第1部   〜動き出す運命〜

 

 

 

 

第9話 父との再会

 

 

千早が綾乃たちを妖魔から助けて いる時に戻る。

 

(で、あと1つ・・・・・・こい つは別格だ・・・)

 

和麻は3人を倒した後もう1つ自 分を見ている存在がいることに気がついていた。2人を相手にしながもその存在を探り続けていた。だがその相手は決して自分の居場所を悟られるようなヘマを しなかった。

 

驚くべきことは風術師である自分 に居場所を気づかれないでいること、さらに相手の力・・・決して大きいものではなかった。

 

外だけは・・・

 

和麻には分かった、分かってし まった、力のある者として。

 

その気配は外見だけだと、相手は 内側に巨大な力を秘めていると気づいてしまった。さらにその力は自分と同等の強さ・・・下手したらそれ以上だとも。

 

(くそっ、何なんだこの力 は・・・俺と同等なんて・・・)

 

和麻は必死になって相手の居場所 を探した。

 

ガラガラ・・・ゴトン!

 

そのとき不意に背後から物音が聞 こえた。和麻はすぐにその方向を向き構えを取る。

 

だがその場にいたのは販売機から ジュースを取り出す自分の良く知るコウモリの羽をつけたボールみたいな生き物だった。

 

「飲んだらこう言っちゃうよ 〜♪・・・・・・ゴクゴク・・・・・・くぅ〜〜〜!!!」

 

「・・・・・・・・・」

 

実に美味そうにジュースを飲む生 き物を和麻は無言で見る。その表情にはただ呆れた感情だけが表れていた。

 

相手も視線に気がついたのか手で 頭をかきながら失敗したという顔をしていた。

 

「あっ! 見つかっちゃった。も うワンテイクいい?」

 

「駄目」

 

即答した。

 

「格好よく出てきて驚かそうと 思っていたのに・・・もうワンテイクお願い」

 

「駄目!」

 

「ちぇっ! ノリが悪い」

 

「なら、ジュース買うな!?」

 

「目の前に販売機、喉が渇いて る。金がある。飲み物買わずに何を買う!」

 

「・・・はぁ〜、お前は変わって いないよ。レオン」

 

「ノリが悪くなったよ。和麻は」

 

和麻は生き物・・・レオンに向 かっていった。そして全て納得できた。レオンなら自分と同等の力を持っていても全くおかしくないし、気配の消し方のうまさも分かる。

 

「で、何でお前がここにいるん だ?」

 

「決まってるじゃん。和麻を探し てたんだよ。必死に!」

 

「・・・・・・いや、全然説得力 ないぞ・・・」

 

ジュースを飲みながら汗1つかか ずにのんびりとしているレオンを見たら誰も信じないだろう。

 

「久しぶりだな。で、お前1人な のか?」

 

「千早も一緒に来てるよ。カズは 別行動だけど、後カイもね」

 

「カイ?」

 

「会ったことあるでしょ、もう」

 

聞いたことのある名前に和麻が反 応した。もしかしてと考えたと同時にレオンがその考えを肯定する。

 

「あいつ、式神だって言ってたけ ど和樹の式神だったのか!?」

 

「それで、カイにあって思ったこ とは?」

 

ジュースの缶をマイク代わりに和 麻へと向ける、レオン。少し考えると和麻はしみじみとこう言った。

 

「・・・・・・お前と違って落ち 着きのある式神だと思った」

 

「・・・はっ・・・そりゃどう も、で、カズたちが会いたがってるんだけど会いに来るよね」

 

和麻は少し考えるような顔をす る。

 

「・・・悪いけど俺も忙しくて ね。探している人がいるんだ。そいつはこの日本にいるら・・・」

 

和麻の言葉が不意に止まる。上空 を見ると何か不吉なものを感じた。

 

「・・・和麻、気づいてる」

 

「ああ、何かとてつもないものが 集まってやがる」

 

今まで気がつきもしなかった。レ オンと話していたとはいえ辺りに対して警戒を怠っていなかった。

 

レオンも同じく今まで気がついて いなかった。

 

その気配はいきなり現れたといっ てよかった。

 

「なっ!」

 

「・・・気をつけろ、和麻! 相 手は普通じゃない!」

 

いつの間にか人間体へとなったレ オンが和麻の横に立っていた。

 

上空に集まる妖気の強さから人間 体でなければ対応できないと即座に判断したのだ。

 

その力は人間体へとなった自分に も匹敵・・・それを超えるかもしれないほどの強さだった。

 

「来るぞ!」

 

和麻が叫んだときにはレオンもす でに動いていた。2人に襲い掛かる黒い風の刃は研ぎ澄まされた刀のように感じた。

 

「何だと!?」

 

(不意を突かれた? この俺が か!?)

