まぶらほ  無限の魔力

 

 

 

 

修学旅行編

第二話

 

 

初日に予定されていた観光が全て 終わり、葵学園一同は宿泊先の宿へと向かった。まだ、一日なので元気が有り余っている生徒、特にB組の集まりは皆雑談(議論)ばかりしていた。

 

帰宅のための渋滞に巻き込まれな がらも到着したのは、宮ノ森ホテルというところで市外から少し離れていて静かな場所にあった。

 

生徒達が中に入っていくとマネー ジャーと従業員が出迎えてくれた。部屋の鍵を教師に渡し、内部のことをざっと説明している。

 

葵学園は何度かこの宿を利用して いたらしく、スームーズに済んだようである。

 

かおりとF組の担任の副島忠明が 班長を呼び集めて注意事項、特にB組に向けた禁止事項を言って、鍵を渡した。

 

「和樹君、これ和樹君達の部屋の 鍵ね」

 

「ありがと」

 

千早が副班である和樹に鍵を渡 す。和樹に鍵を渡すと千早達は手を振りながら自分の部屋に向かった。

 

和樹達も部屋の番号を見て割り当 てられた部屋に向かった。

 

 

 

 

 

 

 

割り当てられた部屋は六人で一つ の和室の部屋であった。和樹達と同じ部屋になったのは最悪なことに仲丸のいる班だった。

 

仲丸は部屋に入るとバスの中で見 ていた続きなのだろう携帯の画面を睨みつけて、相場動向を調べ始めた。仲丸らしい行動である。

 

ちなみに和樹もいくつかの会社に 投資している(やはり和樹もB組の生徒である)が修学旅行の期間は蘭に任せている。『儲けた分は上げるよ』と言って以前任せたらかなり儲けていたので今回 も任せたのだ。

 

・・・・・・・というより、今回 は蘭から先に連絡を入れてきたのだが・・・

 

そんな訳で株のことなど気にせず 和樹は窓際に置いてある椅子に座り窓を開けた。窓は大きく作られて外の景色がとても綺麗である。窓の下にはみそぎ川が流れていて川の流れる音がとても心地 よい。

 

そう綺麗な水の流れる音はとても 心地よいのだ!

 

・・・・・・・・・・・・・ が・・・

 

(ああ・・・部屋割りだけ失敗し た)

 

頭の中で反省をしながら和樹はジ メジメとした空気に飲み込まれていた。

 

(ボクノバカボクノバカボクノバ カ・・・・・・)

 

一人和樹は自分を責めるのであっ た。それもさらにジメジメとした空気を出し。

 

「・・・・・・式森君、お茶入っ たけど飲むかい?」

 

今すぐ茸栽培できそうなジメジメ とした空気を流す和樹に気をきかせた相馬が急須を片手に聞いてきた。

 

「もらうよ」

 

相馬は自分と和樹の分のお茶を 持って和樹の向かいに座った。

 

「どうぞ」

 

「ありがとう」

 

「ねぇ、あの川なんて川か知って る?」

 

「ああ、あれは『みそぎ川』って いってその向こう側を流れてるのが『鴨川』っていうんだ」

 

「へぇ、詳しいんだね」

 

「爺ちゃんが昔こっちのほうによ く来ていて僕に話してくれたからね。わらべ唄なんかもあるんだけど知ってる?」

 

「いや、はじめて聞いたけど」

 

「京都の町って、中国の唐の時代 の長安をまねて作られたって事は知ってるよね?」

 

「ああ、聞いたことあるよ」

 

さすがF組である。頭がいい。

 

「そのために道が碁盤の目のよう になってるんだけど、通りの名前の順番を覚えるのに京都の人達が作った唄なんだ」

 

「すごいな、そんな唄あったん だ」

 

「東西の通り(丸竹夷)と南北の 通り(寺御幸)ってあるんだよ」

 

「そうなの」

 

和樹と相馬はその話を夕食のとき まで続けたそうな。

 

 

 

 

 

 

 

千早達はと言うと・・・・・・

 

「え、じゃあ、清水寺って延鎮っ て人が作ったんですか」

 

「坂上田村麻呂が作ったって覚 えっていても大丈夫よ」

 

「それじゃあ、エンジンは?」

 

「まったく関係ない。車のエンジ ンなんかとくにね」

 

清水寺の誤解を解いていた。

 

「千早、わらべ唄教えてあげた ら」

 

「わらべ唄?」

 

沙弓の言ったことの関心がわいた ようである。

 

