第1部   〜動き出す運命〜

 

 

 

 

第5話 怨み

 

 

「ぎゃああああああああ!!」

 

炎が身体を焼く。

 

悲鳴を上げることしかできない。

 

なぜこんな目に遭うのか、なぜこ いつらは自分にこんなことをするのか?

 

「あ、ああ・・・」

 

焼かれるたびに身体の感覚が失わ れていく。

 

「た、助けて・・・・・・」

 

誰も助けてくれるものはいなかっ た。

 

周りにいるのは自分を人と思って いない奴らばかり。

 

そう自分はこいつらに人間として 見られていない。

 

「や、やめ・・・」

 

言葉が続かない。身体はとうに感 覚を失い、意識が失われていく。身体を焦がす嫌な臭いが鼻を突いた。

 

「おい、まだこいつ息してるぜ」

 

「本当だ。クズのくせにしぶとい じゃん」

 

いきなり衝撃が走った。なすすべ なく地面を転がる。

 

「行くぜ、そらっ!」

 

身体に再び衝撃が走る。

 

まるでボールのように蹴られる自 分。声も出ず、抵抗もできず。ただ蹴られ焼かれ続ける。

 

何でこんなめに遭わなければなら ないのか、自分が何かしたか・・・

 

否・・・何もしていない。彼らは ただ自分の楽しみのためだけに自分をこんなめに遭わせているのだ。

 

目の前の少年たちを睨む。何も抵 抗できない悔しさから歯を食い縛る。

 

ドガッ!

 

「何なんだよ? えっ、その目 は!?」

 

自分の目つきが気に食わなかった のか、炎が放たれ、さらに蹴りつけられる。

 

だがそれでも睨みつける目は止め ない。

 

「ゴミの分際で生意気なんだよ!  俺たち神凪が能無しの面倒を見てやっているってのになんなんだ! その目は!!?」

 

「面倒見てもらっている身分で生 意気なんだよ!」

 

「神凪じゃない術者は、能無しな んだよ!」

 

「炎の精霊王の加護を受けている 俺たちは選ばれた術者。誰も逆らえられないんだよ!!」

 

誰が面倒を見てる?

 

一度でもお前らに面倒を見ても らったか?

 

神凪じゃない術者は能無し?

 

選ばれた術者?

 

誰も逆らえない?

 

いったい、何を言っているんだ、 こいつらは? 

 

子供のお前らが面倒を見る?

 

見れるわけがない。

 

神凪以外の術者は能無しの集まり なのか? 

 

神凪よりも上の存在・・・少なく ともお前らより上の術者は山ほどいる。

 

選ばれた術者だって?

 

いつお前らが選ばれた術者になっ た。

 

誰も逆らえない。

 

なら宗主の前で頭下げてご機嫌取 りしたりしているお前らは何だ。偉い人間になら頭下げるお前らはなんなんだ。

 

「生きる価値もないゴミなんだ よ、お前は!?」

 

大柄な男―――久我透―――がそ んなことを言いながら炎を放ってきた。

 

 

 

 

 

 

 

(・・・生きる・・・価値がな い・・・)

 

 

 

 

 

 

 

もう何も考えられなかった。

 

久我透が自分に炎を放とうとした 瞬間、誰かが透を殴り飛ばしたのが見えた。

 

誰だかわからない・・・い や・・・見たことがあったと思う。

 

10くらいの少年だった・・・そ の少年は自分よりも体の大きい透を簡単に殴り飛ばした。

 

さらに、次々と襲い掛かる少年た ちを次々と地面に倒していく。

 

少年たちが炎を使っているのに、 その少年は何もしていない。体術だけで炎を使う少年たちを相手に圧倒的強さを見せた。

 

「流也!!」

 

父の声が聞こえた。そのとき自分 は意識を失っていた。

 

 

 

 

 

 

 

身体の感覚は失われていた。神経 という神経は全て焼かれて修復不可能の状態になっていた。

 

父は治療の手配を一族のトップの 者たちに懇願した。

 

だがその答えは流され、何も動い てはもらえなかった。

 

宗主である重悟は家を空けてい た。

 

それが少年たちの行動を許す形と もなっていた。

 

誰も頼れる者はいずただ時間だけ が過ぎた。

 

「なぜ・・・なぜ・・・」

 

父は自分の横で涙する。

 

「流也・・・わしはお前に何もし てやれんのか・・・」

 

ただ涙する父を見ていることしか できない。

 

声が出ない・・・

 

喉が焼け爛れているのか・・・全 く声が出なかった。

 

「すまん・・・こうするしかお前 を救うことはできんのだ・・・」

 

父は消して空けてはいけない扉を 開けてしまった。

 

息子のために悪魔に魂を売り渡し たのだった。

 

