第1部   〜動き出す運命〜

 

 

 

 

第31話 神の最後

 

 

和麻は神に向かって休む間もなく 攻撃を続ける。隙を作ってしまったら神の攻撃を受ける。

 

そうなれば自分達が不利になるの は目に見えていたからだ。

 

「螺旋風刃拳」

 

風の刃が回転しながら神へと放た れる。鎌鼬の強化版である螺旋風刃拳は刃を回転させ攻撃力を上げている。

 

風魂に比べたら弱いが聖痕を発動 させその威力は上級クラスの妖魔でも数発受けたら葬ることが可能なほどの威力である。

 

回転する刃が四方八方から神へと 襲い掛かる。

 

「氷霞」

 

千早も和麻に合わせて氷柱を高速 で打ち出す。

 

煉も炎を召喚し二人を援護する。

 

「無駄なことを!!」

 

風牙神は己の体を軸に体を回転さ せ始める。すると体の回転に合わせて黒い風が渦を巻き始め巨大な竜巻となった。

 

3人の放った攻撃は風の渦に飲み 込まれるか、高速回転する駒にぶつかったもののように弾かれて神に届く前に消滅させられる。

 

(俺の爆風障壁と違って防御だけ じゃなく相手の攻撃にも影響を与えてやがる)

 

下手に風の渦に突っ込んでいった ら人間などミンチになってしまうだろう。風の渦を止めるにはそれ以上の回転の掛かった風の渦をぶつけなければならない。

 

駒同士をぶつけ合う時に相手の駒 を飛ばすのに相手以上の回転を必要とすることと一緒である。

 

「なっ!?」

 

風の渦の中から突然襲ってきた風 の刃を和麻はギリギリでさける。

 

(あんな高速で回転している渦の 中から攻撃できるのかよ)

 

体を捻らせてさけるか風を召喚し て弾き和麻は渦の中から飛んでくる風の刃をさせる。

 

(和樹はまだか!?)

 

和樹の方へと目をやるがまだ和樹 は膝をついたまま動かず、綾乃も起きる気配がない。

 

「よそ見している余裕があるの か!!?」

 

「!? しまっ・・・」

 

ドゴッ・・・・

 

「ぐあっ・・・あっ!」

 

「人間ごときが良い気になりおっ て!!」

 

ガッ!

 

ほんの一瞬である。和樹に目を向 けたのはコンマ何秒の世界である。

 

その一瞬の間に神は和麻の前に移 動し腹部へ拳を打ち抜きさらに手をハンマーのように振り下ろした。

 

その力は和麻の身体が地面へと叩 きつけられたまま地面へと体が沈むほどの威力である。

 

「このっ! 氷刃槍」

 

雪姫を地面へと突き刺し氷柱を空 に向かって出現させ神の身体を氷付けへと・・・・・・

 

「無駄だと言っているだろう が!!」

 

パアァァッン!!

 

「あああっ!」

 

神は氷の柱を真っ二つに割り外へ と飛び出す。技を放った千早は自ら作り出した氷の柱に叩きつけられてしまう。

 

「いけっ!」

 

神へと向かって四方八方から炎の 羽が襲い掛かる。

 

だが荒れ狂う黒い風に全て弾かれ 煉も吹き荒れる風の渦に耐えられなくなり弾き飛ばされた。

 

「うわぁぁっ!」

 

「煉!」

 

和麻が吹き飛ばされる煉の腕をつ かみ自分の方へと引き寄せ姿勢を低くさせる。身体をふらつかせながらも和麻は風を召喚して壁を作っている。

 

「ちっ、時間が経つごとに力が上 がってやがる。流也の体に馴染んできてるからか?」

 

和麻は最初に自分達の前に現れた 時よりも風牙神の動きが明らかによくなっていることを感じていた。

 

流也の体を手に入れ同化してから 時間が経つごとにその体との一体感が強くなっているのか、技の威力、スピード、パワー、流れ出る圧力が上がっていた。

 

「でも負けるかよ」

 

和麻は背中に風の翼を出現させる と風牙神の風を押し戻し始める。

 

「力勝負か? ならその力ごと貴 様の全てを押しつぶしてくれる!」

 

「くっ! ぐあぁっ!!」

 

蒼い風と黒い風が渦となってぶつ かり合う。だがその力の差は神のほうが有利であることは覆せず押されてしまう。

 

「お兄ちゃん!」

 

「兄様!」

 

その横から水の渦、さらに黄金と 蒼い炎が和麻を援護する。

 

三方から神に向かう力に一瞬黒い 風が押されるが黒い風の渦はさらに力を増し3人へと襲い掛かった。

 

その力は例え敵であってもまさに 神と言う名を持つのにふさわしい力と認めざる得なかった。

 

「うっ・・・力が・・・」

 

