第1部   〜動き出す運命〜

 

 

 

 

第17話 荒れる黒炎

 

 

「・・・・・・」

 

和樹は黒炎を身体に纏いながら妖 魔たちを見上げる。

 

このとき妖魔たちは始めて寒気と いうものを知った。

 

異常すぎる、人間が手にすること のできる力をはるかに超えている力が今自分たちの前に存在している。

 

「・・・貴様、何者だ・・・」

 

「・・・はっ」

 

笑い捨てるかのように饕餮の言葉 を流した。まるで人が変わったかのように変貌した相手に妖魔たちはただ唖然とするばかりだ。

 

(何だ? この力は・・・いやそ れ以前にこやつの変貌ぶりはいったい・・・)

 

饕餮は和樹を見る。

 

だがその心のうちを読むことはで きない、逆に自分達の考えていることを見通すように和樹は呟き始める。

 

「そうか・・・なるほどな。貴様 は蠱雕に千早たちを襲わして綾乃の野郎が飛び出すようにうまく動かしたってわけか、千早がそれをかばうようにして・・・ずいぶんとこったことしてくれた じゃねぇか・・・俺たちまで嵌めやがってよ」

 

「貴様、その眼は・・・」

 

和樹の眼の瞳の色が紅の色に変わ り輝いていた。その眼は自分の心の奥底まで見るようなそんな眼をしていた。

 

「相当動揺してやがんな。そんな にこの炎が気になるのか」

 

「・・・・・・」

 

「はははははっ、心は正直だ な・・・だが・・・」

 

和樹を取り巻く炎がさらに強くな る。

 

「知る必要なんてねぇんだよ。 知ったところですぐに貴様らは・・・」

 

和樹の姿が消える。

 

ガッン!

 

『グオオオオオオオ!!』

 

諸懐は悲鳴を上げながら地面へと 叩きつけられる。そして諸懐がいた場所には和樹がいた。

 

「俺に殺されるんだからな!」

 

ゴオオオオオオオオオオオオオ オ!!!

 

饕餮に向けて黒炎が放たれる。黒 い風を前面に張って炎を止めようとするが完全に押されてしまう。さらに津波のように襲う炎は集まっていた下級、中級、上級の妖魔たちを一瞬にして飲み込ん だ。

 

『人間ごときが!!』

 

『喰い殺してくれる!!』

 

馬腹と褐狙が和樹へと爪を振り下 ろす。だがその爪は和樹に届くことなく黒い龍の刀に止められる。

 

『・・・・・・・・』

 

だが動きを封じられた和樹へ無言 で人型の妖魔が迫る。

 

黒く光り輝く爪が和樹の体へと まっすぐ伸びている。

 

「燃え尽きろ!」

 

そのとき黒炎は正面から向かって きた人型妖魔へ襲い掛かった。炎は妖魔を飲み込み瓦礫の山へと妖魔を吹き飛ばした。

 

『グルルルルルルルル ル・・・・・・』

 

龍は唸りながら2体の妖魔を睨み つける。その目は血に飢えた獣の目に見えた。

 

「ふはははは!! 黒龍刀は貴様 らを斬り刻みたくて仕方ないらしいな」

 

ガキッ!!

 

妖魔は爪を弾かれ後ろへ飛び間合 いを取る。和樹も中に浮いているはずなのにまるで地面に足をつけているように身体は動かなかった。

 

さらにその周りには黒い炎の球体 が無数に浮いている。その球体は今にも破裂しかねないほど強力なエネルギーが圧縮されていた。

 

「どうやら我慢の限界らしい。悪 いが的になってもらうぜ!」

 

『ギャギャアアアアアアアア ア!!』

 

龍は感情を表に出し咆哮する。

 

「斬り刻んでやれ、黒龍 刀!!!」

 

ドォン!!!

 

龍は妖魔へと襲い掛かり衝撃で妖 魔たちの身体を吹き飛ばした。

 

「瞬炎!」

 

人型、馬腹、褐狙へ黒炎の瞬炎が 放たれる。3体の妖魔は炎を浴び煙に包まれた。

 

「!」

 

ガキン!

