第1部   〜動き出す運命〜

 

 

 

 

第10話 軽挙妄動

 

 

神凪の術者が2人を探し続けてい るそのころ2人は千早と持ち合わせしている場所に向かっていた。

 

レオンはいつもの姿に戻り、和麻 はタバコを取り出し、火をつけ煙を吐きながら歩いていた。

 

もちろん2人とも気配は消してあ る。すれ違う人は和麻の姿が見えるのにそこに人がいないようなそんな目をしていた。

 

「はぁ〜・・・で、これからどう すっかな」

 

煙を吐きながら和麻は呟いた。

 

人探しに日本に来てとんでもない ことに巻き込まれてしまった。これでは動きたくても思うように動けないだろう。

 

それにあの妖魔は放っておく事は できない。だが1人で戦うには相手が悪すぎる。

 

「和麻、言っとくけどあんまり1 人で悩むことなんて無いよ」

 

レオンが和麻の心を悟ったのか声 をかける。

 

「だけど、お前らに迷惑掛けるわ けにもいかないだろ」

 

「今更迷惑も何もないよ! 迷惑 なら和麻が居なくなったときに十分掛けられたんだから」

 

「・・・ホントすまないな、レオ ン。さっきの事も、4年前の事も」

 

「別にいいよ。とにかく1人で悩 む必要なんて無い。頼れるときには頼っておいて、後でそれを返せばいいだろ」

 

「・・・・・・・・・」

 

だが、和樹たちに迷惑掛けたくも ない。その心が和麻の中で大きく揺れる。

 

だが自分1人で同行できるレベル の問題でも無くなっていることも事実であった。

 

「迷惑なんて考えなくて大丈夫だ よ。もともとカズはこのこと調べていたから巻き込んだなんて考えることなんてない」

 

和麻は少し考えるような顔をして いたがどの道1人で悩んでいても答えなんて出せないと考えた。

 

「・・・・・・わかった。悪いが 世話になるぜ」

 

「いいてことよ!」

 

レオンは和麻の形をバシバシ叩き ながら笑っていった。

 

「お前は変わっていないな、ホン ト」

 

レオンは昔からこういうふうに自 分たちの明るいムードメーカーだった。その明るさは今でも変わっていないことが和麻は嬉しく、そしてとても懐かしかった。

 

「それで千早と待ち合わせの場所 は、どこだ?」

 

「もう着くよ・・・ほらいたい た」

 

レオンが指差すほうを和麻は見 る。そして驚いたような顔をした。

 

自分が日本を飛び出したとき千早 はまだ小学生だった。だが今自分の目に映っている千早はすごく大人びて見えた。

 

『4年間ってのはデカイんだな』 と和麻はこのときしみじみ思った。

 

【注意:綾乃のことはすでに頭に なし、というか和麻に取って女とは映らない。あえて言うなら暴走魔としか映っていない】

 

「和麻お兄ちゃん!」

 

千早は和麻とレオンに気づくと和 麻の覚えている昔と変わらない笑顔を見せて和麻に飛びついた。

 

「久しぶりだな、千早!」

 

感動の再会であった。本当の兄妹 ではないが傍から見たらそれは感動的な兄と妹の再会といっても過言ではなかった。

 

和麻の心の中の言葉を聞くまで は・・・

 

(う〜ん、胸の成長もグット!)

 

・・・・・・台無しである。

 

このシスコン!

 

自分に抱きついている千早の胸が 当たるのを和麻は楽しんでいたりする。

 

だがこの事実を知るものは誰もい なかった。

 

和樹に知られたらどうなる か・・・・・・和麻はよくて植物状態、最悪の場合、魂もろとも滅されるだろう。

 

この場に和樹がいないおかげで和 麻は命拾いしたことをこれからも知ることはない。

 

「早く行こう! 和樹君も会いた がってるから」

 

「じゃあ、テレポートするね」

 

レオンは2人の肩に手を置くと学 園の寮までテレポートした。

 

千早は和麻の手を引きながら和樹 の寮の部屋(千早の部屋でもある、2人の部屋)部屋へと駆け上がった。

 

「和樹君、お兄ちゃん連れてきた よ!」

 

「ありがとう」

 

和樹はまず千早に礼を言うとその 後ろに立つ和麻を見た。

 

2人はしばし無言で視線を合わし た。血は繋がっていないが本当の兄弟のように思っていた兄が、弟が2人の目には映っていた。

 

「久しぶりだね、和麻兄さん」

 

4年前、自分が兄としたい・・・ 今でもその気持ちは変わらない人が目の前にはいた。

 

「ああ、久しぶりだな、和樹」

 

4年前、弟のように・・・本当の 弟と思える人が目の前にはいた。

 

「とにかく上がって」

 

「悪い、上がらせてもらうな」

 

和樹の部屋は普通の高校生が暮ら しているような部屋だった。

 

ただ違うのはそこに女性の生活が 混じっていた。小さな台所も男が使うには調味料や道具の量が明らかに多かった。

 

さらに部屋にある壁・・・2つの 部屋を出入りできるようにしてあるとしか思えなかった。

 

「・・・和樹、千早聞いてもいい か?」

 

「なに?」

 

「お前ら一緒に住んでないか?」

 

「住んでるよ」

 

「学校には内緒だけどね」

 

さらりと凄いことを言う2人に和 麻はこれ以上何も言えなくなった。

 

そして部屋の中に自分の知る1匹 の猫がいた。

 

和麻はつい最近知り合った式神、 カイに軽く挨拶をする。

 

「また会ったな、カイ」

 

「そうだね」

 

カイはプリントされた紙から顔を 上げ和麻に返事を返した。

 

「お茶いれるね。お兄ちゃん少し 休んだほうがいいよ」

 

千早はそういうと台所へと戻って 行った。

 

