まぶらほ  無限の魔力

 

 

 

 

出会い編

第七話  嵐を呼ぶ転校生

 

 

ジジジジジジジジジジジ!!

 

バチン!

 

ジリジリジリジリジリジリジリジ リ!!!!

 

バチン!!

 

ピピピピピピピピピピピピピピピ ピピピピピピピ!!!

 

バチン!!!

 

ドゥッドゥッドゥ〜〜〜♪

 

ドゥッドゥッドゥッドゥッドゥッ ドゥッドゥッ♪

 

ドゥッドゥッドゥッ〜ドゥッドゥ 〜♪

 

『のび〇君、起きろ!!』

 

バチン!

 

「・・・・・・ふぁ〜〜〜〜」

 

式森和樹は目覚ましを四つ使い目 覚めた。なぜ最後が猫型ロボットなのかは不明である。

 

「後・・・五分・・・・ZZZZZ・・・バタッ!・・・・・・い、痛い・・・」

 

訂正、目覚めてまた寝ようとして ベットから落下した。

 

「・・・・・・起きるか・・・」

 

和樹は床から体を起し再び眠りに つくことを止めた。

 

「・・・ZZZZZZZZZZZZZZZ・・・・・・」

 

「・・・・・・起きろ、レオン」

 

「・・・・・ふああああああ 〜〜〜〜〜〜」

 

レオンがでかい口を開けて大欠伸 をした。だが目が虚ろで視点は全く定まっていない。

 

窓の外を見ると、スズメが飛んで いる。

 

「今日はどんなことあるかな」

 

伸びをしながら和樹は洗面台へと 向かう。昨日と違い時間は十分にあるのでのんびりとしている。

 

コンコン!

 

不意に部屋の扉が叩かれた。

 

「和樹君起きてる?」

 

「ふぁ〜〜〜・・・・起きてる よ」

 

扉のところへ行き鍵を開け、扉を 開けると鞄を持った千早がいた。

 

「おはよう、和樹君。はい、これ 朝ご飯ね」

 

「ありがとう」

 

和樹は千早から朝ご飯を受け取 る。

 

持ってきてくれたのはおにぎり だった。

 

「では、いただき・・・「カプ シッ!」・・・」

 

和樹がおにぎりを口に運ぶよりも 速くおにぎり何かが速く食いついた。

 

「・・・・・・・・・」

 

「ポリポリポリポリポ リ・・・・・・」

 

レ〜オ〜ン〜・・・」

 

「・・・ZZZZZZZZ・・・・・・」

 

どうやら和樹が起したのでは起き ず、まだ眠っているようである。

 

だがその嗅覚はおにぎりの匂いを 見事嗅ぎつけ寝ぼけているようだ。

 

「この〜〜〜、起きろ!」

 

「んあぁ〜・・・ノギャッ!」

 

「はぁ・・・・もう、朝から何 やってるのよ」

 

和樹とレオンの漫才(?)を見て 千早は呆れるのであった。

 

「早くしないと遅れるよ。ほら早 く着替えて・・・・・・」

 

「このだるまが! いい加減に手 から離れろ!」

 

「ほふほ、ほひひひ(僕のおにぎ り)〜〜〜〜〜〜」

 

「これば僕のだ! てっ、強く噛 むな!!」

 

「へんはひほ(めんたいこ)〜〜〜〜〜」

 

「意味分からん!!」

 

未だにレオンは目覚めず寝ぼけて います。この後、腕を振り回し、壁にレオンを叩きつけてようやく和樹の手からレオンは落下し離れた。

 

「はい、財布に腕時計に魔法具に 鞄」

 

千早に持ち物を渡される。

 

「よし・・・走るよ」

 

「ええ!」

 

時間は歩いていたら微妙だ。半分 は走らなければならないだろう。

 

「ねぇ、何でもっと早く部屋でな かったの?」

 

『お前(レオン)のせいだろ(で しょ)!!』

 

寝ぼけていたレオンは今朝の出来 事が全く記憶に無かったのであった。

 

 

 

 

 

 

 

学校に着き、千早と別れてB組の 教室に入ると黒板に何やら文字が書かれていた。

 

どうやら仲丸・和美のB組男女の 金の主が賭けを行っているようである。

 

黒板にはでかでかと

 

 

 

男:6 女:4

今からでも買っておけ、決して遅くない。

2倍返しは約束するぞ!

 

 

 

と書かれている。

 

「さあ、ただ今の賭け率は男6: 女4だ! 他に賭けるやつはいないかーーーっ!!?」

 

「噂だと男のほうが有力よ!」

 

『二人で店を開いて真面目に営業 したら儲かるだろうなぁ〜』とどうでもいいことを和樹は考えた。

 

「その証言は真実なのか!?」

 

「証拠を見せろ! 証拠を!」

 

皆、自分が勝つために相手を全く 信じない。

 

いや、根本的にこのクラスで生き ていくには、人を信じてはいけないのだ。

 

金のことになるとその勢いはさら に増す。

 

お互い自分が勝つためには相手を 踏み台にでも奈落の底にでも平気で落としていく。そこに相手を思いやる気持ちは微塵も存在しない。

 

自分が一番、お金が二 番・・・・・・

 

悲しいがそれがB組というクラス である・・・

 

「また、賭けか・・・」

 

(今度は何なんだか・・・)

 

和樹は朝から熱くなっているクラ スメートを目の前に呆れ返り冷め切っている。

 

こんなことはB組では日常茶飯事 であるが、さすがに朝からこのテンションにはついてく気にはなれない。

 

彼らが文化祭の標語として『人の 不幸は蜜の味、人の幸福砒素の味』を掲げたのはあまりにも、いやこの学園の人なら誰もが知っている有名な話である。

 

「おはよう、式森君。  ・・・・・朝から疲れてるわね」

 

この光景を見て、朝から疲れた顔 をする和樹に声がかかった。

 

