第1部   〜動き出す運命〜

 

 

 

 

第12話 父の炎

 

 

和麻は1人、夜の暗闇の中に佇ん でいた。

 

夜の公園には昼間にはない静寂が 存在していた。人影どころか、虫やネズミなどの姿も何もなかった。

 

和麻以外の人間がいなくなったよ うなそんな感じがした。

 

港が見える丘公園、フランス山。

 

そこは自然の姿そのままと言えば 聞こえは良いが、手入れをせずにいるのか木々が鬱蒼と生い茂り公園とは思えないほど薄気味悪いところであった。

 

昼間でもその雰囲気はあるらしく 薄暗く、夜に忍び込めばどこか森の奥に迷い込んだような不安に襲われる。冗談抜きで遭難しそうな感じがした。

 

その山頂で和麻は1本の木にもた れかかり、のんびりと一腹している。

 

黒いコートを着ているせいか、闇 の中にその姿は溶け込んでおり指摘しない限り普通の人ならその存在に気づかないであろう。

 

タバコの火だけがそこに和麻がい ることを知らせていた。

 

不意に木々がざわめきだした。和 麻はタバコを近くにあった灰皿へと放り投げるとゆっくりと最後の煙を吐き出した。

 

「来たか・・・」

 

和麻は自分でも聞こえないくらい の声で呟いた。とてつもない熱量が公園の入り口を抜け自分のいるここにまっすぐ向かって来ていた。

 

和麻ほど鋭敏な感覚を持ったもの でなくとも、その凄まじい熱量を見逃すことなどはありえないであろう。

 

暗闇の中で燦然と輝く力の波動 は、夜明けを思わせるほど強い輝きを持っていた。

 

綾乃のことを太陽に例えるなら、 この力は超新星の爆発と言うしかない。

 

4年前自分を捨て、無能者、失敗 作といった男。

 

自分が4年前には超えることなど できないと考えていた男の波動に間違いなかった。

 

気配を隠さずに、自分の力を、自 分の存在を誇示するかのように悠然と歩むその姿は王者のごとき風格さえ感じることができた。

 

彼は広場に足を踏み入れると、迷 うことなく木陰に佇んでいる和麻に視線を合わせる。

 

「・・・待たせたか?」

 

「いや、時間通りだぜ」

 

時間を見ると22時ジャスト、ま るで計ったかのように現れた。

 

和麻は木陰から姿を現し彼の前に 立つ。

 

2人の間に銅像―タイトルは『愛 する母子の像』―を挟んだのは和麻なりの皮肉なのだろうか。

 

「んじゃ、始めるとするか」

 

和麻は今から戦いを始めるとは思 えないような口調で、だがどこか鋭い殺気を交えながら戦いの開始を宣告する。

 

「どうしても、話し合いに応じる 気は・・・・・・ないのか・・・・・・?」

 

彼は躊躇いがちに尋ねた。

 

彼としては話し合いで何とかこの 場を収めたかった。戦いをしたいとは思っていなかった。

 

しかしすでに和麻の心は決まって いる。

 

「話し合いを拒み続けたのはそっ ちだ。今更遅いんだよ」

 

和麻はそう言いつつ風を腕に集め 始めた。その眼には何の躊躇いもない。

 

「神凪お得意の力尽くでの話し合 いならしてやるよ! 神凪厳馬!!」

 

和麻は言葉と共に鋭い風を放つ。 彼・・・厳馬も風の刃を迎い撃つべく炎を召喚した。

 

互いに譲れぬものを掛け、風と炎 が激しくぶつかり合う。

 

4年前に縁を切った父と子、これ はある意味2人だけにしかできない父と子のコミュニケーションの形なのかもしれない。

 

公園の静寂を打ち砕いた風と炎は 凄まじい光を放つとそのまま消えていった。

 

それと同時に和麻は次の風を放 つ。

 

だが厳馬の召喚した炎は、襲い掛 かる風の刃を飲み込み消滅させた。

 

「・・・・・・今、何かやった か?」

 

黄金の炎を纏い厳馬は絶対的権力 を示すかのように言い放った。

 

絶対的な力、いかなる抵抗も無意 味と相手に思わせるだけの『格』を持ち、神凪の中心に立つ厳馬。

 

だがその姿を見ても和麻の表情に は恐怖や諦めという心の揺れは表れなかった。

 

「はっ!」

 

和麻は再び風の刃を放つ。四方八 方から厳馬を風の刃が襲った。厳馬の死角となるところから風の刃が凄まじい速さで迫る。

 

厳馬はその風を寸前で止めた。

 

そのはずだった。

 

「・・・考えが甘いぜ」

 

(くっ!)