 

後ろから襲い掛かってきた刀を和 樹は受け止める。

 

「何者だ、貴様は・・・」

 

"何者だ"・・・・?」

 

和樹は饕餮に炎を刀に合わせた状 態から放った。自分の身の安全も考えない攻撃に饕餮は炎を受けて和樹から離れる。

 

「くっ!」

 

人間の姿になっている今全力を出 せなかったため身体が炎に焦がされていた。

 

"何者だ"・・・決まってんだろ」

 

和樹は黒龍刀に炎を纏わせ饕餮に 向かい容赦なく振り下ろす。

 

「式森和樹だ!!」

 

ドッ!!!

 

「グオッ!」

 

饕餮の身体を斬り裂き、さらに炎 が身体を包み込んだ。

 

「ハハハハハハハハハハハハハハ ハハハハハハハ!!!!!!」

 

狂ったように笑いながら炎に包ま れた饕餮を追う和樹。その姿にはいつもの和樹の影など微塵もない。

 

荒れ狂う鬼神、力を誇示するかの ように暴れるだけである。

 

「くたばりやがれ!!!」

 

巨大な黒炎の刃が饕餮に放たれ る。

 

『人間ごときがいい気になる な!!!』

 

体の炎を吹き飛ばし人間の姿を止 め元に戻った饕餮が妖気の球を放つ。

 

炎と妖気はぶつかり合い爆発し た。

 

『!!?』

 

(消えた!!?)

 

饕餮の目の前から和樹の姿が消え る。辺りを探してもその姿は見つけることはできない。

 

さらには強力な炎の気配さえ感じ ることができない。

 

(どこに・・・!!?)

 

「遅えよ」

 

ドゴォン!!!

 

黒炎が饕餮を直撃する。饕餮の体 は黒炎に包み込まれそのまま地面へと落ちていく。

 

「ヒャハハハハハハハハハハハハ ハ!!! もっと俺を楽しませろ!!!」

 

その姿を和樹は狂った笑い声を出 しながら見ていた。

 

暴走する和樹をレオンたちは唖然 として見ていた。

 

今まで見たことのない和樹がその 目には映っていた。口調も、顔つきも、戦い方も、自分たちの知っている和樹の姿はどこにもない。

 

あまりの光景に誰も言葉を発する ことができない。思考回路が完全に停止している状態である。

 

わかることは今の和樹が圧倒的に 強いと言うこと。

 

5体の妖魔が束になっても敵わな いほどの強さを見せていると言うこと。

 

「な、何なんだ。一体、和樹はど うしたって言うんだ」

 

和麻は和樹に何が起こったのか分 からなく困惑する。

 

「・・・和樹」

 

「式森・・・」

 

「式森君・・・」

 

「和樹君・・・」

 

カイ、凛、沙弓、重悟もいきなり の和樹の変貌に何が起こったのか分からずにいた。

 

(和樹に何が起こったんだ? 俺 と戦ったとき和樹は黒炎を使ったがあんなふうにはならなかった。その後黒炎を使ったところを何度か見たことがあるがそのときも今見たくなったことはない)

 

カイは自分が和樹の式神となった ときからの和樹の戦いを思い出すがこんなことは初めてあった。

 

和樹が力を暴走させたことは式神 となってから見たことは1度もない。レオンに昔の話を聞いたがこんなふうになった和樹の話は全く聞いていなかった。

 

言わなかっただけかもしれないが それでも今の和樹は自分の知る和樹ではない。

 

今の和樹は普段の和樹からは全く 想像できない姿、正反対の姿である。

 

戦うことにだけ楽しみを感じてい るその姿、相手を傷つけることに快感を覚えているその姿、周りのことなど全く目を向けず自分の思うがままに暴れ来るうその姿。

 

少なくともカイが知っている和樹 の姿ではない。

 

自分の知る和樹は思いやりがあ り、誰に対しても優しく、強い心を持っている。

 

(和樹・・・)

 

カイは和樹を見る。

 

(お前は何を背負っているん だ・・・)

 

カイと同様に皆、目の前の光景が 信じられないで動くことができないでいる中、和樹の放った黒炎は1体の妖魔を消し去った。

 

 

 

 

 

 

 

地面へと叩きつけられるように落 ちていった妖魔たちは和樹を下から睨みつける。

 

5体の妖魔はまさかの出来事に戸 惑いを隠せない。

 

(あの力は何なんだ、一体?)

