第1部   〜動き出す運命〜

 

 

 

 

第20話 闇は京にあり

 

 

京都に向かう新幹線の中広々とし た個室には1名を覗いてゆったりとし落ち着いて心が癒されるような空気でいっぱいであった。

 

エアコンも程よく利き快適な空間 である。この部屋は神凪家での話し合いの結果重悟が用意したもので、広々とした部屋ではそれぞれ京都に着くまでの時間を待っていた。

 

だがそんな中の1人、綾乃は周り を見てイライラしていた。

 

(ムカつ く・・・・・・・・・・・・どーしよーもなく、ムカつく)

 

綾乃は殺気混じりの視線で周りを 睨み続けている。

 

(ムカツク、ムカツク、ムカツ ク・・・(ENDLESS)

 

だがそんな綾乃の視線に気づいて いるのだろうが皆それぞれ自分の思い思いの行動をしていた。

 

武器を確認し磨く者、2人。

 

シートにもたれかかりのんびりと 雑誌を読む者、1人。

 

音楽を1つのイヤホンで聴くラブ ラブな雰囲気をこれでもかと言わんばかりに放つ2人(a〇のCMかよ!)。

 

新幹線出発前、駅で大量に買い込 んできた駅弁を食べる者1人(1匹)。食べてる量がすでに自分の体より何倍も多いのが不思議である。

 

それを見て呆れている者、1人 (1匹)。

 

とても戦いの前とは思えない光景 である(最初ともかく)。

 

綾乃は再び窓の外へ視線を向け る。

 

彼女はかつてないほど不機嫌であ る。

 

何でこんなやつらより自分が劣る のか。

 

そして父、重悟が自分よりも和麻 や和樹たちを高く評価しているのか、和麻、和樹、レオン、カイを重悟と同等な存在と認めているのか。そのことが不機嫌に拍車をかけていた。

 

(何で・・・何で、4年間でこん なに強くなれるのよ。契約者なんてルール違反じゃない!)

 

ルールどころか人としての行動を しているのかと思う綾乃が言える言葉なのか・・・

 

和麻は4年前自分にとって路傍の 石同然であった。目に入るような存在でなかった、関心を持たなければどこにいるのか分からないような存在であった。

 

和樹や千早も普通の友人としてし か見ていなかった。

 

継承の儀の時も全く印象に残らな かった。

 

和麻が儀式に出たのは厳馬が無理 に参加させたからであり結果は勝負が始まる前からわかっていた。綾乃と戦う前に4人を相手に戦ったのだ。それも和麻は素手だが他の4人はそれぞれ手に何か しら持っていた。それでも勝ち残り気力、体力の限界の状態で炎雷覇を手にした綾乃と戦ったのである。

 

綾乃にとっては炎雷覇一振りで戦 いが終わり大して印象に残らなかった。

 

逆にその後の重悟の説教はトラウ マになるほど記憶に残っていたりする。

 

(でも、体術とか他の術法とかは 優秀だったって・・・・・・ん?・・・・・・・・・ちがぁう!! 何であいつのいいところなんか探してるのよ!!)

 

綾乃はブンブン首を振り、不愉快 な考えを頭から振り払った。乱れた息を整え、顔を上げる。

 

すると皆が綾乃を見て呆れたよう な、危ない人を見るような・・・そんな顔をしていた。

 

「・・・・・・いや、何と言う か・・・楽しそうだな」

 

馬鹿にするわけではなく、純粋に 呆れ返った口調で珍しいものを見るような目で和麻は呟く。

 

「ど・こ・が・よ! 楽しいわけ が無いでしょ!! あんたなんかと同じ空間にいるだけで、既にこの上なく不愉快よ!!」

 

「あ、そうですか」

 

妙にテンションの高い綾乃の反論 を和麻は受け流し何事もなかったかのように雑誌に視線を戻し、ジャケットのポケットから煙草を取り出す。

 

「ちょっと! こんな部屋の中で タバコなんか吸わないでよ!」

 

(―――まただ!)

