第1部   〜動き出す運命〜

 

 

 

 

第16話 錆付いた紫炎

 

 

(どうやらギリギリ間に合ったみ た・・・いや、間に合ってはいない)

 

神凪本家の破壊された屋敷、地面 に横たわる術者たち、その中にはすでに何人もの死者を見ることができた。

 

和樹がここに来るまでの間、その 間に50近い術者が死亡、負傷した。負傷者の中にはこのままでは死ぬ者もいる。

 

例え死ななくても術者どころかま ともに生活することができない者もいるだろう。

 

(また救えなかった・・・)

 

もう誰も失いたくない。どんな人 だろうが・・・

 

だがそれは無理な話である。

 

だからこそ和樹は誓う。今の自分 にできること、できる限りのことをすると。

 

「か、和樹君!?」

 

和樹は後ろを振り向いた。もちろ ん4体の妖魔に対する警戒は怠っていない。

 

重悟は驚いたような表情で和樹を 見ていた。4年間、1度も会うことがなくなかった自分の師匠である源氏の孫(正確にはひ孫)である和樹。

 

和麻を兄としたい、和麻の心の支 えとなってくれた少年。

 

そして無限の魔力という辛い運命 を乗り越えその力を自分の物にした少年。

 

剣術、体術において自分が見た 10過ぎのときに凄まじい強さを見せた少年。

 

その強さは炎を使う神凪の子供 10人を相手に傷1つ負うことなく倒し、さらには大人たちをも負かしていた。

 

だが目の前に立つ和樹は綾乃と同 じ年とは思えないほど落ち着きを払い、4体の妖魔を相手にしても全く臆した様子などなかった。

 

「お久しぶりです、重悟おじさ ん。少し助けに来るのが遅すぎてすみません」

 

和樹は軽く重悟に頭を下げた。そ の動きには全く隙がない。

 

まるで背中にも目があり、そこか ら妖魔に向けて突き刺さるような殺気を放っているようなそんな感じであった。

 

「今の力は・・・」

 

和樹が諸懐の風の刃を消した炎の 刃、その炎は風を召喚する速さに匹敵するほど素早いものだった。

 

さらに、その圧縮された炎は自分 の炎よりも上であった。

 

神凪一族で最強である自分の炎を 超える炎。そんな炎は今まで見たことが・・・

 

いや、1度だけあった。レオンの 四神の1つ朱雀。朱雀から放たれる炎は自分の紫炎と同等、意やそれ以上の力を感じることができた。

 

「そのことは後で、僕が戦ってい る間に術者たちの救助と避難を・・・・・・決して僕の後ろへは行かせません」

 

そう言うと和樹は4体の妖魔に向 けて短刀を構えた。右手の銃も短刀へと変えている。

 

そしてお互いに探りを入れるよう に対峙する。

 

4体の眼光を向けられているにも 拘らず和樹の眼には恐怖の色は浮かんでいなかった。

 

その眼から感じられるのは揺るぎ ない決意。

 

それだけだった。

 

和樹を見て最初に声を上げたのは 諸懐だった。

 

『またしても、人間ごときが我の 邪魔をするとは!』

 

「邪魔なんかじゃない。僕は自分 の信念を貫く、それだけだ!」

 

短刀へ炎の精霊が集まる。

 

炎は天高く舞い上がり燃え上が る。

 

夜の暗闇に明かりをともすかのご とき凄まじい炎が和樹へと集まり辺りの妖気を燃やし尽くす。

 

諸懐もそれに対抗するように風を 集め自分の妖気を織り交ぜその身に纏う。

 

他の妖魔たちも同様に和樹を取り 囲むように対峙する。すでに神凪の術者は目に入っていない。

 

それぞれの妖魔の妖気が強くな る。

 

(4対1か・・・・・・1体の力 は僕のほうが上、でも部が悪いには変わらない)

 

和樹はゆっくりと相手の妖魔たち を見る。

 

諸懐を調べていてでてきた、妖魔 たちがそこには並んでいる。

 

人型の妖魔、これは正体がまだわ からない。

 

だが他の2体は共に人食いの妖魔 と調べた中に載っていた。

 

自分の右斜め前にいる妖魔。

 

『馬腹(バフウ)』

獣がいる、その名は馬腹、そのか たちは人面のようで虎のからだ、その声は嬰児のよう。これは人食いである。

 

そして左斜め前にいる妖魔。

 

『褐狙(カッソ)』

獣あり、その状は狼の如く、赤い 首、鼠の目、その声は豚のよう、名は褐狙。これは人を食う。

 

どちらとも諸懐と同等の強さを持 つ、厄介な妖魔である。

 

(黒炎を使えば、何とかなるかも しれない。でも、それはできない)

 

この4体の妖魔の他にまだ姿を現 していない2体の妖魔がいる。黒炎を使い4体を倒したところを狙われたら対抗する力はないだろう。

 

(レオンたちが来るまでの時間稼 ぎを神凪の人たちを護りながらか・・・それでも・・・・・・)

 

無理な話かもしれないがやるしか ない。自分にはそれだけの力があるのだから。

 

「遣り遂げてみせる!」

 

和樹が動く。素早い動きで人型の 妖魔へと上段から斬りかかる。炎は刀に集中し人型へと放たれた。

 

人型の妖魔は右手を振るい黒い風 の刃を炎にぶつけ勢いを殺そうとするが炎は降りかかる風を斬り裂き勢いを殺すことなく人型の妖魔へ向かった。

 

「・・・・・・」

 

人型の妖魔は無言でその場から飛 び去り炎の刃を避ける。炎の刃は地面を斬り裂き大きな罅割れを作り出した。

 

『グアアアアアア!!』

 

馬腹が咆哮しながら和樹に飛び掛 る。口を大きく開け喰いつこうとしてきた。

 

「はぁっ!」

 

和樹はそれを黒刀で防ぐと巴投げ のような形になり馬腹の腹を蹴り上げる。

 

『隙だらけだ!』

 

ここだとばかしに諸懐と人型の妖 魔が風を放ってくる。

 

その風はすでに和樹の目の前へと 迫っていて炎を召喚する時間はなかった。

 

『死ねぇぇぇぇぇぇ!!』

 

無数の黒い風の刃が和樹へと襲い 掛かる。1つ1つの威力も弱くない。

 

(逃げ場などない!)

 

和樹の顔に恐怖の色が浮かぶのを 諸懐は見るはずだった。

 

だが和樹の顔には恐怖の色など微 塵も浮かんではこない。

 

次の瞬間、誰もが自分の目を疑っ た。

 

ガガガガガガガガガガガガガガガ ガガガガガガガッ!!

