「ウィルナイフ!」

ゾンダーの気配を察するや否や、壁の壊れた方向へ、翠緑の刃を和樹は繰り出していた。

「うあああ!」

だが運命はその剣を先へは進ませない。

土煙から伸びた鉄棒が寸前の部分で受け止めていたのだ。そしてそのまま押し返される。

「くうっ………」

「お、おい大丈夫かよ……」

心配そうに土竜が声をかけてくる。本当だったらこんな事は在り得ない筈だったのに。

「し、心配してくれるの……ありがと………」

「バ、バカ野郎! 前向けよ!」

吹っ飛ばされた衝撃で体が痛むのに、なぜか心地よかった。

彼等と少しでも通じ合えた様な気がしたのが関っていることは言うまでもない。心の奥底で、和樹は理解していた。

そしてそれは和樹に冷静さをもたらす。如何にしてこの状況を突破できるか、それ以前に今はどういう状況なのか、それらの答えを導き出すための時間が作り出 される。和樹は少ない頭をフル回転させて考える。

(素粒子Zゼロが一帯から検出されていた………つまり、沢山いるのか、デカイ奴が周りを覆っているのか………)

しかし和樹は思い出した。自分がウィルナイフを繰り出したとき、ゾンダー本体は無く鉄棒だけが出たのだ。ここから予想される答え、それは……

その答えが出た瞬間、四方から飛び出る鉄棒が彼を襲っていた。








第四十五話        木と土(後編)








「素粒子Zゼロ反応。トンネル内全て閉鎖!」

「周囲の地盤が変形して……これは!」

「どうした?」

「これは地盤じゃない。ゾンダーの生み出したエネルギーフィールドです!」

玖里子の顔は真っ青だった。

サテライトビューからの映像がその理由を物語る。

大きいなんてものではない。コンクリートだけではなく、工事用の機械までもを取り込んでいるのだ。

開発途中のトンネルが半分崩れているのは『ゾンダーが壊した』から。そしてゾンダーは『地下深くに沈降』した。そう思い込んでいた。

だが違う。全ての計算が間違っていた。

崩壊の原因は、あくまで『ゾンダーがトンネルに接する土のみを壊した』からであり、ゾンダーは『トンネルと融合』していたのだ。

既にトンネルはその原形を全て失い、奇怪な姿へと変貌を遂げている。

コンクリートの表面を、所々土が交じり合っている。フジツボのような表面と、ゴツゴツして噛み合っていない歯形を開けながら……

人類に敵対する『悪魔』が咆哮を上げる。

『ゾォォォンダァァァ!!!』

周囲の人間のみならず、GGG隊員にも、恐怖を生もうとする。

「和樹は?」

「駄目です、連絡取れません。依然ジャミングも出続けています。このままではガオーマシンも送れません!」

紅尉だけは平静を失っていない。が、打開策があるようには思えない。

「おそらく、あの中だろうな………木竜たちからも連絡がないとすると、彼等も一緒か」

「でも、ドリルガオーに乗っていれば…」

「乗っていればZセンサーが反応した瞬間、離脱するはずだ。そういう風にプログラムしたのだからな」

紅尉の冷静な分析が最後の可能性まで否定する。

いくらエヴォリュダーでも地下深くから脱出することは困難だ。まさに絶体絶命。

「でも……」

「それでも大丈夫です!」

凜の横から叱責にも似た夕菜の大声が聞こえた。

「なぜそう言える?」

「和樹さんはこんなトコで死ぬような人じゃないです」

「夕菜さん……」

「それに、遺骨を埋めるにはこんな古墳みたいなトンネルは広すぎます。和樹さんは私と一緒のお墓に入るんです!」

言葉だけならみなポカンと目を丸くするだろうが、この場にいる人間はそのこえに含まれるニュアンスを把握している。

和樹は絶対に帰ってくる。その真実を。





咄嗟に反転して鉄棒を避ける。服のわき腹の部分が裂けた。シュッと言う風切り音が、彼の脳裏に恐怖を刻み付ける。

だがその感情を確認する間さえも与えられなかった。『次弾』が和樹の頭を捉えていたのだ。

今度は後ろ側に飛んで避けた。

右足を狙う。

真横に跳んだ。

腹に突っ込んでいく。

転がるように逃げる。

(これじゃいい的だよ………)