 

尖った口で文句をつけながら、制 御できない感情に戸惑いを覚える。

 

和麻を前にすると何故か必要以上 に攻撃的になってしまう。

 

嫌いだからという理由だけでは説 明がつかない情動だった。そもそも綾乃は嫌いな相手は存在そのものを視するタイプであり、わざわざ自分から突っかかったりはしない。

 

(つまり、ただの嫌いではなく、 大嫌いだからよね。そうよ、そうに決まってるわ、それ以外ないわ!)

 

酷く強引な自己理論で、無理やり 納得させた。

 

そんな綾乃の心の葛藤など知る由 も無い和麻は取り出したライターで煙草に火をつける。

 

「・・・て、吸うなって言ってる でしょ! その耳は飾り!?」

 

「・・・いや、お前にだけは言わ れたくはないな、その言葉・・・」

 

ため息と共に煙を吐き出す。その 煙は風の精霊によってきれいな空気へと清浄された。

 

「・・・吸うか?」

 

「止めてる人間に言う言葉 か!!?」

 

綾乃は炎の精霊を召喚する。

 

ぼん!

 

爆音を上げ和麻のくわえる煙草は 煙も出さずに燃え尽きた。

 

下手したら口の周りが火事になっ ていたがタイミングよく和麻は煙草を吐き出していた。

 

「あ〜あ、煙草って高いんだぞ。 てか物は大切にしろ、限りある資源なんだぞ」

 

「知るか!」

 

和麻は再び煙草を取り出すと口に くわえ、風の精霊で防御しながら火をつけた。

 

再び煙草を吸いながら雑誌を読み 始めた和麻に射殺すような殺気を混ぜた視線を向ける綾乃。

 

炎を召喚しないだけまだ冷静でい るようである。

 

その視線の横では凛がレオンから 天ムスを『あ〜ん』と言われながら恥ずかしそうに食べさせてもらっていた。

 

さらにそれを沙弓が悔しそうな、 羨ましそうな顔で睨みつけている。

 

(こ、こいつら・・・)

 

綾乃の拳がわなわなと震えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

☆ピンポンパンポ〜〜〜ン☆

 

 

 

ちなみになぜこうなったか時間を 戻すと・・・

 

凛は刀の確認をしていた。

 

来る前も点検はしていたがそれで も今回はいつも以上に刀への負担が大きくなるだろう。そのため小さな違和感でも感じる事がなくなるまで確認はおろそかにしたくなかった。

 

沙弓も同様にプロテクターを嵌め 違和感がないかと点検に余念がない。

 

(刀身に曇りは無い。刃毀れは無 い。刃の曲がり具合も、柄の握り具合も問題は無しか・・・)

 

(ひび割れや凹みも無いわね。着 けたときの感覚も違和感は無い、手、足、両方とも馴染んでるわね)

 

それぞれ自分の分身ともいえる武 器を持ち作業に集中している。

 

綾乃の1人漫才など全く目に入ら ない。さすがに音をたてて暴れだしたときには何事かと顔を上げたが・・・

 

「・・・レオン」

 

「ん!?」

 

既にそれがいくつ目だか分からな い駅弁を食べているレオン。

 

横には食べ終わった駅弁とまだ食 べていない駅弁が左右に山のように積まれていた。

 

「すまないが刀を見てくれ、自分 では気づかない悪いところがあるかもしれない」

 

「ひーほ(いーよ)」

 

口の中にあるものを飲み込み、箸 を置くと凛から刀を受け取り確認する。その眼は駅弁を食べているときとは違っていて真剣な眼差しである。

 

「ちょっと立てて持ってみて」

 

「わかった」

 

凛は刀を持ちレオンはそれを見て 歪みや曲がりが無いかを確認する。

 

「・・・問題ないね。手入れが行 届いているからかなりいい状態だと思うよ」

 

「そ、そうか」

 

レオンの言葉を聞き凛は内心喜び ながら刀を鞘へ納める。

 

「レオン、私のもお願い」

 