 

不意を突かれたことにも驚いた が、その後放たれた風のほうに和麻は驚いていた。

 

誰が風を召喚しても、自分に気づ かれることなくこれほど強い風を見逃すはずがなかった。

 

(どういうことなんだ、一 体!?)

 

和麻はこの事実に少なからず焦っ ていた。だが、今することは考えることではない。

 

(これ以上好き勝手させる か!!)

 

和麻は手を振り上げると自分に向 かってくる風に向かって振り下ろした。

 

「鎌鼬」

 

風と風がぶつかり合う。

 

和麻は自分の鎌鼬が黒い風の刃を 消しさると思った。

 

だが・・・

 

「なにっ!」

 

黒い風は鎌鼬を消し去り和麻へと 向かってきた。威力は弱まっていたが、それでも力はまだ残っていた。

 

「くそっ!」

 

再び鎌鼬を放とうと風の精霊を集 めるが、それより速く黒い風は和麻の目の前でかき消された。

 

「何してるんだ? 4年間遊んで いたのか?」

 

黒い風を切り裂いたのは青龍刀を 持ったレオンだった。

 

「くっ!」

 

内心悔しかったので舌打ちをす る。

 

「手加減する必要はない。本気で いけ!」

 

「ああ」

 

和麻は手加減しているわけではい なかった。だが思っていた以上に黒い風は強かったのだ。

考え込みそうになったが上空を見 上げると20cmほどの平べったいものが2、30mほど上空に浮かんでいた。

 

「なんだ・・・・・・あ りゃ・・・」

 

「ヒトデ・・・」

 

「いや、オニヒトデ・・・」

 

どっちでもいい!

 

どちらにせよ空を飛ぶものではな い。ましてや風を操るわけもない。

 

2人は見ていい手すぐに気がつ く。

 

・・・人の手・・・

 

腐乱したような、皮膚を剥がされ たりしたような人の手が空を飛んでいた。

 

その手の正体は・・・・・・妖魔 の手・・・・・・自分の手を使い魔として送ってきたのだ。

 

そしてその手だけでも神凪家の術 者や一般の魔術師なら相殺することができる力を感じ取れた。

 

(つぶす!)

 

和麻が手に精霊を集中させようと した。だが精霊の様子がおかしいことに気づく。

 

さらに和麻の心を読んだかのよう に手は上空に舞い上がり視界から消え――――気配さえも消えた。

 

「ちょっと待てぇ! お前ら一体 なに考えてやがる!?」

 

和麻は風の精霊たちに向かって吠 えた。手の周りにいた風の精霊たちが自分のいうことを聞かなかった。

 

周りの精霊たちも戸惑った声を上 げる。これは明らかな契約違反だ。

 

「一体どうなってんだ?」

 

「私のほうも駄目みたいだな」

 

和麻がぼやく、レオンも駄目だと 手を振る。

 

レオンはまだそれほど驚いていな かった。だが和麻は違う。

 

風の精霊が自分に従わないという ことは和麻にとっては非常識なことなのだ。

 

精霊とは意志ある現象。『原書の 法則』―――――世界創世の刻、何者かが、あるいは世界そのものが制定した不変の原則―――――に従い、世界をあるべき形に保つために存在するものであ る。

 

精霊たちは知性があっても個我は ない。契約を破るような自由意志もない。ましてや風の精霊王と契約した『コントラクター』である和麻ならなおさらである。

 

もしも精霊が個々の意志で動き出 せば、物理法則が崩壊してしまい、世界は3日と持たずに破滅することになるだろう。

 

もし和麻と同時に風の精霊を集め ようとしたら精霊たちは迷わず和麻につく。契約は必然的にそうした意味を持つものなのである。

 

レオンとか同等のレベルが相手で は話は変わってくるが・・・・・・

 

「和麻・・・」

 

「いや、ありえ・・・なくもない か・・・」

 

自分の探している人物、2人。そ の2人にも、共通する。

 

光と闇。

 

自分の風が光なら、闇も存在す る。

 

だがそれは最悪な事態でもある。

 

(俺と同じやつがいる? 最悪だ ぞ、それ・・・)

 

もしそれが当たっていたら、戦っ たらどちらが勝つか分からない。

 

自分の力、技、学んできたこと、 全てをぶつけても勝てるかどうか・・・

 

もちろん負ける気はないが、戦っ た後その場がどうなっているか?

