第10話 引越しは大掛かり

 

 

「レオン、そっちのお皿持ってき て!」

 

「O〜K〜!」

 

「よしできた!!」

 

休みの日は寝坊するというのが和 樹の日課である。下手したら昼まで寝ていることもある。

 

だが今日見たく千早が朝来て、朝 ごはんを作ってくれることがある。レオンにとっては和樹のせいで朝ごはんを食べ損ねることもなくなり、千早の手料理まで食べられて一石二鳥である。

 

「さて、和樹君を起すとする か!」

 

和樹はいまだに爆睡中。寝る子は 育つである。

 

「和樹君、ご飯できたわよ!起き て!」

 

「・・・・・・」

 

「早く起きないと、キャッ!」

 

いつに間に起きたのか、いたずら 小僧のような笑みを浮かべて和樹が千早に抱きつき、そのまま千早に覆いかぶさる。

 

「おはよ、千早!」

 

「おはよう、和樹くん! あまえてるのかな?」

 

「キスしていい?」

 

返事を待たずに和樹の唇はふさが れた。

 

「大好き和樹君」

 

「放さないよ、千早」

 

二人は実に幸せそうである。

 

 

 

 

 

「・・・・・・あの〜2人とも仲 良いのはいいけど、ご飯まだ食べないの?」

 

このままいくとやばそうな上に、 朝食をいつまでたっても食べられないと見たレオンは2人に声をかける。

 

「んじゃ、食べようか!?」

 

「そうね!」

 

何気にまだ2人だけの世界に入り 込んでいる2人。さすがバカップル!

 

ちなみに食事中も「和樹君、あー ん」とか「ご飯粒ついてるよ」といってキスしたりとか、レオンは完全にかやの外にされた。

 

(・・・何かいつもより美味しく ない・・・)

 

2人の空気に当てられ続けるレオ ンだった。あわれな・・・

 

 

 

 

 

「和樹君、今日買い物付き合って くれない?」

 

「いいよ!」

 

平和だ。洗い物を片付けながら会 話をしている2人。まさに、新婚夫婦! レオンは満腹になったのか部屋の中に寝転がっている。

 

だが平和とは壊れるためにあるの だろう。引越しのブンコのダンボール箱が和樹の頭の上に降ってきた・・・それも大量に・・・・・・

 

「ふぎゃぁぁぁぁーーーー!」

 

ダンボールの角が頭に当たる。そ れも中身満載。それも大量に次から次へと。これはかなり痛い。

 

(いや、死んでもおかしくない)

 

和樹は猫が尻尾を踏まれたような 声を上げてダンボールに埋まった。

 

「か、和樹君、大丈夫!?」

 

「和樹さん、大丈夫ですか!?」

 

ダンボールと一緒に夕菜が現れ た。

 

大丈夫なわけがない。和樹の頭に は見事なこぶができた。(こぶだけかよ!!!!)

 

「・・・・・・ゆ、夕菜! 何な んだ。いったいこのダンボール箱は?」

 

和樹は声を荒げながらも、こぶに 響いたのか涙目で言った。

 

「えっ? これですか?」

 

「それ以外に何があるの?」

 

千早がこぶを冷やし始めてくれた おかげか、痛みが少しひいてきたようである。

 

「荷物ですけど、なにか?」

 

「誰の? そして何で僕の頭の上 に落ちてくるの?」

 

「え〜〜と、これは私の引越し用 の荷物で、和樹さんの頭の上に落ちたのは偶然か神様のいたずらかと・・・」

 

神様、悪魔のバイトはやめましょ う。

 

「ちょっと待って。今引越しの荷 物って言ったけど、ここは男子寮よ!」

 

「いいんです! 私はここに住む んです! 夫婦ですから!」

 

「・・・千早、管理人さんに電話 お願い」

 

「はいはい!」

 

夕菜が電話に飛びついて止める。

 

「ちょ、ちょっと待ってくださ い。和樹さん、約束してくれたじゃないですか!?」

 

「いつ? どこで?」

 

「2人の再会の日にです!!」

 

「言った覚えはな い!!!!!!」

 

断言する。

 

「それじゃ、もう一度「却 下!!!!!」」

 

千早とならいいが、好きでもない 夕菜といたら地獄である。

 

「そんな、和樹さんいいじゃ「だ め!!」」

 

下手したら退学ものである。

 

そしてさらに不幸は続くものであ る。

 

