「ったく、世話かけさせやがっ て」

高校生兼死神の黒崎一護は、背中 に一人の衰弱した死神を背負い、屋根から屋根へと跳躍していく。

一般人には見えない彼の姿だが、 月明かりに照らし出されて彼はとても美しく幻想的だった。

で、今彼が向かっている場所。そ れは彼のことを知る数少ない人物の元だった。

街中にひっそりとたたずむ商店。 看板には『浦原商店』と書かれている。

「おらっ! ゲタ帽子! いる か!?」

思いっきり怒鳴りながら商店の中 に入る。ここは駄菓子やその他の雑貨品を売る昔ながらの商店である。

「これはこれは黒崎さん。こんな 夜更けに何の用っすか?」

商店の中にいたのはまだ若い帽子 を被った男。彼の名はこの商店の店長である浦原喜助。あまりぱっとしない男である。

「こいつを預かってくれ」

そう言うと、背中に乗せていた死 神を浦原のいる座敷の方に下ろす。

「・・・・・・・・・・どうした んすか、この子?」

先ほどまでの飄々としていた浦原 の気配が変わる。視線も鋭くなる。

「巨大虚とかに襲われてたから助 けた。しかもその中の一匹はかなりの奴だ」

そう言うと一護は携帯電話を取り 出し、浦原に投げる。

「おっと。じゃあ失礼しますよ」

携帯を操作し、必要な情報を取り 出していく。

「へえ、相変わらず中々っすね。 これだけを一蹴とは・・・・・・」

「あんたとあの人に鍛えられてた ら、嫌でもそうなるって」

「ごもっとも」

一護の言葉を聞き苦笑する浦原。 一護の師匠と浦原は友人である。実力も拮抗していたらしい。その二人に六年近く育てられれば嫌でも実力がつく。

「で、追加料金はこちらで偽造し てもらっときます」

「よろしく頼むわ」

一護のように異端の死神は、尸魂 界にその存在を知られるわけには行かない。ゆえに浦原などを通して、尸魂界の情報をもらったり報酬を受け取ったりしているのだ。

ただし浦原もまた訳ありな人物で あるのは、ここだけの秘密だが。

「まあそれはともかく、こいつを 頼む。俺の家につれて帰るわけには行かないしな」

「・・・・・・・・・もったいな い。色々できるのに」

「色々ってなんだ!? 色々っ て!」

浦原のからかいに一護は顔を真っ 赤にする。

「うわっ、真っ赤になってるよ、 この人。恥ずかし・・・・・・・」

「てめぇ、殺すぞ」

斬魄刀を取り出し、そのまま浦原 に切りかかろうとする。

「冗談すよ、冗談! そんな物騒 なもんはしまってくださいよ!」

本気で身の危険を覚える浦原は早 々に手を振り一護をなだめる。

「・・・・・・・・・それより も、来る間に変なことを・・・・・・・あっ、嘘嘘。嘘ですよ」

「・・・・・・・・本気で殺され たいのか?」

本気と書いてマジと読む。斬月の 始解の能力を解き放とうかと本気で思った一護。そんなことをされるとこの家が吹き飛ぶので、それだけは勘弁してもらいたい浦原は必死で止める。

「まあまあ、落ち着いて。と、冗 談はそろそろ終わりにして、真面目な話をしましょうか、黒崎さん」

「・・・・・・・・・なんだ よ?」

「この子を助けたことで、色々と 面倒なことになりますよ?」

先ほどまでのオチャラケた雰囲気 が消える。周囲の空気も重たいものになった。だが一護は臆面無く言い放つ。

「覚悟の上だ。それにそれはあの 時からわかってる」

「副隊長クラスならともかく、隊 長クラスが出てくれば、黒崎さんでも無事ではすまない。卍解を習得していない黒崎さんじゃ、勝ち目がまったくないとは言いませんが、分はかなり悪い」