 

和樹を襲った無数の風の刃は黒刀 の刃にすべて斬り落とされた。

 

救出をしていた術者、和樹の戦い を見ていた重悟、4体の妖魔、その場にいた誰もが動きを止めた。

 

2本の黒刀をまるで生き物のごと く振るい、四方八方から襲ってくる風の刃を目にも止まらぬ斬撃で和樹は斬り落としたのだ。

 

そのあまりにも速い動きに誰もが 自分が見た事実を疑った。

 

だが妖魔たちの次の動きも速かっ た。

 

褐狙は和樹が地面に降り立つその 瞬間、背後からナイフのように研ぎ澄まされた爪を振り下ろした。

 

『背中ががら空きだ!』

 

褐狙の爪は和樹を斬り裂き地面へ と叩きつけられた。

 

だが斬られた和樹の姿は残像のよ うに消える。

 

『!?』

 

驚愕の表情になる褐狙、周りを見 渡すが和樹の姿はない。

 

「上だ!」

 

ドゴッ!

 

頭上に鋭い衝撃が走る。

 

力を受け流すことができず地面へ とそのまま叩きつけられた。

 

和樹は背後から襲ってくる褐狙の 気づき、素早く上へ飛び爪から逃れると、空中で後ろへと一回転しその勢いをそのまま鞭のように撓った蹴りを容赦なく叩きつけたのだ。

 

地面から起き上がった褐狙の前に は刀を構えた隙のない和樹の姿が映った。

 

さらにその周囲には炎の球体が浮 かび上がっていた。その数はおよそ100。

 

数こそ重悟の『無限炎爆弾』に劣 るが1つ1つから感じる炎の強さはほとんど同等、それ以上といっていい。

 

「な、何だ、あの炎は・・・」

 

重悟を救出し、妖魔から離れよう としていた雅人の動きが止まる。

 

他の術者も、重悟もその炎の強さ を目の当たりにして驚愕の表情を浮かべていた。

 

炎を使えるからこそわかってしま う。和樹の作り出した球体1つがどれだけ強力な強さを秘めているか。

 

おそらくこの場にいる重悟を除い た術者の力をすべて集めても和樹の作り出した炎の前には何の意味も成さないだろうと。

 

妖魔たちはそれぞれ妖気を集中さ せる。確かに強いが止められなくはない。

 

だが、止められるがそれが限界。 球体から感じる炎の精霊の量とそれをさらに強くしている感じたことのないような魔力。

 

その魔力は炎の精霊にさらに力を 与え、より強力な精霊へとなっている。

 

これ以上強くされては不味いとば かりに妖魔たちは風に妖気を混ぜた黒い風の刃を一斉に放った。

 

「瞬炎」

 

炎の弾が風を向かい撃つように放 たれた。

 

力がぶつかり合い、爆音と衝撃波 が辺りを襲う。

 

「ぬぉっ!」

 

重悟は炎を召喚し術者や屋敷を防 御した。雅人に支えられていなければ自分もこの衝撃に耐え切れなかったであろう。

 

それでなくとも後ろへと押し戻さ れているのだから。

 

「動きを止めるな!! 無事な者 は負傷者の救出を急げ、ぐずぐずするな! 1秒でも早くこの場から離れるんだ!」

 

重悟はすぐさま術者たちに指示を 出した。

 

衝撃波だけでこの威力。もし流れ 弾などが来たら防御は不可能。確実にその近くにいる術者は死ぬ。

 

今の攻撃も重悟が防御をしていな かったら、負傷していた者、そうでない者関係なく死者がでていただろう。

 

和樹は4体の妖魔を相手にするだ けで精一杯である。側にいる術者に気を使って戦う余裕などあるわけがない。

 

そんなことをしたら確実に妖魔に 殺される。

 

なら今の自分にできることは和樹 が戦いに集中できるよう術者をこの場から1秒でも早く遠ざけることだ。

 

重悟が術者に指示を出しているそ の間にも和樹と妖魔の攻防は続いている。

 

人型の妖魔は和樹へと風を放ちさ らに自分の近づき黒く染まった爪を突き刺そうとしてきた。

 

和樹は風を左の刀で薙ぎ払い右の 刀で爪を止める。同時に後ろから馬腹が襲い掛かるがそれをしゃがんで避けると足に炎を纏い、下から蹴り上げる。

 

だがその攻撃は空を切った。人型 の妖魔が馬腹を後ろへと投げ飛ばし和樹の攻撃から逃れさせたのだ。

 

そして馬腹が避けたその上からは 褐狙がタイミングを計ったように飛び掛ってきていた。

 

『死ねぇっ!』

 

「くっ!」

 

和樹は横へ転がり褐狙の牙から逃 れる。

 

『貰った!』

 

諸懐の放った黒い風の刃が和樹に 向かってきていた。

 

さらに横から人型の妖魔も風の刃 を放っている。

 

和樹は後ろに勢いよと飛び起きる とそのまま刀を振るい炎の刃を向かってくる風の刃に向かい放つ。

 

『アマイッ!』

 

『まだ終わらないぞ!』

 

ガキッ!! ガキッ!!

 

「っつ!!」

 

背後から感じる殺気に体を捻らせ 対処する。馬腹と褐狙の爪が和樹の体を引き裂こうと頭上から振り下ろされていた。

 

黒刀で両者の爪を受けたが2体の 妖魔の攻撃を受け腕の骨がギシギシと悲鳴を上げる。

 

さらに勢いを殺すことができず地 面へと叩きつけられた。

 

「があっ!」

 

体に衝撃が走る。

 

だが次の攻撃は止むことなく襲っ てくる。

 

『・・・・・・』

 

人型の妖魔が黒い爪を和樹に向け て再び伸ばしてきた。

 

「ぐっ!」

 

黒刀を前でクロスさせ爪を止め る。

 

だが諸懐が好機とばかりに風を放 とうと精霊を集めだした。

 

『血に染まれ!』

 

風が放たれようとした。そのとき 紫炎が諸懐へと放たれた。

 

風は和樹に向かわずに炎を相殺し た。

 

「和樹君!」

 

重悟は和樹を救おうと紫炎を放 つ。だがその炎は先ほど放たれた炎よりも確実に威力が弱くなっていた。

 

『邪魔するな!!』

 

「ぬぉっ!」

 

黒い風に炎は掻き消され重悟へと 襲い掛かる。

 

「宗主!」

 

雅人が重悟を引き風から逃れさせ る。

 

「宗主、お怪我は!」

 

雅人は重悟の身を案じ、声を上げ る。だが重悟は別のことにショックを受けているようである。

 

(ここまで・・・ここまで私の力 は弱くなっていたのか・・・)

 

