まぶらほ  無限の魔力

 

 

 

 

出会い編

第八話 引越し騒動

 

 

和樹は朝が非常に弱い人間で合っ たりする。

 

日曜にもし誰も彼を起すものがい なければおそらく昼過ぎまで爆睡していることも可能であろう。さらに日曜は目覚ましを絶対に欠けない主義なのである。それが眠りをさらに深いものとしてい た。

 

そのためたいてい日曜日は千早が 朝食を作りに部屋を訪れるのである。

 

おはよう・・・よく寝るわね」

 

和樹の部屋を訪れた千早が見たの は・・・ベットの上で鼻ちょうちん膨らませながら爆睡する和樹とレオンに姿であった。

 

「ZZZZZZZZZZZZ・・・・・・・・・」

 

「ZZZZZZZZZZZZ・・・・・・・・・」

 

もちろん千早がいることになど全 く気がついていない。あえて言うなら心を許しきっている千早だから気がつかないのでもあるが・・・・・・

 

「・・・・・・(ゲシッ!)」

 

パシッ!

 

パンッ!

 

「ZZZZZZ・・・・・レオン覚えてろよ・・・」

 

「そっちこそ・・・」

 

「・・・・・・毎度ながら・・・ 器用な寝言よね」

 

レオンが寝返りを打ち和樹の顔に 足がぶつかり、鼻ちょうちんが割れた。同時にレオンの鼻ちょうちんも割れお互いに文句を言い合いながらさらに眠り続けた。

 

二人寝言のやり取りに千早は感心 するしかない。

 

よく会話が成り立つものだ。

 

だがこれは一度や二度ではない。 というより子供の頃から見ているだけに千早も慣れてきていたりする。

 

「さて、朝食の準備しなくっ ちゃ!」

 

そう言うと、千早はエプロン(和 樹とペアルックで買ったもの)をつけてキッチンに向かった。

 

「・・・(ピクッピクッ)・・・朝飯!!」

 

朝食を作り始めて十分後、卵焼き と味噌汁と匂いにつられてレオンが覚醒した。

 

「あっ、おはよう、レオン。もう すぐできるから!」

 

「サー・イエッサー!」

 

どうやら千早の作った朝食の匂い で完全に覚醒したようである。

 

「レオン、そっちのお皿持ってき て・・・・そうその丸いの!」

 

「O〜K〜!」

 

「よしできた!!」

 

テーブルには朝食が綺麗に並べら れた。

 

「さて、和樹君を起すとする か!」

 

和樹は未だに爆睡中。寝る子は育 つである。

 

「和樹君、ご飯できたわよ!起き て!」

 

「・・・・・・ZZZ

 

「早く起きないとご飯冷めちゃう よ」

 

「ZZZZZZ・・・・・・・・・」

 

起きる気配まるでなし。

 

千早は和樹の寝顔を覗き込む。こ れでもかというくらいに気持ち良さそうに眠っています。

 

「どうやって起そうかな・・・」

 

和樹の起し方を千早は考える。

 

昔、和樹の母と自分の母親がやっ ていたやり方はどうだろうかと考えたがあれは自分一人では力不足の・・・その上、まだ未完成の技である。

 

ちなみにその技とは寝ている人の シーツを問答無用に一気に奪い去り、さらにそのまま床へと落とす荒行事ともいえる危険な技である。だが凄いのは、母親達はその技が達人レベルであるという ことである。なぜその領域まで言ったかというと和樹の父親、千早の父親(四人は幼馴染であるのだ)二人を起すために母親二人が子供の頃から面白半分で繰り 返し行っていたからである。ちなみに達人レベルまでいくとシーツを引く速さが神速の域に達するために人の身体が空中で何回も回転する。ちなみに父親達の最 多回転数は二人とも八回が最高らしい。ちなみに和樹を二人が起したときは五回転半を見事に決め和樹の身体は床へと叩きつけられていた。

 

それを見た千早はあまりの綺麗に 決まった、ある意味芸術的とも言えた光景に見とれて悶絶する和樹を忘れて拍手をしてしまったほどである。

 

