「流也。風牙衆の状況はどう だ?」

「順調だよ。色々と待遇も改 善されたし、和君もいる。戦力も充実してるよ」

「それはよかった。俺として も面倒な手を使って改革した甲斐があった」

「君も悪どいね」

流也の言葉に和麻は苦笑す る。

神凪和麻

神凪一族に生まれた炎術師に して、次期宗主として名高い男。

二十二歳と言う年齢でありな がら、現役最強と謳われる厳馬と同等の実力を持つと言われる。

また術者としてだけではな く、数多の才能に優れており指導者としても優秀であった。さらに先代宗主と同様、謀略においてもその類まれなる才能を発揮した。

数年前のことだ。宗主である 重悟が事故に合い、次期宗主として襲名した和麻。彼の覇道はこの時から始まっていた。

「このようなことが認められ るか!」

一族の幹部が終結する幹部 会。分家の長、長老会、先代宗主を初め、一族内部の権力者達が一堂に会する重要な集会。

その中で金切り声を発するの は、先代宗主であった頼道である。額に青筋を浮かべ、末席に座る青年に怒鳴りつける。

「・・・・・・・・・何がで しょうか、先代?」

丁寧な言葉で対応する青年 ――――和麻。頼道の怒りはさらに高まり、和麻を睨む視線は厳しくなる。

「わからないとは言わせん ぞ、和麻。お前程の男が儂の言わんとすることを察せられぬはずが無い」

「それは買いかぶりというも の。私はそこまで優秀ではありません」

「ふん。よく言いおるわ。さ すがは次期宗主じゃな」

頼道と和麻の会話に周囲の緊 張が高まる。頼道は和麻が危険だと理解していた。

彼は今までの地位を単純な炎 術などの力ではなく策略で手に入れてきた。それゆえに彼はこのような相手を幾度も相手してきた。

目の前の小僧には気を抜けな い。この男は従順などではない。自分と同じだ。目的のためには手段を選ばない。厳馬とも違う。和麻の実父である厳馬は頼道に激しい嫌悪を持っている。私生 活においてもそれを隠そうとしない。それが頼道をより不快にさせる。

しかし和麻は違う。内面では 頼道を嫌悪しているが表面上は違う。彼は頼道に対してしたたかな対応を取っていた。

彼の望みをできるだけ尊重 し、目障りに思われないように心がける。

権力を持つものとはできるだ け敵対しない。強いものに取り入る。そして最終的にはその力を手に入れる。つまり乗っ取りだ。

頼道は確かに無能だ。歴代宗 主の中でも炎術師としての力は最弱。それどころか宗家の歴史の中でも間違いなく最低のレベルだ。

ただ彼に一つだけ、他者を圧 倒するものがあった。それはあくなき権力欲とそれを手に入れるためのずる賢さ。

彼が宗主になれたのはその謀 略ゆえだ。卑怯に、したたかに、注意深く行動する彼を和麻は侮らない。

力はこちらが上だ。しかしだ からといって自分の立場が磐石かと言えばそうでもない。人の知略は時として単純な暴力を上回る。

脆弱な力しか持たなかった人 間が、生態系の頂点に君臨できるのもこの知略のおかげである。

ゆえに和麻は頼道を甘く見な い。いつ足元を掬われるかわかったものではないからだ。

どれだけの力を持とうとも、 人間一人を貶めるなどわけはない。あらぬ疑いをかけ、反逆者としてやればいい。または幹部会で大半のものに宗主の地位に相応しくないと言わせればいい。

