シンジが和樹に言ったことは嘘ではなかった。
自分がエヴァに乗せられる為にここに来たこと。それが嫌になって逃げ出したこと。父親が周りに対してはとんと冷淡な態度を取っていること。
全てが事実、そしてシンジの本音だった。
本当はこんな所にいたくない。それでも、ここにいるしかなかった
「どうした? 早く行け」
父の最後にはなった言葉が、いつまでも頭にしがみ付いて離れない。
(僕には……『頑張れ』の一言もないんだね…)
別に期待していたわけじゃない。分かりきっていた事なんだ。父さんは僕のことなんて気にもかけていないって……
(嘘だ)
(嘘じゃない)
(嘘だ)
(嘘じゃない)
(嘘だ)
(嘘じゃない)
(嘘だ)
(嘘じゃない)
心の中の葛藤はどんなに抑制しても止まらない。何時からだろう……何時からこんな風になってしまったんだ。
考えを巡らせると、ゴールに待っている風景はたった一つ。
(綾波にならきっと……頑張れって言うんだろうな)
数日前に見かけたあの光景。
誰にも笑顔を見せないと思っていた自分と同じもう一人のパイロットは、同じく誰にも微笑まないと思っていた父親の前で、笑っていた。
『…………ジ』
それだけではない。ここに来る前の零号機の暴走事件で、ゲンドウは必死になって彼女を助けた。加熱したハッチを素手でこじ開けて。
『…カ……ジ』
そのせいで、ゲンドウの手の平には未だに火傷の跡が残っている。そうなることは解り切っていた筈なのに、それでも父は、彼女を助けたのだ。
(僕が同じ目に合っても、同じことをしてくれるんだろうか…)
『バカシンジ!!』
「うわあ!」
突然の大声に、思わずひっくり返りそうになる。と言ってもここはエントリープラグの中だからひっくり返りはしないが。
『まったく! さっきから呼んでんのにぜんぜん反応しないで。寝ぼけてんじゃないでしょうね?』
「ち、違うよ!」
慌てて否定する。スクリーンに映ったアスカの顔は、三倍近くまで膨れ上がっていた。
『じゃあ、何で無反応なのよ! このあたしが声掛けてんのよ。チットは嬉しそうな顔しなさいよ』
「それは………」
言える訳無かった。
言えば、また「アンタ馬鹿?」と言われるのは目に見えている。それに言うこと自体、今の彼にとっては憚られた。
そんな様子を見てか、それ以上アスカも言及はしない。
『ま、いいわ。けど、アタシの邪魔だけはしないでよね。せっかくの日本でのデビュー戦、滅茶苦茶にされちゃたまんないから』
それだけ言うと、とっとと回線を切ってしまった。
考えを遮る物が無くなったシンジだったが、もう考えるのは止めにしていた。
(そうだ……今は目の前に、敵がいるんだ)
たとえ『今』が嫌であっても、現実から目を背けたくても、それでも自分にできるのは戦うことだけなのだ。
『二人とも、いい?』
ミサトの声が聞こえる。しかし、さっきのように遠くから聞こえはしなかった。
『今回の敵は、いまだ未知数。能力が判別できないわ。とりあえず、ATフィールドを中和しての近接戦闘で行くわよ』
「了解」「了解」
『零号機はまだ実戦で使える状況じゃないから、ちゃんと二人で協力すること。いいわね』
「は〜い」「は〜い」
二人とも間延びした声で答える。困難で大丈夫なのかと、心配する職員もいたが、ミサトはとりあえず信頼することにした。
『発進!』
ミサトの指示を受けて、射出口から巨人二機が、空に向かって動き出した。
第三十四話 破滅を呼ぶ両腕(前編)
使徒にはATフィールドと呼ばれるものがある。
ATが何の略かは忘れてしまったが、要するにバリア兵器のことだ。周囲の空間を無理やりに湾曲させ、攻撃の軌道を強制的に捻じ曲げる。
海で出会った使徒に、魚雷などの通常兵器が効かなかったのも、すべてはこれのせいだ。
展開される際、八角形のクモの巣のような光の壁が展開されるのが特徴で、現在の兵器でこれを打ち破るのは極めて困難である。