その上他にも技がありレオンの腹 の上に「レッツ・ダイブ!!」も二人の編み出した技の一つである。

 

技を受けたときの三人の感想は 『この世の裏側を見た気分だ!』と言っていた。

 

さて話を戻して和樹を起してみよ う。

 

「まずこれからやってみよう」

 

そう言うと千早は和樹の耳元に近 づいていく。そして・・・

 

「ふぅ〜〜・・・」

 

和樹の耳元へ息を吹きかける。ち なみにこれも母親達の技の一つである。ちなみにこれは初級者レベルの技である。

 

ついでにこれで和樹を起すのは初 めてでないのは言うまでもないことである。

 

「ビクッ! ・・・・・・ZZZZZZ・・・・・

 

「あれ・・・やっぱ、駄目か な・・・」

 

和樹は一瞬反応を示したが目が開 くことは無かった。

 

「う〜〜〜〜ん・・・・・・なら あの技を出してみようかな」

 

『千早、和樹を起すには粘りが大 事よ』

 

『諦めたらそこであなたの負け よ』

 

母親達が自分にいっていたことが 頭を過ぎる。

 

「山瀬千早、いきま〜す!」

 

モビルスーツのパイロットのよう な掛け声とともに千早は再び和樹を起すために動く。

 

千早は和樹の鼻を手でつまむと和 樹の口を自分の口で塞いだ。

 

つまりキスしたわけです。

 

「・・・・・・!!!? ぶ はぁ・・・はぁ・・・」

 

「プハ〜〜〜〜・・・・起きた、 和樹君」

 

飛び起きた和樹は一体何が起こっ たのかとばかりに部屋を見渡した。

 

「・・・・・・・・・ち、千 早・・・今のは・・・?」

 

「おはよう和樹君」

 

「お、おはよう」

 

「朝ごはん冷めちゃうから早く顔 洗って来てね」

 

「はい」

 

和樹は反論することもできずただ 返事を返すしかなかった。千早の顔は笑顔なのだが底知れぬ圧力が和樹を襲っていた。

 

ちなみに千早が和樹を起した技の 名前は『お目覚めのキッス♡』と母親達は命名していたが、父親達は『デス・キッス(死を呼ぶキス)』と呼んでいたりする。

 

(父さん、おじさん。僕もついに 死を垣間見たよ)

 

先の話に成るがこのことを父親達 に話したら『そうか、お前もやられたか』としみじみ呟いたとのこと。

 

「・・・・・・日曜日も目覚まし かけよう・・・・・・ついでに二個増やそう」

 

自分の命を護るために和樹は目覚 ましを増やすことを密かに決意した。

 

「カズ、早く食べようよ!」

 

レオンはすでに箸を手に持ち戦闘 準備が整った状態で和樹を呼ぶ。

 

「わかった・・・」

 

(得したのか得してないの か・・・・・・)

 

「ふぁ〜〜〜〜・・・・・・」

 

とりあえず和樹は顔を洗うために 洗面台へと向かった。

 

ちなみに食事中には寝起きのこと など忘れてバカップルモード全開の和樹と千早がいるのはいうまでも無い。

 

ついでにレオンは朝からご飯を茶 碗(どんぶりに近いでかさです)に五杯分、約六合、さらに味噌汁五杯、おかずは和樹と千早の量の倍を軽く平らげたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

「和樹君、今日買い物付き合って くれない?」

 

「いいよ!」

 

平和だ。とても平和でラブラブな 光景だ。

 

洗い物を片付けながら会話をして いる2人。まさに、新婚夫婦! 