いかに継承の儀を勝利したと ころで、策略によってその地位を奪われる。かつて頼道が行ったことだから。

数の暴力と言う言葉があるよ うに、神凪内部でも派閥と言うものは存在する。もっとも政治の世界のような大きなものではないが。

若輩者で、まだ信頼できる手 駒が少ない。この状況では神凪最強クラスの実力を持つ和麻と言えども、下手に動けないのだ

頼道は利用価値があった。そ の権力欲ゆえに政界とも深い関わりを持つ彼の人脈に和麻は目をつけた。

頼道自身は一族内部でも、も ちろん政界でも嫌われている。それでも彼が今の地位にいられるのも、彼の謀略の才ゆえだ。

政界のお偉い方は神凪の力を 欲する。神凪一族は政界の後ろ盾を欲する。千年にも及ぶ蜜月の関係。二つが切れる時、それは神凪の没落を意味する。

だからこそ、今のうちに和麻 は政界への足がかりとして頼道を利用としようと考えていたのだ。利用できるものは利用する。バカとハサミは使いようである。

だがそれは頼道も同じだ。狐 と狸の化かしあい。頼道も和麻が自分を利用しようとしているのはわかっている。だが同時に頼道にとっても和麻は利用する価値の高い存在でもある。

厳馬はどこまでも自分に敵対 的だが、和麻は表面的には協力的だ。

次期宗主としての肩書き。若 手最強という肩書き。神炎使いという肩書き。どれも頼道には利用価値の高いものだった。

和麻はこれだけの力を持ちな がら、一族では他の連中には好かれていない。頼道としては彼を自分の体の良い防波堤にするつもりだった。

つまり宰相のような立場で思 うがままに操り、責任はすべて押し付ける。これこそ彼の理想的な神凪でのあり方だ。

だからこそ、お互いに寝首を かかれないように慎重だった。

しかし和麻には一族内から反 感を買うとわかっていても、一つだけ早急に認めさせなければならない項目があった。

それは・・・・・・・

「だが和麻。風牙衆の地位向 上と給与の見直しだと!? 何を血迷ったことを言う!?」

今度は頼道ではなく、他の分 家の当主から反論があがった。

和麻が提案したこと。それは 神凪の下部組織である風牙衆の地位向上だった。彼らは神凪内部では下部組織と言うよりも奴隷と同じ扱いだった。三百年前に起こったある事件以来、風牙衆は 神凪に隷属され続けていた。

その事実を知るのは、今では 宗主や厳馬、和麻などの一部の人間のみ。歴史からはその事実は完全に抹消されていた。

「血迷うとはどういう意味で しょうか? 俺は正当なことを言っているだけです。それとも何か問題でも?」

「ふん。やつらは戦う力がな いのだ。今の待遇は当然だろう?」

「さよう。久我の当主の言う とおりだ。奴らは下賎な風術使い。我ら精霊王に選ばれた一族の庇護下にいられるだけマシだろう」

神凪の分家である久我と大神 の当主が、嘲笑にも似た下賎な笑みを浮かべる。和麻はその顔を見ながら、内心で怒りを覚えた。

(戦う力がない? その分、 彼らは情報収集能力があるだろうが。お前らに彼らの真似事ができるのか?)

久我の言う理論ははっきり 言って愚かだ。人にはそれぞれに役割がある。政治家には政治家の、警察官には警察官の、料理人には料理人の。

それは炎術師や風術師でも同 じだ。それぞれに得意分野が違う。どちらが優れていると言う問題ではない。

(庇護? 隷属の間違いだろ うが。こんな一族の元でいるよりも、もっと他に待遇のいい組織へ移りたいだろうな)

馬鹿馬鹿しかった。この連中 の腐った脳みそを、できることなら今この場で燃やしたかった。もちろんこの場でそんなことをすれば、反逆者として処分されるだろう。

無論、負ける気はないがそれ でも不利は否めない。神凪一族内の邪魔な勢力を排除すると言うことは、かなり危険な選択肢なのだ。同属殺し。政府からも追求が来るだろう。

もっとも政府が和麻を殺人罪 で送検することはない。そんなことをすれば、一般社会に魔術のことが公になるのだから。それは政府も避けたいところだ。

しかし和麻の立場は最悪にな る。と言うよりも、危険人物として秘密裏に処分されるかもしれない。ゆえに今は従順なフリを続ける。すべての権力を掌握するまで。誰も和麻に逆らえないよ うにするために。

「お言葉ですが、今の彼らの 扱いは明らかに人権を無視しております。これはいささか非人道的ではないでしょうか?」

「ふん。何を言い出すかと思 えば。人権ならきちん護られているであろう」

(よく言う。俺が風牙衆に対 する分家の暴行事件などを知らないとでも思ったのか?)