 

その風は炎を突き破り厳馬の体を 掠めていった。

 

和麻は風に強弱をつけ死角に入っ たと同時に刃の力を強くし攻撃させたのである。

 

(まさかこれほどとは・・・)

 

厳馬は和麻の力に驚愕しながらも さらに多くの精霊を召喚し防御にまわした。

 

そして思った。手加減など必要な い。確実に倒しにいくと。

 

「お前の相手をしている時間はな い。悪いが決めさせてもらう」

 

宣言と同時に厳馬から爆発的に増 殖した。

 

放射状に幾本もの火柱が立ち上が り、その先端が和麻に向かう。

 

その姿はさながら巨大な大蛇か 龍。

 

「ほ〜う・・・」

 

和麻は全神経を集中させ、風の精 霊たちと同調し死角を作らないように全方向に注意を向けた。

 

幾方からも迫る炎の大蛇を和麻は 風に乗りながらかわし続ける。風が物に当たるのを避けるように和麻も風になり厳馬の炎を避けていた。

 

その姿はまるで舞を踊るかのごと く緩やかな動きだった。

 

ただ攻撃をかわし続けて何もしよ うとしない和麻に厳馬のイライラが募りだしてくる。

 

「いつまで逃げ続けるつもり だ?」

 

その言葉にも和麻は目立った反応 を示さない。ただ風に乗って楽しんでいるだけである。

 

(笑っている)

 

厳馬は和麻の顔を見て苛立ちが頂 点に来たようである。和麻を襲っていた大蛇が厳馬の元へと戻った。

 

「何だ、もう終わりかよ。気分よ かったのに」

 

和麻はワザと厳馬の苛立ちを増す ような言葉を言う。

 

「これで終わりにしてやる」

 

厳馬は己の全力の金色の炎を解き 放ち、和麻を攻撃した。

 

(今っ!)

 

ドゴォォッッ!!!

 

炎を放った瞬間、厳馬の目の前で 突如爆発的に炎が膨れ上がった。

 

衝撃波は周りの木々をなぎ払い葉 をむしり取り焼き払う。周りに置かれていたベンチやゴミ箱、灰皿などが吹き飛ばされ、外灯が砕け散った。

 

(まさかこれで終わりなんていう なよな)

 

衝撃波は過ぎ去ったが厳馬は未だ に炎に包まれていた。

 

和麻はこんなつまらない終わり方 を望んではいない。自分の壁となっていた男がこれくらいで倒れてもらってはあまりにもつまらない。

 

和麻が厳馬にしたのは周りの酸素 濃度を濃くしただけである。

 

小学校や中学の実験などでやった のと同じ理屈だ。

 

当たり前のことだが酸素が多けれ ば炎はよく燃える。

 

厳馬が炎を放とうとしたその瞬間 にその周りの酸素濃度を一気に上げて普段息をしている空気の何十倍もの酸素濃度にしたのである。

 

そしてその結果炎は爆発するとい うわけである。

 

「それがお前の切り札か?」

 

傷1つ―――それどころか羽織っ たコートの襟さえも乱さずに厳馬は冷ややかな目で和麻を見つめていた。

 

だがその姿を見ても和麻は大して 驚いていなかった。それどころか当たり前のような顔をしている。

 

厳馬ほどのレベルの者ならば酸素 濃度がいきなり上がってもそれを調節することなどできないことではないのである。

 

おそらく綾乃だったら厳馬見たく はいかない。助かったとしても服を焦がすだろう。下手したらその場で伸びているかもしれない。

 

「4年間でどれほど成長したかと 思えば・・・・・・上達したのは逃げ足と、小細工だけか。お前には失望した」

 

「はぁ〜・・・よく言うぜ」

 

和麻は厳馬の言葉に呆れたように 溜め息をついた。

 

何に呆れているのか・・・4年前 と同じ言葉を言った厳馬にか、それとも他の事にか・・・

 

「成長してないのはあんただ な・・・」

 

「何だと?」

 

厳馬は殺気だった目を和麻へと向 けた。だが和麻はそんなこと気にせずに話を続ける。

 