 

レオンは満腹になったのか部屋の 中に寝転がっているというより完全に寝ている。

 

その姿は校庭に転がるサッカー ボールか、体育館に転がるバスケットボールか・・・・・・

 

「天気もいいし、久しぶりにお昼 は外食しようか?」

 

「あっ、じゃあ行ってみたいとこ ろあったんだ。そこいこっ!」

 

「いいよ」

 

二人は早く出かけたい思いからか 洗い物のスピードが上がった。

 

だが平和とは壊れるためにあるの だろう。

 

『引越しのブンコ』と書かれ、つ いでにわけのわからないキャラクターの描かれたダンボール箱が和樹の頭の上に降ってきた・・・それも大量に・・・・・・

 

「ふっ・・・とっ・・・ とっ・・・ふっ・・・ふぎゃぁぁぁぁーーーー!」

 

修行で鍛えた感覚で最初の二、三 個はかわすことが出来たが一気に箱が落ちてきて逃げ道が無くなり見事にはこの下敷きと成った。

 

ちなみにダンボールの角が頭に当 たる、それも中身満載。さらに箱は留まることを知らない次から次へと和樹の下へ落ちてきた。これはかなり痛い。いや身体が見えなくなるまでの量が落ちてき たら無事ではすまないだろう。

 

和樹は猫が尻尾を踏まれたような 声を上げてダンボールに埋まりそのまま動かなくなった。

 

「か、和樹君、大丈夫!?」

 

千早は慌てて和樹の上に落ちてき た箱をどかす。二、三個ダンボールを退かすと和樹の手が見えた。

 

「・・・・・・・・おでかけ・・・・」

 

ダンボールに潰されながらも千早 と出かけることは忘れていないようである。和樹はこの山からはいずり出る。凄い種念である。

 

「僕と千早のデートを邪魔するも のはすべて排除!」

 

和樹は魔法を使うとダンボールを 全てテレポートしてきた場所へと返した。

 

「和樹君、瘤できてるよ・・・」

 

千早はすばやくタオルを水で濡ら すと和樹の頭の瘤へと当てた。

 

「ありがと・・・あ〜〜きく 〜〜〜」

 

冷たさが瘤にちょうどよく痛みが 引いていく感じがした。

 

「部屋にダンボールが降るなんて 聞いてないよ。天気予報の嘘つき、ヨシ〇ミの馬鹿!!」

 

普通そんなことあるわけないです から当たり前です。

 

「さっさと出かける準備して部屋 をで・・・・・・みぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

まさにカウンターのカウンターと でも言おうか。

 

和樹が送り返したと同様のダン ボールが見事に全て和樹の上空へと現れ再び和樹をダンボールの山の下へと押しつぶした。

 

「・・・・・・こ、これしき で・・・」

 

ドスン!

 

不屈の闘志で這い出そうとする和 樹そこへ止めの一撃が下りてきた。

 

「何で戻しちゃうんですか!?  せっかく送ったのに・・・あれっ!? 和樹さん・・・・・・」

 

数個のダンボールとともに現れた のはテレポートしてきた夕菜であった。だが和樹の姿がないことに気づき辺りを見渡す。

 

「み、宮間さん、速くそこどい て!」

 

「何で山瀬さんがいるんです か!?」

 

夕菜は千早が和樹の部屋にいるこ とが気に入らないのか騒ぎ出す。だが千早はそんなこと全く聞いていない。

 

「いいから速くそこどきなさ い!」

 

夕菜をどかすと千早は再び和樹発 掘作業を開始した。

 

ダンボールをどかすとそこから和 樹の姿が現れ夕菜も慌ててダンボールを退かす。

 

「和樹さん、大丈夫ですか!?」

 

ダンボールをどかしながら夕菜が いうが・・・

 

大丈夫なわけがない。

 

ダンボールの山から出てきた和樹 は白い灰のようになっていた。

 

「ち、千早・・・僕は燃え尽きた よ」

 

有名な決め台詞とともに和樹は燃 え尽きたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

灰から人間へと戻った和樹の頭に は見事なこぶが二段重ねでできた。こぶだけですむのか疑問であるが・・・

 

「・・・・・・で、宮間さん」

 

「夕菜って呼んでください」

 

和樹と千早はそう呼ばなければ話 は進まないなと思った。仕方なく百歩譲って夕菜と呼ぶことにする。

 

「で、夕菜。一体このダンボール 箱は? いっ!」

 

和樹は大きな声でないにもかかわ らずこぶに響いたのか涙目で言った。

 

