第1部   〜動き出す運命〜

 

 

 

 

第30話 甦った炎術師

 

 

・・・・・・・

 

「!?」

 

「気がついたみたいだね」

 

「えっ!?」

 

意識が戻り不意にかけられる声に 綾乃は声の主を捜したがその姿はない。

 

「ここがどこだか分るでしょ」

 

綾乃は周りを見渡す。

 

そうこの場所には覚えがあった。

 

「炎雷覇がいた場所・・・・・」

 

「正解」

 

「!?」

 

自分のすぐ後ろからかけられた声 に綾乃は慌てて後ろを振り向いた。

 

だがそこには誰もいない。自分の 聞き間違いではない。確かに後ろから声が聞こえてきたはずなのに・・・・・

 

「くっ!」

 

『なっ、何が!?』

 

その時綾乃の体に異変がおきた。

 

今まで綾乃の中にいた兵衛が綾乃 の体から弾き出されたのだ。

 

「こ、これはっ!?」

 

「考えが甘かったのがあなたの敗 因だ。兵衛」

 

兵衛は声の主を見て背筋が凍りつ いた。

 

その男は自分を見ていた。自分だ けを・・・・・

 

そして分った。その眼を見てし まったために・・・自分の運命を・・・・・・

 

自分はもうすぐ消される と・・・・・

 

「か、和樹・・・君・・・」

 

いつ、自分の横にきたのか、兵衛 の離れた時の衝撃で地面に座り込んでいる綾乃のすぐ横に和樹は立っていた。

 

そして和樹の眼は今まで見たこと がないほど冷たい目をしていた。

 

自分が今まで生きてきた中でこん な冷たく鋭い眼をした人は見たことがない。

 

「こんなにうまくいくとは考えも しませんでした。しかしあなたの予想は当たりましたね。和樹」

 

「え、炎雷覇!」

 

兵衛から少し離れた距離に1人の 女性・・・炎雷覇が立っていた。

 

だが綾乃が見たときの炎雷覇では ない。衣装には龍を思わせる鱗を重ねたような黒い鎧が身に着けられ、炎雷覇から感じる力は以前に見たときの比ではない。

 

「な、なぜ!?」

 

「ここは炎雷覇の部屋、肉体から 離れて魂だけがこの場に来ている状態だ。兵衛、あなたは綾乃ちゃんの体に入り込んでいただけであなたと一体化した風牙の長達と違い魂まで完全に綾乃ちゃん と一体化したわけではない。だから僕は考えたんだよ、魂だけの空間に来れば2人を離すことができるんじゃないかとね」

 

「ば、馬鹿なっ!?」

 

兵衛は予想外の事態に思考が完全 に停止し、目の前の和樹に心の底から恐怖を感じた。まだ16の少年であるはずなのに目の前にいる和樹は自分のはるか先に立つ存在に思えた。

 

和樹は右半身を前に刀を構える形 をとる。そして黒い炎が右腕を包み込むとその手には黒炎で形作られた炎の剣が握られていた。

 

「時間がないんだ。一撃で終わら せる」

 

「や、やめろっ! わしは悪くな い。神凪の奴らが・・・・・」

 

自分は悪くない。元々神凪の連中 が自分たち風牙を馬鹿にしてきたのが悪い。復讐されても文句の言えないことをしてきたのだ。

 

「確かに神凪にも罪はある。だけ ど風牙のやったことも許されることではない!」

 

和樹の手にさらに黒炎が召喚され 巨大な剣を形作った。

 

「うわぁぁぁぁっ!」

 

兵衛は叫びながら黒い風を放つ。 だがその風は全て黒炎に飲み込まれ消えていった。

 

「黒炎斬」

 

「うわああぁぁぁぁぁっ!!」

 

兵衛は黒炎の刃にその身を焼かれ 今度こそ消滅した。

 

「・・・・・・」

 

綾乃はその光景を唖然として見て いた。

 

自分が負けた相手である兵衛が和 樹を前には全くの無力であった。まるで大人と子供、下手したらそれ以上の違いである。

 

「あたし・・・・あたしはどうな るの・・・・・」

 

兵衛に心を乗っ取られていたとは 言え自分は和樹に向かって殺意を持って攻撃をした。

 

和樹がもし自分を攻撃してきたら 自分にはもう炎を操る力はない。例え炎が仕えたとしても和樹の攻撃を止めるすべなど自分にはない。

 

顔を上げると和樹と視線が合っ た。

 

それだけで綾乃は体が石のように 固まってしまった。

 

透き通るような和樹の瞳、そして 全身から流れ出ているオーラ・・・・・・

 

自分にないものを和樹は持ってい る。

 

それは父、重悟さえも凌駕するも のを・・・・・・

 

「これからどうする?」

 

「えっ?」

 

和樹の言葉が理解できず綾乃は答 えを返すことができなかった。

 

「綾乃ちゃんはこれからどうす る?」

 

「分らない・・・・」

 

自分はこれからどうしたらいいの か・・・・・炎を使う力を失って・・・・・そして何も分らなくなった。

 

自分が分らなくなった。

 

