第26話  ケルベロス

 

 

結界を出た和樹は両手のハーディ スを黒龍刀レベル2に変化させていた。さらに全身に炎を纏いさっきまで内に秘めていた殺気がいつ爆発してもおかしくない状態だった。

 

「僕は守るために力を使う、自分 の欲望や人を傷つけるために使うんじゃない」

 

静かだった。嵐の前の静け さ・・・・・・次の瞬間、大津波が自分の襲い掛かるような感じをその場にいた誰もが感じていた。自分たちが知っている和樹とは違う、迷いのないに満ちた顔 をしていた。

 

「今その力を使うと き・・・・・・」

 

「グギャァァァーーーーー!! (×2)」

 

和樹の感情とシンクロする黒龍刀 は和樹の言葉に反応するかのように奇声を上げる。

 

「唸れ、黒龍刀!!!」

 

和樹の言葉とともに振り下ろされ た2匹の黒龍がキメラ、ベヒーモスに襲い掛かった。形長さを自由自在に変化させ和樹に襲い掛かろうとするキメラ・ベヒーモスが黒龍も前に次々と倒れてい く。その和樹自身も黒龍に守られるだけでなく凄まじい速さで動きキメラ・ベヒーモスに付け入る隙を作らなかった。

 

「グゥオオオオオオオオオオオ ン!!」

 

キメラが1匹黒龍の動きをかいく ぐり和樹に襲い掛かろうとする。

 

「瞬炎!」

 

ドドドドドドドドドドド ドッ!!!!!!

 

直径1メートルほどの炎の弾がキ メラ・ベヒーモスに次々と襲い掛かった。

 

襲い掛かったキメラ、およびその キメラの近くにいた他のキメラ・ベヒーモスは跡形もなく消滅し、そこにはクレーターだけが残っていた。

 

和樹は刀と魔力に頼っているわけ ではない。刀無しでも戦えるだけの格闘技術を学んでいる。人間は力があるとその力に慢心してしまう。自分は特別だと他の人を蔑んでみてしまう人たちもい る。だが和樹は違う。強い力を持つからこそその力に頼らないように自分を鍛えた。その力、無限の魔力に頼ることなくそれに見合うだけの力を付けるために自 分を鍛えてきた。そして、それを使いこなすために日々努力している。昨日出来なかったことを今日は出来ようにと自分に言い聞かせてきた。

 

だから今、和樹はここにいられる のだ。

 

 

 

 

 

 

「す、凄い」

 

「あれが和樹」

 

「あれが式森の力・・・・・・」

 

「・・・・・・ (ポォーーーーーー)」

 

沙弓、玖里子、凛が和樹の闘いを 信じられないような目で見ている。(目をハートにしている夕菜は完全にいちゃいました)

 

千早の戦いを見てその強さに驚い た。だが、和樹の強さは千早のはるか上をいっていた。無数のキメラ・ベヒーモスを相手に同等、それ以上の戦いをしている。初めて見る和樹の戦いにただ唖然 としていた。

 

沙弓と凛は和樹が魔法だけに頼っ ていないのが和樹の闘いから分かった。和樹の動きは自分たちや千早の上。和樹が魔法だけに頼らずに動いているのが家の関係からか心得がある自分たちだから こそわかった。自分たちの和樹の魔力があってもあそこまでは動けない。おそらく魔法を使って和樹と戦っても、魔法を使わない和樹に自分たちは負けるだろう と2人は感じた。

 

「千早、式森君っていったいどん な修行をしてきたの?」

 

沙弓の質問に千早は少し考えて答 えた。

 

「・・・・・・和樹君あんまりそ のこと言わないようにしてるから、私が言うのもあんまりよくないんだけど・・・・・・見ていて何度も止めたくなったわ、このまま死んじゃうんじゃないかっ て思うときもあった・・・・・・でも、和樹君は絶え続けた。だから私も支え続けた」

 

千早の言葉をただ無言で沙弓、 凛、玖里子は聞いた。

 

「修行中のことで私も知らないこ とがあるの・・・・・・私が着いていけない場所があったりしたから・・・・・・でも、必ず戻ってきてくれたわ。どれだけぼろぼろになっても、どれだけ辛い 目にあっても・・・・」

 

「千早、もうその辺にしてお け・・・・・・和樹は、和樹だ」

 

レオンの言葉を聞いて千早話すの を止めた。

 

「ええ、そうね」

 

レオンに微笑む千早。千早のこの 笑顔が見たくて和樹はここまでがんばってこれたのだ。

 

「・・・・・・不味いな・・・」

 

レオンが和樹の闘いを見て一番最 初に異変に気づいた。その言葉を聞いた千早も異変に気づいたが、他者は何だかわからなかった。

 

