が開か れ……刻の鍵を振り下ろす。

振り下ろされた刃からエネル ギーが放たれ……それが虚空に飛び、エネルギーが膨張した瞬間、虚空に歪みが生じ……巨大な黒い穴が形成される。

異次元へと通じるワームホー ル……だが、それは全てを呑み込むブラックホール……飛び込んで後を追えるどころか、無事に通過できるという保証もない。

だが、それでも行かねばなら ない。

ゴーストが円盤内に戻ると、 メームは指示を飛ばす。

「参ります……総員、衝撃に 備えよ」

静かな声とともに全員がシー トに身を固定し、息を呑みながら円盤をゆっくりワームホールへと進入させていく。

その時、侍女の一人が声を上 げた。

「ほ、本艦に急接近する物体 あり!」

上擦った声に一同が思わず身 構えた瞬間……モニターには彼らにとって馴染み深いものが映った。

「みぃなさぁぁぁぁんん!  どちらへ行かれますのぉぉぉぉ!」

急加速で円盤に向かってきた のはライネの小型円盤。

「ライネ…!」

「あのバカ…なにやってん だ!」

「ぶ、ぶつかるわよ!」

狼狽する一同……ライネの円 盤は急加速で向かってくる……だが、ワームホールに進入しようとしている今、回避はできない。

結果………誰もが思い描いて いた通り……ライネの円盤がメームの円盤に激突し…その衝撃でワームホール内へと吸い込まれていった………

全員の悲鳴と絶叫が木霊する なか……ワームホールは閉じられ…宇宙には再び静寂が戻るのであった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――To Be Continued


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