第11話 神城家の使者

 

 

学校の帰り道、和樹と千早とレオ ンは商店街に向かって歩いていた。

 

いつものように夕飯を千早が作っ てくれるので材料を買いに向かっているのだが、今日はいつもと違った。

 

運が無かったのか、神様のいたず らか、学校を出るところで夕菜につかまりそのままついて来られてしまったのだ。

 

「今日は何が食べたいですか?  和樹さん」

 

そう言いながら、ひっきりなしに 和樹の手を握ろうとしてくるので、和樹は右手に鞄、左手にレオンを抱えて手を握れないようにした。大体『今日は』って・・・いつも千早が作ってくれるので 夕菜の料理は一度も食べたことが無い。と言うよりも千早の料理以外食べる気が起きないのだが。

 

いつもは千早の手を握っている手 がさびしく感じた。

 

(何で・・・こうなるの?)

 

(夕飯・・・食べられるのかな 〜?)

 

おかげで、和樹とレオンはそれぞ れの不満や不安を心に持ちながら買い物をすることになってしまった。

 

さらに千早が買い物を始めると夕 菜まで買い物を始める始末。

 

いつもなら、和樹が買い物かごを 持ち千早の後ろを歩くのだが今日は夕菜が騒いだりして落ち着いて買い物ができない上に、時間がいつもの倍以上かかってしまった。

 

(買い物って・・・こんなに疲れ るものだったんだ)

 

(もう・・・いやだ)

 

和樹とレオンは買い物に対する考 えをこの日改めた。

 

 

 

 

 

 

寮に帰る途中も、また地獄だ。

 

千早の買い物袋を持ってあげたら 夕菜も持ってくれと騒ぎ出して和樹は2人の買い物袋を持つことになってしまった。

 

(・・・もういやだ、神様。僕悪 いことしました? 教えてください・・・)

 

もちろん神様からの返答は無かっ た。空を見るとただカラスが『アホ〜』と鳴いていた。

 

自分に言っているのかな〜とネガ ティブ思考になりつつある。

 

寮まであと少しというところで人 影を見つけた。

 

 

巫女のようなかっこに日本刀を持 つ女の子、葵学園の1年の神城凛だった。

 

「あれって凛ちゃんだよね?」

 

「神城さんだけど、なんでこそこ そしてるだろ?」

 

何か周り警戒しているようだが、 とりあえず声をかける事にした。

 

「凛ちゃん、どうしたの?」

 

後ろから声をかけると凛の方がビ クッとなった。

 

「山瀬先輩、それと式森達か」

 

「・・・声かけたの、僕なんだけ どなぁ・・・」

 

千早を尊敬している凛は、そこら へんをきちんと別けていたりする。

 

「何か思いつめた顔していたけ ど、どうしたの?」

 

「えっ、そんな顔していました か?」

 

千早に聞かれて凛は一瞬困った顔 をする。

 

「悩んでいることあるなら何でも 相談に乗るわよ」

 

千早は昔から困っている人がいる と頬って置けない性格なのである。そこがいいと和樹は思うのだが。

 

凛が黙っていると、千早は何かの 気配に気づいた。

 

もちろん、和樹やレオンも少し前 からその気配に気づいている。

 

「誰かいるわね?」

 

「「え?」」

 

夕菜と凛が驚いた顔をする。

 

「かなりの使い手だな」

 

「後ろの右の角だね、いる の・・・」

 

千早とレオンはもしものときに対 応できるように、構えをとる。

 

次の瞬間何かがレオンの言った角 から飛び出してきた。一直線に凛に向かって迫る影、和樹は買い物袋を手にしていたので、その影を止めることができなかった。

 

千早がその影と凛をかばうように 相対した。いつの間にかヘアピンを槍に変えていた。

 

(速い!!)

 

槍を突いたが、軽く避けられてし まった。手加減してはいたが、それなりの使い手でも避けることは難しい自分の突きを簡単によけられた。

 

千早の突きを避けた相手は槍を掴 むと千早ごと投げてしまった。まさか突きを避けられると思わなかった千早は簡単に投げられた。

 

受身が間に合わない。油断してし まったと思った瞬間誰かが自分を空中で抱きとめた。

 

和樹だった。

 

袋を道の端に置き腕輪を短刀に変 化させた和樹は千早が受身を取れないと判断して助けたのだ。

 

和樹は千早を降ろすと影に斬りか かった。千早を危ない目に合わせた相手に怒りも感じていた和樹は、容赦せずに斬りかかった。

 

「ハァッ!」

 

影はそれをぎりぎりで避けると和 樹のボディーに蹴りを放った。和樹はそれを黒刀の峰で受けた。

 

「チッ!(×2)

 

激しくぶつかり合うといったんそ こでお互いに間合いを取った。

 