「全力でやっても・・・まだ足り ないの?」

 

煉は既に限界を超えていた。地面 に膝を突きその手から炎が消える。

 

千早は雪姫を地面へと突き刺し水 の渦に力を注ごうとするが既に力は底をついていた。

 

「くっ、こんな所 で・・・・・・」

 

和麻は限界の限界を超える力を引 き出そうとするがここまで聖痕をふるに使っての戦いは和麻も経験したことのないほど長時間におよんでいていつ力が底をついてもおかしくないほどであった。

 

「ここが人間の限界だ」

 

「なっ、何・・・だ と・・・・・・」

 

「神である我の力は人間では持つ ことはありえない力。その力を前にはコントラクターであっても対抗できるものではない」

 

(体がいう事を聞かね え・・・・・・力が抜けていく・・・・・・)

 

「ここが貴様らの墓場だ!!」

 

「うわぁぁぁ!!」

 

「きゃぁぁぁぁ!!」

 

「ぐぁぁぁぁぁ!!」

 

和麻の風の渦が消え3人は神の風 をまともに受け吹き飛ばされてしまう。

 

「死ね、愚かな人間達よ!!」

 

神の背後に3つの風の渦ができそ の風はドリルのように先を尖らせ3人へと襲い掛かった。

 

(駄目だ!)

 

(力が入らない!)

 

(くそっ・・・・)

 

時間がゆっくりと進む。

 

人は絶体絶命の瞬間の一時的に時 間の進みがゆっくりになると、聞いたがこのことなのかと3人は思った。

 

目の前に迫った風を前に3人は自 分の死を覚悟する。

 

自分達に抵抗する力は残っていな い。

 

(和樹君!!)

 

千早は心の中で和樹を呼だ

 

風の渦が自分を貫く。

 

・・・・・・・・・・

 

ドッドッドウッ!!

 

銃声が3つ響き渡った瞬間、自分 横を何かが通り過ぎ自分の前で爆発した。

 

さらに背後から巨大な力を感じ る。神に迫らんばかりの巨大な力に千早は全身鳥肌が立った。

 

目を開けると自分の周囲を黒い炎 が自分を護るように取り巻いていた。

 

「射け、黒龍刀」

 

グォォォォォォォォォ!!!

 

黒い龍が神へと向かい襲いかか る。

 

「ちっ!」

 

神は自分へと迫って伸びていた黒 龍刀をかわす。

 

「!!?」

 

「黒蛇!」

 

シャァァァァァッ!!

 

黒龍刀をかわした神に黒い炎の黒 蛇が襲い掛かった。

 

黒蛇は神に喰らいつくと地面へと 神を叩きつけた。

 

「くああぁぁぁぁっっ!!  きっ、貴様っ!!」

 

神は声を張り上げて黒い風を放 ち、黒蛇を吹き飛ばす。そして鬼のような形相で一点を睨みつけた。

 

神にとっては邪魔な存在がそこに は立っていた。

 

だが和麻、煉、そして千早にとっ ては待っていた人が立っていた。

 

「和樹!」

 

「和樹兄様!」

 

「和樹君!」

 

召喚された黒い炎が波打ちながら 和樹はその炎の中に立っていた。

 

「おのれ、人間ごときが!!」

 

神は黒い風の塊を和樹に向けて 放った。

 

だが和樹にその風が届くことはな かった。

 

和樹の前に現れたのは美しい長い 髪を風に揺らしながら緋色の剣を構える少女。

 

「いけぇぇぇぇぇっっ!!」

 

少女は緋色の剣を天高く振り上げ ると向かってくる風の塊に向けて迷いなく剣を振り下ろした。

 

ドゴォォッッツン!!

 

剣から放たれた黄金の炎の巨大な 斬撃は風の塊を相殺し神へと襲い掛かる。

 

神は避ける間もなく黄金の炎に飲 み込まれ姿が消えた。

 

その光景に和麻達は驚愕の表情を 浮べて斬撃を放った少女を別人を見るかのような目で見た。

 

だがそれよりも驚いていたのは誰 よりも斬撃を放った少女本人であった。

 

「・・・こっ、これ・・・あたし がやったの?」

 

「信じていいんだよ。これが自分 と炎雷覇の力だって」

 

黄金の炎を放った少女は自分の後 ろに立っている和樹へと聞いた。

 

信じられないのも仕方がない。今 までの自分がここまでの力を出せたことはなかった。

 

だが今、自分は炎雷覇の力を引き 出し自分自身の力も上がっている。それは自分を取り巻く精霊の量が物語っていた。

 

「信じることが大事だよ。信じる ほど精霊たちは力を貸してくれる」

 

和樹の言葉に少女・・・・・・綾 乃は心を奮い立たせる。

 

