第1部   〜動き出す運命〜

 

 

 

 

第18話 傷ついた氷、動き出す 山

 

 

和麻たち5人は先に向かった和樹 たちの後を追っていた。

 

神凪家のほうからは恐ろしいまで の妖気が立ち込め、近づくにつれてその力の強さは強くなっていった。

 

「す、すごい妖気」

 

「どこにこんな妖魔がいたんです か、一体!?」

 

「さあな、俺が聞きてぇらいだ よ」

 

綾乃と煉は妖気の強さに当てられ たのか顔色がよくない。

 

「でも、これだけの妖魔の気配に 気が付かないなんて」

 

2人に比べたら全然ではあるが千 早もどこかいつもより苦しそうな表情をしている。

 

和麻とカイはまだ平気なようだが それでもこれほどまでの妖気の強さは始めてであった。

 

「・・・和樹君が戦い始めたみた い」

 

「ああ、宗主の力もまだ感じる。 どうやら間に合ったみたいだな」

 

「それで、お父様はどうなの、無 事なの!?」

 

綾乃はさっきから重悟のことが心 配でずっとこの調子である。炎術師は気配を感じ取ったりするのが苦手なため妖魔の気配が強すぎて重悟の気配をよく感じ取れないでいた。

 

「安心しろ、力はまだ感じ る・・・・・・だけど、相当無理をしているぜ。現役を引退しても宗主は確かに強い、今もお前たち2人なんか相手にならないくらいな。だけど体は動かさな かったら機械じゃないが錆び付くし、力も弱くなる。現役のときよりも宗主は確実に力を落としている。それなのにいきなり強い力を使ったんだ。その反動で相 当体にガタが来てるはずだぜ」

 

和麻は淡々と言っているがそれで も内心は焦っていた。

 

「和樹が今は戦っているがそれで も押されている。あいつがどれだけ強くてもこれだけの妖気を発する相手に1対4で戦うこと事態が無謀だ」

 

「そ、そんな・・・」

 

2人の言葉に煉は言葉を失う。綾 乃も同様に何を言ったらいいのか分からない表情をしていた。

 

「カイとお兄ちゃんは先に行っ て!」

 

千早の声に2人が振り向く。

 

「ここまで来れば走ってもすぐに 着から2人は先に行って。あたしは綾乃ちゃんたちと後からすぐに追いつくから」

 

「だけどお前・・・」

 

和麻は自分たちが先に行き安全か どうか考える。千早1人だけなら大丈夫だろうが、綾乃と煉が一緒では危険を伴う。

 

カイも同様にどうするべきか考え ていた。千早の強さはよくしている。妖魔を倒すのは無理でも相手にしながら自分たちと合流することくらいならできる。

 

だがそれを2人のハンデをもって できるかといったら、かなり厳しい。

 

悩む2人、だがそれを動かす強い 力を感じ取る。体全体に鳥肌が立つような強力な力を・・・・・・

 

「なっ!?」

 

「な、なに!?」

 

綾乃と煉でさえ感じ取ることので きる強い力。その力は妖魔の力を遥かに上回っていた。

 

「和樹か!?」

 

「まずい!!」

 

カイが声を上げる。この気配は間 違いようもない。和樹は力を解放する気だ、最強の炎を・・・

 

「カイ!!」

 

千早が声を上げてカイの名を呼 ぶ。

 

「和麻、行くぞ!!」

 

「おお!」

 

カイは高度を下げると千早たちを 下ろして和麻とともに風を切り裂くような速さで飛んでいった。

 

「屋敷までもう1キロもないわ、 急ぎま・・・」

 

千早と綾乃と煉は屋敷に向かって 走り始めた瞬間、千早はある気配に気づいた。

 

次の瞬間、千早は目にも留まらぬ 速さで動いた。一瞬で綾乃と煉を自分の後ろに隠すように立つと分厚い氷の壁を自分たちを囲うように作り出す。

 