「和樹この紙の束は何だ?」

 

和麻はテーブルの上に詰まれた紙 の束を見て和樹に聞く。

 

「今回の事件のこと、僕なりに調 べてまとめてみたんだ。いきなりで悪いけど簡単に説明するね」

 

和麻にとって和樹の言葉は願った り叶ったりである。状況が全くつかめない今なるべく多くの情報は知っておきたい。

 

「ああ、頼むぜ。むしろ説明して くれるとありがたい。妖魔は出てくるわ、神凪は襲ってくるわで状況が混乱していて何が何だか分からない状態だからな」

 

「わかった。レオンと千早も聞い て」

 

お茶を持て来た千早と資料を見て いたレオンも和樹の話に耳を傾ける。

 

「とりあえずお帰り、和麻兄さ ん」

 

「お帰り、お兄ちゃん」

 

「お帰り、和麻」

 

「僕が言うのもおかしいけど、お 帰り」

 

4人に言われて和麻は日本に戻っ てきたと心から思うことができた。神凪の術者や父に会ったときにはそんなこと感じることができなかった。

 

どれだけ自分にとって和樹たちが 心の支えになっていたのか、どれだけ自分にとって大切な存在だったのか、今になってその存在の大きさがよくわかった。

 

「ああ、ただいま」

 

4人になら言えた。

 

4人だからこそ言える言葉なのか もしれない。

 

和麻の言葉を聞き、和樹は説明を 始めた。

 

「それじゃあ、まず、いくつかに 分けて話をするね。まずさっき千早の報告があった妖魔のことから話すね」

 

「千早、妖魔と戦ったのか!?」

 

和麻が驚いたように声を出した。

 

「和麻お兄ちゃんに言ってなかっ たわね」

 

「それも含めて説明する。妖魔の 名前は『諸懐(ショカイ)』。中国の本に載っている獣で人食いでもあると書かれているから間違いないよ。綾乃ちゃんたち神凪を襲ったのはその力を手に入れ るため、重悟おじさんや・・・」

 

軽く和麻のほうに視線を移す。和 麻は気にするなと言う感じで話を続けさせた。

 

「重悟おじさんや厳馬おじさんに は無傷では勝てないし、リスクも大きい。だけど分家の人たちでは大した力を得ることができない。だから自分でも勝てる相手、綾乃ちゃんを狙ったんだと思 う。

千早が止めることできたからよ かったけど、もし喰われていたらかなり厄介だった」

 

綾乃は術者としてはまだ半人前だ がそれでも妖魔にとっては力を付けるためには十分な存在である。

 

「千早、戦ってみてどうだっ た?」

 

「相手が油断していたから何とか なったけど、本気で真正面からぶつかったらどっちが勝つかわからない。でもレオンやカイならまだ力は上だと思うから勝てなくはないと思う」

 

「わかった。それと和麻兄さんが 神凪に犯人だと思われている理由を話すね。でもこれはあくまで僕の想像とJからの情報を合わせただけだから信憑性はないと思って。

まず想像の部分だけど、綾乃ちゃ んたち3人が結界に閉じ込められている間に妖魔が和麻兄さんの名前を言ったんだと思う。『八神和麻と契約を結んだ』とかね。

あっ、妖魔が和麻兄さんの名前を 知っていた理由は後で説明する」

 

疑問に思ったところを聞こうとし た3人を止めて話を続ける。

 

「そして、Jから入った情報なん だけど千早が助けた後に1人神凪に駆け込んでこう言ったらしいんだ。『和麻が妖魔と契約した。神凪に復讐するつもりだ』ってね」

 

和樹はJの情報は信じている。今 まで1度も間違ったことがなく、よく知っている間柄だからだ。情報屋としては1番信頼している。

 

「だから、証拠も何もないのにお 兄ちゃんのことを犯人だと決め付けたのね。でも・・・・・・」

 

千早が少し呆れたような声を出 す。

 

「まさかと言うか、なんて言った らいいのやら・・・」

 

「冷静という言葉を知らないのか な、神凪の人間は・・・」

 

レオンとカイも完全に呆れかえっ ている。溜め息をつきその形で止まっている。

 

「僕もまさかと言うか、信じられ なかったんだけどね・・・」

 

「常識が欠けてるな、術者とし て・・・」

 

5人の考えは見事に一致する。

 

『妖魔の言葉を疑うこともなく信 じる退魔師って・・・一体・・・』

 

もはや言葉にならない。妖魔の言 葉を信じるなんて考えられない。

 

冷静に考えれば妖魔の言っている ことがどれだけ疑わしいことだかすぐに分かる。

 

「まあ、この話は置いておこう。 ともかく、妖魔のレベルが高いことは間違いない、炎雷覇を持っている綾乃ちゃんが歯が立たない以上・・・」

 

「神凪家で最強のカードである厳 馬おじさんを出してきた」

 

「そう、重悟おじさんが動けなく なった今、厳馬おじさんは神凪最強だというのは事実だからね。それに分家の人たちじゃ妖魔の相手にはならない。炎雷覇を使う綾乃ちゃんが、歯が立たない以 上、厳馬おじさん以外動ける人間は神凪にはいない」

 

和樹は次の紙の束を取り上げる。

 

「そしてこの情報が1番厄介ない 情報なんだ」

 

「風牙衆のこと?」

 

「聞いてみればわかるけど、複雑 だね、これは・・・」

 

カイはすでに内容を知っている。 その内容は神凪の悪いところが浮き出ていた。だが風牙衆のしようとしていることも許せないことには間違いはない。

 

「調べてわかったことは風牙衆が この事件の黒幕だってことだ」

 

「風牙衆が?」

 

和麻が驚いた声を上げる。千早と レオンも驚愕の表情をしていた。だがすぐにそれも分かるという顔をする。

 

