第25話 神の息吹

 

 

「・・・千早が・・・レオン、何 とかできないの!?」

 

沙弓が千早を心配してレオンに詰 め寄る。いつもの沙弓からは考えられないほど動揺している。結界がなかったら飛び出していきそうだ。

 

「私も助けに行きたいが、結界を といたらもっと被害が出る。和樹が来るまで千早に持ってもらうしかないんだ!」

 

レオンも気持ちは同じだった。今 すぐにでも飛び出して行きたい、助けに行きたかった。だが今結界をといたらどうなるかと考えると出て行くわけにはいかなかった。

 

「でも、山瀬先輩でもあれだけの 数相手に1人じゃむりです!」

 

「それでも1人で戦ってもらうし かないんだ!!! 今結界をといたら、千早を余計戦い悪くするだけだ!!!」

 

凛はレオンの言葉に何も言い返せ なくなる。自分達のために千早は危険な目にあっているのに何もできないなんて、これほど歯がゆく思うことはない。

 

「式森早く来てくれ!!」

 

「和樹さんはまだなんです か!?」

 

(和樹・・・まだなのか!?)

 

「ちょっと何よ、あれは!?」

 

玖里子が千早を見て声を上げた。

 

見ると千早からは今まで感じたこ とのないような凄まじい闘気が溢れていた。

 

自分に向けられた闘気でないのに 恐れさえ感じるほどである。いつもの優しい千早からは想像できない姿だ。

 

「あれが千早・・・・・・いった い、何をする気なの?」

 

沙弓が信じられないものを見る目 で千早を見る。凛も声が出ないくらいに驚いている。自分たちの知っている千早はそこにはいなかった。そこにいるのは千早の皮をかぶった鬼、全身から殺気を 放つ鬼がいた。

 

その姿を見て焦った声でレオンが 叫んだ。

 

「まずい!! 止めろ、千 早!!! その技だけは!!!」

 

レオンの制止も聞かず、次の瞬 間、千早は全力で技を放った。

 

 

 

 

 

 

千早は槍を構えるとキメラに向 かって、弾丸のごとく走った。キメラの横を光が走った瞬間キメラの眉間に深々と槍が突き刺さっていた。

 

「凍りなさい」

 

槍が光るとキメラが氷付けにな る。千早は横から現れたキメラの攻撃を避け後ろに飛ぶ。

 

「アイス・インパクト」

 

千早の周りにこぶし大の氷の塊が でき、キメラ、ベヒーモスに向かって放たれた。だが、倒せたのはキメラ1体とベヒーモス2体だけであり、倒した分だけ新たにキメラが現れる。

 

(和樹君やレオンなら・・・)

 

千早は2人のことを考える。和樹 ならキメラ10体を相手にしてもあっという間に倒すだろう。レオンも同じだ。だが、自分は・・・・・・

 

普通ならキメラを1人で倒せるだ けでも凄いことなのだ。そう考えると千早の力は魔法社会でもトップレベルである。ただ和樹とレオンが強すぎるのだ。

 

(あれでいっきに倒す!)

 

千早は何かを決めたような表情で キメラやベヒーモスをいきなり一箇所に固めるように動き始めた。その動きは不自然さを感じさせず、なおかつ無駄な動きをしていなかった。

 

(最低でも半分は倒さない と・・・その後が危ない・・・)

 

千早はキメラたちに殺気をぶつけ ながら動き続ける。

 

パキッ! ピシッ!

 

周りの壁や床にヒビが入る。千早 から放たれる闘気は回りの壁や床にひびが入るほど凄まじいものだった。

 

さすがのキメラもその闘気に押さ れて身を引く。それほど凄まじい闘気を千早は放っていた。

 

「氷河」

 

言葉と同時に床一面が氷に覆われ る。その氷はキメラ、ベヒーモスの足を氷付けにし動きを封じた。

 

ビリッ!! ビリッ!!

 

スゥゥーーーー・・・・

 

槍をゆっくりと構え目を閉じる。 次の瞬間、殺気が爆発し目を開いた千早が動いた。

 

「滅界!!!!!」

 

ボッ!!

 

突きの壁がキメラを襲う。

 

ド ゴォォォォォォーーーーーーーーーーーーーーーーン!!!!!!!!!!

 

千早の周りにいたキメラ、ベヒー モスは何も残らす消え去り、壁一面に『不動明王』が刻まれていた。

 

音速を超える突きの壁、千早の前 のあるものはすべて消え去る。『千山流』の最終奥義といってもいい。

 

千早の前にいた30匹ほどのキメ ラとベヒーモスは消え去り、その近くにいたキメラとベヒーモスにも重症をおわせた。

 

だが状況はあまり変わらなかっ た。千早の前にはキメラとベヒーモスが再び現れる。それを見て千早が構えをとろうとするが・・・・・・

 

ズキン!!!