「はーい! 和樹、元気 ―ぃ!!」

 

ドアが開き長身の女性が部屋の中 に飛び込んでくる。

 

そのまま和樹に飛び付こうとする が・・・

 

「おはようございます、風椿先 輩!(ニコ)」

 

千早が槍を片手に止めた。笑顔だ が何か怖い。

 

「お、おはよう、千早。お願いだ から槍を収めてくれる?」

 

さすがに今の千早に逆らうのは自 殺故意である。

 

「ところでこの騒ぎは何?」

 

「見ての通りですよ」

 

和樹は夕菜と荷物の山を指差しな がら言った。

 

「・・・分ったわ」

 

「分ってくれてうれしいです」

 

「はぁ・・・・・・」

 

「3人とも私のこと無視してませ ん?」

 

控えめな口調で夕菜が聞いてき た。

 

「いや、忘れてた」

 

「無視してた」

 

「忘れたかった」

 

・・・・・・さすがに酷くない か・・・・・・

 

「夕菜ちゃん、和樹の部屋に住む のは不公平よ」

 

「ちょっと待ってください、どう いう意味ですか? 何で不公平なんですか?」

 

「夕菜ちゃんだけ一緒ってのは不 公平でしょ。私や千早や凛が」

 

「千早はともかく何で玖里子さん や凛ちゃんまで」

 

「う〜〜ん、私は遺伝子目的だけ ど、凛はあんたに惚れたみたいよ」

 

「り、凛さんがですか!?」

 

「うそっ!?」

 

夕菜と千早は驚いたようである。

 

「凛って今まで自分と同じくらい の男の人で強い人が周りにいなかったからね。和樹の強さを見て惚れちゃったみたいよ。本人は認めていないけど」

 

「はぁ〜〜〜〜〜〜〜〜〜」

 

もう勘弁してほしい。

 

「ねぇ、和樹」

 

「何ですか?」

 

「向かいに住まわせてあげたら?  あそこ空いてるはずでしょ?」

 

「先輩何か企んでいませんか?」

 

「何も企んでないわよ」

 

千早が疑いの目を玖里子に向け る。玖里子が親切に自分にこんな提案をしてくれるなんておかしすぎる。

 

「夕菜ちゃんはどうなの? 嫌な んだったら力ずくでも朝霜寮につれて帰るわよ」

 

「・・・・・・・・・わかりまし た。それじゃあ向こうにします」

 

納得したようである。

 

夕菜はそう言って和樹の部屋の向 かいに荷物を全て送り自分も入っていった。

 

「玖里子さん、本当は何を企んで いるんです?」

 

「な、何もないわよ」

 

和樹に殺気を飛ばされる。玖里子 もさすがに和樹に睨まれては動揺が隠せないようである。

 

「本当のこと話してくれればそれ なりに対処しますけど?」

 

「い、いや本当に・・・・・・」

 

「和樹さん向かいに幽霊がいま す!」

 

「「「はい?」」」

 

3人とも驚いたように返事をする

 

「とにかく来てください」

 

とりあえず行くことにする。

 

「レオン、行くよ」

 

「・・・もう食べられないよ」

 

静かだと思ったら寝ていたらし い。さすが和樹の式神である。

 

 

 

 

 

夕菜に言われるままその部屋に入 ると確かに幽霊がいた。

 

幽霊は顔立ちは幼く背も低い女の 子・・・簡単に言えば少女の幽霊だった。

 

「また、おまえか?何用じゃ?」

 

「この部屋を使わせてもらおうと 思いまして」

 

「さっきも言ったが、ここはわら わの住処、早々に立ち去れい!」

 

「ここは私と和樹さんの住まいで す。あなたが出て行ってください。そもそも誰ですかあなたは?」

 

「わらわはエリザベート。ノイン キルヘン伯ゲオルク・フリー・ドリヒの娘じゃ!」

 

「あっ、エリザじゃん!」

 

レオンが声を上げる。

 

「本当だ、久しぶり、エリザ」

 

「エリちゃん、どうしたの?」

 

レオンに続いて和樹と千早も声を かける。

 

「レオン、それに和樹殿と千早様 まで!?」

 

3人に気づいて驚くエリザベー ト。

 

「3人とも知り合いなの?」

 

玖里子が聞いてきた。

 

「和樹殿たちには昔助けてもらっ たことがあるのじゃ」

 