「えっ? これですか?」

 

「それ以外に何があるの?」

 

千早がこぶを冷やし始めてくれた おかげか、痛みが少しひいてきたようである。

 

「荷物ですけど、なにか?」

 

「誰の? そして何で僕の頭の上 に落ちてくるの?」

 

「え〜〜と、これは私の引越し用 の荷物で、和樹さんの頭の上に落ちたのは偶然か神様のいたずらかと・・・」

 

神様、悪魔のバイトはやめましょ う。

 

「・・・・・・ちょっと待って。 今引越しの荷物って言ったけど、ここは男子寮よ」

 

「いいんです! 私はここに住む んです! 夫婦ですから!」

 

「・・・千早」

 

「え〜・・・紅尉先生の番 号・・・保健室のほうがいいかな・・・」

 

どっちに電話しようかと電話の横 に書かれたメモと睨めっこする。

 

「ちょ、ちょっと待ってくださ い。和樹さん、約束してくれたじゃないですか!?」

 

「いつ? どこで?」

 

「二人の再会の日にです!!」

 

「言った覚えはない!」

 

断言する。

 

「そんな忘れるなんて・・・」

 

「・・・・・・君の妄想だよ」

 

どうしてここまで自分に都合よく 物事を解釈することができるのか・・・

 

(夕菜の頭の中ってドラえもんみ たいにネジ一本抜けてるのかな・・・ついでに生まれてすぐに高いところから落下したとか・・・・・・)

 

そのまんまドラえもんだろ、そ れ・・・

 

「第一学校の規則で原則、女子は 朝霜寮に入ることになっているんだからそんな自分勝手なことは許されない」

 

「でも私たちは夫婦・・・・・」

 

「だからそれは夕菜の妄想だよ。 僕は誰とも結婚してないし、まだ結婚できる年齢じゃない」

 

「そんな・・・」

 

「そんなも、こんなも、どんな も、あんなもない。こんなこと続けてたらいくら宮間家の子でも退学になるよ」

 

「なら山瀬さんはどうなんです か!? 女の子が男子寮に来ることも違反なんじゃないんですか!!?」

 

散々規則破っている夕菜に千早を 非難する権利など最初からない。

 

自分に都合が悪くなったら他の人 を上げて自分のやっていることはみんなもやっているからいいんだという都合のいい解釈である。

 

「千早は紅尉先生を通して学校に 許可を取っているから問題ないんだよ。学校での千早の評価はいいし、それに他人がどうだからとかそういう考えは、僕は好きじゃないよ」

 

「うっ・・・・」

 

和樹の言葉に夕菜は次の言葉が出 せなくなってしまった。

 

「和樹さ〜ん・・・」

 

上目遣いで和樹を見る夕菜、だが 和樹はそんなんで屈したりしません。

 

「和樹さん、そんなに私と住みた くないんですか?」

 

涙目で子犬のように視線を送る夕 菜、男なら落ちそうなところだが・・・・・・

 

「住みたくない!!」

 

玉砕!!

 

何の躊躇もなく言い切りました。

 

「第一、住めるんだったら最初か ら千早と一緒に住んでるよ。だけど社会で生きていくには規則、ルール、決まりってあるからね。それを護れないようじゃいけないでしょ」

 

「うんうん」

 

和樹の隣で千早が頷く。

 

「ルールなんて変えちゃえばいいじゃないですか!?  お父様は私が言ったら何でも変えてくれましたよ!!」

 

ズシャーーーー・・・・・・

 

和樹と千早は夕菜の言葉に床へ二 人仲良くヘッドスライディングした。

 

(な、なるほど、そういう環境で 育つとこんなふうになるんだ・・・・・)

 

(今まで自分の思うとおりになら ないことがほとんどなかったからこんなわがままな性格になったのね・・・・・)

 

『はぁぁぁ〜〜〜』

 

二人は溜息をつきながら子育てっ て難しいことなんだなと思った。

 

どうしたらいいのかと和樹が考え ているとドアを開けて何かが飛び込んできた。

 