「了解、着けてみて」

 

レオンに言われた通りに沙弓はプ ロテクターを装着する。

 

レオンはゆるくないか、またひび 割れや問題になりそうなところが無いかとチェックする。

 

「大丈夫、問題なし」

 

「ご苦労様」

 

オチャラケていながらもレオンの 目は小さなミスさえも見逃さない。

 

だからレオンの言葉を聞き安心す る。自分だけではどこか不安が残るがレオンに確認してもらうとなんとなく安心できた。

 

「駅弁、駅弁♪」

 

再び箸を持つとレオンは駅弁との 格闘を始める。そんなレオンへカイは呆れ半分驚き半分の視線を向けていた。

 

(こいつ、腹8分目じゃなく。体 8倍食わないと満足しないのか・・・)

 

カイは見ているだけで腹いっぱい になりなぜか腹が重くなった。胃薬がカバンの中にあったかとふと考える

 

「レオンその駅弁はどこの駅弁 だ」

 

凛がレオンの食べている駅弁の名 前を聞いた。

 

「あ、これは駅弁じゃなくて天ム スの店で買ってきた」

 

「お前・・・いつ買いにいったん だよ・・・」

 

「僕は不可能を可能にする男だ」

 

「お前は『エン〇ュミオンの〇』 かよ」

 

カイはレオンの食に掛ける行動力 に呆れ返った。

 

「おいしいけど食べてみる、は い」

 

凛は手を伸ばし受け取ろうとした がレオンが口の前へ天ムスを向けていた。

 

「口開けて」

 

「なっ!」

 

レオンの行動に凛は慌てる。

 

「じ、自分で食べられるぞ!」

 

「ん? まあ、気にしない。いつ も見てるし」

 

(何をしてるんだ! 式森と山瀬 先輩は!!)

 

凛は2人へと心の中で叫ぶ。

 

2人を見ると仲良く1つのイヤホ ンで音楽を聴いていた。

 

なぜか、『〇のとなりで』が聞こ えてきそうである。

 

「はい、あ〜ん」

 

「・・・・・・」

 

凛は悩みながらも口を開けレオン に食べさせてもらう方を選んだ。

 

(こ、こんな機会はめったに無 い)

 

なぜか天ムスの味は今まで食べた ものの中で1番おいしく感じたのはここだけの話である。

 

これが『凛ちゃん初めての「あ〜 ん」の巻』の真相である。

 

 

 

☆ピンポンパンポ〜〜〜ン☆

 

 

 

 

 

 

 

(こいつら戦う気あるの か・・・)

 

綾乃はとてつもない不安に襲われ る。まるで修学旅行に向かう学生を見ているような気がしてならなかった。そういう綾乃もまだ学生の年齢なのだが・・・

 

「ねぇ、少しは作戦とかたてな い? 向こうに着いたらどう動くか、まだ決めてないでしょ?」

 

暴れだしそうな己の心を沈め綾乃 は不機嫌そうな声ではあるものの和麻、和樹へ声を掛けた。

 

どうやら少しは成長したようであ る。

 

「・・・ん?」

 

和麻は雑誌から顔を上げ煙草を口 から放し煙を吐き出した。

 

綾乃は和麻が真ともに話し合うつ もりだと思い自分の意見が通った事に優越感を覚えたが、その返事は凄くそっけないものだった。

 

「作戦なんてたてるまでもないだ ろ。神の復活前に煉を助け出して封印の三昧真火ごと神を吹っ飛ばして残った風牙と妖魔を倒して終了」

 

これが作戦だと和麻は再び雑誌を 読み出そうとする。顔が『どうでもいいですよ〜♪』と言っていた。

 

だが綾乃が納得するわけがない。

 

「それのどこが作戦よ!! 真と もに考えなさいよね!!!」

 

「・・・おいおい、その殺気は戦 うときまで取っとけよ。勿体無い」

 

「だったら真ともに答え ろ!!!」

 

今にも炎雷覇を抜いて暴れだしそ うな綾乃。その力は妖魔を相手にするときにぶつけてほしいものである。

 