そう自分が強い心を持ち精霊たち に話しかければ精霊は答えてくれる。

 

今のように・・・・・・

 

「さて・・・・・・これが最後の 戦いだ」

 

和樹はそう言うと神との戦いに向 けて心を昂ぶらせる。

 

これが最後だと自分に言い聞かせ るように・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

「ごめん、少し戻ってくるのが遅 くなった」

 

「いいって、原因はお前じゃなく てそいつだろ」

 

和樹が謝ったのに対し和麻は綾乃 を見ながら答える。その目は明らかに綾乃を馬鹿にした目であった。

 

「まあ、ギリギリだったけど間に 合ったんだ。文句はあとでいくらでも言えるからおいといて、力は取り戻したんだろうな」

 

「(ピシッ!)・・・・・・な〜 に〜、今の見ていなかったの? 何ならあんたで力を戻したこと証明してあげるわよ」

 

「あっ!? 性格は直ってないん だな。少しは千早を見習ったらどうなんだ」

 

「神にやられてボロボロじゃな い。あたしのことなんて全然言えないわね」

 

「病み上がりなら下がっていても いいんだぜ。お前がいなくても俺と和樹で十分なんだからな」

 

「何よ。ボロボロのくせして」

 

「ボロボロのボコボコにやられて いた上に気を失っていたお前に言われる筋合いはねぇよ」

 

2人の間に明らかに暗雲が立ち込 める。

 

「姉様、戻ってきてくれて嬉しい です!」

 

「本当、力を取り戻せて本当によ かったわ!(汗)」

 

そんな気まずい雰囲気を煉と千早 が笑顔で一掃する。煉は素直に綾乃の力が戻ったこと、和樹が戻ってきてくれたことが嬉しくてしょうがないんだろうが千早は2人の間の重い雰囲気を消そうと 旨く間に入っている。

 

「力を取り戻しただけじゃなく今 まで以上の力を手にしているよ。綾乃ちゃん、3人に炎の精霊王から渡されたものを」

 

「炎の精霊王!!」

 

煉は和樹の言葉を聞いて声を上げ て驚いた。

 

「綾乃ちゃんが力を取り戻したあ と僕らの前に現れて風牙神を倒す力を置いて行ってくれた。ついでに治癒の炎もね」

 

「おっ、粋な計らいしてくれる じゃねぇか。今度会ってみてえな・・・風の精霊王にでも頼むかな・・・」

 

「冗談じゃないわよっ!! 人の こと馬鹿にして何が精霊王よ! ああ〜〜、思い出しただけでもムカつく!! あのウスラトンカチ!!」

 

「・・・・・・何か、あった の?」

 

「・・・・・・ちょっと力が戻っ たことでからかわれたんだけどそのこと根に持っているみたい」

 

「・・・なるほどね」

 

千早は地団太を踏んでいる綾乃を 見ながら和樹に小声で何があったのかちゃっかり聞いていたりする。

 

千早は綾乃から治癒の炎を受け取 り体に当てると体の傷が全て綺麗に消えさらに疲れも消えた威力も元に戻った。

 

「すげえな。エリクサー並みだ ぜ」

 

「本当」

 

「凄い力がどんどん沸いてくるみ たいです」

 

3人とも治癒の炎の回復力に驚き の表情を隠せないようである。

 

「和樹、精霊王が置いて行った 力って何だ?」

 

「僕の使える黒炎と同じ最強の 炎、白炎。炎雷覇を通して使うことで綾乃ちゃんが使えるようになっている」

 

「!? ちょっと待って、白炎は 確か・・・・・・」

 

千早が和樹の言葉に驚愕する。

 

「炎の精霊王が黒炎、白炎の精霊 王から炎の欠片をもらっていたのを使うように言われたんだ」

 

「・・・・・・」

 

「気にすることないよ、千早。僕 は冷静だから」

 

笑顔で千早に答える和樹だが千早 は和樹が無理をしているように見えて仕方がなかった。

 

「それじゃ、綾乃ちゃんは白炎を いつでも放てるようにしておいて、できる限り黒炎で力を奪うからそこを確実にしとめてほしい」

 

「前衛は任せろ、和樹。お前が力 を練り上げるまで足止めしておく」

 

「あたしも全ての力を出し尽くし て時間を作るわ」

 

「僕も「お前は後衛だ」・・・ えっ!?」

 

煉も前衛に飛び出して戦うつもり でいたが和麻がそれを止める。

 

「お前は和樹と綾乃の前に立って 2人が集中できるように護れ」

 

「そんな僕も前に出て「ふざける なっ!」」

 

和麻は殺気を含めた声で煉を怒 鳴った。

 

「いいか、練習もやり直しもでき ないぶっつけ本番なんだ。神を倒すには和樹と綾乃が最高の状態で力を出せなくちゃ俺らの負けだ」

 