「おはよう、杜崎さん。で、この 騒ぎの原因は何?」

 

千早の親友であり中学時代からの 友人である杜崎沙弓に聞いた。

 

彼女は格闘術の使い手で、家は退 魔師の家系である。百八十cm長身にクールな性格から女の子からの人気が高い。だが、千早曰く『沙弓も女の子よ』とい う所があるらしい。B組の中では常識人であるためB組からは和樹共々変わり者扱い。一部B組に染まっているところもあるが・・・・・・それは和樹も同じで ある。

 

「ああ、これね! 何でもこのク ラスに転校生が来るんですって。それも態々このクラスに入りたいって言ったそうよ。まあ、明くまで周りが言っていることだけどね」

 

「・・・マジ?」

 

転校生で好んでこのクラスに入ろ うとする人はまずいない。それに教師達がB組に入れないようにと裏で手を回しているとも言われている。

 

「・・・何かいやな予感がするの はなぜ・・・」

 

和樹には大体見当がついた。誰が 来るのかは・・・・・・

 

だがなぜこのクラス に・・・・・・

 

「式森君知ってるの、誰が来る か?」

 

「・・・おそらくだけどね」

 

何か目が遠くを見ている和樹。昨 日の出来事は和樹としては忘れたいことである。

 

「おお、我が親友式森和樹、お前 はどっちに賭ける?」

 

「何が・・・」

 

和樹に気づいた仲丸が声をかけて きた。何が親友だと思ったがあえて流すことにした。

 

「ふふふ、実はこのクラスに転校 生がやってくる」

 

「・・・あそっ・・・・」

 

「それで俺達の進むべき道である 賭けを行っているのだがお前はどっちに賭ける? 今のところ男が優勢だ!」

 

進むべき道が賭けだなんて嫌だと 思いながら和樹は転校してくるであろう昨日会った子を思い出した。

 

彼女が昨日の自分の話しをどう受 け止めたか・・・

 

どう受け止めたであれ、自分を追 い詰めるようなことだけはしないでほしいと思う。

 

「どっちだ、式森?」

 

「女に諭吉を二枚」

 

仲丸に諭吉を渡しながらいう。

 

誰が来るのか答えは分かっている が儲けられるところは儲けておこうと開き直る。

 

「式森は女、諭吉が二枚っと、杜 崎お前もどうだ?」

 

「沙弓、あなたはどうする?」

 

仲丸だけでなく和美まで沙弓に聞 いてきた。

 

「そうね・・・」

 

沙弓は和樹を見てどちらにするか 決めたようである。

 

「私も賭けるわ。女に諭吉を五 枚」

 

有り金全部だとばかりに財布から 諭吉を机へ叩き出した。

 

何でそんなに持っているか・・・

 

細かいことは突っ込むな!

 

『杜崎(沙弓)は女に諭吉が五 枚っと』

 

答えを聞くと仲丸と和美はまだ賭 けてない人のところへ飛んでいった。

 

「・・・・・・誰が来るか知って いるのね。式森君?」

 

「まあね。杜崎さんにも連絡が来 ていると思うけど・・・・・・」

 

「式森君のことで?」

 

「そう」

 

「ええ、昨日お父さんから連絡が あったわ。『和樹君をお前なりにでいいから助けろ』って言ってたわね」

 

沙弓の父であり杜崎家の現当主で ある杜崎竜一は和樹の曽祖父である式森源氏と祖父である式森源蔵の弟子である。杜崎家は別に式森家の中に入っているわけではないがそれでも個人の師弟関係 は今も続いている。当主となろうがまだまだ二人からは学ぶことは多くあると自分の力に自惚れることはなく今でも竜一はよく家を訪ねてきている。

 

「話では宮間と風椿と神城も動い たって聞いたわ。千早からも昨日少し話し聞いたしどんなことがあったかわ大体知っている」

 

「迷惑な話だよ。全く・・・」

 

「まあ、安心して少なくとも私は 昨日の三人みたいなことはまずしないから」

 

「そうだね。僕も杜崎さんの恋路 を邪魔する気はないから安心していいよ」

 

ビクッ!

 

沙弓の肩が大きく動いた。

 

「な、何のことかしら・・・」

 

沙弓にしては珍しく明らかに動揺 しているのが分る。

 

「あれ、僕と千早の勘違いかな。 中学のときに助けてもらってからレ・・・・・・」

 

「お、お願いそれ以上言わない で・・・・・・」

 

和樹が少しからかう様な口調に沙 弓は慌てた様子で周りを見る。何かを必死に探しているようだが、その目はどこかいつもの沙弓とは違っている上に顔が赤くなっている。

 

「あっ、安心して。レオンなら屋 上で日向ぼっこ・・・・というより爆睡してると思うから」

 

「・・・・それを早く言って よ・・・」

 

沙弓は力が抜けたように近くに あった椅子に座り込んだ。

 

「でも、千早から写真貰って飾っ てあるって聞いたけど?」

 

「お願い、もうその話は終わりに して・・・・・・ともかく、私は式森君と千早の仲を壊すようなことはしないわ・・・もしそんなことしたら神代に後ろから刺されて殺されそうで怖い し・・・・・・」

 

「ははっ、神代はそんなことしな いよ」

 

(・・・・・式森君、あなただか ら言えるのよ・・・・・・)

 

沙弓は千早の妹である神代を思い 出しながら言った。

 

千早の妹、山瀬神代は異常なくら いのシスコン、そして究極のブラコンである。

 

和樹のことを『お兄ちゃん』と呼 び、兄妹のように物心ついた時から接している神代にとって和樹は未来の兄でなくすでに兄として決定付け、確立された絶対的存在なのだ。

 

もしその兄を奪うようなものが現 れたら・・・・・・・・・

 