悪態を吐こうとしても、その隙を狙って攻撃が来るために疎かに喋りもできない。

幸い棒はそんなに太いものではないから、木竜たちは大丈夫だがそれでも和樹にとっては致命的だ。弾丸を受け止めるエヴォリュダーの肉体も、四方八方から襲 い掛かる鉄棒が相手では、いずれ限界が来る。

「木竜、土竜! 君達はここから早く脱出して……」

彼等だけでも逃げればそこからGGGへと連絡が取れる。必勝法を考えてくれるかもしれない。

「だ、駄目だ……」

「私の計算では、このトンネルが敵の腹だと仮定した場合……このままでは……」

木竜たちの態度から和樹は悟った。

出力が足りないのだ。

彼等がここまで簡単に来られたのは敵がわざわざ通してくれたからだと思っていい。トンネルを覆うほどのゾンダーエネルギーを全て腹の……自分達にとっては 壁だが、それらの防御に使わせられれば、二人の脱出は到底不可能になる。

「だけど………」

和樹は諦めきれない。何か手段は残されていたはずだ。木竜と土竜の出力を上げる方法が………

(そうだ!)

システムチェンジだよ!」



システムチェンジ………

あらゆる勇者ロボにプログラムされている変形機構がこれである。あらゆる事態に備え、ビークルマシンモードから人型へと形体を変化させることで、その場に 適した姿になる。その際円滑に行動できるだけではなく、出力も大幅に増大するのだ。

これを使えば、ここを出ることができる。

そう思って和樹は口にした。



しかし、彼等はそんな和樹の意思には答えなかった。和樹は知る由もなかったが、彼等がもし人間だとしたら、彼等の顔は青ざめていただろう。

「不可能だ………」

木竜が搾り出すような声でようやく答える。

「え、どうして!?」

「僕達は、システムチェンジできねえんだよ!」

土竜の場合、恥の余りに真っ赤になるかもしれない。あるいは情けなさの余りに、怒鳴ったのかもしれない。








「システムチェンジできないって……どういうことですか!」

凜が焦りを含めた表情で言った。

しかし華は依然普段と変わらない声質で答える。しかしその眼は悲しみで満っていた

「あの子達は……怖いのよ。戦うことが…」

「怖い……ですって?」

凜は信じられなかった。彼女だけではない、夕菜だってそうだ。いくら感情があるとは言っても、AIが起動したときから彼等はその為に教育を受けてきた。

「それまではそんな素振りはまったく見せなかった。けど、あの子たちは隠していたのね」

「隠していた……」

反芻するように、また自らに問いかけるように呟く夕菜。彼等の感情が見えるような気がした。

「戦うこと自体も怖いけど、それ以前に人を傷つけるかもしれないことが怖いのね………。賢人会議はゾンダーのようなただのプログラムじゃない。れっきとし た、人の集団なんだもの。ましてや今はザフトが地球に攻めて来ている。戦わない可能性もゼロじゃない」