再び和樹が斬りかかろうとすると 両者を、凛が声を挙げて止めた。

 

「やめろ2人とも!!!」

 

お互いに動きを止める。

 

和樹はそのとき改めて相手を見 た。影の正体は20歳ぐらいの青年だった。背が高く、伸ばした茶色の髪を後ろで簡単に束ねている。黒のシャツをだらしなく着ている。

 

「駿司、いきなりどういうつもり だ」

 

「凛。久しぶりだね」

 

ニヤついた顔で駿司と呼ばれた男 は答えた。

 

「どういうつもりだと聞いている んだ」

 

「毎日の修行の成果試させて貰お うとしたんだけど、腕が上がるどころか、まさか他人に助けて貰うとはなぁ・・・」

 

「ふざけるな! 私はただの高校 生だぞ」

 

「だが修行はしてもらわないと ね。家のほうではもう決定していることなんだ」

 

「私は関係ない」

 

その青年は、駿司というようだど うやら凛の知り合いらしい。

 

(どうやら、刀を納めて大丈夫そ うだな)

 

和樹は短刀を腕輪に戻した。

 

「はじめまして、君が式森君か な?」

 

「ええ、そうですけど? あなた は? 凛ちゃんの知り合いのようですけど」

 

「僕は神城駿司・・・凛のま あ・・・保護者みたいな物かな」

 

「保護者なものかこんなやつ」

 

凛が文句を言った。どうやらあま りいい関係では無いようである。

 

「僕は神城にはずっと前からお世 話になっていてね。彼女が生まれてからも、保護者と剣術の師匠を命じられていたんだ」

 

「神城さんが生まれてからという ことは、駿司さんは亜人間なんですか?」

 

「駿司は人狼族の生き残りなん だ。長く生きすぎたせいで今は狼になれないが」

 

千早の質問に凛が答えた。

 

人狼。狼の敏捷性と力を兼ね備え た、亜人間である。

 

亜人間は魔法世界の中でも珍しく 戦乱と人間との混血が進んだせいであまり生き残らなかった。現在は東欧に吸血鬼、ドイツに人狼族、インドと南米に虎系、後はアマゾンなどで未確認とされて いる半漁人、日本にも猫又、河童、人魚などが挙げられる。

日本では明治時代にはいなくなっ たと聞いている。和樹にも何人か亜人間の知り合いがいる。考えてみるとあの動きは人間にできる動きではなかった。その動きをした和樹は何なのかと思いたい が、それだけの修行をおこなったと言っておこう。

 

「ところで、何かようなんです か? 凛ちゃんだけに用があるって訳じゃなさそうですが?」

 

「まあね、僕は式森君にも用があ るんだよ」

 

「僕にも?」

 

「・・・和樹君、とりあえず部屋 に来てもらったほうがいいんじゃない」

 

千早に提案で和樹の部屋に行くこ とになった。

 

(・・・あの人・・・まさか)

 

 

 

 

 

 

「申し訳ないね、僕までご馳走に なって」

 

和樹の部屋に集まった後、遅く なったが夕飯を食べることとなった。このときも夕菜が作ると騒いだが、騒いでいる間に千早が料理を作り終えてしまった。

 

「いいんですよ、みんなで食べた ほうが美味しいですから」

 

みんな千早の料理に舌鼓をうって いる。夕菜が納得のいかないような顔をしているが料理は美味しいらしい。

 

「ところで僕にようって何です か?」

 

「ああ。君って凛の婚約者だ ろ?」

 

「ほえ?」

 

「違う、こんなやつ婚約者でもな んでもない」

 

「それなら、凛は本家に帰るんだ ね」

 

「なぁ!!!」

 

「式森君の遺伝子を持ってくるっ て約束で本家は葵学園入学を許したんだから、その気がないなら本家に帰るべきだろう。そのほうが修行もしやすいしね」

 

「何でそうなる!!」

 

「退学届けの用意もしてあるし、 みんな凛の帰ってくるのを待ってるぞ」

 

凛は黙ってしまった。どういいっ たらいいのか分らない。

 

「それと式森君、君も一緒につれ て帰りたくなった」

 

「はい?」

 

「先の立ち回り、まだまだではあ るけど鍛えれば伸びそうだ、もし君が凛と婚約すれば神城家は安泰だしね」

 

どうやらさっきの和樹の動きを見 て、興味を持ったらしい。和樹はもちろん力を半分も出してなかったけど。

 

「ちっと待ってください!! 和 樹さんは私と一緒になるんです!!」

 

黙っていた夕菜がついに爆発し た。

 

「つれて帰るなら凛さんだけにし てください、和樹さんはこっちに残ります!!!」

 

「ちょっと、和樹君と婚約なんか してないでしょ!!」

 

夕菜に千早が反論する。

 