正直、沙弓は考えもつかない。本 気で神代を敵に回したら自分は愚か、あのゴ〇ラでさえ生きていることはできないだろう。お世辞なしで神代は強い。和樹、千早の妹であるのは伊達じゃない。 真正面から勝負を挑んで勝てる可能性は・・・・・・銀河の果ての星を一撃で爆破できる爆薬があっても勝てるのか微妙な所である。兄、姉を思う気持ちは隕石 の落下さえ防ぎそうな子である。

 

もし怒り狂った神代と人食い鮫の 群れる海どちらを選ぶときかれれば・・・それこそ、腹をすかした人食い鮫が泳ぐ海へ飛び込んだほうが百倍ましかもしれない。

 

「お父さんも式森君を家に入れよ うなんて微塵も思っていないからね。逃げ出した神城の今の当主とは違うから」

 

「それは僕も分かっているよ。お じさんはそんなこと言うような人じゃないし、周りからそう言われてもそれを跳ね返すだけの心の強さを持っているからね」

 

「まあ、何かあったら私にも言っ て、できる限りでなら力になるから」

 

「ありがとう」

 

「いいのよ。何度も助けられてる し」

 

チャイムがなったので話はそこで 終わった。

 

ちなみに和樹と沙弓が女に賭けた ことによって釣られて何人かが女に賭けたらしい。いつもなら乗ってこない二人が賭けに入ってきたことに何かを感じ取ったようである。

 

 

 

 

 

 

 

「はいはい、お前らさっさと席に 着け、ついでに黒板の文字誰か消しておけ!」

 

チャイムが鳴り、B組の担任である自称バンパイア のゲーム狂女伊庭かおりが教室に入ってきた。

 

「今日は転校生を紹介する。宮 間、入ってきて」

 

「はい」

 

かおりに言われて入ってきたの は、昨日和樹の下に現れた三人の一人宮間夕菜であった。

 

(やっぱりあの子だったか・・・ さてと・・・)

 

和樹は鞄の中から何かを取り出し 始める。

 

クラスの連中は、その夕菜の可憐 な外見に見とれている。特に男子はクラス始まって以来の清純美少女がやってきたと騒ぎまくっている。

 

あちこちから、『かわいい!』だ の『可憐だぁぁ!』とかなにやらメモを取る者、さらにはどさくさに紛れて写真を撮っている者までいる。

 

さすがB組とでも言っておこうか・・・

 

そんな中、和樹は鞄から取り出し た物へ魔力を込めている。

 

「静かにしろお前ら! じゃあ、 宮間自己紹介してくれ!!」

 

「はい・・・・・・・・初めまし て、宮間・・・・・・じゃなくて、式森夕菜。和樹さんの妻です。和樹さん共々、よろしくお願いします」

 

・・・・・・・ピシッ・・・・・

 

一瞬時が止まった。クラス全員が 凍りついた。まるで氷河期である。

 

「・・・・・・神代がいなくて良かった、本当に良かった・・・

 

ただ一人、沙弓だけは冷静にこの 場にいない子のことを思っていた。いたら即戦場、犠牲者の数は・・・・想像もつかないほどの犠牲者が出ただろう。一瞬にして校舎一つ・・・学校の敷地が焦 土と化したであろうと・・・沙弓は疑い一つ無くそう思った。

 

凍りついたクラスはすぐに解凍さ れ、沈黙は崩れ去った。クラスの氷は一気にとけ、亜熱帯地方の温度になったかと思うといっきに火山まで噴火しマグマに覆われた。

 

『し〜、き〜、も〜、り〜!!!(クラス中)』

 

とてつもなくダークなオーラと共 に、一斉に怒りと嫉妬と憎悪の視線が、和樹に向けられてくる。暗黒面も真っ青のダークさだ。

 

「式森! これはどういうこと だ!! 俺達の夕菜さんをいつの間に垂らし込めやがった!! 白状しろぉぉっーーー!」

 

『いつからお前らの物になったん だ』と言うツッコミを入れる者は、生憎この場には誰もいなかった。

 

「・・・・・」

 

クラスのダークな視線が和樹に集 中されているのを見てどうしているかなと沙弓は和樹を見た。

 

「僕は・・・何をやっているんだ ろう・・・・・・」

 

・・・・・別の世界に行ってし まっているようです。

 

「・・・・・・ごめん

 

沙弓は父に言われた和樹を助けて やれという言葉を実行することができないと感じた。

 

「式森!」

 

「・・・・・・仲丸、話をする前 に聞きたいことがあるんだけど」

 

「何だ!?」

 

「僕が賭けた二万円の倍返し、四 万円はどうなったの?」

 

「・・・・・・今はそんなこと」

 

「私の五万円。倍にして十万円は どうなったのかしら」

 

仲丸は和樹の言葉を無視して話を 戻そうとしたが沙弓がそれを許さなかった。

 

「まさか、騒ぎに紛れて自分のも のに使用なんて思ってないわよね。仲丸君」

 

ギンッ!

 

沙弓の言葉に女にかけていた者達 の目が仲丸へと向いた。和樹以上に敵意をむき出しにして仲丸を睨み付けている。

 

「十万円、早く渡してもらいま しょうか?」

 

「まっ、待てみんな、今は式森の 悪事を暴くほうが・・・・・・」

 

「和美、あなたも仲丸君と一緒に 賭けをやっていたんだから仲丸君が逃げたら自腹きってでも渡してもらうわよ」

 

『仲丸、松田!!』

 

「みんな! お金とこの騒ぎどっ ちが優先すべきこと!!?」

 

『金だ!!!』

 

クラスの視線は全て二人へと向け られた。人の不幸を見るよりも何よりも目の前の金である。

 

「逃がしちゃだめよ!! 周りを 囲んで!!」

 

『おおっ!!』

 

沙弓の指揮の下、仲丸と和美は逃 げ道を失った。

 

すでに夕菜は完全にかやの外、か おりもゲームを出して遊び始めている。

 

仲丸は状況が不利と考えたのか女 に賭けた全員に不承不承ながらも金を渡した。

 

「では、式森、貴様一体何をした んだ!?」

 

「何で夕菜さんがお前なんかと、 いや、存在を知っていること自体が許されない」

 

「はいはい」

 

和樹は渡された四万円を財布にし まいながら話を聞いている。

 

「聞いているのか式森、なぜ貴様 なんかと夕菜さんが!!?」

 

「さあ、僕にも全く理解できない ので・・・」

 

「酷いです、和樹さん」

 

「夕菜さんをこいつから護 れ!!」

 

『オオオオオッッ!!』

 

「愛が欲しいか!!」

 

『オオオオッッ!!』

 

「金が欲しいか」

 

『ホシ イィィィィィッッッ!!!』

 

「目標式森和樹、攻撃開始!!  テェェェッッッ!!!!」

 

ドゴッン!!