選民意識の強い神凪家。それ も中途半端に強い力を持つ分家の人間は、得てして他者を見下す。その被害を受けるのが、神凪内では地位が低く戦う力を持たない風牙衆である。

彼らの中にも戦闘を専門とす る人間はいるが、それもごく少数だ。それ以外の者は、ただなす術もなく暴行を受ける。

それにより大怪我をした人間 は数知れない。特に子供におけるその被害は顕著なものだ。

また性的な暴行も少なからず 和麻の耳に届いている。これを見過ごすことは出来ない。

(分家の当主は見てみぬ振り か。結構なことだな)

分家の若年層に見られる不始 末。それも分家当主はそれを黙認している節さえある。よく人権を護っているなどと言える。吐き気がする。

「和麻よ。次期宗主として他 者を気遣うのもいいが、あやつらを気遣う必要はない。あやつらは儂らが飼ってやっているのだからな」

「父上。それは言いすぎで す!」

宗主である重悟が頼道の発言 に意義を唱える。彼の言葉が許容できる範囲ではない。

実の親子がにらみ合う。和麻 はそれを冷めた目で見る。

(せいぜい今のうちにいい気 になっているんだな、先代。すぐにその地位から引き摺り下ろしてやるさ。もうあんたの時代は終わったんだからな)

(ふん。せいぜい粋がってお け、小僧。貴様のような青二才に儂をどうこうできると思うなよ。まだあと十年は君臨し、さらなる権力と地位を手に入れてやるわ。貴様はそのための駒なの じゃよ)

和麻と頼道はお互いがお互い を見る。同時に腹の中では敵対的な思惑が渦巻く。

時代を作るのに老人は不要。 老人は黙ってみていればいい。新たな風が吹き入れられる神凪の未来を。

(貴様らが一族を発展させた のなら、俺も何も言わない。あんた達のやり方を真似させてもらうが、貴様らがしたことは神凪を腐敗させただけだ)

頼道の時代、神凪の力は史上 最低にまで落ち込んだ。ひとえに宗主たる頼道の力のなさもあったが、一族全体が傲慢になりすぎたのだ。

史上最強の炎術師の一族と言 われる神凪。彼らに敵対する者は存在しない。勝てない相手に喧嘩を吹っかける相手はいない。それが彼らを増長させた。

(分家の殆どが浄化の炎であ る『黄金』を失い、宗家においても力の弱体化が深刻化した今、もう時間はあまり残されていない)

和麻は宗主が事故にあい、次 期宗主を決める際に父である厳馬に宗主となってもらいたかった。そして自分が裏で汚い仕事などを受け持ち、厳馬を支えながら一族を立て直そうと考えてい た。

若輩者の自分が一族の頂点に 立ち、あれこれと分家の当主や先代、長老達に言うことを聞かせるのにも限界がある。不利になることが多すぎる。

だから厳馬を宗主にしようと 考えたが・・・・・・・・・よくよく考えればあの堅物がそんなことを許すはずもない。どこまでも曲がったことが大嫌いな男だ。先代とのやり取りを見ていれ ば容易に想像がつく。

あとは自分よりも年下の綾乃 を次期宗主に祭り上げるかとも考えた。しかしそれでは先代や分家の連中に傀儡にされる恐れがあった。当時まだ十二歳の女の子だ。それくらい簡単なことだ。

だからこそ和麻が次期宗主の 地位に着いた。

(根本から神凪を変えなけれ ば、一族に未来はない。神凪には敵が多すぎる)