「・・・・・あたし・・・どうし たらいいの・・・・・もう・・・・・何も分らないよ・・・」

 

いつの間にか涙が目から溢れ出て いた。

 

・・・・・殺せ・・・・・

 

・・・・・えっ・・・・・

 

・・・・・殺せ・・・・・殺 す・・・・・

 

・・・・・なっ・・・・・

 

「うわああぁぁぁぁ!!」

 

自分の意思とは関係なく綾乃は黒 い闇の炎を和樹に向けて放った。

 

「ああああああああっ!!!」

 

綾乃は和樹へと一心不乱に突っ込 んでいく。自分が何で和樹に向けて炎を放っているかなんて全く分らない。

 

「なっ、何で・・・・やめ てぇっ!!」

 

和樹は我を忘れた綾乃の拳を、体 をそらしてかわす。同時に綾乃の手首をつかみ関節技を使いそのまま体の自由を奪った。

 

「綾乃ちゃん落ち着いて!」

 

「あ、あたし・・・・・」

 

「まだ綾乃ちゃんの中に兵衛が残 していった妖魔の影響が残っているんだ。強く意思を持つんだ。そうしないと妖魔が綾乃ちゃんの体を乗っ取ろうとする」

 

・・・殺せ・・・

 

「止めて・・・」

 

・・・殺す・・・・

 

「あたしに話しかけないで!!」

 

「つっ!!」

 

綾乃の体が闇の炎に包み込まれ る。予想以上の強さに和樹は後ろへと飛び退いた。

 

「綾乃!」

 

「手を出すな!」

 

炎雷覇が綾乃を止めに入ろうとし たが和樹がそれを一喝して止めた。

 

「綾乃ちゃん、妖魔に心を奪われ ては駄目だ」

 

和樹は黄金の炎を両手に召喚する と頭を抱え錯乱している綾乃の手首をつかんだ。

 

「落ち着くんだ。兄さんに言った んだろ、『妖魔と契約するなんて精霊術師として、してはいけないことだ』って」

 

「!?」

 

和樹の言葉に綾乃の動きが鈍くな る。

 

「それなら何で妖魔の力を使って いるんだ」

 

『あんたはやっちゃいけないこと をしたのよ!』自分が和麻に向けて言った言葉が頭を過ぎる。

 

「思い出すんだ。炎の精霊達の声 を・・・今までともに戦ってきた精霊達が呼ぶ声を!」

 

綾乃の目からは涙が流れ続けてい る。

 

力が欲しいと思った。和麻や和樹 に・・・・自分の強さを認めさせるために・・・・

 

だが、炎術師としての力を自分は 失ってしまった。

 

どうしたらいいのか分らずにいた ら、頭の中に声が響いた。

 

『使え・・・力をつか め・・・・』

 

その力を自分は受け入れてしまっ た。

 

その力は自分に強い力を与えてく れた。

 

囁かれた全てを受け入れて自分は 強くなった。周りから認められると思った・・・・・・

 

だが、違っていた。

 

手にした力は、自分が本当に欲し かった力ではなかった。

 

そして周りはそんな自分を認めよ うとしなかった。

 

だがそれは当たり前だ。その力を 自分も認めていないし、今までその力と自分は戦ってきたのだから・・・・

 

「分らない・・・・・・何も分ら ないよ・・・・・・うわぁぁぁぁっっ!!」

 

綾乃はところ構わず闇の炎を放ち 続ける。

 

「綾乃ちゃん!」

 

「うるさい! あたしの気持ちな んて知らないくせに!」

 

自分を呼ぶ和樹の声もさえぎり綾 乃は何かに怒りをぶつけるかのように炎を放つ。

 

「炎術師の力を失ったあたしの気 持ちなんか・・・・何も失ったことのない和樹君に何が分るの!!?」

 

自分よりはるかに強い力を持ち、 強い心を持ち、周りからも信頼され、父重悟からも認められている和樹。

 

数日前に再会してから自分が見て きた和樹は何をやっても完璧だった。自分よりもはるか先をいつも歩いていて背中が見えない。

 

「あたしは生まれてからずっと宗 主の娘、次期宗主って言われて生きてきたのよ。その全てを失った辛さが分るの!? あたしがどれだけ辛い思いをしてきたのかわかっているの!?」

 

「・・・・・・だから?」

 

「えっ!?」

 

「だから、それがどうしたの?  もしかして自分だけが辛い人生を贈ってきたなんて思っているんじゃないよね?」

 

和樹の返答に綾乃は何を言ったら いいのかわからなくなる。

 

「この世に特別な人なんていな い。生きているなら誰だって辛いことや苦しいことを経験しているんだ。それに上も下も関係ない」

 

「うっ・・・」

 

「苦しんで苦しみ続けている時間 には必ず意味がある、そしてその苦しみはどこかで必ず自分の力になって表に出てくる。今の兄さんのように・・・・・4年前、綾乃ちゃんに負けて厳馬おじさ んから自分が築き上げてきたもの全てを否定された・・・・・それでも兄さんはそのことを誰にも言ったりしない。自分だけが辛さや苦しみを感じているんじゃ ないってそのことをわかっているから」