「それは………」

「ロボット三原則に反することだし、何より一つの命を奪ってしまう………。そしてある時、その重さを知ってしまったのよ…………」

「恐怖心があるものにGストーンは輝かない。だから出力が上がらなくて、変形できない、そういうことですね……」

玖里子もその重さが伝わっていた。三人の中で一番年上のせいか、彼らの中の恐怖心には何と無くだが気付く。

賢人会議と戦うには通常の人工知能では太刀打ちできない。限りなく人の心を再現しなければならない。だが対応させようとすればするほど、それは遠ざかって いくのだ。

逃れようのないジレンマ。この戦いが始まったときから、既に予想されていたこと。

けれども………

「でも、和樹さんがいます」

夕菜は静かに微笑みながら言った。

「和樹さんだったら、きっとできます。あの二人が『勇者』になれるように……」

そうだ、彼は自分に教えてくれた。

他者を思いやること。他者の為に頑張ること。そしてそれが、どれだけ強い力となるか……

言葉と、彼の行動が、それを彼女の中に刻み込んでいる。

初めて出会った時から既に………強く、強く秘められている。

だからできる。彼等をシステムチェンジ出来るようにする事が。

凜や玖里子も、それを聞くと確信した。

彼との思い出を、また刻み込むように。





「だからずっと、ここへ来るときも変形しないで……」

「僕達だって、できることなら戦いてえよ……」

土竜の告白は続いている。

「しかしどうすればこの感情に打ち勝てるのか、それが解らない!」

木竜の言葉は、恐怖と絶望で満たされる。

彼等の苦悩は、和樹には痛いほど伝わった。何時かの森の中……『彼』の心が響いたように。

それでも和樹は諦めずに説得を続ける。彼等を脱出させるために。

「で、でもここから逃げる為なんだよ。別に人を殺すわけじゃない…」

「それでもできねえんだ!」

もう土竜の声は泣き声に近かった。

「理解はできても……納得できないんだよ……」

彼の声が響いた瞬間、

地響きが和樹の脳を刺激した。

「また来るのか……」

しかし今度は違った。

ゴン! という音が後方から響いたのだ。慌てて後ろを振り向く。

鋭く尖った鉄棒が天井から飛び出し、それが落下し始めていた。まるで剣山だ

天井と鉄棒が、信じられないスピードと重量でもって『黒緑のパワーショベル』と『茶赤のタンクローリー』を潰すべく、突き進む。

「う、うわああああ!!!」

「か、回避不可能!」

和樹は必死になって走る。左腕が翠緑に輝き、その煌きは全身を覆った。

「木竜! 土竜!」





彼等二人に出来たのは、センサーを切る事ぐらいだろうか……。

人間的に直せば、目をつぶって覚悟を決めた。そういうものだ……。

だが痛みは何故か無かった。

(運良く感知装置のみが故障したのか……)

木竜のいつも冷静な声を、土竜はしっかりと聞いた。

(だが……僕のAIは、異常無しと判断しているぞ)

土竜の熱のこもる呻きを、木竜はきちんと受け止める。

「待て……木竜の上に……熱反応…………!」

驚愕が二人を貫いた。この場に熱反応を持つものは一人しかいない。

「お、おい!」

「馬鹿な!」

二人はしっかりと見た。木竜の上に乗り、一人で天井を支えている式森和樹を。

「何やってんだよあんた! とっとと離れろよ!」

土竜の罵声がトンネルに響く。

器用にも和樹は鉄棒の突き出ていない部分を持って支えていた。

だが長く伸び出た刃は肩まで達しかけている。IDアーマーが辛うじてそれを防いでいた。

「私の計算では、あと十分も持たないぞ!」

「だ、駄目だよ……」

和樹は痛みに耐えながら答える。

ギリギリと音を立てながら天井が迫ってくる。それでも和樹は止めようとはしなかった。

「僕が、いないと、二人とも、死んじゃうだろ……」

二人にはまったく理解できない感情。ゆるぎない動機。全てが驚きの連続だった。

「な、何であんた、そこまで………」

「自分が死ぬんだぞ……」

確かにデータバンクにはある。式森和樹とは『優しすぎる人間』だと。

8回しかなかった魔法回数を惜しみなく使っていた。ほとんどが自分の為ではなく、他人を思って……。

そしてそれが原因で一度は命までもを落とした。

文字通りの『死ぬほどお人よし』

けれどもそれはあくまで親しい人間だからだ。

自分達は彼を邪険にしたのだ。それなのになぜ助ける?

下等と決め付け、蔑み、罵った。そんなやつを……



「君、達が……人間、だから……」




和樹はもうとっくに解っていた。



もう二人は生きていると。



だからこそ恐怖を感じ、自分で考え、人の言う事に反することを言った。

そう思うと尚更、死なせたくなかった。

彼等に逃げるために説得させたのも、本当はGGGに連絡させるためじゃない。

木竜たちの命の気配を感じたからだ。



「確かに……痛いよ、すごく……」



今すぐここから逃げ出したい。



「でも、でもさ………」



心は、和樹を突き動かす。



「このまま、黙って、見ている方が………」



晴海と、玖里子の別荘で、痛感したあの思いが……




「人が、近くで死ぬのに何も出来ない方が、ずっと ずっと痛いじゃないか!!」




「!!」

「………」



(ドクン……)



和樹の言葉が、響く。

彼等のボディに………



(ドクン……)



彼等の、心に……

そしてそれは、生み出す。

恐怖に打ち勝つ力………

「くおおおおぉ………」

「ハアアア……」



すなわち、勇気!

そして、叫んだ!

