「おい、いいのかよ……」

「何の話だ」

「とぼけんなよ。シンメトリカルドッキングだよ」

国際警察機構、整備用格納庫。

この一室で、若きビークルロボットたちは今後の考えを模索していた。

理由は言うまでもない、いまだ成功できぬ合体へのことである。

「このままじゃ僕たちは隊長の足を引っ張るだけだ。早いトコなんか手を打たないと………」

「具体的には?」

「それを今考えてんだろ! お前もちっとは協力しろよ!!」

「なら、ここで合体の練習でもするか? 狭くて、設備もなくて、今も大勢の人が動いているこの場所で」

「っ!………」

兄の容赦ない指摘を受けて、黙ってしまう。

確かにそうだ。今こうして騒いでいるところで、何が解決するというわけでもない。

しかし、それで黙っていようとすぐに納得できるほど、自分のAIは性格に動いていない。自分たちはただのロボットではなく、心を与えられた勇者なのだ。

「だけど、原因を探る事は出来るだろう!」

「探るとは?」

「僕たちの心の中に、何か踏ん切りの付かない部分があるのさ。それさえ分かれば……………あっ」

そこで土竜は気付いた。木竜の表情から読み取ったのだ。

彼は自分の悩みの正体を知っている。迷いの根底、合体できない真の理由を見つけられない事をだ。何故ならそれは、相棒自身の弱点でもあるのだから。

「木竜………」

「そんなものは分かっている」

苦々しい表情のまま、支給されたロボオイル、それを一気に飲み干した。

そんなものをストレートで一気にやったら、思考系統にバグが出るかもしれないのに。

「始めてシステムチェンジを成功させた時、私たちの心に迷いはなかった………」

「…………」

「なのに、今のこの状態はなんだ!」

二人の間に、これまでの失敗が鮮明に思い出された。GGGでのシュミュレーション、南京での維新竜との戦い。いずれも失敗続き。しかも原因は依然はっきり しないとなれば、人間で言う『酒に溺れたく』なるというものだ。

「合体が出来なければ、戦闘に役立てないだけではない………イレイザーリボルバーさえも使えないんだ……こんな…………こんな惨めなことがあるか!?」

整備中の人は皆、このブロックから出ている。もし人がいればその大声に倒れてしまうだろう。最低でも尻餅を付く事は確実だ。

「す、すまねえ……おまえの気持ちも考えずに………」

「いいさ………私もお前をフラストレーション発散の手段に使ったのだからな。おあいこだ」

喧嘩するというのは、どうやら仲直りをするためにある行為らしい。木竜も土竜もそれを何回も経験していた。

しばらくの間沈黙が流れる。その間何を考えているのか、それは誰の目にも明らかである。

しかし、突如として入ってきた少年によって、それは破られた。

「あれ。お二人も、この格納庫にいたんですか?」

話しかけたのは草間大作だった。右手にはバケツを持っていて、それには水がいっぱいに入っている。

「あんた……確かジャイアントロボを動かしていた………」

「データ照合………草間大作殿ですね」

「はい、そうです」

そういうと彼はジャイアントロボに向かって歩き出した。

「何をするんだ?」

「ロボを綺麗にするんです。僕の日課なんですよ」

「ええ? 自分でやってんのかい?」

「はい………と言っても、全部は無理ですけど」

二人はこの少年に和樹と同じ感動を覚えた。

と同時に、何かしらの思い入れがあるのだろうと、感じ取っていた。

和樹にとってファントムガオーは戦うための相棒であり、はずすことの出来ないものだ。だがそれは賢人会議から夕菜たちを守るという目的のためであって、極 論として言ってしまえば唯の道具にしかならない。

