第24話 キメラ

 

 

「し、式森君?」

 

「お前いったい・・・今のは?」

 

ベヒーモスがいなくなって安心し たのか、仲丸たちが和樹に聞いてきた。みんな自分の見たものが信じられないような顔をしている。

 

「話は後でする。千早みんなを連 れて体育館に向かってくれる?」

 

「えっ、和樹君は?」

 

「和樹さんは一緒に行かないんで すか?」

 

どこかに行っちゃっていた夕菜が ようやく正気に戻ったようである。

 

「調べたいことがあるから、僕の いない間みんなのことは頼むよ」

 

「わかったわ。 気をつけてね」

 

「千早もね」

 

千早に後を頼むと和樹は勢いよく 走り出した。後ろから「私はどうでもいいんですかぁー?」という声が聞こえた気がした。気のせいにしたりする・・・(私もそうするでしょう・・・確実 に・・・)

 

走りながら和樹はレオンと連絡を 取る。

 

(レオン!)

 

(何、カズ! 今そっちに向かっ てるんだけど)

 

(さっきの放送は聞いたね?)

 

(うん、聞いたよ)

 

(それなら話が早い。お前もみん なを助けながら体育館に向かってくれ!)

 

(えっ!? カズはどうするの?)

 

(ベヒーモスの出現場所を潰す! だから、僕の代わりにみんなを守ってくれ、千早1人じゃ無理だ!)

 

(わかった! 人間体になってもいい?)

 

(お前に任せる! 頼んだぞ!)

 

(わかった!)

 

レオンとの念話を終えると和樹は 周りを見渡し始めた。

 

(ともかくベヒーモスの出現場所 を潰さないと収拾がつかない)

 

和樹は『捜眼』を使いながら校舎 の中を探り始めた。

 

 

 

 

 

 

「はぁ!」

 

凛がベヒーモスに向かい刀を振り 下ろす。だが、刀があたったと思った瞬間凛は大きく弾かれた。刀があたったところには傷ひとつない。

 

さらに容赦なくベヒーモスは凛に 追い討ちをかける。

 

「くそっ!」

 

凛はベヒーモスの突進を何とか避 けるが不覚にもバランスを崩して倒れてしまった。

 

そこにベヒーモスの前足が凛を踏 み潰そうとする。

 

「きゃあっ!」

 

反射的に横に転がり何とか避ける ことができたが、恐怖のあまり体が動かなくなる。

 

それでも何とか刀をむけ、ベヒー モスから離れようとするが体がいうことをきいてくれない。

 

「あ・・ああ・・あ あぁぁ・・・」

 

助けを呼ぶにも声が震えてしまい うまく声が出せない。周りにも誰もいない。自分がおとりとなってみんなを逃がしたが、その自分が孤立してしまったのだ。

 

「ぁぁぁ・・・あぁ・・・や・・ やだ・・・」

 

「グァァァーーー!!」

 

ベヒーモスは凛の刀を軽く前足で 弾き飛ばす。凛の目から涙が流れる。

 

「あぁ・・・来ないで・・・あっ ち行ってぇーー・・・」

 

恐怖のあまり涙を流す凛にベヒー モスは容赦なく前足を振り下ろした。

 

「きゃああああ あぁぁぁぁぁぁぁーーーーー!」

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・

 

だが、凛にベヒーモスが襲い掛か ることはなかった。

 

凛が恐る恐る目を開けると自分の 前には黒のトレンチコートを着て左手に龍の細工の施された剣を持ち、空いている右手でベヒーモスの手を受け止めている背の高い男が立っていた。

 

「はぁ!」

 

男の目にも留まらぬ斬撃でベヒー モスは斬り倒されそのまま塵となり目の前から消滅した。

 

「凛、大丈夫だったか?」

 

「レ、レオン」

 

凛の前には人間体へと姿を変えた レオンが青龍刀を片手に立っていた。

 

体育館に向かっている途中レオン は人の声を聞き戻って来てみたら凛がベヒーモスにやられる寸前だったのだ。あと少し遅かったら凛は死んでいただろう。

 

「・・・怪我は無いようだな、立 てるか?」

 

「・・・あぁ・・・・」

 

返事をしたいがレオンが来たのに 安心したのと今までの恐怖感が一気に来て声がうまく出せなかった。

 

レオンはそんな凛を見て凛を両手 で抱き上げた。いわゆるお姫様抱っこというやつです。

 

「あぁ・・・えっ・・・」

 

凛の頭の中が再びパニックにな る。

 

「行くぞ。急がないと千早たちが 危ない」

 

優しく凛に言うとレオンは風のよ うな速さで駆け出した。このとき凛の顔は絵の具で染めたかのように真っ赤だった。だが、しっかり凛の手はレオンの体をつかんでいたりする。

 

 

 

 

 

 

ザン!