他の術者を護るために防御壁を 張っていたので全力ではなかった、だがそれでも手を抜いたわけではない。だが自分の炎はいとも簡単に掻き消された。

 

以前の・・・前線で戦っていたこ ろの自分なら例え風を破りそのまま攻撃するまではいかなくとも力負けすることはなかったはずである。

 

だが今の自分は違う。完全に和樹 の足手まといになっていた。あのときに比べ自分の力は落ちている。それほど炎を放ったわけでもないのに体には疲れが来ていた。

 

『無限炎爆弾』も昔なら全力で3 度は使えるだけの力と体力を持っていた。だが今また『無限炎爆弾』を放てと言われたら無理である。

 

(私は今まで何をしていたの だ・・・)

 

一族を纏めることもできていな かった自分、さらには力が弱くなっていることに気が付かなかった自分、足を失ってからこの4年間自分は何を・・・・・・何をしていた。

 

足がなければ宗主としてはいられ ない、前線で戦い指示を出すことはできない、カッコばかり気にして炎雷覇を早々と綾乃に渡してしまい、継承の儀にでることもなく和麻を追い出すこととなる 原因を作り、一族を追い出された和麻を救ってやることもできなかった。

 

そして今この状態で、自分たちを 救おうとする和樹の援護をすることも叶わない。

 

(情けない・・・情けない・・・ 私は源氏殿から、師から何も・・・何も学んでいなかった・・・)

 

自分のふがいなさに重悟は悪いほ うへと考えがすべていってしまう。自分の力の無さをただただ悔しく、情けなく思うことしかできない。

 

「宗主、宗主!」

 

「!?」

 

雅人に呼ばれ重悟は顔を上げる。

 

「宗主! しっかりしてくださ い! 術者はほぼ全員非難できました。宗主も非難を!」

 

雅人の言葉を重悟はただ無言で聞 いている。

 

そして4体の妖魔と戦う和樹を見 て重悟の決意は決まった。

 

「・・・雅人、お前も非難しろ、 私は彼の援護を・・・宗主として・・・いや、神凪重悟、1人の術者としての最後の仕事をする」

 

そう言うと重悟は手に精霊を召喚 し始める。今持てる自分の力の全てを、命をかけることになっても和樹の援護のために使う。

 

「宗主!」

 

雅人は驚いたように声を上げる。

 

「しかし、その体では」

 

「雅人、彼は私たちのために傷つ き4体の強力な妖魔と戦ってくれている。宗主である私はこの場を去ることは許されない」

 

すでに覚悟は決めている。この場 で逃げおおせても、源氏に合わす顔などない。なら、最悪の場合和樹だけでもこの場から逃げる時間を稼ぐ。

 

自分の命を掛けてでも・・・

 

雅人は重悟の覚悟を感じ取る。こ の場で死ぬ覚悟を重悟は決意していると・・・

 

「・・・なら私も残ります。ここ で宗主を置いて逃げるくらいならこの場で私も戦うことを選びます」

 

「駄目だ、お前らはすぐに逃げ ろ」

 

「聞きません。既に宗主のために 捧げた命。宗主とあの少年を置いて逃げるのならばここで私も宗主と共に」

 

「宗主」

 

「我々も」

 

「最後まで着いていきます」

 

「我々は宗主についてここまで来 たのです」

 

「宗主」

 

他の残っていた数名の術者も同じ 考えのようである。

 

重悟は何とか非難させようとした が今は彼らの説得よりも和樹の援護である。

 

「分かった・・・なら私の後ろか ら前には出るな。そして私より早く死ぬな。お前らの死に顔など見たくはない」

 

そう言うと返事も待たず重悟は妖 魔に向かい紫炎を放った。

 

 

 

 

 

 

 

和樹は確実に押され始めていた。

 

4体の妖魔を相手に動きを止める ことなく戦い続けているのである。

 

しかも4体の妖魔は時間が経つご とに動きがよくなっていく。

 

(くっ! このままじゃ体が持た ない)

 

どれだけ和樹の動きが鍛錬され、 体を鍛えられたものであっても限界はある。休みなく長時間動くことは不可能。

 

この状態が続けは確実に体のどこ かが和樹の意思についてこれなくなる。

 

『グアアアアアアア!!』

 

だが妖魔の動きは止まることはな い。

 

馬腹の攻撃をさせたところに人型 の放った風が迫ってきた。

 

「紫炎!」

 

和樹の前に迫った風が炎に掻き消 された。

 

「私も援護する!」

 

「駄目だ! 重悟おじさんは・・ くっ!」

 

和樹は人型の爪を左の刀で受け流 し上段から右に刀で斬り落とそうとした。だがその刀は迫って来ていた風の刃を止めるために振り下ろされる。

 

「おじさんは速くこの場から非難 して! レオンたちがすぐに来る。それまでなら僕1人でも・・・はあっ!」

 

炎を召喚し褐狙に向けて刃を飛ば す。

 

さらに瞬炎を放ち、妖魔との間合 いを広げる。

 

「はぁ・・はぁ・・・・・ はぁ・・・」

 

さすがに和樹の息も荒くなってい る。ここまで休むことなく動き続けている。全速力で長距離マラソンをしているのと同じか、それ以上である。

 

(負けて、堪るか!)

 

ゴゥ!

 

「はぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

和樹を中心に莫大な炎が召喚され る。さらに魔力を注ぎ込み強力な攻撃を放とうとする。

 

諸懐は炎を召喚する和樹に風を放 つ。だがその風は紫炎の炎を何度も受け消滅する。

 

「私の力の全てをかけてお前らを 倒す!!」

 

重悟は額に大粒の汗をうかべ限界 に近いその体に鞭打ち、炎を放つ。

 

他の術者も微力ながら炎を放つ。

 

「瞬炎」

 

和樹から巨大な瞬炎の炎が放たれ る。

 

妖魔達はその炎を向かい撃つよう に黒い風を放つ。

 

お互いの中間で炎と風が激しくぶ つかり合う。

 

衝撃波は最初の和樹と妖魔のぶつ かり合いの倍以上の強さがあった。

 

「うあああ あぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」

 

和樹は全力で技を放つが4体の妖 魔の力の前では1人の力では対抗しきれるわけがない。

 

重悟が後押ししようともそれは変 わらない。疲れきった今の重悟では1体の妖魔の半分より少し多いくらいの力しかない。

 

和樹がどれだけ力を注いでもどん どん押される。

 

「おじさん、逃げて!!」

 

「いや、和樹君を置いて逃げるな らば私はこれから生きていくことなどできぬ。ならば私の命に代えてでも妖魔と刺し違えて見せる」

 

(死ぬ気だ・・・)

 

もはや重悟は何を言っても下がら ないだろう。このままでは確実に重悟たちは死ぬ。

 

だがそれは最初から分かってい た。ここで逃げるなら最初から重悟はここに残るわけがない。和樹もそれは痛いほどわかっている。

 

(・・・・・・使うしかない)

 

和樹は最後のカードを切ろうとす る。そうでなければこの場にいる重悟たちは確実に死ぬ。

 

(僕の本当の力を見せてやる)

 

和樹の周りに今までとは違う別の 力が集まりだす。

 

その感じたことのない強い力に重 悟が和樹を見る。

 

(な、何だ、この力は・・・)

 

今までの和樹の力の何倍もの力が 集結し始めている。

 

それは自分の紫炎の比ではない。 紫炎の何倍も力が和樹の周りに集まり始める。

 

その力に妖魔たちの攻撃も押され 始める。

 

(な、何だ、この感じたことのな い力は!!)