「何をしようとしているか本当の 目的はわからない。調べようとしても危険すぎるからね。だけど、風牙衆の長の兵衛の長男の風巻流也が病気治療しているはずなのに1度も医者に診察を受けて いないんだ」

 

「それって」

 

「風牙衆には神凪を恨む十分な理 由もあるし、何か切掛けがあればその不満が爆発しても全くおかしくはない」

 

「そういうことだね」

 

「だけどここまでしかわかってい ない。だから、今、風牙衆を拘束することもできない。源氏爺にもそう言われた」

 

「今できることは風牙衆が尻尾を 出すのを待つことだけか?」

 

和麻がそう言うと和樹は否定せず にただ頷いた。

 

「源氏爺が風牙衆以外のことは重 悟おじさんに連絡するって言っていた。重悟おじさんは個人的に源氏爺に和麻兄さんのこと調べてくれるように頼んでいたみたい」

 

「おお、さすが宗主、あの能無し 軍団と違って冷静だな」

 

「いや、他の人たちが単純過ぎる だけじゃない」

 

「言えてる」

 

カイがいった言葉にレオンが深々 と頷いた。

 

「とりあえず、今は下手に動けな い・・・というより動かないほうがいい。Jが情報を送ってくるから今はそれを待つしかない。源氏爺の報告で神凪がどう動くかも分かるし今は下手に動かない でおこう」

 

和樹はそう言うと和麻に視線を向 けた。

 

「それで和麻兄さん、聞きたいこ とがあるんだけど」

 

「なんだ?」

 

「兄さんの力・・・その風の力は 風の精霊王の力で間違いない?」

 

「なっ!?」

 

和樹の言葉を聞いた和麻の顔が驚 愕に包まれた。千早、レオン、カイもいきなり和樹が言ったことに言葉を失っている。

 

「肯定と受け取っていいみたいだ ね」

 

和樹はそう言うとパソコンの前の 椅子から立ち上がり和麻の前に行くと膝を付いた。

 

「その瞳・・・・・・普通の人は 気づくことはできないと思うけど、僕は分かった。その奥に風の精霊王との契約の証である蒼穹のように澄み切った瞳が隠されている」

 

「・・・・・・和樹、お前一 体?」

 

和麻が和樹に何か聞こうとしたが 声が出せなかった。

 

「何で僕が分かったか? それが 気になっているね」

 

「・・・ああ」

 

「それは後で話すよ。後2つ大き な質問があるから」

 

「何だ?」

 

「1つは日本を離れてどこに居た のか? 2つ目は兄さんが探している人って誰なのか?」

 

和麻は和樹と視線を合わせる。和 樹の瞳はどこまでも澄み渡っていた、その瞳で見られたものは何も隠し通すことができないそんな瞳をしていた。

 

その目から逃れることができず和 麻は話出した。

 

「・・・・・・そうだな。お前た ちにだったら話せそうな・・・話していいような気がする。いや、誰かに聞いてもらいたかったのかも知れないな、本当は・・・・・・」

 

和麻は力なくそう呟いた。

 

「お兄ちゃん・・・」

 

「大丈夫だ、千早」

 

心配そうな顔をする千早に和麻は 笑顔を見せる。だがその笑顔はどこか寂しそうな顔をしていた。

 

「4年前、俺は継承の儀の後、厳 馬から勘当を言い渡されて家を飛び出した。お前らや源氏爺たち、宗主に何も言わないで飛び出したのは本当に悪いと思っている。

本当に悪かった。

だけどあの時は何も考えることが できなかったんだ。早くあの場所から逃げ出したかったからな」

 

「ごめん、嫌なこと思い出させ ちゃったね」

 

「気にするな。お前はあの時試練 に望んでいたんだ。逆に何も言わないで飛び出したことは本当に悪いと思っている。

まあ、それで俺は結局日本を飛び 出した。別に日本の外に何か目的があったわけでもないが、4年間俺は香港や中国の奥地やらアジアを中心に放浪の旅を続けていた。

そして、彼女に出会ったん だ・・・」

 

「彼女?」

 

レオンが首をかしげるのを見て和 麻は首にかけられていたロケットを外し開いて和樹たちの前に置いた。

 

「あっ、綺麗な人」

 

千早が写真を見て呟いた。ロケッ トの中の写真の女性は澄んだ笑顔で誰かに向かって微笑んでいるように見えた。

 

「彼女の名前は翠鈴、俺の大事な 人だ。そして俺が護りたかったのに・・・・・・護りきることができなかった・・・・・・俺があの時、もう少し早く力に目覚めていれば翠鈴はあんなことには ならなかったんだ!!!」

 

和麻は手をきつく握り締める。爪 が皮膚を破り血が滲み出るくらい強く握り締めていた。

 

「兄さん・・・」

 

和樹が和麻に声を掛ける

 

「だが、1つだけ・・・・・・ま だ1つだけ彼女を救える方法がある。そのために俺は日本に帰ってきた」

 

「兄さん落ち着いて説明して、ど ういうこと? この人を助けられることと、日本に帰ってくることがどう関係するの?」

 

和麻は和樹を見た。その目は真剣 そのものであった。

 

「探しているんだ、俺はある人物 を探しているんだ。彼女を・・・・・・翠鈴を助けることができるたった2人の人間を・・・・・・そのうち1人がこの日本に居るんだ!!」

 

「誰なのそれは・・・」

 

「彼女を助けられるうちの1人、 そいつは日本には居ないしどこに居るのかも分からない。だがもう1人が日本に居る、そいつは風の精霊王や他の、火、水、地の精霊王たちの上に立つ力を持つ 者と契約した人物・・・・・・黒炎の持ち主だ」

 

「黒炎の持ち主・・・」

 