「ふぅ・・・真ともには答えてる ぜ。神を復活させちまったら煉も助ける事もできない、俺たちも終わりだ。俺たちがまず最初にすべき事は煉を助け出して神の封印を解かせないこと、これが大 前提だ。風牙や妖魔はその後だ」

 

和麻の説明を聞き綾乃は『はっ』 とする。和麻の言う通りである。神を復活させてしまっては全てが遅い、煉を助け出す事で風牙の神は封印を解かれない。

 

冷静に考えてみると和麻の言って いる事は適当に言っているようではあるが今回の作戦という点では和麻の言った通りに動くのがベストである。

 

「いいか、繰り返すが神を復活さ せないことが第一条件だ。誰でもいい誰か1人が煉のところへいく。できれば和樹が1番いいと俺は考えているがこれは俺個人の意見だ、それにこれは別に誰 だっていい。とにかく煉を助け出して三昧真火ごと神を吹き飛ばせるだけの力が在れる奴がそこに行けばいいんだ。神の封印がとかれなければ巨大な後ろ盾がな くなる。芯を失った風牙はまとまりが無くなって勝手に崩れる。力的に怖いのは今のところ妖魔と流也だけだ。だが神が復活したら人が神に勝つなんて不可能、 神、妖魔、流也、神の力で風牙の連中の力が上がったりでもしたら俺らに勝ち目はほとんど無い」

 

綾乃は和麻がここまで考えている とは思わず、唖然として話を聞いていた。

 

「間違いなく命を掛ける戦いにな る。引くことは許されない」

 

和樹の言葉を聞き、同時に不安に なり出す。

 

「大丈夫なのこのメンバーだけ で・・・他に手を貸してくれそうな人はいないの?」

 

綾乃の声に勢いは無い。和麻の話 を聞き今まで心のどこかに蓋そしていた恐怖の蓋を開けてしまったようである。

 

だがそれは誰だって同じ、人は心 のどこかに必ず恐怖、不安などマイナスの感情を感じている。

 

それはどんなときでもそうであ る。

 

新たに何かに挑戦するとき、目の 前に何かか現れたとき、自分よりも大きなものに向かっていくとき、日常の行動1つをとってもどこかにうまくいくか、失敗してしまったらと不安になるときが ある。

 

それは年齢をいくら重ねても拭い 去る事のできない感情である。

 

綾乃はまだ16の少女。

 

 

『人生50年、下天の内をくらぶ れば、夢幻のごとくなり。一度生を得て、滅せぬ者のあるべきか』

 

 

信長の好んだ舞、『敦盛』の一節 である。

 

人生を50年と考えても綾乃はま だその半分も生きていない。

 

神凪家次期宗主とされそれに見合 う気構えを学んできたつもりであるが16の少女には変わりはない。

 

今までこのような大きな戦いには 臨んだことは無く、自分より強いと思っていたのは父である重悟とおじの厳馬位しか知らず、

 

自分よりも圧倒的な存在と命をか けて戦った事など1度もない。

 

「・・・・・・確かに手は足りな いくらいだ。だがここで騒いでもどうにもならないぜ」

 

和麻は綾乃を見ながら呟く。

 

「手を貸してくれる人はいる、け れど向こうが手薄になるし、大人数過ぎてもまとまりがなくなる。切り札としてとって置くことにしたんだ。おかげで散々喚かれたけれど・・・」

 

疲れたように和樹は呟いた。

 

「今更怖気づいても仕方ない。だ が、そんな奴はいても足手まといなだけだ。京都に着いたらそのまま東京に帰れ」

 

少しでも逃げようとしたら確実に 精霊へ影響がでる。精霊魔術師にとって強い精神力こそが何よりも大切なのである。

 

実力があろうが心が弱いものには 今回の戦いは生き残る事はできない。必ず生き残るという強い精神こそ今回の戦いで生きる術である。

 

「安心しろ、誰もお前の事を攻め たりなんてしない。むしろ中途半端な心で残られる方が迷惑だ」

 