「京都の通りを覚えるのに作られ た唄よ」

 

「教えてください」

 

「いいわよ」

 

そういうと千早は唄を歌いだし た。

 

「そんなのあるんですか」

 

「面白いでしょ」

 

こっちも同じようなことをしてい たりする。

 

似たもの夫婦とでも言っておこ う。

 

そんなこんなで初日は終了した。

 

 

 

 

 

 

 

翌日は班ごとでの行動が中心であ る。

 

バスに乗りそれぞれの見学先への 移動が始まった。鴨川に沿って走り竜谷大の前を通り過ぎる。

 

車内ではバスガイドが営業笑顔を 浮かべて観光トークを披露していたが和樹はこの辺りのことは知り尽くしているので、マニュアルどおりの説明など聞いてもまったく楽しくない。

 

逆にバスガイドの間違いを見つけ て千早に間違いを教えていた。

 

B組の生徒はトークなどまったく 興味がない様子で為替の動きの話や偽造品の販売場所をどこにするかいくらで売るかを議論していた。まるでどこかの酒場みたいである。いやまだ酒場のほうが ましであろう。

 

F組は説明を聞いているが、つま らなそうな顔をしている。バスガイドは途方に暮れてしまい説明が止まってしまい、おどおどし始めてしまった。その様子を見てかおりがバスガイドからマイク を奪い取り、声を張り上げて叫んだ。

 

「こらぁぁっっ、お前らいい加減 にしやがれぇぇっっ!!!! あたしゃ、昨日京都の名立たる可愛い酒達を一晩飲み干しに挑戦して二日酔いで頭が痛いんだよ・・・・・・って大黒、F組の人 にシモネタばかり言ってるな! 佐野、通りを歩く女の人に手を振るな! 宮本、霊符を偽造すんな! 諏訪園、千野、藁人形作りの内職すんなっ! 結城、妄 想の世界に入るな! すぐ戻って来い!! ああ気持ち悪い!!! お前らのせいだ!!!」

 

八つ当たりも含まれてはいたが、 かおりの注意を受けた生徒はとりあえずそれぞれの行動を一旦やめる。静かになったのを確認して続けていった。

 

「いいね、今から行くところは、 晴明神社と京都御苑だよ。魔法学校の生徒なら五円でもいいから賽銭くらいちゃんとあげなよ。いいな、くれぐれも悪いことしようとするんじゃないよ。今日の 朝もD組の早野先生が私に嫌味言ってきやがって、仕返しに朝飯の味噌汁の中にふぐの肝入れたら泡ふくは痙攣起こすは意識不明になるは心配停止になるはなん だで・・・・・・」

 

仕返しどころか既にそれは犯罪な のではと突っ込む生徒はいなかった。

 

この説明で朝救急車が来た理由が 分かった生徒達であった。

 

しゃべりだして止まらなくなった かおりに和美が窓の外を指さして言った。

 

「先生、任天堂の本社ですよ」

 

「ぬぅあぁにぃっっ!! 拝まな ければ、拝まなければ!!」

 

任天堂のビルに向かって、両手を 合わせるかおり。ゲーム好きのものはみんなこうするのかと生徒に疑問を持たせる行動であった。

 

観光バスは西本願寺の前を通っ た。だが今日は観光しないので通り過ぎていく。F組の生徒からカラオケをやろうと声が上がりカラオケが始まった。

 

新しいバスだけあって、カラオケ も最新の曲が入っていた。

 

そして真っ先にマイクを握ったの は千早であった。

 

「姫、歌いまぁーす!! 『ShiningDays』!!」

 

『うぉぉぉぉっっ!!  待ってました!!!』

 

動き出す 熱い鼓動が あの日と同じ速さを刻むよ

 

ノリノリで歌っている。こういっ た盛り上げが千早は得意なのである。

 

真っ直ぐな 眼差しが好き ずっと見ていたい

 

LOVE LOVE〜〜!! 姫、超 萌えぇぇぇぇ〜〜〜〜〜!!!』

 

何気に皆も(とくに男達は)ノリ ノリである。隠れ千早ファンクラブの会員でもいたのか?

 

その少しあとに千早に勧められて 和樹も歌った・・・・・・というより歌わされた。

 

・・・そう・・・歌わされたはず なのだが、マイクを持ったとたん和樹の目の色が変わった。

 

「いくぜぇっっ!」

 

曲は『HOT LIMIT』・・・・・・ (おいっ!)