破る方法は唯一つ。同じATフィールドを持つエヴァンゲリオンの手による近接戦闘しかないわけだ。
つまり、同じATフィールドを相手のATフィールドにぶつけ、中和させるのである。
当然、今回取られたのもその作戦であった。こんなものが作戦と呼べるのかどうかは解らないが、それでも今できうる中では最良の戦法なのである。
「あれが今回の使徒………」
ミサトが苦虫を噛み潰したような顔になる。
スクリーンに映し出されたのは、見事なまでに綺麗な正八面体であった。
上部を青、下部を白で塗りたくられたそのボディはまったく持って無駄が無い。
「前回の使徒に比べると、かなりすっきりしていますね」
そう答えたのは、メインオペレーターの日向マコトだ。
前回現れた海の使徒、そしてその前に現れた二体に比べれば禍々しいといったイメージはまったく受けない。
もしかしたら今回はすんなりとうまく行くかもしれない。そう思った矢先。
同じくオペレーターの伊吹マヤが叫んだ。
「目標内部に、高エネルギー反応!」
「なんですって!?」
「周縁部を加速、収束して行きます!」
八面体の上部と下部を繋ぐ部分。その線の部分が、青白く輝き始めていた。
手元のパネルに映し出される数値が急激に高まっていく。
「まさか、加粒子砲!?」
ちょうどその時、弐号機が、口を開けるように開いたゲートを通して、地上に出ていた。
「だめ! よけて!」
「え?」
しかし遅かった。
ちょうどその時を見計らっていたかのように、使徒から白銀の光が一条、弐号機めがけて放たれた。
弐号機との間にあったビルを、一瞬にしてチョコレートの様に溶かす。
アスカが向き直る頃には、既に光は目の前に迫っていた。
避けようとする間もない。そう頭が働く時間さえ無かった。
(嘘でしょ……こんな、ところで…)
避けようとするよりも観念する方が早かったらしい。
目を瞑ろうとしたその時、
「え?」
横から突っぱねたような感覚が来た。
その衝撃で弐号機が横に倒れこむ。
『うあああああああああ!!!!』
さっきまで自分がいた場所に、悲鳴がこだましている。
そこにいたのは、
先ほどまで自分の後ろにいたはずの、シンジの乗る初号機だった。
シンジの叫びはネルフの中央司令室においても聞こえていた。
容赦ない痛み、妥協しない熱さ、それらが全て直に伝わっていた。
『うわああああああああ!!!!』
「まずい! 戻して、早く!!」
これ以上あの光線を浴び続けては命に関る。
即座に初号機が地下に収容される。入り口の部分で爆発が起こっていた。
「アスカは?」
「無事です、生きてます!」
この程度の爆発ならばATフィールドで十分防御可能だ。
しかし、一回食らえばおしまいだ。弐号機も一刻も早く戻す必要があった。
「アスカ、聞こえる。あなたも、すぐに戻って。13番ゲートよ」
『な、何でよ! 嫌よそんなの!』
庇われた上に、この屈辱を残して逃げろと言うのか。到底耐えられない。
だが、そんな『甘い』事を聞いていられるほどネルフに余裕はなかった。
「いいから戻りなさい! 命令よ!」
一切の反論を許さない、ミサトの言葉が飛ぶ。
『………解ったわよ』
アスカはしぶしぶそれに従うことにした。
立ち上がって後退しようとする。
だが、敵はそれすらも許さなかった。
周縁部が再び青白い光を帯びていく。
「目標に、再び高エネルギー反応!」
「ヤバイ! アスカ急いで!」
それを聞いて弐号機が全速力でダッシュする。だがどう考えても間に合わない。ゴールである13番ゲートはまだ遥か向こうにある。
『だあ、もう! もっと早く走りなさいよ!』
「弐号機、ゲートまで後300」
「駄目です! 間に合いません!!」
周縁部の輝きが最高まで達する。
そして、それが今まさに、放たれようとしていた。
その時
「はあっ!」
バシィ!