 

黒刀がベヒーモスを一刀両断す る。教室を飛び出し和樹は逃げ遅れた人を助けながら校内を見て回っていた。だが校内を捜眼で捜しているが全く反応がない。

 

「なっ!」

 

「グゥォォォォォォォォォォ ン!!」

 

和樹は目の前に現れたものが一瞬 信じられなかった。いや、もしかしたらとは考えていた。だが本当に出てくるとは信じたくなかった。

 

「キメラ」

 

ベヒーモスよりもレベルが上の召 喚獣がそこにはいた。

 

「くそっ!」

 

和樹はキメラに斬りかかった。

 

 

 

 

 

 

和樹が校舎の中を調べているとき 体育館は大パニックとなっていた。

 

千早とレオンの2人がベヒーモス を倒すが次々と現れるのできりがない。特に千早は額に汗を浮かべて疲労の色が隠せない。いくらみんなよりも強く和樹の魔法具を持ちベヒーモスを倒せるだけ の力を持つとはいえ、和樹やレオンと違い千早にとってはかなりの体力を失うのである。

 

「山瀬先輩、私も!」

 

「だめよ! 私たちの前に出てこ ないで!」

 

凛が自分も戦おうとしたが千早に 一括される。凛が出ても足手まといになるだけである。

 

それがわかっているのか、凛も悔 しい顔をするが大人しく下がる。

 

ここにくる途中にも危ないところ をレオンに助けられて来たのだ。自分の力のなさが悔しくてしょうがない。

 

「千早! 私の後ろに下がれ!」

 

レオンが千早に声をかける。

 

ちなみにほとんどの女子生徒(と いうか9割以上)と女教師がレオンの姿に見とれて(一目ぼれして)目がハート(ストーかの目)になっている。

 

今のレオンの姿は前と同様、黒の 皮のズボンに、デカエリの黒のワイシャツをVゾーンをあけて着て、その上に黒のトレンチコートを羽織っている。青い髪の色に青龍刀を 持つその姿は確かに女子生徒と女教師を虜にするのに十分な姿ではあるのだが・・・・・・この状況で・・・本当にのん気なものである。

 

「食らえ! ストーム・トルネー ド!!!」

 

レオンが青龍刀を振るうとベヒー モスをいくつもの竜巻が襲った。

 

ギャァァァァーーーー!!!

 

竜巻に飲み込まれたベヒーモスた ちは奇声を上げ次々とミンチにされた。

その数は軽く10はいた・・・い たはずだった。

 

「くそっ! まだ来るのか!?」

 

10匹以上倒したはずなのにベ ヒーモスは次々と現れ倒した数よりも多くなる。再びベヒーモスが飛び掛ってこようとすると、いきなりそのベヒーモスが後ろから来た何かに踏み潰された。

 

「キャァァァァァーーーーーー!!」

 

生徒の悲鳴が体育館中に響き渡 る。

 

「・・・そ・・・そんな・・・」

 

千早がその姿に目を疑った。

 

「和樹がいないこんなとき に・・・・・・くそっ!」

 

ベヒーモスを踏み潰したのは、べ ヒーモスの倍の体の大きさと強さを持つキメラだった。

 

「グゥオオオオオオオオオオ オ!!」

 

キメラが次々と現れる。レオンや 千早、その後ろにいる生徒を見るとキメラは凄まじい勢いで襲い掛かってきた。

 

「ガオオオオオオオ オーーーーーーン!!!!!」

 

 

 

 

 

 

そのころ和樹はまだベヒーモスの 出現場所を探して校舎の中を走り回っていた。

 

「くそー! 何処なんだ!?」

 

和樹は内心とても焦っていた。キ メラがいたからである。

 

(ここにキメラがいるってこと は、体育館にキメラがいてもおかしくない)

 

レオンと千早がいるから、最悪の 事態はないだろうがそれでも急がないと大変なことになる。

 

ガァァァーーー!!!

 

「邪魔だぁ!」

 

ドゥ! ドゥ!