「なら僕も前に出て」

 

「お前がいれば確かに俺と千早の 負担は減るが、神を止めるのは俺と千早でも何とかできる。けど、神の放った攻撃を全て止める事は難しい。だからお前は俺達が止めることのできなかった攻撃 を止めろ。その攻撃が俺でも求められなかったやつだとしても死ぬ気で止めろ。いいな、これは神を止めることなんかよりもずっと難しいことだ。お前が一つで も後ろに攻撃を抜けさせたら終わりだと思え!!」

 

「はっ、はい!」

 

和麻の剣幕とその言葉の重みに煉 は力強く答えた。

 

自分が最後の砦、自分がしくじっ たらここまで戦ってきた自分達の全てを水の泡にしてしまうことになる。

 

(僕の今持てる全ての力をかけて 和樹兄様と姉様を護ってみせる)

 

(煉、私の力も全て使いなさい)

 

(はい)

 

アオイの言葉にも煉は強く答え た。

 

「千早、行くぞ」

 

和麻は風の精霊に今まで以上に自 分へ力を与えてくれるように呼びかける。

 

瞳は透き通るような蒼い色に変わ り、背中には蒼い風の翼が羽ばく。

 

「煉君、できる限りがんばるけど 和樹君と綾乃ちゃんをお願いね」

 

雪姫を手に精霊を呼び集め、千早 を中心に水の精霊が渦を撒く。

 

2人は力を解放すると空に浮いて いる神に向かって飛翔した。

 

「綾乃ちゃん、煉君、覚悟はいい ね。僕らもいくよ」

 

「はい」

 

「分ったわ」

 

和樹、綾乃、煉もそれぞれ力を練 り始める。

 

最後の戦いはここに切って落とさ れた。

 

 

 

 

 

 

 

「待たせたな。続きと行こうか」

 

「人間ごときがまだ我に逆らうと 言うのか? お前ら人間が神に勝つことなどありえん」

 

神は周囲に黒い風の刃を作り上げ 和麻と対峙する。

 

「悪いけどよ。俺はお前なんかに 殺される気が全然しねぇんだよ!」

 

蒼い風の刃が神の作り上げた黒い 風の刃とぶつかり合いお互い消滅していく。

 

「氷霞」

 

和麻の作り上げた道に千早が攻撃 を放つ。雪姫より放たれる氷の柱は神に向かって一直線に襲い掛かる。

 

「笑止」

 

神は左腕を軽く振るい風を起し千 早の氷をいとも簡単に砕いてしまった。

 

「甘い!」

 

ドガッ!

 

和麻の拳が神の鳩尾に深々と突き 刺さった。千早の攻撃と止めるために作り出された一瞬に拳一点に強力な風を集中させ攻撃したのだ。

 

「ハアッ!」

 

「人間ごときが!」

 

さらに拳を叩き込もうとした和麻 の拳を神が風を召喚した手で受け止める。

 

和麻と神の間で風の渦がぶつかり 合い大きく2人は弾かれる。

 

「大鎌鼬」

 

「そんなも「凍矢!」な にっ!?」

 

和麻に対抗し、風を放とうとした 神の腕を氷の腕が貫きその腕を凍らせる。

 

風を放てず和麻の放った大鎌鼬は 神の体を頭から両断した。

 

「鎌鼬の舞」

 

「流星氷弾」

 

風と氷の嵐が神へと襲い掛かり体 を斬り刻み、風穴を開け凍り付けにする。

 

だが神の顔には不気味に笑みが浮 かんでいる。

 

「無駄だ、我を攻撃してもダメー ジは受けぬ!」

 

「!?」

 

「くっ!?」

 

和麻の風の壁を貫け2人の体を目 にも見えぬ速さで何かが通り過ぎていく。

 

そして次の瞬間、2人の体中に赤 い線が無数に浮かび上がった。

 

「風で空気を斬り裂きやがった」

 

神を見ると和樹と自分が戦ってい た時同様身体の傷は消えている。

 

しかも回復速度は徐々に上がって いる。

 

(大博打になるけど、やるしか ねぇな・・・・・・)

 

和麻はある決意をする。

 

神を倒せなくともその力を大きく 奪うために・・・・・・

 

自らの全ての力をかけて神に向か う決意を・・・・・・

 

「人と神の違いを思い知るがい い!」

 

「んなこと、知りたくもない ね!」

 

蒼い翼が大きく広がり和麻の力が さらに大きくなる。

 

「天空に舞え、風羽(ふうう)」

 

背中の翼を大きく広げると蒼い風 の羽が宙に舞い辺りに散らばる。そして和麻が目を神に定めた瞬間蒼い風の羽が自ら意思を持つように神に向かって襲い掛かった。

 

