第1部   〜動き出す運命〜

 

 

 

 

第26話 エリクサー

 

 

「はぁ・・・はぁ・・・」

 

煉は肩で息をし、倒れそうになり ながらも自分の足で大地を踏みしめていた。

 

『休んでいる暇なんて無いわよ』

 

「くっ!」

 

煉に向けてアオイは炎を放つ。そ れを煉は炎を召喚し防ぎきった。

 

まだまだ荒っぽい形ではあるがそ れでも炎を防ぐことに成功した。

 

(これを僕がやっている の・・・)

 

煉はまだ自分の力に驚きを隠せな いでいた。

 

最初は何もできなかった。炎を防 ぐどころかただ自分に向かってくる炎から逃げていることしかできなかった。

 

だがそれでは駄目なのだと自分を 奮い立たせる。自分でこの道を選んだのだ、ならそれに向かっていくしかない。

 

「はぁっ!」

 

アオイに向けて炎を放つ。1度1 度の攻撃に自分の力を全力でぶつけている。

 

今自分を助けてくれる人はいな い。自分1人の力だけが頼りである。自分の力を信じて戦うしかないのである。

 

「僕は必ず強くなる」

 

煉の強い心に反応し精霊たちが集 まってくる。召喚を繰り返すごとに今までの自分の力をはるかに上回る力があふれ、さらに精霊たちが自分を高めてくれる。

 

『そう、その強い意思があなたの 力となる。煉に足りないのは周りを気にしない事、今まで自分と他人を比べて自分は弱いと勝手に決め付けていた。でもそれは違う。最初から完璧な人なんてい ないの、今ある自分の力と向き合うのよ』

 

煉はまだ実戦経験もなければ、自 分1人で戦ったことなど1度も無い。

 

今煉は戦い方を学んでいる。身体 にその動きを覚えこませるのが今煉の1番の目的だ。

 

(もう少し、もう少しで彼の中に ある力は目覚める)

 

アオイは煉と戦いながら今にも煉 の身体から何かが飛び出してくるようなそんなプレッシャーを感じていた。

 

(この力が目覚めれば間違いなく カズちゃん達の力になる)

 

力が目覚めれば神との戦いで和樹 達にとって大きな力となる。それどころか最大値の力は凛や沙弓を超えて千早にまで迫る勢いである。

 

『煉、魔法具を使いなさい』

 

アオイは賭けに出た。

 

『カズちゃんの魔法具があなたの 眠っている力を引き出してくれる』

 

「和樹兄様が・・・」

 

『あなたは信じているんでしょ、 カズちゃんの力を。カズちゃんがあなたを導いてくれる』

 

そういうとアオイは自分の前に巨 大な炎の塊を作り出した。

 

その炎から感じるプレッシャーは 並大抵のものではなかった。

 

(僕は負けない)

 

だがそんな力を前にしても煉は退 く気配はない。煉は確実に強くなっていた。

 

力も心も・・・

 

そんな中・・・煉は昔・・・4年 以上前に式森家に行ったときのことを思い出した。

 

そのときは和麻が源氏と修行をし て相手にしてもらえなかったので和樹の後をついて回っていた。

 

そのときの和樹との会話を・・・ そのとき習ったことを・・・煉は今思い出していた。

 

「・・・・・・・・ねぇ、和樹兄 様・・・武器を使うとしたら僕に合う武器って何だと思いますか?」

 

「えっ?」

 

煉の言葉に和樹は一瞬困ったよう な顔をした。

 

「和樹兄様の短刀を見ていて僕に も何かあるんじゃないかって・・・」

 

「・・・う〜ん、そうだな。和麻 兄さんみたく決まったものを持たないっていうのもあるけど?」

 

「無理ですよ〜・・・あんなにた くさんの武器の使い方を覚えるなんて・・・」

 

「ははは、確かに兄さんは欲張り すぎだね。でも源氏爺もよくあれだけ武器の使い方をマスターしてるよな」

 

