第1部   〜動き出す運命〜

 

 

 

 

第15話 滅びへのカウントダウ ン

 

 

煉が眠りについた後、4人もそれ ぞれ眠りについた。いろいろあったので疲れているせいかすぐに眠りについた。

 

だがその眠りはすぐに終わった。

 

一番先にその気配に気が付いたの は和樹だった。全身に鳥肌が立つほどの凄まじい邪気が身体を貫くような感覚を覚えた。

 

「妖魔!?」

 

「・・・1体だけじゃねえぞ」

 

「全部で・・・4体・・・」

 

「違う、隠れているけど・・・後 2体いる。場所は分からないけど気配を感じる。一体の力が何てデタラメな力・・・それもこんなに!?」

 

4人は妖魔の気配をそれぞれ探り 場所を確認する。かなりの速さで移動しているが探れないことはない。

 

「和樹君」

 

「に、兄様・・・」

 

隣に部屋から千早も入ってくる。 寝ていた煉も妖魔の気配に気づき起きだした。

 

「和樹君、場所は!?」

 

「待って、今確認している」

 

光り輝くエメラルドグリーンの 眼、『捜眼』である。何人たりともこの眼から逃れることはできない、魔眼の1つである。

 

「この方向は・・・神凪の屋敷の ほうだ!」

 

「そ、そんな!!」

 

煉の顔が驚愕の表情になる。

 

「ああ、間違いないな、風の精霊 も同じこと言ってやがる」

 

風の精霊の力を借り和麻も妖魔の 居場所を確認していた。空気の存在するところなら風術師に探れないことはない。

 

「あ・・・そ、そんな・・・どう したら・・・」

 

煉はどうしたらいいのか分からな い。ただ和麻や和樹たちを見ている。

 

バンッバンッ!

 

そんなとき和樹の部屋のドアが叩 かれた。

 

千早がドアを開けるとそこには凛 と沙弓が立っていた。2人は慌てた様子で和樹に声を掛ける。

 

「式森、一体なんだ、この妖魔の 気配は・・・デタラメ過ぎるぞ!」

 

「異常すぎるわ、一体何が起こっ ているの!!? 式森君!!!」

 

2人も妖魔の気配に気づいてい る。2人は妖魔退治をしいているため、妖魔の気配に気づいてしまった。

 

決して見逃すことのないほど、今 まで感じたことのないような莫大な力を発する妖魔の気配に・・・

 

「訳は後で話す・・・炎・・・」

 

「重悟だね」

 

「神炎の炎か・・・まさか、宗主 が戦っているのか・・・」

 

妖魔の気配を感じるところから強 力な炎を感じ取る。だが妖魔4体に比べるとその力ははかないものだった。

 

もっても数分がいいところだろ う。それでも多いくらいだ。

 

「くそっ! とにかく、僕はおじ さんを助けに先に行く」

 

「わかった」

 

「おい、千早、綾乃はどうし た?」

 

和麻の言葉に皆が千早に注目し た。

 

「えっ・・・それが・・・まだ寝 てるみたい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『・・・・・・はぁっ!!!!!!』

 

 

 

全員、信じられない事実に耳を 疑った、窓から飛び出そうとしていた和樹の動きも止まる。一般の人ならまだしも術者が寝ている・・・信じられない。

 

炎術師は気配を感じたり探ったり することは向いていないがこれだけの妖魔の気配に気づかずまだ寝ている。

 

それも、術者として前線に出てい る人間が・・・

 

小学生の煉でさえ起き出したのに もかかわらず。

 

『・・・・・・・・・・・・』

 

言葉も出ない一同、いや何をいっ ていいのか分からないのかもしれない。

 

そんな中、最初に言葉を出したの は和樹だった。

 

「と・も・か・く、僕は神凪家に いくから、レオン、カイ」

 

「僕らも後からすぐ追いつく。カ ズ、気をつけてね」

 

「分かってる!」

 

レオンの言葉を聞き和樹は窓から 飛び出す。そのまま猛スピードで空を飛んでいった。

 

(間に合え!)

 

星に見える夜空を和樹は神凪へと 急いだ。

 

 

 

 

 

 

 

「千早、殴っても何でもいいから 急いで綾乃を起こして来い! 俺らも行かないと、あいつがどれだけ強くても妖魔の数が多すぎる」

 

和麻に言われ千早は慌てて綾乃を 起こしに行く。

 

部屋の中に光が満ちる。

 

レオンとカイの身体が光だし、そ の光は人の形を成す。

 

光が収まるとそこには長身の男が 2人立っていた。人間体へとなったレオンとカイである。

 

「凛と沙弓はどうする・・・」

 

レオンは2人を見ながら聞いた。

 

「私たちも行くわ」

 