 

和樹はベヒーモスの頭と胴体を たった2発で粉々にした。今和樹は黒刀をハーディス、黒い装飾銃に変えていた。和樹の魔力により銃弾を作り出すので弾切れがない。さらに弾の強さも変える ことができる。和樹のもう1つの武器である。

 

「まさか・・・・・・あそこ か!?」

 

和樹は急いでその場所に向かっ た。その場所とは・・・旧校舎の中にあった。

 

「あれか!」

 

旧校舎の中で和樹が見つけたのは 光り輝く大きな鏡だった。

 

「・・・別空間とつながってここ からベヒーモスが出てきてたのか・・・だけどもう終わりだ」

 

ドゥ! ドゥ!

 

ガシャァァァァーーーン!!!!

 

銃声が響いた後、鏡は粉々に砕け た。だが、和樹が鏡を割る瞬間、何かが鏡から出てきて近くの窓から逃げていった。

 

「今のは・・・・」

 

和樹は窓から確認しようとしたが すでに窓の外には何もいなかった。

 

「・・・・・なんだったん だ・・・今のは・・・」

 

和樹は何もいない窓の外を見つめ た。鏡から出たものがいずれ和樹に災いを招くことをこのとき和樹は知る予知もなかった。

 

 

 

 

 

 

「ガオオオオオオオ オーーーーーーン!!!!!」

 

体育館ではキメラが生徒に襲い掛 かろうとしていた。

 

「まずい!!! 煉破反衝 壁!!!」

 

レオンが結界を張ると結界に触れ たキメラが消滅した。

 

「誰もこの結界から出るな! 結 界にも触れるな! 消えるぞ!」

 

レオンが大声で全員にいった。煉 破反衝壁、レオンが張ることのできる強力な結界である。結界に触れるものはすべてが消滅する。まさに攻防一体の結界である。キメラが相手ではこの結界でな いと破られる可能性がある。レオンはそう判断したのだ。

 

(和樹が来るまでこれで何と か・・・)

 

「千早!!!」

 

沙弓が悲鳴のような声を上げた。 レオンが沙弓の視線を追うと千早が結界の外に立っていた。

 

「しまった!!!」

 

災厄なことに千早は結界の外にい た。レオンがその状況に焦る。結界をといたらみんなが危ない、だがとかなければ千早が危ない。

 

(どうすれば・・・)

 

「レオン!!! 結界はといちゃ だめ!!!」

 

レオンが悩んでいると千早がレオ ンに言った。

 

「でもそれじゃ千早が・・・」

 

「・・・大丈夫・・・私は自分で 何とかする」

 

「千早! 何言ってるの!?」

 

「大丈夫よ!! 沙弓、心配しな いで!」

 

沙弓に笑顔で答える。心配させな いようにと・・・・・・だが内心、千早はとても焦っていた。おそらく1対1ならキメラにも勝てる。だが相手は見えるだけでも10はいる。さらにベヒーモス もいなくなったわけではない。

 

(和樹君が来るまで、それまで持 てばいい!)

 

千早は槍をキメラに向けて構え た。結界に近づけないと知ったキメラが千早に襲い掛かる。

 

ドゴン!

 

千早がキメラの攻撃をかわす。キ メラの太い前足が千早のいた場所に穴を開ける。

 

(受け止めることはできない、か わして攻撃するしかない)

 

「ハァッ!!」

 

『トゥイン・ランス』がキメラの 頭に打ち付けられるがまったく効いた様子がない。

 

(硬い!! 打撃じゃ倒せな い!)

 

千早が着地した瞬間に。キメラが 再び爪を振るう。

 

ガガガガガッ!!!!

 

キメラが一瞬千早を見失う。1匹 のキメラが上を見て、奇声を上げると他のキメラも上を見上げる。

 

千早は天井に足を付けて強く踏み 込む。

 

ピシ!!

 

天井にひびが入ると同時にキメラ に向かって突進する。さらに千早の体を氷が包み込む。

 

「氷雷!!!」

 

ドゴォォーーーーーーン!!!!

 

雷道と戦ったときの威力を数倍上 回る威力の雷霆はキメラの頭部を粉々に破壊した。

 

(まず1匹!!)

 

だがまだ千早の回りには何十匹も のキメラとベヒーモスがいた。

 

 

 

 

あとがき

どうもレオンで〜す。

ドォワァァァァァ――――――!  ドジッタァァァ――――!

何してんだ、僕はぁぁぁ ―――――! カズ早く来て―――!

てか作者、何僕にミスらせてるん だぁ――!

というわけで千早がピンチです。 とてつもなくピンチです。

はたしてカズは間に合うのか?

何か前回もそうだが千早がやられ 役になっているような・・・・・・

>作者(・・・・・・・・)

和樹に何とかしてもらいましょ う。




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