その頃の和麻は剣、槍、ナイフな どいろいろな武器を使う特訓をしていた。そしてその武器を使いこなしていた。超達人レベルとまでは行かなくとも源氏が自らが教えたため普通の人では相手に ならない達人の域に達するほどの強さである。

 

だが本人曰く『どれもしっくりこ ない』から次々と覚えているらしい・・・

 

「でも和樹兄様や千早姉様は自分 の武器を持っているじゃないですか?」

 

「まあ、僕も兄さんほどじゃない けど他の武器の使い方は学んでいるよ。でも、使っていて自分に1番合っているって思ったからね」

 

「どうしてそう思ったんですか?  やっぱり何度も練習してそう思ったからですか?」

 

「う〜ん、それもあるけど、僕の 場合は1番最初に頭の中に浮かんだのが短刀だったんだ。元々剣術は物心ついた頃から源爺たちに習っていたしね」

 

「1番最初に浮かんだ・・・」

 

「そう、後から色々と他の武器も 試しては見たけどやっぱり1番最初に戻ったってことかな。原点に返るっていう言葉があるけど聞いたことある?」

 

「はい」

 

「僕の場合はそれだね。やっぱり 自分が1番最初に思い浮かんだのが1番自分に合っているんだと思うよ」

 

「1番最初に・・・」

 

自分は何なんだろうと煉は思う。 でも何も思い浮かばない。

 

「でも和麻兄さんみたく自分に合 うものを探してみるのもいいと思うよ。僕はたまたま自分にあったのが見つかっただけだしね。それに1番大事なことは煉君が自分で探し出すことが大事なんだ よ」

 

「自分で・・・」

 

「そう、もちろん困っているとき 僕やゲン爺たちは助けてあげるけど最後に決めるのは煉君自身、色々試してみるって、色々経験していくことが大事なんだよ」

 

「はい」

 

「そうだ、今からいくつか教えて あげようか?」

 

「ホントですか?」

 

「煉君が本気でやる気があるなら ね」

 

「お願いします」

 

その後、煉は和樹から色々な武器 の使い方を習った。

 

そしてそのときある武器を使っ た。

 

そして煉が出した答えは・・・

 

(和樹兄様、やっぱり僕は兄様に 頼ってしまいそうです)

 

煉は和樹に言われたことを色々試 してみた。自分で体験してみることが1番大事だ。

 

(和樹兄様のこの魔法具、僕は ずっと悩んでいましたが決めました)

 

煉は思う。自分は今1人で戦って いた。だが今度は違う、自分を支えてくれていると和樹がいる。

 

いや、最初から自分は1人ではな い。

 

「いきます!!」

 

『見せてみなさい、煉。あなたの 力をあなたの決意を』

 

煉の握り締めた和樹から貰った魔 法具が光りだす。

 

煉の意思を感じ取りそれを形にし ようとているのだ。

 

「これが僕の答えだ!!!」

 

その瞬間煉の中で何かが目覚め た。

 

今まで自分を縛り付けていたもの が、今まで自分の力を閉じ込めていたものがなくなった。

 

「うわぁぁぁぁぁ!!」

 

煉の周りには今までの力をはるか に凌駕する精霊が召喚される、その量は父、厳馬にも匹敵するほどの力だ。

 

(化けたわね、煉)

 

それに負けじとアオイも炎を召喚 する。

 

煉とアオイの強力な2つの力がぶ つかり合った。

 

 

 

 

 

 

 

「あそこだ」

 

「しかし、ここまで被害が酷いと は・・・完全にさっき見た風景と環境が変わってるぜ」

 

ここに着く少し前から周りの風景 が完全に変わり果てていた。

 

アスファルトで固められていた道 はどこが道であったかも分からないほどに破壊され、酷い所は山肌が完全に見え土砂崩れの後のような状態である。

 

さらに流れ弾が当たったのだろう か、そこら中クレーターだらけで中には直径10メートルになろうかというものまである。

 

