第21話 新たな戦い

 

 

和樹はただ闇の中を進んでいた。

 

行くあても無く、ただ闇の中 を・・・何も見えない中を自分の五感だけを頼りに歩き続けていた。どれだけ歩いていたのか、ほんの5分くらいのような気もするし、何時間も歩いたような気 もする。


時間の感覚なんてとっくに無く なっていたのかもしれない。和樹は昔修行のときに似たような経験をしている。今いる場所はその場所に何となく似ていた。

 

ぼんやりと光るものが見えたと思 うと徐々に周囲を明るくし始めた。

 

「・・・猫・・・」

 

そして1匹の猫が和樹をじっと見 ていた。泣き声も挙げず、動こうともせず・・・

 

だが次第に猫の原形は崩れ始め る。体が大きくなり牙が口から見えるようになる。

 

頭から2本の角が生え、目が充血 し始めたと思うと、金色に輝き始める。

 

やがて、大きさがゾウの倍ほどに なり背中から蝙蝠のように黒い羽が生え、皮膚が鱗のように硬化し変化が終わる。

 

「グゥオオオオオオ オーーーーー!!」

 

「・・・ベヒーモス」

 

和樹の目の前には召喚獣ベヒーモ ス、召喚ランクSクラスに位置する魔獣。一般の魔術師では到底召喚できない召喚獣がいた。

 

さらにそのベヒーモスは確実に和 樹を敵視している。だが和樹は驚いた顔もせずベヒーモスを見ていた。その目には恐怖の色も無い。

 

「・・・また、やられに来たのか い?」

 

「グゥオオオオオオ オーーーーー!!」

 

返事なのかどうかはわからないが ベヒーモスは咆哮を上げる。普通の人ならここで腰を抜かしているだろうが・・・

 

それ以前にベヒーモスが目の前に 現れたら腰を抜かす。

 

だが、あいにく和樹は普通の人間 ではなかった。世界最高の魔力の持ち主であった。

 

「・・・ならおいで、こっちは毎 晩君の相手で寝不足なんだよ・・・」

 

次の瞬間、和樹の周りの空気が変 わった。全てを飲み込む殺気が周りを包み込む。

 

それに気づいたベヒーモスが後ろ に下がりだす。

 

獣と同じで自分より強い相手には 絶対服従、その本能がベヒーモスを下がらせたのであろう。

 

「君が悪いんだよ・・・毎晩僕の 夢に出てくるから・・・」

 

ベヒーモスの前に立ち頭を撫でな がら言う和樹。ベヒーモスはなんとか助かりたいと服従の姿勢を示している。

 

「・・・滅」

 

次の瞬間、ベヒーモスは和樹の前 から消えていた。和樹の目には一筋の涙が流れていた。

 

「殺したくなんて無いの に・・・」

 

 

 

 

 

 

「・・・・・またこの夢 か・・・」

 

時計を見ると目覚ましがなる前で あった。ここ何日か続けて同じ夢を見ている。

 

「カズ・・・また見たの?  夢?」

 

「・・・ああ・・・毎朝目覚めが 悪くて困るよ・・・」

 

ベヒーモス、夢の中とはいえ何回 も殺すと後味が悪くて仕方ない。自分の手がどんどん血で染まっていく気がする。その血は洗っても落ちることは無い。

 

弱いものを殺す・・・そんなため に自分は魔法を使おう何て考えていない。

 

「和樹君、おはよう」

 

「千早、おはよう」

 

隣の部屋から千早が入ってきた。

 

朝霜寮と彩雲寮がくっついたとき に和樹と千早の部屋は隣同士になった。そのとき和樹は自分お部屋と千早の部屋を行き来できるように、あとから細工をしたのである。

 

(って、良いのか、おい!)

 

「・・・また、夢見たの?」

 

何か思いつめた顔をしている和 樹。そんな和樹を後ろから優しく抱きしめながら、千早が優しく声をかける。

 

「・・・・・・」

 

「紅尉先生に相談したほうがいい じゃないかな?」

 

「・・・そうしてみるよ・・・」

 

「和樹君」

 

千早は和樹を強く抱きしめる。和 樹は千早が自分を抱きしめる感覚に自分の心が癒されていくのが分かった。

 

「・・・絶対に・・・1人で悩ん だりしないでね・・・私は和樹君の見方だから・・・」

 

和樹の頭を撫でながら、ベヒーモ スを夢とはいえ殺している罪悪感に埋もれそうなほど、自分を責めている和樹を慰める。和樹は優しい。だがその優しさのあまり自分を責めてしまうところがあ る。千早はそんな和樹をいつも慰め心の支えになってきた。

 

「ありがとう」

 

和樹は思う。千早がいてくれてよ かったと。心のそこから・・・

 

 

 

 

 

 

その日の放課後、和樹は保健室で 紅尉に夢のことを話していた。外を見ると今日も業者が壊れた校舎を手馴れた手付きで修復していた。

 

余談だが、言うまでも無く校舎を 壊したのは暴走した夕菜、それに参戦してきた玖里子と凛、毎度同じくB組一同である。おかげで業者はこのご時勢でもバリバリの黒字経営であった。本当に余談で ある。

 

「こういうわけなんですけ ど・・・どう思いますか?」

 

「それはまたすごい夢を見ている な・・・・・・しかし、普通はベヒーモスが勝つんではないか・・・? 一般的にはだが・・・」

 

「先生、和樹君がベヒーモスを相 手に苦戦するところが想像できますか?」

 

「・・・できんな。モビルスーツ に生身の人間が勝てるわけが無い」

 