「この妖気を感じて弱い妖魔たち も集まっている、それなら私たちでも相手はできる」

 

「それに今行かなくちゃ修行を見 てもらって強くなった意味がないわ」

 

レオンに聞かれて2人は迷わず答 えた。自分たちの修行に付き合ってもらっているのだ、今自分にできることで何とか力になりたい。

 

「危険だぞ」

 

「わかっている」

 

「言われるまでもないわ」

 

心は決まっているようである。覚 悟もしている。

 

レオンは2人を見て軽く笑みを浮 かべた。

 

「なら着いて来てくれ」

 

頷く2人。

 

 

 

 

「神凪が襲われて るーーーーーーーーーーーーーーー!!!」

 

 

 

 

千早の部屋から綾乃の悲鳴に近い 声が聞こえてきた。どうやらようやくお目覚めのようである。

 

(宗主・・・あんたの教育の間違 いで神凪の未来は暗い闇に閉ざされたぜ・・・・・・)

 

和麻は心の中で重悟の苦労と愚か な行動に心から同情し非難した。

 

「・・・和麻、私たち3人は先に 行く。カイ、千早たちを連れて和麻と2人できてくれ」

 

「わかった」

 

「任せろ」

 

ドアから飛び出して行くレオンと 凛と沙弓。そして、綾乃が和樹の部屋に入ってきた(慌てて入ってきて転んで転がっている)と同時に炎の鳥が夜空を飛んで行った。

 

「煉、俺たちも急ぐぞ」

 

「は、はい」

 

和麻に言われて煉が慌てて後を追 う。道に出るとカイはキメラになり千早たちを乗せると夜空に向かって羽を羽ばたかせた。

 

その横を和麻は風に乗り飛ぶ。

 

「カイ、俺たちも急ぐぞ」

 

「お前も付いて来れなかったら置 いていくからな」

 

和麻と背中に千早たちを乗せたカ イは先に向かった和樹の後を追って夜空を駆け抜けた。

 

 

 

 

 

 

 

和樹たちが妖魔の気配に気が付く 少し前に時間は戻る。

 

神凪家の正門には4人の術者が門 番として立っていた。

 

無論、和麻および契約した妖魔の 襲撃に備えて配置されているのである。だがその顔にはやる気の欠片など全く感じることができない。

 

周りにも全く注意を払わずただそ こにいろと言われたからいるだけと全身で表していた。

 

これなら銅像を置いているのと何 も変わらない。

 

そんな彼らは当然おごとく眠気が 襲ってきていた。

 

「全く、付いてないぜ」

 

「たくこんなの能無しの風牙衆に でもやらせとけばいいんだ。わざわざ俺らが何でやらなくちゃならねーんだ」

 

「しゃーねぇよ。襲撃があったら 風牙衆じゃ何の役にもたたねぇんだからな」

 

「とっとと明日にならねぇかな。 早く和麻を殺してぇぜ」

 

煉たちが抜けた後、話は明日和麻 を神凪家全員で襲い抹殺することで話が決まった。未だ宗主である重悟はそれを許していないが、明日になればそんなの関係無しに襲うことにしてしまってい る。

 

「にしても、詰まんねぇな」

 

「・・・・・・」

 

1人の術者が隣にいた術者に話し かけるが返事が返ってこない。

 

「おい、寝ちまったの・・・ ひっ!」

 

隣を見て術者は声を上げ固まっ た。

 

さっきまで話をしていた術者は首 から上が消えてなくなっていた。

 

斬られた首からは帯びた足し位置 が吹き上がる。

 

「な、何なん・・・」

 

さらにそばにいた2人の術者が頭 から真っ二つに切られて地面に倒れこむ。だがその間にも何度も斬り刻まれ地面に付くときには身体はバラバラになっていた。

 

「てっ、敵しゅ・・・」

 

残った術者も首を撥ねられそこで 意識は途絶えた。

 

4人の遺体が転がる門の前に4つ の影が降り立つ。3つは巨大な妖魔、もう1つは人型の妖魔であった。

 

巨大な妖魔のうち1体、諸懐が高 々に咆哮した。

 

『さあ、滅びへのカウントダウン の始まりぞ!』

 

ゴウッ!!