「でもあの3体の妖魔以外はほと んど倒したみたいね」

 

「凛ちゃんや杜崎さんが相当腕を 上げたって証拠だよ。レオンとカイはあの3体の相手がほとんどだろうから6、7割は2人が倒したようだ」

 

「神城、杜崎の血筋とか関係なく これは本人達の努力・精神力の結果だな」

 

例え退魔師の血が流れていてもこ れだけの数を相手にできたのは凛と沙弓の修行の成果であり家の血がどうのこうは関係ない。

 

血筋の力は1〜2割程度だろうが 後の8〜9割は2人の努力で手に入れたものである。

 

和麻、和樹、千早は周りを確認し てから地面へ降り立つと4人の下へと向かった。

 

「4人とも無事か?」

 

木々の影になっているところに4 人はいた。

 

4人とも疲労の色は隠せず、身体 を動かすのも辛そうである。

 

「無事だ、そっちはどうだ?」

 

和麻の問いに答えたのはカイだっ た。

 

「・・・1人だけやばい、後は無 事だ」

 

そう答えると和麻は綾乃を近くの 日陰に横に寝せた。

 

「・・・相当不味い状態だ な・・・くっ・・・」

 

「レオンの腕の具合は?」

 

左腕を真っ赤に血で染めたレオン の左腕は見るだけでも重傷だとわかった。

 

「筋肉の筋が完全に切れている。 血止めはしたが動かすことはできない。骨も折れている」

 

カイがレオンの傷の状態を和樹た ちに説明する。

 

「・・・すまない」

 

「私たちのせいで・・・」

 

凛と沙弓はレオンの隣に今にも泣 きそうなそんな表情をして座っていた。

 

2人共、体力も限界である。身体 のあちらこちらに傷が見える。だがそんなこと2人の頭の中には全くないのだろう。

 

自分たち助けるためにレオンは怪 我をしたためそのことが2人の心を酷く締め付けていた。自分たちのせいで、自分たちが足を引っ張ったと酷く後悔しているのだ。

 

「2人のせいではない・・・着い て来ることを許可した時に言ったはずだ『2人は責任を持って護る』と」

 

「しかし!」

 

「2人の力は十分この戦いで役 立っている・・・・・・自分を責めることなんてない」

 

レオンは腕を押さえながら2人に 言った。

 

「レオン、話は後にしよう。今は できるだけ身体を休めることに専念しないと」

 

「和樹君も無理してるのは一緒で しょう」

 

そう言うと和樹から煉を受け取り 千早は木に寄りかからせた。

 

「黒炎をあれだけ使ったんだから 和樹君も休まないと、それにお兄ちゃんも聖痕を使ったんだから」

 

千早は2人を見ながら言う。和樹 は傷こそそれほど追ってはいないが身体は黒炎を使ったせいで疲労が激しかった。

 

本当なら立っていることすらでき ない、普通の人間なら何日寝込むことになるか。

 

和麻は流也の攻撃を受け、さらに は聖痕を発動したために身体のあっちこっちが悲鳴を上げている。

 

2人共平気そうな顔をしているが 立っているだけでも相当な力を使っているのだ。

 

「千早もそれは同じだぜ。とりあ えず、全員これを飲め、効果は折り紙付きだ」

 

そう言うと和麻は頑丈そうなケー スに入れられている小さな瓶を全員に渡した。

 

「これって・・・何?」

 

「中身は水のようですが?」

 

沙弓と凛は小瓶を見ながら不思議 そうな顔をしている。

 

そんな時和麻から瓶を渡された和 樹がその水を見て言った。

 

「・・・・・・これがエリク サー?」

 

「エ、エリクサー! どこでこん なものを!?」

 

「これってただの伝説とかじゃな かったの!?」

 

和樹の言葉に凛、沙弓は驚いたよ うな声を上げた。

 

だがそれも頷ける。エリクサーは 錬金術の粋を集めて作られた奇跡の秘薬で、まだ実在さえ確認されたことすらない幻の薬である。

 