 

YO! SAY,夏が 胸を刺激する ナマ足 魅惑の  マーメイド♪

 

振り付けまで込みで歌い始める和 樹、意外に乗りやすい人間だと言うことが判明。

 

宝物の恋は やれ 爽快っ♪

 

『イエェェェェイ!!』

 

負けちゃって構わないから 真夏は 不祥事も キミ次第 で

 

何気に凄い盛り上がっていたりす る。

 

宝物の恋が できそうかい?

 

「いつでもできますっ!!!」

 

夕菜がなんか妄想染みたことを 言っているが皆和樹の歌声に夢中で聞いていない。

 

〜妖精 たちと 夏をしたくなる 熱い欲望は トルネイド〜

 

『カッコイイッッ!』

 

出すもの出して 素直になりたい 千早とボクとなら It‘s All Right♪

 

All Right!!

 

F組女性人からの黄色い悲鳴がバ スの中に響き渡る。

 

・・・ってか、千早と言ったこと に誰も気づいていないのか?

 

〜恋に かまけて お留守になるのも カ・ズ・キ的にも オールオッケー〜

 

『キャアアアアアアアアアアアア アッッッ!!!』

 

さらに悲鳴は大きくなった。

 

『アンコール! アンコール!  アンコール! アンコール!』

 

何名かが顔を赤く染めていたりす る。

 

それに腹が立ったのかB組からカ ラオケの機械が壊れているのではと声が上がった。

 

「線抜いて・・・グェッ!」

 

仲丸がカラオケの機会に飛びつこ うとしたが誰かがそれを止めた。

 

「もう一曲行くぞぉっ!!」

 

『待ってました!!!』

 

ちなみに仲丸を止めたのはノリノ リ状態の和樹であった。ちなみに仲丸は和樹に踏み潰され意識を失っていいたりする。

 

「いくぜ! 着いて来いよ!!」

 

『おおおおぉぉぉっっ!!』

 

ノリノリ状態である。ってか、こ いつ本当に和樹か?

 

〜凍え そうな 季節に君は 愛を どー こー云うの?〜

 

和樹の新たな一面がここに暴かれ るのであった。

 

〜雪吹 雪く 山小屋にふたり… 妄想に 憧 れて〜

 

『キャァァァァァァッッ!!!』

 

『いいぞぉっっ!』

 

まだ歌おうと和樹は曲を入れよう としたが千早が強制的に終わらせた。歌わせていたら一生歌い続けかねないからだ。

 

そして大盛り上がりのまま和樹の ミニライブは終了した。

 

だがその余韻は一気に吹き飛ばさ れた。

 

あろうことに死体を甦らせたとい う武勇伝を持つ中田一子がマイクを持ったためB組は和樹への今後の対応・対策会議どころではなくなり一子からマイクを取り上げ、カラオ ケを強制終了させた。京都で死体が蘇ったらとんでもない騒ぎになる。

 

そんなこんなで色々あって晴明神 社に到着した。

 

みんな『死ぬかと思った』『危な かった』とか言いながらバスから降りた。

 

そんなバスの車内には中田一子が 取り返したマイクを持ったまま椅子に縛られていた。口にはタオルを詰め込まれて声が出せないようにされていた。どうやら壮絶な戦いがあったようである。

 

一同はぞろぞろと境内の中に入っ ていく。

 

平安時代の大陰陽師、安部晴明。 晴明は九百二十一年に生まれ、千五年に八十五歳の生涯を閉じている。賀茂忠行に師事したと伝えられているが、四十歳あたりまでの記録は見当たらない。晴明 の力により賀茂家よりも力が強くなり安部家が宗家として陰陽道のゆるぎない地位を占めることとなる。

 

だが神社自体はそれほど大きなも のではない。F組は神社の中をよく見ているが過去の偉人に対しての尊敬の念を持ち合わせていないB組は式神像を持ち出そうとしたり、晴明井の水をのっと り、水を飲むのに金を払わせようとしている。

 

「沙弓、写真撮ってくれる」

 

千早が沙弓にカメラを渡して和樹 を引っ張っていく。

 

「どこで写真撮るの?」

 

「顕彰板の前よ」

 

顕彰板の前とは晴明についての言 い伝えが絵と文章で分かりやすく説明されていてその前には桔梗の花が綺麗に咲いていた。

 

ちなみに桔梗の花言葉は『誠実の 愛』。

 

まさに二人のための花にぴったり である。

 

沙弓は納得した顔で二人に向けて シャッターを切った。

 

他にも和樹と千早は旧一条戻り橋 の前で写真を撮った。

 

