「ここは………」

(熱い……)

俺はその時、妙な感覚だった。

「ん?」

(苦しいよ……)

自分が自分でないというか、変に軽いというか……。

「何だ……」

(助けて………)

だが、さっきから頭に響いてくる声だけは、はっきりとしていた。

「この声は………!」

(お父さん……お母さん………)

命だ!

「何処だ! 何処にいる命!!」

俺は必死になってこの声のもとを探した。

だがそれは到底無理だ。視点も視界も不安定で、自分がどんな格好すらもわからないのだから。

けれども俺は諦めなかった………馬鹿だったから…

「命、返事をしろ、命!」

(助けて……凱……雷王………)

いやだ……嫌だ、嫌だ、いやだ!



「ミコトォォォ!!!」









ドガァ!!

盛大な音と共に、俺はベッドから飛び出し、目を覚ました。

いや、投げ出されたようなものだ。どうやらこのベッドは寝言にも敏感らしい……

「畜生………」






もう、あの事故からは………一週間が経っていた。






















晴明は俺の行動に、なに言わなかった。

ただ一言、「大バカもの」と罵っただけだ。ホンの小さな声で。

「ふん……」

(散々痛めつけてくれたほうが、楽なのにな………)

俺はそんな事を思いながら、いつもの通学路を歩いていた。

二人のいない、寂しい風景から……どうにもならない現実から、眼をそむけるように………




結局あの後、命は息を吹き返した。

治療をした晴明自身も驚いているようで、何と体にはほとんど外傷もなく、多少ガスを吸っているだけらしい。

だが、命は今も苦しんでいるはずだ。あの事故……隕石落下事件の被害者は、命だけではなかったからだ。

隕石の落下軌道上には、運悪くテスト飛行を兼ねたスペースシャトルがあったのだ。

その名は………



スピリッツ号といった。



あれ以来、命の立ち寄るであろう場所は近づかないようにした。

どんな顔をしているか、それを知るのが怖かったから………





「がい……みこと………」



どうしようもない



ただそこに置かれた



どうしようもない



ただそこに起こるべくして起こった



どうしようもない



ただの現実………


「畜生………」





むなしさが、込み上げた。

『そいつ』は俺に、涙を流させた。

戦いの、喧嘩の中でも。





















「うわああああああああ!!!!!!!!」























「うぐぇ!」

殴る、殴る、誰であろうと殴った。

「ぐぼぉ!」

ただのチンピラも、下っ端も、リーダーも親分もどんな奴でも…………全部殴った。

「ひ、ひぃ…助け……」

今の俺では近所の奴では歯が立たない。だから無理やりにひっ捕まえて、それで殴りに行った。

「お、おい……俺達がなにしたって……ふぐぅ!」

泣きじゃくりながら喧嘩を吹っかけるのを見たら、トチ狂ったとしか見えねえだろうな…





だがどこかの暴力団ともなれば話は別だ。組員一人でも傷つければそれは組全体に喧嘩を売ったのと同じだからだ。

「さすがに…………不味かったかな……二つの組に、喧嘩売るのは…」

折れたわき腹を擦りながら、砕けた足を必死に直す。

「おい、お前何さっきからブツブツ言ってやる」

「一人でここまでやったのは認めるけどな……世の中ナメンじゃねえよ……」

「うるせえよ………」

「ああ!」

「んだ、若造が?」



「『うるせえ』って言ったんだよ、このボケ がぁ!!」

起き上がって、砕けた足で蹴りに行く。組長の一人が苦痛の余り、その顔を醜悪に歪ませた。

俺はどうだって?



俺のは初めから醜悪にまみれてるよ………

「畜生………」





もう一つも無かったんだ……

血と涙が染み付かない場所なんて……

もう、何処にも………



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