今度は使徒が上から―――人間で例えれば後頭部だろうか―――衝撃を受けた。もちろんATフィールドで防御したものの、その衝撃で放たれた光の道筋が僅か
にずれた。
「きゃあ!」
弐号機が慌てて、その場にしゃがみこむ。一瞬の空白の後、弐号機の頭があった部分を、使徒の加粒子砲が掠めていった。
遠くの山があったほうに紅蓮の火柱が立ち上っていた。
『アスカちゃん! 大丈夫!?』
「むう、勝手なことを……」
使徒を蹴り倒そうとしたのはガオファーだった。
和樹は急いで地表に出た後、急いでファントムガオーを呼んでいた。
「あ、あれは……」
中央司令室のマヤが驚愕の声を上げる。他の者も驚きを隠せなかった。
「あれがGGGの……」
「戦闘用メカノイド……」
ミサトとリツコが驚いていたのは、突然の登場だけではない。
ATフィールドに阻まれたとはいえ、ただの飛び蹴りで砲撃をそらせたのだ。
見たところ重量はそんなに大きくない。つまりは恐るべきスピードで打ち出されたのだ。
「弐号機、収容成功しました」
「わかったわ。リツコ、とりあえずあの場はGGGに任せましょ。私はシンジ君のところ言ってくるから、あとよろしく」
「ええ」
ミサトが出て行くのを見送ると急いでもう一人のオペレーター、青葉茂のところに向き直った。彼は前に収容されていた初号機の様子を調べていたのだった。
「パイロット。脳波乱れています! 心音微弱……いえ、停止しました!」
即座にリツコは指示を出した。
「生命維持装置を最大に。心臓マッサージを!」
「はい」
初号機のエントリープラグの中で、シンジはもう既に意識を失っていた。
プラグスーツがバシュンと波打つ。
「パルス確認!」
「プラグの強制排除、急いで!」
これはもはやれっきとした救助活動になっていた。
敵の加粒子砲によって装甲盤が解けただけではない。それによってLCLが加熱されていた。いくら中で呼吸ができると言っても液体には変わりない。
即座に手当てしなければ命に関ることだった
これらのやり取りを、上から、微動だにせず、見下ろしている男がいた。
「碇、良いのか? GGGを放っておいて」
「問題ない。どうせ奴等に使徒は倒せん」
碇ゲンドウ司令と、その副指令である、冬月コウゾウだった。
もちろん彼等の会話は、二人以外に聞こえることは無い。
その頃、和樹は必死に目の前の使徒と戦う術を模索していた。
目の前と言っても、とっとと敵の射程距離から離れたので、敵は相当遠くにいた。もっとも次の加粒子砲が来る前に何とか射程距離外まで退避出来たのは、ガオ
ファーの機動力と和樹の逃げ足の速さを利用した為だが。
だがこれではうかつに近づけない。
(今のは不意打ちだったから、何とかなったけど……)
多分あんな偶然は二度と起こるまい。近づこうとして敵の加粒子砲で蒸発するのがオチだ。
「こうなったらガオファイガーで……」
『和樹君!』
突然ガオファーに通信が入ってきた、驚きながらも開けてみると、それは舞穂からだった。
「舞穂ちゃん? どうしたの?」
『気をつけて。近くにゾンダーがいるよ!』
「ゾンダーが!?」
信じたく無い出来事だった。
今遠くにいる八面体との戦いでも手一杯なのに、この上ゾンダーまで現れたら絶望的だ。
「どこにいるの?」
『わかんない……わかんないけど、きっと近くにいるよ』
「くそ………」
こういうときの勘は、特に悪い方の勘は圧倒的に高い的中率を誇っている。和樹は今までの人生の中でそれを悟っていた。
この後絶対に悪いことが怒る。それがゾクゾクする程体中に伝わっていた。
「ちくしょう……」
どこだ……
どこにいる…………
だがいくら、目を凝らしても、レーダーの反応を見ても、移っているのは遥か前方にある使徒だけである。
『カズキ!』
「ん? ミレイ!?」
聞こえてきた声は紛れも無く、雷王の飼っていた日本語を喋る鳥、ミレイだった。
彼の本来の任務は、現場にいち早く急行し、その状況を逐一報告することである。
「どうしたの?」
『ヤベエゾ! あの立体野郎。第三新東京市に穴を開け始めやがった!!』
「なんだって!」
正面の画像を切り替えてみると、確かの使徒の下方からボーリングマシンのような物が伸びている。
さらに下のほうに目線をやると、それは地下に向かって一直線に掘り進んでいた。
あれで、穴を開けて……まさか、直接に攻めるつもりか?