 

もし街中で争ったりしたら、その 街1つ消し飛ぶ被害で済めばいいほうである。自分も無事ではすまない。

 

自分にはまだすべき事がある。そ れをするまでは決して死ぬわけにはいかない。

 

彼女を・・・翠鈴を助けるまで は・・・彼女の笑顔を見るまでは・・・・・・

 

「和麻、ともかく私と和樹のとこ ろに行こう。和樹、私とカイなら相手が何者だろうと何とかできる。今は1人でいるのは危険だ」

 

「・・・レオン、あいつはそんな に強くなったのか?」

 

和樹なら何とかできると言うレオ ンに和麻は問う。コントラクターである自分でも勝てるか分からない。

 

その力を見たばかりでもレオンは 自信がある声で言った。

 

「それは、自分の目で確かめてみ ろ。少なくとも私は本気でなければ和樹を相手に出ない」

 

レオンの声は変わらなかった。自 信のある声で和麻の問いに答えた。

 

目を見ても嘘を言っている目では なかった。和樹を信用している、信じている目だった。

 

「わかった」

 

「後ろの奴らは、後で警察にでも 電話しとけば何とかなる」

 

2人は自分たちの後ろに目を向け る。

 

そこには血まみれになった武哉と 慎吾が転がっていた。遠くから見れば人形にも見えなくもないかも知れない。

 

「でもよくさっきの攻撃で死なな かったな、こいつら?」

 

不思議で仕方なかった。自分は妖 魔が現れたときこの2人のことなど気にしていなかった。それなのに2人には自分が鎌鼬でつけた傷しかなかった。

 

「一応、風なら防いでおいた。後 々面倒になるしな」

 

「あっ、そうですか」

 

レオンの返答に納得する。こいつ ならそれくらい寝ながらでも簡単にやるだろうと。

 

「千早も待っているだろうから行 くか」

 

「そうだ・・・」

 

その場を去ろうとしたとき、2人 の動きが止まる。

 

自分たちのところに向かってきて いる2人の気配を感じたからだ。

 

「誰だ・・・千早ではない」

 

「だな、あいつはこんなに凶暴な 殺気を出すようなやつじゃなかった」

 

レオンが向かってくる相手が千早 でないことはすぐに分かった。2人とも炎の精霊の気配を感じたからだ。ついでに千早は暴走などしないと。

 

「見つけたわよ、和麻!」

 

自分たちに向かって来ていた人物 は和麻を見つけると大声で叫んだ。もう1人の男ほうも和麻を見ている

 

「?」

 

だが和麻は相手の名前を忘れたの か、知らない人に声をかけられたような顔をしている。

 

「誰だっけ?」

 

男のほうは何となく思い出せた。

 

たしか分家の大神家の弟だった と、だが女のほうが思い出せない。見たことはあったと思ったがそれが思い出せなかった。

 

「怨敵、八神和麻! 妖魔と結託 して神凪の術者を惨殺した罪、命をもって祓わせて貰うわ!!!」

 

『・・・・・・・・・・・・・・・ はぁ〜〜〜〜〜〜〜〜〜』

 

和麻は『またかよ』と疲れたよう に溜め息をつく。分家馬鹿2人に続いてまた出て来たかと。

 

そして妖魔と結託した覚えもな い。

 

というか呼び出しだった段階か ら、命をもって詫びろと言ってきた。しかも怨敵って和麻が怨むならともかく神凪か和麻を怨むって一体・・・

 

一体何を考えているんだ、神凪 は・・・・・・そう考えてならない。

 

和麻は今日の自分の運勢は最悪な んだろうなと内心どうでも言いことが頭を過ぎった。

 

同様にレオンも神凪の馬鹿さ加減 にいい加減に頭が痛くなってきていた。

 

転がっている2人もそうだが話し 合いというものを神凪の人間は分かっていない。あれでは完全に自己主張である。

 

さらに炎術師がどれだけ相手の気 配を呼んだりするのが苦手でも相手の強さと自分の力の強さを測ることくらいはできる。

 

現に重悟はしっかりと判断できて いたのだから。

 

「武哉!」

 

雅人が地面に血まみれで倒れてい る武哉と慎吾を見つける。

 

「安心しろ、死んではいないか ら」

 

逆にこっちは2人の命を助けたの だ。まあ、和麻でなくレオンだが、それでも文句を言われる覚えはない。

 

傷だって正当防衛である。殺され なかっただけ良かったと思ってもらいたいくらいだ。

 

しかし、先ほど妖魔に襲われた2 人には和麻の言葉は届かなかった。

 

先ほどの妖魔の言葉ですでに和麻 を妖魔と契約したと信じ込んでいる。

 