そこへ黒い風の羽が襲い掛かっ た。一瞬の差であった、後コンマ何秒か千早が動くのが遅かったら3人はやられていた。

 

千早の後ろでは顔を青くした綾乃 と煉が状況が把握できず、呆然としていた。そして頭が動き出し自分たちが死に掛けたということに始めて気づいた。

 

もし自分たちだけならと考えたら 体が震えてきた。

 

「ち、千早ちゃん・・・」

 

「千早姉様・・・」

 

「・・・・・・2人とも絶対に気 を抜かないでね」

 

3人を覆っていた氷が砕け散る。

 

千早がゆっくりと空を見上げると そこには鷲に似た巨大な鳥が羽を羽ばたかせて飛んでいる。

 

(あの妖魔・・・確か蠱雕って 言ったわね)

 

諸懐と同様に溢れんばかりの妖気 が感じ取ることができた。

 

「よ、妖魔!」

 

「いつの間に!」

 

綾乃と煉はいきなり現れた妖魔に 声を上げる。これほどの妖気を感じ取れないわけがない。それがいきなり目の前に現れたのだ。

 

「カイとお兄ちゃんがいたときは 妖気を完全に消していたのね。そしてあたしたちだけになったのを確認して力を解放した」

 

よく考えればすぐに分かることだ が気の動転した綾乃と実戦経験が乏しい煉は状況把握ができないでいる。千早は2人を落ち着かせようとゆっくりとした口調で答えた。

 

(・・・・・・あたしの考えが甘 かったわ)

 

千早はヘアピンを外すと槍へと変 化させた。槍を振り回しながら水と氷の精霊を集める。

 

「戦いながら屋敷まで向かうしか ない」

 

『・・・無駄なこと、貴様らごと きを逃がす私ではない』

 

蠱雕は羽を羽ばたかせると黒い風 の羽を放った。無数の羽が3人へと襲い掛かる。

 

「流星氷弾」

 

羽に向かって千早が氷柱のように 尖った氷を放ち相殺する。

 

「えぇいっ!」

 

「はぁぁぁっ!」

 

綾乃は炎雷覇を振るい、羽を燃や そうとする。煉も炎を放ち羽を燃やす。

 

だが炎を1回放つだけでは燃やす ことができず炎を何度か放ち羽を消していた。

 

(やっぱり今の2人には妖魔の相 手はまだ無理がある)

 

千早は氷壁で羽を止めると2人に 叫ぶ。

 

「走って!」

 

言われるがままに煉は走り出す。 綾乃は一瞬と惑うような仕草を見せたが千早に背中を押され走り始めた。

 

『逃がさぬ!』

 

妖魔は千早と綾乃に向けて先ほど よりも妖気の強い羽を放つ。

 

「吹雪!」

 

千早の前に風の渦が巻き始める。 渦の中には雪が風に乗って降り出し妖魔に向かって強い風と雪が吹き荒れ始めた。

 

『ぬぅぅっ!』

 

妖魔は強風と雪に押されて行く手 を遮られる。

 

「はぁっ・・・はぁっ・・・」

 

だが千早の息も荒い。吹雪は千早 の使う技の中でも強力な技である。走りながらそれも集中できないこの状況で使うにはかなりの力を使った。

 

「ち、千早ち「急いで!」」

 

綾乃の言葉を遮り急いで走り出 す。綾乃と煉は千早に負担を掛けまいと必死に屋敷に向かって走り出す。

 

ゴゥ!!

 

背後から巨大な音が聞こえる、綾 乃が後ろを振り向きそうになったが千早がそれを止める。

 

(完全に力を練りきれなかっ た!)