 

言葉と同時に正門が消し飛んだ。

 

 

 

 

 

 

 

神凪本邸では重悟と雅人が必死に 術者たちをなだめようとしていた。

 

「お前は何を悩んでいる重悟、和 麻への攻撃はわれら神凪家の使命ぞ!!」

 

「父上、少し冷静に考えてくださ い。今厳馬が和麻のもとに行き話しをしています。それで問題は解決します。今神凪のすべきことは和麻を討つことではなく正体不明の妖魔にいかに対応するか です」

 

「冷静に考えていないのは重悟、 お前ぞ。厳馬こそ、この事件の首謀者かも知れんのだぞ。そんな奴なぞ信用するとは、血迷うたか、重悟!!」

 

「父上・・・今の言葉は許されぬ 言葉ですぞ!!」

 

「やかましい!!」

 

頼道を主催とした和麻討伐集会は 反対意見無しで可決された。そんな頼道をはじめ、宗家、分家、長老たちを重悟は何とかなだめようと必死に動いている。

 

雅人も重悟の横に座り必死に分家 の人間を説得しようとしている。

 

さがすでに、ほとんどの者が和麻 を自分達の手で討つことに意気込み収拾が付かなくなってきた。

 

特に、和麻に家族、一族を殺され たり、重傷を負わされた術者たちは聞く耳を持たない。結城家や大神家などは感情を隠すことなく撒き散らし目を血走らせ叫び続けている。もはや重悟と雅人の 言葉など誰の耳にも聞こえてはいない、聞こえていたとしても全く取り合おうとしていない。

 

「裏切り者を殺すことに何を躊躇 う必要がある。奴はすでに神凪の人間でも何でもない、いや、人間でない。妖魔と契約した悪魔の心を持つ者ぞ。奴の体に神凪の血が流れていること自体許せる 事ではない。精霊王の祝福を受ける我らがあの悪魔を打つのは精霊王のお告げに他ならない。当然の義務ぞ!!」

 

「そうだ。奴の肉片1つ、髪1 本、血1滴このように残してはならない。存在自体間違いだ」

 

「奴に精霊王の鉄槌を!」

 

「精霊王の怒りを!」

 

その場にいた誰もが己の主張は正 しいとばかりに声を上げる。自分たちは選ばれた人間だと。

 

神凪の中にはこのような選民意識 の強いものが多い。宗家、分家かかわらずそうしたものが多かった。

 

大した力も持たないのにも拘らず 頼道の裏工作などによって力を手に入れた者などは特にそうだ。

 

中には雅人のように血筋など気に しない者もいる。だがその数は両手の指を使ってもお釣りが来るほど少数である。

 

分家などではただ炎が使えるだけ の者もいる。だがその力は全くないに等しいにも拘らず威張り散らす者が存在する。

 

これを式森家や他の術者の一族が 見ればどう思うか。似たような術者も他の一族にもいなくはない、だが少なからず滑稽なものと思うだろう。

 

式森家では自分の血を誇りに思う が自慢することはない。逆に和樹などはその血のために辛い人生を歩んでいる。本人はそれを受け入れ前向きに生きているがそうなったからよかっただけであ る。

 

また凛や沙弓などはその血を毛嫌 いしているところがある。和麻にいたってはその血を憎んでいた。

 

「重悟、風術師相手に何を恐れ躊 躇する必要がある。我らには和麻に殺された術者たちの敵を討たなければならぬ、無念を晴らしてやるという義務があるのだ。それをお前は止めると言うの か!?」

 

先代は一族の上に立つものとして の意見を言う。これだけを聞けば立派なことを言っていると思える。

 

本来は重悟が上に立ち和麻討伐の 命を出すのが筋である。だが重悟はこの事件の犯人が和麻でないことをすでに源氏からの連絡で知らされている。

 

しかし、ここで重悟が和麻は犯人 ではないと言ってもこの場にいるものは誰も信用するわけがない。

 

頼道をはじめこの気に手柄を立て さらに権力を得よう、権力を持つ者の中に入り込もうと己の欲望が渦巻いている。

 

殺された術者、怪我を負った術 者、その家族のことなど全く考えていない。すべては己の力を手にするためである。

 

とくに頼道はこれを機に再び重悟 を押し退け再び一族のトップに返り咲こうとまで考えている。

 

そのため誰も真実が見えていな い。自分達は黒幕の上で踊らされていることに、和麻や和樹達という強力な見方を自分達で敵に回そうとしていることに。

 

(ここまで・・・ここまで神凪は 腐敗していたのか・・・)

 

重悟は神凪の腐敗をただ嘆いた。 敵の術中に嵌り、冷静な状況判断をせず、ただ目の前に用意された和麻という犯人役を疑いもせずに倒そうとしている。

 

もちろんこういう光景を重悟が宗 主となってから見ていなかったわけではない。その度に改善しようとしてきたが、重悟1人ではどうすることもできなかった。

 

それが今回の事件の引き金となっ てしまった。

 

だがこれは重悟のせいではない。 彼に責任が無いかと言えば嘘になる。

 

だがこれは神凪の歴史の中で生ま れてきた根強いものであり、彼の代で全てを改善できるかと言われたらそれは無理である。

 

重悟は優れた宗主であり、神凪の 歴史にも残る最高の術者である。

 

だがそれだけである。

 