 

仲丸の掛け声とともに魔法攻撃が 一斉発射された。

 

「いたぞ、向こう だぁぁぁっ!!」

 

廊下へと飛び出す和樹の姿を見つ けた仲丸が叫ぶ。

 

「殺せ!!」

 

「悪を倒せ!!」

 

「抹殺!!」

 

「瞬殺!!」

 

「和樹さん待ってくださ〜〜い」

 

皆、廊下へと飛び出し教室から人 がいなくなった。ついでに夕菜も一緒になって和樹を追っていった。

 

そんな教室に二人だけ人が残って いる。

 

「うちのクラスって以外に簡単な 術でも単純に引っかかる人達の集まりだったのね」

 

「拾い物で身を守れるとは思わな かったけどね」

 

一人は沙弓であるがもう一人はこ こにいるはがない人物である。

 

「でも、私以外誰も気がつかない なんて・・・・・・まあ、一人は除いて・・・・・・」

 

沙弓の視線の先ではあの騒ぎの 中、教卓に突っ伏し寝息を立てている伊庭かおりがいた。

 

「さて僕は今のうちに屋上にでも 行きますか」

 

この場いるもう一人、式森和樹は 伸びをしながら呟いた。

 

「でも術を使わなくても逃げられ たんじゃないの?」

 

「もちろん、逃げられたよ。僕の ことを鬼ごっこで捕まえることが出来たのはゲン爺たちや千早を除いたら片手で数えられる程度だからね」

 

「す・・・凄い自信ね」

 

沙弓は和樹の自信に圧倒される。

 

だが実際にこのクラスの中では和 樹を真の意味で捕まえることが出来るものなど皆無だ。沙弓自信も和樹を捕まえる自信などない。千早と二人でなら何とかなるかもしれないが一人でなど不可能 だ。

 

「それに源氏爺が何て呼ばれてい るか言っているでしょ?」

 

「その力を受け継いで使いこなし ている式森君も凄いわよ」

 

「力だけでも・・・何の意味も無 いけどね」

 

そう言うと和樹は教室を出て行っ た。

 

「『力だけでも・・・何の意味も ない』か・・・」

 

沙弓はその言葉の意味にどれだけ 重みがあるのか、まだ理解できていない自分がいるような気がしてならなかった。

 

 

 

 

 

 

 

屋上に上がる和樹はレオンを見つ けてその横に座った。

 

「カズ、授業はどうしたの?」

 

「よく言うよ。レオンの耳なら何 があったか聞こえていただろ」

 

「・・・昨日の話し聞いてなかっ たのかな?」

 

「あるいは相当わがままに育てら れたか? 善悪がつかないか? どちらにせよ、僕は自分の思う道を進むだけだ。他人がどうとかそんなことで気持ちを変えたりはしない」

 

騒ぎが治まるまで時間を潰そうと 和樹は趣味の曲作りをしようと持って来ていた作詞ノートに曲を書き始めた。

 

「曲のテーマは何がいいか な・・・」

 

完全に自分の世界へ入っていく和 樹。嫌なことが忘れるんだよねとばかりに手はスムーズに動いた。

 

「・・・やっぱり、ここにいたの ね」

 

「!?」

 

「みんなからは隠れられてもあた しからは隠れられないよ」

 

「千早、いつの間に」

 

「ついさっきよ。かなり集中して いたから気がつかなかったみたいだけど」

 

「今授業中じゃないの? まあ、B組は別として・・・・・・」

 

B組は現在も学校中を走り回っているのだろう。時折、爆音と悲鳴が聞こえてくるから間違い ない。

 

B組の大暴走によってほとんどの クラスが授業を中止、F組は自習の状態よ」

 

「ゲッ!」

 

「それでどうするの?」

 

「どうするって?」

 

「この騒ぎをどうやって治める かってこと?」

 

和樹は少し考えるような顔をし て・・・・・・

 

「とりあえず放っておけば自然 に・・・・・・」

 

「そんなことしてたら学校が崩壊 しちゃうわよ」

 

「・・・・・・言えてる」

 

まさかそんなことと思う が・・・・・・和樹は否定することができなかった。

 

日頃の行いと蓄積された校舎への 傷が千早の言葉を現実にしてしまうように感じてしまったのだ。

 

「あっ、沙弓・・・・・・ えっ!」

 

「ん? 杜崎さんから?」

 

「そうだけど・・・う ん・・・・・・うん・・・あちゃ〜〜〜〜・・・・分かった伝えとくわ、ありがとね」

 

「で?」

 

B組はフーリガンも真っ青な暴 れっぷりだって・・・」

 

「はははははは・・・・・・発炎 筒とか飛び出したりして・・・・・」

 

「まさに大パニックだね」

 

「さらには風椿先輩と神城さんの 隠れファンクラブも混ざって収集不能状態」

 

「・・・・・・何であの二人ま で」

 

「三人が言い合いを始めたらそれ がタンクから流れ出た石油に火がついたように広がったって沙弓は言ってきたけど」

 

「はぁ〜、今日はこのまま帰ろう かな・・・・・・」

 

「そうね。ねぇ、帰りに気分治し にケーキ食べに行かない? 映子が美味しいお店教えてくれたんだ」

 