 

自分たちの力が押され始めてい る。こちらは4、向こうはほとんど1人といって言いのにも拘らず自分達が押され始めている。

 

考えられない事実に妖魔たちは困 惑し始める。

 

だが和樹の力はどんどん上がって いく。そして少しずつ前へと進み始める。

 

(一気に決め・・・)

 

和樹が力を解放しようとしたその とき・・・・・・

 

自分のよく知る力が妖魔たちに向 かって放たれた。

 

1つは青い龍、青龍、もう1つは 光り輝く、光弾、そして蒼い風の刃、もちろんその風は妖気など感じない。その風は妖気を・・・黒い風を浄化する澄み切った風だった。

 

青龍は黒い風を喰いつくし、光弾 は妖魔たちに攻撃を加え、風は残る全ての妖気と攻撃によって起こった衝撃を夜の空へと吹き飛ばした。

 

そして3人の人影が降り立った。

 

1人は和樹の庇うようにその前 へ、1人は重悟たちの前へ、もう1人はその間に立つように降り立った。

 

『貴様ら何者だ!』

 

諸懐がいきなり現れた3人に向 かって吼えた。

 

だが3人はその殺気の篭った声に 臆することなく逆に殺気を消し去るくらいの力を放ていた。

 

和樹は3人が来たことで少なから ず余裕が生まれたようである。さっきまでの莫大な力はすでに収まっていた。

 

「・・・・・・・・・」

 

重悟は言葉が出ず、3人をただ見 ていることしかできない。

 

そしてその中には自分のよく知る 人物。4年の間に成長した少年の姿がその目には映っていた。

 

「和樹、大丈夫か?」

 

和樹の側に降り立った人物、レオ ンが和樹を見ながら行った。

 

「・・・何とかね・・・あと少し 遅かったらわからなかったけど・・・」

 

「悪い、和樹。これでも急いでき たんだ」

 

和樹と重悟の間に降り立った人 物、八神和麻が言った。

 

「だが、これで1対1で戦える」

 

最後に重悟たちの側に降り立った 人物、カイが言った。

 

そして3人は和樹を囲むように妖 魔と対峙する。

 

そして4人から放たれる力は妖魔 と比べても全く引けを取らなかった。さらにその力はさらに上がっていく。

 

「和樹が受けた傷の分はきっちり 帰してやろうぜ。徹底的にな!」

 

「そうだな、さすがにこのまま許 すほど私は優しくはない」

 

「手加減無用だ、この場で終わら す」

 

「そうだね。終わらせるよ、ここ で」

 

最強の魔術師、最強の術者、最強 の式神が今ここに揃う。

 

 

 

 

 

 

 

レオン、カイ、和麻は和樹の周り に立ち妖魔と対峙する。

 

そしてその中にいる和樹も妖魔へ の警戒は決して解いていない。

 

4体の妖魔と退治する4人の力は 妖魔と同等かそれ以上、圧倒的に不利だった状況から立場は180度回転した。

 

「和樹、少し休むか?」

 

「問題ないよ」

 

言葉と同時に和樹の体が光りだ す。傷ついた部分を中心に光が強くなり傷が見る見るうちにふさがり10秒と掛からず全ての傷が消えた。

 

自分の体に治癒魔法を使い、傷を 癒したのだ。

 

戦っている間は治癒魔法を使う時 間はなかったが3人が来てくれた今なら十分すぎる時間を取れる。

 

「これはまた・・・常識の壁をぶ ち壊す回復力だな」

 

「それ兄さんが言えることじゃな いと思うけど」

 

「違いねぇ!」

 

和麻だけでなく、レオンとカイも 苦笑する。確かにこの4人は常識が通用する相手ではないかもしれない。

 

妖魔を前にしているこの状況で 笑っていること事態普通ならありえない。

 

重悟や他の術者はそんな4人をた だ見ていた。

 

「重悟」

 

レオンが重悟に声を掛ける。

 

「防御壁を張るだけの力は残って いるな。言っておくがお前らを庇いながら戦うことはできない」

 

「・・・・・・心配ない。そこま で力は落ちていない」

 

「なら、任せた」

 

その言葉を聞くと4人は妖魔に向 かって動いた。

 

「無理するなよ、宗主。現役時代 とは違うんだからよ!」

 

和麻からかけられる皮肉じみた言 葉。だがその中には自分への優しさが込められたように感じられた。

 

その言葉に重悟は和麻が自分の目 の前にいることに父親のような喜びを覚えた。

 

 

 

 

 

 

 

4人はそれぞれ妖魔に向かって走 る。

 

「僕は人型を相手にする」

 

「なら私は馬腹を相手にする」

 

「なら俺は諸懐をやる」

 

「それじゃ俺は褐狙を倒すぜ!」

 

4人はそれぞれ自分の相手にする 妖魔を互いに確認し力をその身体に宿す。

 

『なめるな、人間共が!!』

 

『返り討ちにしてくれる!!』

 

それぞれ妖魔も動く。

 

妖魔たちの力は全く衰えてなどい ない。和樹を相手にしていたときよりもさらに強力な妖気が集まり妖魔に力をもたらす。

 

『グオオオオオオオオ!!』

 

諸懐が4人に向け黒い風を放つ。

 

だがその風は4人に当たることは なかった。

 

「鎌鼬」

 

和麻が手を振るい風の刃同士がぶ つかり合い消滅する。

 

その間に3人はそれぞれの妖魔と の間合いを詰める。

 

「はっ!」

 

和樹は黒刀を振り下ろし人型妖魔 に斬りかかる。

 

妖魔は長く黒い爪に風を纏わせ刀 を止めるが、火花が散りあう。

 

刀と爪の攻防が繰り返され続け る。

 

上段から振り下ろされる刀を爪で 止めるともう片方の爪で和樹の肉を引き裂こうとする。

 