 

吹雪を破られるのは分かっていた こと、時間稼ぎのために慌てて放ったのだ、それを破れない妖魔ではない。

 

千早だけでなく綾乃と煉の息も荒 い、全速力で走り続けることになれていない2人にはかなり辛い。

 

「もう少しで屋敷よ」

 

綾乃は屋敷にあと少しで着くと気 を緩める。綾乃の声に煉ももうすぐだと安堵の表情を浮かべる。

 

だが屋敷に後200メートルくら いのところに来た瞬間3人の目の前に妖気が充満した。

 

「綾乃ちゃん、煉君止まっ て!!!」

 

千早の叫び声で慌てて止まる、だ がその目の前に妖魔はいきなり姿を現した。

 

ゾクッ!!!

 

3人の身体に衝撃が走る。

 

妖魔が地面に降り立った衝撃もあ る。だがそれと同時に蠱雕をも超える莫大な妖気が3人の身体を貫いた。

 

「な、何、何この妖気!!!?」

 

綾乃が悲鳴に近い声を上げる。煉 は恐怖のあまりに口が回らず、さらには体が妖気に当てられ膝を付いてしまう。

 

(挟まれた!!)

 

後ろにはすでに蠱雕が追いついて きている。前には別の妖魔が立ち塞がっている。

3人は屋敷を目の前にして完全に 追い詰められた。

 

「な、舐めるんじゃないわよ、こ の妖魔が!!!」

 

綾乃が目の前に現れた妖魔に向 かって炎雷覇を抜き黄金の炎を放った。

 

「綾乃ちゃん、駄目!!!」

 

千早が綾乃を止めるが既に遅い、 黄金の炎は妖魔へと放たれる。だが黄金の炎は妖気の混ざった黒い風に簡単に飲み込まれてしまった。

 

『グオオオオオオオオオ!!!』

 

地面が振動するほどの咆哮が響き 渡る。

 

それと同時に黒い風の弾が綾乃に 向かって放たれた。

 

「綾乃ちゃん!!」

 

千早は綾乃を弾き飛ばし自分の前 に氷の壁を作り出す。だが妖魔の力は千早の予想を超えていた。

 

「!!?」

 

風の弾は威力こそ弱くなったが氷 の壁を砕き千早へと襲い掛かった。

 

(避けられない!!)

 

ドゥ!

 

「あっ!!!」

 

「千早姉様!!!」

 

千早の身体が宙へと投げ出され る。予想を超えた風の強さに千早は攻撃をまともに受けてしまった。

 

「がはっ!」

 

千早は地面を転がり、血を吐くと そのまま動かなくなった。いや、動けないといったほうが言い。

 

身体が言うことを聞かないようで ある。

 

煉は目の前の千早を見て何がなん だか分からなくなる。

 

「うわああああああ!!!」

 

力の限り黄金の炎を放つ。攻撃が 効く効かない関係ない、ただ目の前の妖魔が憎くて仕方がなかった。

 

「このおおおおおお おぉっ!!!」

 

綾乃は妖魔へと炎を放つが全く意 味を成さない。風に飲み込まれ、簡単に消し去られた。

 

煉も炎を放ち続ける。千早がやら れたことで2人共完全に頭に血が上り全力以上の力で無我夢中に炎を放っている。

 

『弱い!』

 

妖魔から風が放たれる。綾乃と煉 の放った炎は簡単に飲み込まれ2人を弾き飛ばした。

 

「うわああああ!!」

 

「きゃあああああ!!」

 

2人の意識はそこで消えた。

 

 

 

 

 

 

 

目を覚ますと天井が見えた。

 

綾乃は自分のいる場所が分からな くしばし呆然とする。

 

「・・・・・・あれ?」

 

少しずつ思い出し始める。

 

自分は妖魔と遭遇して、屋敷の近 くまで来てもう少しというところで・・・

 

「!!」

 

思い出した。

 

自分は千早の静止も聞かずに炎を 放って風の塊を放たれた。それを止めようとしたができず攻撃を受ける瞬間に千早が自分を庇って風を受けた。

 

そして千早がやられたことで頭に 血が上って訳が分からなくなって炎を我武者羅に放った。

でも妖魔には全く効かないでそし て・・・

 