だが大作は違う。任務を超えた間柄以上の、簡易AIしか搭載していない彼らからしてみれば旧式に当たるこのロボットに、当人だけが理解できる絆があるのだ と確信できた。

「素晴らしいですね。大作殿」

「そ、そうですか………」

「ああ、隊長はこんなことしないからな」

そういってため息混じりに言う。AIロボットがこんな不満げなことを言う事態はかなり問題がある証拠だが、それでも彼らは和樹のことは認めているはずなの である。

人間で言う『冗談』つもりだろう。

「隊長って……式森さんですか?」

「ああ、定時連絡もせずに、何をしているのか………」

「銀鈴さんなら、知ってると思いますけど」

大作がそう言った時、後ろからハイヒールの音が聞こえてきた。

噂をすれば何とやら……という奴である。

「大作君、また何時もの?」

「はい」

「手伝おうかって……言うだけ無駄ね」

彼はこの時間だけはロボを誰にも触らせない。それは大作なりのこだわりであり、ロボ自身への敬意を表すためでもあった。

「あの、銀鈴殿、お聞きしたいことが」

「あら、貴方は……確か木竜と土竜だったわね」

「はい、こうしてお話しするのは初めてですね」

「そうね。で、どうしたの?」

「和樹隊長が、定時連絡を入れた形跡が無いのです」

「まあ、何かあったとは思えないけど……一応念のためな」

こちらは土竜の声だ。彼の性格ゆえか、敬語は使わないものの、その場にすぐに打ち解けられる能力があった。GGGの隊員たちにも、すぐに馴染めたりもする のだ。

「ああ、あの子なら……戴宗さんたちと一緒じゃないかしら?」

銀鈴の声はやけに素っ気無かった。しかし木竜のAIは、その銀鈴の感情が和樹ではなく、他の二人に向けられていたのを悟った。

「行き先は分かりますか?」

「分からないわ……たぶん梯子酒だろうから」

そういって答える声はさらに素っ気無い。

「梯子酒?」

「ええ。勿論、彼は付き合わされているだけでしょうけど」

梯子酒………

いうまでもなく、店を転々として酒を飲みまくるという行為であるが、この場合は少々厄介だった。

定時連絡は隊長が行えないならばその部下が行うのが通例。しかしそれをどうやって伝えるのか………

非常に厄介な出来事が増えたことに、今度は木竜に加えて土竜さえも、深い溜め息をつくのだった。








第四十九話 その名は斬竜神(強襲編)








その頃の夕菜達はと言うと、当然のことながら、なかなか来ない定時連絡を今か今かと待ちわびていた最中だった。

「うううう〜〜〜〜…………」

「むう…………」

夕菜はやる必要の無い分の書類を片付けているし、凜は普段家で済ませるはずの刀の手入れを入念に行っている。

それも手の動きが早すぎる。彼女たちは仕事が速いのは当たり前だが、これは明らかに異常だった。

好いた男を待ち焦がれる少女の行動と言えば聞こえは良いが、目が怖い。寝ていないのか殺気から来るものなのかは定かではないが血走りすぎていた。

「うううううう…………」

「むむむむむむむむ…………」

「うううううううううううう…………」

「むむむむむむむむむむむむむむむむむむむ…………」



「ああ、もう!! いい加減にしなさい!!」

盛大な音とともに玖里子が机を叩き、メインオーダールームに一瞬の静寂が来た。

「でも、玖里子さん………」

「そんなことやっても定時連絡が来るわけなし、今一番しなくちゃいけないのは冷静にすることよ!」

玖里子の一喝に舞穂が『玖里子さんカッコイイ』と拍手するが、凜が反論した。

「そういう玖里子さんはどうなんですか?」

「私は何時も通りよ。いたって冷静沈着!」

「嘘つかないで下さい! さっきから瞬間移動でそわそわしているくせに!」

「あ、ばれた?」

「ばれた、じゃありません!! 読者に見られないのを良いことに!」

こんな状態がひっきりなしに続いていた。

和樹からの定時連絡来なくなって、もう五時間以上経つ。これが正規の部隊であったならば明らかに異常事態だ。

しかし長官は『気にするなよ』と言ってミレイと共に仕事を片付けに行き、博士はガオーマシンの整備、紅尉は葵学園へ戻り仕事をこなしている。

となれば事態の打開を図れるのは彼女一人………

「皆、もうそれ位にしないと駄目よ。神経使いすぎたらいざって時に動けないわ」

「でも、華さん……心配なんです………」

夕菜はしょんぼりとした様子でうつむいてしまった。ここまで心配を掛けるとは男の風上にも置けないと思うのが当然だが、仕方が無い。高校生と言うのはこう 言う生き物なのだ。