 

ミシッ! ギシッ! ズキッ!!

 

「くっ!」

 

千早の体は『滅界』の反動と今ま での疲れでもう動ける状態ではなかった。限界を超えたその体は立っていることさえ儘ならない。最高の技を使っただけにその反動は計り知れない。

 

「まだ・・・こんなに・・・いる のに・・・」

 

(技の反動が大きすぎた・・・)

 

滅界を使うまでに体力の限界近く まで闘っていたのが、千早の体に大きな影響を与えた。体中が悲鳴を上げ、予想を超えた激痛が千早を襲う。

 

「グゥオオオオオオオオオオオ ン!!」

 

「あっ!」

 

ドガッ!!!

 

避ける間さえなかった。千早が動 けないとわかったキメラは千早に容赦なく前足で壁に叩き付けた。

 

「ガハッ、ゲホッ!!」

 

口から血を吐き出す。激痛に耐 え、槍でキメラの攻撃を受け止めたが衝撃をもろに受けてしまい弾き飛ばされた。

 

(にげな・・・・)

 

だがキメラは千早を逃がそうなど と考えてはいなかった。再び千早を重い打撃が襲った。

 

ドッ!!!

 

ドカァァァァァァーーーン!!

 

何の抵抗もなく千早の体が宙を舞 い影に叩きつけられた。

 

「千 早ぁぁぁーーーーーーーーーーー!!!!」

 

沙弓が千早の名前を叫んだ。壁の 回りの煙がはれると千早が血を流して横たわっていた。

 

「・・・・」

 

(・・・声が出ない・・・・血が 流れすぎてるし・・・力が入らない)

 

ドッ!!

 

「ガハァッ!!」

 

(・・・傷が・・・深すぎて動け ない・・・)

 

動けない千早を容赦なくキメラた ちはボールにじゃれ付く猫のように蹴りつけた。

 

 

 

 

 

 

「レオン!!! 結界をといて早 く!!!」

 

「もう見てられません!!!」

 

「先輩が死んでしまう!!!」

 

「もう限界よ!!」

 

(くっ! 和樹!)

 

レオンも我慢の限界に来ている。 千早を見捨てることなんかできない。

 

(千早には悪いが、結界をとく)

 

「・・・みんな覚悟はいいね」

 

「もちろんよ!」

 

「当たり前です!」

 

「早く結界を!!!」

 

「速く行かないと!!」

 

「わかっ・・・」

 

結界をとこうとしたレオンの動き が止まる。

 

「どうしたの?」

 

「早くしないと!?」

 

「・・・来た!!」

 

レオンの言葉とともに千早に襲い 掛かろうとしたキメラの頭が銃声と共に粉砕された。

 

 

 

 

 

 

(私・・・死ぬのかしら・・・)

 

もう痛みさえ感じなくなってきて いる。意識があるのが不思議だった。

 

(もう一度・・・顔見たかった な・・・)

 

和樹の顔が浮かぶ。もう一度見た かった顔が・・・

 

(いやだ!! 死にたくな い・・・・)

 

千早の目に涙が浮かぶ。

 

キメラの爪振り降ろされようとし た瞬間、キメラが千早の視界から消えた。

 

ドゥ!

 

ドカァァァァーーン!!!

 

キメラの頭が粉砕される。

 

「狼爪」

 

さらに頭部のなくなった胴体に狼 爪が叩き込まれキメラの体をコナゴナに粉砕した。

 

他のキメラはいきなり現れた銃を 持った男の前から身を引く。

 

「・・・・・・・」

 

「和樹!」

 

「式森君!!」

 

「和樹さん!」

 

「式森!」

 

「和樹!」

 

結界の中で和樹が来たことに安堵 するレオンたち。

 

(か・・ず・・き・・く・・ ん・・・)

 

千早は目から涙が出てきた。

 

千早の前にいたのは、両手にハー ディスを持った和樹だった。

 

 

 

 

 

 

「千早!!」

 

和樹は急いで千早に駆け寄る。千 早の怪我はひどかった。死んでいてもおかしくないほどの怪我である。

 

むしろ生きているのが奇跡に近 かった。

 

「千早・・・ごめん」

 

キメラに殺気を飛ばしながら、千 早を抱き寄せた。そして自分の唇を千早のそれに重ねた。

 

千早の体が輝きだす。すると、キ メラの攻撃によって傷ついた体の傷が徐々に消え始めた。

 

 

 

 

 

 

GOD BREATH(神の息吹)

 

1分も断たないうちに千早の体の傷はきれいに消えてなくなった。口移しによって直接治癒魔 法を体全体にいきわたらせたのだ。その効力はエリクサーには及ばないまでもかなり近い効果を得ることができる。だがこんなことをできるのは和樹の魔力と治 癒を受ける人の相性が良いからだ。相性が悪ければ治癒が効かないときもある。千早だからこれほど早い効果があったのだ。