その効力は死者さえも甦らせると まで言われている。

 

和樹自身、エリクサーのことに関 しての知識は持っていたが本物を見るのはこれが初めてであった。

 

「昔、世界中を探し回ってな。そ んときちょっとしたコネで手に入れた」

 

そう言うと和麻はエリクサーを飲 んだ。すると身体の傷は見る見るうちに消え今まで感じていた身体の疲れも完全に消え失せた。

 

「高価な薬だけど、もうこれを使 う必要も無くなったしな。遠慮せず使ってくれていいぜ」

 

「悪いな」

 

そう言うとカイはエリクサーを口 に運んだ。和樹や千早もそれに続いてエリクサーを口に含んだ。

 

「レオン、口を開けてくれ」

 

左腕が動かず、さらに右手でその 腕を押さえ血止めをしているレオンは凛にエリクサーを口に運んでもらった。

 

すると左腕の傷は見る見る回復し 怪我をしていたとは思えないほど傷が綺麗に消えた。

 

「・・・・・・」

 

レオンは左手をゆっくりと動かし 問題がないことを確認する。

 

「さすがエリクサーだな。傷が あったことさえ信じられない」

 

全員が戦いを始める前の状態まで 回復した。

 

残るは・・・

 

「全員回復・・・さてどうしたも んかな・・・」

 

日陰に寝せている少女を見た。そ の顔にはもはや血が通っていないかと思うくらい血の気が引いている。蒼褪めると言うより白くなって来ていた。

 

呼吸は安定していない。時に荒く 時には弱くの繰り返しだ。

 

「脈が弱いな」

 

手首に手を当て脈拍数を計るが弱 くなる一方である。

 

「もって後1時間ってところか な」

 

「下手すればもっと早いだろう な」

 

和麻の物言いにレオンがなんでも ないように言った。

 

「でも、見捨てるわけにもいかな い、でしょ?」

 

和樹はそう言うがその声も大して 綾乃を心配した感じを受けない。和麻とレオンのことも何も言わない。

 

術者が戦いの中で傷を追うことは 当たり前のことである。そしてそれは死に直面することもある。常に命の危険性のある場で戦っているのだ。

 

それだけの覚悟を持って術者はそ の場に立つのだ。

 

例外として神凪のような術者もい るが・・・

 

だが全てがそうであるわけでもな い。力の強いものもいれば力の弱いものもいる。知識のある者もいればない者もいる。

 

全ての人が1つの考えで比べるこ とはできない。

 

だが神凪は力だけを振りかざして きた。

 

苦しみも痛みも知らずに相手を傷 つけてきた。

 

綾乃のこの結果は神凪の生み出し た結果と言える。

 

綾乃自身が生み出したものではな いが幸か不幸か神凪に生まれたために定めとなった。

 

ましてや次期宗主となる綾乃、い ずれは神凪を背負って起たなければならない。

 

まだ16の少女だろうが本人がそ れを拒まず受け入れた時点でその責務を全うしなければならないのだ。

 

和麻も和樹も綾乃を助ける理由も ない。術者として綾乃がそれだけの器だったと言えばそれまでである。

 

だが目の前で死にそうな人を放っ て置くことができるわけもない。助けられるなら見捨てることなどできない。

 

「まあな、このまま死なれても後 味悪い。第一、神凪に借りはなくても宗主にはあるからな」

 

口ではそういうが和樹はそれが和 麻の本心ではないとすぐに分かった。

 

照れ隠しの言い訳を言ったに過ぎ ないと・・・・・・

 

和麻が綾乃を見捨てない理由は相 手が綾乃だからでも、親戚だからでも、宗主に借りがあるからでもない。

 

目の前で失いかけた命・・・

 

その命と綾乃を和麻は重ねている のだ。

 

大事なものを失う怖さを、大事な ものを失うときの悲しさを、大事なものを失うときの絶望感を和麻は知っている。

 