「いい「行く行く行く行く行く行 く行く行く行く行く!!!!!!」」

 

レオンが自己主張全開で賛成し た。目がケーキになっているのは勘違いでも見違いでもない。口からは滝のようによだれを流している。

 

「痛っ・・・そうだね、行こう か」

 

「和樹君の奢りね!」

 

「・・・・・・僕、今持ち合わせ が・・・」

 

「賭けで二万円ゲットしたんで しょ」

 

「うっ・・・」

 

なぜそれをとばかりに和樹は苦い 物を食べたような顔をして黙ってしまった。

 

「というわけでおごり決定! 食 べるわよ、レオン!!」

 

「あたぼうよ!」

 

二万円は軽く飛んだなと和樹は 思った。

 

甘い物は別腹という言葉がある が、特にレオンは底なしだ・・・・・・

 

賭けの金額を諭吉五枚にしとけば よかったと和樹は後悔した。

 

そんなとき和樹に行き成り誰かが 飛び掛った。

 

「か〜ずき、探したわよ」

 

「風椿先輩ですか・・・・・」

 

「玖里子って呼んでいいわよ」

 

「なら、『さん』付けで呼ばせて いただきます」

 

和樹に飛び掛ってきたのは風椿玖 里子だった。だが千早と違い誰かが近づいて来ていることは分かっていたのでたいした驚きも無い。

 

「もっと分りやすいところにいな さいよ!」

 

「そんなところにいれるならこん な所にはいません」

 

「和樹さんやっと見つけました よ、て、何してるんですか!!」

 

夕菜まで現れた。

 

「いいでしょ別に、奥さんなんだ から」

 

「和樹さんの妻は私です! これ は変えられない運命です!」

 

((いつ決めたの、その運 命!))

 

和樹と千早は呆れた。 

 

自分本意過ぎる、とかそういうレ ベルではない。完全に精神異常者だ。

 

「あら〜、別にいいじゃない。和 樹も嫌がっていないし、胸の大きな子が良いわよね、和樹だって!?」

 

「そ、そんな・・・・・そうなん ですか?」

 

玖里子は自慢のバストを和樹に押 し当てる。夕菜はその言葉に顔を青ざめるが和樹は別に気にしていない。男なら喜びそうなシチュレーションだが、和樹から返ってきた言葉は・・・・・・・

 

「独活の大木・・・・・・」

 

ピキッ!

 

玖里子の額に青筋が浮かんだ。つ いでに何かが切れるような音が聞こえてきたのは気のせいか・・・・・・

 

「か〜ず〜き〜・・・」

 

顔が笑っているのにどこか迫力が ある笑顔です。

 

「式森・・・・・・・貴様・・・ 朝から破廉恥なことを・・・」

 

和樹の目の前に白銀の光が当てら れた。その光は日本刀の刃、それも完成し磨かれたばかりのように光り輝く刃であった。そして、この学園を探してもそのままに本当を持ち歩いている生徒など 一人くらいである。

 

怒りのオーラを隠そうともしない 女性。神城凛が現れた。

 

「あはよう、神城さん」

 

「おはよう」

 

「オッハー!」

 

目の前に刃が当てられているにも かかわらず和樹は平然と挨拶をした。千早とレオンも凛に向かって挨拶をする。

 

「誤魔化そうとするな、式森。昨 日は少しお前に対しての見方を考え直したが、やはりどうしようもない男だ、お前は!!」

 

そう言って、刀の構えをとり斬り かかった。

 

「凛、止めたほうがいいわよ。あ なた昨日簡単にあしらわれたばかりじゃない」

 

「玖里子さんは黙っていてくださ い!」

 

凛は和樹に斬りかかることを止め ない。だが全て和樹に軽くかわされている。

 

「どうかな、知り合いに頼んで打 ち直して貰ったけど刀の具合は?」

 

「ふっ、貴様で試し斬りしてや る!!」

 

凛の刀を昨日和樹は折ってしまっ た。刀が折れたのがショックだったのか凛が落ち込んでるのをみて、和樹は凛の刀を知り合いの刀鍛冶に頼んで直してもらったのである。

 

「そうそう、ついでに刀の使い主 にって伝言頼まれたんだけど『下手な使い方しよって、刀が泣いてるぞ』って言ったたよ」

 

「!?」

 

和樹の言葉に凛はさらに勢いを増 して刀を振るった。

 

だが和樹にはかすりもしない。

 

「私を舐めているのか、攻めてこ い、式森!」

 

「・・・・・・分からない子だ な」

 

和樹は凛から間合いを取るとそこ に腕を広げて立った。

 

「なら一太刀僕を斬らせて上げる よ。本当の僕を斬ることができるならね」

 

「貴様・・・なら望み道理に斬っ てやる!」

 

凛は一気に間合いをつめて和樹を 上段、右肩から人たちを浴びせた。

 

「えっ!」

 

だが凛の刀は和樹の身体を斬るこ とはできなかった。刀の動きが途中で止まりそれ以上斬ることができなかった。

 

夕菜と玖里子はその光景を見て言 葉を失っている。

 

凛の刀は和樹へと深々と斬りか かった状態で止まっているのだ。

 

「か、和樹さん」

 

「か、和樹」

 

凛は刀を手放しその場へと尻餅を ついてしまった。手が震えて次第に身体も震え始める。

 

「わ、私は・・・・・・本気 じゃ・・・・・・」

 

「神城さんは人を斬るのは始めて なのかしら」

 

「!?」

 

「本気じゃなかった? 随分ふざ けたこと言っているわね、刀で斬ればどうなるかわかっているはずよ」

 

「で、でも・・・」

 

「避けると思っていたから、だか ら斬りかかったの?」

 

凛は千早の言葉に反論することが できない。

 

「和樹君を斬ろうとしてたのにい ざ斬ったら本当は斬る気じゃなかった・・・・・・自分勝手なのもいい加減にしなさい!!」

 