もちろん、そんなことをしていた ら嫉妬むき出しのあの人が黙っていない、というより手を出さないわけがない。

 

「和樹さーん、キ シャァーーーーーーーー!」

 

晴明が見ていたら、般若と思って 退治しようとしただろう。ほとんど鬼と化していた夕菜が和樹に襲い掛かった。

 

「わぁ〜〜、あぶな〜いな!」

 

やる気のない声とは裏腹にすばや く和樹は夕菜の攻撃を回避する。まるで記憶の羽を探す旅に同行している魔術師、別名『おっきいニャンコ』のようである。

 

「何で避けるんだぁっ!」

 

すでに鬼と化した夕菜、頭から角 が出ていた。

 

「私へのラブソングを歌っておき ながらいきなり浮気ですか、浮気なんですね!!?」

 

(何て自分勝手な解 釈・・・・・・っていうか・・・夕菜、あなた最近ギャグ専門になってきているわよ・・・)

 

夕菜を哀れみのこもった目で沙弓 が見ていたりする。

 

「あらら〜〜、これは源博雅で も、今の夕菜を止めることはできないだろうな・・・・・・」

 

襲われている当の本人はと言うと ある映画のワンシーンを思い出しながら和樹がそんな暢気なことを言っていた。

 

「うぁ〜、くちおしや、くちおし や〜」

 

頭に見えるのは角ではない か・・・いや徐々に口も裂け眉間にしわがよっている。

 

「・・・・・・ねぇ〜千早、あれ 人間だよねぇ〜」

 

相変わらず気の抜けた口調で話す 和樹。

 

本当に誰だ、こいつ?

 

「自信ないけど・・・」

 

「人だった・・・といったほうが 正しくないかしら」

 

慣れているのか特に二人は気にし ないで答えた。

 

『こわいよ〜こわいよ〜(涙)』

 

レオンとカイは涙を流して震えて いる。どこかの奪還屋、銀〇君ばりに目から涙を流し震えている。世界でも最強のコンビと言っても過言ではないレオンとカイをも恐れる夕菜っていったい (汗)。

 

和樹達もさすがに一歩引いて夕菜 を見ていたりする。ある意味どこかの神よりも強敵だ。

 

「何かに取り付かれたかな・・・ 一応、除霊しておこっと」

 

なぜに晴明神社で悪霊に取り付か れるんだか分からないが・・・・

 

この後、夕菜は無事元の夕菜に 戻ったそうな・・・・・・・・・・

 

だが、分っている人は説明せずと も分っているだろう。

 

元の夕菜も十分鬼のように怖かっ た・・・というより、怖いのは言うまでもない。

 

 

 

 

 

 

 

元に戻った夕菜も一緒に神社の中 を見て回っていると、『集まれー!』と叫ぶかおりの声が聞こえた。

 

和樹達もその場にいく。千早が班 のメンバーを確認するが、沙弓だけがいなかった。周りを見たがどこにも見当たらない。

 

レオンとカイに探すように頼み。 その後周りの人に聞いてみた。

 

「千早、さっき社務所の裏に歩い ていったらしいよ」

 

「じゃあ、行って呼んできてもら える」

 

「わかった。いってきま〜す」

 

千早に頼まれ和樹が行こうとする ころ、レオンが一足早く沙弓を見つけていた。

 

「いたいた、沙弓」

 

「レオン?」

 

いきなり現れたレオンに少し驚い たような顔をしていた。

 

「集合の時間になったから、集 まってくれだって」

 

「そう」

 

聞いているような聞いてない返事 だった。なんだか、何かを警戒するようなそんな感じである。レオンもそれが分かったのか回りを気にする。

 

「あの人達って・・・・・・」

 

沙弓から少し離れたところに体格 のいい二人の男が立ってこっちを見ていた。目は沙弓のことを見ていて、殺気すら感じることができた。

 

男達は袴姿で、どこかの道場の胴 着であろう格好をしていてどちらもそれなりの強さを感じた。

 

無言の状態がしばらく続く。沙弓 と男達の殺気の飛ばし合いが続くが、男達が先にこの場を立ち去っていく。

 

沙弓が振り返るとレオンが男達に 殺気を放ち圧力をかけていた。どうやら、沙弓の殺気ではなくレオンの殺気に押されて引き下がったようである。

 

今のままの姿でもレオンの眼力に 耐えられる者は少ないだろう。人間体になったら一般の人など目を合わせただけで簡単に気絶するのだから。

 