「システム・チェーンジ!」

背中のブースターを噴射させ、直立する。そのまま下部が反転して下半身を構成した。上半身となる部分が下がり、顔が現れる。

これぞ、勇者ロボの戦闘形態。そして二人の真の姿!

「木竜!」

「土竜!」


彼等の叫びと共に、天井は砕かれていた。





「来たわね……」

機界四天王、アヌレットはそれを崖の上から見つめ続けていた。彼女の生み出したゾンダーならば、中の様子を観察することも容易い。

「なんて言ったのかは知らないけど、GSライドの出力が増大した所を見ると……」

彼女はその先を言わなかった。代わりにその体が、地面へと融けるように沈んでいく。

「待っているわよ、式森和樹。『彼』を失望させないで……」

ゾンダーロボから、翠緑の光が漏れ出していた。





『ウ、ウウ……ゾゾゾゾゾ…』

ゾンダーが突如として、翠緑の光を放ちながら苦しみだす様子はメインオーダールームにも伝わった。

「これは……」

それは敵のジャミングを突き破って強引に送り込まれてきた情報だった。

「どうした?」

「木竜と土竜のGSライドの出力が上昇しています! すごい……スペックの1.5倍はあります!」

その時である。とうとうゾンダーロボに亀裂が走っていた。

「来たか!」

それまで眠っているようだった雷王が、飛び跳ねるように前かがみになる。

「現時刻を持って、奴をWIZ−04と認定・呼称する。ガオーマシンとアクセスしろ。ファントムガオーも射出してくれ。反撃に出るぞ!」

「「「「了解!!」」」」

夕菜、玖里子、凜、華がそれぞれの思いを胸に行動に出る。

安堵、確信、快感、さまざまな感情が渦巻いていた。





「ウウ…ゴオオオ………オオオオオオ!!?」

もう駄目だと判断した。自分の中からでてくるこのGエネルギーは半端な量ではない。ゾンダーのエネルギーとGストーンのエネルギーがぶつかれば対消滅が起 こる。そんな事をすれば自分が消えてしてしまう。