その爪との間合いを瞬時に判断し 紙一重で避けると胴に向け刀を振るう。

 

妖魔は回転しながらその刀を避 け、回転の勢いをそのままに腕を伸ばし鋭く尖った爪で和樹の目を狙う。

 

和樹は爪を下段から刀の峰で弾き 後ろに空中で回転しながら飛ぶと炎を召喚し炎の刃を放った。

 

妖魔も風の刃を放ち炎の刃を迎え 撃つ。風の刃を数発受け炎の刃は妖魔に届くことなく消える。

 

だが炎の刃が消えたと同時に和樹 が炎を纏った刀を目の前で振り下ろす。

 

風を纏い爪で受け止めるが目にも 止まらぬ斬撃は爪を斬り落とし、妖魔を斬り裂くと見えたが素早く動き服1枚だけを斬り裂いた。

 

お互いの動きが止まり間合いを取 り合う。だがすぐに2つの力はぶつかり合った。

 

和麻は褐狙を相手に鎌鼬を放つ。

 

褐狙も妖気の塊を放ち鎌鼬を消し 去る。遠くから鎌鼬を放つがそれは妖気の塊をぶつけられて妖魔に当たることはない。

 

「直接、撃ち込んでやる」

 

和麻は鎌鼬を大量に放つ。だがそ れにはたいした力は込められていない。

 

妖魔は力のない鎌鼬を相殺し和麻 へと飛び掛る。褐狙の爪が和麻へと襲い掛かるが和麻はそれを避けようとしない。

 

「喰らいやがれ!」

 

和麻の腕を芯に小さな竜巻が発生 し渦を巻く。精霊の圧縮力は鎌鼬を軽く凌駕している。

 

褐狙は妖気を集中しその風を迎え 撃つ。

 

「修羅旋風拳!」

 

2つの力がぶつかり合い衝撃波が 起き、圧縮された力が周りに飛び散る。

 

『グオオオオ!!』

 

「吹き飛びやがれ!!」

 

風の渦は爪を弾き飛ばし褐狙の顎 に叩きつけられ、和麻の何倍もある体を吹き飛ばした。

 

『グアアアアア!!』

 

空中に投げ出され血を吐きながら 褐狙は足をばたつかせる。

 

「風穴開けてやるぜ!」

 

両手に風の精霊を集めそれをボー ルほどに圧縮する、

 

「1球入魂、風魂!!」

 

振りかぶり圧縮された風魂を、褐 狙に向けて放つ。褐狙は妖気を最大限に集中させそれを止めるが力を殺すことができず大きく弾き飛ばされた。

 

『ヌオオオオオオオオオ!!!』

 

地面に叩きつけられ何度も転がり 止まる。起き上がろうとした瞬間、褐狙を横から衝撃が襲った。

 

『オアアアアアアアアア!!!』

 

褐狙にぶつかってきたのは・・・ 馬腹であった。

 

ズドドドドドドド!!!

 

さらにそこに炎の弾が次々と襲い 掛かり妖魔が見えなくなる。

 

和麻が振り向くと龍の細工が施さ れた剣を持つレオンが歩いてきていた。息一つどころか、戦いの中にあっても服装1つ乱さず歩いてくるその姿は見る者を震え上がらせるだけの威圧感と殺気を 秘めていた。

 

(・・・・・・絶対に敵に回した くねぇな、こいつだけは)

 

和麻は目の前の敵を忘れるぐらい にレオンが見方でよかったと心から思った。

 

スイッチが入り完全に戦闘態勢に 入ったレオンを止めるには腕1本失うことを覚悟しても足りないだろう。だからこそ昔も今も和麻はレオンに憧れているのだ。

 

そのゆるぎない強さに・・・

 

精霊王と契約した自分でも、命を 懸けなければ倒せない相手、そう風の精霊が言っている気がした。

 

そうレオンは和麻にとって1番尊 敬できる相手であり厳馬以上に超えたいと思う壁でもあるのだ。

 

「和麻、いくぞ」

 

「ああ!」

 

レオンの声に和麻は戦いへと頭を 切り替える。

 

2人の周りに今まで以上に風の精 霊が集まる。

 

煙がはれ、中から現れた妖魔に向 けて2人は風を放った。

 

「「裂破風陣拳!」」

 

『グオオオオオ!!』

 

『ナニィィィィ!!』

 

2人が起こした竜巻は馬腹と褐狙 を飲み込み巨大な体を巻き上げる。さらに渦に飲み込んだ2体を風の刃が斬り刻む。

 

『調子に乗るな!!』

 

ゴオゥ!!

 

妖気を爆発させ竜巻をかき消し地 面へと降り立つ。

 

「そう簡単にやられるわけない か」

 

「だが倒せない相手ではない」

 

和麻は手に風を、レオンは剣に青 い炎を纏わせ妖魔へと迫った。

 

カイは諸懐を相手に銀色の糸を生 き物のように操っている。

 

「来いよ。今度はハムにしてやる ぜ。それともベーコンがいいか?」

 

『ふざけるな!』

 

諸懐はカイに向かい風を放つ。そ の風をカイは上に跳び回避すると、諸懐に向けて銀色の糸を放つ。

 

諸懐はそれを避ける。銀色の糸は 地面を豆腐のように斬り刻み粉々にする。

 

「そんな風ではこのエクセリオン の餌食だぜ」

 

和樹から貰った魔法具『エクセリ オン』、銀色の糸はカイの絶妙な指の動きと力下限しだいでナイフも斬り裂く鋭い武器となる。

 

『貴様何者だ、いったい!?』

 

「知りたければ俺を倒してから聞 くんだな!」

 

『ホザケッ!』

 

咆哮とともに風がカイを襲う。

 

『グオオオオオオ!!』

 

次々に黒い風がカイを襲う。

 

カイはその風に向かい光弾を放ち 全てを消し去る。

 

「もっと強い風を放て来いよ、ブ タ!」

 

『殺す!!』

 

さらに強い風がカイを襲う。その 風をカイは避けながら諸懐をエクセリオンで斬り裂く。

 

ピシュッ!