「まず4年前と同じことを繰り返 し言っているところ、ワンパターン過ぎて溜め息しか出ない。次が失望したという言葉。勘当して親子の縁を切った元息子に未練がましく未だに期待してるなん て呆れてものも言えねぇよ。今のあんたには俺に期待する権利なんてないんだよ。親子の縁を切り他人になった神凪厳馬には、俺を捨てたあんたにはな」

 

そして最後にこう付け足す。

 

「これが最後。自分の力と相手の 力量を判断できないところ。神凪の連中がそんな奴らばっかなのは上に立つものがそんなんだからだったのか? いづれ足元すくわれるぞ」

 

「黙れ」

 

厳馬は冷然と言い放った。

 

「御託はそれくらいにしておけ。 お前の選択肢は2つだけだ。自分の足で戻るか、引き摺られていくかのどちらかだ。好きなほうを選ばせてやる」

 

「その言葉、そのままあんたに言 い返すぜ」

 

和麻は右手を肩の高さまで上げ親 指を立てた状態でそのままひっくり返した。

 

「今すぐこの場から逃げるか、全 力で俺を倒すことに挑戦してみるか? よ〜く考えてから答えろ、時間はやる。どっちか決めろ?」

 

「勝てると思っているのか? 姑 息な手段を使わなければ戦うことのできないお前に」

 

「・・・・・・いや・・・・その 姑息な手段を使う前に負けた昼間のあの2人の立場はどうなるんだ?」

 

和麻は平然として言い切った厳馬 に軽蔑の視線を向けた。

 

さすがにこの時ばかりは和麻も慎 吾と武哉の2人を少し哀れに思えた。

 

厳馬は和麻の言葉を無視するかの ように言葉を続けた。

 

「まあいい。どうしてもやる気な ら見せてやろう。抵抗しようのない圧倒的な力というものをな」

 

厳馬は己の<気>を極限まで練り 上げる

 

蒼くゆらめく霊気が身体から噴き あがり、赤い炎の精霊をも蒼く染め上げていく。

 

蒼い<気>を浴びた精霊達はやは り蒼い炎として具現化し、眩い黄金の光に代わり透き通るような蒼い炎があたりを光り輝かせた。

 

「これが神凪厳馬の<蒼炎>か。 なるほど、確かに圧倒的な力と言えるな」

 

和麻自身、蒼炎を見るのはこれが 始めてである。神凪の炎は浄化の炎―――その中でも最高の威力を持つのが『黄金』だと言われている。

 

そしてその上にある炎、宗家の中 でも特に優れた力を持つものだけが時としてその炎を超える者が現れるときがある。

 

<神炎>―――真に選び抜かれた 者のみが行使し得る絶対的無敵の力。術者の<気>の色を炎と一体化させる炎。

 

千年にも及ぶ神凪の歴史において これを行使できたものはわずか11人。そして、200年ぶりに<神炎>を得たものこそ、<紫炎>の重悟であり、<蒼炎>の厳馬なのである。

 

(綺麗な炎だな。これが俺を縛り 付けていた炎か・・・)

 

和麻はその炎を前にしてもなぜか 恐怖心というものが出てこなかった。むしろ凄く落ち着いていられることのできる自分に驚いていた。

 

「とくと見るがいい。小細工では どうにもならん本当の力というものを!」

 

神凪の、そして己の誇りと力の全 力を持って、厳馬は和麻に対峙する。

 

だが和麻の表情はこの炎を前にし ても落ち着いた表情をしていた。

 

「小細工なんてつかわねぇよ。 撃ってきな、失敗作を倒す炎をな」

 

「これでも目が覚めないか、おま えは!?」

 

降伏しろとでも言うかのように声 を荒げる。だが和麻から返ってきた言葉は恐れも何も感じていない自然な声だった。

 

「目はとっくに醒めてるぜ。あん たに捨てられたあのとき・・・自分がどれだけ馬鹿だったか、4年前からな」

 

そして和麻は厳馬に笑みを浮かべ ながら言った。

 

「御託はいいだろ。さっさとこい よ」

 

「馬鹿者があの世で後悔するがい い!!」

 

厳馬はこの蒼炎を前に和麻が降伏 すると思っていた。だが和麻にその様子は微塵も感じられなかった。さらに和麻の周りには風の精霊たちの姿もなかった。

 

もはや、容赦をするわけにはいか ないと厳馬は全力で蒼炎を放った。

 

だがそれに恐怖することどころか 和麻は精霊さえも召喚しようとしなかった。

 

ゴォォォォォォォォォォォォッッッッッッッッ!!!