「はーい! 和樹、元気 ―ぃ!!」

 

入ってきた何かはそのまま和樹に 飛び付こうとするが・・・

 

「・・・・・・・・・」

 

「おはようございます」

 

「おはようございます、風椿先 輩」

 

和樹と千早はそれぞれ武器を片手 に進入してきた玖里子を止めていた。

 

和樹の黒刀は玖里子の眉間を、千 早の槍は玖里子の喉下に突きつけられていた。

 

二人ともどこかノホホ〜ンとして いる。

 

だがそれのほうが怖い。

 

おそらく条件反射でそうなったの だろう。機嫌の悪いのもあるかもしれないが・・・・・

 

「お、おはよう、和樹、千早。お 願いだからそれ離してくれない?」

 

二人がどこか機嫌が悪い、やばい と本能的に玖里子は感じ取り悪ふざけすることを止めた。

 

「失礼するぞ」

 

玖里子が暴れるのを止めたのを見 計らったように後から凛が入ってきた。

 

「あっ、凛ちゃんも着てたんだ。 おはよう」

 

「おはよう」

 

「おはようございます」

 

「・・・・・・」

 

「・・・・・・」

 

普通に挨拶を交わす和樹、千早、 凛。すごく当たり前の光景に見えるのだがその光景を見て夕菜と玖里子は目を見開いて驚いていた。

 

「ねぇ、あなた達何でそんなにフ レンドリーなの?」

 

「何でって?」

 

「これが普通じゃないですか?」

 

玖里子の疑問に和樹と千早が何 言っているんだという感じて聞き返す。

 

「だって・・・」

 

「あの後会って話しましたから」

 

「あのままでもいけないですか ら」

 

あのままではただ凛を追い込んだ ことになってしまう。それを何とか解消させるために凛を呼んで話をしたのだ。

 

「ところでこの騒ぎは何?」

 

「見ての通りですよ」

 

和樹は夕菜と荷物の山を指差しな がら言った。

 

「・・・分ったわ。何となくだけ ど」

 

「分ってくれてうれしいです」

 

「はぁ・・・・・・」

 

三人は疲れた表情でため息をつい た。

 

「式森、不思議に思ったんだが何 でこぶができているんだ?」

 

「ダンボールが直撃したから」

 

「あれだけのすばやい動きができ るのにか?」

 

自分の太刀筋を散々避けられてい るのになぜダンボールの落下を避けられないのかと凛は不思議に思った。

 

「主人公の法則の一つだよ」

 

「・・・・・何だ、それは?」

 

「どんなに強い主人公でもどこか 欠点があったりとか」

 

「つまりどこかの奪還屋が人間の 領域を超えている奴らには勝てるのにヤクザやヤンキーには勝てないみたいな」

 

「そうそう、化け物には何だかん だで勝てるのにヤクザ相手にはいつもボロ負けするみたいな、お決まりの法則」

 

「ごほん・・・・・話戻していい かしら」

 

脱線した会話を玖里子が戻した。

 

「夕菜ちゃん、朝霜寮の管理人さんが心配してたわよ。もう部屋に入っていてもいいのになかなか引っ越し てこないって

 

「いいんです。私はここに住むん ですから」

 

「・・・・・・夕菜さん、ここっ て式森の部屋ですよ。第一ここは男子寮です」

 

「そんなの関係ありません。夫婦 は一緒に住むのが当たり前です」

 

「いや、夫婦じゃないし、婚約者 でもないから」

 

和樹は否定するが夕菜は全く聞い ていない。

 

馬の耳に念仏である。

 

「夕菜ちゃん、さすがにそれは問 題あるわよ。婚約者の千早だって朝霜寮にいて、許可を貰って部 屋に来てるんだから

 

「そんなの関係ありません!」

 

「関係大有りだよ」

 

「さすがにこれ以上騒ぐと私も庇 いきれないわよ。この前は無断だったけど、今日はあたしと凛だって許可証貰ってここに着てるんだから」

 

『ほら、これ』と、許可証を見せ ながら玖里子はいう。

 