彼は神ではない、人間である。優 秀な術者であり指導者だが、1人でできることは限界がある。

 

それにこれは神凪だけには限らな い。

 

人間なら誰でもこういった現実を 見るときがある。

 

これを1人の人間が改善できたと ころなど見たことがないし、聞いたこともない。

 

悪に染めるのは簡単だが良くする には時間がその何倍も掛かる。

 

もしこれが可能なら世界に争いな どは存在しないだろう。

 

(和麻がいてくれればこの状況は 変わっていたかもしれない)

 

だがそれはもうわからない。

 

和麻は神凪を出て行った。

 

これは変えることのできない過 去、そして訪れることのない未来。

 

神凪はこのまま衰退し滅びるのも 近いかもしれない。

 

「重悟、聞いておるのか!?」

 

重悟は我に返った。見てみると、 頼道、長老、分家の当主、その他大勢の術者が叫んでいる。

 

その目には真実を見ることなく、 目の前に置かれたものだけを鵜呑みにしてしまうそんな表情をしていた。

 

「父上、例えあなたが何を言われ ようと私の考えは代わることはありません。少し冷静に真実を・・・」

 

ドォーン!!!

 

その時、凄まじい衝撃が屋敷を包 み込み、屋敷が大きく揺れた。それと同時に膨大な妖気が辺りを包み込んでいく。

 

その妖気の強さは冷静さを失って いた術者達を静かにさせるには十分すぎる力だった。

 

「な、何が起きた!! 早く説明 しろ!!!」

 

金切り声をあげながら頼道が叫び 散らす。それと同時に術者たちも声を上げて騒ぎ出すが状況がわからずうろたえるばかりである。

 

「落ち着け、状況を早く把握する のだ!!」

 

慌てふためいている術者達を一喝 し重悟は落ち着いた様子で支持を始める。

 

前線を離れたといっても状況把握 と冷静な判断力は未だに衰えてはいない、突発的事態でも重悟は落ち着き行動している。

 

すると術者が1人部屋の中に飛び 込んできた。身体にはいくつかの傷があったが動けないほどではない。

 

「ほ、報告いたします。妖魔で す、妖魔が現れました!!」

 

その言葉を聞き、騒いでいた術者 の声が止まり、顔が青ざめた。

 

妖魔の襲撃。

 

神凪家、総本山への襲撃など神凪 の歴史のかなで1度も無かった。どこかの術者が来たことはあったが妖魔が攻めてきたことなど1度もない。

 

想定外の出来事に誰も反応するこ とができないでいた。

 

「それで状況はどうなっている」

 

重悟が冷静に聞き返す。それ以外 の術者は声が出せないでいた。

 

「は、はいっ。待機していた術者 を向かわせましたが・・・・・・」

 

「それでどうした!!」

 

頼道が冷静さを失った声で反射的 に叫ぶ。

 

だが術者はその声が聞こえている のかいないのか、肩で息をし、顔を青ざめ、絞り出すように声を出す。その顔に生気を感じることができない。

 

「すっ、すでに向かった術者の安 否は不明! 正門にいた者の安否もわかりません。妖魔は術者を蹴散らしこちらに向かっています!」

 

『!!?』

 

その言葉には頼道、長老、分家の 術者だけでなく重悟も驚愕の表情を浮かべ顔を青ざめた。

 

後に神凪本低襲撃事件と呼ばれる 出来事は幕を開けた。

 

 

 

 

 

 

 

諸懐、そして人型と2体の妖魔は 正門から堂々と入り向かってくる術者たちを薙ぎ払っていた。

 

術者たちはいきなり正門が消し飛 び妖魔が現れたと思っているがそれは間違いである。別に妖魔たちは気配を消していたわけでもない。

 

力は抑えていたがそれは気づかな いほど弱い力でもなかった。

 

和樹たちでなくても、凛や沙弓、 煉でも気がつくことができた。

 

綾乃は例外だが・・・

 

綾乃のために言っておこうと思う が、綾乃が妖魔に気がつかなかったのは諸懐に傷つけられた体を回復するためにいつもより深い眠りについていたからである。普段なら気がついていた(は ず)。

 

だが、神凪の術者は気がつかな かった。1番近い位置にいて、空を飛来していた莫大な妖気に。

 

門のところにいた術者を相殺する と、降り立った諸懐は力を解放した。

 

その余波で正門は消し飛び近くに いた術者も戦闘不能にした。

 

『グ オォォォォォォォォ!!!!!!』

 

諸懐の咆哮に天地が揺れ動く、今 まで感じたことのないようなほどの悔しさと怒りが諸懐を包んでいた。

 

目の前に現れた最高のご馳走を喰 らうことのできなかった悔しさ、それを邪魔された悔しさ、人間なんかに傷をつけられた怒り、軽くあしらわれた怒り。

 