それを聞いたとき和樹だけでな く、千早、レオン、カイも驚愕の顔に包まれた。中でも和樹は驚きを隠せないでいた。

 

「黒炎の持ち主だっ て・・・・・・」

 

「そうだ。そいつなら・・・黒炎 を持つ者なら彼女に掛けられた呪いを消し去ることができる」

 

「呪い?」

 

「俺のせいで、もう少し早く風の 力に目覚めていたら彼女は・・・・・・翠鈴はあんなふうになる事は無かったんだ」

 

苦しそうに自分を責めるように和 麻は話を続けた。

 

和麻が香港で出会った女性。その 人に和麻は惚れた、栗色の髪、碧の瞳の少女に。

 

護りたかったのに、護りきること ができなかった女性。

 

日本を出た後に和麻は風術の力に 目覚めた。和樹たちとの修行の中で少しずつではあったがその力に目覚め始めていたが、継承の儀のときのショックからか、体の中に眠っていた力が解放された のだ。

 

そのとき和麻は初めて風の精霊と 感応を果たしたのだ。炎ではなく風と。

 

そして、源氏たちの言葉を思い出 し、風を使いこなすために修行をし続けた。

 

翠鈴と出会ったときには、すでに 風牙衆や分家の術者を越えるだけの力を持っていた。

 

宗家のトップ・・・重悟や厳馬に は劣ってはいたが、それでも彼女を護ることができると思っていた。

 

驕り・・・今となってはそうだっ たのかもしれない。

 

力が使えることに、自分を見下し 蔑んでいた分家たちを超える力を手に入れたことに。

 

源氏に言われた言葉も忘れるくら いに。

 

『決して力に魅入られるな。何か を失ってから後悔しても全てが遅い』

 

人は力を手にするとその力によっ てしまう。そのときの和麻はまさにそういう状態だった。

 

そして言葉通り・・・源氏の言葉 を思い出したときには全てが遅かった。

 

あまりにも無残な・・・・・・悔 やんでも悔やみきれない現実だった。

 

自分たちに襲い掛かった悲劇。

 

自分の目の前で殺されそうになる 彼女。

 

目の前で生贄とされそうになる彼 女。

 

それを止めることのできない弱い 自分。

 

殺されそうになる自 分・・・・・・

 

これで終わるのかと・・・・・・

 

力が、力が無ければ何もできない のかと・・・・・・

 

死を目の前にして彼は覚醒した。

 

風の力を・・・・・・精霊王とい う上の存在との契約によって・・・手に入れた最強の力。

 

その力を持って自分は相手 を・・・彼女を生贄にしようとした敵を退けることができた。

 

そのときのことは実際には良く覚 えていない。無我夢中だったというべきだろう。

 

しかし、それでも彼女を完全に救 うことはできなかった。

 

死を覚悟して力を解放し彼女をな んとしてでも助けようとした。

 

それでも彼女に掛けられた呪いは 完全に消し去ることはできなった。

 

そのせいで彼女は目覚めることの 無い生きる屍、ただ眠り続ける人形と化した。

 

和麻は涙した。

 

人の目も気にすることなく彼女を 抱きしめ声を上げ彼女を助けてくれと叫び続けた。

 

だがそれをできる者はいなかっ た。

 

和麻は動いた。

 

和麻は心に誓った、

 

彼女を・・・翠鈴を必ず助ける と。

 

彼女を助けるために何でもした。

 

彼女を香港で1番でかい病院へと 移しできるだけの治療をした。

 

いくら金が掛かろうが関係なかっ た。

 

そのために金を集めまくった。

 

何を言われようがとにかく貪欲に 金を集めた。

 

ゼロがいくつ付くか分からないほ どの金を彼は集めた。

 

さらに力を求めた。力に魅了され たと言ってもいいだろう。

 

精霊王の力を100%引き出し、 自由に使いこなすために修行をした。

 

そして呪いを消すことのできる何 十、何百と言う術者を訪ねては交渉をし続けた。

 

土下座だろうが何でもした。

 

プライドなんて彼女を助けるため なら捨てた。

 

呪いを消すための法具も捜し試し た。

 

錬金術の粋を集めた命の水『エリ クサー』まで試した。

 

だがそれでも、彼女が目を覚まし 自分を見ることは無かった。

 

それでも諦めず和麻は彼女を助け るために動き続けた。必ず助けると約束したからだ。

 

だが月日は流れもはや打つ手はな いかと和麻が諦めかけた。

 

絶望的だった。

 

試せることは全て試した。

 

金もいくらかけたか分からなく なった。

 

神頼みまでした。

 

運命を呪った。

 

もうあのときには戻ることはでき ないのかと、もう彼女は自分にあの笑顔を見せてくれることは叶わないのかと。

 

何もしても変わらない、ただ期待 の裏切りだけが繰り返されるだけなのかと、運命はこのまま自分を裏切るのか、見捨てるのかと・・・・・・

 

半ば諦めていた。

 

それでもなんとしても助けたいと 絶望を弾き飛ばし動いた。

 

そんな時、彼はある噂を耳にす る。

 

自分さえも超える神の力を持つも のが日本にいると。

 

和麻はすぐに日本に飛んだ。噂だ ろうが何だろうがかまわなかった。藁にもすがる思いだ。

 

仕事も見つけた。

 

自分のためでもなんでもない。

 

全ては・・・全ては・・・彼女 を・・・

 

自分の大切な人を・・・・・

 

翠鈴を助けるために・・・

 

日本には戻るつもりなんて無かっ た。だが彼女を助けるためならそれも苦にならなかった。

 

「そう・・・・・・そんなことが あったんだ・・・・・・」

 

「だから俺は何としてでも見つけ なくちゃいけないんだ。黒炎を使える人物をなんとしてでも・・・・・・」

 