「レオン・・・」

 

沙弓がレオンに声をかけると、レ オンはいつもの彼に戻った。

 

「ふぅ〜・・・・・・沙弓、さっ きの人達って・・・・」

 

「・・・何でもないわ」

 

少し考えて沙弓は素っ気無く答え た

 

「何でもないようには見えないけ ど?」

 

明らかに殺気を飛ばされていた。 レオンがこの場にいなかったら、いつぶつかり合いが起きていたか分からない・・・そんな感じだった。

 

「大丈夫よ。私が負けるとでも」

 

沙弓は元々真堂流合気術と中国拳 法の達人。他に和樹達とも知り合った後、一緒に修行をしただけあり、数え切れない格闘術を学んでいる。和樹や千早でなければ大抵の人には負けることはない だろう。

 

最近の京都における戦いでもその 力は実証済みだ。

 

「万が一ってことはあるよ。前の 戦いの疲れや無理がたたって沙弓本来の力が出せない状態なんだから、いつもと同じように考えないほうがいいよ」

 

「心配しないで、迷惑はかけない わよ」

 

そう言うと、彼女は集合場所に向 かって歩いて行った。

 

「やれやれ、困った姫様だな」

 

そう呟きレオンも沙弓のあとを 追った。

 

 

 

 

 

 

 

いっこうは晴明神社を出ると歩い て堀川を横断した。この橋は一条戻り橋で安倍晴明の式神が隠されているという言い伝えがある。平家の武将の、渡辺綱が恩威の腕を切り落としたことでも有名 である。

 

だがB組の生徒にとっては有難く もなんともない橋である。式神を掘り出そうとかとんでもない会話を言いながら橋を渡った。

 

十分ほど歩き、京都御苑に着くと かおりは生徒を集めた。

 

「それじゃあ、この中見学して来 い・・・・・・ついでに昼飯も食べろよぉ〜〜ふぁぁぁぁ〜〜〜〜・・・もう配ってあるからなぁ〜〜・・・なくしたやつ、もう食ったやつにはやらんぞあぁぁ 〜・・・もちろん貰い忘れたやつらにもな。集合には遅れるなぁぁぁ・・・・んじゃ、お休みぃぃぃ〜〜〜」

 

寝ぼけた口調のかおりの言葉を聞 いているのかいないのか、勝手に歩き出している奴らがいた。話が終わり和樹達も中に入っていく、京都御苑は、京都御所、仙洞御所を囲む国民公園で、 いつでも自由に入ることができるので近所の人もたくさんいた。草花や樹木の香 りが心地よくその周りを飛ぶ野鳥もかわいかった。

 

いくつかの史跡見て回る和樹達も 楽しく回っていた。

 

だが和樹達の班の後を夕菜(仲丸 の班)が着いてくるので、なんというか・・・いい空気をぶち壊しにしている。

 

仲丸と和美は悪口を言い合い、夕 菜は和樹と千早が話をするとそこに割って入ってくる。カイは周りを走り回って楽しそうである。相馬や映子も気にしてない様子だが公園の空気を汚しているの は間違いないであろう。

 

そんなこんなで芝生のあるところ に来た。ベンチなどもあって親子ずれやお年寄りが雑談していた。

 

「ここら辺でお昼にしようか?」

 

「そうだね」

 

「外で食べるのも気持ちいいし ね」

 

「いいんじゃない」

 

班のみんなも賛成したのでここで 昼にすることにした。それぞれ自分達の好きな場所に行き弁当を食べ始める。

 

もちろん和樹と千早は一緒にベン チに座っている。カイはそこら中を走り回ってチョウを追い掛け回して猫を演じきっていた。ちなみにレオンは周りを見てくるといって飛んでいった。

 

「ああ、何か疲れるな」

 

「そんなこと言ってると余計に疲 れるわよ」

 

「そんなこと言ったって」

 

ここにくる途中にも夕菜達をまく のにとても苦労した。途中、仲丸と和美が足を止めて罵り合いを始めたのでまくことができた。

 

「はいはい、このおかずあげるか ら文句言わない」

 

「子ども扱いしないでよ」

 

「それじゃ、子どもみたいなこと しないの」

 

「うぅーーー」

 

『うぅーーー』しか言えなくな る。千早の前だとどうしても強く出ることができない。どこぞの風術師もそうであるが、自分の恋人には弱いのであった。

 

「そのおかず頂戴」

 

「いいよ、じゃそれ頂戴」

 

「はい、じゃあ、あ〜んして」

 