千早の質問はもっともである。紅 尉の言うことも最もであるのだが、和樹の魔力を知っているものならそう答えるだろう。

 

和樹がベヒーモスをペットにして いると言われるほうが信じられる。既にベヒーモスを軽く超える力を持つレオンが和樹の式神となっているのだから、可能といえば可能だ。

 

「それはおそらく予知夢ではない かな・・・」

 

「予知夢???(×3)」

 

「そうだ。近い将来に君がベヒー モスと戦うことを予知してるのだろう」

 

「・・・マジですか?」

 

できれば外れてほしいと心の中で 思う和樹。ベヒーモスに勝つことは簡単だがやはり倒すのは後味が悪い。弱いものを一方的に倒すのは気が進まない。

 

「それじゃなければ欲求不満とか だな」

 

紅尉の顔は適当にいっている顔 だった。

 

「・・・それ、かなり適当に言っ てますね」

 

「ばれたか。それとも暴れたいと か?」

 

「・・・殴りますよ。僕は戦闘狂 ではありません」

 

「それじゃ、女に飢えているので は? 今夜あたり千早君に何とかしてもらったらどうだね?」

 

ドゴォッ!!!

 

「・・・殺されたいんですか?  ただでさえ最近寝不足でいらいらしてるんですから、これ以上ストレス溜めさせないでください」

 

保健室が・・・いや学校中が揺れ るほどの力で和樹は地面を殴っていた。

 

このとき、近くの地震観測系がマ グニチュド5以上を観測したとかしなかったとか・・・ニュースで関東大震災の予兆だとか騒がれたとか・・・それは定かではない・・・

 

「・・・まあ、気をつけて生活す ることだな」

 

「わかりました。何かうまく丸め 込められた気がしますけど・・・失礼します」

 

「失礼します」

 

「じゃ〜ね」

 

だが気を付けていても避けられな いこともこの世にはある。そしてそれは目の前に来ていた。

 

 

 

 

 

 

次の日

 

「千早、今日の弁当の中身は 何?」

 

「開けてからのお楽しみだよ!」

 

4時間目が終わった昼休み。和樹 は夕菜から逃げ切り千早と一緒に屋上に向かっていた。

 

「平和だな〜・・・これで良い夢 が見られたらいいのに」

 

「でも、本当に予知夢なのかし ら?」

 

昨日、紅尉に話を聞いたことが頭 をよぎる。

 

「何も起きなきゃいいんだけ ど・・・」

 

「私、少し聞いて回ったんだけ ど、最近変なうわさが流れているらしいわよ」

 

「「うわさ?」」

 

「うん、夜中に学校から獣の吼え る声がするとか・・・」

 

「あぁ〜、いやな予感・・・」

 

「それと吼える声は何匹にも聞こ えるとか・・・他にもいくつかあるらしいわ」

 

「勘弁してぇ〜〜〜〜」

 

弁当は美味しいのだが何か味が足 りなかった。

 

 

 

 

 

 

弁当が食べ終わり和樹は千早に膝 枕してもらいながら寝ている。レオンはそこらへんにボールみたいに転がっていた。下手したらボールそのものである。

 

(幸せだな〜)

 

だが和樹の幸せなどすぐに崩れ る。運の無さは原作譲りである和樹君であった。

 

「ここにいたのね、和樹」

 

「あっ、風椿先輩!」

 

「あぅぅ〜〜、幸せが逃げていく 〜〜〜(涙)」

 

「どういう意味よ?」

 

「はいはい、泣かないの」

 

和樹の頭を撫でながら優しく慰め る千早。

 

玖里子は千早に慰めてもらってい る和樹を半眼見ていた。

 

「・・・うぅ・・・何のようです か?」

 

「手伝ってほしいことがあるの よ」

 

「嫌です!!(×3)」

 

即答。

 

「何でよ?」

 

「自分の胸に聞いてみてくださ い」

 

「信用できないんですよ」

 

「いいじゃない別に! 手伝って くれたら私を好きにしていいわよ!!」

 

セクシーなポーズを決めながら和 樹たちに言う。

 

「・・・・・・千早、今日の夕飯 は何?」

 

「和樹君の好きなものだよ!」

 

「わーい!」

 

眼中になし。いや、すでに存在さ えも忘れようとしているかもしれない・・・

 

「無視すんじゃないわよ!!」

 

無視して立ち去ろうとする和樹の 頭を、玖里子は思いっきり殴りつけようとしたが、簡単に止められた。

 

「何するんですか!?」

 

「美少女が色気を振りまいてるん だから頬を赤らめるとか、あたふたするとかそれ相応のリアクションをしなさいよ!!」

 

「・・・うわぁ〜〜、自分で言っ たよこの人・・・」

 

「普通自分じゃ言わないよねぇ 〜〜〜!!!」

 

やたら冷めた視線を向ける和樹と レオン、うんうんと頷く千早に、玖里子の顔は真っ赤になる。

 

「うるさい、とにかく手伝いなさ いよ」

 

「うわぁ〜、自己中全開だぁぁ 〜・・・」

 

「何を手伝うか聞いてないのに返 事なんかできませんよ、先輩」

 

「うっ!」

 

千早の鋭い突っ込みに何も言い返 せなくなる。

 

「わかったわ、とりあえず頼みた い内容を言うわ」

 

 

 

 

あとがき

どうもレオンです。

えぇ〜、このシリーズでついにカ ズが本格的に戦います。今までまともに戦ったところ全然無かったカズですがこのシリーズでついに戦います。

あっ、向こうでカズが嬉し涙流し てる。

本当に今まで戦ってなかったもん なぁ〜(シミジミ)

では、DUOに続きもがんばって書いて もらいましょう!

 



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