魔法少女リリカルなのは

THE MAGIC KNIGHT OF DARKNESS

Act.03   Presentiment 〜静かなる予兆〜

 

 

 

なのは達は、街で出逢った不 思議な二人に連れられ…あるマンションに到着していた。

事故現場から約5分ほど歩い たマンション……そのマンションの一室に案内されるなのは達……家主である雫が鍵を開け、ドアを開いて促す。

「さあ、どうぞ」

すずかをおぶった恭が先に入 り、その後を心配してなのはとアリサ、そして忍と恭也が続き…雫がドアを閉める。

ここまで流されるままについ てきたが……無論、相手の親切心もあるが、いざとなれば恭也はどうにかするつもりであった。これでも一応の武芸者なのだから。

「恭、貴方はその娘の手当て を」

「解かった」

キッチンに買い物袋を置き、 恭はすずかをリビングのソファの上に座らせる。

「あの、ありがとう…重くな かった?」

「いや……」

おずおずと尋ねるすずかに恭 は被りを振ると、離れて棚の方へ歩いていく。その背中を追うすずかになのはとアリサが話し掛ける。

「すずかちゃん、本当に大丈 夫?」

「うん…ごめんね、心配かけ て」

「ホントよ、こっちの心臓止 まるかと思っちゃった」

自分の親友が事故に遭う場面 など、御眼にかかりたくない光景だろう……心底安堵した面持ちで肩を落とす。

そこへ、恭が棚から取り出し た薬箱を持って歩み寄ってくる。

「ちょっといいか?」

なのはとアリサを掻き分けな がら、覗き込む恭…そして、その手元の薬箱を確認し、すずかは慌てて首を振った。

「あ、あの…私、平 気……っ」

手当てをしてもらわなくても いいと答えようとしたが、足に力を入れた瞬間、鈍い痛みが走り、すずかは表情を顰める。

「すずかちゃん!?」

「ちょっと、やっぱどっか怪 我してるんじゃない!?」

その表情になのはとアリサが 咳き込むように尋ねるが…恭は冷静に屈み込み、静かに呟く。

「少し、失礼する……」

軽く謝罪してから、恭はすず かの足に手を触れ…その行為にアリサが抗議しようとする。

「ちょっとあんた、何やっ て…」

「黙って……ここに痛みはあ るか?」

低い声で制され、アリサは口 を噤み……やましい気持ちはなく、真剣な面持ちで案じるように問う恭にすずかはやや頬を染めながらおずおずと答える。

「あ、大丈夫です」

「じゃあ、ここは……」

痛みの範囲を確かめるように 押さえるポイントを変えると、すずかが表情を顰める。

「……軽く捻ったみたいだ な。でも、筋やその他には問題はないな。取り敢えず、湿布を張っておこう。悪いんだが、彼女の靴下を脱がせてやってくれないか?」

元の世界にいた頃は何度も修 行をやり、病気以外の応急手当に関しては少なくともそこらの医者以上に持ち合わせている。

足の状態を確認すると、恭は 顔を上げて横に座っていたなのはに話を振り、見入っていたなのははあっと慌てて頷く。

「う、うん…すずかちゃん、 ちょっとゴメンね」

なのはも屈み込み、靴下を脱 がせる。脱がせたすずかの足首は、微かに赤く腫れている。

その部分へ湿布を貼りつけ、 そして包帯で巻いて固定していく。

その手際のよさになのは達は すっかり見入っている……やがて包帯を巻き終えると、恭が顔を上げる。

「これでいい…恐らく軽い捻 挫だろうから、明日には痛みも引く。まあ、念のために今日は無理をしないのと、もし明日にもまだ痛みがあるなら、医者に行った方がいい」

薬箱を閉じながら立ち上がる 恭……そして、すずかはやや頬を染めて俯き、答え返す。

「あ、あの…ありがとうござ いました」

「礼を言われるほどじゃな い」

恭も短く答えると、薬箱を戻 しに離れていく……その背中を、すずかやなのは、そしてアリサは見詰めていた。

 

 