「なら同棲の許可証を作ってくだ さい!!!」

 

『無理(だって)(です) (よ)』

 

和樹、千早、玖里子、凛は声をそ ろえて言い返した。夕菜の言っていることが通ったら何のために規則があり、男子寮と女子寮があるのかその意味が分からなくなってしまう。

 

「で、でも、一緒が・・・」

 

ここまで言われて引き下がらない 夕菜。ある意味しつこいです、しつこ過ぎます。

 

「ねぇ、和樹」

 

「何ですか?」

 

玖里子が和樹に話を振る。

 

「仕方ないから向かいに住まわせ てあげたら? あそこ空いてるはずでしょ?」

 

「まあ、両隣は入居してますが向 かいは去年までいた先輩が抜けて入る人がいなかったはずですから今は空き部屋兼物置になっていますね」

 

「ならそこでいいんじゃない。こ のままじゃ話まとまらなそうだし、それくらいならあたしも裏工作できるし、夕菜ちゃんの魔法で結界張れば早々破れる人なんていないでしょ、和樹や千早の魔 法なら別だけど」

 

「まあ、そうですけど」

 

和樹や千早を抜けば夕菜の魔法回 数は学園内でもダントツである。もちろん魔力自体も高く夕菜の結界を破るのはそう簡単なことではないだろう。

 

「でも・・・」

 

「じゃなきゃ、力尽くで朝霜寮に入ってもらわなくちゃいけないわよ。そのために凛も一緒に来てもらったんだし、 ここには和樹、千早、レオン、あたしもいるから夕菜ちゃんがいくら抵抗しようとしても無駄よ

 

言うなれば学園最強メンバーがそ ろっているのだ。夕菜が異かに魔力が高くても五人相手に勝てるわけがない。というよりも和樹、千早、レオンのうち誰か一人がいる時点で学園全員を敵に回し ても勝つことができるほどの力なのだから最初から夕菜の前は決まっているのだ。

 

「・・・・・・分かりました。向 かいで〜我慢〜します〜・・・・・・」

 

言葉では納得したようなことを 言っていないが、未練たらたらなのは明らかである。だが無理矢理朝霜寮に入るならまだ向かいのほうが和樹に近いところと考え諦めることにした。

 

それじゃあ〜荷物は〜向こうに〜移動〜しま〜す〜

 

やる気ゼロの口調で夕菜は面倒く さそうにダンボールを運び出した。

 

「で、先輩何か企んでいません か?」

 

「・・・・・何も企んでないわ よ」

 

千早が疑いの目を玖里子に向け る。玖里子が親切に自分達にこんな提案をしてくれるなんておかしすぎる。

 

「僕も信じられませんね。さっき から向かいの部屋に視線を向ける回数が増えてますよ」

 

「な、何もないわよ。それじゃ あ、私この後、家の関係で仕事任されてるから」

 

和樹に殺気を飛ばされる。玖里子 もさすがに和樹に睨まれては動揺が隠せないようである。

 

玖里子は和樹から逃げるように部 屋から出て行った。

 

「それじゃ私も、玖里子さんから 仕事を一つ請けているから失礼する」

 

玖里子に続いて凛も部屋を出て行 く。

 

「どう思う?」

 

和樹は千早へと聞いてみる。

 

「凛ちゃんは関係ないみたいだけ ど、先輩は何か裏があると思うわ」

 

「僕もそう思う。まあ、うまく対 応して見せるけどね。もしものときは葉流華さんに電話一本すればいいし・・・・・」

 

「大変です和樹さん。向かいの部 屋に幽霊がいます!!」

 

和樹の言葉をさえぎるように夕菜 の声が聞こえてきた。さらに誰かと言い合いを始めたようで怒鳴り声が聞こえてくる。

 

「・・・・・・今日は外食無理か な」

 

「なんか出かけるのも疲れてき ちゃったわね」

 

二人はため息をつきながら立ち上 がり向かいの部屋に行くことにする。

 

「あっ、レオン、行くよ」

 

「・・・・・もう食べられない よ」

 

「起きろ〜〜」

 

ゲシッ!!