だが所詮、噂は噂でしかない。本 当に黒炎を使う者がいるかさえも怪しい。

 

だがレオンに言われたときに思っ た。式森家なら・・・式森家の情報網なら捜すこともできるのではと・・・・・・

 

「頼む和樹、源氏爺にお前からも 頼んでくれ! 俺は救いたいんだ・・・・・・翠鈴を・・・何としてでも救いたいんだっ!」

 

和麻は土下座をして和樹に頼み込 んだ。レオン、カイはその姿を見て驚いた顔をしている。

 

「頼む・・・俺は・・・あいつを 助けたいんだ・・・失いたくなんて無いんだ・・・」

 

和樹たちは気づいた。床に落ちる 雫に・・・

 

和樹と千早は顔を合わせる。

 

自分たちと同じだ。和樹も千早も 決して失いたくない存在。

 

和麻の翠鈴を思う気持ちが2人に は痛いほど分かった。

 

「お兄ちゃん頭を上げて・・・」

 

千早は和麻の肩に手を置きながら 顔を上げさせた。そして和樹のほうを見た。

 

和樹の心は決まっていた。

 

千早は和樹の目を見て安心したよ うに微笑んだ。

 

「兄さん、捜す必要ないよ」

 

「翠鈴さんは助かるよ」

 

和樹と千早は和麻に言った。

 

「・・・・・・どう言う、意味 だ? 捜す必要が無いって・・・」

 

「言った通りだよ。捜さなくても 私たちの側に・・・目の前にいるんだから」

 

和麻はそれを聞いて目を見開い た。そして自分の目の前にいる和樹を見た。

 

「入院している病院の名前教え て、ゲン爺に頼んですぐに翠鈴さんを日本に搬送してもらう。着いたらすぐに呪いを打ち消す」

 

そう言うと和樹は和麻の前に座り こう付け足した。

 

「目覚めたときには、笑って会っ て上げたほうが喜ぶよ」

 

「お前まさか・・・」

 

「そう僕だよ。神といえる黒い炎 を使う者・・・・・・黒炎の使い手は僕、式森和樹だよ」

 

「和樹・・・」

 

その言葉を聞いて和麻は彼女が眠 り始めてから初めて希望という言葉を心から信じることができた。

 

「必ず・・・必ず助けるよ」

 

和樹の言葉は決意に満ち溢れてい た。

 

「僕も・・・もう誰も失いたくな んて無いんだ」

 

和樹の優しさが翠鈴の命を救 う・・・

 

 

 

 

 

 

 

そのころ神凪では・・・・・・

 

「我々は全力を持って一族の憎む べき敵を必ず打ち滅ぼさなくてはならない!! よいか者共、神凪家の力を妖魔、そしてあの裏切り者の和麻に今こそ見せ付けてくれようぞ!!!」

 

『オオオオ オォォォォォッッッ!!!』

 

先代宗主、頼道を筆頭に神凪の術 者たちは1つの部屋に集まり誓いを立てていた。神凪宗家、分家の全ての人物がここに集まっていた。

 

誰もが自分たちの勝利を疑ってい なかった。あれだけ恐ろしい妖魔を前にしても自分たちの勝ちを疑っていない。

 

その心意気はある意味賞賛に値す るかもしれないが、愚かとしかいいようが無い。

 

あの妖魔相手にここにいるものだ けで勝てるわけが無い。

 

ここにいる者全員が綾乃レベルの 術者なら分からないだろうが、ここにいるもの全ての力を合わせても綾乃に届かないのである。

 

それでも勝てると考えているの は、自分たちは選ばれた者たちだという驕った考えに未だにぶら下っているからだ。

 

これを愚かといわずに何と言うの か・・・

 

彼らが勝つことなどこの世がひっ くり返ろうがあり得ないのである。

 

「・・・・・・・」

 

そんな彼らの中に場違いな少年が 1人いた。

 

年はまだ11か12くらいだろう か?

 

その顔は幼く、とても可愛らしい 顔をしていた、年齢よりも低く見られるだろう。女の子と間違えられてもおかしくないくらいである。

 

全体からはおっとりとした雰囲気 を感じることができ、ベージュのパンツにダッフルコートを着た少年。

 

正直この場ではかなり浮いてい た。

 

はぁ〜・・・・

 

ここに居ることに嫌気が差したの か、小さなため息をつき少年はこの場を後にする。

 

そのことに誰も気づくものはいな かった。皆、和麻を倒すやら妖魔を倒すという事だけに意識を集中させていて周りが見えなくなっていた。

 

だが1人だけそのことに気づくも のがいた。

 

次期宗主である綾乃だった。内心 彼女もこの場の雰囲気に嫌気がさしていて出て行く機会を窺っていたのだ。

 

(煉?)

 

綾乃は心の中で名前を呟くと、彼 の後を追って部屋から出て行った。

 

 

 

 

 

 

 

少年の名は神凪煉

 

神凪厳馬の息子であり和麻とは実 の兄弟である。

 

宗家の人間であり、兄とは違いあ ふれんばかりの炎術師としての才能を秘めていて厳馬の期待を受けていた。

 

今回も幼いながら、宗家の人間と して和麻討伐の先頭に立たなければいけないのだが、本人には全くと言っていいほどやる気が無かった。

 

いやそれ以前にそんなことをする こと事態が間違いだと考えていた。

 

「はぁ・・・・・・」

 

煉は大きなため息をつく。彼は兄 と戦うなどしたくないのだ。

 

父である厳馬が和麻と煉との接触 を極端に嫌い、2人を遠ざけていた。

 

それでも煉は兄を慕った。実の兄 弟であったからでもあるが、煉は和麻を尊敬していた。

 

炎が使えなくとも他の事では和麻 に右に出るものはいなかった。

 