千早の怒りの篭った声に凛は身体 が縮こまった。

 

「自分が手にいている物が人の命 を奪える物だって分かっていたはずよ。本気じゃなくても刀を抜けば、それは人を斬り殺してしまえるものなのよ。それを理解してあなたは刀も持っていたん じゃないの? 何も考えないで刀を振り回しているからそうなるのよ!」

 

千早はそう言うと刀が刺さったま ま立っている和樹の下へと近づき刀の柄を握ると一気に刀を引き抜いた。

 

「そして、何の決意も無い一太刀 だから何も斬ることができないのよ」

 

そう言うと千早は上段から刀を目 にも留まらぬ斬撃で和樹を斬りふせた。和樹の身体は半分に斬られ地面へと倒れる。

 

その光景に三人は言葉を完全に 失った。

 

「昨日のことだってそうよ。何も 考えないで和樹君のところに来て好き勝手するあなたたちみたいな人があたしは大っ嫌いなのよ。相手の気持ちも考えないで自分の考えをただ押し付けてくるよ うなあなたたちみたいな人がね」

 

千早は三人を見ながら自分の思い を隠すことなくぶつける。

 

「あなた達、自分が和樹君の立場 に立ってみたらってあの後考えてみた。きっと考えてないから平気な顔でまた和樹君の前に出ることができるんでしょうけどね。考えたなら抱きついたり、好き 勝手言ったり、斬りかかったりなんてできるわけがないはずだもの。和樹君は優しいからあなた達のことを昨日助けた。でもあなた達のしたことを許したなんて 思わないで、あたしも昨日のことを決して許したわけじゃないのよ。和樹君のことを理解してくれると思ったから、和樹君に嫌な思いをさせたくないから昨日は 何も言わなかっただけよ。でもあなたたちは何も理解しようとしていない昨日と同じままよ」

 

千早の言葉に圧倒されていたが玖 里子が反論しようとする。

 

「ちょっと待ちなさいよ。ならあ なたはどうなのよ。和樹のこと全部理解しているの、あいつが思ってることなら全て理解できるとでも言うの?」

 

「・・・できないわよ」

 

「ふん、ならあんただっ て・・・」

 

「出来るわけないわよ。和樹君が 今までどれだけ苦しい思いをしてきたなんて誰も理解できないわよ!! 和樹君の身になって同じ苦しみを感じた人じゃなければ和樹君の全てを理解できるわけ なんてない、何度も死にそうになって、それでも必死になって生きてきた和樹君の苦しみを全部理解できるならあたしだってしてるわよ!!!」

 

「っ・・・・・・」

 

玖里子は千早の言葉に何も言い返 せなかった。

 

千早のいうように和樹と同じ体 験、同じ苦しみを受けることはできない。自分は和樹ではないのだ。和樹百パーセント同じになることはできない。千早は和樹と同じ苦しみを何度も体験してき たがそれでも完全に和樹と同じ体験をしたとは言えない。千早は千早、和樹は和樹。千早が和樹に代わることはできないのだ。

 

「・・・・・・千早、もうそれ以 上は止めるんだ」

 

『!!?』

 

三人が驚いて振り返ると屋上にあ る貯水タンクの上に和樹が座っていた。

 

「千早の気持ちは分かった。でも それ以上は僕も聞くのは耐えられない」

 

「・・・・・・」

 

千早は無言で頷いた。

 

顔を伏せているが地面に涙が流れ ているのが分かった。

 

「な、なんで?」

 

「何で僕がここにいるか?」

 

「だ、だってあそこ に・・・・・・」

 

「あれは・・・・・・」

 

三人の視線の先には千早に真っ二 つに斬られて地面に倒れている和樹の姿がある。

 

それを笑いながら和樹は見ていた が種明かしをすることにした。

 

「神城さんに言ったはずだよ。 『本当の僕を斬ることができるなら』って・・・」

 

タンクから飛び降りると和樹は三 人の横をすり抜けてまず千早のところに行った。

 

「ごめんね、千早。僕の変わりに こんなこと言ってくれて」

 

「ううん、あたしは大丈夫」

 

「約束通り今日は帰り、ケーキ食 べて帰ろうね」

 

「も〜お、あたしは子供じゃない んだよ」

 

和樹の胸を叩きながら千早は怒っ たように言うが顔が笑っている。

 

(やっぱり、千早は笑っていると きが一番だな)

 

和樹は自分が倒れている所に行き 刀を拾い上げるとそれを凛が落とした鞘に収めて凛に返した。

 

「君が斬ったものが何だか教えて あげるよ」

 

そう言うと和樹は胸の前で指を左 右の人差し指と中指を重ねた。

 

現成真姿(げんせいしんし)」

 

呪を唱えると重ねていた手を払 う。

 

「!?」

 

「あれって!?」

 

凛と夕菜が驚き声を上げた。地面 に倒れていた和樹は姿が消え変わりに半分に切られた人型の紙が落ちていた。

 

「あ、あれって、あたしの剪紙成 兵」

 

玖里子は三人の中で一番驚きの声 を上げた。自分の剪紙成兵がなぜ和樹に化けていたのか理解できない。

 

「昨日の騒ぎで何枚か人型が落ち ていたので有効利用させてもらいましたよ。もちろん僕の魔法を使い、改良を加えてですけどね」

 

「い、いつから・・・」

 

「玖里子さんが屋上に上がってい たときには摩り替ってました。後はタンクの上から僕の意思で動かせば言いだけです。僕の魔力を込めれば人となんら変わらない、簡単に言ったら糸のない人形 みたいな物ですから」

 

「そ、それじゃ、私が相手にして いたのは・・・・・・」

 

「『本当の僕を斬ることができる なら』・・・最初から騙されていたことに気がつかないなんて・・・それに斬ったときに感じは似せてはいたけど、少なからず違和感を覚えるようにしたんだけ どな・・・正直予想外だったよ」