 

饕餮はゆっくりと体を飛翔させ る。

 

他の4体の妖魔も続くように身体 を飛翔させ、和樹を取り囲むように間合いを取った。

 

『貴様、その力はいったい何なん だ?』

 

「馬鹿かお前は知ったところで貴 様らに勝ち目はない」

 

黒炎は和樹を包むように黒龍刀は 和樹の感情を表してるように笑っている。

 

(全力ではないにせよ、ここまで の力を持つものがいるとは・・・計算外だった)

 

饕餮はまだ真の力を見せていな い、いや出せないのだ。まだ完全な形で目覚めていない状態でここに来たため全力で戦えていない。

 

まさか全力で戦わなければならな い相手がいるなどと考えても見なかったからだ。

 

饕餮が思考を巡らせている中、3 体の妖魔が和樹に向かって襲い掛かった。

 

『おのれ人間ごときがいい気にな りおって!!』

 

黒い風の刃か体の妖魔から放たれ る。その数、その力は今迄で最高であった。

 

上下前後左右至る所から和樹を風 の刃が襲う。その数は逃げる隙間など全くないほど無数の数である。

 

『泣き叫んで死ぬがいい!!!』

 

諸懐の勝ち誇ったような咆哮がこ だまする。

 

「雑魚が!」

 

ゴオオオオオオオオオオオオオオ オ!!!

 

巨大な黒炎の火柱が和樹を包み込 み風を相殺する。

 

3体の妖魔が風の刃を放ち続ける が全て炎に飲み込まれてしまう。さらに炎は風を吸収しているようにその強さを増してく。

 

「瞬炎」

 

火柱の中から炎の球体が飛び出し 馬腹と褐狙へと命中する。風を吹き飛ばしいきなり向かってきた炎に対処することが全くできなかった。

 

「まずは貴様だ」

 

『!!?』

 

攻撃は止まない。炎の中から声と ともに炎を纏った黒龍刀が諸懐へと襲い掛かった。

 

黒龍刀は諸懐の右前足を一瞬にし て斬り裂いた。

 

『ガアアアアアアアア!!!』

 

苦痛に諸懐が悲鳴を上げる。

 

「左」

 

ガシュッ!

 

左前足に黒龍刀が巻きついたその 瞬間足はバラバラに斬り裂かれ黒い炎に焼かれる。

 

『ギャアアアアアアア!!!』

 

続けざまに諸懐の後足が両方とも 炎に焼かれる。

 

諸懐はそのまま落ちて行き地面へ と叩きつけられる。

 

『こんな、人間が、こんなこと は!!!』

 

自分の身に起きていることが未だ に信じられず諸懐は叫び続ける。

 

他の妖魔たちはいつのまにかこの 場から退散している。自分をおとりとし、この場から去っていったのだ。

 

『おのれ貴様ら!!!』

 

自分を見捨てた妖魔たちに咆哮す る諸懐、だがその声はすでに妖魔たちへはとどかない。

 

「止めだ!」

 

自分の上空に和樹の姿が映し出さ れる。

 

その右腕には黒炎が蛇の形をして 自分へと向けられていた。

 

『グアアアアアアアアアアアアア ア!!!』

 

最後の抵抗とばかりに風を放つが 何の意味も成さなかった。

 

「地獄に落ちな! 喰らい尽く せ、黒蛇!!」

 

黒炎の蛇が諸懐の身体を飲み込ん だ。

 

『ギャアアアアアアアアアアアア ア!!!』

 

諸懐の断末魔が響き渡る。

 

だがそれもすぐに止んだ。諸懐の 身体は全て焼き尽くされその場には巨大なクレーターだけが残っていた。

 

 

 

 

 

 

 

「・・・手ごたえのないやつだ」

 

諸懐がいなくなったのを確認した 和樹は去っていった妖魔を追おうとする。

 

だがその和樹の前に立ち塞がる人 物がいた。

 

「・・・何のつもりだ、レオン」

 

和樹の前にはレオンが立ち塞がっ ていた。

 

「・・・和樹、黒炎と刀を納める んだ、落ち着いて周りを見ろ」

 

「邪魔するな、そこをどけ」

 