それは煉がアオイの力を借りて見 せた翅炎に似ていた。

 

「今更こんなもの我にはつうじ ん!」

 

神は風の渦を起し蒼い羽を全て吹 き飛ばす。

 

「いけっ、鎌鼬」

 

さらに鎌鼬を放ち和麻は神に反撃 の機会を与えない。

 

「つうじんと言っているのがわか らんのか!!」

 

「うわっ!」

 

鎌鼬を貫き神の放った風が和麻を 襲った。風の壁を作り防ぐことはできたが勢いは殺しきれなかった。

 

「もらった!」

 

神は和麻との距離を一気につめ止 めを刺そうとする。

 

「ふざけるな! 裂破風陣拳!」

 

風の渦の中に神は飲み込まれ、中 で風の刃に斬り刻まれる。

 

「このまま風の渦に閉じ込めてや る!!」

 

和麻は胸の前で掌を広げ何かを押 さえ込むように力を練り上げ風の渦をさらに強力にし、渦の回転速度、精霊の量、人の使える力の限界にまで上げた。

 

「人が・・・・・・神の力には勝 てんのだ!!!」

 

「!?」

 

風の内側から神は和麻の風と逆方 向に回転を掛け和麻の風の勢いを弱める。

 

「吹き飛べ!!」

 

「!? ぐあっ!」

 

風の渦をかき消されさらに渦の中 心から和麻を一刃の風が襲い右腕を斬り裂いた。

 

和麻の腕が手首から肩に掛けて線 を引いたように血に染まる。

 

「おしかったが、それが人の限界 だ」

 

神は渦の治まった空中で和麻と対 峙する。その間にも神の身体の傷はほぼ回復していた。

 

「はっ、はは!」

 

「何がおかしい?」

 

和麻の不敵な笑みに神は和麻を睨 みつける。

 

「神だからって力に奢っていると 足元すくわれるぜ・・・・・・」

 

「なに? !?」

 

「氷雷霆!」

 

ゴォォッッン!!!

 

ピシッバキッバキバキ!!

 

上空から一直線に飛来した全身を 氷の刀身と化した千早の氷雷霆を受け神の体は貫かれそのまま地面へと氷の塊ごと叩きつけられた。

 

地面はすり鉢上の巨大なクレー ターができ、氷の塊の破片があちらこちらに舞っていた。

 

「・・・ほらな。ざまみろ!」

 

和麻は聞こえるわけがない神に向 かってそう呟いた。

 

和麻はただ闇雲に攻撃を繰り返し ていたわけではなかった。

 

自分へ神の意識を向けさせ千早が 動きの止めた神に全力で攻撃を放つその瞬間を作り上げようとしていたのだ。

 

クレーターの中から千早が飛び出 し和麻の隣へと着地した。全力で技を放ったため既に立ち上がる力さえ無い状態で膝をついて今にも意識を失い倒れそうになりながらも大きく荒い息を繰り返し 意識を保っている。

 

(今しかない!)

 

千早が心配だが今、神への攻撃を 止めるわけにはいかない。和樹達の攻撃で確実に神を倒すためにも力は奪えるだけ奪う。

 

「うらああぁぁぁっ!!」

 

和麻の風の翼に変化が現れた。

 

翼が和麻の背中から飛び出し蒼い 風は巨大な鳥となり和麻の上空に現れた。

 

ドゴッ!

 

「人間ごときが我に!!」

 

氷の塊を吹き飛ばし回復しきって いない身体に大穴を開けた神が現れた。

 

「骨も残らず消え去れ!!」

 

神から放たれた巨大な風の刃、そ の力は神と言うにふさわしい戦う者にとっては逃げ出したくなるような力であった。

 

だがその風は和麻に届く前に巨大 な鳥の翼に防がれ消え去った。

 

「な、なにっ!? 人が神の風を 止めるなどと」

 

「いいこと教えてやるぜ。この鳥 は俺の心を移した姿、精霊獣ではないが俺が型を作った4つの最強の型の1つ、朱雀だ」

 

「朱雀だと・・・」

 

「風の力は四大精霊の中では最弱 だ。だから俺は少しでも力を上げるため制約と誓約を自分に掛けた。聖痕を発動している時だけにしか使わないと言うな。そしてそれを破った時の代償 は・・・・・・」

 

ピェェェェェッッ!!!