 

「!?」

 

和樹の姿が綾乃の前から一瞬にし て消える。

 

「綾乃ちゃんの辛さ、苦しさは僕 には分らない」

 

「くっ!」

 

「でも、僕や千早、兄さんや他に も苦しんでいる人達の辛さや苦しさを綾乃ちゃんも知らない。違う?」

 

「は、放し・・・な、なんで・」

 

「無駄だよ」

 

綾乃は闇の炎を纏おうとしたが炎 が全く反応しない。何度呼び出そうとしてもまるで精霊がそれを拒んでいるかのように・・・・・

 

「僕が綾乃ちゃんをつかんでいる 限り召喚しようとする闇の炎は全て浄化される。黄金の炎を召喚しない限り僕の攻撃も受け止めることも攻撃することもできない」

 

「そ、そんなわけ!!」

 

綾乃は力任せに暴れ和樹から放れ ると闇の炎を放った。

 

「それじゃ僕には届かない」

 

かざされた右手には黄金の炎が召 喚され闇の炎を飲み込み浄化した。そのまま黄金の炎は綾乃へと向かって飛んでいく。

 

綾乃は闇の炎を召喚して黄金の炎 を止めようとする。向かってくる黄金の炎を闇の炎をぶつけて相殺しようとする。

 

「無理だよ」

 

ビシュッ! バシュッツ!

 

「うっ!」

 

和樹が軽く手を振っただけで綾乃 の身体を黄金の炎が高速で通り過ぎていく。表面の皮膚を紙一枚分だけ切り裂いていったのか血はまったく流れていない。

 

「分っているはずだよ。黄金の 炎・・・浄化の炎は闇の炎を浄化してしまう。闇の力のほうが強ければそれも変わるけど僕の炎の強さは分っているはずだ」

 

「きゃっ!」

 

闇の炎は和樹の黄金の炎の前には あってないような壁である。一つも黄金の炎を止めることができない。

 

「これが・・・最後だ」

 

和樹は今まで以上に黄金の炎を召 喚する。

 

「今から放つ僕の炎を止めるん だ。闇の炎じゃなく黄金の炎を召喚して、今まで一緒に戦ってきた炎の精霊の力を借りて止めるんだ」

 

「む、無理よ・・・・」

 

止められるわけがない。

 

和樹の黄金の炎は高濃度に圧縮さ れ、父重悟の紫炎に負けないほどの圧力を放っている。

 

今すぐにでもこの場から逃げ出し たい。綾乃は心のそこからそう思った。

 

和樹はとても自分が相手にできる 相手ではない。今まで築き上げてきたものが違いすぎる。

 

だが目の前にある壁は自分に逃げ 道を与えようとしない。迫ってくる圧倒的力に綾乃は全てを諦めようと思った。

 

「無理なんかじゃない」

 

「えっ?」

 

「でも綾乃ちゃんが無理だと思っ て諦めたらそれで終わりだ」

 

「あたしが諦めた ら・・・・・・」

 

「僕は君がこのまま駄目になって いくのを黙ってみていることができない」

 

綾乃は和樹の目を見てそのまま目 を離せなくなった。

 

曇りなき眼、自分だけを見ている その眼、そして和樹の心が自分の心の中に入ってくるように感じた。

 

その目を見ていると自分の内側に ある闇の心が消えていくかのように・・・・・心地よかった。

 

「あ、あたし・・・・・どうした らいいの?」

 

「諦めないんだ。そして最後まで 精霊達に呼びかけるんだ」

 

「あたしに・・・・・答えてくれ るの? 精霊達は・・・こんなあたしに・・・・・・」

 

自分は精霊達の加護を失った。

 

炎雷覇に炎術師としての力を消さ れ、闇の力にまで手を染めた。

 

いや自分で手放したと言ってもい い。

 

そんな自分に今更精霊達 が・・・・自分の呼びかけに精霊達が答えてくれるのだろうか?

 

「何もできないって言って、何も しなかったら、もっと何もできない。何も変わらない、何もつかみ取ることができない」

 

「・・・・・・」

 

「僕は精霊じゃないから答えなん て出せない。精霊達のことは精霊達にしか分らない。僕が言えるのはここまでだ」

 

自分へとかざされる和樹の右手、 その手には精霊達が次々に集う。

 

(『何もできないって言って、何 もしなかったら、もっと何もできない。何も変わらない、何もつかみ取ることができない』)

 

綾乃の頭の中で和樹の言葉が繰り 返される。

 

(あたしが変わらなくちゃ、あた しが諦めていたら何も変わらない!)

 

綾乃の中で心の変化が起きる。

 

絶望の淵にいた自分に小さな光が 差し込んできた。

 

『僕は君がこのまま駄目になって いくのを黙って見ていることができない』

 

自分のことを和樹は見捨ててなん ていない。自分のことを心配して、立ち直るきっかけを作ろうとしてくれている。

 

そして、自分を助けるために和樹 に時間をくれた和麻達も・・・・・・

 

ならその機会を自分は絶対に逃し てはいけない。

 

みんなが作ってくれた機会を自分 から消してしまってはいけない。

 

その思いを裏切ってはいけない。

 

(・・・・・お願い・・・あたし の声に答えて・・・・・)

 

精霊達に心の中で呼びかける。

 

(お願い、こんなあたしだけど機 会を頂戴。許して何て言わない、あたしがしたことは許されることじゃないのはよく分っている。それでもあたしは・・・・ここで諦めることはできないの。あ たしを支えてくれる人達のために・・・・・何よりあたしがこのまま終わりたくないの!)