レオンの言葉など全く耳に入らな いようである。

 

まさに一触即発状態である。

 

レオンが退かなければ和樹は躊躇 なくレオンに炎を放つ、和樹から放たれる殺気がそれを物語っていた。

 

「1人で敵陣に突っ込むつもり か!? 正気に戻れ、和樹!!」

 

「うるせえっ! 俺に指図する な!!」

 

和樹の周りに黒炎が召喚される。 脅しでもなんでもない、レオンに向けて完全に敵意を示している。

 

だがそんな和樹を相手にしても全 く動じない、ただ和樹から視線をはずさず睨み合いが続く。

 

「和樹」

 

和麻が睨み合いを続ける和樹へと 声を掛ける。

 

(こいつ・・・)

 

自分のほうを見た和樹、目を合わ せてさらにその変貌振りを感じた。

 

目を合わせた瞬間に体中に鳥肌が 立ち、思わず尻餅を付きそうなくらいの殺気、敵意をむき出しに睨みつけるその眼は今まで見たことのない和樹の眼だった。

 

言葉が出てこない、何を言ったら いいのか分からなくなってしまう。

 

背中には冷たい水が流れるのが分 かる。

 

「和樹どうしたんだ。お前らしく ないぞ!」

 

カイが和樹に言うが全く和樹は聞 く耳を持たない。レオンが前にいなければ今すぐにでも1人で妖魔を追いそうな雰囲気だ。

 

「俺らしくないだと、俺は俺だ。 貴様なんかに言われる筋合いはない!」

 

黒い炎が燃え上がり衝撃波が回り に襲い掛かる。

 

「くっ!」

 

「な、何なんだ!?」

 

カイと和麻は防御壁を作り出し衝 撃を受け止める。

 

炎を発しただけでこの力、全力で 向かってこられたらいったいどうなるのか?

 

ガキィン!

 

金属音が響き渡り衝撃派が収ま る。

 

一同の目の前には刀と刀を合わせ お互いに動きを止める、和樹とレオンの姿が映った。

 

「やめるんだ、和樹。闇に心を飲 まれるな!」

 

「黙れ、あの野郎、散々俺を閉じ 込めやがって。悪いが俺はまだ暴れたりないんだよ」

 

刀を下げる間合いを取ると和樹は 上段からレオンに向け躊躇なく黒龍刀を振り下ろした。

 

「俺の楽しみを邪魔をするな ら・・・・・・お前を殺す」

 

冗談でない事は和樹から発せられ る殺気が証明していた。これ以上邪魔するなら和樹はレオンを殺す。

 

皆、和樹の言葉に唖然とする。

 

カイ、和麻、凛、沙弓、重悟、 皆、和樹をよく知る者にとってレオンが和樹にとってどれだけ大きな存在であるかよく知っている。

 

そのレオンに向けて和樹から『殺 す』という言葉が向けられるなど絶対にありえないと言えたからだ。

 

「もう1度いう。どけ、レオン」

 

「退くわけにはいかない。それが お前の式神となったときの私の誓いだ。私は・・・」

 

青龍刀を和樹に向けて構える。そ の剣に迷いはない。

 

「和樹、死んでもお前を止める」

 

「なら・・・死ね」

 

ガシャァン!!

 

黒龍刀と青龍刀が2人の間でぶつ かり合った。

 

力と力の押し合いになった瞬間、 レオンの体が弾き飛ばされる。

 

『!!?』

 

その光景に皆言葉を失う。2人の 体型はレオンのほうが20cm近く高い力比べになったらレオンが圧倒的に有利である。

 

そのレオンの身体を軽々と弾き飛 ばしたのだ。

 

和樹の動きは止まらず二刀流の黒 龍刀がレオンを襲う。右下段からレオンの胴を襲うと左斜めからすぐさまもう片方の刀が襲い掛かる。

 

「玄武」

 

左手に持つ青龍刀で片方の黒龍刀 を止めると右手の甲から肘にかけて黒く光る亀の甲羅のような盾が出現する。

 

四神の1つ『玄武』であり、一番 防御力が高い存在。

 

中国の想像上の神獣で、北方を守 護する。足の長い亀に蛇が巻き付いた形をしている。

 

玄武は黒龍刀を受け止め、黒龍刀 を弾いた。

 