 

「俺の命だ!!」

 

和麻の叫びとともに蒼い風の朱雀 が羽ばたき神に向かって突進していく。

 

「ぐううぅぅっっ!!」

 

朱雀を正面から受け止める風牙 神、だがその力は神でさえもとめるのは不可能と言える力。

 

「命の重みだ・・・風の不死鳥、 朱雀の息吹に抱かれて朽ち果てろっ!!」

 

「そ、そんな馬鹿な!!」

 

朱雀が風牙神を飲み込み神の姿が 消えた。

 

和麻の持つ技の中で最大の攻撃力 を持つ朱雀は、和麻がもっとも憧れた者が使っていた技である。

 

まだ自身が風の精霊の声を聞くこ ともできず、体術と式森家で知った気を使う力だけを学んでいた時からその相手の背中を追い続けその技を自分の眼に焼き付けていた。

 

重悟でさえもその者の前には最後 まで破ることができずにいた技であったのをよく覚えている。

 

(完成したこの技を最初に見せる 相手は決めてたんだけどな・・・・・・)

 

和麻は己の全ての力を朱雀へと託 した。

 

「ぐっ!」

 

和麻は地面へと下りるとそのまま 崩れ、膝をついた。

 

今の和麻は風の精霊に護られてい ない。

 

朱雀を放った後は身体的、精神的 に限界状態、さらには精霊術の力を一時的にだが使うことができなくなる。

 

今の和麻は普通の人間よりも弱い 存在になっているのだ。

 

だがこれで和樹と綾乃が力を練り 上げる時間は稼げたはずである。朱雀は自分の手を離れても力は十分に持つはずだからだ。

 

カァァァァァッッ!!

 

だが次の瞬間、朱雀の様子が急変 した。

 

身体を大きくのけぞらせるとその 体を風の刃が突き破り朱雀は消滅した。

 

「ば、馬鹿な・・・・・・」

 

「そんな・・・・・・」

 

朱雀は不死鳥、例え消滅しようと も何度でも甦り相手に向かっていく。だがその朱雀は完全に消滅してしまった。

 

「今のは効いた・・・効い た・・・痛かった・・・痛かったぞ・・・・・・だが人間の力はここまでだ!!」

 

黒い風が召喚され、風の刃となり 和麻たちへと降り注ぐ。

 

和麻と千早は身体を地面の上に転 がし何とかせけようとするが全てを止めることはできずに攻撃を受けてしまった。

 

(ぐっ、煉は・・・)

 

煉は鎖を使い、風を振り落としな がら、背中の炎の翼で必死に和樹と綾乃を護っているが1人だけでは全てをとめることはできない。

 

「あああぁぁぁぁぁっっ! 氷 壁」

 

「止めろ、千早!」

 

これ以上千早は使うことができな い。既に1人で立ち上がるどころか雪姫を握ることさえ限界状態、和麻自身も声を出すだけでも全身の筋肉が悲鳴を上げている。

 

千早は精霊を召喚しようとしたが 集まった精霊の数は数えることができるほどで氷壁ができることはなかった。

 

「これで終わりだ!!」

 

巨大な風の刃が神の手から放たれ る。

 

「うわあああっ!!」

 

煉は炎を放ち、風を止めようとし たが炎を吹き飛ばし、風の刃は煉を襲った。

 

「煉!」

 

煉が風の刃に斬り裂かれる姿を和 麻は黙ってみているだけしかできない。

 

黄金と蒼い炎が煉の体を包み込む が黒い風に炎は吹き飛ばされてしまう。

 

煉も和麻も諦めたそのとき紅黒の 炎が煉を包み込んだ。

 

「!?」

 

ガアアアアア アァァァァァッッ!!!

 

大地を揺るがす雄叫びと共に巨大 な影が空に現れ地面へと降り立った。

 

「・・・・・・煉、動けるな」

 

「は・・・は・・・はい」

 

煉は最初新しい妖魔が現れたのか と思ったが相手の目を見て直感的に悟った。

 

全く確証はなかった が・・・・・・敵ではないと・・・・・・

 

「和麻と千早を連れて下がってい ろ!」

 

目の前に現れたのは三つの頭、蛇 の鬣と尾を持つ神獣・・・・・・ケルベロスの姿になっていたカイであった。

 

「俺が相手になる」

 

「地獄の番犬ケルベロスか・・・ いいだろ!」

 

「獄炎!!」

 

3つの頭から紅黒色の地獄の炎が 神に向かって放たれる。

 

神はその炎を黒い風で防ぎさらに 攻撃を仕掛ける。

 

煉はケルベロスの出現に驚き呆然 としていたが倒れている2人を見て慌てながらも、そのわずかの時間の間に素早く和麻と千早を安全な場所に傷に響くことの無いように運んだ。

 

「兄様、千早姉様」

 

「カイ、1人じゃ・・・・・」

 

千早の言葉を聞いて煉はケルベロ スの目を見て自分がなぜ敵ではないと思うことができたか分かったような気がした。

 

「くっ、和樹はま だ・・・・・・」

 

苦痛に顔をゆがめながらも和麻は 体を動かし和樹を見た。そしてその瞬間、言葉を失った。

 