 

静かだと思ったら寝ていたらし い。さすが和樹の式神である。

 

和樹はボールのように転がるレオ ンを蹴り起こした。

 

 

 

 

 

 

 

向かいの部屋に行くと夕菜の怒鳴 り声がよりいっそう激しくなって来た。

 

「しつこいぞ。ここはわらわが 使っておる部屋じゃぞ」

 

「ここは私と和樹さんの住まいで す。あなたが出て行ってください」

 

「知らぬ!! 早いもんがち じゃ、小娘は立ち去れい!!」

 

「あなたのほうが子供でしょう が!!」

 

「見かけは子供でも、お主の何倍 も長生きし取る!!」

 

「死んでるじゃないですか!!」

 

「心は生きておる!!」

 

「幽霊が何に人間ぶってるんです か!!」

 

「わらわがノインキルヘン伯ゲオ ルク・フリー・ドリヒの娘と知っての無礼か!!」

 

「そんなの知りません!! さっ さと出て行きなさい!!」

 

「小娘が何をほざくか!!」

 

「幽霊に家なんて必要ないでしょ うが!!」

 

夕菜はさらに声を荒げて激論して いる。

 

犬同士の喧嘩の方がまだ静だろ う。

 

その犬がチワワやパピヨンなら可 愛いが・・・・・・

 

どう見ても土佐犬同士 の・・・・・それも飛び切り凶暴な二匹の喧嘩にしか見えない。手を出したらガブリと噛まれるどころか食い殺されそうである。他に例えるならまるでジェット 機とジェット機の騒音比べでもしているかのようである。

 

相手の幽霊は、顔立ちは幼く背も 低い女の子・・・・・簡単に言えば少女の幽霊だった。

 

二人の間では火花が散りあい一触 即発状態である。

 

「いい加減にしてください。ここ は私と和樹さんの住まいです。あなたが出て行ってください」

 

「そんなの知らん。後から着たも のにとやかく言われとうないわ」

 

「・・・あっ、エリザじゃん!」

 

レオンが声を上げる。

 

「本当だ。久しぶり、エリザ」

 

「エリちゃん、どうしたの?」

 

レオンに続いて和樹と千早も声を かける。

 

「レオン、それに和樹殿と千早様 まで!?」

 

三人に気づいて驚くエリザベー ト。

 

「何でこんなところにエリザがい るの?」

 

「えっ、そ・・・それは・・・」

 

レオンの質問に口籠るエリザベー ト。何やら分けありの様子である。

 

「なるほど、玖里子さんに何か頼 まれたんだね」

 

「!?」

 

「隠さなくてもいいわよ。また力 になってあげるから」

 

「・・・・わらわはこんなことし たくなかったんじゃ・・・」

 

そういうとエリザベートは話し始 めた。

 

今までいた場所から追い出され、 力を貸せば取引に応じると言われて仕方なくこんなことをしたのだと。

 

「玖里子さんも回りくどいことし たな。それで、いったい僕に何をさせようと考えているの?」

 

「そこまでは・・・わらわはこの 部屋にいてこの部屋に来るものを自分のところに来るように仕向けろと・・・・・・名前も言われなかったので和樹殿だと分からず・・・・・・」

 

「随分と手が込んだことしたわ ね」

 

一体何を考えているんだと千早は 呆れてしまう。

 

「ねぇ、エリザ。追い出されるま でいた洋館はどうなったの?」

 

「それもわからんのじゃ。あそこ にはわらわの甲冑が置いたままになっておるから心配じゃ」

 

不味いな・・・

 

和樹は誰にも聞こえないような小 さな声で呟いた。

 

「ともかく、玖里子さんのところ に行こう。甲冑だけでも何とか取り返してあげるよ」

 

「頼む、和樹殿。あれさえ戻れば わらわは何もいらん」

 

「千早とレオンも着いてきて少し 面倒なことになるかもしれないから」

 

「分かった」

 

「了解」

 

四人は玖里子のところに向おうと する。

 