感情は力に大きな影響を与える。 心のちょっとした違いが力を増大化させるのだ。

 

そして今、諸懐は普段よりも怒り により力が増大していた。全てを破壊する、向かってくるものは容赦なくつぶすと。

 

「おのれ、妖魔が!」

 

「神凪に来たことを後悔しろ!」

 

それぞれ叫びながら妖魔に向けて 炎が放たれる。

 

その炎は妖魔に狂いなく放たれて いる。だがその中には黄金の炎は存在しなかった。

 

妖魔に向かう炎は諸懐と人型の妖 魔から放たれた風により相殺され風は勢いそのままに炎を放った術者たちに襲い掛かり、身体を斬り刻んだ。

 

『ぎゃあああああああ!!!』

 

『うわああああああああ!!!』

 

風に斬り裂かれる中には腕を斬り 落とされる者、足を斬り落とされる者、首を斬り落とされる者、身体を真っ二つにされる者・・・・・・

 

まだ後者はいい、だが前者は血の 吹き出す腕や足を押さえその場で悶え苦しんでいる。

 

一瞬にその場には血の湖ができ、 術者達が横たわった。まさに地獄絵図である。

 

術者達の苦しむ声、逃げ出す声、 狂い叫ぶ声が響き渡る。

 

諸懐は逃げる術者に容赦なく黒い 風を放ちその場に血を撒き散らす。だが殺してはいなかった。

 

地面に倒れふす術者に近づくと ゆっくりと術者の足を踏む。

 

「ぎゃああああああああ!!!」

 

術者は自分の足に掛かる重さと全 身を駆け巡る激痛に悲鳴を上げる。

 

諸懐はさらに黒い風を放ち次々に 屋敷を瓦礫の山としていく。中には逃げる途中屋敷の下敷きになる術者もいた。

 

だがそんなことなど気にも留めず 諸懐は破壊の限りを続ける。

 

人型の妖魔も地面に倒れている術 者の腹の容赦なく鋭い爪を突き刺す。

 

術者は激痛に声を上げるが人型の 妖魔はそれが快感で堪らないのか、空中に放り投げ再び術者の落ちる場所の下に行き爪を突き刺す。

 

しばらくすると術者が息をしてい ないことに気がついたのか、その術者を空中で斬り刻み次の術者へと歩み始めた。

 

他の2体の妖魔も生きている術者 を踏み、腕や足を噛み千切る。

 

口が、口の周りが術者の血で染ま り血が滴り落ちる。

 

逃げ出すことのできない術者は、 次は自分の番だとばかりに声を上げ、助けを求めるが助けに来るものはいない。

 

助けを求める術者の首に妖魔の爪 が突き刺さった。

 

『ウオォォォォォォォォ ン!!!!』

 

『ぎゃああああああああああああ あ!!!』

 

術者が最後に聞いたのは、咆哮す る諸懐の声と叫び声をあげる術者たちの声。

 

「ひっ・・ひやっ!」

 

「(ニヤ・・・)」

 

ドスッ・・・

 

最後に見たのは人型の妖魔の氷の ように凍てつく顔に浮かぶ冷たい微笑だった。

 

 

 

 

 

 

 

重悟のもとには次々と現在の状況 が知らされる。その知らせはすべて悲惨なものだった。

 

「妖魔の数は4体、すでに術者の 半数は死亡、または行動不能になっています!」

 

「行動不能になった術者は1人で 動くことは敵いません。救出も困難です!」

 

事態は最悪であった。妖魔の数は 4、その1体1体が強力な力を持っている。感知能力などが無くても現状を見れば一目瞭然であった。

 

(今私がしなければならないこと は・・・冷静に考えるんだ・・・・・・)

 

重悟は心を決めていた。

 

おそらく今自分が出て行っても足 止めさえもできないだろう。

 

妖魔1体の力が自分と同等、いや それ以上。

 

自分の体は、今は戦いをできる体 ではない。片方の足は義足、さらに前線から離れている現在その力は確実に落ちている。

 

だがそれでもやらなければならな い。宗主として術者を見捨てることなどできない。

 

「わかった。私ができる限り時間 を稼ぐ、動ける術者は今すぐ負傷した術者の救助に当たれ」

 

「そ、宗主!」

 

「それでは宗主が!」

 

術者にもわかっている。今の重悟 でも確かに自分たちよりも強い。だが片足は義足、4体の妖魔を相手にするのは無理である。

 

4体の妖魔と戦かえばどうなるか は誰が考えてもわかった。

 

「構わん。覚悟は宗主となったと きにすでに決まっている。綾乃や煉はどうした?」

 

宗主という立場を最後まで重悟は 全うしようとする。それだけの覚悟と責任を持ち宗主となったのだ。

 