護りたいものを護れない悔しさ、 情けなさを和麻は知っている。

 

自分の手の届く所に救うことので きる命がある。今の和麻はその命を見捨てることなどできない。

 

自分と同じ思いをする人を、また 同じ思いをするなんて2度としないと和麻は誓ったのだ。

 

和樹は最初から和麻が綾乃を見捨 てるなどと少しも思っていなかった。

 

和樹が横を見ると千早も和樹の心 を呼んだかのように頷いた。

 

(千早には敵わないな・・・)

 

千早もわかっていたのだろう。そ して和樹が考えていたことも全て・・・

 

「てか、お前ら俺が見捨てるとか 言ったら俺から力尽くにでもエリクサー奪っていただろ」

 

「まあね」

 

「ビンタ1発のおまけ付きだけど ね」

 

「ははっ(汗)・・・・・・・・ 下手な冗談言わなくてよかったぜ」

 

和麻は千早の言葉に軽率なことを 言わなくてよかったとつくづく思った。

 

ちなみに千早の平手打ちは痛い。 まるでゴリラが全力疾走をしてきた状態でラリアットを放った衝撃、またはバンジージャンプのゴムを限界まで引っ張り顔に打ちつけたような気持ちになったの を覚えている、実際昔それを受けて和麻は身体が吹っ飛んだ。自分よりも小さな千早の平手打ちにもかかわらず。

 

(あれを喰らうなら・・・・・・ 猪〇のビンタ100発を俺は選ぶ・・・)

 

思い出すだけでも顔がヒリヒリし てくるので和麻はそこで思考を止めた。思い出したくない過去の1つである。

 

「それじゃ、さっさと回復させま すか」

 

そろそろ本当に冗談を言ってられ なくなってきている綾乃を見た。

 

だが様子が少しおかしい。

 

「何だ?」

 

綾乃の身体が光だしサッカーボー ルの大きさ程度の光の弾が姿を現した。

 

「何だ、一体・・・」

 

「・・・何かを呼んでいるの?」

 

光の弾は綾乃から離れると1人の 前で止まりその形を変えた。

 

その姿に和麻だけでなくその場に いた全員が驚きをあらわにした。

 

「それって!?」

 

「でも何で!?」

 

1〜1.5メートルほどの緋色の 剣。

 

「どういうことだ?」

 

「剣が使い手を変えたのでしょう か?」

 

紅に光り輝く両刃の長剣。

 

「炎雷覇」

 

その剣・・・神凪の至高の宝剣で ある炎雷覇は和麻でも、千早でも、レオンでも、カイでも、眠っている煉でもなく、和樹の前へと降り立った。

 

そして剣は和樹を呼ぶように光を 放ち出す。

 

それはまるで「自分を手にしろ」 と和樹へと話しかけているようにも見えた。

 

「和樹?」

 

「和樹君?」

 

和麻と千早が和樹を見る。レオン たちも和樹から視線を外さない。

 

「僕を呼んでいるのか?」

 

それに答えるように炎雷覇は光を 放つ。

 

和樹はゆっくりと炎雷覇をその手 へ握り締めた。

 

刹那、和樹は声を上げて叫んだ。

 

「!!? みんな下がって!!」

 

和樹の言葉と同時に和樹と炎雷覇 を中心に激しい衝撃波が放たれた。

 

「なっ!?」

 

「くっ!」

 

「!?」

 

「ちっ!」

 

「あっ!?」

 

「えっ!?」

 

皆和樹から放たれる衝撃波を受け る。

 

和麻は綾乃を、千早は煉を、レオ ンは凛と沙弓を自分の方へと引き寄せ、カイがそれを助けるように衝撃波をそれぞれ防いだ。

 

「なっ、何て力だ!!?」

 

和麻は風を纏いながら自分と綾乃 を衝撃波から護る。

 

「炎雷覇が和樹君の力と共鳴して いるの?」

 

千早は炎雷覇が和樹の手に触れた ことでその力が解放されたのかと思った。

 