綾乃の記憶はそこで途絶えた。

 

「・・・目が覚めたか?」

 

「・・・・・・えっ?」

 

起き上がると背の高い男が壁によ りかかってた。

 

「・・・カ、カイ?」

 

「全くこんなときに暢気なもんだ な、神凪の箱入り娘は・・・」

 

「か、和麻!?」

 

壁によりかかるカイの隣には和麻 が座っていた。煙草を吹かしながらカイと同じように壁に寄りかかり自分を見ていた。

 

「な、何よ!? 私だっ て・・・」

 

「『私だって』何なんだ?  えっ、居眠り暴走お姫様!?」

 

機嫌が悪そうに・・・いや、怒り を隠すことなくぶつける和麻が綾乃に問う。

 

和麻の口調に綾乃は尻込みする。 怒鳴り返したいが下手なことを言ったらどうなるか・・・・・・今の和麻には言葉では言い表せない恐怖を感じた。

 

「・・・ここは? 千早ちゃん は? 千早ちゃんは、煉はどうしたの?」

 

話を変えようと(逃げようと)千 早と煉、自分が今いる場所を聞いた。

 

「ここは神凪の屋敷内だ。正確に は無事だった部分のな」

 

「無事だったって・・・」

 

綾乃の問いにカイが答える。

 

「妖魔が暴れて屋敷は半分以上が 破壊、無事だった屋敷も戦いの余波を受けている。千早は・・・」

 

綾乃から見て右側をカイが見る。 そこには凛と沙弓が横に寝かされ眠っている千早に治癒魔法を行っていた。

 

外見では傷はほとんど消えてい る。

 

「だが煉は攫われた」

 

「えっ!?」

 

千早を見て気が抜けそうになった が再び緊張が走った。

 

「ちょ、ちょっと、ど、どういう ことよ!!?」

 

「ちょっと静かにして!!」

 

綾乃の声に沙弓が文句を言った。 凛も同様に綾乃のことを睨んでいる。

 

「神凪では怪我人の前でも騒いだ りするの?」

 

「少しは周りを見たらどうです か?」

 

「な、なんですって!?」

 

3人は視線を合わせて睨み合う。 今にも綾乃は飛び掛からんばかりの勢いである。

 

ある意味化け物並み、驚異的な回 復力である。

 

「・・・さ、沙弓・・・凛ちゃ ん・・・」

 

2人の睨み合いを止めたのは千早 だった。2人の大声(特に綾乃)に目が覚めたようである。

 

和麻とカイも千早が目覚めたこと に安堵している。

 

「待て千早、まだ起き上がるな」

 

目が覚めて起き上がろうとする千 早に和麻は優しく声をかけそれを止めた。

 

「・・・あ、あたし・・・」

 

「妖魔にやられたんだ。凛、沙 弓、怪我の状態はどうなんだ?」

 

治癒魔法を掛けている2人にカイ が千早の状態を聞く。

 

「式森から魔法具を借りて治癒魔 法を行ったのでほとんど回復していると思うが・・・・・・」

 

「式森君ほど早く完全にっていう のは私たちでは無理よ。戦ったりするような激しい動きをしない程度ならもう起きても大丈夫だと思うけど」

 

「・・・そう・・・ありがと う・・・」

 

千早はそれを聞くとゆっくりと身 体を起こした。凛と沙弓が背中を支えてくれたおかげで楽に起き上がることができた。

 

まだ頭がフラフラする感じがある がすぐに治まるだろう。

 

「・・・あたしが気絶している間 に何があったの?」

 

「俺が話す」

 

和麻が千早の近くに行き座ると話 しを始めた。

 

まず妖魔が3人を連れて現れたこ とそして煉が攫われたこと。

 

この辺りはうっすらと意識があっ たのですんなりと話を理解できた。

 