 

和麻は蒼炎に飲み込まれて姿が見 えなくなった。

 

黄金の炎とは比べものにならない 威力の炎が和麻を灰へと変える・・・・・・

 

・・・・・・・・・そのはずだっ た。

 

「・・・ば・・・馬鹿な・・・」

 

蒼炎が次第に消えていく。その場 には何も残らないはずだった。

 

なのに炎の中には人影がある。そ の人影からは煙も何も出ていない。まるで炎が人影を燃やさないようにしているかのように。

 

「な、なぜ・・・」

 

厳馬は信じることができなかっ た。

 

「なるほど、神の炎といわれるだ けあって凄い炎だぜ」

 

人影は炎が治まると何事も無かっ たかのように厳馬を見た。

 

「なぜお前がそこにいる、和 麻!!」

 

人影・・・和麻はさも当たり前の ように答えた。

 

「簡単なことだ。炎を受け流した だけだ」

 

「なっ!?」

 

「・・・わかんねぇのか?」

 

和麻の言葉を聞いているのか?  それとも驚きのあまり声が出ないだけなのかわからないが厳馬はただ和麻を見ていた。

 

「答えられねぇなら教えてやる よ。炎を恐れたものや妖魔のような力なら消し去ることができただろ。だが俺は炎を恐れてるわけでもないし、妖魔の力を持っているわけでもない。

まあ、もし俺が少しでも恐怖やあ んたに対して敵対する心をあの瞬間持っていたら燃え尽きていただろうがな」

 

簡単に言っているが誰もができる ものでない。心に少しでも恐怖や敵対する心があったらそのまま炎に包まれ燃え尽きていた。

 

だが恐怖や敵対する心がないもの には炎は何もすることなく過ぎ去っていく。『柳に風』、和麻はその言葉をこの場で実行したということである。

 

厳馬が攻撃したのにもかかわら ず、ダメージを受けたのは攻撃した厳馬のようである。ここまで自分のプライドを傷つけられたのは初めての経験だった。

 

「分家の連中や黄金の炎を使えな いやつにはできない。ただの炎には効かないからな」

 

そう、魔を滅する炎・・・厳馬が 使う炎だからこそ使えるのである。ただの炎に使ったら丸焦げである。

 

厳馬は標的以外を燃やすことなく 攻撃することができる。その証拠に周りの木々は厳馬の炎で燃やされていない。

 

和麻はその木々と同じ存在になっ ただけである。

 

「と言っても、これじゃあんたも 納得いかねぇだろ。次は正面からあんたを倒してやるよ」

 

そう言うと和麻は風を召喚し始め る。

 

「・・・あんたも全力できな、後 悔しても知らないぜ」

 

「後悔するのはお前だ」

 

蒼炎を再び放つために気を練り上 げ炎を蒼く染め上げる。力と力のぶつかり合いならまだ行ける厳馬はそう思った・・・・・・次の瞬間までは・・・

 

「あんたのその敬意に評してや る。死なないように気をつけな」

 

その瞬間和麻のほうに凄まじい速 さで風の精霊が集い始める。

 

「なっ、なに!?」

 

そしてようやく気づく。和麻の力 量を完全に読み違えていたことに。自分が本気で戦う相手ではない、本気を出しても勝てるかどうかわからない。

 

今まで自分が対峙してきた中で自 分が下と認めるしかない相手にまで和麻はなっていた。

 

慌ててさらに炎の精霊を集めよう とするがすでに遅し、もはや和麻に対抗するだけの精霊を集めることは不可能と言ってよかった。

 

「くらいな、『裂破風陣拳』」

 

風の竜巻が起こり蒼炎ごと厳馬を 飲み込んだ。

 

竜巻の中で厳馬は無残に切り刻ま れる、そう思った。

 

「がぁっ!」

 

風は厳馬の両手、両足を斬り刻み それでやんだ。

 

そして竜巻が消えたと思った瞬 間、目の前にいたのは・・・和麻だった。

 

「なっ!?」

 

「くらいなぁっ!」

 

容赦ない膝蹴りが鳩尾へとめり込 む。

 