そして、闇は動き出した。

 

 

 

 

 

 

 

暗闇の中に浮かぶ自分。

 

その姿は人間だが、人間とは違う 何かを感じた。

「怨、怨、怨、怨、怨、怨、怨、 怨、怨、怨、怨、怨、怨、怨、怨、怨、怨、怨、怨、怨・・・・・・呪、呪、呪、呪、呪、呪、呪、呪、呪、呪、呪、呪、呪、呪、呪、呪、呪、呪、呪、 呪・・・・・・殺、殺、殺、殺、殺、殺、殺、殺、殺、殺、殺、殺、殺、殺、殺、殺、殺、殺、殺、殺・・・・・」

 

自分の心の中で闇が渦巻いてい く。

 

だがそれがどこか、清々しかっ た。

 

「滅、滅、滅、滅、滅、滅、滅、 滅、滅、滅、滅、滅、滅、滅、滅、滅、滅、滅、滅、滅・・・・・・」

 

もう止めることはできない。

 

全てを怨む。全てを呪う。全てを 殺す。全てを滅ぼす。

 

闇だけが自分を支配する。自分は それを受け入れる。全てを受け入れそして自分も闇に染まる。

 

「我怨神凪無絶期(我、神凪を怨 むことたゆるきなし)!!! 

ひゃはははははははははは、ひゃ はははははははははは!!!」

 

今、第一の封印は解かれた。

 

 

 

 

 

 

 

「神凪・・・・・・いや、八神和 麻も、良いときに帰ってきてくれたものよ」

 

ふぉっふぉっふぉ・・・・・・

 

闇の中に浮かぶ影。

 

その影は1人ではなかった。

 

一条の光さえもない、闇に満たさ れた空間で、しわがれた嗤い声が張り詰めた静寂を打ち破る。

 

「では・・・・・・?」

 

「うむ。皆も聞くがいい。つい に、時が来たのだ、屈辱を晴らす時が、今こそ我らは失われた力を取り戻し、栄光の座に返り咲くのだ」

 

『おおおおおお お・・・・・・・・・』

 

押し殺したどよめきが空間を震わ せた。叫ぶ者はいない。誰もが見つかることを恐れるように息を潜め、緊張に身を固くしている。

 

「思い知るがいい、神凪一族 め・・・・・・・。ひとり残らず滅ぼしてくれるぞ・・・・・・くくく・・・・・・」

 

闇より暗い怨嗟の声が、低く陰々 と谺した。

 

 

 

 

 

 

 

時間は戻ってその日の昼

 

葵学園屋上

 

和樹をはじめとしたいつものメン バー、千早、レオン、カイ、夕菜、玖里子、凛、沙弓は弁当を食べていた。

 

授業や部活のことなどをしゃべっ ているとカイが思い出したように、和樹に声をかけた。

 

「そう言えば、昨日面白い人に 会ったよ」

 

「昨日って・・・ああ、散歩のと き」

 

和樹がカイに答える。

 

「相変わらず散歩が好きね」

 

玖里子がカイに言うがカイは流し た。

 

「かなり強いと思うよ。本気の和 樹には負けるだろうけど、僕やレオンと同等の強さはあると思う」

 

「レオンやカイと同等!?」

 

「そんなにか!!」

 

沙弓と凛が驚いた顔をした。玖里 子も驚いた顔をしている。

 

「多分だけどね。でも間違いない と思うよ」

 

「でも、2人と同じなんて・・・ そんな簡単にいるんですか?」

 

夕菜が疑問に思ったことを呟い た。

 

「めったにいないけど、絶対にい ないって言うことできないからね・・・・・・」

 

千早が夕菜に答える。

 

だが夕菜たちが驚くのも無理は無 い。

 

レオンとカイ、和樹に式神である 2人に敵う人を見つけろと言われたら世界中を探しても簡単には見つからないだろう。

 

「名前も聞いたよ。確か・・・八 神・・・八神和麻だったかな。20くらいだと思うけど・・・」

 

それを聞いて、夕菜、玖里子、 凛、沙弓がまた驚く。

 

「2、20!!」

 

「そんなに若くて!?」

 

「信じられません」

 

「本当か!?」

 

カイに迫って聞く4人、微妙にカ イ引いてます。

 

「嘘言ってどうなる・・・・・・ 和樹、どうしたの? 千早も?」

 

和樹が何か考えるような顔をして いるのにカイが気づいた。千早も何か考えているようである。

 

「和樹さんどうしたんですか?」

 

「どうしたの、2人とも?」

 

「いや、和麻って名前・・・」

 

「名前?」

 

4人が首をかしげる。

 

「でも、今20くらいだけ ど・・・・・・」

 