「大丈夫。諜報部が和樹君の様子を陰ながらだけど見てるわ」

「『マフィア様が見てる』ってワケですか?」

「別にマフィアじゃないけど………そんな感じかな」

「でも華さん………」

玖里子が横から言った。

「諜報部ごと何か危険があったとかは………」

「それこそ有り得ないわよ。連絡を入れる暇も無いほど綺麗さっぱり消えるなんて、GGGにそんな人は居ないわ」

では何処に居るのだろうか………

つまり諜報部が居場所を知っていても敢えて連絡を入れないような………

と、そこまで考えかけたその時………



ピーピーピー



一斉に音の出るほうへと向かって行こうとした。

華のデスクのほうである。しかし………

「みんな持ち場へ戻って!」

華の突然の大声を出し、一瞬立ち止まってしまう。

「これは定時連絡じゃない。緊急用のコールサインよ!」

その通り、しかもこれは正規のメッセージでさえも無かった。

メーリングプログラムを一定の法則でもって書き換え、ある人物にしか読ませない様にする、一首の暗号文だ。

「これは………!?」

暗号文を解読していくたびに、華の顔がどんどん青ざめていく。次の瞬間、華は三人にエリアの発進と長官たちへの連絡を命じていた。

彼女に向けられていた文はたった一言。



「衝撃が来 る」



ただそれのみが書き記されていた。
















少年勇者王はそんな事を知る術は無く、大人たちの事情につき合わされている。

「けっ! なあにがジャイアントロボだ!!」

巨漢のほえ声が和樹の耳を貫いた。

紹興酒の入ったビンを思い切りテーブルに叩きつける。

この席はかわらのような道を隔ててある個室のようなものだから周囲に迷惑がかかるわけではないが、それでも遠くへ届くのではと思わせるほどにその声は大き かった。

ここは同酒亭という酒場、と言うより大人専用の宴会場だった。

最も酒を飲むことだけは戴宗が守ってくれているおかげもあって、防ぐことができている。

しかし戴宗自身まだ理性を保ってはいるものの顔に赤みが差している。かなりハイテンションな事に違いは無い。

しかしかといって、今の状態では帰れない。ちゃんと酔いが覚めてから帰らないと、機材だって壊れかねない………。

「あんな木偶の棒に乗ってでもしなきゃ戦えねえクソガキのくせによオ!!」

「て、鉄牛さんちょっと………」

「うるせえ! あいつは一人でBF団と戦っているような態度でなあ………」

「オラオラ鉄牛、和樹に当たるな。どうしたんだよ、今日は?」

苦笑しながら戴宗は酒を一気に飲み干した。鉄牛が何に起こっているのか、戴宗には手に取るようにわかっていた。しかしそれを彼はあえて言わない。

「面白くねえ! おもしろくねえよお!」

そう言いながら彼は和樹の口の中に無理やり一升瓶を注ぎ込もうとした。

「う、うわあ! やめてください鉄牛さん!?」

「ああー! 大作と銀鈴が仲良くなっちまった。それが面白くねえんだな!?」

「ええ!?」

余りのカウンターアタックに、和樹の掴む手を離す。

「図星だな?」

「ち、違いまさあ!?」

ああ、そうか。

大作君自身、銀鈴さんとは初対面だと言っていた。鉄牛さんはどうやら銀鈴さんのことが好きみたいな素振りを見せていたし(いくら僕が鈍くてもそれぐらいは 分かるさ)、面白くないというのはなんとなく分かる。

そんな事をぼんやり思っていると、また鉄牛の吼え声が聞こえた。

「おおーい、酒だ! 酒持ってこーい!!」

どうやら手持ちの紹興酒が切れたらしい。

女の人が、樽が一杯になるまであるだろうと思われる程の老酒を運んできた。

テーブルに置くと同時に、鷲づかみにして一気に飲み干した。

「でもよ兄貴、今回の作戦じゃ俺と銀鈴が必死の思いであれ持って来たら、それをあいつは自分手の中条長官に渡しやがって………まるでよ、てめえの手柄みて えによ!!」

そういった瞬間、鉄牛は足でもって和樹の皿にあった伊勢海老を掴み取ると、そのまま足の指を器用に使って殻をむき、そのまま身を口の中に放り込む。

「これじゃあ、今までの任務で死んでった仲間たちは何だったんだよ………」

鉄牛のセリフは、酔って出たセリフには間違いはないが、それでも和樹にショックを与えるには十分だった。

確かに大作はあんな子供なのに頑張っている。しかしそれは周りから見れば、生意気な態度にしか取られて意なのかもしれない。自分たちのプライドを傷つけら れたようなそんな気持ちになるのだろう。