そして兄は優しかった。自分とは 違い炎を才能のある弟の自分にも普通に接してくれた。

 

父厳馬に内緒で重悟に連れられて 式森家に行ったときに見た光景を今でも覚えている。

 

炎が使えなくても強くなろうとす る兄の姿を。

 

そのときに一緒に修行していた和 樹もまた煉にとって憧れであった。千早も本当の姉のように思えた。レオンの圧倒的な強さにも憧れた。

 

重悟に連れられて何度か式森家に 行ったとき4人にはよく遊んでもらった。神凪家の中にいるよりもあの場にいることが煉に取っては幸せだった。

 

だが4年前に兄は自分の前から姿 を消した。それを境に重悟も式森家に自分を連れて行ってくれなくなった。

 

その兄が日本に帰ってきたと聞い て煉は自分の部屋で飛び上がって喜んだ。

 

もうすぐ兄に会えると。

 

だが、事態は連の考えている方向 とは別の方向へと進んだ。

 

和麻は復讐のために戻ってきた。

 

妖魔と契約した。

 

術者を殺した。

 

煉は信じられなかった。あの優し かった兄がそんな事をするわけがないと・・・・・・兄の無実を信じたかった。

 

(兄様、一体何があったんです か・・・)

 

煉は未だに兄、和麻を慕ってい た。そして和麻の潔白を信じていた。

 

(僕は信じない。誰が何を言おう と、僕は兄様を信じる。兄様はこんなことする人なんかじゃない・・・)

 

例え和麻が犯人であったとして も、必ず説得できると、そう思っていた。

 

「煉?」

 

「!!?」

 

煉は背後からいきなり声を掛けら れ肩をビクリと震わせ飛び上がった。そして後ろを振り向くとそこには姉のように慕っている綾乃がいた。

 

「和麻のことを考えていたの ね?」

 

煉の顔を見ればすぐに分かった。 今この状況で煉が悩むことといったら兄である和麻のこと以外ない。

 

「煉、もう忘れなさい。あいつは あなたの兄でもなければ人間でもない。妖魔と契約し神凪に復讐しようとしている倒すべき相手なのよ」

 

綾乃の言葉に煉は真っ向から反対 した。

 

「なぜそんなこと言えるんです か? 僕はそう思いません。兄様はそんなことする人なんかじゃありません」

 

煉の頭には5人で遊んだときに見 せた和麻の顔が浮かんでいた。

 

あの兄がそんなことする訳が無 い。

 

例え姉の言葉でも信じられること ではない。

 

「でも私は妖魔から直接言われた のよ。これほどはっきりとした証拠はないわ。あいつは妖魔と契約した。それにあいつ以外疑わしき人間なんていない。あいつが犯人じゃなくて誰が犯人だとい うのよ」

 

「妖魔の言ったことなんて僕は信 じません。そんなもの証拠になんかなりません。むしろ疑うべきです」

 

煉の言う通りである。妖魔の言っ ている事を証拠とする綾乃のほうがおかしい。

 

だがあの場面では信じたくなって しまうのだ。人間とはときに疑わしき言葉でも信じてしまうときがある。

 

自分を納得させるために。

 

「僕は兄様を信じます。兄様から 直接聞くまで僕は神凪の誰がなんと言っても兄様を信じ続けます」

 

その瞳には和麻に対する疑いなど 微塵も無かった。

 

綾乃は煉のいつもとは違う強い意 志に驚いた。

 

ここまで強い意志を持つ煉を綾乃 は今まで見たことがなかった。

 

「なら、確かめに行きましょ う!」

 

「えっ!」

 

煉は綾乃が言っていることが一瞬 理解できなかった。

 

「煉がそこまで言うなら、確かめ に行きましょう。居場所は風牙衆が突き止めているだろうし、私と煉のコンビなら何とかなるわ」

 

自分1人ではどうにかできないと 分かったようだがそれでも甘い。綾乃の中では和麻は自分よりも強いが所詮は風術師という考えがある。

 

炎と風の戦力を比べたなら明らか に炎が上である。その考えが煉と一緒なら何とかなるという考えを出したのだ。

 

さらに綾乃の中では和麻は厳馬と 同レベルという考えがある。それなら大丈夫と考えたのだ。

 

だがその考え自体がすでに間違え ている。和麻は厳馬と戦いたくないから逃げたと綾乃は考えていた。

 

その考えが強くても和麻は厳馬レ ベルと考え出させたのだろう。

 

さらに妖魔の存在。自分の炎雷覇 がまったく歯が立たなかったというのにそのことを忘れたかのように2人なら何とかなると考えている。

 

それでも綾乃は話を続けた。

 

「確かに妖魔が出てきたらあたし たちじゃ心持たないけど、そのときは応援を呼べば何とかなるわ。風牙衆を連れて行けば連絡もすぐに取れるだろうし携帯もあるわ。それまで何とか持ちこたえ ればいいんだから」

 

綾乃の意言うことも1つの策では あるが、問題が多すぎる。

 

まず1つ目

 

援軍が来るまで持ちこたえること が2人にできるか?

 

はっきり言って、妖魔が1体と決 まったわけでもないのにそう考えるのは無謀としかいいようがない。

 

2つ目

 

連絡がつくか?

