羽衣市が見渡させる高 台………昼間は家族連れや子供達の声が飛び交う憩いの場も、夜には静寂に包まれる。

その高台の手すりに立つ一人 の少女………夜の闇に同化するような漆黒の艶やかな髪が、風に揺れて靡いている。

その風を頬に感じながら、少 女は髪に結んである鈴を鳴らす。

 

―――――リーン……リーン…………

 

鈴の音に導かれるよう に………少女の背後に人影が現われる。

だが、少女は警戒した様子も なく……まるで、愛しい者を待っていたように頬を微かに紅潮させ、微笑を浮かべながら振り返る。

「待っていた………貴方 を……」

微笑みかけ……ゆっくりと歩 み寄っていく………そして…その人物を抱き締める。

「…………離さない……絶対 に…」

強く……そして強く…その身 体を抱き締める…………

抱き締められた人影……和人 は無言のまま………その抱き締めるイーファにするままにさせた………

 

 

蒼き月光が降り注ぐ………ま るで……二人を祝福するように…………

 

 

 

 

 

円盤皇女ワるきゅーレ  

第3部  次元を超えた契り

第参話  断ち切られた絆

 

 

 

 

 

十数時間前……地球を遠く離 れたヴァルハラ星………永きに渡って消えていた4つの月が再びヴァルハラ星の空に浮かび、12の月が輝く………

静かな夜に包まれるヴァルハ ラ皇宮………その庭先に立つヴァルハラ皇家の長、メーム………静かに自らの守護月である月を見上げていたが………その眼が微かに曇る。

黒き靄が月の一つを覆い…… 風が吹き荒れる…………

メームの脳裏に……いくつか のビジョンが過ぎる…………

 

 

―――――黒い影が舞い上が り……光る槍のような矢が…………ワルキューレに突き刺さる…………

―――――響くワルキューレ の悲鳴………

 

 

「っ!……ワルキュー レ………」

額を押さえ、その場に項垂れ そうになるメームだったが、ハッと気配を感じて振り返ると……そこにはヴァルハラ皇女のイナルバ、ネスティー、ファムの3人が佇んでいた。

「メーム……」

イナルバが一歩前に出て、気 遣うように問い掛ける……だが、その表情から、その意図を悟ったようだ。

「貴方達も……感じたのです ね」

「ああ……ワルキューレの… ワルキューレを守護する月に嫌な靄が掛かっている」

微かに歯噛みするように、ネ スティーは空の月を見上げる。

夜空に浮かぶ月の一つ…… ちょうど、白の皇女を守護する月だけに黒い靄が掛かり、輝きを覆っている。

「なにか……不穏な予感が 漂っています………」

眼鏡を持ち上げながら、ファ ムは表情を顰める。

皇女同士……感じているの だ………降りかかる不穏な気配……

「先のあの事件……アレが引 き裂いた空間の歪からこの靄は流れている………」

「ええ……私は今すぐ地球に 向かいます。後は任せましたよ」

身をさっと翻すと同時にメー ムはその場を離れていく……自らの円盤に向かい………

地球を……ワルキューレと和 人がいる場所へ…………

それに、メームの胸騒ぎはワ ルキューレの月の異変だけではなかった………

(嫌な予感がします……婿殿 とワルキューレに……なにかが………)

二人を引き裂くような予 感……うすら寒さを背中に憶えながら、メームは地球へと旅立った……

 

 

 

 