 

まあ、千早以外に和樹は使わない だろうが・・・・・・(普通にヒーリングをかけるだろう)

 

「ありがとう、来てくれ て・・・・・・」

 

「当たり前だよ」

 

和樹は千早を抱き上げるとレオン の張った結界のほうに歩き出した。

 

だが、次の瞬間キメラが和樹に向 かって飛びかかった。和樹が現れたときにはその殺気にたじろいだがそれで引き下がるわけがなかった。

 

2体のキメラが和樹に襲い掛かる・・・・・・

 

「・・・・・・消えろ・・・」

 

底冷えする鋭く低い声が聞こえた かと思うと、その姿は一瞬にして消えた。

 

ドゴン!

 

「グゥオオオオオオオ!」

 

和樹に襲い掛かったキメラは壁の 近くに弾き飛ばされ炎に包まれ苦渋の咆哮をあげながらそのまま消滅した。キメラが最後に見たのは自分たちを凍てつくような目で見る和樹の姿だった。

 

 

 

 

 

 

「何、今の?」

 

沙弓が横にいるレオンに声をかけ る。和樹に襲い掛かろうとしたキメラがいきなり弾き飛ばされたかと思ったら炎に包まれ消滅した。和樹はキメラにまったく触れていないように見えた。だがキ メラは大きく弾かれた。

 

「掌底だ」

 

「えっ!」

 

「千早を右腕で支えて炎に包まれ た左手でキメラ1体に3発放った。前よりも速さが増してるな・・・・・・」

 

「さ、3発も・・・・・・」

 

「全く見えなかった ぞ・・・・・・」

 

沙弓と凛がレオンの言葉に唖然と する。それ以前に凛は駿司の技である狼爪を和樹がいとも簡単に使ったことに驚いていた。技の威力も全く引けを取っていなかった。

 

2人が和樹に視線を戻すと結界の 中に入ってくるところだった。

 

「レオン、怪我人は?」

 

「問題ない。逃げるときに、転ん だりした人が何人かいるみたいだけど擦り傷程度だ」

 

レオンが答えようとすると紅尉が 和樹の元に歩いてきた。

 

「山瀬君の怪我は大丈夫なのか ね?」

 

「90%以上治っています。僕と 千早は相性が良いんで」

 

「今すぐにでも戦えますよ」

 

「あれほどの怪我が一瞬で治るん だから医者泣かせもほどほどにしてくれたまえ・・・・・・」

 

「分かってますよ。レオン、結界 は大丈夫か?」

 

紅尉との話を止めレオンに聞く。

 

「大丈夫だ。どうする千早に結界 を代わってもらったほうがいいか?」

 

レオンは千早に結界を張ってもら い和樹とレオンでキメラ・ベヒーモスを倒す考えだ。数が減ったとはいえ、1人で相手にするにはまだ多くの数がいる。

 

「私は大丈夫よ。まだいけるわ」

 

「いや千早は、安静にしてい て・・・・・・」

 

「でも・・・・・・」

 

「大丈夫だよ。レオンもこのまま 結界を頼む。もしものときは千早と代わって助けてくれ・・・・・・それに・・・・・・」

 

ゾクッ

 

和樹から発せられた殺気にその場 の空気が凍りついた。今まで感じたことのないような圧力をレオンは和樹から感じた。和樹の式神となってから今まで和樹のことを見ていたが、今の和樹はレオ ンの知る中で一番強い和樹であろう。

 

「許せないんだよ。自分 が・・・・・・」

 

千早に怪我を負わせたこと。無事 であったが、死んでもおかしくない状況までいったのだ。間に合ったとはいえそれは奇跡に近かった。それが許せなかった。自分の甘さのせいで大事なものを失 うところだったのだから。

 

「結界、強めに張っておいてく れ」

 

「わかった、任せろ」

 

「頼む」

 

そう言うと和樹は結界の外に1人 出て行った。

 

強い意志と共に・・・・・・

 

 

 

 

 

 

「レオン、大丈夫なの」

 

「いくら式森でもあの数相手に1 人では」

 

「大丈夫だよ。和樹があの目をし ているときは・・・・・・」

 

「そう、和樹君は大丈夫だよ。だ から今まで私も和樹君の側にいることができたんだから・・・・・・」

 

2人を見て沙弓、凛だけでなく夕 菜、玖里子たちも少し分かった気がした。

 

なぜここまで2人が和樹を信じら れるかが・・・・

 

 

 

 

あとがき

カムサハムニダ(こんにちは)レ オンです。

カズ、ギリギリ間に合いました。

GOD BREATH(神の息吹)

カズは千早にしか使いません。 (断言)

他の人には普通にヒーリング(治 癒魔法)を使います。そういうやつなんです。

次回、ついにカズ、マジモード入 ります。





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