「はぁっ!」

 

そのままレオンは和樹の顔に玄武 を叩きつける。まともに受けた和樹は中へと投げ出されるが身体を回転させ地面へと着地する。

 

「・・・・・・」

 

無言で和樹は口から流れる血をな める。

 

血の混じる唾を吐くと鋭い眼光で レオンを睨みつける。

 

「・・・玄武を出してくるとはい い感じじゃねぇか」

 

「・・・まだ目が覚めないか」

 

「冗談、せっかく楽しくなってき たんだ。あいつに邪魔はさせねぇよ」

 

そう言うと和樹はレオンに向けて 黒龍刀を構える。

 

そんな和樹を止める声が響く。

 

「和樹君」

 

和樹の動きが鈍る。水をさしてき た声を睨みつけた。

 

「千早か・・・」

 

「和樹君、駄目。闇に心を飲まれ ちゃ駄目」

 

「くっ、千早・・・余計な事 を・・・」

 

頭を押させながら自分の中から出 てくる何かを押さえ込もうと和樹は苦しみだす。

 

「和樹君!」

 

「千早、動いちゃ傷に!」

 

和樹に声を上げる千早を沙弓が押 さえる。喋れるくらいにまでは回復したが凛と沙弓の魔法ではまだ完全に傷は回復できてなく身体を動かすのは危険である。

 

「和樹!」

 

「ぐ・・・!? く、く そ・・・」

 

(消えろ!)

 

和樹の頭の中で声が響く。

 

「邪魔しやがて、てめえは出てく るな!」

 

黒龍刀も和樹の影響を受けたのか 地面をのた打ち回る。

 

「和樹君!!」

 

「和樹!!」

 

千早とレオンが和樹の名を叫ぶ。 何とかして正気に戻らせようと。

 

(僕は君なんかに負けない!!)

 

「口だけの野郎が・・・俺に逆ら おうと・・・・・・引っ込んでろ・・・」

 

(僕は自分のできることをする。 それだけだ!!)

 

「馬鹿か・・・俺に任せとけ ば・・・・・・くそっ!」

 

(消えろ!!!)

 

「うあああああああああああああ あああああああああああああああああああああ!!!!!!」

 

ドゴォン!!!

 

地面へ黒炎が放たれ、爆炎が和樹 を包み込む。

 

「和樹!」

 

「和樹君!!」

 

煙が次第にはれていく、中には膝 を付いた和樹が苦しそうに口で息をしていた。

 

「和樹!」

 

レオンが和樹へと駆け寄る。

 

和樹からは先ほどまでの殺気は消 え失せていた。

 

「はっ・・・はぁっ・・・ はっ・・・」

 

「和樹・・・」

 

「・・・だ・・・大丈夫・・・ ご、ごめん」

 

顔を上げた和樹は苦しそうに言い ながらレオンに答える。

 

だがその顔はいつもの和樹の表情 に戻っていた。

 

「和樹、大丈夫なのか?」

 

「何とかね・・・」

 

和樹は立ち上がろうとするがその 足元はふらつき今にも倒れそうである。

 

「無理するな」

 

和麻は和樹に肩を貸しふらつく身 体を支える。

 

「ご、ごめん」

 

「和麻、和樹のことは任せていい か?」

 

「あっ、ああいいぜ」

 

レオンは和麻に和樹のことを任せ 重悟の下へと足を向ける。

 

「重悟、話がしたい」

 

「な、き、貴様! 宗主に向かっ て・・・」

 

「その口の利き方・・・」

 

「やめんかぁぁっ!!」

 

重悟に対する口の聞き方に残って いた術者が騒ぎ出そうとしたが重悟がそれを一喝する。

 

「すまない、こやつらの無礼は私 の責任だ」

 

「今更そんなこと気になどしな い。神凪の術者に常識など最初から私は求めていない」

 

レオンへ深々と頭を下げる重悟、 術者たちは重悟の行動に驚くが一喝されたばかりであるため何もいうことができない。

 

「無事な屋敷の中で話そう。綾乃 や和樹君たちもここではまともに傷の手当てもできないだろう」

 

綾乃の傷はたいしたことはない。 だが和樹、千早は少し休ませないといけないだろう。とくに傷がほとんど治っていない千早はここではまともに休むこともできない。

 