そんな和麻の言葉に聞く耳を待た なかった。

 

さらに、地面に転がる2人を見た 2人は完全に頭に血が上っていた。

 

「貴様、神凪に恨みを持つのは分 かるが妖魔と結託してまで復讐するとはそれでも人間か!?」

 

神凪は生まれたときから精霊術師 であり、そしてその力を魔を払うために使う。

 

その神凪に生まれた人物が・・・ 魔を払う一族のものが魔を受け入れた。

 

雅人はそれがどうしても許すこと ができなかった。

 

「どう思う?」

 

「・・・・・・」

 

「・・・・・・無視するなよ」

 

レオンに聞いたが私は知らないと いうか、かかわりたくないという感じて和麻の問いを流した。溜め息をついて視線を2人に戻すと大量の炎の精霊が召喚されていた。

 

(ふ〜ん、怒った(暴走)夕菜と いい勝負だな・・・)

 

レオンは集まった精霊の量を見て いつも自分の周りで暴走する夕菜を思い出した。

 

「あんたはやっちゃいけないこと をしたのよ! 分かってんの!?」

 

もはや爆発寸前の綾乃は和麻に怒 鳴り声を上げる。

 

和麻のせいで妖魔に殺されそうに なったと思い込んでいる綾乃は和麻を前にして自我を抑えられなくなってきているようだ。

 

「・・・・・・だから俺が何をし たってんだよ。こいつらを倒したのは俺に向かってきたからだ。正当防衛だろうが。それにやっちゃいけないことくらいの善悪はついてるぜ」

 

「この期に及んで白を切るなん て、救う価値なんてないわね」

 

「いや俺の話聞けよ」

 

全く聞く耳を持たない綾乃は炎雷 覇を出現させると和麻に向けて構える。

 

それを見て(炎雷覇を見て)和麻 は思い出したように手を叩いた。

 

「・・・炎雷覇・・・あっ、そう かお前・・・綾音(あやね)か!?」

 

・・・・・・・・・思い出してい なかった・・・・・・・・

 

しかし和麻は当たっているだろと いう満足げな顔をしている。

 

・・・・・・・・・・・プッチ ン!

 

そのとき綾乃の中でことをたてて 何かが切れた。2人の術者を半殺しにしたことを怒っているのか、名前を間違えられたことに怒っているのか?

 

「あ・や・の、だあああああ あーーーーーー!!!」

 

名前のほうだった。

 

巨大な炎を炎雷覇に集中させ綾乃 は和麻に己の怒りをぶつけた。

 

金色の浄化の炎が和麻を包み込ん だ。

 

「やった!」

 

綾乃は勝利を確信する。

 

和麻は継承の儀のとき自分の炎を 防ぐことができなかった。あのときの数倍の炎を受けて無事なはずがない。

 

「自分の行いを反省するのね」

 

得意げに言う綾乃。

 

だが雅人は逆に焦っていた。

 

「お、お嬢なんてこと を・・・・・・」

 

「何が当然の報いでしょ!?」

 

「和麻の足元にいた2人はどうな る!?」

 

その言葉に綾乃の表情が一気に青 ざめた。

 

「え、えーと・・・・・・」

 

炎はこれでもかというくらい燃え 上がっていた。

 

「で、でも、2人とも炎術師だ し・・・」

 

炎術師なら炎の加護を受けている ので炎で焼け死ぬことはない。

 

「2人は気絶していた上にあの怪 我じゃ・・・」

 

「やばい!」

 

綾乃が炎を消し飛ばして2人を助 けようとしたとき突如として炎が揺らいだ。

 

「な、なに!?」

 

いきなりのことに綾乃が焦る。

 

次の瞬間、炎が一気に破裂し消え 去った。そしてそこに立っていたのは火傷1つない無傷の和麻と武哉と慎吾の前に立つレオンが佇んでいた。

 

「これが神凪の炎・・・・・・こ れで炎術師を名乗っているってのか?」

 

「呆れてものもいえないな」

 

和麻は信じられないような顔をし て呆れていた。レオンも予想に反した力の弱さに正直拍子抜けしていた。

 

「これ位の炎なら魔術師でも簡単 に使えるぞ」

 

(確かに・・・夕菜の攻撃のほう がこれなら数倍強いかもしれない・・・)

 

和麻の言葉をレオンは頭の中で納 得していた。

 

でも炎術師よりも強い炎を放てる 夕菜って一体・・・・・・

 

「う、うるさいわね! 黙りなさ い!!」

 

レオンの心中など知らない綾乃は 再び炎雷覇を構えると炎を集め始めた。

 