 

プライドなんて棄てた。綾乃は自 分の心を裸にして精霊達に自分の思いを精一杯ぶつける。

 

(お願い、あたしにもう一度だけ チャンスを頂戴! あたしにしかできないことを、あたしがしなくちゃいけないことをするために!)

 

「はぁっ!」

 

和樹の手から黄金の炎が放たれ た。まるで大津波が自分に迫ってくるかのように感じさえするほど巨大な力だ。

 

(お願い、あたしに答えて!)

 

綾乃が願ったその瞬間、目の前に 迫っていた炎に変化が起きる。

 

綾乃へと向かう速度が落ち、さら に球体の形を崩し綾乃に届いたときには霧のように四散してしまった。

 

そして四散した炎は綾乃を包み込 むように周囲を囲む。

 

(消えていく・・・・・)

 

綾乃の体の中から何かが飛び出し た。

 

それは黒い霧状のもの、そしてそ れが自分の中に残っていた闇の断片だと言うことにはすぐに気がついた。

 

そして闇は綾乃を包み込んでいた 黄金の炎が飲み込み消滅していった。

 

それは同時に綾乃に炎の精霊の加 護が戻ったという証でもあった。

 

(精霊達が声をかけてくれてい る・・・・・力が戻った・・・・・ありがとう)

 

綾乃は心の底から精霊達に感謝し た。

 

こんな自分に精霊達はまた力を貸 してくれるということに胸がいっぱいになった。

 

「・・・・・あっ・・・ れっ・・・?」

 

次の瞬間、体がふらついた。バラ ンスを取ろうと足に力を入れようとするが、足だけでなく体中の力が抜けてまるで人形にでもなってしまったのかと感じた。

 

目の前に迫る地面、手を突こうに も腕も手も動かない。

 

だが地面とのキスは回避された。

 

地面に倒れる前に自分の体を誰か が支えてくれたのだ。

 

「ご苦労様」

 

「・・・和樹君」

 

和樹は綾乃を支え地面へと座らせ た。綾乃は緊張の糸が完全に切れ体中の力が完全に抜けた。

 

「うまくいったみたいだね」

 

「おかげさまで・・・・・」

 

優しい声で自分に笑みを浮かべて くる和樹に綾乃はものすごい安心感を覚えた。まるで父重悟に護られているかのように・・・・・

 

「疲れているところ悪いけど、す ぐ元の世界に戻るよ」

 

「えっ!?」

 

「兄さんが聖痕を発動させた状態 で無理をし続ければ僕が戻っても神を倒す方法がなくなる。兄さんが倒されたら残っている可能性がゼロになるんだ」

 

「こ、この状態で!? 和樹君 だって!!」

 

和樹も自分も戦える状態ではな い。

 

和樹は普通にしているがそれは自 分の魔力を体に流し少しずつ回復させながら無理矢理体を動かしている状態なのだ。

 

そんな状態にもかかわらず綾乃の 力を取り戻させるために力を使ってしまったのだ。

 

綾乃は力を戻すのに自分の力を全 て使ってしまい、肉体的にも精神的にも限界に近い。

 

本来なら2人とも病院のベットで 絶対安静を言い渡されている状態である。

 

「まあね。正直少し動くだけでも 辛いんだよね」

 

「ならどうして?」

 

「僕にしかできないことだか ら・・・・だから戦わなくちゃいけないんだよ。そしてこれは自分で決めたことだからね。途中で逃げ出すことはできない」

 

(つ、強い・・・・・)

 

和樹の心の強さ・・・・・

 

それは一体どこから来ているの か・・・・・

 

限界に近いのに和樹の目はまだ死 んでいない。

 

本気で神を倒すことを考えている 目だ。

 

(あたしに足りないの は・・・・・これなのね・・・・・)

 

自分の誓ったことを曲げない強い 心。

 

常に自分の考えを持ち、周りから 何を言われようとも折れない心。

 

和樹にあって、自分に無いも の・・・・・

 

今綾乃はそれを本当の意味で知っ たのだ。

 

「行くよ。次が本当に最後だ」

 

綾乃は迷いなく頷いた。

 

自分もここにくる前に誓ったの だ。

 

かなりの寄道をしてしまったがも う心は決まった。

 

「和樹」

 

「炎雷覇」

 

「あなたに会いたいとおっしゃっ ているお方がいます」

 

「僕に?」

 

ここは炎雷覇の部屋、ここに来る ことができる存在はおのずと限られてくる。

 

自分達のように炎雷覇に連れられ てきたか、同じ精霊王の下につくもの、そして精霊王達・・・・・・

 