厳馬の顔に苦悶の表情が浮かび上 がる。さらに背中にハンマーで殴られたかのような衝撃が走る。

 

地面に落ちていくときに見えたの は手を握り合わせた和麻がいた・・・・・・はずだった。

 

目の前で和麻の姿が消えた。

 

一瞬にして・・・

 

それはまるで瞬間移動の瞬間を見 たかのようなそんな感じだった。

 

(きえ・・・)

 

地面にぶつかる瞬間、何かに胸倉 をつかまれたと思ったとき顔に鋭い痛みが走り厳馬の意識はそこで飛んだ。

 

そして厳馬は宙を一回転し地面に 力無く叩きつけられた。

 

そして立ち上がることなくその場 に横たわった。

 

「・・・・・・俺の言ったこと理 解できたか、厳馬・・・いや、父上」

 

和麻はすでに意識のない厳馬に向 かいそう言い捨てた。そして皮肉を込めて父上と態々言い直した。

 

「・・・・・・で、そこのコウモ リはいつまでぶら下っているんだ」

 

和麻の視線の先には葉の減った木 の枝にコウモリのようにぶら下っているレオンへと向かった。

 

「ひどっ! 周りに結界張って、 眠い中気配まで消して待っていた人に言う台詞それが!!!」

 

レオンは気から飛び立つと和麻の ところまで文字通り飛んで近づく。

 

「それに『裂破風陣拳』は僕の技 だよ」

 

「気にするな。風の技だろ、俺が 使って何が悪い。それに待っていた人ってお前式神だろ・・・」

 

「細かい所突っ込まなくていい。 著作権を行使する」

 

「けち臭いこと言うなよ」

 

「ならせめて一言断れ!」

 

「鯛焼き十枚!!!」

 

「交渉成立!!!」

 

それでいいのか! レオン!!!

 

「四〇谷の『わ〇ば』、〇形町の 『柳〇』、麻〇十番の『浪〇屋総本店』。この東京の鯛焼き御三家の鯛焼き10枚ずつで手を打つ!!!」

 

「多すぎるぞ、5枚ずつにしてく れ」

 

10枚ずつ3件で買うと全部で 4000円くらいになります。和麻そのくらいケチるなよ。

 

「10枚ずつ!」

 

「6枚」

 

「10枚ずつ!!」

 

「7枚・・・」

 

「10枚ずつ!!!」

 

「・・・・・・わかった10枚ず つ買うから技使わせてくれ」

 

「交渉成立!!!」

 

結局10枚で和麻はレオンから技 を使うことを許された。

 

すでにレオンの頭の中では鯛焼き が泳いでいる。食い物に弱いレオンでした。

 

「『毎日〜毎日〜 僕らは鉄板の 〜♪』」

 

唄まで飛び出してきた。和麻はそ んなレオンを見て溜め息をついた。

 

「レオン、帰るか?」

 

「『お腹のあんこが〜   重いけど♪』・・・なに?」

 

まだ歌っていたのか?

 

「そろそろ帰るか?」

 

「もう買ってくれるの!!!」

 

帰る・・・かえる・・・買え る・・・まあ、聞こえなくもないか・・・・・・

 

そんなわけあるわけがない。

 

「いや、寮に帰ろうって言ったん だ。鯛焼きは今度買ってやる」

 

「・・・なんだ・・・(ドンヨ リ・・・)」

 

鯛焼きだけでここまで落ち込むか 普通? 

 

2人は厳馬を置き去りにして公園 を後にする。

 

「だけどさすがに疲れたわ、今日 は!」

 

和麻は歩きながら伸びをし、コキ コキと体をならした。

 

そんな和麻を見ながらレオンは携 帯を取り出し119を押そうとするが、少し考えると携帯をしまいなおした。

 

「公衆電話から掛けようっと」

 

足が着くのが嫌なのでしょう。

 

1時間後、厳馬はレオンのかけた 電話により救急車で無事(?)に病院へと搬送された。

 

 

 

 

 

 

 

和麻が厳馬をぶちのめしている 頃、綾乃と煉は和麻のいるところに向かっていた。

 

風牙衆は和麻が和樹たちと一緒に いる情報をすでに手に入れていた。

 

だが、和樹のことを大して知らな い風牙衆はそのことまでは報告していない。

 

このことを知っているのは源氏と 連絡を取り合っている重悟と、そのことを聞いた厳馬、雅人だけである。

 