「・・・キメラが和樹君の攻撃を 避けている」

 

『えっ!』

 

千早の言葉にみんなが驚いた。だ が良く見ると和樹に倒されるキメラの中に和樹の攻撃を避けるキメラがいるのがわかった。さらに、目を疑う光景が千早たちの目に映った。和樹が正面から真っ 二つにしたキメラが再生して和樹を襲ったのだ。和樹はその攻撃を受け壁に叩きつけられ瓦礫に埋もれた。

 

『・・・・・・・・・』

 

全員が言葉を失った。幸い和樹は すぐに瓦礫から出てきて怪我もすぐに回復した。だが、次の光景にいったい何が起こったのか千早たちには理解できなかった。真っ先に状況を理解したのはこの 中で一番の強さを持つレオンだった。キメラとベヒーモスが1つになり始めたかと思うと目の前に現れたのは今まで見たことのない伝説の召喚獣がいた。

 

 

 

 

 

 

ドン! ガン! ドッ! ザシュッ! ガッ!

 

和樹は次々とキメラ・ベヒーモス を倒していく。だがその数は減る様子が一向になかった。

 

「くそっ、何で数が減らないん だ、キリがない!」

 

さすがの和樹もこの数には苛立ち を隠せないようである。それと同時に疑問を持っていた。

 

「瞬炎!!!」

 

ドドドドドドドドドッ!!

 

(どうしてだ!? 出現場所はなくしたはずなのに数が減らない・・・)

 

和樹たちはかなりの数のキメラ・ ベヒーモスを倒したはずだ。だがその数は減った様子がない。

 

さらに和樹はさっきから違和感を 感じていた。

 

(キメラが強くなってい る・・・・・・)

 

キメラのスピード、パワーが上が り、なおかつ和樹の技を避けようとする動きまでする。

 

(学習能力があるのか・・・厄介 だな・・・・・・)

 

和樹が対応を考えていると、1匹 のキメラが和樹に飛び掛ってきた。

 

「ハァッ!!」

 

飛び掛ってきたキメラを和樹は正 面から真っ二つにした。

 

(ともかく倒すしか な・・・・・・)

 

ガツッン!

 

和樹が再びキメラに斬りかかろう とすると後ろからの強い衝撃が和樹を襲った。

 

「ナッ!!」

 

和樹を襲ったのは和樹が真っ二つ にしたはずのキメラだった。

 

(ばかな! 倒したはずなのに・・・)

 

予想もしない攻撃を受け、そのま ま和樹は壁に突っ込んだ。

 

ドォン!!

 

辺りが一瞬静まり返った。

 

ガラガラ!!

 

シュゥゥゥゥ・・・・

 

和樹が瓦礫の中から出てくる。す ると和樹の体から傷が消えていく。ヒーリングで傷ついた場所を完治させたのである。

 

(・・・あのキメラも再生能力が あるのか!? いや下手したら他のやつも・・・)

 

次の瞬間、和樹や結界の中にいる レオンたちも目を疑った。

 

和樹のことを殴り飛ばしたキメラ が次々と回りのキメラ・ベヒーモスと一つになり始めたのである。

 

『グゥオオオオオオオ!!』

 

「・・・・・・それって反則じゃ ない」

 

目の前に現れたものが一瞬信じら れなかった。反則としか言いようがない。和樹の前にはキメラと同じ大きさかそれよりも大きさがあり、3つの頭と蛇の尾を持つ最強の召喚獣といわれるケルベ ロスがいた。

 

(これはマジでやばいか も・・・)

 

ケルベロス。

ギリシア神話に登場する、冥府(地獄)の番犬で三つの頭を持ち、首の周りのたてがみはその一本一本がヘビで、さらに尾もヘビの 形をしているというまさに怪物犬。そしてそれぞれの頭の目には、睨むだけで敵を石に変える能力があり、さらに真ん中の頭は毒を持っていて、唾液は猛毒のト リカブトの素になったともいわれている。ギリシア神話にはヘラクレスという怪力の勇者が登場しケルベロスはこのヘラクレスと闘っていて生け捕りにされたと いわれている。地獄にはオルトロスという双頭の犬、北欧神話にはガルムという冥府の番犬が登場している。

 

 

 

 

 

 

「ケ、ケル・・・ベロ ス・・・・・」

 

レオンが息も絶え絶えに召喚獣の 名前を言う。レオンからは大量の汗が流れ出て表情は信じられないものを見た顔をしている。

 

実際レオンは目の前の出来事が信 じられなかった。いや、信じたくなかった。

 

「レオン何よ!? あの怪物は!!」

 

「あんなの見たことも聞いたこと もありません!!」

 