 

「くっ・・・」

 

凛は和樹を再び睨みつける。

 

「また気に入らないから僕を斬る かい?」

 

「き、貴様なんかに」

 

「君の刀じゃ僕は斬れない。君の 剣ははっきり言って汚い」

 

「な、何だと!?」

 

和樹の言葉に凛は再び刀を握りし めた。

 

「事実だ。君は決意もなんも無く 剣を持ち歩いて、何の覚悟も無く剣を抜いている。そんな剣なんて目をつぶっていても避けることが出来る」

 

和樹は左手首につけている魔法具 を外すと黒刀へと変化させた。

 

「掛かってきなよ。今度はちゃん と相手になってあげる」

 

和樹を取り巻く雰囲気がガラッと 変わった。三人は目の前にいるのが本当に和樹なのかと思うほど雰囲気が変わった。

 

「・・・・・・・・・」

 

凛は刀を鞘から抜こうとするが手 が震えて抜くことができない。それが和樹に対する恐れだと身体は正直に反応するが頭では理解できない。

 

「手が震えているね。怖いのか な」

 

「だ、だれが・・・」

 

凛は言い返すが刀は鞘から一向に 抜くことができない。手が柄に触た瞬間から意思に鳴ってしまったように・・・

 

「君が僕の言葉に苛立っているの は事実だと認めているからかな」

 

「ち、違う」

 

凛は否定するが身体まで震えだし てくる。

 

夕菜と玖里子は話に入っていくこ とができずただ見ていることしかできない。

 

「君の剣は自分を否定しているよ うにしか見えない」

 

「違う!」

 

「君は自ら進んで剣を握ったん じゃない」

 

「違う!」

 

「君を縛り付けているものはその 剣術自身だ」

 

「違う!!」

 

凛は刀を抜くことに成功したが今 度は刀をきちんと握ることができない。

 

和樹の言葉に動揺してどうしたら いいのか分からなくなっているようである。

 

「君がなぜ自分をそこまで否定し ているのか分からないけど、それを他人にぶつけることは間違いだ」

 

「私はそんなことしていな い!!!」

 

「ならどうして泣いているんだ」

 

凛の瞳からはすでに大粒の涙が流 れて止まらなくなっていた。

 

「うわぁぁぁっ!!」

 

凛は和樹の言葉を否定するように 刀を振りかぶった。

 

「・・・・・・」

 

和樹は振り下ろされる刀を無言で 受け止めた。

 

「あっ!」

 

「えっ!!」

 

「うそっ!!」

 

凛だけでなく見ていた夕菜と玖里 子も驚きの声を上げた。

 

和樹は凛の刀を受け止めている。 だがその光景がとても信じられなかった。

 

「・・・・・・・・・」

 

和樹は刀の先端で凛の刀を受け止 めていた。刀幅数ミリという紙の薄さよりも薄いのではと思うほどの狭い幅で刀を受け止めていたのだ。

 

「はっきり言って・・・君の剣は 見苦しいだけだ!」

 

和樹は凛の刀を黒刀で巻き上げ刀 を弾き飛ばした。 

 

「・・・・・・・・・」

 

「続ける?」

 

凛の喉下には刀が突きつけられ、 少しでも動けば喉に刺さる状態である。

 

凛の背中に冷たい汗が流れた。

 

違い過ぎる・・・・・・

 

和樹の剣捌きは自分などとは比べ 物にならない。剣捌きだけでない、精神的面において、全てにおいて和樹は自分の上に立っている。それも、はるか遠くに・・・・・・

 

凛はただ首を横に振ることしかで きなかった。

 

和樹は黒刀を引き腕輪に戻した。

 

「自分が何のために力を持つのか 良く考えるんだね。自分勝手な理屈と正義を振りかざして闇雲に力を振るう者・・・・・・それはただの破壊者でしかない。力を持ち続けるならそのことだけは 忘れないでね」

 

それは自分にも言えることだと思 いながら和樹は言った。

 

「今のことは二人にも言えること だ。僕のことを家に入れようとしても無駄ですよ。宮間さん、言っておくけど僕のことを無理矢理宮間家に入れようとしても無駄だ。玖里子さんも葉流華さんに 言えば上のお姉さんの言ったことを撤回してくれますから無駄なことはしないほうがいいですよ」

 

「そんな、私は自分の意思 で・・・」

 

夕菜は家の命令じゃなく自分の意 思でここにいるのだと主張する。

 

「なら尚更だ。君は僕が嫌がるこ とばかりする、さっきの教室でのことも僕のことなんて全く考えていない自分勝手なことだ」

 

「そんな私は和樹さんの妻なんで すから当たり前の・・・」

 

「僕は君の妻になんてなっていな い。君が勝手に言っていることだ、昔の約束も僕は断った。僕は他人に簡単に振り回されるような弱い心、自分で自分が認められなくなるようなそんな考え持つ 気も、そんな生き方をする気もない」

 

和樹の強い意思に夕菜と玖里子は 何も言い返せなくなってしまった。

 

「玖里子さんのお姉さんの葉流華 さんは僕のことを遺伝子や魔力なんか関係なく接してくれるから交流を続けている、虚像の式森和樹を作らず、偽りのない式森和樹としてね」

 

「葉流華姉さんが?」

 

玖里子は和樹の言っていることが 信じられないのか、疑いを消せないようだ。

 

「玖里子さんが葉流華さんのこと をどうみているか分かりませんが、あの人は人を魔力だけで判断したりなんてしませんよ。はっきり言っておきます、友人としてならこれからも君達と会ってい い。でもそうでないなら僕はもうあなた達とは関わる気はない」

 

「まあ、すぐに気持ちって変わる もんじゃないからね」

 

今まで黙っていたレオンが和樹の 前に羽を羽ばたかせながら話し出した。

 

「とりあえず、約束して欲しいこ とはカズのことを周りに言いふらしたりしないことだね。本当に友人としてやっていくつもりなら」

 