「わかった。和麻、お前は和樹を 頼む。カイは千早を連れてきてくれ、傷に触れないようにな。重悟は私が連れて行く」

 

「わかった」

 

「任せろ」

 

カイと和麻は答える。

 

「雅人、すまないが綾乃を運んで きてくれ」

 

重悟は綾乃を雅人に運ぶように頼 み雅人もそれに答えた。

 

「すまないな、レオン」

 

レオンは重悟を背負うと先頭に立 ち歩き出した。

 

(まさか奴が出てくると は・・・)

 

饕餮がでてくるとは思っても見な かった。

 

本当の姿の自分の力に匹敵する奴 が・・・

 

(だが負けるわけにはいかない)

 

戦いは始まった。

 

だがこの戦いはこれから始まる戦 いの火種でしかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

『おのれ、人間ごときが我らに傷 をつけるとは』

 

『この傷のかり必ず返してくれよ うぞ』

 

馬腹と褐狙は和樹から受けた傷を それぞれ癒していた。

 

そこは闇に包まれ僅かな光だけし か存在していなかった。

 

『しかしあの炎・・・』

 

饕餮も同様に闇の中で身体を癒し ている。

 

その周りには先に煉をつれて戻っ ていた蠱雕、風牙衆の長である兵衛、そしてそのほかに男が1人と女が1人。

 

そして中央に光る1つの存在の前 に人型の妖魔が立っていた。

 

饕餮は周りを見ながら話を続け る。

 

『あの炎は間違いなく、漆黒の 炎、精霊王の上に存在するといわれている2つの炎のうちの1つ黒炎に間違いない。そして奴らも我らにとっては侮ることのできない2人だ』

 

「ほう」

 

男は立ち上がると饕餮のほうへと 歩みを進める。

 

「彼が出てくるとはそれはまた嬉 しいことだ。さらには彼の式神、そして式森家最強コンビ・・・『双式の神獣 RCX(アシックス)』・・・レオンとカイが出てくるとはね」

 

男は嬉しそうな顔をしながら饕餮 へと答えた。

 

『・・・・・・』

 

一体この男は何を考えているの か、饕餮はいつも分からないでいる。

 

だがそれに歯向かおうとは考えな い。この男が思い描いている世界は自分にあっている。

 

自分を甦られて暴れる場を作った この男には少なからず感謝している。

 

「饕餮、これから君には大いに働 いてもらわなくてはならないからね。期待しているよ2人を超える活躍をね」

 

『ああ、目覚めたわが力、大いに 使わせてもらう』

 

男は軽く笑うと兵衛に話しかけ た。

 

「それで流也の調子はどうなんだ い、兵衛さん」

 

「全てあなたのおかげで最高です よ。妖魔の力を完全にものにすることができました。あの不死身の力。さらに神の力を合わせればもはや敵はいませんよ」

 

「それはそれは、心強い言葉で す。僕もあなたたちに力を貸しただけに嬉しいですよ」

 

「いえいえ、我らの恨みを晴らす きっかけを与えてくれたあなたには感謝しています。しかし・・・」

 

「何だい?」

 

「い、いえ・・・八神和麻のこと は我々もそれなりの情報得えているのですが、あの男たちは一体?

式森和樹とその式神・・・『双式 の神獣 RCX』とはいったいなんなのですか?」

 

兵衛は男に和樹たちの事を聞く。 式森家の情報はいくつか手に入れることができた。

 

だが和樹とレオン、カイ、千早の 強さに関しては何一つ手に入れることができなかったのだ。

 

風牙衆の情報網は日本でもトップ レベルと言える。そこらの財閥などでは手に入れることのできない情報でも手に入れることができる。

 

だがそれでも全く情報が手に入れ ることができなかった。

 

「彼らは・・・とくに式森和樹は 僕の目指す楽園を作るのに欠かせない存在といっていい」

 

男は続ける。

 

「そう、この狂った世界を掃除す るためには彼の力が必要だ。そして僕の理想とする世界を彼とともに作り上げて神として君臨する世界をね」

 

「しかし、あの男は我々の目論見 を阻止しようとしているのですよ。諸懐様もあの男にやられました。生かしておいては我々の今後の行動の邪魔になるのでは・・・がっ・・・」