和樹に集まる精霊の量、その後ろ にいる綾乃の力とは比べ物にならない。

 

炎雷覇に白炎を召喚し瞑想を続け る綾乃、その力も以前の綾乃とは比べ物にならない。

 

だが炎の精霊王から受け取った白 炎、そして会話のできるようになった炎雷覇の力を考えればそれも納得できる。

 

炎雷覇を媒介に白炎を召喚してい ることで綾乃にかかる負荷はかなり軽減されているだろう。

 

しかし、和樹は違う。

 

黒炎をその身体全てを使い召喚し ているのだ。しかもその力は綾乃の召喚している白炎よりもはるかに大きな力である。

 

今まで自分と戦っていた和樹から 感じていた力とも比べ物にならないほど練り上げられている黒い炎の圧力。

 

(これが、精霊王たちの頂点の存 在、黒炎の精霊王と契約した者の力・・・・・・しかもこれでまだ力を使いこなしていないだと・・・・・・四大精霊とどれだけ力の差があるん だ・・・・・・・・)

 

集まる精霊に押し上げられるかの ように和樹の身体がわずかに宙に浮き、周りのアスファルトの破片は黒炎の中で蒸発していく。

 

「カイ!」

 

和樹が神と戦っていたカイに向け て叫ぶ。

 

それを待っていたかのようにカイ は獄炎を放ち神から離れると和麻達の側に降り立ち叫んだ。

 

「いけ、和樹!!」

 

「黒炎に焼かれろ、風牙神! 黒 龍波!!」

 

グオオオオオオオオッッ!!

 

雄叫びを上げながら和樹の両腕か ら巨大な黒龍が神に向かって放たれた。

 

「なっ、なにっ!!」

 

神は正面から黒龍波を受け止める がなすすべなく黒龍に身体を運ばれていく。

 

黒い風を召喚し黒龍を止めようと するが黒龍から放たれている力は神の力と同等の力、神は始めてこの戦いの中で、始めて全ての力を完全に防御に回した。

 

「消えろっっ!!」

 

「こんな、こんな・・・人間ごと きが、人間なんかがっ!!」

 

黒龍が風牙神の身体を締め上げな がらその身体を少しずつ消し去っていく。

 

(ま、まずいこのままで は・・・)

 

風牙神はこの戦いの中で本気で身 の危険を感じていた。

 

黒龍波を止めるためには己の力の 全てを出さなければ確実に神である自分でも消滅させられる。しかし、その後確実に力のない自分は確実に消滅させられる。

 

(人間ごときを相手に身を引かな ければならぬとは・・・・・・)

 

人間を相手に引かなければならな いことは神にとって今までにない屈辱であった。以前神凪の人間に封印された以上に自分は追い込まれている。

 

神凪の人間は自分を倒すことはで きず封印という方法をとった。しかし、今戦っている黒炎の契約者は自分を確実に消滅させようとしている。

 

(次こそは・・・次こそは・・・ 奴らと共になら確実にこ奴らなど・・・・・・)

 

風牙神は力を最大限まで発揮しこ の場から立ち去ることを決意した。

 

そして次に戦うときは必ず今受け た屈辱を返すと誓う。

 

「今だ、綾乃ちゃん!!」

 

「なっ、なに!?」

 

和樹の後ろにいる綾乃の力。その 力に風牙神はさらに危機感を増した。

 

炎雷覇に白い炎を纏い自分へと構 えを取る綾乃は風牙神の知る綾乃とはまるで別人であった。

 

そして綾乃自身は驚きを持ちなが らもここまでの人生の中で最高な状態で自分が戦いに望んでいると感じていた。

 

カッ!

 

目を見開き、風牙神をその目に焼 き付ける。

 

(何でだろう? あんなに凄い力 を前にしているのに全然恐怖を感じない。護られているから・・・精霊たちに、みんなに・・・)

 

神に対する恐怖心は全くない。神 の力が弱くなってきているからではない。自分が神を超えたわけでもない。

 

唯今の自分は何でもできる、逃げ 出さなければどんなことでも成し遂げられる自信がある。

 

(綾乃、いいですね)

 

(いいわ、あたしが今出せる力の 全てあんたに預けるわ。その代わりあんたの力全てを・・・・・あたしに全ての力を貸して・・・)

 

(無論そのつもりです)

 

白炎が綾乃の周りを包み込む。次 に炎が晴れると異国風の衣装の振袖を纏った綾乃が姿を現した。その姿は炎雷覇の力と綾乃の力が一つとなったことを証明する姿でもあった。

 

(行きなさい、綾乃、風牙神を倒 すのです)

 

「風牙神・・・覚悟っ!」

 

風牙神に向けて一直線に向かって 綾乃は突進していった。

 

「ぬっ、ぬおおおっ!」

 

「絶対に、絶対に逃がす かっ!!」

 

風牙神は黒龍から何とかして逃れ ようとするが和樹も渾身の力で風牙神を押さえ込む。

 

「これで終わりよ!」

 

ゴウッ!!