和樹が口をあけて食べようとする と千早はそのおかずを自分の口の中に入れた。

 

「・・・千早」

 

「どう少しは元気になった」

 

笑顔で言われると何も文句が言え なくなる。

 

「はい、今度はちゃんとあげるか ら」

 

千早が再びおかずを差し出す。

 

「あ〜〜ん

 

和樹が口をあけておかずを口の中 に入れたとき、叙霊したはずの鬼が二人の前に現れた。

 

「なぁ〜にぃ〜しぃ〜てぇ〜るぅ 〜ん〜でぇ〜すぅ〜かぁ〜〜〜〜〜?」

 

訂正、鬼より怖いかもしれない。

 

「やっと見つけたと思ったら、二 人で仲良くお弁当の食べっこなんかしてぇぇぇっっっ!!!! ムキィィィィィィィッッッッ!!!!」

 

ドスの聞いた声で言葉を出す夕 菜。宝剣を持たせたらどこかの炎術師みたいに炎が爆発していたであろう。

 

だが和樹達もどこかのバカップの ようにその気配を感じていなかった。

 

「じゃあ、今度は僕が食べさせて あげるね。はい、あ〜ん

 

「あ〜ん

 

暢気にまだお弁当の食べさせ合い を続けている。ある意味どこかの風術師のバカップルより性質が悪いかもしれない。

 

千早が再び和樹におかずを食べさ せてあげようとした瞬間・・・・・・宝剣・炎〇覇は飛んでこなかったが・・・・・・無数のサラマンダーが飛んできた。微妙にプラズマも見えるのは気のせい か・・・

 

もしかしたら夕菜を神退治に連れ て行ったらメンバーの中で最大戦力になったかもしれない。

 

「キ シャァァァァァァッッッーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!」

 

鬼を超えた完全体デビルキシャー ンへと変身した夕菜の怒りが爆発した。

 

サラマンダーは狂いなく和樹へと 襲い掛かった。和樹にあたると思った瞬間。

 

「煉破反衝壁」

 

和樹と千早の周りを結界が包み込 む。サラマンダーはすべて結界に消滅させられた。

 

「何で止めちゃうんです かっ!?」

 

「・・・いや、止めないと死ん じゃうし・・・それに歴史好きの人間としては日本の歴史的建造物壊したくないし」

 

ごもっともな意見である。

 

千早は夕菜の存在にやっと気づい たらしく顔を真っ赤にしていた。

 

・・・・・・・・って、気づいて なかったんですか!?

 

恋は盲目って奴ですかね。

 

「愛のために犠牲はつき物です。 歴史上の人達も許してくれます」

 

歴史上の人達が聞いたらなんて言 うやら、嘆かわしいことである。

 

「そんな犠牲ならいらな・・・」

 

和樹が不意に言葉切ると表情を一 変し辺りを気にし始めた。

 

「和樹君」

 

「和樹さん?」

 

「・・・何かが落ちる音・・・そ れかぶつかり合う音だと思うんだけど聞こえた?」

 

千早は首を横に振る。千早も耳は いいが和樹に比べると少し落ちる。夕菜は全然である。

 

「和樹」

 

カイが蝶を追いかけるのを止めて 和樹達のところに戻ってきた。

 

「聞こえた? さっきの音」

 

「微かだけどね。随分と遠かった な。カイどう思う」

 

「何人かの声と殴り合いのような 音が聞こえる。行っておいたほうがいいかな?」

 

「気になるしね。行こう! 千 早!」

 

「了解」

 

そういうと和樹達はカイの道案内 で音のした場所に向かった。

 

 

 

 

 

 

 

音のした場所

 

和樹達がお弁当をいちゃつきなが ら食べているころ、敷地内のあまり人の来なさそうな場所に十人の影があった。

 

一人を九人が取り囲むような形で たっている。九人は全員男で片手には木刀を持っていた。

 

それに対して、囲まれている一人 は女性で素手であった。だが、臆した様子は見せていない。むしろ自然体でいた。

 

その人は沙弓だった。

 

周りを取り囲んでいるのは晴明神 社にいた連中である。

 

長い静寂が続く。だが風が吹いた 瞬間、男達が木刀を青眼に構えて、沙弓に斬りかかった。

 

沙弓はその剣をかわし相手の手首 をつかむと、男の体をあっという間に中に浮かせた。男はそのまま落下し地面に叩きつけられる。

 

「はぁ!」

 

後ろから他の男が沙弓に向かって 木刀を振り下ろす。沙弓はそれを寸前でかわし男に鋭い回し蹴りを放った。

 