「無理だ・・・あんなのと戦うな んて・・・」

 

玖里子と夕菜がレオンに聞く。凛 は完全に戦意喪失している。

 

生徒の中には気絶するものケルベ ロスの殺気に恐れをなして頭がおかしくなるものまで出て来ている。そこに存在するだけでも恐ろしさを感じる。

 

「レオン・・・あれは・・・」

 

「レオン・・・」

 

沙弓と千早も体中から汗が流れ出 ている。

 

「ケルベロス・・・召喚獣の中で も歴史上数回しか現れたことのない最強の召喚獣でその強さは未知の強さといわれている幻の召喚獣・・・」

 

「そんなもの聞いたことないわ よ!!!」

 

「何でそんなものが出てくるんで すか!?」

 

「わからない! 私にもわからないんだ!!!」

 

レオンが完全に取り乱している。 この中で一番強いのはレオンである。そのレオンがここまで取り乱している。

 

「・・・・・・レオン、数回って 言ったけどいつ現れたの?」

 

千早がレオンに聞く。

 

「・・・・・・私も詳しくは知ら ない、一番現在に近い出現は500年前のだけだが、そのときにケルベロスを倒したのは和樹の先祖だ」

 

「!!!(×5)」

 

「倒したのは式森葉 賢・・・・・・彼も和樹と同じで強力な魔力の持ち主だった。安倍晴明の再来といわれるほどの力を持つ葉賢殿は自分の式神4体と共にケルベロスと戦い倒すこ とに成功した。そのときの葉賢殿の魔力は2000億、式神の魔力は100億だった・・・・だが式神はその戦いで魔力を使い果たし4体とも消滅、葉賢殿もそ のときに受けた傷がもとで、数年で帰らぬ人となった・・・・・・また、そのときに葉賢殿と共に戦った者達は誰一人として生きているものはいなかったらし い・・・・・・」

 

「でもそんなの、聞いたことない わよ!!!」

 

「神城家の歴史にも記されてな い!!!」

 

それほどのことがあったのなら歴 史上の大事件として語り継がれるはずである。それが全く知られてないなんておかしい。

 

ましてや神城家はそのころから名 門の家柄であったのだから知らないはずがない。

 

「式森家が歴史を抹消したの ね・・・」

 

「!!!(×4)」

 

千早の言葉に、一同が唖然とす る。

 

「そうだ。式森家は本来表には出 ないで裏の魔法社会で存在してきたがそのときだけはどうしようもなかった。だから式森家はその事件を歴史から消したんだ。自分達の血を守るために・・・」

 

「・・・・・・・・・(×4)」

 

誰も何も言えなかった。そんなこ とがあったなんて・・・・・・辛過ぎる、あまりにも辛過ぎる歴史、ひどい歴史である。

 

「・・・でも、和樹の魔力なら勝 てるじゃ」

 

「勝てますよね!!」

 

「式森なら・・・」

 

「式森君なら・・・」

 

みんな和樹なら何とかしてくれる のではと期待を持つ。無限の魔力を持つ和樹なら、何とかしてくれるのではと。

 

「簡単に言うな!!! 葉賢殿が戦ったのは30のとき、すべての魔法を知り尽くしていたからこそ倒せ たんだ。今の和樹は魔力がどれだけ強くても16なんだ!!! まだ修行の途中の和樹が倒すには相手が悪すぎる!!! 下手に和樹が力を解放したりしたら和樹が死ぬかもしれないんだぞ!!!」

 

4人の言葉に怒りを堪えることが できなくなったレオン。和樹がいくら凄くてもまだ16の少年にケルベロスの相手は荷が重過ぎる。和樹は自分の魔力を使いこなすために努力してきた。だがそ の力は大きすぎて未だに和樹はすべての力を使いこなしているわけではない。今和樹が使いこなしている力が50%の力なのか、100%に近いのか、30%し か使いこなしていないのかさえ分からない。和樹の力には限界が見えないのだ。それ故に細心の注意を払って和樹は魔法を使っているのだ。

 

「・・・・・・(×4)」

 

レオンの言葉に何も言えなくなる 4人。レオンが怒るのもわかる。自分たちは和樹が強い魔力を持っているから強いとしか見ていなかったことに改めて気づいた。和樹がその魔力を使いこなすの がどれだけ大変なのか自分達は考えもしていなかったと・・・・・・魔力が強くても和樹は自分たちと同じ16の高校生に変わりはないのである。

 

 

 

 

あとがき

レオンです。

ケルベロスが出てきました。最強 の召喚獣です。状況最悪です。

はたしてカズはどう戦うのか?  僕は戦うのか? 千早はどうするのか?

ついにカズの真の力が目覚める か?

次回を待ってください。




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