綾乃は自分が話から疎外されてい ることに『ギャー!』とか『キシャー!』とか騒いでいるが『黙れ!』と和麻に一喝、さらにカイ、凛、沙弓に鬼のような形相で睨まれ押し黙る。

 

その後千早と綾乃が妖魔に喰われ そうになったところを和樹が助け、諸懐を倒したことを説明した。

 

黒炎のこと、和樹の暴走のことは 話していいのかどうか迷ったがこの場では黙っていた。

 

それでも千早は何かを察知したよ うな悲しそうな顔をする。

 

一瞬ではあったが和樹の黒炎の力 を感じて目を覚ましたときに和樹の暴走を見ていたのでどうなっていたかは大まかにだが頭で理解できた。

 

「千早、悪いんだけど聞きていい か?」

 

和麻は千早を気づかった声ですま なそうに問う。自分にとって妹みたいな存在であり辛そうな顔をする千早の顔を見るのは和麻にとっても辛かった。

 

「和樹のことだ」

 

「そ、それは・・・」

 

和麻が何を聞きたいか千早にはす ぐ分かった。

 

和樹の暴走、変貌振り、それが気 になっているのだろう。

 

口ごもる千早、それを見て和麻、 カイ、凛、沙弓は千早が和樹の暴走の秘密を知っていることに嫌でも気づいた。

 

「ねぇ、なにそれ! どういうこ と!!」

 

「お・ま・え・は・だ・ま・っ・て・い・や・が・ れ!!!」

 

和麻は黙らなければ今度こそ、そ の首ぶっ飛ばすぞと言わんばかりの殺気を綾乃へ放ち黙らせた。

 

「千早・・・悪い。今の質問は忘 れてくれ」

 

千早の表情を見て和麻は質問を撤 回した。

 

今にも泣き出しそうな悲しい目で 俯いている千早。それが和麻には耐え切れなく、またそれが千早を苦しめたということに凄まじい罪悪感を覚えた。

 

重い空気が立ち込める中、部屋の 襖が叩かれ開いた。

 

「失礼するぞ」

 

中に入って雅人だった。

 

「和麻、部屋の準備ができた。宗 主はいつでも話ができると・・・」

 

「わかった」

 

和麻は立ち上がろうとして千早の ほうを見る。

 

「千早、お前は・・・」

 

「もう大丈夫、あたしも行くわ」

 

千早は凛と沙弓に支えられながら 立ち上がる。その足元は意外としっかりしていた。どうやら治癒魔法が効いたようである。

 

和樹の魔法具は道具自体に魔力が 1億近く備わっている。和樹の魔力は一般の人に比べたら何十倍、下手したら何百倍、凛や沙弓の魔力も強いがそれは一般から見たらで和樹と比べたら子供と大 人、どころか蟻と象である。

 

その和樹の魔力が備わっているの だ、それを使っての治癒魔法は効果覿面である。

 

「綾乃、お前もつ・い・でに来 い。一様お前も聞いて置いて損はしない」

 

和麻はそう言いながら部屋を出よ うとする。

 

「まあ、得もしないけどな、その 頭じゃ」

 

そう言うと和麻はさっさと部屋を 出て行く。

 

「な、何よ! 偉そうに・・・ キ、キ、キシャアアアアアアアアアアアア!!」

 

((ここにも夕菜(さん)がい た!!))

 

凛と沙弓は『夕菜2号、キシャー ン・マークU』をここに発見した。

 

2人は未知の生物、未確認の生物 を追い求める冒険隊の隊長、藤〇弘の気持ちがこのとき理解できたのであった。

 

6人は雅人の案内で重悟の部屋へ と案内される。

 

「・・・和樹」

 

風の精霊で周囲を見ていた和麻は 庭(庭だった場所)に立ち空を見上げる和樹を見つけた。

和麻の気配にも気づいていないの か和樹はただ空だけを見続けていた。

 

和麻は庭に下りると和樹のところ に行き軽く肩を叩く。

 