一護は強い。だが世界は広い。彼 は強いが最強ではないのだ。勝つこともあれば、負けることもある。

しかも彼は死神になってから日も 浅い。経験も少ない。そんな彼が通用するほど、死神の隊長クラスは甘くは無い。

「・・・・・・・・・ああ。けど 俺は目の前で死にそうな奴がいて、自分に不利益になるからって見殺しにするようなことはしたくない。それに助けられる命なら、救える魂なら助けたい。その ために俺はこの力を手に入れたんだ」

雨の日の惨劇。最愛の母の死。無 力な自分を恥じ、怒りさえ覚えた。そんな自分を変えたくて、もう誰も失いたくなくて、この力を得た。

だから目の前に救える命があるの に、それを見捨てることなど一護にはできない。

彼は優しすぎた。非情になりきれ ない心。甘さと言うものもいるかもしれないが、それが一護の長所でもある。

「まっ、面倒なことにならないよ うにあたしらもしますが、期待しないでください」

「わぁってるよ。誰もあんたに期 待してない」

「ひどっ! 少しは信用して欲し いな。こう見えてもあたしは信用できる男っすよ」

「できるか!」

即答で返した。この男のいつもの 行動を見ているものとしては、どうしても信用できない。

「とにかくそいつを頼む。俺もそ ろそろ帰らねえといけねえからな」

「わかりました。じゃあ、こっち で何とかしときます。ああ、記憶の方もこっちで適当に改ざんを・・・・・・」

「よろしく」

それを聞くと、一護はそのまま店 を後にしようとする。

「それと黒崎さん」

だがそれを浦原は呼び止める。

「なんだよ?」

「くれぐれも思い上がらないよう に。君は確かに強い。けど最強じゃない。万能でもなければ、全知全能でもない。護れるものなんて高が知れてる」

「・・・・・・・・・何がいいた い?」

「なに、釘を打っておこうと思い まして。この時期、天狗になる連中が多くて。それで痛い目を見る奴が多いんですよね。まっ、ただの忠告ですよ。人生の先輩としてのね」

その言葉には重みがあった。深み もあり、一護はごくりとつばを飲む。彼は目の前の男を甘く見ていない。

師匠とこの人は別格だ。今の自分 がどうあがこうが、この人が本気になれば勝てないだろう。それだけの隔絶した差が存在する。

「・・・・・・・肝に銘じておく さ」

だから彼は素直に忠告を受け取 る。

「そうしてください」

それだけ聞くと、今度こそ一護は 店を後にした。

「ふう・・・・・・」

一護が帰ったのを見ると、浦原は 大きなため息をつく。

「さて・・・・・・・どうしたも んですかね」

傍らに横たわる少女を見ながら小 さく呟く。これからかなり面倒なことになる。能力としては上位に存在する自分や一護だが、死神すべてを相手にするには分が悪い。

仮に自分の親友であり一護の師匠 である彼がいたとしても、尸魂界と事を構えて五体満足にいられるわけなど無い。

「このまま、ってわけにはいかな いですね。何とかしないと・・・・・・・・」

夜は更けていく。これから始まる 物語を知らずに・・・・・・・・・

 

 

 

 

次の日

 

 

「ふわぁ〜」

一護は盛大な欠伸をしながら学校 に登校していた。昨日は帰った後、散々父とコンと戦ったため寝不足なのだ。二人の妹は呆れた顔をしながら傍観していた。

(俺と親父を同列に思わないでく れよ)