「下りるなんて言ってないで しょ!! 絶対に引いてたまるもんですか、あたしは誰かに護ってもらうほど弱い女じゃないわ!!!」

 

綾乃は声を出し人に言う事で自分 の決意を高める。

 

和麻はそんな綾乃の言葉を聞いて いないが自分でも心に誓いを立てている。

 

それは和樹たちも同じである。

 

「他の奴らも大丈夫か?」

 

和麻は和樹をはじめ千早、レオ ン、カイ、凛、沙弓へと声を掛けた。

 

「心はとっくに決まってるよ。僕 は死なない、そして誰も死なせない」

 

和樹は澄んだ表情で決意を口にす る。

 

「あたしも同じよ。自分のできる 事を今ある自分の力を出し切って、全力で行動するだけ」

 

千早もその表情に負の感情などは 全く見る事はできなかった。

 

「心なんかとっくに決まってる よ」

 

「僕は自分が正しいと思う事をす るだけだ」

 

レオンとカイも和樹と心は同じで ある。

 

「私も自分で決めた事です、何を 聞こうと心は変わりません」

 

「自分の役目を果たすだけよ。今 持つ力を全て使って」

 

凛と沙弓も同じである。

 

「兄さんはどうなの?」

 

和樹が和麻に聞き返した。

 

「俺もだ。こんなところで死ぬ気 はない。まだ俺にはしなくちゃならない事があるからな」

 

服の上からロッケトを握り締め和 樹に答える。

 

自分は彼女を救わなければならな い。彼女を救い、護り続ける。今度こそ約束を護ってみせる。

 

全員気持ちは既に固まっていた。

 

(あたしだけが・・・心が固まっ てなかったの・・・)

 

自分の考えの甘さを痛感した。

 

皆、心を決めてここにいるのに自 分だけが中途半端な気持ちでいたことを情けなく思う。

 

これでは凛や沙弓が自分より上と 和麻が言ったのが納得できた。

 

自分が考えていた以上に2人は強 い心を持っている。

 

和樹も、千早も、レオンも、カイ も、そして和麻も自分を遥かに超える強い心を持っている。

 

(でも、あたしだって負けない。 この戦いに生き残って見せる!)

 

綾乃も心が固まった・・・・・・ そのはずである。

 

 

 

 

 

 

 

そして、10分後・・・

 

「・・・おい・・・本当に大丈夫 なのか・・・この神凪の箱入り大馬鹿姫様は・・・」

 

「・・・・・・」

 

和麻の言葉に和樹だけでなく誰も 答える事ができない。

 

「真似できませんね」

 

「する必要もないし、したくもな いし、しようと思ってもできないけどね」

 

凛と沙弓は唖然としている。

 

「お前より神経図太い奴がいた な」

 

「へっ(えっ)!」

 

未だに駅弁を食べ続けているレオ ンにカイが言う。

 

一体どんだけ買いこんだんだよ、 レオン!

 

「・・・ま・・まあ、戦いの前に 体力を温存しておく事はいい事だしね、うん」

 

千早はみんなにと言うより自分を 何とか納得させるように言った。

 

7人の視線の先には・・・

 

「ZZZZZZZZZZ・・・・・・・・・・・・ ZZZZZZZZZZZ・・・・・・」

 

気持ちよさそうに安らかな表情を して寝息をたてている綾乃がいた。

 

皆の視線にも気づかないほどに深 い眠りについている。

 

妖魔の襲撃に備えて和麻、和樹、 レオン、カイの4人がそれぞれ自分の気配を読む事ができ尚且つ力に延慶の無いくらいまでの範囲を警戒していた。

 

範囲の広さとしてカイ<レオン <和樹<和麻の形になっている。

 

風術師である和麻が広く探り、そ れより範囲を狭めて和樹が気配を探り、レオンがさらに確認しカイが一番近い範囲を確認する。

 

10キロ、8キロ、5キロ、3キ ロと4重で気配を探っているのである。

 