そのため、他の神凪の者たちと綾 乃、煉は全く知らない。

 

「けれどよくあの男のことを信じ られるわね?」

 

綾乃はどうしてここまで煉が和麻 のことを信用できるのか不思議で仕方なかった。

 

自分が知る限り和麻と煉は厳馬に よってお互いに会うことが無いようにされていたはずである。

 

「僕にとって兄様は憧れでした。 父様に内緒で宗主が何度か兄様と会うことができるようにしてくれたんです」

 

煉は兄を慕っていた。重悟が式森 家に自分を連れ出してくれそのとき修行していた兄の姿を見てその強くなろうとする姿に眼を奪われた。

 

そのときに一緒に修行していた和 樹たちもまた自分の憧れである。

 

優しく、そして強い。

 

自分も4人見たくなりたいと思っ た。

 

だからこそ疑いもしなかった。

 

兄は・・・無実だ。

 

あの優しかった兄が犯人だなんて 考えることができなかった。

 

「お父様そんなことしていたの?  知らなかったわ。でも、そんなにかっこよかったかしら」

 

父がそんなことしていたとは、自 分も何度かそういう事はあったが煉まで連れ出していたとは知らなかった。

 

綾乃は和麻にはほとんど会ったこ とが無かったのでよく顔が思い浮かばない。そのため煉の考えていることが今一わからない。

 

「はい、凄くかっこよかったで す!!」

 

レオンを相手に何度か組み手をし ている和麻を見たことがあった。和麻の動きは何度も鍛錬に鍛錬を重ねた動き、自分が凄いと思った動きでも

 

レオンや源氏たちに注意されれば その動きよりもさらに凄まじい動きを見せる兄に自分では持つことのできないかっこよさを見た。

 

「へ、へぇ〜・・・、でも犯人が 和麻だったらそのときはどうするの?」

 

和麻が犯人だという可能性はゼロ ではない。そのとき自分はどうすればいいか?

 

みんなが言うように撃つべきなの か? 

 

それとも説得するべきなのか?

 

煉はまだ答えが出ていなかった。

 

「まだわかりません。兄様に会っ てから決めます・・・・・・」

 

まずは自分の目で確かめたい。全 てはその後からである。

 

「いいわ。でも犯人だったら絶対 に躊躇しちゃ駄目よ。あいつは妖魔に魂を売るという神凪の人間として、いいえ、人間として決してやっちゃいけないことをした男なのよ。必ず撃たなくちゃい けないのよ、私たちで!」

 

煉はまだ信じていないが綾乃は妖 魔の言葉を信じ、和麻は妖魔と契約し神凪の術者を殺した犯人だと決め付けていた。

 

話し合いに応じようとせずに戦闘 を行っているということも綾乃の考えを固める原因となっている。

 

綾乃は和麻が煉の話し合いに応じ るとは思っていない。

 

あった瞬間に問答無用で斬りかか り焼き尽くす気でいる。

 

もはや話し合う気など綾乃にはな かった。

 

(見てなさい。炎雷覇で斬り刻ん で灰にして上げるんだから・・・)

 

綾乃の心の炎がメラメラと燃え上 がる。

 

卑怯だろうが何だろうが関係な い。妖魔を倒すためなら何でもする気である。

 

だがなぜ自分が今生きていられる か綾乃はわかっていない。もし相手が復讐する気でいるならとっくに綾乃は死んでいてもおかしくない。

 

1回目が妖魔と会ったとき、2回 目が和麻と会ったとき、チャンスを見つけようとすればいくらでも綾乃を倒す機会があるのだ。

 

それなのに綾乃は未だに無事でい る。少し冷静に考えればおかしく思ってもいいのだが、まだ未熟な綾乃にはそれを考える冷静さと、周りの状況を把握する視野の広さが足りなかった。

 

(撃ち取るわよ、必ず! フフフ フフフッ!!!)