「いい加減にしろよ。それと、負 けたものは神凪では焼き払う決まりにでもなったのか?」

 

地面に倒れる武哉と慎吾を見なが ら和麻はぼやいた。

 

「俺らが庇ってやんなかったらこ いつら灰になってたぞ」

 

(・・・庇ったのは私だ)

 

レオン、頭の中で訂正。

 

「やかましい2人を返しなさ い!!」

 

「・・・・・・別に人質になんて してないぞ。いいかげん勝手なこと言ってんじゃねぇ!」

 

さすがに和麻もイラついていた。 自分勝手に言葉を並べ、話を聞こうとしない。自分の言っていることは全て正しいとでも言っているような綾乃に怒りを感じずにいられなかった。

 

「和麻、話しても無駄だ」

 

レオンは和麻に話しかける。

 

「自己中心的な考えだけで周りの 見えない者には何を言っても無駄だ。自分が1番という傲慢な神凪の人間だ、お前もわかるだろ」

 

「ああ、さっさと行こう・・・ ちっ、また邪魔なのが来やがった・・・」

 

和麻とレオンを神凪の術者たちが 取り囲むように周りを固めた。

 

だが和麻の視線は術者たちには向 けられていなかった。

 

和麻の目はたった1人の術者にだ け向けられていた。レオンもその術者へと視線を注ぐ。

 

自分とレオン以外、この場にいる 術者の中で1番強い気配を撒き散らす男。

 

自分にとって忘れたくても忘れら れない男。

 

「貴様の契約した妖魔は何者 だ?」

 

「いきなりそれかよ・・・・・・ えっ! ちち・・・いや、神凪厳馬」

 

和麻は完全に呆れ返り言葉を返 す。そして、父上と呼ぼうとしてやめ、皮肉を込めて名前で呼んだ。

 

「答えろ、お前の契約した妖魔 を!!」

 

声を張り上げて厳馬は和麻を怒鳴 りつけた。

 

「俺は妖魔なんかと契約した覚え はない。神凪に喧嘩を売った覚えもない。そいつらは好き勝手言って襲ってきたから倒しただけで正当防衛だ。で、団体さんをつれてそちらは何をしにきた?  俺はこんなやつらになんか構っていられないんだが」

 

厳馬の怒鳴り声も軽く流し和麻は 答えた。ただでさえ話したくない相手なのでこれ以上相手にする気もなかった。

 

「あんたまだ白を切る気な の!?」

 

和麻の答えに綾乃が噛み付く。冷 静さのかけらもなかった。

 

他の術者たちも同様に怒りをあら わにしている。今すぐにでも和麻を八つ裂きにしようとしているのが感じられた。

 

「知らないことを答えることでき るかよ」

 

さっきからこの会話の連続だ。も はや和麻は神凪相手に話をする気なんてほとんどなかった。

 

さらに自分の目の前にいる男は話 どころか顔さえ見たくない男だ。

 

自然と和麻の手を握る力が強く なっていた。

 

「しゃべる気にならない か・・・・・・」

 

和麻の言葉など聞いていないよう に厳馬は切り出した。

 

お互いの主張を言うだけの会話、 すでに話し合いでもなんでもなかった。

 

多少なりとも和麻は相手の問いに 答えている。だが厳馬は全く聞く耳を持っていない。

 

「だから、知らねぇことをどう やって話すんだ! お前らはの耳は飾りか!?」

 

和麻は再び同じ言葉を言う。それ が事実である以上他に言いようがない。

 

その言葉を聞こうともしない厳馬 は和麻に向けて言い放った。

 

言ってはならない言葉。

 

勘当した息子に対してではなく、 人に向けて言っていい言葉ではない。

 

さらにその言葉はある人物に怒り を買うこととなる。

 

「話し合う余地はないな。ならも ういい。お前はすでに私の息子でもなんでもない。せめてもの情けだ。自ら生み出した失敗作は自分の手で葬り去ろう」

 

(・・・失敗作だと)

 

厳馬の言葉にレオンの目つきが明 らかに変わった。

 

それに気づかない厳馬は手に凄ま じいまでの炎を出現させる。分家や綾乃の炎の比ではなかった。

 

その炎は現在神凪という炎術士の 一族の頂点に立つに相応しい力と言えよう。

 

重悟が足を失ってから厳馬は神凪 最強の術者となった。

 

厳馬の前ではどのような妖魔も塵 になり消えうせる。それが神凪家の術者の中では常識となっていた。

 

(くそっ、嵌められたってことか よ。神凪との全面戦争になるなんて・・・)

 

和麻は自分が完全に嵌められたと 思った。ここまで状況が悪くなるなんて、考えもしなかった。

 