 

『ヌゥゥ!』

 

(浅い、皮1枚か)

 

諸懐は糸を避けながら風を放つ。

 

「ふっ!」

 

カイはそれを上空に飛び避ける。 そして下にいる諸懐に向けて言う。

 

「どうした、飛べないブタはただ のブタだぜ!」

 

『ふざけるな!!』

 

諸懐はカイを追うように上昇する と黒い風を放つ。

 

カイは光弾で風を打ち落とす。

 

『ならば直接噛み砕いてくれる わ!!』

 

口を開けカイに喰らい付こうとす る。

 

だが待っていたようにそれを避け ると銀色の糸が諸懐の前足を斬り裂いた。

 

「・・・ずいぶんと硬い骨だな」

 

肉は斬り刻まれ血を流しているが 諸懐の足は残っていた。いや骨だけで繋がっているといったほうがいいだろう。

 

カイはレオンや和麻のいるところ へと降り立ち妖魔たちを見る。

 

和樹もそうだが3人の力も強力な ものである。トップレベルの妖魔を相手に自分たちに有利な戦いを繰り広げている。

 

それは妖魔たちのプライドを完全 に打ち砕いた。

 

『グアアアアアアアア!!』

 

『グオオオオオオオオ!!』

 

『ガアアアアアアアア!!』

 

諸懐、馬腹、褐狙が怒り狂った声 で咆哮する。空気が振動し夜空に3体の妖魔の声が響き渡る。

 

いきなり現れた3人に身体を傷つ けられプライドを傷つけられた妖魔たちの怒りは頂点に達しようとしている。

 

『ギャオオオオオオオオ オ!!!』

 

『グアアアアアアアアア ア!!!』

 

『キャオオオオオオオオ オ!!!』

 

3体の妖魔は咆哮を続ける。する と周りから妖気が集まり始める。四方八方から妖気が集まる、それは妖魔の大群。今まで見たことのないような妖魔の数である。

 

「マジかよ」

 

下は下級妖魔から上は上級の妖魔 まで雲霞のごとく空に広がるその数は見ただけでは数えることはできなかった。

 

上級の妖魔は本来ならば3人に とっては敵ではない。簡単に倒せるかと言われたらそれは難しいが、てこずる相手ではない。

 

しかし今は違う。4体の妖魔を相 手に目の前に現れた数え切れない数の妖魔を同時に相手するのはさすがに酷である。

 

重悟は他の術者を護るだけで精一 杯である。他の術者では下級妖魔なら相手にできるだろうが上級相手はできない。

 

「4体の妖魔に誘われて集まり隠 れていた妖魔を呼び出したか」

 

「だが相手にしないわけにもいか ないだろう」

 

レオンとカイは妖魔たちも警戒し ながら上空の妖魔に向けて炎の弾を放った。

 

「鎌鼬」

 

和麻も鎌鼬を放ち、妖魔を斬り刻 む。

 

『どこを見ている!?』

 

3体の妖魔はそんな3人に向かい 容赦なく襲い掛かってきた。

 

さらに上空の妖魔の群れが襲い掛 かってくる。

 

「瞬炎」

 

妖魔の群れに大量の炎の弾が横か ら放たれた。

 

「和樹」

 

和麻が見るとそこには人型の妖魔 の爪を受け止めながら周囲に炎の球体を作り出している和樹がいた。

 

人型の妖魔を相手にしながらも和 樹は周りの妖魔に炎を放ち次々の蹴散らしていく。妖魔に蹴りを放ち、間合いを取ると3人と合流した。

 

「レオン、兄さん、妖魔の群れに 向かって風の渦を放って! その間カイは僕と2人が技を放つ間を作るよ」

 

和樹は4人の力をそれぞれ合わせ て、この状況に対応しようとする。

 

素早く状況を判断し最善の対策方 法を導き出す。

 

和麻は和樹の対応の速さに驚き、 それをすぐに行動に起こすレオンとカイの和樹を信用する動きに3人の絆の強さを感じた。

 

「カイ」

 

「行くぞ」

 

2人は妖魔に向けて技を放つ。4 体の妖魔を引き付けレオンと和麻に技を出す時間を作り上げる。

 

「和麻、行くぞ」

 

「ああ!」

 

2人は風の精霊を集め自分たちの 周りに竜巻を何本も作り上げる。その数は2人合わせて10を超えていた。

 

「喰らえ!!」

 

「はああぁぁっ!!」

 

竜巻は妖魔の群れに突っ込み、周 りの妖魔を次々と飲み込みミンチへと変えていった。

 

「紫炎」

 

重悟も向かってくる妖魔に向かい 炎を放つだがその数は1人で対応する数を超えていた。

 

他の術者も炎を放ち応戦するが倒 せるのは下級の妖魔がほとんどで中級の妖魔も雅人だけが辛うじて倒せるほどであった。

 

「喝ぁぁぁっっ!!」

 

気合と共に紫炎が放たれ上級に近 い妖魔を消滅させるが、重悟の炎にはもう力がないといっていい、誰が見ても限界に近づいている。

 

「重悟、無理をするな」

 

レオンが重悟たちを襲おうとした 妖魔の群れに炎を放ち数十体の妖魔を一気に消滅させる。

 

「それに2人がすぐに来る」

 

「・・・2人・・・」

 

重悟がレオンの言葉に疑問の表情 を浮かべる。だがその答えはすぐにわかった。

 

「ふっ!」

 

再び重悟たちに向かってきた妖魔 が数体、刀に斬り裂かれる。重悟の前に現れたのは小柄な刀を持った少女だった。

 

「はあっ!」

 

その少女に襲いかかろうとした妖 魔を横から飛んできた拳が殴り飛ばし消滅させた。

 

妖魔を殴り飛ばしたのは手と足に プロテクターを装着した背の高い、長い髪をした少女だった。

 

「凛、沙弓。重悟たちは任せた ぞ!」

 

レオンの言葉に2人の少女は返事 を返す。

 

「わかった」

 

「任されたからには全力でいく わ」

 

修行により力の上がった2人の少 女。神城凛と杜崎沙弓は妖魔たちを蹴散らし始めた。

 

2人の少女が誰だかわからない重 悟はレオンへと視線を向ける。

 

「神城家と杜崎家の人間だ」

 

レオンの言葉に重悟の目は2人へ と向けられる。

 

「重悟、もうお前は下がってい ろ。2人の強さは私が保証する」

 

レオンは2人の力をよく知ってい る。おそらく誰よりも・・・だてに2人の護衛として仕事に着いて行って自分の目で見ていない。確実に2人は成長し力を付けてきている。

 

上級の妖魔(上級の下)を相手に なら1対1でも、引けは取らないくらいに・・・

 

「剣鎧護法」

 

凛の刀が光り輝き妖魔を次々と斬 り裂いていく。その刀捌きはどこかレオンの動きとかぶる所があった。

 

「龍撃拳」

 

沙弓の拳から放たれる拳の弾丸が 妖魔を次々と殴り飛ばす。

 

「・・・私の方もいくか」

 

レオンを中心に大量の炎の精霊が 召喚され始める。

 

そしてそれは1つの形を成し始め る。

 

「・・・鳥・・・」

 

「なんて炎なんだ・・・」

 