誰か一人忘れているような気がす るが・・・・・・

 

「和樹さん、私を無視しないでく ださい!!」

 

『・・・・・あっ!!』

 

無視でなく完全に夕菜のことを忘 れていた四人だった。

 

扱い悪いな・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・で、何かいうこと はありますか?」

 

「うっ!」

 

玖里子に会った和樹は玖里子を質 問攻め、というよりも暴力なしの拷問に近い雰囲気で追い込んでいた。

 

それも殺気混じりの質問に、死神 に鎌を当てられたような部屋の空気・・・玖里子は冷や汗を流している。

 

「エリザを利用して僕に一体何を させようとしていたんですか?」

 

「利用なんてそんな・・・」

 

「・・・(ギッ!)」

 

「言い訳は見苦しいですよ」

 

和樹に睨まれ千早に突っ込まれる 玖里子。完全に追い込まれています。

 

「分かったわ・・・説明するわ よ」

 

玖里子の話しによると風椿家が今 度進める再開発の土地の一部に朝霜寮が引っかかっているそうなのだ。

 

「それで、和樹の魔法で朝霜寮を 移動して欲しいのよ。和樹の魔法なら確実だし、和樹以外が同じことをするとなると何人も術者が必要だし」

 

「なるほど」

 

「でもどうして和樹達とエリザ ベートが知り合いなの?」

 

「一年の頃にレオンがあの洋館に 入っていったことがあってね。そのときにエリザに会ったんですよ」

 

「そのときにわらわの生い立ちと 何故このような東洋の島国に着たのかを話したのじゃ」

 

「で、洋館に忍び込んでくる人が いるから何とかしてほしいって言われて、和樹君の魔法で私達とエリちゃん以外の人は出入りできないようにしたってわけです」

 

「はぁ〜・・・・・道理でうちの チームが洋館に入るのに苦労したわけね。五チームも結界解くのに使ったわけよ・・・和樹の魔法じゃあね〜」

 

予算ギリギリだと愚痴を呟きなが ら玖里子は納得したような計画が崩れがっかりしたような顔をした。

 

「ところで玖里子さん。あの洋館 はどうするつもりなんですか?」

 

「どうするも何も取り壊す予定 よ?」

 

「!? それっていつですか?」

 

「『いつ?』って、今日だけど。 結界解くのに予算が掛かったから凛に修行ついでに試し斬りさせて上げることになっているんだけど」

 

「すぐに止めさせるんだ。あの洋 館を壊したら大変なことになる!」

 

「た、大変なことって何よ?」

 

「あの洋館は地下に妖魔が眠って いるんだ。エリザに頼まれたときに一緒に結界を張って妖魔も封印しましたけどその結界が解かれた今、下手な振動を与えたら妖魔が飛び出してきますよ!」

 

「そ、それじゃ・・・」

 

「試し斬り何かして洋館が崩れた ら間違いなく妖魔が飛び出します! それも僕が一年前感じた妖魔の気配は上級レベルです。今の凛ちゃんの剣鎧護法で相手にできる強さじゃありませんよ」

 

「うそっ、もう凛、洋館に着いて るわよ!」

 

玖里子の言葉を計ったかのように 何かが崩れる音が響き渡った。

 

「千早、レオン!」

 

和樹、千早、レオンは急いで部屋 を飛び出した。それに続いてエリザベート、玖里子が飛び出した。

 

「だから、皆さん私を無視しない でください!!」

 

今回も話から外に出され完全に忘 れられた夕菜であった。

 

 

 

 

『レオンのインフィニティールー ム!』

は〜い、レオンで〜す。

和樹と千早、朝からラブラブで〜 す。今回は和樹と千早の両親の話が出てきました。

正直言って凄い親です。特に母親 達・・・・色々な意味で最強です。

しかし、法なんて変えればいいっ て・・・・夕菜のわがままはどこまで行くのか・・・・

エリザを使っての玖里子の企みは 簡単に破られました。でも問題が・・・

次回は凛がピンチに・・・はたし てどうなるのか?

 

 


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