父を嫌いかと聞かれればNOだ。尊敬するかと聞かれても 微妙である。あの親父はあの親父ですごいところもあるが、同じに思われるのだけは勘弁して欲しい。いや、マジで。

「とにかくしばらくは慎重に仕事 をするか・・・・・・・・」

「黒崎」

突然声をかけられ、ビクリと身体 を振るわせる一護。振り返るとそこには眼鏡をかけたひょろりとした一人の男が立っていた。

「石田か。脅かすな」

彼の名前は石田雨竜。一護のクラ スメイトだ。もっともかなり特殊なだが。

「昨日は大変だったみたいだな」

「そうでもないぜ。相手自体はた いしたこと無かったぜ」

一護はあっさりと言い放つ。

石田雨竜。黒崎一護のクラスメイ トにして、死神と同じく虚を狩る者、滅却師(クインシー)である。

彼らが知り合ったのは三年前。一 護が師の下で修業に励んでいた頃、その師が連れてきたのが出会いであった。

当初、彼はある事件がきっかけで 死神を恨んでいた。今でもまったく恨んでいないと言うことは無いが、以前よりもマシだろう。

とにかくこの二人は師匠曰く、似 たもの同士でよく反目しあっていた。だがある事件がきっかけで、お互いの中は改善された。

と言っても、目に見えて仲良く なったわけではない。ただトゲトゲした雰囲気が消え、友人と言えるまでになっただけだが、それでもこの二人にしてみれば大きな進歩である。

「そうか。確かに今の黒崎なら、 虚百匹に囲まれても一瞬で滅せるだろうからな」

「まあな。そう言うお前の方はど うなんだよ? 追ってた奴は倒せたのか?」

「心配には及ばない。もちろん滅 してきた。あの人がくれたこれは、かなりすごいよ」

そう言うと石田は自分の右手の人 差し指にはめられた指輪。師匠が石田に渡した呪具である。何でも知り合いに作らせたのだとか。

これは本来、虚を浄化するのでは なく完全に消滅させてしまう滅却師の術を浄化させるための補助器具である。これにより虚を尸魂界に送り出すことが可能になった。

また滅却師自身の能力を増幅させ る力も持ち、一護ほど出ないにしても、彼は死神で言うところの副隊長クラスの力を持っている。

二人はそのまま会話しながら自分 達の教室に向かい、廊下を歩いていく。

「ところで君以外の死神の力を感 じるんだが、気のせいか?」

「あっ? 俺以外の死神だぁっ?  ・・・・・・・あの人かゲタ帽子じゃねぇよな?」

「違う。あの二人とは違うし、僕 らよりもずっと弱い」

「あー、心当たりはあるけど、な んでだ?」

怪訝そうに聞く。いきなり雨竜か らこんな話を切り出されるとは思っていなかったからだ。

確かに心当たりはある。昨日の今 日であるし、まだゲタ帽子のところにいるあの死神の女だと思った。

ちなみに一護は少女とは言わな い。死神の年齢を見た目で判断してはならない。自分と同い年に見えても、実はずっと上だったと言うことはよくあることらしいから。

例を挙げると、二十代にしか見え ない一護の師匠は実は百歳を越えていたとか。まさに不老長寿の存在である。

「それは・・・・・・・・」

「貴様・・・・・・・あなたが黒 崎君?」

一護は声のした方を向くと、あん ぐりと口を開けて硬直した。目の前にいるのは自分達の学校の女子の制服を着た少女。黒髪で背はさほど高くない。

しかし一護には見覚えがあった。 そうだ、昨日見た女だ。

「よろしく」

ニッコリと笑いながら挨拶をして くる。一護はただパクパクと口を開閉させる。

「な、なんで・・・・・・・」

『なんでここに』と口に出そうと したが、その前に女の手が一護の前に差し出される。そこには『騒いだら殺す』と書かれていた。

ここで彼女が一護を殺せるかと言 うのはまた別問題として、一護はただ呆れ返るしかない。雨竜もそんな一護を見るのが楽しいのか、失笑を漏らしている。

「あっ、おはよう一護!」

そんな一護に元気に挨拶をする一 人の少年。名前を小島水色といい、高校時代からの一護らの友人である。

「あれ〜、一護って朽木さんと知 り合いだったの?」

「み、水色。こいつ は・・・・・・・」

「彼女? 今日から来た転校生の 朽木さん。今日のホームルームまで待てずにここに来たんだって」

「よろしくね、黒崎君」

笑みを浮かべるが一護にはこれが 猫かぶりだと即座にわかった。なぜかはわからないが、それがすぐに理解できてしてしまった。

(どう言うことだ、こりゃ? ゲ タ帽子の野郎、何しやがった!?)