「な、何よ、あれ!」

 

いきなり和樹達の目の前に黄金の 玉座が出現する。眩いばかりの黄金の炎に光はまさしく浄化の炎であった。

 

(この感覚は・・・・・・)

 

体の覚えている感覚。忘れもしな いあの時の経験。

 

一度その姿を見たら決して忘れる ことはできないだろう。

 

人の持てる力を超えた力、全てを 焼き尽くす最強の炎を自分に与えた超越者。

 

玉座から感じる気配はあの時のも のではないがその力は同じ超越者しか放つことのできない力である。

 

「・・・・・炎の精霊 王・・・・・」

 

「せっ、精霊王!!」

 

和樹の言葉に声を張り上げて綾乃 は叫んだ。

 

次の瞬間、誰もいない玉座に炎が 集まり始める。その炎は次第に人の形をつくり始め最終的に人の形を作り上げた。

 

燃えるような真紅の長い髪、頭に つけているのはかんざしだろうか髪を別けるように2つの簪が付けられている。

 

赤と黒の着物を重ね着し、大袖、 手甲、弦走、膝鎧など部分的に鎧を身に着けているが最小限にとどめ動きやすさを追及している衣装で腰には60〜70センチほどの脇差が差してある。

 

「・・・・・・・・」

 

「・・・・・・・・」

 

2つの視線が合わさる。無言で佇 む二人を見て綾乃はその間で言葉の無い視線だけの会話が交わされように思えた。その横では膝をつき炎雷覇が頭を下げていた。

 

「お前が式森和樹か」

 

「そうです」

 

「なるほど、良い眼をしている」

 

声からして男だろうか、顔を見る 限り男にも女にも見て取れる。ただ言える事はどちらにしても美形だと言うことだ。

 

「お初にお眼にかける、我は炎の 精霊の上に立つ者。会えて嬉しく思う、黒き炎の契約者、そして無限の魔力を持つ選ばれし者、式森和樹」

 

「いえ、僕のほうこそ」

 

「・・・・・・炎の精霊 王・・・・・・ん? 契約者・・・・・・えっ? えええええええええぇぇぇぇぇっっ!!?」

 

綾乃は精霊王を見て声を失い、次 に和樹を見て驚いた。

 

精霊王は和樹が返事を聞き玉座か ら立ち上がり3人の前へと歩みを進めた。

 

「いきなりそなたらの前に姿を現 し驚かせてしまったようだな。しかし、神凪の娘御よ。黒炎の契約者に助けられてではあるが炎術師としての力を取り戻したことに賞賛を送っておこう。まさ か、力を取り戻すなどとは天地がひっくり返ろうと有りえないことだと思っても見なかったからな」

 

「いっ、いえ・・・・・・って、 なんかすっごく馬鹿にされているように聞こえるんだけど」

 

「気にするな。我は気にしない」

 

「それあんたが言う台詞じゃな い!! って、どこぞのクローンキャラかあんたは!」

 

精霊王相手に怒鳴り散らす綾乃を 見ながら和樹は『また力消されたりしないよな』と心配になった。

 

「それで、あなたはここに何をし に着たんですか? この状況で僕らの前に姿を見せると言うことは何か考えを持ってのことでしょう?」

 

「さすが黒炎の契約者、話が分る な」

 

「風牙神を倒す方法の伝授、又は 倒すための力を持ってきた。綾乃ちゃんと契約するためとは思えない。力を失わせていた綾乃ちゃんと契約することはないですからね。僕は既に黒炎の精霊王と 契約をしているから僕との契約も無い。ならおのずときた理由は最初の2つになる」

 

「まるで心を読んでいるかのよう だな。あの黒炎の精霊王が契約をした理由が分るような気がする。そなたの言ったとおり我がここに着た理由は風牙神のことだ。炎雷覇」

 

「はっ!」

 

精霊王に呼ばれ炎雷覇は王の前に 出て膝をついた。

 

「そなたには再び神凪綾乃と契約 をしてもらう」

 

「は、はいっ!」

 

「なに、嫌になればこの戦いの終 わった後に他の術者にそなたと契約をさせるから安心せい。神凪煉の辺りがよいかのあ奴は我から見ても将来が楽しみな奴だからな」

 

「なら喜んで!!」

 

「ちょっと何言ってるの よ!!?」

 

(ああ〜、可哀想な綾乃ちゃ ん・・・・)

 

「和樹君はそんな哀れみの目であ たしを見ない!!」

 

こいつら皆敵だと綾乃はこのとき 思った。

 

「まあ、このことは後で考えるこ とにしよう」

 

「考えなくていい!!!」

 

放っておいたら本当に炎雷覇を煉 に取られそうである。

 

「炎雷覇には綾乃と契約してもら う。そして、我が手にしている炎を召喚してもらう」

 

「手にしている炎とは?」

 

「なにを召喚するのよ!?」

 

「我ら精霊王の中でもその上に立 つ精霊王が2人おる。1人は式森和樹の契約した黒炎の精霊王、そして・・・・・・」

 

「あいつと契約した・・・・・・ 白炎の精霊王・・・・・」

 

