第15話 槍使い

 

 

「始め!!!」

 

合図とともに門下生は千早に斬り かかった。容赦なく刀が振り下ろされる。だが、相手が女だということで甘く見ているようだ。

 

その考えが大きな間違いだったと 門下生は思い知らされることとなった。

 

千早は門下生の刀を右手に持った 槍で軽く弾くと、流れるような動作で左手からだされた掌底を門下生の鳩尾に食らわした。

 

軽く触れたようにしか見えない動 きである。だが和樹とレオン以外の者が次に見たのは信じがたい光景だった。

 

そのまま道場の壁まで門下生は吹 き飛ばされ、壁に叩きつけられるとそのまま動かなくなった。

 

「次の方、どうぞ」

 

次の人を呼ぶ声でみんなが気づい た。

 

和樹とレオン以外は目を疑った。 千早の掌底はそんなに力が入ってないように見えた、軽く押しただけのように見えた。それなのに門下生は5メートル以上飛ばされ壁に叩きつけたのだ。

 

「・・・今の技は?」

 

駿司が何とか声を出した。

 

「寸勁の応用版の発勁ですよ、駿 司さん」

 

答えたのは和樹だった。

 

「中国武術の技で千早の得意とす る技です。下手をすれば相手を殺してしまう技でもありますが千早は使いこなしているので安心してください」

 

「どこでそんな技を?」

 

「それは言えませんよ。でも、気 を抜いてかかるとあんなふうになりますよ」

 

和樹が壁のところに倒れている門 下生を見て言った。人を殺せるほどの威力を持つ技、気を抜いてかかった結果が自分達の目の前にある。明らかに門下生達の顔付きが変わる。

 

実際に今までに千早を甘く見て倒 された男の数は数え切れないほどいる。その後和樹に地獄を見せられたものも同じ数だけいるのだが・・・

 

「次の方は? 2人係でもいいで すよ」

 

「そうさせて貰おう」

 

千早1人に門下生1人では割に合 わないと考えたのか、駿司が2人ずつ出るように指示した。

 

しかしその後も、千早を止められ る者はいなかった。

 

2人係で来る門下生は次々に倒さ れそのまま道場から運ばれていった。

 

いよいよ最後の門下生になった。

 

(この人強い・・・)

 

明らかに他の門下生とは違ってい た。

 

「神城雷道、神城家の中でも一番 の手練だ」

 

雷道が千早に向かって言った。

 

「小娘が調子に乗るなよな、俺は あいつらとは違うからな」

 

「山瀬先輩、駿司の言っているこ とは本当です。雷道は私よりも強くて神城家本家にいる者の中で3番目の強さです」    

 

神城雷道は2メートルほどの長身 に2メートルをこえる大刀を肩に担いでいた。

 

「言っとくが死んでもしらねぇ ぜ、これだけは覚えとけ」

 

「良いかな、始めて?」

 

千早に確認を取る。千早が頷こう としたら和樹が声をかけた。

 

「駿司さん、少しいいですか?  雷道さんも?」

 

「いいぜ、最後の挨拶でもしな」

 

和樹が千早を呼んで何か耳打ちす る。その言葉を聴いて千早は驚いたような顔をする、だが和樹の顔を見て納得したようであった。

 

「いいですよ、始めて」

 

「それでは構えて・・・始め!」

 

フッ!

 

千早の姿が消えたと思ったら、次 の瞬間雷道の後ろから鋭い槍を放った。その突きを止めた雷道の刀の間で火花が散った。

 

槍と刀のぶつかり合ったところか ら擦れあう音が道場に響き渡る。だが次の瞬間にはお互いに間合いを取るために離れた。

 

「意外に良い動きするな、迷いも 何もない。門下生だったら今頃体に穴が開いていたな」

 

「褒め言葉として受け取っておき ます」

 

「だが小娘、お前に決定的にかけ ているものがあるぞ」

 

雷道がそういった瞬間に千早に向 かって刀を振り下ろした。

 

 

ドガン!!!