騒ごうにも騒げない状況に一護は ただイライラするしかない。

「黒崎。大変なことになりそうだ な」

「石田。お前、微妙に楽しんでな いか?」

「・・・・・・・・・別に。黒崎 のそんな顔が面白いなんて思ってないさ」

(こ、この野 郎・・・・・・・・・)

嘘が下手な石田雨竜。殆ど本音で 語ってしまう。

それはともかく、これが波乱の始 まりであった。

 

 

 

 

プルルルルルル

一護は休憩時間にとある場所に電 話をかけていた。

『・・・・・・・・はい。浦原商 店ですが』

電話に出たのは小さな女の子のよ うな声だった。あいにくと一護の目的の人物ではない。

「おっ、ウルルか? 俺だけど、 ゲタ帽子いるか?」

『・・・・・・・・・・』

「おーい。聞こえてるか? ゲタ 帽子呼んできてくれ」

『俺俺詐欺ですか?』

「違う違う! 一護だ! 黒崎一 護! 詐欺じゃねぇ。だから電話を切ろうとするな!」

『よっと。ウルル〜。あたしへの 電話? 黒崎さんから?』

電話の向こうで小さな会話が聞こ えた。どうやら目当ての人間が出てきたようだ。

『はいは〜い、お電話代わり ま・・・・・・・・・「どう言うことだ!? この野郎っ!!」』

一護は電話に向けて思いっきり怒 鳴りつけた。電話の向こうの浦原喜助は受話器を当てていた耳から、反対の耳へと声が出て行ったような気がした。

『く、黒崎さん。そんなに大きな 声を出さなくても・・・・・・・・』

「アホか! これが大きな声を出 さずにいられることか! どう言うことだ! 聞いてないぞ、あの女が学校に来るなんて!」

『そりゃそうでしょ。言ってない ですから』

しれっと言い放つ喜助。電話の向 こうで絶対に笑っていると一護は確信した。もし電話越しに斬魄刀の力を使えたら・・・・・・・・

『まあ聞いてくださいって。これ には深い事情が・・・・・・・』

「くだらなかったら殺すぞ」

『ううっ、酷いですね、黒崎さん も・・・・・・』

「で、さっさと事情を話せよ。俺 だって暇じゃないんだからな」

『わかりましたよ。実 は・・・・・・・・』

「実は?」

『・・・・・・・・・面白いから ♡』

「ふざけんな!」

思いっきり携帯を地面に投げつけ た。

「あっ・・・・・・・・」

そんなことをすればどうなるか、 頭に血の上った一護にはそこまで考えが及ばなかったらしい。幸い地面が土だったので、そこまでの被害はないが、アンテナがポキッと折れてしまった。

『もう、黒崎さんは気が短いっす ね。そんなんじゃ女の子にモテませんよ』

「やかましい! それよりも本当 にどう言うつもりなんだ!」

『・・・・・・・・・まあ、こち らにも色々と事情がありまして』

「ふざけるな! そもそも『黒崎 さん・・・・・・・・』」

いきなり真面目な口調で語りだす 浦原。どこか相手を威圧するような声。さすがの一護も言葉を詰まらせた。

『詳しいことは黒崎さんにも言え ませんが、これには本当に事情があるんですよ』

「・・・・・・・・・・わかっ た。もう聞くねぇ。それに休憩ももうすぐ終わるからな」

『すいません。じゃあ、彼女のこ と、よろしくお願いします。今の彼女は戦う力の無い普通の人間と変わりありませんから』

「ああ」

一護はそれだけ言うと電話を切っ た。

「何を隠してるんだ?」

浦原の秘密主義は今に始まったこ とではない。しかし今回の件はいささかおかしすぎる。自分の存在を尸魂界には秘密にしておきたいはずなのに、わざわざあの死神を自分の傍につけるとは。