これじゃ彼女を・・・翠鈴を助け る前に自分がどうにかなってしまう。

 

だがここで自分はやられる気はな い。そしてこのまま黒幕の操り人形になる気もない。

 

和麻が手に風の精霊を集めようと したとき目の前に立ちはだかる人物がいた。

 

「・・・レオン、何するんだ?」

 

「・・・・・・・・・」

 

レオンは無言で厳馬をただ見てい て和麻に答えようとしない。

 

だが和麻には表情からレオンが凄 まじい怒りを厳馬に向けていることが分かった。

 

鋭いレオンの視線が厳馬へと向け られている。それに答えるかのように厳馬もレオンと視線をぶつけ合った。

 

レオンの射殺すような視線にたじ ろがないのはさすがと言えよう。

 

お互いの殺気がぶつかり合い火花 を散らしている。

 

どれくらいの時間が過ぎただろう か。数秒か、数分か・・・その時間はとてつもなく長く感じられた。

 

先に言葉を発し沈黙を破ったのは レオンであった。

 

「・・・今の言葉、すぐに取り消 してもらおうか」

 

「・・・誰だかわからないが関係 ない者は引っ込んでいてもらおう」

 

厳馬はレオンの言葉を聞かずにさ らに殺気を飛ばす。その殺気に周りの術者たちや綾乃や雅人も恐怖した。

 

だがその殺気にもレオンはまった く臆した様子を見せずに言葉を続けた。

 

「・・・失敗作だと・・・貴様ふ ざけたことを」

 

レオンが和麻を見ていった。そし て再び厳馬へと視線を戻す。

 

「和麻のどこが失敗作なんだ?」

 

「・・・・・・」

 

「誰がそんなことを決めたん だ?」

 

誰も言葉を返そうとしない。厳馬 も無言で立っている。

 

「勝手に和麻を神凪から追い出し て、今更父親見たいに振舞う。仕舞いには勘当した息子に失敗作と貴様はいうのか」

 

レオンは自分のことで厳馬に怒り をぶつけている。和麻はただレオンの背中を見ていることしかできなかった。

 

「貴様にそんなことを決める権 利、言える権利があると思っているのか?」

 

「・・・・・・」

 

厳馬はなにも答えない。

 

レオンが言ったことは間違いでは ない。勘当した息子に向けて言っていい言葉では決してない。

 

沈黙を破ったのは以外にも綾乃 だった。

 

「そいつは妖魔と契約を結んだの よ。人間として最低のことをしたのよ!!!」

 

綾乃の言葉に周りの術者たちもそ うだそうだと声を上げる。

 

「そいつは人間の恥だ」

 

「悪魔だ」

 

「生きてる価値なんてねぇ!!」

 

和麻に対して非難の声が浴びせら れる。

 

「黙れ、貴様ら!!!」

 

レオンの殺気の篭った怒鳴り声に 綾乃や術者たちは縮こまった。あまりの殺気に中にはその場に倒れこむものまでいた。視線だけでも人を殺せそうなほどレオンは殺気立っていた。

 

「術者として、人として恥じるべ きことをしている貴様らに文句を言う権利などない!!!」

 

「・・・貴様は・・・何者だ?」

 

「人を人としてみない者に名乗る つもりなどない。人のことを物のように平気で言える人間のほうが妖魔と契約してるのではないか?」

 

レオンは厳馬の言った一言がどう しても許すことができなかった。

 

『失敗作』、和麻を人としてみて いない、その一言がレオンの怒りに火をつけた。

 

レオンは和樹が周りからそう言わ れるのを何度か見てきた。そんな和樹を見るたびに怒りを覚えて仕方がなかった。

 

同様に和麻を無能者扱いしていた 神凪を昔からレオンは酷く嫌っていた。

 

『神凪でない術者は、術者ではな い』

 

未だにそんなことを言っている神 凪をよく思うものなどいるわけがないのだが・・・

 

和麻を厳馬が勘当したと知ったと きも源氏が止めなければ単身、神凪に乗り込んでいたかもしれないほどだった。

 

今もそのときの怒りは消えたわけ ではない。

 

「まあいい。妖魔と契約した和麻 を庇うならお前も生かしてはおけん」

 

そう言うと厳馬は炎を手に再び出 現させる。そしてレオンに向けて炎を構えた。

 

「和麻諸共葬り去れ!」

 

凄まじい炎が放たれレオンを包み 込んだ。そして和麻もその炎に飲み込まれて2人の姿は見えなくなった。

 

術者たちの誰もがその圧倒的な炎 に驚きの声を上げた。

 

そんな中、厳馬は1人落ち着いて 術者たちに指示をする。

 

「2人は葬った。本家に戻るぞ。 まだ妖魔が残っている」

 

『は、はい』

 

術者たちは慌てて指示に従う。厳 馬に声をかけられて綾乃も言われた通りに行動しようとしたとき炎の中から声が聞こえてきた。

 

その声は低く殺気のこもった声 だった。

 

「・・・これが神凪家最強の 炎・・・・・・朽ち果てた神凪の炎など所詮この程度のレベルか・・・・・・」

 

術者たちの視線が燃え盛る炎へと 向けられる。

 

「滅」

 

ゴウ!