 

 

「・・・力だよ」

 

雷道の刀が振り下ろされたあとに は、刀の衝撃で大きなヒビが道場にできた。

 

「お前の細腕では俺の刀を正面か ら受け止める力はない。刀があったった瞬間に槍が折れお前が真っ二つになるか、槍ごとお前の体は壁に叩きつけられる」

 

「・・・・・・」

 

「期待ハズレになるなよな、久し ぶりに楽しめそうなんだからよ。お前の戦い見ていて戦ってみたいと思った俺の期待は大きいぞ」

 

 

 

 

 

 

「式森、山瀬先輩は大丈夫なの か、雷道の刀を受けたら先輩は・・・」

 

「和樹さん、さすがに無理です よ」

 

凛と夕菜は和樹に言い寄る。

 

「・・・凛ちゃんと夕菜は千早の こと信じてる?」

 

「「え?」」

 

「千早は前に僕のサポートをして いたら強くなったって言ったけど、あれは大嘘だよ」

 

「どういうことだ、式森?」

 

「和樹さん、教えてください」

 

「・・・昔、僕が自分の力を抑え るために修行していたときに、千早はいつもそばに居てくれてね。とても心強い存在だったってことは話したよね」

 

「はい」

 

「それは前に聞いたが・・・」

 

「・・・千早は僕の修行の後にい つもゲン爺に特訓を受けていたんだよ。そのとき僕は疲れきって倒れて気絶していたから、後からゲン爺に聞いたことなんだけどね。僕のことをサポートするに はそれなりの力が必要だからって、千早は僕と同じくらいの修行をしていたんだ」

 

 

「「・・・・・・!?」」

 

 

「ゲン爺は止めたらしいんだ。僕 が修行しているときも側で修行していたんだからそれでも大変だったはずだから。だけど・・・聞かなかったらしくてね。僕も止めようとしたんだけど、千早を 見るといつも言えなくなっちゃうし。結局、僕が力を制御できるようになるまでずっと続けたんだ」

 

「そんなことが・・・」

 

和樹の言葉に唖然とする2人。そ れほどすごい修行を受けていたのに千早は誰にも言わなかった。誰のためでもない、和樹を支えるため、自分が納得するために千早はその辛い修行に耐えたの だ。

 

「だから僕は信じられるんだよ、 千早のこと、勝てるかどうかは難しいけど、千早なら大丈夫な気がするんだ」

 

「信じましょう」

 

「わかりました」

 

2人は和樹が千早を信じている理 由が分った気がした・・・

 

 

 

 

 

 

「雷道さん、言っておきたいこと があります。私は力だけが戦いを有利に運ぶものとは思いませんよ」

 

「普通はなぁ。だが、剣を受けな ければならないときもあるぞ。そのときはどうする? おとなしく降伏するのか?」

 

自分の剣に自信があるのだろう、 雷道は笑みを浮かべている。だが千早に焦りの色は見えなかった。

 

「私は、あなたの力をすべて受け るつもりはありません。自分の非力さは私が一番わかっていますから・・・」

 

「口で言うのは簡単だがなぁ!」

 

雷道は千早に斬りかかった。千早 は槍の端を持ち雷道の刀を受けようとする。

 

「それで受けるつもりか!? そ のまま潰れろ」

 

千早が負けると思ったが千早の動 きに一同は驚愕した。刀が槍に触れた瞬間千早の槍は半分に折れたが折れた槍は放れずに千早が素早く回転したかと思うと、鞭のように雷道のこめかみに叩きつ けられた。雷道はそのまま吹き飛ばされ倒れこんだ。

 

 

「『トゥイン・ランス』」

 

 

双子の槍。千早の槍は折れたので はなく、真ん中で二つに別れて鎖で繋がっていた。

 

「力が受けきれないなら、受け流 すだけです。雷道さん」

 