時間を戻して現在……突如姿 を消した和人の行方を捜し、彼女達は羽衣町を駆け回っていた。

だが、学校、商店街、土手な ど心当たりのある場所は既に探し回ったが、どこにも和人の姿を発見できなかった。

そのために、一同は一度時乃 湯に戻っていた。

「いた、リカちゃん!?」

「ううん……ご近所さんと か、心当たりは全部当たったんだけど……」

咳き込むように尋ねる秋菜に リカは言葉を濁す。

真田さん以下、侍女部隊も総 力を挙げて(捜し方に少し疑問が残るが……)近所での聞き込みや心当たりを当たってみたものの、全て空振りに終わった。

「おい秋菜…おめえの霊感で 捜せねえのかよ」

「さっきからやってるわ よ……でも、変なの………」

悪態を衝く秋菜が言い淀 み……疑問に感じたハイドラが問い返す。

「変って…何が変なんだ よ………」

「うん……なんていうか、和 人の気が感じられないの………さっきから、ずっと弱々しくて………」

顎に手をやりながら考え込 む……先程から、今まで感じていた和人の気…命の輝きのようなものが途切れそうに弱くなり……今ではほとんど感じられなくなってきた………

なにか、嫌な予感が皆の胸中 を騒がせる。

「ゴーストと姫様がまだ戻ら れてませんし……もう少し、捜してみましょうか」

捜しに出たはずのゴーストと わるきゅーれの姿はない……まだ捜しているのか、戻っていない。

「……ああ!」

突如、リカが声を上げた。

「な、なにリカちゃ ん……?」

「すっかり忘れてた! アキ ドラよアキドラ! アキドラに合体すれば、そのお兄ちゃんの気を捜せるんじゃない!」

そのリカの案に……何故、今 まで気づかなかったと秋菜は自身の混乱さにやや毒づいた。

すっかり忘れていたが、アキ ドラに合体すれば、霊感能力が強化される。

「よし、じゃあ早速……」

意気込んでやろうとする も……秋菜は、いつもの起爆剤たるビデオがないのに気づいた。

そう……秋菜とハイドラが合 体するためには、二人の友情の破壊が条件なのだ。

その起爆剤に用いているハイ ドラのお気に入り時代劇デープを生憎と今、持ち合わせていなかった。

「ああ、こんなときにビデオ 忘れちゃうなんて!」

「なにぃ!? また俺の大切 なビデオを犠牲にすんのかよ!」

不当な言葉に思わずハイドラ が噛み付きかかる……今まで合体のたびにビデオを台無しにされた身としては怒るなという方が無理だろう。

「当たり前でしょうが! そ れぐらいにしか役に立たないんだから……」

「役に立たないってなんだ よ! アレは俺がいつも楽しみにとってる時代劇なのに……暴○ん坊○軍水○黄門銭○平○!!

「うっさいわね! いつも いっつもテレビで見てるくせに……!」

何時の間にか言い争いに突入 し……二人の手に光が収束する。

「あ!?」

「おっ…きたき たぁぁぁぁ!!」

その輝きに気づいた二人が同 時に構える。

「いくわよ、ハイドラ!」

「合点承知!」

刹那、秋菜とハイドラの二人 は飛び上がり……空中で手を合わせる……次の瞬間、光が二人を包み込む。

秋菜とハイドラの影が一つに 重なり……銀色の髪をポニーテールに靡かせ、そして胸の膨らみが微かに揺れる。

光から現われる秋菜とハイド ラの二人の能力を併せ持つアキドラ………

「やっぱあの二人って、いい コンビよね……」

「喧嘩するほど仲がいいとも 仰いますしね………」

その変身シーンを見詰めなが ら、リカと真田さんはポツリと呟いた。

降り立ったアキドラは、早速 意識を集中させ………呪文を詠唱する。

アキドラの周囲に光の粒子が 満ち……神秘的な輝きを発する………それを横から不安げに見守るリカと真田さん………

意識を集中させていたアキド ラが次の瞬間、眼を見開く。

刹那……アキドラの脳裏にあ る光景が浮かぶ………

 

―――――黒い影が舞い上が り……光る槍のような矢が…………ワルキューレに突き刺さる…………

―――――響くワルキューレ の悲鳴………

 

「っ!」

その脳裏を過ぎった光景にア キドラは息を呑む。

額を押さえ、項垂れるアキド ラにリカがやや驚いて声を掛ける。

「ど、どうしたの……?」

リカの問い掛けに答えず…… アキドラの内で秋菜とハイドラは冷たい汗を流す。

「お、おい……今の………」

「ええ……ワルキューレ に………不穏な影が漂ってる………」

「ひ、姫様の身になにか が……!」

その呟きを耳にした真田さん は取り乱すも、アキドラは答えず……そのまま顔を上げる。

「「いこう! 和人がいる場 所は……あそこ…!」」

アキドラが指差した方向…… それは、羽衣町全域を見渡せる高台公園だった………

 

 

 

 

その頃……わるきゅーれと ゴーストの二人も高台公園に到着していた。

わるきゅーれは魂の導き に……ゴーストはほぼ直感だけを頼りに………今まで和人と魂を通わせたことのある二人ならではだろう……なによりここは、二人とっても和人との想い出の場 所………

公園へと入ったとき……二人 は公園内を見渡し………ゴーストは微かに眉を寄せた。

(結界……この周囲の空間が 乱れている……?)