 

炎が一瞬にしてかき消されると厳 馬の放ったのとは別の炎が辺りを包み込んだ。

 

そしてその炎が収まり人の姿が見 え始めた。

 

そこには何事もなかったかのよう にして立つレオンと和麻の姿があった。

 

「うそっ!」

 

綾乃が驚き声を上げた。このこと は周りの術者にも衝撃が走った。神凪最強の炎の持ち主である厳馬の炎がかき消された。そんなことありえないと思っていたのだ。

 

「本当に幻滅したぞ、神凪に は・・・これで炎術師を名乗っていることを恥じないとは神凪の道は決まったな・・・」

 

レオンはそう言うと厳馬に背を向 けて歩き始めた。

 

もはや相手をする気も失せたの だ。

 

だが次の瞬間、背後に殺気を感じ 再び振り向く。

 

「神凪を舐めてもらっては困る。 今の炎が本気と思うな」

 

厳馬の手に集まる精霊、その数は 綾乃の何倍にも膨れ上がっていた。

 

「弱い者程よく吼えると言うがお 前のその口か」

 

レオンは厳馬の方へとゆっくりと 歩き出す。その姿は隙だらけのようで全く隙がなかった。

 

もっともそれに気づいたのは和麻 と厳馬だけであったが。

 

「滅び・・・」

 

目の前にいたレオンの姿が一瞬の うちに消える。

 

厳馬は一瞬レオンを見失ったが反 射的に体を動かし背後から放たれた蹴りを受け止める。

 

だが勢いを止めきることはできず 後ろに飛び力を受け流した。

 

しかしレオンの攻撃はそれでは終 わらない。

 

「ぐおっ!」

 

目にも留まらぬ速さで掌底が厳馬 の腹に突き刺さった。

 

まさに一瞬の出来事である。倒れ こそしなかったが完全に決まった掌底は厳馬を軽々と弾き飛ばした。

 

「くっ!」

 

厳馬は腹を手で押さえながらも顔 を上げる、だが既にレオンは前にはいない。

 

「これで終わりか?」

 

「!?」

 

背後から声がかけられる。

 

全く気がつかなかった。いつ後ろ を取られたのかさえ厳馬には悟ることができなかった。

 

「神凪厳馬、私の敵ではない。お 前など体術だけでも十分だ」

 

「舐めるな!」

 

炎がレオンへと放たれるがその炎 がレオンに当たることはなかった。

 

炎が触れる瞬間、レオンは瞬時に 動き厳馬の目の前へと現れた。

 

「はっ!」

 

再び掌底が放たれるが今度は後ろ に飛び交わした。だがそれもレオンに手の中で踊らされているに過ぎない。

 

レオンは厳馬が後ろへ飛んだ瞬間 には背後に既に回り地面へ着く足を軽く払った。厳馬は地面へと倒れ込む。

 

さらに厳馬の顔のすぐ横をレオン の靴底が通り過ぎ地面へめり込んだ。

 

「体術は・・・重悟がトップから 降りて、現在神凪で1番だという話だが、だがそれは神凪の中でだけの話だったのか」

 

「き、きさま・・・」

 

再びレオンの姿が消える。

 

次に現れたのは和麻の隣だった。

 

「腕の痺れ、腹に痛みはしばらく 取れない。無理はしないことだな」

 

厳馬の腕はレオンの蹴りを止めた 衝撃で未だに痺れていた。腹部に受けた掌底のせいか骨は大丈夫だろうが未だに鋭い痛みが全身を襲う。動かそうと思えば動かせる、だが厳馬の精神力を持って して可能であり普通なら起き上がることさえできないほどの痛みである。

 

他の術者であったら腕の骨は砕か れ、あばらも何本か折れ筋肉の筋もどうかしていただろう。

 

厳馬の敗北に周りの術者は言葉を 失っている。

 

自分たちが逆立ちしても勝てない 厳馬をレオンは体術だけで倒してしまったのだ。それも余裕を持って・・・驚きのあまり完全に固まってしまっていた。

 