 

白炎に包まれた炎雷覇が風牙神の 腹に深々と突き刺さる。

 

「白炎と黒炎に焼かれて消滅しな さい!!」

 

「な、なぜに貴様なんかが白炎 を・・・白炎は・・・あ奴が・・・奴がすでに・・・」

 

「白炎を使っているのがどこの誰 だか知らないけど、炎の精霊王が持っていた白炎の火種を、あんたを倒すために渡してくれたのよ!」

 

「そんな馬鹿な!!」

 

「これで本当に終わりよ!  だぁぁっっ!!」

 

綾乃は炎雷覇を引き抜くと上段か ら力の限りの炎を召喚し風牙神を斬り伏せた。

 

「馬鹿なっ・・・・・」

 

風牙神は力なく地面へと向かって 落ちていく。

 

ありえない事実、自分が神である 自分が人間などに負けるという・・・・・・あってはならない事実。

 

だが自分の身体はすでにボロボ ロ、ここから逃げ出すことも不可能なほどひどい状態で基であった流也の体が崩壊し始めている。

 

完全な敗北であった。

 

「ふははははっ! まさか人間ご ときにやられるとは、あはははっ!」

 

風牙神は笑いをこらえられなくな り声を上げて笑い出す。

 

「何が可笑しいの!」

 

綾乃は風牙神に炎雷覇を向け問い ただす。

 

「ふはははっ、正義の見方気取り か? さまざまな悪事を力で抑え隠してきた神凪の人間が!?」

 

「なっ!?」

 

「自分たち以外の術者を見下し、 そして仕舞いには殺しさえも行ってきた貴様らが!!」

 

「・・・・・・」

 

「我を殺したところで貴様らの罪 は消えん。お前らが行ってきた悪事は全てこれからも語り継がれる。そして繰り返されていく。貴様らが滅亡せぬ限り!」

 

「そ、そんなこと!」

 

「ないと言うか。口ではいくらで も言える、だが所詮口だけ、新たな風牙衆はこれからも生まれる。そして貴様らを滅ぼすであろう!!」

 

「・・・黙れ、風牙神」

 

「・・・・・・・」

 

「・・・か、和樹君」

 

いつの間にか黒龍刀を杖代わりに 自分たちの側まで和樹が来ていた。そしてその後ろには和麻、千早、煉、カイも立っている。

 

「風牙神、あなたの言うことも間 違いではない。だがそれは神凪だけにではない。力のある者全ての人に言える言葉だ」

 

「ふっ、貴様はそうならないか?  だが貴様の知らぬところで新たな風牙は生まれるぞ」

 

「止めてみせる。そのために僕は 戦う」

 

「ふっ、傲慢だな。奴もそうだが 『無限の魔力』の持ち主は考えていることが馬鹿げている・・・・・・」

 

ドゴッ!

 

風牙神の顔のすぐ横に黒龍刀が突 き刺さった。

 

それを見た綾乃は思わず身を引い てしまった。そして和樹の目は風牙神を見ていたがなぜか違和感を持った。まるで風牙神の後ろに何かを見ているようなそんな目で阿他

 

「黙れ! あいつのことを僕の前 で言うな!」

 

「・・・・・・奴とは違い、お前 は奴のことを嫌っているようだな」

 

「・・・・・・」

 

「まあいい、我を消滅させよ、黒 炎の契約者よ。我は無様な死に際を求めん、貴様になら我の首預けられる」

 

ゴウッ!

 

和樹の右手に黒炎が召喚される。

 

「最後に聞きたいことがある。あ なたの前に彼は姿を見せたかを?」

 

「現れたぞ。そして奴はお前より 強い・・・・・・さらばだ」

 

ドゴッ!

 

風牙神の身体を、黒炎を纏った和 樹の拳が貫き風牙神は黒炎に焼かれ完全に姿を消滅させた。

 

神凪を滅亡の淵まで追いやった戦 いは風牙神の死によって終結した。

 

だがこれはまだ神凪の戦いの序章 に過ぎないのであった。

 

 

 

 

あとがき

レオンで〜す!

ついに風牙神を倒しました!!  僕の出番がまるでなかったけど・・・・・・

最後はカズが風牙神を葬りまし た。そして和麻も本気を出しました。まさか朱雀を形作るとは・・・でも制約と誓約ってどこかで聞いたような 気がするな?

まぁいいか、次回はついに和樹の 神の敵が姿を現します。

そしてあいつらも・・・・・・

乞うご期待! レオンでした!


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