微かに漂ってくる次元の裂け 目………切り裂かれた隙間から流れ出るようなこの冷たい気配は………

「和人ぉ!」

だがその時、突如わるきゅー れが駆け出した。

そのまま公園内を端の展望区 画へと………ゴーストも警戒した面持ちで…後を追う。

展望区画へと続く角を曲がっ た瞬間……二人の眼に違う光景が飛び込んできた。

「こ、これは……」

明らかに動揺した声を漏ら す……自分達の周囲に拡がる果てしない廃墟の後………崩れた建物の残骸が無数に拡がる荒野………

だが、その光景から果てない 闇と圧迫するような威圧感を感じる………

周囲の光景に気を取られてい たが……わるきゅーれが叫び上げた。

「和人ぉ」

弾かれたように前を向く と………この廃墟のなかで佇む二人の人影…………

宙に浮かぶ和人を抱き締 め……漂う黒髪の少女………イーファ………

そのイーファが、こちらに気 づいたように顔を上げた。

その眼がわるきゅーれを捉え た瞬間……口元が歪み、眼が鋭くなる…………

わるきゅーれはそのまま和人 の名を呼びながら駆け寄ってくる。

「邪魔……しない でぇぇぇ!!」

イーファが叫び……衝撃波が 弾け飛ぶ。

その衝撃波が二人を直撃 し……弾き飛ばされる。

「ぐぅぅ!」

「きゃぁぁぁ!」

ゴーストはなんとかその場に 踏み止まるも、わるきゅーれは堪えきれず、吹き飛ばされる。

そのまま大地に打ち付けられ るかと思ったが…その身体を抱き止められる。

「ん……あっ、アキド ラ………」

ゆっくりと眼を開けると、そ こにはわるきゅーれを抱くアキドラの姿が映った。

「大丈夫?」

アキドラが尋ねると、わる きゅーれはコクリと頷き…そこへ同じように駆けてくるリカと真田さんが現われた。

「姫様! 姫様、ご無事です か!?」

「ああ、怪我はしてねえよ」

真田さんへと抱き渡すと、ア キドラはキッと前を睨む。

「あんた…イーファ……!?  なんであんたがここに……!」

その姿を確認した瞬間、アキ ドラの眼が驚愕に見開かれる……何故、彼女がここにいるのだ…いや、それ以前に彼女は何故和人を抱き締めているのだと疑問を巡らせる。

だが……そんなアキドラの狼 狽にも動じた様子を見せず……イーファは微笑を浮かべる。

「この気……七村さんでした よね………貴方も、邪魔をするのですか…私達の………」

「はぁ? 私達? なに寝ぼ けてんのよ! いいから和人を離しなさい!」

イーファの物言いが癪に障っ たのか、アキドラが指差すと…イーファの表情が憎悪に歪み…その視線にアキドラはビクっと一瞬身を竦める。

「赦さない……私達の邪魔 を…仲を引き裂くものは………絶対に…!」

刹那……イーファを闇が覆っ ていく………闇が巻き起こす突風に一同は顔を覆う。

イーファを覆った闇が身体に 吸い寄せられ…その姿を変えていく………

少女だった身体が僅かにすら りと伸び……胸が大きく揺れる………そして、全身を覆う漆黒のアンダースーツ……脚部、ボディに施される銀に輝く甲冑………黒髪を靡かせる頭に銀色のヘッ ドギアが施される。

その横に出現する白銀の 羽……唇に真紅のルージュが施され……ヘッドギアの中央に真紅の宝石が輝く。

変身したイーファが地上に降 り立つ……その姿に、ゴーストは眼を見開く。

「貴方は……さっきの…!」

間違いない……夕暮れに自分 達を襲った謎の相手………だが、アキドラやリカ達も驚愕に眼を見張っていた。

「へ、変身しやがった……」

「それに……アレって、ヴァ ルハラ皇女っぽいんだけど………」

リカの指摘どおり……眼前に 立つイーファはワルキューレやハイドラ達のようにヴァルハラ皇女としての雰囲気を醸し出している。

「なにこれ……気が混ざり 合っている………いったい、あんたは…!?」

戸惑うアキドラが指差す と……イーファは閉じていた眼を瞬き…ゆっくりと開く………

サファイヤのように蒼く輝く 瞳を…………

 

――――――我は……アー リィ…………

 