男の体は吹き飛んで近くの木に叩 きつけられる。

 

その隙を見て他の男が沙弓に木刀 を振り下ろす。沙弓がその木刀をよけた所に他の男の木刀が振り下ろされた。

 

二人係のコンビプレーである。沙 弓がその木刀を鉄甲で受けようとすると、その男の木刀が柄の部分から折れて地面に刺さった。

 

「なっ!」

 

「えっ!」

 

二人は何が起こったのか分からな いでいると、男の顔に何かが凄まじいスピードで体当たりした、男はそのまま横に吹き飛ばされて気絶した。

 

「沙弓、大丈夫だった」

 

「レオン!」

 

沙弓の前に現れたのはレオンだっ た。近くを飛んでいたレオンはこの騒ぎに一番早く気づいてこの場に来たのであった。

 

「女の子一人相手に大の男が九人 がかりか、情けないと思わないのかな?」

 

ブチッ!

 

男達に頭に漫画見たく怒りのマー クが出たように見えた。

 

「それも、早くも二人ものされ ちゃってるし」

 

ブチッブチッ!!

 

レオンが言う言葉に男たちの怒り のメーターが振り切れそうである。

 

「このチビが!」

 

「そのチビにやられてるんだよ ね。お仲間さんは・・・・・・もしかして数がいなければ勝てない弱虫とか?」

 

ブチッバチッ!!

 

「テメェー!」

 

「ごめ〜〜ん、本当の事言っ ちゃったね」

 

その言葉に完全に男達は切れた。

 

レオンに向かって木刀が一斉に振 り下ろされる。だが木刀はレオンに当たる前にレオンが放った風の刃によって全て折られた。

 

「ば〜か!」

 

木刀の無くなった男達を倒すのは 簡単だった。あっという間にレオンと沙弓によって倒されてしまった。

 

男達が全員倒されたと同時に物音 を聞きつけた和樹達が現れた。

 

「・・・・・・来たのはいいけ ど、ちょっと遅かったみたいだね」

 

「来てもどの道やることなかった わよ」

 

「ねぇ、沙弓。この人達って?」

 

「私の敵・・・って言ったらオー バーだけど、似たようなものよ。神城剣術の落ちこぼれ・・・ようは神城の名前だけをほしい人、入ったはいいけど現実についていけなくてそこから逃げた人っ て訳。京都は規模も大きいから、そういう連中も多いって訳。だから狙ってきたみたい」

 

「あっ、どうりで胴着に見覚えが あったわけだ」

 

レオンが倒れている男達を見て手 を叩いた。

 

「分家の人達か?」

 

「本家並みにでかいけどそれに近 いわね。神城凛は静岡が実家でしょ。神城と違って本家への帰参が許されない連中だから私を倒して手柄を立てようってところなんじゃない」

 

「ずいぶんと勝手な人達ね」

 

「私達はともかく、杜崎家と神城 家の人間って・・・特に中核連中が仲悪いからね。知ってると思うけどここは本当に仲が悪くて、昔から仕事上ぶつかり合うことが多かったから、商売敵とか路 線の違いって訳よ」

 

「現代の人にとってははた迷惑な 話だね」

 

「まったくね」

 

四人が話をしていると和樹の後頭 部めがけて木刀が振り下ろされた。和樹はそれを真剣白羽取りで止めた。

 

「・・・何するのかなぁ〜、夕 菜?」

 

「あらぁ〜嫌だぁ〜。この腕とぉ 〜手が勝手にぃ〜動いてぇ〜」

 

だが言葉とは裏腹に木刀を握る手 には力がどんどん加わる。明らかに狙っている。手を見ると力が入りすぎて血管が浮き出ていたりする。

 

「あぁ〜、この猫撫での口調誰か を思い出すわ」

 

和樹が木刀をかわすのを見ながら 千早が夕菜の猫撫での口調を聞いてどこかにいるライバルを思い出し遠くを見ていた。

 

「あの夕菜さん。なんかどんどん 力が加わっているんだけど、何でかな〜?」

 

誰が見ても力の入っている夕菜の 木刀。薪を前に置いたら真っ二つどころか、粉々にしそうだ。

 

「私を無視して話をするからで す!」

 

どうやら無視されていたのが相当 頭にきているらしい。まあ、その前の出来事も影響しているんだろうけど。

 

夕菜はいったん下がると再び和樹 に襲い掛かった。

 