「あの………鉄牛さ……」

和樹が何かを言う直前、戴宗がそれを遮った。

「何かって? 鉄牛、俺たちはエキスパートだったんじゃないのか………」

戴宗の言った言葉には、特別な響きがあった。

「いいかい、大作はまだ十二歳だ。俺たちが十二歳の時、何をしていた?」

「…………」

鉄牛は何も話そうとしなかったが、ややあって突然口を開いた。

「今のところに拾われた。ちょうど、そんな時だ…………」

「そうだ、俺と初めて会ったあの時だ。でもあの時に、今の大作と同じことが出来たか?」

先程の彼らからは想像出来ない。酷く繊細な声だった。声質そのものは変わらないけれど、和樹はそう感じ取っていた。

「俺たちは、自ら望んでエキスパートとして育てられた。だからこそ危険な任務を遂行できるし、死を覚悟することが出来るのかもしれんな」

死を覚悟する………

その言葉の重みは、和樹にはまだ背負いきれないことを自然に悟る。

「だが大作はそんな時分にいきなり、あんな地上最強のロボットを背負わされ、何の覚悟もないままエキスパートの使命をおわせられた、いきなりだ、なにもか もいきなりだ、俺達が十二の頃、そんなものに耐え切れたか?」

「……………」

「何も知らずに気づいたときには、父親をBF団に殺され、残されたのはジャイアントロボだけだ、そんな子供に対して俺達に何が出来る?」

二人の表情を、和樹が見ることがついに出来なかった。見たことが出来たとしても、今のこの少年に二人の心情を読み取れただろうか。

(父親を………殺され……!?)

読み取れるはずがない。彼自身、いきなり戦場に立たされ、満足にその正体も分からぬまま戦っているのだ。

(そうか…………大作君がここに居るのは……僕と同じ………)

いや、同じではない。

和樹は自分が十二の時を思い出していた。普通に学校へ通い、普通に友達と遊び、普通に父親と母親が側に居る。近所には明るい幼馴染の女の子が居 た…………。一番普通だったのは、それが世界の常識だと信じて疑わなかったことだ。

自分がどれだけ幸せだったのか、今なら理解できる。

もし賢人会議が発起したのがその時だったら、自分は戦えたか? たとえ自分の友達が危険に晒されても、死の恐怖を押しのけることが出来たか? 家族を失っ た悲しみを根底から理解し、耐え切れるか?

できない、できない、全部、全て、まったく、出来ない。

そんな葛藤を、戴宗は読み取っていたのか、言葉を続けた。

「そう………何も出来ん。だが一つだけあるとすれば、俺達は大作を間違った大人にしてはいけない、それだけだ」

夜風に晒されながら、柳の葉が揺れている。

遠くから、この国独特の音楽が聞こえる。

虫の鳴き声が、体を通り抜けていく。

「でもよ、兄貴………俺は十二のときにはもう、人を殺しているんだ………」

「えっ………」

「なんだよ、そんなに意外か?」

急にこちらを鉄牛が振り返った。どう返していいのか分からない。ただ、もう酔いは覚めていたようだった。

「あ、いえ………ごめんなさい……」

「気にするな、和樹。それより………今の話を覚えておいてほしい」

戴宗が、今までにないほど真剣な表情で和樹を見つめた。

「俺たちは、今の話をお前にも聞いてもらったが、それは大作に同情してもらう為じゃあない。あいつを支えてもらう為だ」

「支える?」

「そうだ。俺たちは何もできないが………お前なら、何かアイツの為に、大きな力になれるはずだ」

「で、でも……」

和樹は自信がなかった。ある意味では大作の方がずっと勇敢で、辛い過去があることを知ってしまった。そんな今の状態で………

「僕は普通の高校生です。鉄牛さんみたいに、何か辛い過去がある訳じゃないし…………大作君みたいに、お父さんを亡くしたわけでも………」

「なんだよ。まるで不幸なほうが良いみたいな言い草だな?」

鉄牛が名前の如く、怒った牛のように和樹を睨み付けた。蛇に睨まれたカエルとはこの事かもしれない。

本当に、彼は場違いな気がした…………。

「えっ!? ち、違います……僕は、そんな………」

「ふん………」

「止せ、鉄牛。和樹………そんな事は重要じゃない。問題は、あいつと友達になってやるって事なんだ」

「友達に、なる………」

「そうだ。大作は同年代の友達がいねえ。だから俺たちに対しても遠慮がちになってしまう。あいつ自身、悩みがあっても打ち明けられずに、その中に溜め込 む。だがお前なら、出来るかもしれない………そしてそういう力になれる人間と言うのは、今までを幸せに過ごしてきたヤツだけなんだ」