ルージュのひかれた唇か ら……静かな…それでいて透き通ったような声が響く。

「アーリィ……?」

まったく聞き覚えのない名 に、一同は揃って困惑する。

アーリィと名乗った女性はそ のまま大地に降り立つ……刹那…それに反するように周囲を覆っていた光景が消え……元の展望区画へと戻る。

警戒した面持ちで周囲を見渡 す……だが、特に変わった様子は見えない……

そのまま視線を眼前のアー リィに戻すと……その頭上で光の球体に包まれたままの和人が浮遊している。

「私が彼女を抑える…あんた はその隙に和人を……」

小声で隣に立つゴーストに囁 く……コクリと頷いたのを合図に……アキドラが駆け出す。

アーリィに向かって加速する アキドラの右腕に光の粒子が満ち……それがオーラブレードを形成する。

「「ヴァルハラ無念 流……っ!!」」

加速したまま、アーリィに向 かって居合いの要領で高速に抜き放つ……だが、それはアーリィの右手に現われた光の槍に受け止められる。

「「なっ!!?」」

エネルギーがスパークするな か……アキドラが驚愕に眼を見開く。

絶妙のタイミングで放った居 合いを受け止められた……次の瞬間、アーリィの手に握られる槍を覆う光の粒子が拡散し……銀に輝く槍が現われる。

「はぁぁぁっ!」

その細腕からは想像もできな いような力で刃を返され……そのまま弾き飛ばされる。

「「うあぁぁぁぁっ!!」」

衝撃波に呻き、アキドラはそ のまま大地を抉るように激突する。

そんなアキドラに眼もくれ ず……アーリィは飛び上がる……その先には、和人を救出しようとしたゴーストがいた。

「ぐっ!」

歯噛みし、オーラブレードを 出現させ……振るわれた槍の一撃を受け止める。

重い……腕が微かに痺れる。

アーリィは両手に握る槍に力 を込め……穂先の先端の宝玉が光を放つ……その光が煌き……光の一閃が煌く。

それによってオーラブレード が弾かれ……注意が一瞬逸れたゴーストの隙を衝き、肉縛する。

そして……ゴーストの腹部に 左手の掌を添えた瞬間……鋭く重い一撃がゴーストを襲った。

声にならない悲鳴を上げる ゴースト……腹部に受けたエネルギーの衝撃……そのまま弾き飛ばされ、アキドラを介抱するリカ達のもとまで飛ばされる。

大地に身を強か打ち付け…… 苦悶の声を漏らす…………

「ちょ、ちょっと…マジでや ばくない」

流石のリカも上擦った声を上 げる。

アキドラとゴースト……この 二人の実力を知る身としては、瞬く間に敗れたということがいかに眼前の相手の力量が高いことも……

「いてて……くそっ、なんな んだよ…あいつのあの槍………」

打ち付けた後頭部を押さえな がら、アキドラが身を起こす……かなりの気合が込められたオーラブレードの一撃を苦もなく受け止めた槍……それに答えるようにゴーストが囁く。