次期宗主として、改めて一族 内部から、または外から神凪を見て和麻はそう思った。

炎術至上主義に凝り固まった 神凪一族が、他の組織や古い一族と衝突することはよくある。それどころか他者を見下すことは日常茶飯事だった。

これでは敵が増える一方だ。 味方は少数だ。政府はこちらを擁護してくれるだろうが限界がある。自分達に取って代わる勢力が現れた時、千年の蜜月の関係も終わるだろう。

今のままではダメだ。熟練層 のレベル低下も顕著だ。ならば若年層を何とかするしかない。つまり和麻と同年代だ。

それでも望みは薄い。このま までは確実に神凪は腐敗する。いや、すでに手遅れかもしれない。

(せいぜいお前達の前では道 化を演じてやる。今はまだ、俺の味方は少数だ。今どうこうしようとも、何も変えられない)

宗主である重悟でさえ、神凪 の体制を変えることはできなかったのだ。まだ年若い和麻に何ができるものか。

(風牙衆を味方につけるのに は成功した。だからこそ、早く彼らの地位を何とかしなければならないんだ)

人は追い詰められれば牙をむ く。死に物狂いで、手段を選ばずに。なりふり構わない人間が一番恐ろしく手に負えない。

このままでは風牙は遠からず 牙をむく。今でも地獄の日々なのだ。これ以上、何を恐れるだろうか。

(あまり使いたくはなかった が、予想通りか。こちらも早急にカードを切らせてもらおうか)

内心でほくそ笑む。策略と言 うものをこの連中に教えてやろう。力だけがすべてではないのだ。頭の使いようで、力ある者を封じるくらいできる。

「・・・・・・・・・・・先 代。あなた様のお言葉は確かに正しい。ですが、俺が今、この話題を挙げたのは理由があります」

「ほう。理由とな?」

「はい。実は先日、人権団体 に神凪の風牙に対する扱いが非人道的だと言う匿名の情報が流れたそうです」

「何!?」

和麻の言葉に先代だけではな く、幹部連中がざわめきだす。重悟も同じように驚いた顔をしている。もっとも彼の父である厳馬は相変わらず表情を崩さない。

「調べたところ、神凪に恨み を持つ一派の策略のようです。風牙衆からの情報で裏も取れております」

「なぜそれを今まで私にも報 告しなかった?」

上座に座る重悟が問う。

「こちらで処理できる問題だ と判断したからです。しかし事態は思ったよりも深刻でした。これ幸いと今まで沈黙を守ってきた反神凪派の一派が共同戦線を張ったのです」

「愚かな! 儂らに歯向かお うと言うのか!」

「ふん、まさに神をも恐れぬ 行為よ!」

「して、和麻! その連中の 正体はつかめているのか!?」

分家当主が憤怒を浮かべ、誰 もが自分達に逆らおうとする連中に報復を行うことに意気込んでいる。

「はい。ただ問題なのが相手 がそれなりに権力のある連中だったと言うことです。この連中を相手にするには、いささか時間と労力がかかります。裏社会としての攻撃ではなく、表社会の手 段を使っての攻撃ですので」

「何を莫迦な。政府に圧力を かけさせればいい。そうすれば屈服する」

「いえ。それで済む問題なら 俺もここで議題に上げたりはしません。問題は相手が政府、それもアメリカ政府にパイプを持つと言うことです」

「あ、アメリカ政府だ と!?」

超大国アメリカ。かの地の政 府はこの国の政府の何倍も厄介だ。また神凪の力をもってしても、どうこうできる相手ではない。

「敵はアメリカの炎術の一 族、マクドナルド家を引き込み、されには神凪の力を社会的に削ぐつもりです」

憲法により定められた基本的 人権。この国に住むものなら誰もが得ることができる。職業選択や住む場所など。

しかし風牙衆にはそれが適応 されていない。表ざたになれば、一族が存亡の危機に立たされる一般的な犯罪も数多く存在する。

「このままでは近いうちにマ スコミに取りざたされます。いくら証拠を隠しても、おそらくは無駄でしょうし、ここまでの行動に出るくらいです。相手は確実に有力な証拠をいくつもつかん でいることでしょう」