 

・・・・・・性格の問題も大いに あるかもしれない。

 

そして冷静さを欠いた綾乃と兄の ことで頭がいっぱいの煉には気がつかなかった。

 

自分たち先ほどからずっと見てい る者たちがいることに。その数は2体。気配を消し2人を見て舌なめずりをしている。

 

(・・・・・・・・・)

 

(まさか、自分たちのほうから出 向いてくるとはこれは神のご加護かも知れんな)

 

その2体のうち1体は和麻とレオ ンが遭遇した人型の妖魔、もう1体は綾乃たち3人と千早が遭遇した諸懐である。

 

諸懐のほうは千早に傷つけられた 傷はほとんど回復していた。2体は神凪を攻撃する前に和麻のことを始末しようと動いていたのだ。

 

だがその途中自分が喰らおうとし ていた餌が少人数で行動したのでそちらを喰らうことに変更したのである。

 

そしてその姿を確認して諸懐の表 情は緩んだ。

 

目の前にいる餌は間違いなく最上 級である。

 

長い髪、希望に満ちた強い意志を 有した魂。そしてその血の流れは最上級の霊力と魔力。

 

もう1つは女に劣るものの間違い なく最上級の部類に入る。強い意志を有した魂、血の流れも霊力も魔力も申し分ない。

 

しかも相手はまだ子供、その肉の 味が妖魔たちにとっては途轍もないご馳走なのである。

 

これだけ者たちを2人も目の前に 現れることはほとんどありえない。

 

(こいつらを喰らい、あの女も喰 ろうてやる!)

 

自分の身体に傷をつけた女。これ 異常ない屈辱を味合わせたあの女を諸懐は許すつもりなど無い、捕まえて生きたままじわじわと喰らうつもりでいる。

 

その泣き叫ぶ哀れな姿を見ながら じっくりと味わい喰らうつもりである。

 

そのときの自分の力は今の何十倍 にも成っているはずである。

 

そして、あの男を倒しその肉を喰 らう。そうすれば自分は無敵、他の妖魔たちも悪阻るるに足らない無敵である。

 

(愉快だ、これ以上愉快なことは ない。クハハハハハハハハハハハハハッ!!!)

 

妖魔は2人を空から眺めおろす。 今にも喰らい尽きたいその気持ちを押しと止めた。

 

(さあ行け! 八神和麻の振りを し、あの2人を恐怖のどん底へ突き落とせ!!)

 

人型は無言で頷くと黒い風を纏わ せ空へ舞い上がる。そして一直線に綾乃たちのもとへ向かっていった。

 

(派手に暴れられて居場所をつか まれても厄介だ。結界を張っておこう。後は2人が弱るのを待てばいい)

 

諸懐は自分がはれる中で一番強力 な結界を周囲に作り出した。

 

綾乃たちを閉じ込めた結界の比で はない。完全に外との空間と遮断し誰だろうと中に入ることのできなければ、中を探ることもできない空間を切り裂くような結界である。

 

外部から結界の存在を確認するの はまず不可能。例え気がついたとしても破壊することなどまず無理である。諸懐の強力な妖力を上回りそれを破壊する。

 

そんなことできる人間がこの世に 何人いるだろうか?

 

さらに結界の中に1度入ったもの は諸懐を倒すか、諸懐自らが結界を解かない限り出ることはできない。

 

(さあ、絶望という最後のダンス の第1章を踊りだそうではないか)

 

懐の咆哮が宴の始まりを告げた。

 

 

 

 

 

 

あとがき

「レオンで〜す。さて今回のあと がきに来てくれている人は誰でしょうか? 早速登場してもらいましょう、どうぞ!」

「『だてにあの世は見てねぇ ぜ!』和麻だ・・・っていいのかこの台詞使って」

「気にしない気にしない! と言 うわけで今回のあとがきは和麻が着てくれました」

「疲れてるのに無理矢理すぎだ ろ」

「よく言うよ。僕なんか待ちくた びれたよ、でも厳馬は完膚なきまでやられたね」

「できればセ〇バー見たくバラバ ラにしてやりたかったな」

「いや、キャラが違うしあれは生 身の人間ではないから・・・う〜ん、このたい焼き最高」

「お前あとがきの最中に食うな。 で、綾乃たちは何外飛び出してるんだ?」

「う〜ん・・・きっと、ゆとり教 育の招いた悲劇だね」

「・・・・・・意味違うだろ。ま あ、宗主が育て方間違えたのは確実だな」

「とりあえず和樹たちが助けに いったみたいだよ」

「そうか、ならとりあえず煉が無 事ならいいや」

「・・・薄情者・・・次回は2人 が大ピンチ、果たして和樹は間に合うのか?」

「次俺の出番無しかよ」

「僕もないよ。気長に待とうよ」

「そうするしかないか・・・」

「それではみなさん「待ったね〜 (×2)」」



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