それらのリビングの様子を見 やりながら、キッチンでテーブルに着く恭也と忍は肩を抜いて見詰め、そこにコーヒーが差し出された。

「どうぞ」

「すいません、なにからなに までお世話になって……」

頭を下げる忍に雫は笑みを浮 かべて制する。

「いえ、お気になさらないで ください」

「しかし、彼は凄いですね… あの歳であれだけ冷静に…しかも、手当てが行なえるなんて」

感心した面持ちで告げる恭 也……遠目で見たが、その手当ての手際はなかなかのものだった。

「ええ」

褒められたことを自分のこと のように嬉しそうにする雫…忍は部屋を見渡し、そして、片づけの荷物が眼につく。

「あの、ここに引っ越してき たんですか?」

「はい、今日からですが」

「御両親は?」

何気に問い返した恭也に、雫 は一瞬、返答に詰まる。元々、そういった辺りはまだ考えていなかったが……一応、偽装した戸籍上では姉弟であり、それ以外の家族はいない。その辺りを踏ま え、無難かつ詮索されにくい答を導き、雫はやや逡巡してから答え返した。

「……いません。両親は、恭 が生まれてすぐに…」

「あ…申し訳ありません」

マズイことを聞いたと恭也は 頭を下げる……無論、本当は親などいないのだから別段気分を害するものではないが、ここで敢えて答えておいた方が無難と思い、雫は被りを振った。

「こちらこそ、変な話をして しまって……それに、恭がいますので」

「大切な弟さんなんです ね?」

同じく妹がいる忍と恭也に とっては、その想いが解かる気がした。もっとも、その想いもまたやや違うものだが……雫は頷き返した。

「彼は、どこの学校に?」

「あ、聖祥大附属の小学校 に……」

「それじゃ、なのは達と同じ 学校に」

「あら、そうなんですか?」

表面、やや驚いたように見せ ているも…それはあくまで演技だ。内心は、それを見越して学校を決定したのだ。流石に小学校に通うことに恭は抵抗を憶えたが、この背格好で流石に昼間徘徊 していては警察に補導されかねないために渋々了承した。

「それじゃ、なのは達と一緒 になるかもしれないですね」

「そうですね…そうだ、お昼 まだですか?」

唐突に問う雫に、やや意表を 衝かれるも…恭也と忍は頷き返す。思えば、すずかの件でそれどころではなくなっていたが、ちょうどお昼を食べようとしていたところだったのだ。

「なら、せっかくですからご 馳走します」

言いながら立ち上がる雫に恭 也は慌てて言葉を掛ける。

「そんな……」

正直、そこまで世話になるの は気が引ける……だが、それは雫の笑みにやんわり制された。

「お構いなく…それに……恭 に、もう少し付き合わせてあげてください」

その視線がリビングで談笑し ている恭やなのは達に向けられ、恭也と忍もその視線を追う。

リビングでは、アリサが中心 になって話に花を咲かせている。恭はあまり積極的に加わっていないが、振られるとちゃんと答え返している。

「恭は……無理しても、なか なかそれを出しませんから………だからせめて……」

そう……心に葛藤を抱えてい る主のことを想うと胸が傷む。だが、主は自分達を気遣ってそこまで開いてくれない。

その状況を歯痒く思う……切 なげに視線を俯かせる雫に、恭也と忍も静かに頷いた。

「解かりました。それじゃ、 ご馳走になります」

「はい」

その答えに満足そうに頷き、 雫はパタパタとキッチンへと向かっていく。その背中を見詰める恭也に、忍が覗き込み、小声で話し掛ける。

「なーに、恭也…ひょっとし て、あの人が気に掛かるの?」

やや拗ねた口調で問う忍に恭 也は慌てて、上擦った口調で被りを振る。

「あ、いや…そういうわけ じゃないんだが……」

誤魔化す恭也に忍は不満そう だったが、恭也としてはただ少し雫の顔が似ているのでやや眼で追ってしまった。初恋だった女性に………

その後……雫の料理をご馳走 になった一同は、楽しい時間を過ごした。この時、恭の両隣にはなのはとすずかが座っていたことを明記しておく。

 

 

 