 

連絡をする前にやられてしまった ら、携帯を壊されたら、連絡手段を断たれたら・・・・・・そんな考えは綾乃の中には無かった。

 

3つ目

 

相手がこちらの動きを読んでいた ときの場合・・・

 

もはや絶望的である。連絡は取れ ず、綾乃を喰らおうとしていた妖魔に2人仲良く喰われそれで終わりである。

骨も残らず食われ墓石の下には何 も無し、下手したら行方不明となり墓さえ作られることがないということになる。

 

しかも未だに妖魔は綾乃を喰らう ことを諦めていない。綾乃はこのことを知らないが・・・・・・

 

妖魔からしてみれば、鴨がネギ しょってではなく、自分と同じくらいの油の乗った仲間まで連れてくるようなものである。

 

「危ない賭けかもしれないけど、 これがあいつに会う最後のチャンスよ。明日になれば神凪の力をすべて集結させて和麻を討つんだから」

 

あの様子を見る限り日の出ととも に神凪家を飛び出す勢いである。時間がないのは間違いなかった。

 

明日になれば全面戦争間違いな し。話なんかする間もないだろう。

 

だが、言っておこう、勝てるかど うかは全く別の問題である。

 

下手したら一瞬で終わってしまう かもしれない。関〇原よりも早く・・・

 

確実に言えることは応仁の乱のよ うに10年以上続くことはまずない。

 

「・・・・・・・・・」

 

煉は考えた。今出て行くのは危険 すぎる。綾乃が勝てない相手に自分が勝てるわけがないし、2人合わせても勝てるとは限らないし助けが来るまで耐えることができるという保障はどこにもな い。

 

だが今は兄に会いたい話がしたい という気持ちのほうが強かった。

 

「僕は会いに行きます。兄様に 会って本当のことを聞きます!」

 

「決まりね。今すぐ準備して、風 牙衆は私が連れてくるから」

 

「はい」

 

だが2人はこの後とんでもない目 にあう。自分たちの行動がどれほど愚かな行動だったかをこの後身を持って体験することとなるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

そのころ神凪の別室、重悟の部屋 では

 

「・・・・・・そうか。和麻が犯 人ではなかったか」

 

「はい」

 

「私が付いていながら申し訳あり ません」

 

この場には暴走している術者たち の会合に参加する気のない重悟、厳馬、雅人がいた。

 

昼間は武志の報告もあったため、 確認作業を怠ってすぐさま和麻に兵を差し向けた。

 

だが今考えれば矛盾する点が多す ぎる。

 

妖魔と契約しているのもかかわら す1人で行動していたこと、さらになぜ2人は殺されていなかったのか?

 

さらに厳馬たちが駆けつけるま で、綾乃たちが無事でいたこと、しかも和麻は攻撃してこなかった。

 

綾乃の力に劣っていたと考えたが 最後に見せた力は綾乃の遥か上を行っていた。

 

さらに厳馬の確認した精霊であ る。和麻の立っていたところには妖気が残っていなかった。

 

あったのは清浄な風の精霊だ け・・・

 

このことから厳馬は和麻が犯人で はないと結論付けた。

 

しかし、今の神凪家のものは和麻 が犯人だと信じて疑わなかった。

 

3人が何を言おうが聞く耳持たな いだろう。その為あの会合を放っているのだ。

 

「それで2人の容態は?」

 

「命には別状ありません。出血も それほど酷くなく、骨も折れた数は少なくはないですが折れ方がよかったのか全て治ったときには今よりも丈夫になるそうです」

 

2人とは武哉と慎吾のことであ る。あの後病院送りとなり治療を受けたのだ。

 

幸い、2ヶ月くらいで退院できる と医者から言われたらしい。

 

雅人の報告を聞いているとき厳馬 の顔は誇らしげだった。さらにあの時自分と対峙した和麻の力、宗家に匹敵するほどの力を得たということだ。ちなみにレオンから受けた傷は既に癒えている。

 

「嬉しそうだな、厳馬。ならば何 故、和麻を手放した?」

 

重悟はこの4年間聞けずにいたこ とを今改めて聞く。ずっと疑問に思っていたからだ。

 

あまりにも不器用すぎて、誰にも 理解されなかったが、厳馬が和麻を愛していたことにはうすうす感づいていた。

 

また、和麻と煉を合わせなかった のはこの場にいる。雅人と雅行のような関係にしたくなかったからだ。

 

それを恐れて厳馬はあえて2人を 合わせないようにしていたのだ。

 

煉があれほど純粋でなければ間違 いなく大神兄弟の二の舞となっていただろう。

 

兄と弟が憎しみあう、それだけは 見たく無かったのだ。

 

だがそれは全て厳馬の杞憂と終 わったのだが・・・

 

「私は神凪の人間として生まれ、 生きてきました。ほかの生き方は選べません・・・・・・・・・私の息子にもまた・・・・・・」

 

「だが、和麻は自分の道を進もう としていた。支えてくれる存在もいた、それなのになぜ? もし野垂れ死にでもしたらどうするつもりだ」

 

(もしあの時レオンを源氏殿が止 めてくれなかったら神凪は存在しなかったぞ)

 

和麻はレオンと特に仲が良かっ た。和樹と千早は兄弟と言う感じだったが、レオンとは親友と言う感じに重悟の目には映っていた。それと同時にレオンを兄のように和麻は慕っていた。和麻が 家を追い出されたと聞いたときのレオンの怒りは重悟も源氏から聞き知っている。おそらく源氏が止めなかったら神凪は4年前にレオン1人によって潰されてい たであろう。元々レオンは神凪の行いを日頃から嫌っていたのである。そのため和麻のことはレオンの怒りの導火線に火をつける結果となったのだ。

 

そんな重悟の心を知らない厳馬は 平然と言った。

 

「私の息子ですぞ。この程度でく たばるほど、弱くはありません」

 

「あーそーかい」

 

誇らしげな口調で厳馬は言った。 それほど和麻を心の中では評価し誇りに思っていたのだろう。

 

「で、これからどうする? 和麻 が犯人でない以上、真犯人はてぐすね引いて待っているということになるぞ」

 

真犯人の狙いは神凪と和麻が潰し 合いをすること、そして後から残ったほうを叩くつもりなのである。

 