和樹の『捜眼』を使えばターゲッ トを絞ることはできないまでも数百キロの範囲を警戒でき、和麻も範囲を広げれば寝ながらでも半径30キロ以上まで警戒する事も可能だ。

 

だが『捜眼』は和樹の視野だけし か探る事はできない上に精神をかなり削るので今使うのは避けた。和麻も同様に今から妖魔と戦うのに力を弱くするわけにはいかない。

 

結果、それぞれ疲れがでない程 度、息をすることと変わらないくらいの力で周囲を警戒する事としたのだ。

 

それでも時速300キロで移動し ているのだからあまり意味はない。妖魔の強さからいって20キロほど離れたところからでも攻撃は可能だろう。警戒は気休めにしか過ぎない。

 

「お荷物ができちまったか」

 

和麻は溜め息をつきながら呟い た。

 

「結界を張って置いたから簡単に は破られる事はないと思うよ・・・全力だとまずいけど・・・」

 

和樹がそう言う。例え和樹の魔力 と言えども妖魔の全力の攻撃は耐え切る事はできない。

 

「その全力の攻撃を受けても起き なかったりしてな、こいつ」

 

和麻は冗談で言った、ほんきで じょうだんで言ったのだが・・・・・・

 

『・・・・・・・・・(皆沈 黙)』

 

「いや、頼む。嘘でもいいから誰 か反論してくれ!」

 

和麻の言葉に誰も反論する事がで きなかった。

 

神凪本家襲撃のときの妖魔の気配 に気づかなかったのである。ありえない話ではない。

 

そんな和麻、和樹たちの考えなど 露知らず眠り続ける綾乃。

 

いつの間にかこのメンバーの中で 一番強い精神を持つ存在になっている綾乃であった。

 

 

 

 

 

 

 

兵衛は歴代の風牙衆の長を始め風 牙衆の者たちがその骨を眠らせる場に立っていた。

 

その地に眠る風牙衆の数は数え切 れない。

 

300年の間に死んでいった者た ち・・・・・・その中には神凪の術者たちに殺された者たちも数多くいる。

 

その者たちの怨念は凄まじくその 場にはこらえきれぬような怒りが湧いて出ていた。

 

「―――我が風牙の同志たちよ、 そなたたちの長きに亘る神凪への怨み果たすべきときがきた」

 

風牙衆の墓を前に兵衛は高々と宣 言する。

 

「我ら風牙衆は300年に亘り神 凪に奴隷として扱われ、その存在意義を蔑ろにされ続けてきた。

しかし、今我ら風牙は300年の 時を経て再び神凪を倒す力を手にするときがきのだ。今こそ我らの力が1つとなるとき!」

 

兵衛の手から風が放たれ風牙衆の 墓石を次々と破壊していく。その行為は墓石ほぼ全てが破壊されるまで続けられた。

 

「ふははははははっ!」

 

兵衛は笑いながら歩みを進め、墓 石の中でも存在感の大きな物のところへと歩みを進める。

 

「さあ、歴代の風牙の長たちよ。 今我に手を貸し、共に神凪を滅ぼそうではないか!?」

 

拳を握り締め兵衛は歴代の長たち の墓石の前で強く言葉を発した。

 

「目覚めよ!」

 

風を放ち墓石を破壊しようとす る。だがその風は炎を纏った墓石に当たり四散した。

 

「ぬっ!」

 

何事かと兵衛は目を丸くし墓石を 睨みつける。兵衛の風を防いだのは長たちの中でも中心にある。300年前に神凪の配下となった長の墓石だった。

 

その長の墓石には黄金の炎が纏わ れ風をすべて排除するかのように風に揺らいでいた。

 

「ふははははは! さすが神凪家 の炎、そう簡単には風を通さぬか・・・」

 

神凪は300年前風牙の長が死ん だときその怨念を封じ込めるために長の墓石に黄金の炎を纏わせ墓石を壊そうとする者の存在を阻むようにしてきたのだ。

 