術者たちはレオンの召喚した炎の 量に腰を抜かすものまでいた。

 

下級の妖魔はその炎の余波を受け ただけで消滅していった。

 

重悟は1人その炎を凝視し続けて いる。

 

その炎は自分の紫炎を破った技、 忘れたくても忘れることのできない姿・・・・・・

 

その技の名前は・・・

 

「不死鳥・・・朱雀・・・」

 

重悟はかつて自分が見た火の鳥が 再び自分の目の前に現れているのを目に焼き付ける。

 

無限炎爆弾を受けても消えること のなかった火の鳥、まさに不死鳥と呼ぶに相応しい炎の鳥である。

 

「朱雀」

 

レオンから朱雀が放たれる。朱雀 は妖魔たちの群れに飛び込み次々と妖魔たちを消滅させていく。

 

朱雀に振れたが最後、上級妖魔で さえ朱雀の炎になど耐え切れるわけがない、無数にいた妖魔を夜の闇へと消し朱雀も姿を消す。

 

だがそれで終わらない。風の精霊 が集まり始める。

 

「鎌鼬」

 

和麻から放たれる鎌鼬が朱雀から 逃れた妖魔たちを斬り裂いた。

 

だがその風は不意に止まる。

 

和麻は妖魔の群れとは違う別の方 向を見ていた。レオンも同様にその方向を見ている。

 

「レオン・・・」

 

「気づいたか」

 

水と氷、そして炎の精霊がここか ら少し離れたところで召喚されたことに気づく。

 

そして妖魔の気配も同時に感じ取 ることができた。

 

だがそれは前から気づいていたこ とである。

 

ここに付き妖魔たちと戦い始めた ときにはすでに気づいていた。

 

もちろん2人だけでなく、和樹や カイもである。

 

異変に気がついたのか4体の妖魔 を相手にしていた和樹とカイが2人と合流する。

 

「今の気配・・・」

 

「4人全員が間違えるなんて有り 得ない」

 

レオンの言葉で4人は自分の感じ たものが間違いでないことを信じざるを得なくなった。

そしてそれを肯定するかのように 諸懐が笑い出した。

 

『ヒャハハハハハハハハ!! さ すがださすがだ!!!』

 

夜空に諸懐の悲鳴に近い笑い声が こだまする。

 

4人の前に新たな2体の妖魔が下 りたった。

 

そしてその2体の妖魔の手には力 なく体を折った3人が握られていた。

 

「千早!」

 

「山瀬先輩!」

 

「綾乃!」

 

「お嬢!」

 

「煉!」

 

沙弓、凛、重悟、雅人、和麻が3 人の名前を呼ぶ。

 

『迂闊だったな、我らの存在に気 づいていながら』

 

千早と綾乃を手に握る妖魔が声を 出した。そしてあきらかにその妖魔は6体の中でも一番の強さを持っていることがわかった。

 

身体からあふれ出す妖気の量が他 の妖魔よりもあきらかに違っていた。

 

『その男を助けるために動いたの が仇となったな』

 

重悟を見ながら妖魔は続けた。だ がその言葉はどこか和樹に向けても言っているようであった。

 

『この娘も馬鹿なものよ。勝てぬ と知る我らに向かってくるとは愚かなものよ、人間とは』

 

和麻とカイが拳を強く握り締め歯 を食いしばる。

 

迂闊だった、和樹の危機を感じ3 人を置いて先に来てしまったことに。2人が和樹の危機を感じ取ったのは同時だった。

 

妖魔に対し和樹が力を解放しよう としたのをカイは感じ取った。和麻もそれを感じた。

 

急がなければと焦る2人に千早が 先に行くように言った。2人は危険だと思ったが、すでに神凪まで1キロの範囲にいたこと強い力を感じ先に和樹と合流したのだ。

 

だがそれが仇となった。2人は自 分の判断を悔やんだ。

 

「饕餮・・・それに蠱雕か」

 

『ほう・・・我らの名を知ってい る・・・・・・いや、お前が我の名を知っているのは当たりまえか』

 

レオンの言葉に妖魔が答える。

 

煉を抱えている妖魔の名。

 

蠱雕(コチョウ)

鷲に似た巨鳥。角があり、茶色の 翼と毒々しい色合いの曲がった嘴をもつ。

水に獣あり、名は蠱雕、その状は 雕の如く尖った角があり、その声は嬰児の声のよう。これは人を食う。

 

そして千早と綾乃を手にしている 妖魔。

 

最悪な相手が出てきたとレオンは 心から思った。

 

その妖魔の名。

 

饕餮(トウテツ)

体が牛または羊、人面でわきの下 に目があり、虎の歯、人の爪を持ち声は嬰児のようで人を喰らうという。

伝説の一部だとすら信じられてい る強大な妖魔。様々な姿に変化することができるほど甚大な妖力を持つ。

最高位の妖魔と呼ばれている化物 である。

 

そして・・・昔レオンと戦ったこ とのある妖魔・・・・・・

 

『さすがと言っておこうか。まさ かこんなところで最強と言われたお前に再び会うとは思いもしなかったぞ』

 

「・・・・・・」

 

『ふはははははは、さらにはケル ベロス、幻の召喚獣と言われた地獄の番犬までいるとはなんて豪華なメンバーが揃っているんだ。ひゃははははははははは!!!』

 

饕餮はレオンとカイを見ながら 狂ったように笑い出した。

 

レオンはそんな饕餮を射殺すよう な視線を向けている。普通の人ならそれだけで精神が狂ってしまうくらい殺気が篭っていた。

 

「饕餮。今すぐ3人を放せ、私が 動かないうちにな」

 

「悪いが俺はもう我慢できそうに ないんだ。さっさと3人を放せ!」

 

レオンとカイは空へと飛翔し、妖 魔と対峙する。

 

断った瞬間に動き出すのは確実と 言っていい雰囲気である。

 

だが饕餮はそんな2人を前にして も怯んだ様子は全くない。むしろ2人と戦いたいと言った感じで挑発するように言い返す。

 

『悪いがそれはできない相談だ。 このガキにはこれから大いに働いてもらわなくてはならない。我らの野望のためにな』

 

「貴様!」

 

『この2人は我らの力の源となっ てもらおう。とくにこの氷の少女は2度と見ることのできぬくらいの上玉だ。人間のようなごみでも役に立つ存在だ。我らの餌となることで役に立つのだから な』

 

「・・・そんなことが私たちを前 にしてよく言えるな」

 

「俺たちを前にそんな夢のような 話が可能だとでも思っているのか」

 

2人と妖魔の間ではすでに気のぶ つかり合いが始まっている。もしその間に入っていこうものなら肉片どころか魂さえも残らないだろう。

 