WIZ-04が腹を開いた。いや、そうではない。開こうとした瞬間、内から突き破られたのだ。

「ぞおおおんだぁぁ……」

うめき声を漏らしながらその場に倒れこむ。

中から飛び出た二つの光、そして一人の少年はつまずく事無く着地する。

「へ! ざっとこんなもんよ!」

「油断するな、土竜。素粒子Zゼロ反応が増大している。どうやら本気らしい」

「わかってるよ」

和樹は手を軽く動かしてみた。長い間掴んでいたおかげで痺れているが、それ以外なら何とかなる。痺れもすぐに抜けるだろう。

「木竜、土竜……」

心配するような和樹の声を遮りながら、木竜が言った。

「先に言っておきます……すみません」

彼の声は冷静さとは違う、誠意がこもっていた。

「僕達は今まで一歩が踏み出せなかった。心のどこかで、戦えないことの怒りを、あんたに押し付けて八つ当たりしていた……」

懺悔の気持ちを精一杯込めながら、土竜は言う。

「だけど、もう迷いません……」

「迷っている間に人が死ぬなら、僕達は戦う!」



彼等は………本当の勇気を見つけている。


それが何より、和樹は嬉しかった。

『和樹さん、大丈夫ですか!?』

いきなり耳に叫び声が届く。夕菜の声だ。心配する余り大声になったのだろうが、この場合は逆効果だった。

「ああ、うん。平気だよ……全然平気」

『何が平気だ! 本当に大丈夫なのか! どこか大怪我してるんじゃないのか!?』

凜の声が激しく、和樹の脳に直接叩きつけられる。

「いや、怪我はしてないよ……」

嘘ではなかった。確かに擦り傷や痛みはあったが、大怪我とは言わない。

「あの……玖里子さん、ゾンダーは……」

これ以上心配される前に、和樹は一番落ち着いている人に言った。

『和樹達が突き破った部分の修復が終わりそうだわ。さっさとファイナルフュージョンするべきね』

「わかりました!」

ようやく夕菜達も心配しなくても大丈夫だと納得したのかいつもの状態に戻る。

『式森。作者の気力が限界に近いからな。早い所決めるんだぞ』

「ヘ? 作者?」

『ファントムガオーが到着する頃です。準備してください、和樹さん』

「え、ああ、うん……」

凜の言ったことは気になったが、とりあえず無視することにした。

「ファントムガオー!」

和樹の呼び声を受けて、青と白の戦術支援戦闘機が飛び出した。

「フュージョン……」

勝利への一言、戦いへの言葉を紡ぐ。和樹が乗り込むと同時に、ファントムイリュージョンで姿を消し、戦闘形態へと移行する。

「ガオファー!」

揺らぎが人型となって実体化した。

そして変形が終了すると同時に、和樹はメインオーダールームへシグナルを要請していた。





「ガオファーから、ファイナルフュージョン要請シグナルです。長官!」

「よおし! ファイナルフュージョン、承認!!」

待ってましたと言わんばかりに吼える雷王。

それを受けて小気味よい夕菜の声が、メインオーダールームに響き渡る。

「ファイナルフュージョン、プログラム・ドラーイブッ!!」

グローブをはめた右腕が、保護の為の強化ガラスを叩き割り、プログラムを送信する。





「うおおお、ファイナルフュージョンッ!!」

ガオファーの周囲から、EMトルネードが噴射され、ガオファーを包み込む。

その中から青い奮進機ライナーガオーが、全翼型飛行機ステルスガオーが、そして敵のエネルギーフィールドが消滅したことで飛び出した漆黒の突撃重戦車ドリ ルガオーが、それぞれ突入していく。

だが、敵もさる者だった。修復を終えたゾンダーが合体を阻止しようと迫る。

しかし………

「おりゃあ!」

「ここから先へは進ません!」

木竜と土竜はその四肢を拘束した。もがいて抜け出そうとするが、上手く掴まされている為、それは不可能だった。

その隙にもガオファーは合体を進めている。

各マシンが、それぞれの役割を果たすべく変形し、ガオファーに組み合わされる。

あらゆる脅威から、人類を守る為に新生したファイティングメカノイド。

その名は……

「ガオ! ファイ! ガー!」



そして、霧は今こそ晴れる

『ファイナルフュージョン、完了!』

その連絡を聞いた木竜が叫んだ。

「よし、土竜!」

「わかってるよ!」

さらにGSライドの出力が増大し、彼等の両腕に力が込められる。

勢いそのままに、WIZ−04を投げ飛ばした。

「はあああ! ブロウクン・ファントム!」

投げ飛ばされた咆哮はガオファイガーの真正面だ。回転した右腕を、赤く染まった拳を、叩き付けると同時に発射する!