ここへ来て、和樹はあることに気付いた

彼は雷王に似ていた。

酒を良く飲む癖も、親身になって仲間を思いやるところも、

そして何より、言葉の裏に隠された、優しい心が…………。

「それとな、和樹」

「は、はい………」

何時しか和樹は、正座して話を聞いていた。それほどまでに彼の言葉は説得力に満ちていたのだ。

「お前は、不幸な人間は強いって思ってるかもしれないが……それは実は大違いだ………」

戴宗は身を乗り出して、和樹に話しかけようとする………。

「何でかって言うとな………」

だが………

ピーピーピーピー…………

「!?」

「え? これは………」

戴宗の持っている酒を入れるはずの瓢箪。それの蓋が紅く点滅していた。それが何を意味するのかを、戴宗と鉄牛は誰よりも熟知している。

「緊急用のコールサインだ……兄貴!」

「おう!!」

二人はいきなり立ち上がると、椅子を蹴飛ばしかねない勢いで席を飛び出していた。

さっきまで酔っていたとは思えない。これがエキスパートの実力なのか。

「和樹、急げ!」

「は、はい!」

鉄牛がさっきまでとは打って変わった声で和樹を引っ張り揚げようとする。和樹は何が起こったのか、まだついていくことが出来ない。が、それを鉄牛が起こそ うとした。

その時だった。

和樹の手元の通信機も、同様にコール音がが届いていた。

「夕菜たちから………なんで今頃……」

日本にゾンダーが出たのだろうか。和樹も立ち上がって恐る恐る回線を開く。

『和樹さん! 今何処ですか?』

「夕菜? 今、国際警察機構の人たちと一緒に……ええっと、今から北京支部の基地に戻るとこなんだけど………」

『早く戻ってください!! 私たちもこっちに居るんです!』

「え!? どういうこと?」

和樹は耳をすませてみた。夕菜の声の後ろからは、他の隊員たちの声が、慌しくひっきりなしに聞こえている。

『和樹さんの応援をするためです! 急いでください。支部が攻撃されています!』

「そんな!?」

「やっぱりか………」

側で聞いていた戴宗が苦虫を噛み潰したような顔をした。

何かしらの行動を起こすのは分かってはいたが、こんな急に、しかもあからさま過ぎる方法で…………。よっぽど自分たちの戦力に自信がなければ出来ない行動 だ。

(自信………まさか!?)

「それで……敵の数は?」

『それは………』

夕菜が何かを言いかけた次の瞬間、遠くで何か爆ぜる音がした。通信機への奥の方からである。

『きゃあ!』

「夕菜!? どうしたの!」

『だ、大丈夫です……何かが……』

だがまだ衝撃音は続いていた。隊員たちの悲鳴と、報告の声が聞こえるような気がする。和樹の中で不安がどんどん高まって行った。

「夕菜!? 夕菜、本当にどうしたの!? 夕菜!!」

『本当に大丈夫です。こっちに直接被害がある訳ではないですから………』

彼女の声が段々と細くなっていった。通信機の出力が落ちているのだ。

「夕菜!?」

和樹は叫んだ。

何時のときか、彼女を山の森で見失ったあの喪失感が、再び少年を取り込もうとする。

それを必死に振り払おうとしていた。



『だ…ら……和樹さ…も………く、来………』



ブツン…………

ひとしきり大きな雑音が聞こえ、後にはもとの静寂しか残らなかった。

「あ、兄貴……今のはGGGの……」

「ああ、だがコールサインが送られたタイミングを考えると、まだ基地は全滅したわけじゃねえ。今ならまだ………」

だがその先を戴宗はいえない。

和樹の全身を、翠緑の光が包んでいた。

「か、和樹!?」

「うあああああああ!!!!!」

エヴォリュダーの能力の発現だった。一気に高まった感情の爆発は、彼に力を与える。今までもそうだ。

膝から下に力を込めると、それでもって一気に跳躍し、店の外へ飛び出していた。



「な、なんでえ…あの跳躍は!?」

「あれがエヴォリュダーの力ってワケだ……俺たちも急ぐぞ!」

二人も全速力で店を飛び出す。

中条長官、銀鈴、それに基地の仲間たち………。

それを思うと、鉄牛自信も気が気でない。

しかし、戴宗が心配しているのはそれだけではなかった。

北京支部は呉先生や中条長官など、腕利きのエキスパートを数多く配備している、国際警察機構の中ではかなり規模の大きい部類に入るところだ。それが本来日 本に居なくてならないGGGも協力させるほどに追い詰められている。

そこまでの実力者……かなりの使い手………

(やはりアイツがいるか………)



BF団の中でも最強の実力を持つ十人の最高幹部たち、十傑衆。



そのうちの一人…………戴宗の宿敵ともいえる人物………


その名は………衝撃のアルベルト!!

だとすれば………

戴宗は自然と足の速度を上げていた。





(和樹は………死ぬ!






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