しかも相手には妖魔がいる。その 数は今のところ確認されているのは1体だけだがそれが増えないという保障はどこにもない。

 

「そのことなのですが、1度和麻 に会ってこようかと思っています。話し合いをできるかどうかは分かりませんが何もしないよりはましでしょう」

 

「危険ではないのですか、厳馬殿 はすでに和麻と会っていて完全に敵対している。誤解とはいえあんなことまで言ったのですから、まともに取り合うとは思えん」

 

雅人は厳馬を止めようとした。下 手したら和麻と一緒にいた男が来るかもしれないと思ったのだ。厳馬の炎を受けても平然としていたのだ。その強さは計り知れない。

 

「確かにそれは動かしようのない 事実だ」

 

厳馬は雅人の言葉を否定しなかっ た。

 

表面上自分は父親らしいことなど 1つもしてやらなかったのだ。さらに昼間のことで完全に敵対してしまったと言える。

 

さらに昼間自分の目の前で見せた 力、確実に自分と力は同等だった。本気を出して勝てるかどうかも分からない。

 

もし敵に回ったら・・・・・・神 凪に勝ち目はない。

 

「だが、このままでは敵の思う壺 だ。もし和麻がこちら側に付けば形勢はこちらが有利になる」

 

だが、いきなり襲われ、犯人扱い されたのだ。しかも勘当を言い渡したのは他ならぬ自分である。恨む理由は腐るほどあるが、手を貸す理由は欠片どころか塵1つない。

 

「実は、源氏殿・・・式森源氏殿 から先ほど連絡があった」

 

「はっ?」

 

「それは?」

 

重悟の言葉に雅人と厳馬の会話が 止まった。

 

「源氏殿が言うには今和麻は和樹 君たちと一緒にいるらしい。雅人が会った、千早ちゃんは相当強いらしい、私を超えるかもしれないくらいにな。それと厳馬の会ったのは和樹君の式神のレオン だろう。私も何度か試合をしたことがある。特徴的に間違いない」

 

「それが和麻とどういうふうに関 係が・・・・・・」

 

「厳馬、お前が和麻に言った言葉 『失敗作』と言ったらしいな」

 

「はい」

 

厳馬はただ頷いた。それを聞いて 重悟は頭を抱えた。

 

「1番聞かれてはならない者の前 で言ってはならないことを・・・・・・」

 

「はっ?」

 

「いや、なんでもない」

 

重悟の言葉の意味が分からない2 人は重悟をただ見ている。

 

重悟は思った。神凪は近いうちに 確実に滅びるだろうと。

 

「和麻に会うことは認めよ う・・・・・・だが、説得できるか?」

 

重悟の声には絶望が混じってい た。

 

「誤解だけでも解くことができる なら・・・・・・」

 

いまさら誤解もへったくれもな い。攻撃を仕掛けたのはこっちだし、話を聞かなかったのもこっちだ。

 

何とか、攻撃だけでもしないよう に頼むしかない。

 

プライドなど捨て土下座でも何で もしようと厳馬は思った。

 

「ならば頼む。私はここではここ で長老や先代を抑える。それと源氏殿に連絡して和樹君たちからも和麻の誤解を解いてもらうように頼んでみる。

だが、あまり期待はしないでほし い。長老や先代を抑えるのもそんなに長くはもたないと考えてくれ」

 

神凪一族にとって最強たる宗主の 権限は非常に大きい。だが今この状況でそれが通用するとは思っていなかった。力尽くでならばどうにかできるがそれでは意味がない。

 

「私も協力しますが、なるべく早 くお願いします」

 

「何とかして見せます。宗主と雅 人はあの馬鹿どもを・・・・・・・・・・」

 

もしここで和麻に神凪の分家や長 老共が襲い掛かれば、まず間違いなく和麻は攻撃してくる。

 

躊躇することもなく返り討ちにさ れるだろう。

 

完全に敵に回すことだけはなんと してでも避けなければならない。

 

「わかった。こちらはませろ。し かし、お前も気をつけろ。問題は和麻だけではない、妖魔のこともあるのだからな」

 

1人で動くのは危険である。だが 今この状況で自分が出て行っても足手まといになるだけだ。自分にできる精一杯のことをするしかない。

 

「では、これにて・・・・」

 

「・・・頼む・・・」

 

「お願いします」

 

厳馬は無言で一礼し、部屋を後に した。

 

自分を憎んでいるであろう実の息 子に再び会うために。

 

 

 

 

 

 

あとがき

「プリキュア! プリキュア! Max heart〜♪

レオンで〜へぶっ!  ・・・・・・・」

「カイです。あとがきに久しぶり に登場です。しかしこの馬鹿は一体・・・」

「・・・(気絶)」

「え〜馬鹿は置いといて、ついに 和麻は和樹たちと再会しました。和麻の過去が少し明らかに、和樹が翠鈴のことを助けられるかはしばし待て。そしてヒロイ・・ごほっごほっ・・・訂正、和 樹、和麻に続くこの話に無くてはならない神凪煉登場。しかし綾乃は何考えているのか虎穴にいらずんば何とかというが、綾乃がしていることは鴨がネギ背負っ て友達まで連れてやってくるとでもいうしかないな」

鴨とネギ・・・・・・鴨鍋!!!」

「どうしたらそう聞こえるんだぁぁーーー!!!」

バコーーーーン!!!(レオンは星になりました)

「え〜・・・話がそれましたが、 続きを重悟たち3人が動き出しました。厳馬は和麻と話し合いをするつもりですが、そううまくいくのか?

次回は厳馬が和麻へついに接触 か? 乞うご期待!」

「カイ、タコ捕ってきたよ! た こ焼きたこ焼き!!」

『ワレワレハカセイノシハイ シャ』

「・・・・・・火星人?」

(こいつにあとがき任せていいの だろうか?)

 


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