そしてその炎は他の長たちの墓石 をも護るように命じられているのか長たちの墓石にだけは全く傷がついていなかった。

 

「だが、それも今日まで・・・ むっ・・・くっ!」

 

兵衛は黒い風を召喚しさらにナイ フで自分の手を斬り自身の血を風に纏わせた。

 

「風牙の怨念、我が血、骨ともに その魂、鬼として今甦りたまえ・・・」

 

鬼の形相で兵衛は手から血を流し ながら黒い風を召喚する。

 

その周りには血を吸い赤黒くなっ た風の刃が禍々しい力を放っている。

 

「我怨神凪無絶期(我、神凪を怨 むことたゆるきなし)・・・はあああぁぁぁぁっ!!!」

 

気合とともに風の刃が放たれ、炎 を突き破り墓石を破壊した。

 

「はははははははっ・・・神凪の 炎もこれまでよ!!」

 

兵衛が狂ったように笑い声を上げ る。

 

そして大地が揺らぎ始める。兵衛 はふらつきながらも墓石の前から離れる。

 

次の瞬間、大地を引き裂き巨大な 髑髏が歴代の長の墓石から飛び出す。

 

歴代の長たちの魂である。

 

「ふはははははははっ、さあ風牙 の長たちよ! その怒りと怨みを晴らすべく、我が体にその力を宿すがいい!!!!」

 

グオオオオオオオオ!!!

 

長の魂である髑髏たちは兵衛の体 へと次々と入り込んでいく。兵衛の顔が歪み一体となった長たちの顔が次々と浮かび上がる。

 

最後、兵衛の顔となり力が完全に 兵衛と一体化する。

 

「ふははははははははははっ、さ すが長たちの力ぞ」

 

兵衛は自分の体から湧き上がる力 に驚愕しながらも力を手にしたその心は抑え切れなかった。

 

「さあ、皆の魂も目覚めよ。風牙 神様とともに我らの手で新たな風牙の門出の戦いを勝利で収めるのだ!!!」

 

破壊された墓から魂が次々と飛び 出し空を黒く染める。

 

決戦の地は闇に包まれた。

 

 

 

 

 

 

 

京都駅に着き、御一行は新幹線か ら無事ホームへと降りた。

 

「はぁ・・はぁ・・・もう・・ど うしてもっと早く起こしてくれなかったのよ!」

 

約1名息を切らせホームで愚痴を 叫んでいた。数十秒前まで寝ていたとは思えないほどの声である。

 

「知るかよ、何度も声掛けて起こ したのに起きなかったお前が悪い! 起こしてやっただけありがたく思え!」

 

和麻は綾乃にそう言うとさっさと 改札に向けて歩き出す。

 

綾乃は駅に着くまで熟睡し続けて ホームに着きあわや乗り過ごすというところで飛び起きたのである。

 

ちなみに駅に着く10分ほど前か ら千早が綾乃のことを起こし続けたが死んだように眠り続ける綾乃を起こすことはできなかった。

 

最後は青筋浮かべた和麻が風の飛 礫を顔面にクリーンヒットさせ無理やりたたき起こしたのである。

 

文句を言いながらも綾乃はしぶし ぶ後を着いて歩き出した。

 

途中改札をでるまでにウィンドガ ラスに映った自分の髪を見て綾乃が騒いだのはまた別の話である。

 

改札を出ると重悟が用意した車が 置かれている駐車場へと向かった。

 

山道を登ることを考えてか用意さ れた車は、1970年代に日本に入りそれ以来独自の地位を築いたレンジローバーであった。

 

ちなみにレンジローバー1台約 1000万円近く、その車が2台並んでいた。

 

「おっ、宗主もいい車用意してく れたな」

 

重悟の器の広さに感心した。

 

和樹は重悟から預かった鍵を和麻 とレオンに渡す。

 

「綾乃ちゃん、ストップ」

 

ロックを外し、それを見た綾乃が 車に乗り込もうとしたが和樹がそれを制した。

 

千早、地図を出して」

 