「・・・兄さん・・・」

 

「行くぞ、和樹」

 

和麻はあえて何も聞かずにその場 を先に動く。和樹も1度空を見上げると和麻の後を追って歩き出した。

 

その足取りはどこか重かった。

 

 

 

 

 

 

 

「宗主、入るぜ」

 

和麻たちが部屋に入ると重悟は資 料に目を通している最中だった。

 

部屋は重悟が仕事場として使って いる部屋らしく、重悟の背後には資料の山が出来上がり、さらにその後ろには分厚い本が本棚にびっしりと納まっていた。

 

「すまないな。待たせてしまっ て」

 

「気にするな。ちょうど2人が目 を覚ましたところだった。まあ、1人は本当に寝ているだけだったけどな」

 

皮肉を込めながら和麻は軽く (?)答えると適当な場所に座った。

 

和樹、千早、カイ、凛、沙弓も腰 を下ろす。

 

「・・・綾乃」

 

重悟は綾乃を呼び隣に座らせる。 だが名前を呼んだときの重悟の声がその場にいた全員が死刑宣告に聞こえた。

 

いつもとは違う父の声に綾乃は体 中から冷や汗を流す。

 

足だけでなく体中が小刻みに震 え、身体が固まって動かなくなる。

 

重悟は自分の横の畳を指でコツコ ツと鳴らし速く座るように綾乃を見た。

 

今すぐにも逃げ出したいと綾乃は 思ったが・・・

 

その方法は思い浮かばず、ついで に綾乃に安全な逃げ場はどこにもなかった。

 

綾乃は錆付いて動かなくなった金 属のように固まった体を無理やり動かし重悟の横へ機械的な動きで座った。

 

綾乃の動いている間、金属の擦れ 合う音が聞こえてきたのは空耳ではない。

 

「まず礼を言わせてもらいたい。 私を始め神凪の術者たち、屋敷を護ってくれたことを心の底から感謝する。何度礼を言っても言い尽くせない。そして本当にすまなかった。和麻、和樹君たちに は大変迷惑をかけた。全ては宗主である私の責任だ、本当にすまなかったと心から思っている」

 

そう言うと重悟は畳に付かんばか りに深々と頭を下げ詫びた。

 

和麻、和樹たちには何度礼を言っ ても感謝し尽くせない。強力な妖魔を相手に傷ついてまで自分たちを護ってくれたのだ。

 

そしてそれによって死ぬかもしれ ない傷を千早は負った。

 

そして重悟は綾乃を見る。

 

「しかもこの大馬鹿娘がとんでもない大迷惑をかけた」

 

「も、申し訳ありませんでした」

 

重悟が頭を下げ綾乃も深々と頭を 下げた。綾乃は妖魔を前にしたときよりもビビッていた。よく声が裏返らないで言えたと思う。

 

この場にいないレオンが重悟に綾 乃の行いを大まかに話していると和麻から部屋を移動しているときに言われた。

 

今は状況が状況なためにお咎めは ないが・・・

 

綾乃はこの問題が解決した後はと 思うと今すぐにでも家を飛び出して国外へ逃亡したいと考えていたりする。

 

地球の周りを太陽が回ろう が・・・どんなに有り得ないことが起ころうと、間違いなく、100%、確実に今までで・・・いや、これからの自分の人生において空前絶後のお叱りを受ける ことになるだろう。

 

「別に俺は気にしていない。神凪 の連中がどうなろうと俺はこの家には関係ない」

 

和麻に続いて和樹も言う。

 

「僕も神凪を護る為に戦ったわけ じゃない。術者なら妖魔と戦って命を落とすことは仕事の中では覚悟しなければならないこと。だけどそれ以外の人が巻き込まれるのが僕は嫌だから、僕は僕の 意志であの妖魔たちを倒すだけだ」

 

和麻と和樹は神凪のことなどそれ ほど気にかけていない。

 