精霊王が自分を見たのに気がつい たのか和樹は言葉をつなぐように精霊王の続きを言った。

 

「我は双方から黒炎と白炎の欠片 をもらっておる。和樹、そなたの黒炎と我が持っているこの白炎、この2つの炎を使えば風牙神といえでも対抗するすべはない」

 

「僕が黒炎を、綾乃ちゃんと炎雷 覇が白炎を召喚し風牙神を倒すか・・・・・・」

 

「それしか方法はない。そなたが 黒炎を召喚しても風牙神を消し去るほどの力を召喚するのはまだ無理がある。だがその足りない部分を補うのに我が炎雷覇と綾乃に力を与え、白炎を使えば風牙 神を倒すだけの力をこの世に召喚することも可能となる。契約者である、そなたに神殺しの汚名を着せてしまうがそれは我を含め精霊王達が責任を持ってそなた のことを護ると約束しよう」

 

「元からその覚悟を持って僕は戦 いに望んだんだ。神殺しの汚名を着る覚悟はここに来る前から持っている。余計な心配は要らない」

 

和樹と和麻は風牙神に最終的に止 めを刺すことになるのは自分達になるとここに来る前から思っていた。その覚悟は既に持っているため今更気にも留めない。

 

「すまぬな、黒炎の契約者。炎雷 覇、綾乃、契約を交わすが良い。そして白炎を受け取るのだ」

 

「はい」

 

「わかったわ」

 

炎雷覇は和樹の魔法具によって付 けられていた鎧を外す。

 

鎧は一つの光に収まると和樹の手 に収まり黒い短刀となった。

 

そして炎雷覇の姿も緋色の剣へと 変わり綾乃の前に降り立つ。

 

「さあ、神凪綾乃よ、炎雷覇を手 に取れ。手にしたら炎雷覇は再びそなたを主として契約される」

 

綾乃は目の前にある炎雷覇を見 る。一度は自分から放れた炎雷覇。今度こそ心を一つにし、その力を引き出さなければならない。

 

『何もできないって言って、何も しなかったら、もっと何もできない。何も変わらない、何もつかみ取ることができない』

 

(・・・・・・あたしは前に進ま なくちゃいけない)

 

和樹に言われた言葉を胸に秘め炎 雷覇を手に取る。

 

「今度こそ本当のあなたの力を引 き出してみせる!」

 

炎雷覇を綾乃が手にした瞬間、和 樹が炎雷覇を手にしたように綾乃の周りが炎に包まれる。

 

それは綾乃と炎雷覇が本当に力を 共鳴したと言う証であった。

 

「・・・どうやら契約をかわせた ようだな。それならばこの炎を受け取るがいい」

 

精霊王の手から白い白銀に光る白 炎の炎が放たれる。白炎は綾乃と炎雷覇を包み込むように周囲を旋回しながらそれぞれに収まっていった。

 

「これで炎雷覇を媒介に白炎を召 喚することができる」

 

「何も変わったような感じがしな いんだけどな・・・・・」

 

自分に白炎を召喚する力がついた のか、力は確かに上がったような気はするが体に特に変化は現れないため自覚することが難しい。

 

「よいな、チャンスは一度きり だ。白炎を召喚し直接風牙神にその刃を突き立てて消滅させるのだ」

 

「刃を突き刺すって・・・・・そ れってかなり難しいことじゃないの・・・・・」

 

「でもそれ以外方法が無い。僕が 黒炎を放ち動きが止めた瞬間、それを逃さずに白炎で神を消滅させる。できるね」

 

「やるしかないんでしょ。なら何 としてもやってやるわよ。ここまできたら後になんて下がる気無いわ」

 

「我からの最後の手土産だ」

 

精霊王は小さな黄金の炎を召喚す るとそれを和樹と綾乃へと放った。

 

炎は2人の体につくと体全体を包 み込み、2人の体の傷を全て消し去った。

 

「式森和樹、この炎を今戦ってお る。風の精霊王との契約者、八神和麻達にも与えるんだ。そして必ずや風牙神を必ず倒すのだ」

 

「分りました」

 

「さあ、行くがいい!」

 

精霊王の叫びとともに辺りが光に 包まれた。

 

 

 

 

 

 

 

「はぁっ!」

 

「舐めるな!」

 

刀同士がぶつかり合い激しい火花 が散る。

 

レオンと饕餮の戦いは平行線をた どりお互いに体力を減らしていくだけであった。

 

「一体誰の手でこの世に甦ったん だ!」

 

レオンは饕餮の言ったとおり二千 年以上前に戦いそして饕餮を破り京都の地へ葬った。

 

だがその時完全に止めを刺したと は言えずその上から四神を使い封印をした。

 

その封印は神と同等の力を持つ者 でなければ解けぬほど強力なもの。

 

それこそ和樹や和麻のようなコン トラクターでなければ逆にその結界に引きずり込まれかねないほどの危険なものでもあった。

 

「私の張った結界は私が死のうと 時がどれだけ流れようとも未来永劫解けること叶わぬ結界だった。なのになぜお前は出て来れた?」

 

