放課後。

騒動の使者は突然やってきた。


「さぁぁぁかぁいクゥゥゥゥゥン!!!!」


奇声を張り上げながら教室に駆け込んできた友人の田中栄太に、


「………なに?」


悠二のみならず、教室に残っていた生徒全員が怪訝そうに彼を見返した。


「君は本気でハーレムを作る気かね?」


「はぁ?」


突然、なにを言い出すんだこいつは。

頭の上にクエスチョンマークを浮かべて首を傾げていると、田中は焦れたように体を揺らしながら言った。


「校門前にお客さんが来てるぞ」


「お客さん?」


「すんごい美人……いや美女だなあれは。チクショウ、あれが噂の……一体お前には何人の女がいるんだ!?一人くらい俺に紹介―――――」


「ふぅん、誰だろ」


途中からの言葉は軽くスルーして、悠二は席を立った。




































灼眼のシャナ 存在なき探求者

第16話 初会




































階段を下り、上履きを靴に履き替えて外に出ると、校門の脇に立つ二人組の姿が確認できた。


「ああ、やっぱり…」


思わず天を仰いで嘆息する。

黒衣の少女と響子の組み合わせは傍目にもかなり目立っていた。


(ん?……これは『封絶』?)


ふと、違和感を覚えて二人を凝視すると、黒衣の少女の方は自身の身体を封絶で覆っているようだ。

ために、周囲の人間の視線は響子ひとりを向いている。


(ふぅ……これなら言い訳のしようもある、か)


安堵の息を吐く悠二。

そのとき。


「あ、悠二さん!」


響子が悠二の存在に気づいた。

周りの視線が自分の方にも向いたのを感じ、悠二は覚悟を決めた。

努めて回りを気にしないように努めながら校門まで歩いていく。


「なにしに学校まで来たんだ?」


問いかける悠二の背はどこか煤けて見えた。

なにしろ昼休みの騒動に加えてコレだ。

悠二の女性関係に関する良からぬ噂は最早校内中に知れ渡ってもおかしくない。

全てを諦めたような悠二の表情を、響子は不思議そうに眺めていたが、ややあって本題を切り出した。


「いえ、千草様がそろそろ戻られるようなので…」


「………ああ〜」


昨日から厄介事が続いているうちにすっかり忘れていたが、今日は母さんが法事から帰ってくる日だ。

確かに響子が家に居座っていては何かと拙い。


「けどなぁ」


そう言って周りを見渡し、再び響子に、そしてその傍らの少女に向き直る。

少女の方は、なにやら警戒するような目でこっちをジッとを睨んでいる。


「………え、と。なに?」


「……………とりあえず、昨日の礼を言っておくわ」


むすっとした顔で、微妙に視線を泳がせながら少女はボソッと言った。


「………どういたしまして」


なんと返していいか分からず、悠二はとりあえずそう言った。


(何しにきたんだろ?)


少女の意図が読めず、悠二は内心首を傾げた。

響子が隣にいるからには僕を討滅にきたわけでもなさそうだし。


「とりあえず……場所を変えようか。ここじゃ目立ちすぎる」


そう言って二人を先導するように歩き出した。





    ◆       ◆       ◆       ◆       ◆       ◆       ◆





「ここなら目立たないかな」


校舎裏まで歩いてきた所で、悠二は周りをキョロキョロ見回しながら呟いた。

何しろ下校時間なので校門周りは人通りが激しい。

自在法で誤魔化しているらしい少女はともかく、響子はかなり目立つ。

やがて周囲に人がいないのを確認した悠二は後ろからついてくる二人の女に向き直った。


「で、わざわざ学校まで来るからには何か用があるんだろうけど?」


「えーと、実は「私が話すわ」……だそうです」


口火を切ろうとした響子の言葉を途中で無理やり遮って、黒衣の少女が言った。

どこか憮然とした表情で響子が一方後ろに下がる。

代わって前に進み出た少女は悠二を正面からジッと睨んで言った。


「…お前、一体何者?」


いや、何者?とか聞かれても…


「トーチだけど?」


そう言うと、少女はあからさまに疑わしげな視線を向けてくる。

“嘘をつくならもっとマシなのにしろ”と言わんばかりの顔だ。


「うーん、なんて言ったら良いのかな。半年くらい前に、ある“徒”の自在法のに巻き込まれてね。

 それが原因で件の“徒”を取り込んじゃったんだよ」


「わかる?」と悠二が首を傾げると少女は難しい顔をする。


「つまり……その“徒”をお前が吸収したって事?」


「『吸収』というより『同化』に近いかな?僕というトーチの中に“徒”の存在が丸ごと入り込んで互いに補完し合ってるようなものだから。

 実際、その“徒”の意識は僕の中にちゃんと存在してるしね」


……とは言うものの僕自身、あの時起きたことを完全に理解しているわけではない。

早い話、教授の受け売りなのだから。


「その“徒”の真名は?」


「“探耽究求”」


『“探耽究求”だと!?』


僕の言葉に、真っ先に反応したのは少女ではなく契約者の王のほうだった。


「知ってるの?アラストール」


少女が神器に向かって聞くと、アラストールは唸るような声音で答えた。


「う、む、確かに。奴ならば……何をやっても不思議ではない」


教授……あんた僕に出会う前になにやってたんだ?

どうやら教授の奇天烈ぶりは“徒”のみならずフレイムヘイズの間にも遍く知れ渡っているらしい。

……考えてみれば教授の名前出すだけで組織の連中も途端に態度変えてたもんな。


「それじゃ、昨日私を回復させたのは何?」


「簡単。僕の持ってる存在の力を一部君の中に注いだだけ」


そう言うと、少女は何故か物凄い目でこっちを睨んできた。


「!……力を注いだって…そんな事して何で平気なのよ!?」


「まあその辺にはタネがあってね。……君、『零時迷子』って知ってる?」


悠二の台詞に場の空気が―――止まった。




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