「まあ考えててもしょうがない か。それに問題は・・・・・・・・」

「見つけたぞ!」

「・・・・・・・・・こいつを何 とかしないとな」

うんざりとした顔をする一護の背 後に登場するのは、昨日の死神。名前は確か朽木ルキアと言ったか。

「ああ、なんだ。騒がしいとかよ く言われないか?」

「たわけ。誰がそんな間抜けなこ とを言われるか」

腕を組みぞんざいな態度を取る。 もう少しおしとやかに出来ないものか。

「まあいい。で、俺に何の用 だ?」

「うむ。昨日のことは浦原に聞い た。まずは礼を言う。すまなかった」

「いや、別にいいけど。虚を倒す のは俺の仕事でもあるし」

人助け、と言うか死神助けは言わ ばついでだ。もっともそれは半ば面倒ごとを呼び込むものだったが、一護は目の前で死にそうな存在を放って置けるほど冷酷ではない。

「あとお前は死神でも特異な存在 らしいな」

(思いっきりしゃべってんじゃ ねぇかよ)

飄々とした笑みを浮かべるゲタ帽 子を想像しつつ、一護は目の前に彼がいたら思いっきり殴りたくなった。

「お前のことは大方聞いた」

「ちなみに何て?」

「うむ。シスコンで単純馬鹿で短 気で・・・・・・・」

(あ・の・野郎・・・・・・・今 度あったら絶対に殺す)

まったく悪びれた様子もなく淡々 と語るルキア。これからゲタ帽子の所に出向いて、斬月の全力の一撃をぶっ放してやると固く誓う。もう怒りを通り越して殺意を抱いた。いや、マジで。

「ともかく、お前の性格はたいし た問題ではない」

(いや、問題ではないって。俺の 人格が疑われる、と言うか曲解されてるだろうが!)

「私が言いたいのは、私の力が戻 る間、お前には私の仕事の手伝いをしてもらいたい」

「はぁっ!?」

いきなり何を言っているのかと、 一護は耳を疑いたくなった。突然にもほどがあるし、大体この女の言っていることは無茶すぎる。

「お前、それ本気で言ってるの か?」

「当然だ。こんなこと冗談で言え るか」

「と言うか、何で俺がお前の仕事 を手伝わないといけない? 義骸に頼らないといけないくらい消耗してるのは見ればわかるが、何でそれで俺がお前の仕事を手伝わないといけないんだ?」

極度に消耗した死神は、義骸と呼 ばれる特殊な肉体に入ることで、その力を回復させる。人間型であるのは、虚から身を護るため。木を隠すなら森の中と言うことである。

「確かに元々は私の不注意だし、 貴様には命を助けられている。感謝こそすれ、このような事を言うのは、非常に不本意だが・・・・・・」

『じゃあ言うなよ』と内心で思っ てが、それを言うわけにもいかない。

「だがそうでもしなければ余計に 面倒なのだ」

「何が?」

「お前のことが尸魂界にバレる」

「!?」

「アレだけの虚を一掃したのだ。 尸魂界でも問題になる。大事になるのは明白」

「話が見えないぞ。俺がお前を手 伝うことでどうなるって言うんだ?」

「私が死神の仕事を請け負ってい ると言うことで、しばらくの間は尸魂界の目を欺けるはずだ。向こうは指令を出すが、そこまで一介の死神のことを監視したりはしない。死神の数は多いから な」