必殺の一撃は、見事にWIZ−04の胴体をぶち抜いた。

そのまま仰向けになって倒れこむ。

「よし!」

後は核を取り出すだけ、そう思った所で夕菜からの連絡が入った。

『和樹さん! WIZ-04の中に、逃げ遅れた人が残されています!』

「ええ!?」

このままでは止めをさしても爆発で全員死んでしまう。ディバイディングドライバーを使っても結果は同じだ。

腹を修復させながらゆっくりと起き上がるWIZ-04。心なしか、その顔は笑っているように思えた。

「なるほど……だから我々の来た所は人がいなかった訳だ…」

「味な真似をしてくれるぜ……」

木竜たちはその笑みを崩そうとはしなかった。むしろ自信が湧いて来る様だった。

「逃げ遅れた人たちは、私達が救出します」

「タイミングを見計らって、ヘル・アンド・ヘヴンを叩き込んでください」

土竜までもが敬語を使っていることに、和樹は密かに驚いていた。

「大丈夫なの……」

「任せて貰いましょうか、『隊長』!」

「行くぞ、土竜!」

その言葉が周囲に届くや否や、二人の勇者が飛んだ。



ゾンダーが鋭い突起物を発射する。中で和樹たちを襲ったような細いものではない。それらを密集させ、さらにエネルギーを含めた巨大鉄棒だ。

「土竜!」

「任せろや!」

土竜が背中のコンテナを展開する。二つに分かれたコンテナは一本の長い銃身となり、それを背負った。

「リレントライフル!」

白光の筋が突起物に向かって発射され、寸分の狂い無く命中する。

「僕のリレントライフルは全ての物をを軟化させる特殊エネルギーを含んでいる。物理攻撃で防げないものは無い」

充分柔らかくなったそれを片手で安々と弾きながら、土竜は『隊長』に説明してやる。

そのころ木竜は、近づきながらセンサーで持って電算を繰り返していた。救助のための適切な行動を導き出すためだ。

「逃げ遅れた人がいるのは、頭の部分………なら!」

背中のパワーショベルアームを回転させ、それを背負う。ショベルの中からメーザーアームが覗いている。その中からエネルギーが溜まっていった。

「狙うは首だ。ハードゥン・ライフル!」

黒いエネルギーが奔流となってゾンダーの首部を直撃した。

「私の装備は、あらゆる物質を硬化させるハードゥン・ライフル」

拳を握り締め、敵の硬くなった部分へと突進する。

「硬くなるとは、物質の密度が大きくなり衝撃を逃がせないということ………すなわちそこを全力で叩けば…」

ショベル部分を手甲代わりに装備し、叩き込んだ。

「おのずと、目標は砕ける……」

そのまま方に飛び乗り、首を引き千切りながらジャンプする。



これがレスキュー用ロボットの真骨頂だった。

近年、地震などが相次ぎ、生き埋めにされる被害者は後を絶たない。それを解決すべく生まれたのが、木竜と土竜だった。落下してくる岩などを土竜が防ぎ、ど うしても壊せない部分があった場合、木竜が破壊する。物質の硬度をコントロールすることで、より円滑に救出作業が行えるのである。



「中から多数の熱反応を探知………どうやら間違いないようです。隊長! 後は任せました」

「よし、二人ともありがとう!」

和樹は二つのエネルギーを両腕に集中させた。敵に止めを刺し、同時に命を救うための必殺奥義のために。

「ヘル・アンド・ヘヴン!!」

攻撃と防御……対となるエネルギーが一つに組み合わさるとき、それは無限の力を発揮する。

「ゲム・ギル・ガン・ゴー・グフォ……はあああああ!!!!」

押し合わせた拳を突き出し、そのまま突進する!

「おおおおおお!!!!」

全身から発するEMトルネードが首の無くなったWIZ-04を拘束する!

「あああああああ!!!」

核の周囲の部分を除き、全てを吹き飛ばしながら拳を捻り込む!

「おおおお……ふんっ!」

そして一気に引き抜いた!



壮絶な爆発が、あたりを包み込んでいった。





「WIZ‐04、完全に沈黙!」

「救助された人達への被害、ありません!」

「よし! じゃあ、後は浄解だな」

「あの、長官……」

「ん?」

凜が不思議そうに尋ねる。今の雷王は特に笑っていた。

「如何してGSライドの出力が上がったんでしょうか……」

「たぶん……和樹が飛びっきりの殺し文句を言ったんだろうな」

それを聞いたとき、凜の顔が真っ赤に染まった。耳たぶまで含めて全部である。

『殺し文句』と聞いて、かっこいい和樹が優しく自分を口説くシーンでも想像したのだろうか………

その仕草が、夕菜の疑惑を高めさせ、玖里子が絡む原因を作ったことは言うまでも無い。





「栗丘隊員も、もうすぐ到着するだろうな」

「では、救助した人たちの保護をしなければなりませんね」

「ありがとう、二人とも」

和樹の言葉を聞いて、二人は笑って答えた。

「ありがとうなんて止めてください。和樹隊長」

「僕達はあなたの部下なんだ。そんなよそよそしいのは御免ですぜ」

それを聞いて、和樹の中に、これまでとは違った喜びが、溢れていた。

夕焼けと同じように、滲み出ている様に………嬉しさが零れていた。



「うん。二人とも、ご苦労様!」

「「はい!」」



軟化装置と、硬化装置を持つ、木竜と土竜。

彼等が、これからのレスキュー活動の要となるのは、間違いない。







あとがき


君達に、最新情報を公開しよう!
人を守るもの、それは正義か? 生物を蝕む物、それは悪なのか?

勇者王よ……そして目覚めた木と土よ。この矛盾を崩せるか!?
奇跡のシンメトリカルドッキング発動! ハイパワーロボットの姿に、君は奇跡を見る!

まぶらほ〜獅子の名を継ぐもの〜、NEXT『その 名は斬竜神!』

次回も、この小説にファイナルフュージョン承認!

これが勝利の鍵だ! 『イレイザー・リボルバー』

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