そして次期宗主となる愛娘とその 弟分のことを聞いた。

 

この状況では2人にも力を借りな くてはならない。

 

「それが・・・・・・集会の最初 のときにはいたようですが、途中退席してからは姿が無く・・・」

 

術者は躊躇いながら報告した。厳 馬が不在の今、綾乃と煉ぐらいしか戦えるものは存在しない。

 

戦闘をしないとしても、救出時の サポートなどでは動いてもらわなくてはならない。

 

しかし、その2人がいないとなる と状況はさらにきつい、いや絶望的である。その負担は重悟へと降りかかってくる。

 

「あの馬鹿娘が・・・父上、長 老、分家の当主はどうした?」

 

「・・・・・・」

 

「そ、それが・・・」

 

術者は答えない。代わりに重悟の 問いに雅人が答え辛らそうに言う。

 

「我先に逃げ出し、すっ・・・既 に屋敷内に姿はありません!!」

 

「!!?」

 

頼道、長老、分家の当主たちは我 先へと我が身可愛さに逃げ出しいていたのである。残っている術者、重悟たちを見捨て自分は助かりたいと。

 

残っているのは重悟のことを支持 し、力になろうとしているほんの一握りの術者と上に切り捨てられた術者だけである。

 

「・・・くっ・・・もうよい。こ の場にいない者のことを言っていても何にもならん。動けるものは術者の救助、その支援をするんだ。救出した者は急いで屋敷から退出させい。1人でも多く生 き残るのだ!」

 

「はっ!」

 

「雅人、お前も救出に当たってく れ」

 

重悟は術者に指示を出していた雅 人に行った。

 

だが重悟の言葉を雅人は拒否し た。

 

「いいえ、お嬢がいなくなったの は私が見ていなかったからです。私も残り宗主のサポートをします」

 

すでに綾乃のために1度捨てた 命、この場で重悟のサポートをできなければ一生悔いが残る。

 

雅人は重悟に最後までついていく 決心をすでに固めていた。

 

重悟も雅人の決意を感じたのかそ の行動を止めようとしなかった。

 

「わかった。だがその命簡単に捨 てることは許さん。そして私より早く死ぬことも決して許さぬからな」

 

「はい」

 

雅人の返事を聞くと重悟は動ける 術者を連れ妖魔のもとへと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

妖魔による術者への攻撃は止むこ となく続いていた。それどころかさらに凄さを増していた。

 

大地には術者によって描かれた地 獄絵図が一面に広がっていた。その中には腕の無い者、足の無い者、頭の無い者、腕だけしかない者、足だけしかない者、頭だけしかない者・・・

 

さまざまな術者の身体であがかれ た血の海のオブジェが広がっていた。

 

人型の妖魔が術者を黒い風で斬り 刻む、体中から血が吹き出し、血まみれになるが致命傷には至っていなかった。

 

苦しむ術者を見て楽しむようにじ わじわと攻撃していた。

 

諸懐や他の2体の妖魔も爪で斬り 裂き、身体の一部を牙で喰いちぎっていた。

 

妖魔たちの中でも諸懐の暴れ方は 常軌を逸していた。

 

次々と屋敷を破壊し、術者を行動 不能にしてはその身体を喰い千切り咆哮を続けていた。

 

強い相手などどこにもいない。自 分の力となりそうな者など存在しない。

 

喰っても全くその腹が満たされる ことが無かった。

 

『グアアアアアアアアアアア ア!!!』

 

目の前に倒れていた術者を弾き飛 ばす。羽のように軽々と術者は弾かれ瓦礫と化した屋敷に突っ込みそのまま姿を消した。

 

「うわああああああああ あ!!!」

 

諸懐に1番近いところに倒れてい た術者が地を這い逃げようとする。だがその動きは諸懐から見ればカタツムリの動きにしか見えなかった。

 

諸懐はその術者の足を踏み動きを 封じる。

 

バキッ!

 

「ぎゃあああああ!!」

 

足の骨がばらばらに砕ける嫌な音 が聞こえる。

 

諸懐は口を大きく開けるとその術 者を頭から丸呑みしようとした。

 

術者は声にならない声を上げるが その動きは止まることはない。

 

ゴォッ!

 

紫色の炎が諸懐に向かって放たれ た。

 

その炎は諸懐の集めた黒い風に よって阻まれる。

 

諸懐は炎が放たれたほうを見る。 そこには他の術者とは存在感の違う男が立っていた。

 

「そこまでだ、妖魔。私が相手を してやる」

 

神凪家宗主、神凪重悟。その場に いるだけだというのにその力は恐怖を感じるほどの存在感を発していた。そしてその周りに集まる炎の精霊の量、その量は他の術者が束になっても集めることが できないほど膨大な量だった。

 

間違いなく神凪家で最強の術者と いえよう。

 

(上玉!)