 

兵衛の台詞が止まる。男は兵衛の ことを睨みつけ今にも斬りかかりそうな眼光で睨み付けていた。

 

「・・・・・・邪魔だと?」

 

「!!?」

 

男の手が兵衛の首を締め上げる。 片腕だというのに両手で締め付けられているかのような苦しさが兵衛を襲う。

 

「がぁっ!!」

 

「邪魔だって・・・和樹のこと を、彼の事を何も知りもしないお前が彼のことを軽々しく評価していいとでも思っているのかい?」

 

「・・・・・・・・・」

 

兵衛は苦しさのあまりに足をバタ つかせる。だがそれでも男は首から手を離そうとしないどころかさらに力を込める。このままでは首の骨をへし折られかねない。

 

「お前なんかに彼の力を判断でき ると思ったら大間違いだ。彼の本当の力を使う場を知っていうのはこの僕だけだ」

 

「がはっ!」

 

男は兵衛を投げつける。兵衛は必 死に肺へと空気を送り込み呼吸を整えようとする。

 

「・・・少しは頭を使うんだね。 せっかく無能な神凪よりいい頭を持っているのだからね、兵衛さん」

 

兵衛にそう言い捨てると男は女の 下へと女は空間の歪みを作りだしそこへ入り口を作り出す。

 

「饕餮、後のことは君に任せよ う。それと彼女をこちらに引き入れることを忘れないようにね。言い報告を期待しているよ」

 

そう言うと男と女はその中へと 入っていき姿を消した。

 

(・・・喰えない男だ)

 

だが饕餮はそれでも心の底から湧 き出てくるような戦いへの喜びを押さえられないでいた。

 

(レオンか・・・・・・奴との戦 いはあの時以来か・・・奴にはあのときの借りを返さなくてはな)

 

自分を倒した唯一存在との再会は 饕餮の眠っていた心へと火をつけた。

 

 

 

 

あとがき

「レオンです。さて今回は誰かな 〜〜」

「『バ〇ター発進どうぞ!』、ま たまた登場、神凪綾乃で〜す」

「今回も出番ゼロだったね」

「うるさい、黙ってなさい!!」

「怖いな〜、さてそれでは精霊 ニュースいきましょう」

「諸懐、黒蛇の前に滅される!  暴走した和樹の放った黒炎は妖魔たちを圧倒、諸懐を残し妖魔たちはその場を離れてしまう。追おうとする和樹を止めたのはレオンだった。このまま2人が本気 で争うかと思われたそのとき千早の言葉に和樹は正気に戻るのであった・・・」

「愛は偉大だね」

「鶴の一声ならぬ、千早の一声 だったわね。で、和樹君の暴走の原因って何なの?」

「ネタバレになるので残念だけど まだそれは教えられません」

「そういえばようやく出てきたわ ね。レオンとカイのコンビ名」

「かなり前に名前募集してようや く出すことができたね」

「『双式の神獣 RCX』ってど ういう意味なの?」

「名前を投稿してくれたみんなの 案を下につけたようだよ。『双』は2人、『式』は式神と式森の『式』、RはレオンのR、CはカイのC、Xは和樹の無限の魔法を捩って未知、無限、を意味す るXを使ったみたい。後は作者の好きな音楽グループも影響してるみたいだよ」

「ふ〜ん、あたしにもそういう呼 び名ってつかないかな」

「無理、てか必要なし。刺身のつ まはつまらしく・・・」

「うるさい!!」

「どうどう」

「あたしは馬か!?」

「にんじん食うか?」

「本当に怒るわよ」

「じゃあ、呼び名は「刺身のつ ま」で・・・」

「炎雷覇!!」

「うわぁ! サイヤ人だ!!」

「キシャァァァァァァァァ!!」

【キシャーン第二号降臨】

5分後・・・

「はぁ・・・はぁ・・・次回は4 人が戦っていたときの・・・・私たちサイドを最初に書かれるみたいね」

「そしてあの男がついに登場!」 【ケロッとしてます】

「次回もお楽しみに、そしてあた しはあとがきを乗っ取るために・・・」

「それはない。それでは皆さん」

『待ったね〜〜〜〜』


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