アメリカ政府に深いパイプを 持つマクドナルド家がいるならば、日本政府の圧力など意味を持たない。アメリカが日本に圧力をかけることはあっても、その逆はありえない。

「自由の国アメリカ。自由と 平等を掲げる彼らが相手ではかなり不利です。またアメリカ政府も日本の弱みを握れるとあって、喜んで乗り出してくるでしょう」

和麻は正論をさらに理論武装 して幹部に言い放つ。

政府と蜜月の関係の神凪のス キャンダルは、そのまま政府のスキャンダルにもなりかねない。そうなればあとはトカゲの尻尾きりだ。

幸い国内にはまだまだ有力な 退魔の一族が存在する。自分達の進退をかけてまで神凪を護ろうとはしないだろう。

誰もがどよめき、顔面を蒼白 にさせている。彼らにも事の重要性が理解できているのだろう。

「ではどうすればいい!!  このままでは!!」

大神の当主が金切り声を出 す。他の分家の当主達も慌てふためいている。重悟も苦い顔をしているが、彼はじっと和麻の方を見ている。そして頼道もこちらを静かに見ている。

(さすがは宗主。俺が何らか の回避策を持っているとわかっているのか? それに先代はこちらの思惑に気が付いているな)

これが実は和麻によって仕組 まれた茶番であることを、おそらく頼道は気づいている。だがここで騒ごうとしない。

(あやつめ。ここでそのカー ドを切るということは、根回しは完璧ということか。それにおそらく証拠もないじゃろう。この場で騒ぎ立てても事態は好転しない。とすれば、ここは傍観に徹 すればよい。今はまだ、こちらのカードを切る必要は無い)

(先代がこの件でカードを切 ることはおそらく無い。奴としても風牙衆のあり方については少しは考えるところがあるはず。アメとムチの使い分けを奴は熟知しているからな)

先代も元々アメとムチの方法 の有用性を理解している。今まで風牙衆に対してアメをなめさせなかったのは、そこまでするリスクに対して得られる成果が少ないからだ。

自分の地位を少しでも危うく する風牙衆の救済に対して得られる利益は少ない。彼らは神凪一族を憎んでいる。こちらに完全に従順になることは無い。

彼はそう思っていたため、そ こまでのリスクを犯して助ける必要はないと考えたからだ。だが和麻が矢面に立ってくれるなら話は別だ。ここは尻馬をあわせておく方がとくと判断したのだ。

和麻としてもそろそろこの会 議も鬱陶しくなってきた。終わらせる頃合かもしれない。

「解決の策はあります」

視線が和麻に集中する。誰も が切望の眼差しで彼を見る。

「先にも述べたように風牙衆 の待遇を改善し、和解をするのです。和解していれば、そこまで大きな問題にはならないはずです」

仮に過去の問題を指摘されて も、こちらが誠意を持って対応すればいい。そのためなら土下座でも何でもしよう。

宗主と次期宗主である自分が 頭を下げれば、退魔組織もあまり大きく出れない。人権保護団体の方も、風牙衆との和解が成立し書類などできちんと証明すれば問題ないはずだ。

「いかがでしょうか?」

深く頭を下げる。顔を伏せ、 誰からも表情を見せないようにしている。

(それに・・・・・・・・ど う転んでも俺にはどっちでもいい。風牙衆の待遇改善が内外で認められれば目的は達成できる)

和麻の目的は促成事実を作る こと。促成事実が出来上がれば、あとはどうでもいいのだ。

(だがまさかここまで慌てふ ためいてくれるとはな。情報を流した甲斐があった)

一族は面白いように手のひら の上で踊ってくれる。マクドナルド家をはじめ、反神凪一派に情報を流したのは他でもない、和麻だ。

むろん、こちらの正体を知ら れないために色々と細工をしたし、最悪の事態においても想定している。

(反神凪一派がどれだけ動こ うと、神凪は潰せない。こちらの弱みを渡したが、お前達の弱みもすでに手に入れているからな)