千早が和樹に言う。

 

「カイ、顔覚えている?」

 

「覚えているけど・・・イメージ 送る?」

 

「あ、ああ・・・」

 

和樹はカイを持ち上げると、額と 額を合わせた。カイの中にあるイメージが和樹の中へと流れる。

 

「和樹さん、次は私と・・・」

 

夕菜がなんか言っているが和樹に は聞こえていなかった。カイをおろす。

 

そして和樹の口がかすかに動き、 懐かしい人を目の前にしたかのように呟いた。

 

「・・・に、兄さん・・・」

 

「えっ!」

 

和樹の呟きに一番最初に反応した のは千早だった。

 

「・・・和樹君」

 

「・・・和麻兄さんだ」

 

和樹はもう一度呟いた。

 

「和樹君、それ本当?」

 

「ああ、間違いない。和麻兄さん に間違いない」

 

和樹は手を千早の額に当てるとイ メージを送った。

 

「お兄ちゃんだ。間違いない、和 麻お兄ちゃんだ」

 

千早の顔が笑顔に変わる。

 

「やっと見つかった」

 

和樹が子供のようにうれしそうに ハシャグ。

 

「ちょっと、どういうこと?」

 

「説明してください」

 

「あ、ごめん」

 

玖里子や夕菜に言われ和樹は説明 を始めた。

 

和麻のこと、自分達が兄と呼んで いたことなどを・・・

 

「・・・つらいわね」

 

「力が無ければ無能者扱いです か・・・」

 

「でも、いいお兄さんだったんで すね」

 

夕菜、玖里子、凛は話を聞いて少 し辛かった。自分たちも和樹の力のことを知るまでは和樹を馬鹿にしていたのだから・・・

 

「神凪か・・・」

 

沙弓が呟いた。家のことがあるの でそれなりに神凪のことは知っていた。凛もそれは同じである。

 

「今の宗主になってから少し盛り 返してきたって聞いたけど、ゲン爺たちの知り合いなのね」

 

「重悟おじさんは、和麻兄さんの 神凪では唯一の支えだったからね」

 

「和麻お兄ちゃんがいなくなって からは会わなくなっちゃったけどね」

 

昔のことを思い出しながら2人は 話した。

 

「でも、4年間の間に何があった のかな?」

 

カイが疑問に思ったことを言っ た。

 

「それと、神凪は炎術師の家系の はずだよね。でもあの人から感じたのは炎じゃなかった。強力だけど全てを浄化できるような風の力を感じたんだ」

 

「風か・・・あっ、やばい時間 だ」

 

時計を見ると昼休みの終わりに なっていた。

 

「まあ、後で何か分かったら教え てあげるよ」

 

そういうと和樹たちは教室と戻っ ていった。カイはその場に残される。でも気になったので話を聞こうとした。

 

「レオン、もっと詳し く・・・・・」

 

カイと一緒に屋上に残ったレオン に話を聞こうとしたがカイの言葉が止まった。

 

「・・・ムニャムニャ・・・牛食 べ放題・・・」

 

話の輪に入ってこないと思った ら、レオンは寝ていた。

 

「・・・やっは(やっ た)ーー・・・・ひゅうひょんふっかふは(牛丼復活だ)ーーー・・・」

 

涎を垂らして寝言を言うレオンは とても幸せそうだった。昼飯を食べた後だというのに何たる食力・・・

 

「お、お前ってやつ は・・・・・・」

 

カイはただ呆れて相棒を見てい た。

 

それと同時にコンビを解消したい と思った。

 

結局、一度眠りに着いたレオンは 起こせず話は寮に帰ってから和樹と千早に聞いたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

「う、うわああああぁぁぁぁっ!  な、何だ、何なんだ、お前はぁっ!」

 

同日、深夜。慎治は絶叫をしてい た。周りには2つの生首と、首なし死体が2つ転がっている。

 

そして、慎治の眼前には1人の ―――人間?

 

慎治には自信を持って断言するこ とは出来なかった。外見は人間以外の何者でもないが、その妖気は到底人の持てるものではない。

 

慎治と、30秒前まで生きていた 2人は、揃ってなす術もなく結界に取り込まれ、2人は即座に首をはねられた。

 

謎の人物は指1本動かしていな い。それなのに、冗談のように勢いよく首が刎ね飛ぶ瞬間を、慎治ははっきりと目撃した。

 

いや、させられた。

 

慎治が生き残ったのは、他の2人 より優れていたのでも、運が良かったからでもない。そのことを、慎治は誰よりもよく理解した。

 

ただ、なぶっているのだ。自分 を・・・

 

この人身の悪魔は、慎治の恐怖と 絶望を喰らっていた。一息には殺さず、じわじわと弄び、儚い抵抗を愉しんでいるのだ。

 