和樹は無言で炎雷覇を手にしたま ま立っている。

 

そこから感じる力はふとしたこと でいつ爆発するか分からないような巨大な力である。

 

「和樹君!!」

 

千早が和樹の名を呼ぶ。だがそれ に和樹は反応しない。

 

「かずっ・・・」

 

もう1度和樹の名を千早が呼んだ と同時に和樹が動いた。

 

和樹は魔法具を外すと炎雷覇へと 運んだ。

 

魔法具は炎雷覇へと吸い込まれる ようにその中へと入っていく、すると炎雷覇が再びその形を変え始めた。

 

和樹は左手を剣のつばの部分へと 当てると刀身をなぞりながら叫ぶ。

 

「・・・炎の舞を踊れ・・・炎龍 覇」

 

周りの炎の精霊が一気に和樹へと 集まった。そして今度は暴走することなく光り輝く剣へと召喚された。

 

紅の光を放つ剣、黒い龍の細工が 施されている。

 

そこから感じる力は炎雷覇をはる かに凌駕していた。

 

「和樹」

 

「・・・・・・もう大丈夫だよ」

 

和樹はいつもの表情へと戻り和麻 へと答えた。

 

右手に握られた剣は既に力を制御 されているのか力が弱くなっていっている。

 

「何があったんだ?」

 

「和樹君?」

 

「炎雷覇が僕の持つ力・・・黒炎 を制御仕切れなかったから魔法具、黒龍刀と融合させた」

 

「制御できなかったって・・・」

 

「何があったの一体?」

 

和樹の言っていることがまったく 理解できず皆訳のわからない顔をしている。

 

「炎雷覇と話をしてきたん だ・・・と言うより話しかけられたといったほうがいいのかな」

 

「炎雷覇と話した?」

 

「どうやら炎の精霊王が僕に力を 貸すように言ってきたらしいけど炎雷覇が僕の力を収め切れなかったみたいだ」

 

「すまん和樹、全く話が分からな い」

 

「精霊王が力を貸すって・・・ど うなってるの?」

 

和麻と千早は一体何がどうなって いるのか分からない。

 

分かることは炎雷覇の力が上がっ たということだ。

 

炎雷覇は2人が今まで見ていた形 状と形が変わっている。綾乃の持っていた炎雷覇とは明らかに形が異なっていた。

 

「詳しくは後で話すよ。それにし ても惜しかったな、重悟おじさんは・・・・・・」

 

「・・・だから何がだ?」

 

もはや完全に和麻たちは話が分か らなくなっていた。

 

「それも後で話すよ。とりあえず 急がないと綾乃ちゃんが危ないな」

 

和樹は和麻の腕に抱かれている綾 乃を見た。

 

「戦力としてはもう期待できない な。霧香に連絡して先にこの場から離しておくか」

 

「そうだね。炎雷覇も今僕の手に 渡ってしまった以上綾乃ちゃんが戦うことは無理だ」

 

「それに目が覚めても今の綾乃 ちゃんじゃ戦うことなんてできないと思う」

 

千早の言葉に和麻、和樹、レオン たちが頷いた。兵衛に勝てない以上、戦力的に綾乃は数には入らない。

 

神よりはるかに弱い兵衛に勝てな いのに神相手に綾乃が戦えるわけなんて万に一つもあり得ないことだ。

 

和樹は炎雷覇から綾乃の今の状態 を聞いた。目覚めても炎の力を失った綾乃は戦うすべを持っていない。

 

凛や沙弓と違い、魔法を使わずに 炎術主体の戦い方しか学んでこなかった綾乃に魔法を使った戦いをすることはできない。

 

魔力や魔法回数は2人と差はない が戦いの中でそれを使うすべを知らない以上綾乃はただの少女である。例え使えたとしてもいきなり切り替えることなどできるものではない。

 

そして千早の言いたい事・・・

 

千早は綾乃の精神面を気に掛けた のである。

 