『可能だ。人間に仕えている貴様 らなどに私は倒せん!』

 

千早と綾乃が空に投げ出される。 衝撃で千早の口から血が吐き出される。

 

『蠱雕、その童男をつれて戻って いろ! お前ら、2人は喰らってしまえ!!!』

 

「させるか!」

 

「死ぬのは貴様らだ!!」

 

「煉!」

 

レオンとカイが2人に向けて飛翔 する。和麻も煉を取り戻そうと飛翔した。

 

だがその前に妖魔が立ちはだか る。煉を連れた蠱雕はすでに遠く離れてしまっている。

 

「食事の邪魔はさせぬ!」

 

『グオオオオオオオ!!』

 

饕餮は皮肉なのか人間の形に姿を 変えレオンと対峙する。その姿はどこかレオンに似ていた。

 

「どうだ、貴様をイメージし姿を 作り出した。再びお前と戦えて嬉しいぞ」

 

「ふざけるな!」

 

2人の間で力と力がぶつかり合い 衝撃波が生まれた。

 

「千早!!!」

 

レオンは千早を呼ぶが身体がいう ことを聞かないのか全く反応しない。綾乃は完全に意識を失っている。

 

『我の力となれ!!』

 

諸懐が千早に向かい口を開け喰ら い付こうとする。

 

「させる・・くっ!!」

 

『ガアアアアアア!!!』

 

馬腹がカイに向かい爪を振り下ろ す。

 

褐狙は綾乃に向かい今にも喰らい 付こうとしている。

 

「鎌鼬」

 

飛翔してきた和麻が鎌鼬を放ち3 体を離そうとするが3体を同時に止めるのは困難である。

 

諸懐は和麻の風を相殺、褐狙も風 を妖気で打ち消し綾乃に向かって喰らい付こうとしていた。

 

「綾乃!!!」

 

「千早!!」

 

「お嬢!!」

 

「山瀬先輩!!」

 

重悟、沙弓、雅人、凛が2人の名 を呼ぶ。

 

(くそっ!)

 

(間に合わない!)

 

饕餮を相手にしているレオンは動 きを封じされている。

 

カイは馬腹の攻撃を避け2人を助 けようとするが間に合わない。

 

2人の身体に妖魔の牙が喰らい付 こうとした。

 

「・・・・・・黒龍刀」

 

一瞬の出来事だった。

 

何が起こったのか誰も理解ができ なかった。

 

千早と綾乃を襲った諸懐と褐狙は 一体何が起きたのか全く理解できなかった。

 

身体を凄まじい衝撃が襲ったかと 思うとそのままその力に弾かれた。

 

「千早!」

 

「くっ!」

 

一瞬何が起きたかわからず動きを 止めてしまったが、和麻は千早を、カイは綾乃を空中で受け止める。

 

「はっ!」

 

『ぐっ!』

 

レオンは妖魔たちに向けて青龍を 放つと2人の前にでて護るように地上へと降り立った。

 

「綾乃!」

 

重悟はカイから綾乃を受け取ると 傷の状態を見る。擦り傷が何箇所か見られるが見た限り命に別状はない。

 

「千早!」

 

「速く! 治癒魔法をかけま す!」

 

逆に千早は重症だった。誰の目に もわかる。

 

腕からは血を流し、頭からも血が 出ている。擦り傷や切り傷は数え切れない。

 

沙弓と凛は和麻が千早を地面に寝 かすとすぐに治癒魔法を掛け始めた。

 

その姿を確認すると和麻はあるほ うに顔を向ける。

 

レオンとカイも同様にその方向に 顔を向けていた。

 

3人の表情が一気に硬く・・・い や凍りついた。

 

顔には汗が浮かび身体が動かなく なってしまう。

 

・・・・・・恐怖・・・・・・

 

今まで感じたことのないほどの恐 ろしい殺気である。

 

それは妖魔たちも同じだった。攻 撃を受けた諸懐と褐狙は何が起きたのかわからないでいたがその光景を見て理解できた。

 

自分たちを攻撃したのが誰なの か・・・

 

ドゴッゴゴゴゴゴゴゴゴゴ ゴゥゥゥゥッッ!!!!!

 

巨大な火柱が立ち上がり今まで誰 も見たことのない炎が渦巻き始める。

 

その炎の色は紅でも紫でも蒼でも ない・・・・・・黒・・・

 

他のどの色も混ざることのない漆 黒の炎・・・・・・

 

全てを飲み込み消滅させるまさに 闇の炎、黒炎・・・

 

そしてその火柱の中に立つ1人の 人間・・・

 

そこに立っているのは鬼に思え た。

 

「・・・最高だぜ・・・」

 

その場にいた誰もがその声に恐怖 を抱いた。

 

そこにいるのは自分たちの知って いる人ではない。

 

まるで人が変わってしまったかの ようにその人間は言葉を出す。

 

「こんな愉快な気分になるなんて な・・・」

 

黒炎に包まれる者・・・式森和樹 は己の中に眠る力を解放した。

 

「・・・お前ら全員皆殺しだ」

 

黒炎の炎を持つ鬼が目覚めた。

 

 

 

 

あとがき

「レオンで〜す。さて今回は誰だ ろな」

「こんにちは、前回逃亡した神凪 煉です」

「今回こそあとがきに登場の煉で す。しかし、散々だね・・・いろんな意味で」

「みんな酷いですよ。僕のこと女 の間違えるなんて」

「女なのに男に間違えられるキャ ラもいるのにね。どこかの国の代表は・・・それでは精霊ニュースを読んでください」

「はい。千早、綾乃、煉大ピン チ、和樹にも異変。妖魔に捕まったしまった3人、煉はそのまま攫われ2人は妖魔に喰われそうになったところを寸前で助けられる。だが2人を助けた和樹の様 子がおかしなことに・・・」

「いや〜面白くなってきたね。煉 は攫われちゃうし」

「どこがですか。僕どうなるか分 からないんですよ」

「大丈夫、原作では死ぬようには なってないから。それとネタバレになるんだけど煉にはまだまだ活躍してもらうって作者言ったたし」

「それなら男として扱って欲しい です。和樹兄様はどうなってしまったんですか?」

「僕は知ってるけど、これは次の 話を読んでください。」

「僕の出番って当分ないんだろう な」

「あっちでもこっちでも捕まって るね」

「どうせ囚われの身が僕にはあっ てますよ。極刑に処されそうになってますよだ・・・」

「次回は和樹が大暴れします」

「流された・・・みんな僕のこと 忘れないでくださいね」

「それでは皆さん「まったね〜(×2)」」


BACK  TOP  NEXT




inserted by FC2 system