そうなったらお終いだ。あの火力がジオフロントの中に直接叩き込まれたら中にいる人間が全員焼死してしまう。
「夕菜! ファイナルフュージョンを!」
『和樹さん!?』『和樹!?』『式森!?』
「三段飛行甲板空母の中でも、ドライヴのスイッチは押せるんでしょ」
『そうじゃなくて、近くにゾンダーが…』
「夕菜、今はゾンダーよりも、あの使徒だ。もし攻め込まれたら、中にいる人みんな死んじゃうんだよ」
『しかし………』
第三飛行甲板空母
もしも和樹が第三新東京市にいる時にゾンダーが現れた場合、迅速な行動がその場で取れるように、第三新東京市の郊外においてあったのである。
夕菜達はその中に今いるわけだが、
『夕菜! ファイナルフュージョンを!』
「和樹さん!?」「和樹!?」「式森!?」
『玖里子さん。三段飛行甲板空母の中でも、ドライヴのスイッチは押せるんでしょ?』
「そうじゃなくて、近くにゾンダーが…」
『夕菜、今はゾンダーよりも、あの使徒だ。もし攻め込まれたら、中にいる人みんな死んじゃうんだよ』
「しかし………」
皆が心配しているのはそういう事ではない。
海の上での使徒に対してあらゆる攻撃を防いだATフィールド。それを紙切れのように簡単に破っていたあの加粒子砲。
(あれがもしガオファイガーに……和樹さんに当たったら…)
例えプロテクトウォールを張ったとしても防げないだろう。尾奈が開くことは無いだろうが、よくて重症は免れない。
(いや……そんなの…いや!)
これまでとはまったく違う敵。それに対する恐怖は和樹だけではなく、他の人間までも侵食させていた。
『夕菜、大丈夫だよ』
「え?」
『確かに、これまでのゾンダーみたいに簡単には倒せないよ。もしかしたら怪我じゃすまないかもしれない』
「…………」
そんなこと言わないで。
貴方がそう言ったら、余計に心配するじゃないですか………
『でも、父さんは……前のGGGの人たちは、そんなことはたくさんあった。死にそうな時だって何度でも。でも、それでもあの人たちは戦ったんだよ。皆を守
るために』
「和樹さん………」
『僕も皆を守りたい。少しでもあの人みたいになりたいんだ。だから……』
「…………解りました」
皆を守りたい。
そう和樹が願うのならば、自分たちは必死でそれを支えるだけ。駄目だと止める訳にはいかない。
その代わりに信じよう。絶対に生きて帰ると。三人はそう思った。
GGGの技術、
ガオファイガーの性能、
そして、
和樹の勇気を。
『よし来たあ! まかせろ!!』
「うわあ!」
突然、ガオファーと三段飛行甲板空母、そしてネルフの中央司令室のスクリーンにまで突如として超巨大なスクリーンが出現した。
だがその大きさたるや尋常ではない。ネルフの中央司令室はGGGのメインオーダールームよりも遥かに大きな空間だが、それすらも覆いつくすほどだった。
「醜い…………」
リツコがポツリと漏らした言葉は、この場にいる全員の心情を表しているといっても過言ではない。
もしくは『何だこれ?』だろうか。
和樹も最初は驚いてばかりだったが、よく見てみると見覚えがあった。
あの金髪、あの黒スーツ、そして何よりあの常識を無視した銅鑼声。
間違い無い。
「父さん! 父さんだな!!」
それは見間違うはずも無い、和樹の育ての親にして現GGG長官、式森雷王だった。
『当たり前だ。それ以外に誰に見える』
雷王はふんぞり返って、さも偉そうに答える。
「そういうことじゃない、今すぐ通信を切って! 早く!!」
和樹は慌てて父親を説得しようとした、ネルフ本部に雷王の画像が映っていることは和樹にも伝わっていた。今すぐ消さなければならない。
『それは駄目だ。こうもしないと、俺の良い所が読者に伝わらないんだよ。そもそも俺はこの作品のオリキャラだから、ただでさえイメージが薄いんだぞ。さら
にだな……』
『あのう……長官』
『ん?』
横から入ってきたのは、GGGのスーパーバイザーである、高之橋博士だ。
『なに? どうかしたか、両輔?』
左隣から紅尉の声も聞こえてきた。