「アレは……紛れもない…… 刻の武具………」

「はぁ? 刻の武具って…… ワルキューレの刻の鍵みたいなもの……?」

神妙な面持ちで、ゴーストは 頷く。

「な、なんだよ……刻の鍵以 外にもそんなのがあんのかよ……!」

「いえ……少なくとも、刻の 鍵だけのはず…この次元には」

裏返るアキドラに…ゴースト の低い声が響く………だが、その最後に呟かれた言葉の真意を問おうとしたが、それより早く衝撃波が襲い掛かった。

悲鳴をあげ、吹き飛ばされる ゴーストとアキドラ……リカも巻き添えを喰らい、その場に倒れる。

呻く一同に向かい、冷ややか な視線と声が掛けられる。

「他愛ない……この程度な の…この(・・)世界(・・)の皇女とやらの実力は」

揶揄するような口調とともに 発せられる失望の言葉……そして…再度槍を構える。

今の状態では…完全にかわせ ない。

「ダメぇぇぇ!」

「ひ、姫様!」

その光景に、今まで真田さん の腕に抱かれていたわるきゅーれが抜け出し、駆け出す。

「わるQ! 来ちゃダメ!」

アキドラの制止も虚し く………放たれる光の一閃…………真っ直ぐに伸びる光状に、息を呑む。

そして……前に出るわる きゅーれ………光が激突しようとした瞬間……わるきゅーれの身体を光が覆う。

その光によって掻き消される 一閃……訝しむアーリィの前で……わるきゅーれは光に包まれていく。

小さかった四肢がスラリと伸 び……胸が大きく揺れる……その上に、白い衣が羽織られる。

右手に刻の鍵が握られ……そ れを振りながら現われるワルキューレ………

そのまま光が拡散し……対峙 するように降り立つワルキューレ………刻の鍵を振り、先端を突き付ける。

「いったい……貴方は何者な のです? 何故和人様を………」

ワルキューレの視線が浮遊す る和人に向けられ……苦しげに歪む。

「和人様を離してください」

「和人様……ね…………」

一瞬……嘲笑うような視線を 向けられ……ワルキューレはビクっと身を震わせる。

「ふざけ……ないで」

小さな……それでいて低い… 怒りと憎悪のこもった声…………冷たい悪寒が背中を襲う。

身構えるワルキューレの前 で……アーリィは手を翳すと……それに呼応するように和人を包んでいた光の球体が降下し…アーリィの手に和人が抱きかかえられる。

「……ん…君、は………?」

今まで瞼を閉じていた和人の 眼が瞬き……ゆっくりと開く。

開かれた視線の先に見えた アーリィの嬉しさを滲ませた表情……呆然となる和人の耳に、知っている声が聞こえてきた。

「和人様!」

その声に反応し……視線を傾 けると………離れた場所で悲痛な表情を浮かべる自分にとって大切な女性………

「ワル…キューレ…………」

片言のように呟くが……そこ に辛そうな声が響く。

「いやぁ……私以外を…見な いで…………」

泣きそうな……そして哀しみ に満ちた声……それに反応し…和人の視線は戻り………次の瞬間……和人の唇にアーリィの唇が重ねなれた。

その光景に……ワルキューレ は胸が傷み……そして、他の面々は驚愕の声を上げる。

だが……突如、和人とアー リィの身体が光に包まれる…………

その輝きに眼を覆う……唇を 重ねるアーリィの声が……和人の脳裏に響く………

 

 

『思い出して………私を…そ して……貴方を…………』

その声に……和人の内でなに かが消えていく………

 

―――ワルキューレとの出逢 い………

―――彼女達の日常………

――――ゴーストとの邂 逅………

――――刻のブリザー ド………

 

それらの記憶が奥底へと消え ていく………心の内で…ワルキューレの名を囁いた瞬間……和人は意識を手放した。

 

 

光が拡散し……和人から一つ の光が弾き出されるようにして飛び出した。

その光はそのままワルキュー レに向かう。

呆然となっていたワルキュー レはその光に直撃される……それに狼狽する一同。

「姫様!」

「ワルキューレ!」

声を張り上げる一同の前 で……ワルキューレは特に怪我をした様子もダメージを負ったようにも見えない。

だが、訝しむ一同の前で…… ワルキューレの表情がどこか蒼褪める………

「そ、そんな………」

震えるような口調で……ワル キューレは己の手を見やる………その手がガタガタと震えている………

「ど、どうしたのよ!?」

ワルキューレの異常がさっぱ り解からず、困惑する。だが、ワルキューレは呆然としたまま顔を上げ……和人を見やる。

光が消え……和人の身体を抱 えるアーリィは冷ややかな視線を向ける。

「そんな不純物は要らな い………貴方のような汚れた魂なんか………」

心の底から侮蔑するような視 線……そして…その言葉からなにかを悟る。

「魂が……戻った……ワル キューレに…………」

ゴーストがポツリと呟き…… 一瞬、頭が困惑していた一同は、その意味を理解した瞬間、驚愕の声を上げた。

和人とワルキューレ……同じ 魂を持つ二人……最初の出逢いにワルキューレの不注意によって失われた和人の魂の半分………それによって死へと誘われそうになった和人に自らの魂を分け与 えたワルキューレ………

その分けられた魂が和人とワ ルキューレの二人を繋ぐ絆であり……二人の愛の証だった。

それが戻った今……もう一人 のわるきゅーれという存在は消え………

「そ、それじゃ和人 は……!」

根本的な問題にぶつかったア キドラが狼狽する。

そう……ワルキューレの魂の 欠片によって命を得ていた和人…それが抜けたということは………

「和人様! 和人様になに を……! 魂が欠けたら、和人様は……」

「っ……黙れっ!