だが和樹もやられっぱなしではい ない。すばやく夕菜の手首をつかむと軽く前に引き、さらに足を払う。合気道の投げ技の一つである。

 

夕菜はなすすべなく中に放り出さ れる。そのまま地面に落ちるかと思ったが、和樹がうまい具合に両手でキャッチした。

 

つまり、お姫様抱っこって言うや つです。

 

「夕菜、少し落ち着きなよ」

 

和樹が夕菜に声をかけたが今の夕 菜には何を言っても聞こえていないだろう。和樹の顔はすぐ目の前にあるのだから。

 

一瞬何が起こったかわからなかっ たが、夕菜は自分が和樹にお姫様抱っこされていると分かると顔を真っ赤にして何かを呟いていた。

 

「・・・ど、どうしましょ、和樹 さんに抱っこされるなんて、そんな、でも、うれしいですし、でもそんな・・・・・」

 

頭の中パニック状態である。しか も考えること全て口に出していっている。さっきまでの怒りはどこ行ったんだ。

 

「・・・・・・どうしようか?」

 

「とりあえずベンチに座らせとけ ばいいんじゃない」

 

沙弓は後始末をするといってその 場に残り夕菜をベンチに座らせ和樹達は見学を再開した。

 

集合時間になりバスに乗ったが、 夕菜だけがいくら待っても現れなかった。集合時間を十分以上過ぎても集まらず教員達が探しに行き夕菜はつれてこられたがその目はどこか遠くを見て何かを呟 いていた。

 

「どうしましょ、あんなことや、 こんなことになったら。でも、妻なら全てを受け止めなくちゃならないですよね。でも、そんな昼間から・・・・・・きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっ!」

 

どうやら和樹がベンチに座らせて からずっと呟き続けていたようである。周りの教員や同じ班の和美が何か言っているがまったく聞こえてないようである。

 

ある意味、結城松葉の妄想以上に すごい。

 

「夕菜戻ってき てぇーーーーーーー!」

 

すったもんだの挙句、今日の見学 は終了した。

 

 

 

 

 

 

 

「・・・というわけだから、式森 君が神城本家に連絡するって言ってたけどあなたにも連絡はしておくわね」

 

『分った。私の方からも本家と話 してみる。すまなかったな』

 

「別にあなたが悪いわけじゃない わ。それじゃまた」

 

沙弓は凛に連絡を取り後始末を終 了した。

 

「・・・・・・ふぅ・・・」

 

「・・・沙弓、気をつけろよ。 さっきの連中は他の生徒がいた所に出てこなかったが次はどうなるか分らないんだからな」

 

「・・・ええ、分っているわよ」

 

少しムッとしながら沙弓は人間体 になっているレオンの忠告に答えた。

 

「・・・・・・さっきもそうだ が、まだ完全に体の調子が戻っていない。無理して動いても八割・・・いや、さっきの動きを見た限りよくて七割の力を出せたらいいところだ。『龍撃拳』や 『龍勁掌』も今使えばすぐに体にガタがきて動けなくなるぞ」

 

レオンの言うとおり、前の戦いで の怪我は治ったが戦いの中で自分の限界以上の力を使い、その反動からかちからのコントロールがうまくできていない。だがでも負ける気はしなかったがレオン が助けてくれなければ、凛の剣鎧護法には遠く及ばなくとも体術だけで神城の門下生十人を相手にするのは今の自分では正直きつかっただろう。

 

「自分の今出せる力は分ってい る。心配はかけないわよ」

 

そう言うと沙弓はレオンの前を通 り集合場所へと戻っていった。

 

「手のかかる娘ほど可愛いとはよ く言ったもんだ」

 

身体が光に包まれるとレオンはい つもの姿へと戻る。

 

「とりあえず、注意はしておこっ と」

 

そう言うと、レオンは沙弓のあと を追った。

 

 

 

 

『レオンのインフィニティールー ム!』

どろろろろろ〜〜、京都そこは伝 統の町であると同時に階段ネタの宝庫〜〜〜

ってな訳でレオンです!

いや、カズ達は置いておいて夕菜 はいったい何を目指しているのでしょうか?

これで進化したらもはやどこかの モンスター達の仲間入り・・・・・・いや、モンスターの強さを越えてしまうかも・・・・・・

さて、沙弓の方も神城家の術者と の絡みが次の話で本格的に動き出します。

カズ達も巻き込みそれぞれの戦い が始まる次の話をお楽しみに!

 

 


BACK  TOP  NEXT


 

 

inserted by FC2 system