レオンは和樹と千早が感情的に なっていると判断したのか三人と話し出した。

 

「まあ、気楽に・・・・・ん?」

 

レオンの耳がピクピクと反応す る。

 

「・・・・・・何かすごい地響き が聞こえてくるんだけど・・・」

 

「・・・・・・」

 

「・・・・・・ばれたかな」

 

レオンの言葉に和樹は無言で、千 早は時計を見ながら『時間だもんね』と言っている。夕菜達、三人は何のことだか分からずキョトンとしている。

 

「沙弓、そっちはど う?・・・・・・あ、やっぱり時間切れ・・・うん・・・」

 

「千早、杜崎さんなんだって?」

 

和樹の杜崎という言葉に凛と玖里 子が反応した。

 

「ねぇ、杜崎って・・・」

 

「沙弓のこと? 退魔師のあの杜 崎だけど」

 

「まさか、杜崎も私達と」

 

「そんな馬鹿なこと杜崎家はする わけないよ。沙弓は中学からカズと千早の同級生だよ。父親はカズの祖父、源蔵とカズが生まれる前からの知り合い。三人と違ってやましい考えを持って式森に 近づくような人じゃないんだよ」

 

「うぐっ!」

 

レオンに軽く言い返され玖里子は 何も言えなくなってしまった。

 

「うん、そう・・・じゃあ階段か らは無理か・・・・・・えっ、もうすぐ着く・・・」

 

「・・・着くみたいだね」

 

だんだんと地響きが近づいてくる まるで地震が起きているかのような揺れが屋上を揺らし始めた。

 

「な、何ですか?」

 

「すぐ分かるよ」

 

ドガガガガガガァァァッッッ ン!!!

 

夕菜や玖里子、凛が何ごとかと和 樹に聞いたまさにそのとき屋上の扉が派手に破壊・・・いや、吹き飛ばされどこかへ消えていった。

 

「し〜き〜も〜り〜!B組と風椿、神城の隠れファンクラブの人たち)

 

B組と風椿、神城の隠れファンクラブの人が目の色を変えてそこには立っていた。

 

「理解できました?」

 

和樹は大して慌てた様子もなく三 人へ言った。

 

納得とばかりに首を縦に振る三 人。

 

「・・・時間切れってのは?」

 

「玖里子さんが落とした剪紙成 兵、あれ一枚じゃなかったんで身代わりに学校中を逃げ回ってもらっていたんですよ。魔法で強化して攻撃に耐えられるようにしたんですけど、やっぱ葵学園、 みんな魔力が高いだけあって長持ちしなかったな」

 

今度はもっと魔力を込めようとか 改善策を考える和樹にもはや玖里子は言葉が出なかった。

 

自分の剪紙成兵が紙屑に思えてき たのは気のせいではない。

 

そんな中、屋上に現れた獣達は和 樹への距離を縮めていた。

 

その目は嫉妬、怒り、憎しみ、羨 ましさに溢れていた。

 

みんな敵意むき出して和樹を睨 む。

 

「貴様! 夕菜さんに何をした!  それと風椿玖里子さんと神城凛ちゃんだと!! 学園中の美少女お前はのっとる気か!! しかもしかも・・・・・・去年の学園料理女王、山瀬さんといつも 一緒にいやがって、さらには毎日弁当を食べて・・・・貴様幼馴染だからって人前でいちゃいちゃし過ぎなんだよ!!」

 

仲丸がみんなを代表してそんなこ とを叫んだ。

 

『そうだそうだ!!』と涙を流し ながら叫んでいる人が見えるのは気のせいではない。

 

最後の辺りは和美が『確かにそれ は納得』とか呟いていた。

 

「いや、それほどでも」

 

「褒めてない!!」

 

『バカップル全開ね』と和美が後 ろで呟いていたが誰も聞いていない。

 

「とりあえず、千早以外は手を出 すつもりもないし、のっとる気もないは盲等ないけど・・・・・」

 

「だまれ!!!」

 

「人でなし!!!」

 

「悪魔!!!」

 

「女の敵!!!」

 

「魔力七回!!!」

 

「童貞!!!」

 

「学園の敵!!!」

 

「能無し!!!」

 

「女ったらし!!!」

 

「馬鹿!!!」

 

「あほ!!!」

 

「ぼけ!!!」

 

「この豚が!!!」

 

「どこ見てんのよ!!!」

 

「助けてください!!!」

 

あっちこっちから勝手なことを 言ってくる。まったく和樹の話しを聞いていない。

 

しかし最後のほうは・・・・・・ 一体誰がいったんだ?

 

(・・・レオン、千早、ここから 逃げるよ)

 

念話で二人に呼びかける。

 

(わかった)

 

(ケーキ、ケーキ!!)

 

レオンはなぜかこんな状況でもノ リノリである。

 

千早はレオンと手を握るとテレ ポートで屋上から消えた。

 

和樹も自分の身代わりの剪紙成兵 を作ってこの場を離れる。

 

三人は和樹達がいなくなったこと に気が付くことができず魔法攻撃の雨に巻き込まれそうになりながら屋上から二十分後に何とか脱出した。

 

言うまでもないがこの日、授業は すべて休校になったらしい。

 

ちなみに屋上から逃げた和樹と千 早は一日デート、レオンのおまけ付きで楽しんだ。もちろん映子お勧めのおいしいケーキ屋へ行き三人で一万円を超え、二万円分を見事に食べたのであった。

 

 

 

 

『レオンのインフィニティールー ム!』

どうも、レオンです。

というわけ、夕菜が転校してきて 爆弾発言! 

実は校舎はB組が屋上に来たとき は下の階はぼろぼろに・・・

業者は再び校舎の修復工事 へ・・・

葵学園七不思議の一つ、校舎がい つの間にか新しくなっている真相はこの工事に合ったのであった。

しかし沙弓、何で五万も持ってい るの?

 

 


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