玖里子の疑問にエリザベートが答 える。

 

「何でこんな所にいるんだ、エリ ザ? 確か学園近くの洋館に住めるようにしてあげたはずだけど?」

 

「また、何か問題でも起きた の?」

 

和樹と千早がエリザベートに聞 く。和樹の魔法を使って解決してあげたはずである。

 

「それが・・・・・・(チ ラッ)」

 

「・・・風椿先輩どういうわけで すか?」

 

千早はエリザベートが玖里子の方 をチラッと見たのを見逃さなかった。

 

「な、何のことかしら? 私、何 も知らないわよ」

 

「誤魔化さなくていいですよ、わ かってますから。エリちゃんを洋館から追い出したんですね」

 

「いや、追い出したんじゃなく て、エリザも一枚かんでるね?」

 

「い、いや、その・・・」

 

「「どうなんですか?」」

 

玖里子に迫る2人。

 

「カズ! 見てきたよ。看板に風 椿って書いてあった」

 

レオンがとどめの言葉を言った。

 

「玖里子さん、まだ言い逃れしま すか?」

 

「どうしますか?」

 

和樹と千早に追い詰められる。千 早にいたっては槍まで出している。

 

「こ、降参します・・・・ (汗)」

 

 

 

 

 

 

玖里子の話しによると風椿家が今 度進める再開発の土地の一部に朝霜寮が引っかかっているそうなのだ。

 

「でもどうして和樹達とエリザ ベートが知り合いなの?」

 

「1年の頃にレオンがあの洋館に 入っていったことがあってね。そのときにエリザに会ったんですよ」

 

「そのときにわらわの生い立ちと 何故このような東洋の島国に来たのかを話したのじゃ」

 

「で、洋館に忍び込んでくる人が いるから何とかしてほしいって言われて、和樹君の魔法で私たちとエリちゃん以外の人は入れないようにしたってわけです」

 

「はぁ〜・・・・・道理でうちの チームが洋館に入るのに苦労したわけね。5チームも結界解くのに使ったわけよ・・・和樹の魔法じゃあね〜」

 

「それで僕の魔法で朝霜寮を移動 させて欲しいわけですか。で、どこに移動してほしいんですか?」

 

「やってもらえるの?」

 

「できれば最初から言ってほし かったですけどね。頼めばやらないこともないんですよ。で、どこに移動してほしいんですか?」

 

「そうね。どうせなら朝霜寮と彩 雲寮をくっつけちゃってもらえるかしら」

 

「・・・まずくないですか? そ れって・・・」

 

「でもこれで和樹も夕菜ちゃんと 一緒に住まなくてもいいでしょ? なんせすぐ傍に和樹の家があるんだしね」

 

「確かに問題のほとんどが解決す るわね。それでいいんじゃない」

 

千早がその意見に賛成した。

 

「まあ、いいか。じゃあくっつけ ますよ。」

 

和樹の手から青い光が出たと思っ たら寮全体が揺れ出し、大きな音がなる。

 

しばらく音が鳴り響いたが、急に 静かになる。

 

「これでくっつき・・・・・・ げぇっ!!!!!」

 

「どうしたの、和樹君?」

 

「和樹なんか問題でもあった の?」

 

そのときどこからともなく悲鳴が 聞こえてきた。

 

「なに?」

 

「和樹どうなったの?」

 

「・・・自分で見てきたほうがい いですよ」

 

彼女達が悲鳴の原因を見たとき、 しばらくの間呆然としていたのは言うまでも無い。

 

 

 

 

結局夕菜は和樹の部屋ではなく朝 霜寮に入る事になった。

 

エリザベートは玖里子に憑いてし まったので和樹が頼み彼女の家に居候させてもらうこととなった。どうやら母親に似ていたらしい。

 

ちなみに千早の部屋が和樹の部屋 の隣にくっついてしまったのは和樹のせいなのか、偶然なのか本人達しか知らない。

 

もちろん、このとき夕菜が暴れた のは言うまでもない・・・

 

 

 

あとがき

引越しとはマジで疲れるもので す。(バイトの経験者は語る)

レオンだよ。エリザ登場です。あ まり活躍していませんが・・・

ええ〜、和樹と千早の部屋がつな がってしまいました。これで僕も朝食を食べ損なうことがなくなりました。神は僕を見放してはいなかった!

次は、僕が活躍し始めます!

 



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