和人の身を案じ、悲痛な叫び を上げそうになったワルキューレだったが、それよりも鋭い声に掻き消され、息を呑む。

見れば……アーリィの唇が強 く噛まれ…しかも握り締めた拳が震えている。

「和人様……ですって……貴 方にはこの人の身を案じる資格も…権利もない………っ」

言い捨てるアーリィにワル キューレは呑まれそうになるも、自身を奮い立たせるように保つ。

「わ、私と和人様は、同じ魂 で結ばれていますっ! 私達は……!」

「その魂も……元はといえ ば、貴方の招いたことじゃない………この人を殺したのは……貴方自身のくせに……っ!」

ワルキューレは……今まで見 なかった事実を突き付けられた。

そう……原因を突き詰めれ ば…ワルキューレと和人が魂を共有するに至ったのも、元を正せばヴァルハラ星での重圧に耐えかねて逃げ出し…その先で和人の命を一度奪ってしまったのは他 でもないワルキューレ自身………

その事実に……ワルキューレ は足元が抜けるような感覚を味わう。

「わ、私……私が……私が… 和人様を…………」

今更ながらに……自身の犯し た罪に震える………そんな様子にアーリィは鼻を鳴らす。

「フン……貴方はこの人に相 応しくない………貴方のように…浅ましい女には………」

厳しげだった表情を和ら げ……アーリィは今一度、己の腕のなかで眠る和人を見やる。

「さぁ……眼醒めて………… 愛しい人……セイヴァ」

そう囁いた瞬間……和人の身 体が光に包まれる。

その巻き起こす衝撃波に…皆 は踏み堪えるも……呆然となっているワルキューレはその煽りを受け、倒れようとするが……その身体をゴーストが支える。

「いったい…なにが起こって るの………?」

ゴーストもそうとしか感じら れない……いったい、自分の眼の前でなにが起こっているのか……やがて…光が収まり………一同は言葉を失う。

アーリィの横に……蒼く輝く 鎧に身を包んだ人物が現われた………だが…それは……紛れもなく時野和人だった少年………

「か、和人……」

「お、お兄ちゃん……」

まったく豹変した和人の姿 に……アキドラやリカは困惑の色を隠せない。

「和人……さま…………」

消え入りそうな声で話し掛け る……それに反応してか…和人はゆっくりと眼を開く………

だが、その眼は何故か冷めて いた………

「和人様………」

だが、それに気づかずなおも 呼び掛けるワルキューレに……和人が視線を向けた…そして……衝撃的な言葉が飛び出した。

 

 

―――――………誰だ…君 は…?

 

 

息が止まる……世界が暗転す る……まるで天地が逆さまになったような感覚……それがワルキューレを含めたこの場にいる者達の心持ちだった。

だが……和人の眼はワル キューレをまるで他人のように……無機質な眼を向けている……

「和人様……和人様…和人さ まぁぁぁ」

眼に涙を浮かべ……悲痛な表 情を浮かべるワルキューレ………だが、そんなワルキューレに優越感を示すようにアーリィは和人の腕を取る。

「セイ……ようやく眼醒めて くれたのね…………」

「ああ……」

愛しい者の名を呼ぶように縋 るアーリィに……和人は頷く。

「彼女は……誰なんだ…?」

こちらへと哀しみに満ちた視 線を向けるワルキューレを見やりながら……問い返すと、アーリィは無機質に答えた。

「貴方は知らなくてもいい 人……そして…私達を引き裂く………私達の敵……だから…私を護って……セイ」

アーリィは静かに腰から取り 出した棒のようなものを和人に差し出す……それを和人は手に取り………右手に構える。

刹那……和人の右手に収まる 棒のような先端から……蒼に輝く光の刃が出現する。

それに息を呑み、身構え る……だが、ワルキューレは未だ現実を受け入れられないのか…遠くを見るように和人に無意識に歩み寄ろうとする。

「和人……さ…ま…………」

糸の切れた人形のごとく…… 手を伸ばすワルキューレ……だがその手は……最悪の形で断ち切られた。

 

 

――――僕は……セイ ヴァ………アーリィの剣……そして…護るもの…………

 

 

低い声とともに振り下ろされ る光刃…………光の斬撃が真っ直ぐにワルキューレに襲い掛かる。

ゴーストやアキドラがワル キューレの名を呼ぶも……ワルキューレには聞こえない。

光刃は…無防備を晒すワル キューレを一閃し……ワルキューレの身体に斬撃の一閃と真紅が走る……次の瞬間………噴出した血がワルキューレの白い衣を紅く染めていく………

 

「和人………さ…… ま…………」

 

もう……状況を認識すること すらできず………ワルキューレの意識は暗転した………

深い深い……哀しみという闇 に…………

 

 

 

和人とワルキューレ………二 人を結んでいた絆は……最悪の形で断ち切られるのであった…………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――To Be Continued


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