「駿司さん、神城本家のほうも勝 手過ぎます。人の人生を何だと思っているんですか? 凛ちゃんの人生は凛ちゃんのものです。」

 

千早は神城の本家の身勝手さにか なり怒っている様子だ。怒った千早を始めてみた夕菜と凛は驚いた顔をしている。

 

「まあ、そう言われても仕方がな いが、神城家を潰すわけにも行かないんでね。それに、凛には神代家の次期後継者になるだけの力とみんなからの信頼がある」

 

「凛ちゃんを宗家にするのは分り ます。しかし、和樹君の遺伝子をもってこいというのは、ただ家名前を挙げたい、ただ力を持ちたいという欲望だけでしかありません」

 

「・・・確かにそうだ。きっと君 の意見が正しいだろう。しかし、本家に逆らうわけにも行かなくてね。」

 

「・・・・・・」

 

千早は何も言い返せなかった。

 

「・・・じゃあ、勝負します。僕 らと神城家で」

 

 

「え!!!!(×5)」

 

 

いきなり和樹がとんでもないこと を言い出した。

 

「もちろん、駿司さんは神城家 側、凛ちゃんは僕ら側で、ですけど。」

 

「僕も一緒にって・・・本気で 言ってるのかい、式森君!」

 

「ええ、そうですけど何か?」

 

和樹は何か言いたそうな千早とレ オンに顔をむける。それを見て2人は口を挟むのを止める。

 

「確かに君は強いだろう。神城家 で君に勝てるものはいないと思う。でも僕には勝てない。さっきの立ち回りで僕と同レベルと力を見誤ったのか君は?」

 

「確かにさっきの僕じゃ勝てない でしょうね、でも、本気を出せばあなたと同レベルくらいにはなるはずです」

 

(さっきのが、本気じゃなかった のか・・・)

 

和樹のさっきの動きは余力を残し ているとは思えない動きだったからだ。

 

「千早、レオン、2人はどうす る」

 

2人に顔をむけて聞く。その顔を 見て2人は和樹から何かを感じ取る。

 

「僕は良いよ、戦っても!!」

 

「私も良いわよ」

 

「和樹さん私も参加します。」

 

「・・・・・・・・・・・夕菜、 運動会やお祭りとかじゃないんだよ?」

 

「妻は夫を助けるのが仕事で す!!!!」

 

「・・・・・・」

 

まあ後でそこのところは考えよう と、和樹は話を進めることとした。

 

「どうします駿司さん?」

 

「・・・わかったいいだろう。日 にちはいつがいい? 君達の都合に任せよう」

 

「そうですね。修行もしたいの で、2、3週間日にちもらえますか? できるだけ万全の形でやりたいので」

 

「わかった。こまかな日にちは凛 を通して連絡するようにしよう。場所は神城本家でいいかい?」

 

「いいですよ。そっちの地方に 行ったかとがなかったので、この機会に見て回らせてもらいます! 千早、レオン良い?」

 

「僕はいいよ」

 

「私もそっちのほう見て回りたい からいいわよ!」

 

2人とも何気にうれしそうであ る。ついでに観光する気満々である。いや、観光のほうが主になっているかもしれない。

 

「和樹さん、私には聞いてくれな いんですか?」

 

自分に聞いてくれなかった事を根 に持ってるようである。

 

「夕菜は・・」

 

「OKです」

 

まだ聞き終わっていないのに答え る、夕菜。

 

「・・・・・・・はぁ・・・」

 

(聞くまでもなかったん じゃ・・・)

 

どうせ答えは決まっていたのだ し。

 

「それじゃあ、日にちが決まった ら連絡してくれ、夕飯ご馳走になったね」

 

そういって駿司は帰っていった。

 

(・・・間違いないな・・・)

 

駿司の後姿を見て和樹の予想は確 信へと変わった。

 

 

 

 

 

 

「みなさん、すいませんでし た。」

 

凛は土下座して床に頭をこすりつ けている。

 

「凛ちゃん気にしなくて良いわ よ!」

 

凛に頭を上げさせながら千早は凛 を慰めた。いつの間にか、名前で呼ぶようになっている。

 

「で、和樹君修行ってどこでする の?」

 

この近くに、そんな場所はない。 できなくもないが、和樹の力がばれてしまう。

 

「それなんだけど、実家に行こう かなと思ってるんだ。あそこなら、良い修行できるだろうし!」

 

「ゲン爺にお願いするのね」

 

「そういうこと」

 

和樹たちは和樹の実家に行くこと となった。

 

 

 

 

あとがき

レオンです。

神城駿司登場です。人狼の彼がこ れからどのように動いてくれるのか楽しみです。

次回はカズの実家に行きます。つ いに出るか式森源蔵・・・

和樹が駿司をみて感ずいたことと はいったい何か?

あとがきを担当するレオンでし た!

 



BACK  TOP  NEXT




inserted by FC2 system