だがあの妖魔は野放しにはできな い。あの妖魔が暴れたらどれだけの被害がでるか予想がつかない。

 

「本当に申し訳ないと思ってい る。この神凪の不始末は私を含め、神凪の者全員に措置を取り、罪を償わせてもらう」

 

今回の1件は神凪の腐敗振り、術 者としての器量、人間性をまざまざと見せ付けることとなった。

 

その腐敗振りは重悟の考えを遥か に超えるものだった。

 

炎の加護は残っているものの分家 の者だけでなく、宗主の人間でも黄金の炎を失っている者までいる。和麻は除くが現在どこかへ逃げている前宗主の頼道などが良い例だ。

 

このままでは間違いなく神凪は衰 退の一歩を辿る。

 

今はまだ、いやすでに衰退は始 まっている。

 

そしてそれを止めなければならな いのは次期宗主の綾乃である。

 

だがその綾乃は全くといって器量 が足りない。

 

まず器となる土台が今の綾乃は小 さ過ぎる。まだ高校生である綾乃に宗主としての器量を求めるのは扱くな話ではあるかもしれない。

 

これから先、年を重ねるごとに多 くのことを学び、経験し、努力をすれば綾乃は宗主としての器を広げることができるかもしれない。

 

だがこのまま宗主となったら頼道 の二の舞となるのが目に見えている。

 

今の綾乃は力はあっても実力でそ の場に立ったわけではない。重悟、宗主の娘、そして宗家の人間という準備されていた地位に置かれただけである。

 

綾乃は神凪では確かに通用するが 表では全くである。

 

そんな綾乃が宗主になったら神凪 はあっと言う間に奈落の底である。

 

(綾乃には本当にしっかりしても らわなければ・・・・・・)

 

綾乃を横目で見ながら重悟は思 う。もし自分が宗主の座を降り、綾乃が宗主となったらそれを支える人物が必要だ。

 

広い視野で物事を判断でき、的確 な判断を出すことのできる人材が。

 

どれだけ広い視野で物事を判断し ようとしても1人では限界がある。だれかがそれを支えることによって1人では見えないところが見えてくる。

 

(はぁ〜、和麻が・・・神凪に 戻ってきてくれれば・・・・・・)

 

和麻は炎が使えなくても頭の回転 は凄まじく速かった。体術もずば抜けて凄かった。

 

重悟は源氏から教えを受ける和麻 の才能は次の宗主の補佐として、いや神凪の未来のためにはなくてはならない存在だと確信していた。

 

文武両道、まさにそれを実行でき た和麻。そして今は風術師としての才能を開花させ、一人前の術者となり自分の前にいる。

 

4年前、もし和麻が家を出ずに源 氏の下で修行を続け、風牙を収め、自分とともに動いてくれていたらどうなっていただろうか。

 

2人でならばこんな事態になるこ とを止められたかもしれない。

 

しかし、全ては後の祭りである。

 

和麻には今回の件でさらに溝を 作ってしまい、厳馬との関係も修復できないくらいに溝ができてしまった。

 

まだ神凪を滅ぼそうとしないでく れただけありがたいと思わなければいけない。

 

(どちらにせよ。神凪は近いうち に滅亡するだろう・・・)

 

重悟はそう思えてならなかった。

 

今回の事件が解決しても神凪が受 けた傷は大き過ぎる。

 

厳馬をはじめ、術者の半分が死傷 している。

 

例え綾乃たち残った者が努力して も今の神凪を立て直すのは至難の技である。

 

崩れかけた砂の山を水無しで直せ といわれているのと同じである。手で押さえても隙間から砂は毀れてしまい修復できない。

 

もし立て直すには周りからの助け がないと不可能に近い。

 

思いだけでも、力だけでもだめな のである。

 

2つが1つとなり、そしてそれを 支えてくれる存在があってこそ1つの形ができあがる。

 