千早は剣の勢いを受け流し、その 勢いで回転し相手を倒したのである。もちろん千早だからできた芸当である。雷道の言った通り、この芸当ができるのはこの場では和樹と駿司に佐平だけであろ う。それほど難しいことを千早はやって見せたのだ。

 

「山瀬君の勝ちかな」

 

駿司やこの場にいた者はこれで終 わりだと思った。あれだけ強くこめかみを殴打されたら誰も起き上がれないと思ったからだ。

 

だが和樹だけは、信じられない様 子で雷道を見ていた。

 

 

「ちょっと待て、駿司。誰が勝ち だって?」

 

 

「!?(×6)」

 

 

「効いたぜ、今のは・・・さすが の俺でも一瞬意識が飛んだぜ」

 

この場にいた全員が目を疑った。 あの技を受けて立ち上がったのだ。足元もふらつくこと無く立っている。

 

「いい武器持っているな、『トゥ イン・ランス』。だが武器だけじゃなくその武器を最大限に生かした動きをしている。期待道理だな、いや・・・期待以上といっていいだろ。もう容赦しねぇ ぜ! 本気で行くぞ、小娘が!」

 

(今のが全く効いていない・・・ なんて打たれ強さなの・・・)

 

ブン! ガッ!

 

雷道の刀を槍でギリギリで受け止 める千早。だが衝撃を受けて後ろに少し下がる。

 

「動きが鈍ったぞ!」

 

千早が構えるのが先か雷道が再び 千早に斬りかかった。連続で雷道の大刀が千早を襲う。刀の重さに雷道の力が加わりその斬撃の衝撃は凄まじいものであった。千早がギリギリで受けるがそれで も勢いは止めることができずに、体ごと刀を降りぬかれる。

 

「くぅっ!!!」

 

壁にぶつかりそうになるのをなん とか堪える。床は踏み込みの跡、刀を受けた衝撃で削られたあとが無数についていた。

 

(鋭く重い斬撃・・・力だけなら 和樹君にも引けを取らない・・・)

 

「次はもっと速く行くけど平気 か? まだ倒れるなよな、さっきのお礼はまだ済んでないんだからよ!」

 

そう言って、再び雷道は斬りかか る。千早はなんとかその猛攻を防ぐだけで精一杯である。

 

「どうしたさっきの勢いは俺を 斬ってみろよ」

 

千早は隙を見て雷道から大きく間 を取った。

 

(体の大きさは見せ掛けじゃな い・・・長期戦になったら危険・・・今からの技は1つ1つ全力で行かないと・・・)

 

「どうした。もう終わりか?」

 

「まだ・・・負けないわよ」

 

そう言うと千早の体が残像を残し ながら、見え始めた。足音も何も無く雷道の隣に千早が立つ。

 

「はぁ!」

 

雷道が斬りかかると花びらが風を 受けたかのように動き、雷道に斬りかかった。

 

斬られた雷道の腕から血が流れ出 す。

 

「『花舞』・・・無音移動術で花 びらが風に舞うように敵を翻弄する技」

 

「ほう・・・確かに見てるぶんに は優雅だが、俺の動きについてこれるかな?」

 

雷道が素早く動いた。その斬撃は 千早を捉えたかのように見えたが、残像だけがそこには残った。

 

(疾い!!)

 

雷道が千早を見失ったその習慣

 

 

ドゴ!!!

 

 

千早の槍が鳩尾を突き深くめり込 んだ。

 

 

「これで終わりです。満足してい ただけましたか?」

 

 

誰もが今度こそ千早の勝ちだと、 確信した。

 

 

 

 

 

あとがき

千早強いです。当たり前だけ ど・・・

でも、僕の活躍の場所がない よ・・・

さて、雷道に千早は勝ったのか、 次に出てくる駿司のレベルはどれほどのものなのか!

次を読んでね

 



BACK  TOP  NEXT



inserted by FC2 system