「和麻、行くぞ。相手にするだけ 無駄だ。いや、これ以上相手にすれば弱者を叩くだけしかできない神凪と同じになる」

 

レオンの言葉に和麻は頷く。おそ らく今のレオンには何を言っても聞かない。

 

レオンが本気になったらここら辺 一体は焼け野原になってもおかしくない。

 

あれくらいで終わったのはまだ優 しい対応だと感じた。

 

「・・・ああ、間違いない」

 

レオンに続いて和麻も歩き始め た。

 

「待て!!!」

 

去ろうとする2人を厳馬が止め る。痺れの残るその手には再び炎が集まっていた。

 

「逃がしはしない」

 

先ほど放ったよりもさらに強力な 炎を集める。

 

「痛い目を見ないと分からない か」

 

それにレオンが動こうとするが今 度は和麻が前に出た。

 

「和麻」

 

「俺が行く、お前が出ることもな いだろ」

 

レオンを止めると和麻は手に風の 精霊を召喚し始めた。

 

『!!?』

 

その場にいた全員が、その凄まじ い精霊に驚いた。厳馬に匹敵するほどの精霊が和麻の周りに集まり始めていた。

 

だが誰もその精霊が妖魔との契約 のよって得たのだと誤解していた。

 

和麻が妖魔と契約したと言う先入 観により誰も自分たちと同じ純粋な精霊だと考えるものはいなかった。

 

さらに和麻は自分たちを恨んでい る。そのことがさらに誤解を強くしていた。

 

「それが妖魔と契約して手に入れ た力か? だがそんな貰い物の力、私には通用しない」

 

「・・・貰いものだと」

 

厳馬はこのときとても恥ずべき言 葉を口にした。

 

その言葉に和麻とレオンは厳馬を はじめ、神凪の術者たちを心から軽蔑した。

 

(腐りきってやがる、神凪 は・・・)

 

精霊は貰い物ではない。借り物の 力である。

 

前にも言ったとおり世界をあるべ き形に保つために存在するものである。

 

今の厳馬の言葉は精霊が元々自分 が持っていたものだといっていることになる。

 

精霊も魔力と同じものだと、自分 の力なのだと。

 

同じように神凪一族のほとんどの 者がそういう考えであるのだ。

 

綾乃でさえ本当にそのことを理解 しているのか疑わしい。おそらく理解していないだろう。

 

「くらいな!」

 

和麻は凄まじい風を放った。厳馬 と自分たちの間へと・・・

 

「じゃあな! 厳馬」

 

地面にぶつかった風は嵐のように 吹き荒れ術者たちの視界を完全に防いだ。

 

ほんの一瞬の出来事ではあった が、術者たちが目を開けたときにはすでに2人の姿はどこにもなかった。

 

気配も全く残っていない、完全に 見失った。

 

「探せ!」

 

その一言で唖然としていた術者た ちが一斉に動き出しその場を去っていった。

 

「見てなさいよ! 絶対に和麻は あたしが討ち取ってやるんだから!!!」

 

綾乃もまた術者たちに混じって動 き出す。一方的にやられたことが相当悔しかったらしい。

 

だが炎術師である綾乃や術者たち には2人を探すことは到底無理だった。

 

そのことを忘れたのか術者たちは 闇雲に2人の後を追って行った。

 

レオンもどうやら敵として認知さ れているようである。

 

とくに顔の悪い術者たちは和麻よ りもレオンのことを必死に探しているようである。

 

そんな術者たちとは別に厳馬は和 麻やレオンが立っていたところへと足を運んだ。

 

そして炎の精霊にその場を調べる ようにいう。だが調べた結果、そこに妖気などは微塵も感じることなどできなかった。

 

そこには自分たちと同じ魔を消し 去るための汚れ無き風と炎を感じ取った。

 

「まさか、あいつ・・・」

 

厳馬は誰にも悟られないように軽 く口を緩めた。

 

その表情はどこか嬉しそうで、自 分の息子の成長を喜ぶ父親としての顔がそこにはあった。

 

 

 

 

 

 

あとがき

呼ばれて飛び出てジャジャジャ ジャ〜〜〜〜ン!

どうもレオンです!

ぁぁぁぁぁぁ〜〜〜〜腹が立 つ。どこまで腐っているんだ神凪は!!

何で4年前僕は神凪を滅ぼさな かったんだ。今凄く後悔しています!

厳馬もそうだが神凪の術者は馬鹿 の集まりだ。

次回、カズと千早も和麻と再会し ます。そして物語も次第に動き始めます!

 


BACK  TOP  NEXT



inserted by FC2 system