兵衛との戦いで負けたと言う精神 的ショックで綾乃は戦うことができないのではと千早は心配しているのだ。

 

前にも言ったが今まで綾乃は負け ると言うことを知らないできた。負けたことがないわけではないがここまで完全に勝ち負けがはっきりとした負け方をしたことが綾乃には一度もない。

 

綾乃の受けたのは身体だけでなく 精神的傷も大きい。目覚めても戦うことなどできない。

 

下手したら術者としてだけではな く人として生きていくことすらできないくらいに・・・・・・

 

「今は何を言っても仕方ない」

 

「まずはこいつを死なせないこと だ」

 

和麻はケースからエリクサーを取 り出す。

 

だがそこで動きが止まった。

 

「・・・で、どうする?」

 

「エリクサーを飲ませる」

 

「どうやって?」

 

「瓶を口に当てて」

 

「この状態でか? 飲む力さえ 残ってないぞ」

 

「・・・あれしかない」

 

「あれか?」

 

「あれね」

 

「しかないな」

 

「まあ、それしかないな」

 

「ないですね」

 

「そうね」

 

その場にいた全員の考えが1つに なる。

 

他に方法はないかと考えたがこう いうときに限ってそれにか思い浮かばない。

 

だがその方法は・・・

 

できれば違う方法でと和麻は思 う。

 

自分には将来を誓った()相手が・・・・・・

 

「まあ、人命救助には付き物だし ね」

 

「そうそう、疚しい気持ちがあっ てするわけでもないし、これは緊急事態の救済措置として認められているし」

 

「・・・・・・・・・」

 

「前に僕もしたことがあるし、さ れたこともあるし・・・」

 

「・・・私だったけどね・・・両 方とも・・・」

 

「・・・おいっ・・・ちょっと待 て! それって本当に緊急の救済措置だったのか!?」

 

それは救命措置だったのかと疑問 が浮かんだのは和麻だけかは定かではない。

 

「・・・・・・経験者なら和樹、 変わってくれ」

 

和麻は和樹のことを見るが視線を 合わせないように和樹はする。

 

「・・・・・・千早」

 

千早も和麻と目を合わせないよう にする。

 

『・・・・・・あの子の為にもそ んなこと僕()にはできない』

 

2人の声は見事に重なった。

 

「ねぇ、レオン2人に子供なんか いたっけ」

 

「僕の知る限りはいなかったけ ど、僕が式神になる前に・・・・・・」

 

「4歳のときに子供なんてできる わけ・・・・・・2人なら何とかなりそうで怖いわ・・・」

 

「ふ、不潔です。高校生でありな がら・・・でも、なんか2人が羨ましいですけど・・・」

 

「僕の知る限り2人の間にまだ子 供はいないよ。だがあの2人なら僕の目を盗んで・・・と言う具合いで・・・と言うことも・・・」

 

「そうね・・・2人なら1日で作 りそうだものね」

 

「僕、前日に何がなくても次の日 2人に子供見せられたら納得しそうだ」

 

「名前は何て付けるんでしょう か?」

 

どんどん話が横道にそれている。

 

「子供の名前って『和樹と千早の 子供の名前ノート』、ゲン爺たちが作っていたわね。確か・・・それもシリーズで・・・」

 

一体、何をしてるんだ。源蔵たち は・・・

 

「しかしいつ作ったんだ・・・」

 

「まだ作っていないでしょ!」

 

「もしかして2人は・・・そ の・・・」

 

「確か経験済みね・・・」

 

「・・・・・・ (カッーーーーーー!!!)【イヤイヤ】 ・・・・・ボンッ!! フスフスフス・・・・・・【凛の顔は真っ赤 に・・・ついでに頭からは煙が・・・】」

 

どうやらショートしたようであ る。しかし耳に手を当ててイヤイヤをする姿は男たちをノックアウトするのには十分過ぎる絵だろう。

 

「・・・2人の初体験は確か中学 の・・・・・・」

 