「だが連中が昨日のことでここの 監視を強めたらどうするんだ?」

「それは問題ない。浦原に頼ん で、昨日のことを事情を歪曲して伝えてある。それに私が動けるならば、この地区に他の死神を送り込むことはない」

「なるほどね。つまりアンタは命 を助けてもらった礼として、俺の存在を秘密にしてくれるってわけか?」

「そういうことだ。どうだ、悪い 取引ではなかろう?」

「・・・・・・・・・・・」

一護は考え込む。確かに彼女の申 し出はありがたい。しかしはたして彼女が信用できるかどうか。彼はあいにくと、昨日今日会った相手を無条件で信用することなど出来ない。

「しばらく考えさせてくれ」

「よかろう。だが早くしてくれ。 次の指令も着ている」

「何時にどこだ?」

「正午前後十五分以内に弓沢児童 公園だ」

「わかった。十一時半に待ち合わ せだ」

「ああ・・・・・・・」

 

 

 

 

 

「遅い!」

ルキアは公園の前で一護を待って いた。もうすでに十一時半を過ぎている。時間は正午になろうとしており、いつ虚が出現してもおかしくなかった。

「何をやっておるのだ、奴 は!?」

だがそんなルキアの思いも虚し く、虚が出現した。六本の足を持つ、蜘蛛のような虚だった。

「うわぁぁぁぁっっっ!!」

虚に襲われ、逃げ惑う少年の霊。 ルキアはぎゅっと唇をかみ締め、拳を堅く握る。歯がゆい。死神の力があればすぐに飛び出し助けるのに。

だが今の自分は戦う力の殆どを 失っている。出て行ったところで何が出来るでもない。

しかし、だからと言っ て・・・・・・・

「ええぃっ!」

彼女は自分の身を省みず飛び出し た。追われる少年の霊の前に立ち、虚と向かい合う。

「私が相手だ!」

啖呵をきるが、鬼道を使うだけの 霊力もない。出来るのは時間稼ぎのみ。

「早く逃げろ!」

少年に言うと同時に虚は足を振り 上げ、ルキアに襲い掛かった。彼女は思わず目を閉じ、自らの死を覚悟した。

だがいっこうに襲うことのない痛 みに、彼女はゆっくりと目を開ける。そこには・・・・・

「よう」

「なっ!?」

ルキアの目の前には斬月を構えた 一護がいた。彼は虚の足を斬魄刀で受け止めていた。

「貴様、今までどこにいた!?」

彼女の怒りも尤もだ。一護がこの 場に来なかったら、自分だけではなくあの少年の霊まで犠牲になっていたところだ。

「・・・・・・・・・・・悪い。 お前をためさせてもらった」

「試す、だと?」

「ああ。あいにくと、俺は殆ど初 対面の人間を信用できるほど出来てない。だからあんたの行動を見させてもらった」

「馬鹿者! 私はともかく、もし それであの霊が喰われでもしたらどうするつもりだったんだ!?」

「そうならないようにずっと霊圧 を消して近くにいた。瞬歩なら俺も出来るしな」

一護はルキアがあの状況でどう出 るか、それを見ていた。あの場面で霊を助けに出なかったら、彼はルキアを信用しなかった。

しかし結局は、彼女は自分の命も かえりみずに助けに走った。だからこそ、一護も彼女を信じることにしたのだ。

「だから・・・・・・・」

一護は斬月の霊圧を解放する。一 閃。真っ二つに切り裂かれる虚。

「あんたの仕事は手伝う。あんた を試して悪かったが、まあ水に流してくれるとありがたいな・・・・・・・・・」

罪悪感があるのか、一護は視線を 少しそらせながら言う。ルキアもそんな一護の気持ちを理解したのか、ふっと笑みを浮かべる。

「いいだろう。貴様には昨日の借 りもある。それに今も一応は助けられたのだから」

スッと手を出す。

「よろしくな」

「こちらこそ」

この日、ある意味歴史に名前を残 す死神のコンビが生まれたとか、生まれなかったとか。

だが確かに彼らの戦いは、この日 から始まったのである。

 


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