(・・・いずれにせよ、今は目の 前のことに集中しなければ)

 

先のことを考えてもしかたがな い、今は目の前のことを乗り切らなくては、神凪はここで終わる。

 

「重悟、責任を取るには今この事 態を収めなければ何もできぬぞ」

 

「!?」

 

重悟が頭の中でハツカネズミ状態 から抜け出そうとしたその時、部屋の前の廊下から重悟に声が掛けられた。

 

声の主はゆっくりと障子戸を開け ると中へ入ってきた。

 

まっすぐに伸びた身体、白く長い 髪を後ろに流し、全てを見てきたその鋭い眼光。

 

見るものを圧倒する風格があるそ の姿はどんなものが目の前に現れてもどんな状況に陥ろうとも揺るぎ無き不動の心、それは一朝一夕では備わることができぬ長い人生の中で培うことのできるも の。

 

そしてその強さ。

 

風林火山『疾(はや)きこと風の如く、徐(しず)かなること林の如く、侵(おか)し掠(かす)めること火の如く、動かざるこ と山の如し』

 

まさに術者たちにとって『山』の 存在と言えよう。

 

術者なら誰もが目指したくなる人 物。

 

術者たちの敬愛を集めまさに上に 立つものに相応しい存在。

 

「久しいの、重悟、そし て・・・・・・」

 

ゆっくりと1人の人物へと視線を 向けた。

 

「和麻」

 

2人を見てその人物は2人の名を 呼ぶ。

 

「・・・源氏爺」

 

4年経っても、いや死ぬまで自分 の師はこの人だと2人には思える人である。

 

重悟と和麻はその人に向けて深々 と頭を下げた。

 

和樹、千早、カイも同様に頭を下 げ、凛と沙弓も頭を下げていた。

 

綾乃だけが慌てたように周りを見 て頭を下げる。

 

「お久しぶりです。源氏殿」

 

「お久しぶりです。師匠」

 

重悟、和麻は式森家最長老、術者 の中でも最強といえる男、式森源氏に4年ぶりに再会した。

 

 

 

 

あとがき

「重悟の囁き・・・・・・『私は 綾乃の育て方を間違えてしまった』・・・

あとがきspirits of DESTINY! チャンチャラチャン〜〜〜〜♪

は〜い、レオンで〜す。では今回 のゲストをどうぞ」

「は〜い、神凪綾乃またまた登場 で〜す・・・・・・って、この囁き何なのよ! 説明しなさい!」

「いや〜、そのままだけど。実際 にそう考えているようだしね」

「も〜う、後であたしがどれだけ 怒られると思っているのよ。ああっ、人の気も知らないで!!」

「ど〜でもいいですよ♪」

「よくない! もう〜〜気分変え て次に行くわよ。精霊ニュース! 2体の妖魔の前に敗れてしまった3人、千早は治癒魔法によって回復するも心には割り切れないものが残ってしまう。これか らのことを和麻、和樹たちが重悟と話を始めた部屋に現れた人は術者たちの象徴とも言うべき術者、式森源氏であった」

「ついに源氏が登場、ついに山が 動いたね」

「武田信玄? 違う、マスター・ ヨーダ? え〜何々・・・源氏のイメージはスターウォーズのヨーダが軸になってるのね」

「弟子の中には重悟も入っている よ。他にもたくさんの術者が源氏の下に集まっているようだね」

「凄いわね。次の回はこれからの 話し合いね」

「また綾乃は怒られるだろうね」

「いやぁぁぁぁーーーーーー!」

「和麻・・・和麻・・・和 麻・・・・・・ディ〇ッカ」

「あたしのブロックワードを言う んじゃな――――――い・・・って、最後のは何だ!?」

「それでは次回をお楽しみに!」

「軽く流すんじゃない。こうなっ たら、あとがきに必ず残ってやるんだから」

「(無理無理)それではみんな」

「「マッタネ〜〜〜〜!」」


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