「奴が結界をといてくれたのだ。 白炎の精霊王と契約した奴がな!」

 

「!?」

 

白炎のコントラク ター・・・・・・

 

この世で唯一和樹の黒炎と真っ向 からぶつかりあえる力の持ち主。

 

その相手をレオンは知っていた。 その人物と自分は会った。それもつい最近のことだ。

 

そしてその力を自分は目の前で見 た。

 

二度と見たくない光景だ。

 

黒い雲に覆われた空、荒れる海、 鳴り響く雷の中、怒りに身を任せ黒炎を暴走させる和樹、ただ相手を殺すことだけに力を向けた和樹と戦った白炎の契約者。

 

そしてその戦いで散っていった 命・・・・・・

 

そして白炎の契約者と和樹の共通 点・・・・・・

 

「あいつが!?」

 

「そして奴の世界は我の望む世界 と重なる所がある。だから奴に我は力を貸す事にした」

 

「それじゃ、風牙に力を貸したの も?」

 

「奴だ。そして諸懐、馬腹、褐 狙、蠱雕を甦らせ神凪を襲わせた。風牙衆に力を貸し、神凪を滅ぼそうとしたのは奴にとっては仮の目的、真の目的は風牙神の力、そして式森和樹」

 

「!?」

 

「この戦いに関わった時点で風牙 衆も貴様らも奴のしいた運命の道を進んでいたのよ!」

 

「不味い、和樹!」

 

「行かせん!」

 

饕餮は和樹の下に向かおうとする レオンの前に闇の炎を放つ。

 

「奴が黒炎を使い神の力を弱める まで貴様は我から逃れることはできん!」

 

「くそっ!」

 

饕餮を前にレオンはまだ全力を出 していない。いや、だせないのだ。

 

以前に饕餮を相手にした時はあ り、今の自分にはない決定的な力が・・・・・・

 

そして、次の瞬間前触れもなく空 が黒い雲に覆われた。

 

「ついに着たか」

 

「・・・・・・」

 

黒い雲に覆われた空、そして自分 達の戦っている場から離れた所に集まる黒炎の精霊達。

 

天と地をも焼きつくさんばかりの 凄まじい炎の渦が空に向かって渦巻いていた。

 

その炎を召喚することができるの はこの世でただ一人。

 

「和樹、お前は分っていても使う のか・・・・・・」

 

おそらく和樹は知っているはず だ。この騒動の裏にいる人物を・・・・・・

 

それでも自分の身を危険にさらし ながら戦っている。

 

「時間がない」

 

レオンは饕餮と再び向き合う。

 

自分も止まるわけにはいかない。 あのとき自分は決めたのだ。和樹を支えると・・・・

 

「悪いがお前はここまでだ・・・ 饕餮!」

 

「その言葉、そのまま返す!」

 

再び両者は力をぶつけ合う。

 

二千年以上前に戦ったときにつか なかった決着をつけるために・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

「ちっ!」

 

カイは2体の妖魔を相手に互角の 戦いを続けていた。

 

馬腹、褐狙はそんな戦いに苛立ち を覚えてきている。

 

向こうは1人、こっちは2体で攻 めているのに決定的なダメージを与えることができずに徐々に攻撃をかわされていた。

 

(やっぱりこのままの姿じゃ、こ れが限界か)

 

戦いながらカイは今の姿のまま戦 うことの限界を感じていた。

 

馬腹、褐狙どちらか一方の妖魔を 相手なら今の姿のままでも十分に倒すことはできる。

 

どちらも確かに普通の妖魔から見 たらずば抜けて強い。普通なら2体を同時に相手にすることなどありえないだろう。

 

こんなことができるのは和樹レベ ルの術者位。カイが思いつく者は和樹を含めて多く考えても2ケタ行かない。

 

自分自身、まだ馬腹、褐狙が表に 出てきて間がないから相手にできることであって、もし2体が全力であったならば分らなくなっていただろう。

 

(レオンは饕餮を相手にいっぱい いっぱいか・・・・・・)

 

自分たちから少しはなれた場では 2つの力が激しくぶつかり合っている。

 

どちらも同等の力、当分戦いが終 わることはないだろう。2人ともまだ力を出し切っていないがそれでも目の前にいる馬腹、褐狙をはるかに超える力である。

 

(俺が行くしかないか)

 

次の瞬間カイの動きがさらにすば やさを増し、馬腹、褐狙の攻撃をかわし銀色の糸を2体の足へと絡めて引き裂いた。

 

『おのれ!』

 

傷つきながらも馬腹はカイへと襲 い掛かりカイの身体を捕らえる。

 

『これで終わりだ!』

 

カイはそのまま地面へと叩きつけ られさらに2体から無数の妖気の風の刃をその身に受ける。

 

カイの姿が煙に包まれてもなお2 体の攻撃は止まずに続いた。

 

『バラバラで形も失ったな』

 

『我らを甘く見たな。地獄の番犬 も所詮こんなものよ』

 

カイの力を感じなくなり馬腹、褐 狙は自分達の勝ちに酔いしれる。

 

そして風牙神のいる場に向かおう としてその場から離れようとした。

 

「・・・地獄の番犬がなんだっ て・・・・・」

 

『!?』

 

煙の中から聞こえてくる声に馬 腹、褐狙は全身を寒気に襲われた。

 

「そんなに見たければ見ればい い・・・・・・地獄の番犬ケルベロスの姿をな」

 

次の瞬間、爆発が起きた。

 

ガアアア アァァァァァァァァァァ!!!