すでに風牙衆を配下に置い た。和麻の頼みならば、風牙衆は喜んで行動してくれる。そして想像以上の働きをしてくれた。

和麻は他の一族とは違い、風 牙の働きを正当に評価しそれに見合う、またそれ以上の報酬を渡している。

さらに兵衛を初めとする風牙 衆の眼前で土下座までした。これには風牙衆も面を喰らったようだ。

和麻の誠意あふれる対応と謝 罪に、風牙衆も和麻に対しての敵意を薄れさせていった。宗家の、しかも次期宗主の庇護。それは風牙にとって大きな力だった。

さらに和麻は今後の風牙衆の 待遇の改善を約束した。

もともと和麻は幼い頃より風 牙衆の長の息子・流也と仲がよく、成長してからも他の神凪のような態度を取らなかったことも一つの要因となった。

(敵のスキャンダルはほぼ把 握した。やつらもうかつな行動は取れない。とった場合は、それこそ好都合だ。その力をこちらで吸収してやる)

その知略はまさに天才的。謀 略の才ですら、将来的には頼道をも上回るだろう。

「自らの首を絞めるか、ここ は未来への投資として認めるか。お歴々の判断にお任せします」

そういわれ、その場にいた誰 もが沈黙した。

 

 

 

その後は滞りなく会議は進 み、風牙衆の救済が神凪一族内で決定・施行された。内容は和麻と風牙衆があらかじめ作っていた内容で、分家からは反対の声も多かったが、宗主である重悟の 鶴の一声もあり何とか可決された。

これにより直接的、間接的な 暴力や誹謗中傷も減った。これは宗家をはじめ、分家にもその旨を徹底させたからだ。

以前宗主である重悟がいくら 言っても効果は薄かったが、明確な危機を見せ付けてやれば誰もがそれを回避するために必死になる。

和麻の思惑通り、神凪内部に おける風牙衆の立場は改善され始めた。

「少しは神凪も住みやすく なったけど、まだまだ問題は多いね」

「ああ。それに外部にも色々 と動きがある」

「外部? 神凪に直接何かを しようとする動き? こっちはそんな報告受けてないけど」

「特殊資料室からの情報だ。 今、兵衛に調べてもらっている」

「父上に? わかった。何も なければいいけどね」

「そうだな」

 

 

 

 

 

ところ変わって私立聖陵学園

「あー、めんどくせぇ」

と、ある一教室で愚痴をこぼ すのは、やっぱりと言うかなんと言うか八神和麻であった。現在彼は色々な仕事をこなしている。

「いつも思うんだけど、何で あんたが生徒会長なんかしてるの?」

その隣では神凪綾乃が手伝い をしている。彼の言葉からもわかるように、現在彼はこの学校の生徒会長をしていた。

「知るか。勝手に推薦され て、よくわからんうちに決まっちまったんだよ」

そうなのである。和麻は成績 優秀、スポーツ万能、ついでに外面はかなりいいので教師の受けも良い。顔もそこそこ整っているので、女子の人気も高い。

ちなみに綾乃は一年生で副会 長を務めている。ついでに和麻は二年生。

「和麻さんって人気あるんで すよ。会長になるのは当然ですよ」

「当然なのか?」

「はい」

にっこりとして返すのは綾乃 の親友の一人の篠宮由香里である。彼女は会計であり、彼女と和麻が運用した秘密会計が、彼らが就任して以来恐ろしい額にまで膨れ上がったとか。

綾乃はそれを噂で聞いたが、 どれくらいの額なのかは知らされていない。

二人揃って「「秘密(だ) (よ)」」と返されて、仲間はずれにされているのと二人が妙に仲がいいのでかなりむっとしたのはご愛嬌。

「まっ、人生楽しく生きない とな」

今まで不幸な人生だった分、 ここでは楽しき生きようと決意していた和麻だった。

 

 

 


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