「何なんだよ、俺が何したってん だよ・・・」

 

『それ』は何も答えない。足音も たてずにゆっくりと近づいてくる。

 

『それ』は一切の音を発しなかっ た。音もなく現れ、歩み寄り、不可視の刃を操る。

 

首を断ち斬った時でさえも無音 だった。血まみれの二つの首は、自分たちが死んだことにも気づかず、酔いに身を委ねたまま緩んだ笑みを浮かべている。

 

『それ』と同じことが出来る人間 を、慎治は1人だけ知っていた。それも昨日会ったばかりである。

 

更に、その人間には自分たちを殺 す動機がある。

 

その人間にはかなりひどいことを してきた。自分だったら耐えられないようなことを数えることができないほどしてきた。

 

慎治は必死になって『それ』に許 しを乞う。声が完全に裏返っていた。

 

「か、和麻か? 和麻なのか?  許してくれ、俺が悪かったよ、反省している。だから許してくれよぉっ!」

 

返事は風刃の一閃であった。右腕 が付け根からスッパリと切断される。高密度の精霊で形成された刃は、骨と肉を豆腐のように切り裂いた。

 

「うわああああ あぁぁぁぁぁっ!!」

 

絶叫をしつつ、痛みに我を忘れそ うになりながら慎治は無我夢中で炎術を起動した。死を目前にした集中力が、25年の人生で最高の威力を発揮させる。

 

慎治から放たれた炎が『それ』の 全身を金色の炎に包みこむ。あらゆる魔を滅殺する、最高位の浄化の炎が暗闇をまばゆく照らす。

 

「や、やった! これな ら・・・・・・・・・・」

 

不意に、巨大な松明と化した『そ れ』が動き出した。慎治の期待に満ちた目が一瞬にして凍りつく。

 

『それ』は手を伸ばし、身体に纏 わり付く金色の炎を無造作に鷲掴みにすると、一気に引き剥がした!

 

炎の束縛を逃れた『それ』はまっ たくの無傷だった。身体はおろか、服に焦げ跡ひとつ無い状態だった。

 

何もなかったようにその場に立っ ている。相手との力の差は誰が見てもわかった。

 

さらに空から妖魔が降り立つ。そ の数は4体・・・そしてその頭上にその4体よりも巨大な力がもう1体・・・

 

目の前にいる4体も頭上にいるも う1体も、慎治のはるか上の力を言っていた。いや、その力は重悟、厳馬よりも上かもしれない。

 

特に樹上にいる妖魔は離れている のにもかかわらず、目の前にいるかのような恐ろしさを感じた。

 

『それ』は再びゆっくりと慎治に 向かって歩きだした。

 

冴え渡る月光の下、音も近づく凶 々しい影。それがどこか歪んだ。それでいてどこか人目を引き付けてやまない。

 

異界の美とも言うべき美しさをは らんだ光景だった。

 

「ひ、ひひっ、ひひいひひひっ、 きゃはははあははははは!」

 

突然、慎治が奇妙な声で笑い出し た。恐怖と妖魔から感じるその力のあまり、精神の均衡が崩れたらしい。

 

風刃が全身を切り裂いていくが、 ただ笑い続けるだけで何の反応も示さずにいる。

 

『それ』は反応のない慎治をなぶ るのを飽きたのか、要らない玩具を放り捨てるように、無造作に慎治の首を刎ね飛ばした。

 

ゴトッと鈍い音を立て、3つ目の 首が路上に転がる。生ある者を殺しつくしても、『それ』はまだ物足りないのか、執拗に死体を切り刻み続ける。

 

ものの数分で三つの死体が細切れ に変わった。親が見てもわからないどころか、もはや何の肉かもわからないだろう。

 

血と生肉の生臭い臭気の漂う結界 の中で、『それ』は酷薄に嗤うと、空気に溶けるように消え失せた。

 

妖魔が1体残り首だけを残して全 てを喰い尽していく。

 

後には3つの生首が残る。傷1つ 付いてない首が・・・

 

いつの間にか門前に一直線に並 び、それぞれが奇矯な笑みを浮かべた3つの生首は、まるで門から出てくる者達に向けている。

 

「悪夢の世界へようこそ」

 

笑いかけているようにも見えた。

 

神凪滅亡への運命は切って落とさ れた。

 

 

 

 

 

 

あとがき

生きる価値がない・・・

レオンで〜す!

どこまで腐っていくのか? 腐っ ても鯛というが腐りきったら何になるのだろうか・・・(生ゴミかな・・・)

和樹たちは楽しく談笑。和麻が日 本にいる事を知りました。

次回、綾乃登場。はたしてヒロイ ンでいることができるのか?


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