 

大地を揺るがす雄叫び、辺りは竜 巻の中に入ったかのように空に向かい渦を巻き、何かに引きずり込まれ押しつぶされてしまうような巨大な力が辺りを支配する。

 

その力は2体の妖魔の力をはるか に超える力。

 

ズゥゥッ!

 

「この姿になったからにはもう容 赦はしないからな」

 

煙の中から現れた姿は人の姿では なかった。

 

三つの頭、蛇の鬣と尾を持つ地獄 の番犬・・・ケルベロスの姿であった。

 

「この姿になるのはこの世界では 三度目だ。和樹と会ったとき千早達が攫われたとき、そしてこれが三度目だ」

 

カイは巨大な体をゆっくりと動か す。そのたびに空気に強い力が流れ大地がゆれる。

 

「ふぅぅ・・・・・・さてと、悪 いがお前らの相手はもう終わりだ。俺は和樹のところに早くいかなくちゃいけないんだ」

 

『何?』

 

カイは背中に翼を生やし羽ばたか せその巨体を宙へと躍らせる。

 

「まずお前だ」

 

2体とも何が起きたのか分らな かった。

 

気がついたら横にいたはずの相手 がいなかった。一体は地へ叩きつけられ、もう一体はカイがいた場所を見つめていた。

 

ボキッ・・・バキッ!

 

『グオォォォッ!!』

 

口から血を吐き出しながら悲鳴を 上げるのは・・・・・両前足を引き千切られ、仰向けの状態でカイに押さえつけられている馬腹であった。

 

ピシッ・・・

 

『なっ!?』

 

馬腹は体が徐々に動かなくなり石 化していることに気がついた。

 

「俺と目を合わせたのが間違い だったな」

 

『ばっ・・・か・・・』

 

馬腹は言葉を発することなく石化 しそのまま動かなくなってしまう。

 

石化した馬腹に向かってカイは前 足を振り下ろしその身体を粉々に砕いた。

 

「次・・・」

 

『くっ!』

 

褐狙は向かってくるカイの動きを 見切ろうとする。だがその姿を捉えることはできない。

 

「見せてやるよ、地獄の舞踏会」

 

風を切る音だけが辺りに響き渡る だけでカイの姿を捉えることはできない。

 

ただ確実に褐狙の体に異変が現れ ている。まるで空中を舞い続けるかのように褐狙の体が見えない何かに攻撃を受け身体が傷つけられていく。

 

逃げ出そうにもまるで壁ができた かのように一定の場所にと留まらされているのか地面に下りることも、地面に落ちていくこともできない。

 

『こ、こんなこと が・・・・・・』

 

信じられない。

 

自分達が全く手も足もでない。

 

確かに目覚めて日が短い自分達で はあるがここまで一方的にやられるとは想定外である。

自分達に勝てる者などこの世界で 捜すのは困難である。

 

だが自分達に勝てる相手が今ここ にいた。

 

地獄の番犬ケルベロス。

 

その力は自分達のリーダー格にい る饕餮に匹敵するであろう。

 

だがその力がここまでと は・・・・・・自分達との力の差がここまであるとは思いもよらなかった。

 

「最後だ、獄炎」

 

燃え盛る地獄の炎、獄炎。その炎 を浴びたものは地獄へと落ちる炎。

 

褐狙が見た光景はカイから放たれ る獄炎の巨大な球体。

 

褐狙の身体は獄炎に焼かれ塵一つ 残らずこの世から消えていった。

 

「・・・・・・」

 

カイはゆっくりと地上へと降り立 つ。

 

「黒炎の気配・・・・・・和樹 か?」

 

レオンと饕餮の戦っている場所、 自分達の戦っていた場所から離れた場所から黒炎の精霊の気配が大きくなる。

 

天と地をも焼きつくさんばかりの 凄まじい炎の渦が空に向かって渦巻き、空が厚い雲に覆われ辺りが暗くなる。

 

「レオン、先に行くぞ」

 

念話でレオンに伝えると返事を待 たず、カイは空へと巨体を泳がせた。

 

そして風を斬り裂き和樹の下へと 急いだ。

 

 

 

 

あとがき

「どうもレオンで〜す。今回は久 々にゲストが着ていま〜す。それでは登場してくださ〜い」

「お久しぶりです。神凪煉です」

「煉は前に比べてかなりパワー アップしたよね。カズから魔法具までもらっちゃうし」

「もう嬉しくてしょうがないで す!!」

「でも何で鎖にしたわけ?」

「設定上そうなったんです。でも これからまだ色々と作者考えているみたいですから期待していてください」

「さてついに話も終わりに近づい てきました。これからどうなるのか」

「僕もがんばります」

「それでは「まったね!!」」


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