『ネルフ本部にも届いてるぞ。通信』
『…………………………………………』
暫しの沈黙…………
『ファイナルフュージョン承認!!』
『いまさら取り繕っても遅い!!!』
今度は和樹のスクリーン画面が同じぐらい巨大になって出現していた。
和樹の顔は怒りと恥ずかしさに真っ赤に染まっていた。
『何やってるんだよ、公衆の前面で!! 式森家の恥!!!』
『なっ! そこまで言うこと無いだろう! 俺だって家長として、皆を養うためにだなあ……』
『ええい、黙れ! あくまで『代理』だろう! それにあんな18禁小説書く奴のどこが仕事だ!!』
『それをお前が言うな! いつも18禁ギリギリの生活送っているくせに!! 知ってるぞ………和樹、お前この間もトレーニングルームで玖里子ちゃんに…』
『それを言うな、いいか! 絶対に言うな! 言ったら、小説の事を母さんにばらすからな!』
『なにい! お、お前………人の弱みを突いてきやがって…』
『どっちがだよ! 人の家に盗聴器しかけるような奴に言われたくないよ!! もうお前なんか育ての親でもなんでも無いぞ!』
『何だと〜〜〜表へ出ろ! このドラ息子!!』
『望むところだ! バカ親父!!!』
延々と続く親子の口げんかに手を出そうとするものは一人としていなかった。
手を出したところで収拾がつかないだろうし、そもそもこんな馬鹿な言い合いに参加するような気力はもはや皆無と言ってよい。ただでさえ初号機が故障し、パ
イロットが重傷を負っているということで、みんな神経をすり減らしているのだ。
「切れ」
司令室の上の方から碇司令の声が聞こえてきた。こんな状況においても動じないと言うのはある意味すごいことである。
「あの、指令。それは、GGGとの通信を切れと言う意味でしょうか?」
「そうだ。こんな茶番に付き合う必要は無い。早くしろ」
「はい」
答えたシゲルの声はやけに気合が入っていた。他の職員もほっとした表情などを浮かべている。
だが、ギャアギャア叫び続けるバカ親子二人の声は、消えた後もその余韻を残していた。
さて、夕菜達はこの惨劇をどう乗り越えたかというと、
「どうしましょう。凜さん、玖里子さん」
「別に良いんじゃない? 承認は降りたんだし」
「そうですね。ガオーマシンを送って、ファイナルフュージョンプログラムをドライブさせれば、後は式森が勝手にやるでしょう」
「でも、ガオーマシンと運悪くぶつかったら……」
ライナーガオーやステルスガオー辺りならばまだ良いだろうが、ドリルガオーにでもぶつかったらアウトだ。風穴どころではない。
しかし、そんな心配は露ほどにも感じていないようだった。
「大丈夫でしょ。和樹は勇者だし」
「そうですね。式森は勇者ですし」
「わかりました。まあ確かに、和樹さんは勇者ですしね」
どんな一言でも勇者の一言で片付けることにした。
周りの人たちはそんな少女たちの様子に鳥肌を立たせていたが、無論反論など出来はしないので、とりあえず、自分の職務を果たすことにした。
「は、華さん……いいんでしょうか」
念のために隣にいる華に尋ねてみたものの、かえって来る答えは。
「いいのよ。これもまた『勇気』よ」
で、押し切られてしまった。
『じゃあ、和樹さん。行きますよ〜』
「は、はい〜」
雷王との争いにようやく終止符を打った和樹。その姿はまるで犬と格闘した飼い主だった。
『ガオーマシン、全機発進!』
玖里子の操作により近くに待機していたガオーマシンがいっせいに動き出した。
「よ〜し。今度こそ真面目にやるぞ」
『じゃあ、行きます。ファイナルフュージョン! プログラム…』
『待って夕菜さん!』
ドライヴ、と言おうとした所で突然制止の声が聞こえてきた。
舞穂の声だ。だが相当切羽詰った声をしている。普段の彼女からは想像出来ないほど焦っていた。
「舞穂ちゃん。どうしたの」
「和樹君。ゾンダーがいる! 今度ははっきり感じた!!」
「な、何だって!!」
どこに、と聞こうとしたその時
バシュン!
地面から、紅の触手が伸びていた。