 

諸懐の目にはすでに他の術者は 映っていない。

 

目の前には強さだけなら今までの 中で最高である。若さなどの面で力を得る量を考え、綾乃や煉を喰らうのと比べたら落ちるかもしれないが

 

この場にいる術者全てを喰らうよ りも多い量の力を得ることは間違いない。

 

「喝ぁぁぁぁぁぁぁっつ!!」

 

腹の底から出した気合と共に強力 な炎、神炎の1つである紫炎は諸懐へと放たれた。

 

諸懐もそれに対抗するように風を 集め妖気を織り交ぜた黒い風を放つ。

 

2つの強力な力はぶつかり合い、 凄まじい衝撃が辺りを包み込む。それは渦となり空へと上がる。

 

下級の妖魔ならばその余波だけで 何十体と消滅するような力がぶつかり合う。

 

妖魔に破壊された屋敷、また側で まだ無事だった屋敷も衝撃を受け吹き飛び粉々になり吹き飛ぶ。

 

まさに巨大な竜巻が目の前で起き ているようなこの状況に耐えられるものなど何もない。

 

『グアアアアアアアア!!』

 

諸懐の咆哮と共に黒い風のはが重 悟を襲う。

 

「はあああああっ!!」

 

重悟もそれに対応し紫炎を放つ。 風の刃とぶつかり合い消滅する。

 

「喝ぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ つ!!」

 

重悟は炎の弾を放つ。重悟の周り には炎の球体がいくつも作られていた。その弾の数は次々に増えていき辺りを昼のように照らし出した。

 

さらにその弾1つの力は綾乃、煉 の全力よりも上。無数の弾が重悟を覆うように出来上がる。

 

「滅びろ妖魔、我が神炎の炎に焼 かれて!! 無限炎爆弾」

 

無数の炎の弾が諸懐に向けて放た れた。

 

和樹の瞬炎とその技は似ていた。 だがその数は圧倒的に重悟のほうが上を行っている。

 

 

 

 

 

『無限炎爆弾』

 

重悟がまだ前線で戦っていたころ 使っていた最強の技である。その弾は何十もの妖魔を一気に倒し、強力な妖魔もその弾の数に耐え切ることができず消滅した。精霊の中で最強の攻撃力を持つ炎 を遺憾なく発揮した技と言える。その力はまさに神凪最強と言わせるだけの力を示した。

 

だが今回は圧倒的に状況が悪かっ た。

 

1つ目が諸懐がただの妖魔ではな いということである。

 

諸懐もこの攻撃をすべて受けたら ただではすまない。だが、すべて当たることはない。

 

それが2つ目の理由、相手は諸懐 だけではない。

 

諸懐の他にこの場には3体の妖魔 が存在している。1体だけなら重悟でも少なからず追い返すことくらいはできたはずである。

 

3つ目、他の妖魔が、諸懐がやら れるのをただ待っているか、目の前の重悟を見て人型はともかく2体の妖魔は喰らおうとする気が起きないか、

 

目の前のご馳走を諸懐だけに譲る か?

 

答えはそんなわけがない。

 

2体の妖魔は今とばかりに重悟へ と襲い掛かった。

 

「はあああっ!」

 

だが重悟もそれに気がつかないわ けがない。向かってくる2体の妖魔に向けて炎の弾を放つ。

 

しかしその分諸懐へと放たれる炎 の弾の数は減り、諸懐に攻撃のチャンスを与えることとなった。

 

黒い風の塊が重悟へと放たれる。 だがその風は重悟の周りへと放たれていた。重悟の側の地面へと・・・

 

「ぐおっ!」

 

地面は地割れを起こし、重悟はバ ランスを崩す。

 

義足でただでさえバランスを取る のが難しい重悟にはそんな場で動くことは困難であった。

 

そしてそんな状態で無数の炎の球 を操ることができるか?

 

できるわけがない。現役から離れ ただでさえ動きが悪くなっている。そんなときに集中力が大事である技を使えるわけが無かった。

 

炎の弾は軌道がずれたり、または 消滅したり、その場で爆発したりする。

 

「くっ!」

 

炎を召喚しようとするがその前に 風が自分へと放たれそれを避けるために動くためなかなか炎が集まらない。

 

「宗主!」

 

術者たちの救出をしていた雅人が 重悟を助けようと炎を放つが他の妖魔に炎を相殺される。近づこうとするが、目の前の妖魔は雅人の道に立ち塞がる。

 

さらに目の前の地面が豆腐を斬る かのごとく斬り裂かれて近づくことさえもできない。

 

他の動ける術者も同じことであ る。

 

「ぐおっ!」

 

風が重悟の足を斬り落とした。

 

だがその足は義足のほうであっ た。わかっていたのか、わからずにそうしたのか、妖魔は重悟を弄ぶかのごとく見ていた。

 

ガシャン!!