「準備できてるよ」

 

和樹に言われる前に千早は腰につ けたポーチから地図を取り出し広げていた。

 

(こいつらがテレパシーで通じ 合ってると言われても俺信じられそう)

 

和麻がそんな2人を見て心の中で そんなことを呟いていた。

 

「とりあえず、車の振り分けは車 内で決めたその通りに乗って」

 

「あっ、綾乃ちゃんはあたしと和 樹君と和麻お兄ちゃんね」

 

新幹線の中で決めたことを綾乃に 千早が説明する。

 

振り分けは和麻、和樹、千早、綾 乃、そしてレオン、カイ、凛、沙弓。

 

「先に走るのは僕ら、レオンはそ の後を着いてきて」

 

「分かった」

 

まず風術師である和麻が先に走り 奇襲に備え、運転と奇襲に備えている和麻をバックアップするために和樹が和麻とともに乗る。

 

後ろもレオンとカイがいれば冷静 に動くことができる。そう判断したのだ。

 

「幸い、新幹線は襲撃されなかっ たけど・・・」

 

「・・・・・・あ"っ!」

 

「ボケ、バカ、アホ、今頃気づく なよな」

 

和樹の言葉を聞き、声を上げ固 まった綾乃に和麻が突っ込んだ。

 

「だけど見ての通り、というより もう肌で感じているだろうけど山は邪気に包まれている。いつ襲ってこられても対応できるように考えておいて」

 

皆、和樹の言葉に頷く。

 

自然と和樹がメンバーの中心的存 在になっていた。

 

「宗主の話だと封印の場所はここ だろ、どこら辺まで車で近づくことができるか」

 

「近ければ近いほど良いけど、無 理して近づいても危険だ」

 

「少しでも妖魔や流也の気配を感 じたら車から降りたほうが良いね」

 

「そうだね」

 

和樹たちはお互いに意見を出し素 早くこれからの動きを決めていく。

 

綾乃はそれに口を挟むことができ ずにただ黙っている。考えに納得してしまうのも大きな理由だが。

 

「予測できないことが起きたりす るだろうけどそれはお互いにカバーし合って動こう」

 

「まず煉君を救出して神の封印を 解かせないことが最優先ね」

 

千早の言葉に皆反対することなく 頷いた。

 

「それじゃ、行こう!」

 

それぞれ車へと乗り込む。レオン とカイは人間体へとなり車に乗り込んだ。凛と沙弓もそれに続く。

 

和麻、和樹、千早、綾乃も車へと 乗り込む。

 

和樹はエンジンを掛ける和麻の横 でカーナビのスイッチを入れる。

 

最新のカーナビなのか地図が鮮明 で分かりやすい。和樹が手際よく目的地を入力した。

 

「千早、綾乃、すぐに飛び出せる ようにしとけ」

 

確認の意味も込め和麻が後ろに乗 る2人へ行った。

 

「わかった」

 

「―――了解」

 

綾乃は和麻に命令されたのがしゃ くに障ったのか少しぶすっとした声で答えた。

 

「いいよ、兄さん」

 

「行くぞ」

 

和麻はアクセルを踏み込み、車を 発進させた。

 

 

 

 

あとがき

「ね〜んね〜んころりよ・・・spirits of DESTINY

は〜い、レオンで〜す。今回のゲ ストはこの人です」

spirits of DESTINYのアイドル、綾乃で〜〜す!!」

「・・・・・・・・・」

「何で黙んのよ!!」

「いや、なんて突っ込んだらいい のか・・・どちらかと言ったら居眠り姫の方が」

「お黙り!! 何であたしはこん な役ばかりなのよ!!」

「まあ、話に出られてない人たち もいるんだから」

「(ギロッ!!)」

「ええ〜、カズたちは京都へ、そ してついに戦いが始まるのであった」

「勝手に精霊ニュースやってん じゃないわよ!!」

「以上、またね〜〜〜」

「勝手に終わらせるな!(ブ ツッ!)マイク切るな、こ らっ!!!

 


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