「えっ、小学校高学年じゃなかっ たの?」

 

「いや、僕はまだだと聞いてる ぞ」

 

「中学なのは間違いない事実だ」

 

「不潔です、不潔です、不潔で す、不潔です、不潔です、不潔です、不潔です・・・・・・【エンドレス】」

 

「あれは確か2人が山に妖魔退治 に行ったとき・・・・・」

 

『それでそれで・・・』

 

「あれは、冬の寒い日の事だっ た・・・・・・」

 

『うん、うん』

 

4人は3人の会話を聞いてこっそ りと話を始めている。しかもいつの間にか話は危険な方向へと進み始めていた。さらに興味津々である。

 

その頃和樹たちは・・・

 

「嘘つくな、お前ら!! あの 子って一体どの子だ!!? 子供なんていないだろ!!!」

 

「千早の目の前で他の子と口を合 わせるなんて僕にはできない」

 

「私も和樹君の前でそんなことで きない」

 

2人はお互いを見つめ合いながら どんどん2人の世界へと入っていく。

 

『でた・・・バカップル究極状 態!!』

 

小さな声で鋭い突っ込みが4人か ら入った。

 

「お前らの甘々なところなんか見 たくない。てか、俺に対する当てつけか!? えっ、こらっ!!! 変わってくれてもいいだろうが!!」

 

『ごめん、兄さん(お兄ちゃ ん)。自分の心に嘘はつけない。僕(私)は千早(和樹君)が好きなんだ!!!』

 

「んなこと聞いてねぇ!!! し ばくぞ、こらぁぁ!!」

 

今なら風牙神も一瞬にして倒しそ うな勢いの和麻。

 

だが完全に2人だけの世界に入っ ている2人に和麻の声は2人に届くことなく空しく響いた。もはやこの2人には何を言っても無駄だ。

 

「・・・・・・レオン」

 

「無理」

 

「・・・カイ」

 

「猫は手も口も貸しません」

 

2人共、凛や沙弓と内緒話をして いたときには動物状態へとなっていたりする。

 

完全に逃げました。

 

「・・・・・・・・・」

 

最後の望みとばかりに凛と沙弓を 見る。

 

「がんばってください」

 

「応援しています」

 

凛と沙弓から和麻はエールを受け た。

 

「・・・お前ら鬼だ」

 

「ファイト〜〜〜〜!!」

 

「ガンバ〜〜〜〜〜!!」

 

レオン、カイが日本の国旗を振っ ていた。

 

なぜ・・・てかどこから出したん だ?

 

「くそ〜〜〜〜、お前らつくづく だよ!!」

 

日本一抱かれたくないNO.1男 の意味不明な言葉を叫びながらも、もはや和麻に逃げ場はなし、覚悟を決めるしかなかった。

 

和麻は綾乃の身体を起こすとエリ クサーを自分の口へと含んだ。

 

(翠鈴・・・すまん。人助けのた めなんだ・・・俺の心はお前だけのものだ)

 

自分の恋人に心の中で土下座して 詫びると和麻は綾乃の唇に自分の唇を重ねた。

 

つまり、和麻は口移しで綾乃に薬 を流し込んだのだった。

 

 

 

 

あとがき

流行語『フォ 〜〜〜〜〜〜!!!』

は〜い、どこからどう見てもレオ ンで〜す!

戦いは一時休戦に入りましたね。 煉のほうもいよいよ最終段階、いつ戦いに参戦するのか楽しみにしていてください!

そして、炎雷覇がカズの手に渡り ました。爆発的な力を発する炎雷覇は一体どうしたのか次回を待ってください。そして作者、悩んだ末、和麻に綾乃の救命措置をさせました。カズと和麻で悩ん でいたんですが原作どおり進めることにしたようです。セイセイセイ、もちろん後々一波乱を起すつもりらしいですから心配なく。

これからも・・・・・おっ、チャ ンス・・・・

よろしくフォ 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!

 

 


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