 

地面に金属が落ちる音が響く。

 

しかしこれで重悟の動きはほとん ど封じられたのは間違いない。立ち上がることができず、炎を召喚するも放たれる風を防ぐのが精一杯であった。

 

諸懐が巨大な風の刃を放つ。重悟 はそれを炎で減衰させようとしたが、その前に自分にいる場所が大きく揺れバランスを保てなくなる。

 

2体の妖魔が前足で地盤を砕きそ の衝撃で重悟のいる場所の地盤がさらに崩れたのだ。

 

「宗主!!」

 

雅人をはじめ他の術者達は叫び声 をあげ炎を放つがそれはすべて人型の妖魔の放った風に相殺された。

 

(ここまでか・・・・・・)

 

もはや炎を召喚しても黒い風の刃 を止めるだけの精霊は集めることは叶わない。

 

重悟は己の死を悟り、目を瞑る。 風が自分の体を斬り裂く・・・・・・

 

だがその痛みは襲ってはこなかっ た。

 

ドゴォン!

 

目の前に炎が放たれ風を消し飛ば した。さらに自分の目の前に何かが降り立つ。

 

ドゥッ! ドゥッ!

 

それは動きを止めることなく右手 から炎の弾丸を放った。

 

諸懐ではなく、人型と2体の妖魔 に向けて弾丸放たれ他の術者から離れるように弾丸を放つ。

 

『グオオオオオオオオオ!!』

 

諸懐は咆哮すると同時に風を集め 自分の攻撃を止めた乱入者へと風を放った。

 

「はあっ!」

 

乱入者は迫って来るかぜに向けて 左手を振りかざし炎の刃を放った。

 

風と炎の刃はぶつかり合いどちら も掻き消えた。

 

『何者だ!』

 

諸懐は叫び、目の前に立つ存在を じっと睨みつけた。他の妖魔も、その場にいた術者たちもいきなり現れたその存在に視線を向ける。

 

「・・・名前なら前に名乗ったは ずだ」

 

諸懐に向けてその言葉は発せられ た。

 

その存在は1人の男、夜の闇の中 それに溶け込むような黒のインナースーツの上に黒のコンバットベスト、下は紺のジーンズを穿いていた。

 

月明かりに照らされる中、右手に は黒の装飾銃、左手には短刀の黒い刀。刀の刀身には炎が纏っていた。

 

さらにその男から放たれる力は、 その場にいる誰よりも強力な力を感じ取ることができた。

 

その男は無限の魔力を持ち、炎、 風、水、地の精霊の上に存在する2つの炎のうちの1つの炎を手に入れし者。

 

その名は式森和樹、黒炎を使う世 界最強の魔術師。

 

 

 

 

あとがき

「レオンで〜す。今回はこの方で す」

「『コア〇プレンダー発進、どう ぞ!!』 ・・・・・・・・・何ででしょうか、悲しいです・・・僕男なのに・・・」

「あ〜、これしかないかなって。 他には『破道の四、白雷』ってのもあったけど?」

「・・・もういいです・・・、こ んにちは神凪煉です」

「気分はどうですか?」

「みんな酷いよ。僕は女じゃない のに・・・」

「ハロ〇ロ入ってみたら?」

「みんなの馬鹿 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜(逃走)

「あ〜あ、逃げちゃった」

「は〜い! ということであたし があとがき代わりに出ます(綾乃)」【嬉しそう】

「でた、居眠り姫」

「あたしのせいじゃないわよ。作 者の陰謀よ」

「で、何で都合よくいるの?」

「あたしは『ラジ〇』のパーソナ リティー経験者よ」

「・・・・・・いや、違うで しょ」

「細かいことは気にしない。は い、ここで、精霊ニュースです。話はついに神凪本家襲撃に進みました。4体の妖魔を相手に立ちはだかった重悟、しかしその力は衰えていた。追い詰められた所に和 樹が舞い降りる。それでは続きどうぞ」

「僕の仕事勝手に持ってかないで よ。いくら本編で活躍してないからって」

「やかましい! で、話戻すわ よ。和樹君はどうやら間に合ったようね」

「でもピンチに変わりはないから 僕らが速く行かないとね。僕とカイと和麻と千早と凛と沙弓と煉」

「あたしはどこいった」

「戦力外通告」

「何ですって!!!?」

「だっていても仕方な い・・・・・・え、あとがき長すぎる・・・次回はある人の闇の心が・・・はたして話はどうなるのか」

「あたしの出番はいつ来るの?」

「当分来ない、それでは皆さん」

「あたしの出番が増えますよう に」

『待ったね〜〜〜』


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