数時間後…既に夕暮れ近くな り、陽も傾き始めた頃……なのは達は食事を終え、帰路につこうとしていた。

「なにからなにまで本当にあ りがとうございます」

頭を下げる恭也やなのはに雫 は被りを振る。

「いえ…またよろしかったら いらしてください」

「はい…あ、これ家が経営し ている喫茶店なんで…よろしければ、ご来店ください」

翠屋の詳細を記したメモを渡 すと、雫が礼を述べる。

「それじゃ、今日は無理をし ないようにな」

忍におぶわれているすずかに そう言葉を掛けると、すずかはコクリと頷く。

「それじゃ……気をつけて な」

恭はなのはを見やりながらそ う呟くと…声を掛けられたなのはは一瞬キョトンとするも、やや慌てて応じる。

「う、うん……」

「それでは」

軽く会釈し、恭也達は歩き出 し…エレベーターに乗るまで見送ってくれた恭と雫に最後の挨拶をすると、エレベーターに乗って降り、マンションを出て行く。

「ねぇ、すずか〜〜」

マンションを出ると、忍がど こかちぇしゃ笑いを浮かべる…だが、忍の背中におぶわれているすずかはそれに気づかず、返答する。

「なに、お姉ちゃん?」

「ひょっとして〜あの子に惚 れちゃった?」

その瞬間、すずかの顔が眼に 見えて真っ赤に染まる。息を詰まらせる妹に忍はなおも笑みを浮かべる。

「あ、やっぱり〜カッコよ かったもんね〜〜」

「ええ、ホントなのすず か!?」

アリサが心底驚いた表情で問 い詰めるも、すずかは黙り込んだまま俯いて黙秘する。

そんなすずかをなおもからか う忍と問い詰めるアリサ……その背中を見詰めながら、恭也はやれやれと溜め息を漏らし、なのはは乾いた笑みを浮かべながら…今一度、マンションを振り向い た。

風が髪と頬を撫でる……なの はの心に引っ掛かるあの少年の顔………微かな違和感を胸に…なのははその場を離れていった………

 

 

 

なのは達が帰った後……電気 の落ちた部屋で、佇む恭に話し掛ける雫………

「マスター……」

「大丈夫だ……俺は、俺 だ………それに、たとえ世界が違おうとも…俺は俺の大切なものを護るために剣を振るう」

気遣うように話し掛ける雫に 恭が哀しげな笑みで応じる。そして…恭を抱き締める雫……離さないように…そして……その哀しみを感じ取るように………

「私は…たとえ何があろうと も……マスターの傍を離れません………」

この人となら、たとえそこが 地獄であろうと構わない……もう、雫にとって恭は絶対の存在なのだ。

込められる力に恭の表情が和 らぐ。

暗闇が満ち…部屋がやがて暗 く包まれるなか……バチっと走った感覚に恭が顔を上げる。

「マスター…」

「ああ……どうやら、動き出 したようだ」

表情が引き締まり……戦士と しての表情を浮かべる恭………そして、離れた雫は一歩下がり、頭を垂れる。

「まだ反応が薄い。だが、近 いうちに何かによって発現するな……」

「いかがいたします?」

「なのはが動くとは思うが… もし、万が一の場合は……」

本来なら、自分は動かない方 がいい……なにより、なのはには………だが、もしなのはの手に負えない事態になれば、恭は何があろうとも助勢に入る。

恭は首元にかけているペンダ ントを取り出し……そして、翳す。

「内に秘めし力…闇に輝く 星……闇を差す光……宿るは光と闇……纏うは十字架の刃…その力…我が手に宿りて……無限の刃となれ……神々の魂さえも斬り裂く…インフィニティ……セッ トアップ」

 

――――Stand By Ready.Set Up.

 

刹那、翳された十字架のペン ダントが光を放ち……やがて、その光は二振りの柄となって現われ、恭の手元に収まる。

そして……恭の姿を足元から 光が通過し…漆黒のジャケットに身を包んだ恭は、懐に小太刀を収める。

雫も足元に浮かぶ魔法陣のな かで…その姿を変えていく………黒髪が銀色に変わり…そして、その背中に天使を彷彿させるような純白の羽が開く。

暗闇のなか…蒼白い月明かり が部屋を照らす。

幻想的ななかに佇む漆黒の剣 士と純白の天使………そして、雫から使い魔であるティアとなった今、跪き…絶対の忠誠を誓う。

守護騎士としての義務…そし て……主への敬意の証………ティアは、恭に恭しくあるものを差し出した。

「マスター…これを……」

差し出されたそれを受け取 り、恭は頷く。リビングのベランダへと通じるドアが開かれた瞬間……風がカーテンを吹き荒む。

次の瞬間……部屋のなかには 二人の姿もなかった…………

 

 

 

場所を変えて高町家………夕 食を終え、自室に戻ったなのははユーノに昼間の出来事を話していた。

「へー、そんなことがあった んだ。大変だったね」

「うん…あの時、私も心臓止 まるかと思っちゃったな……でも、あの子のおかげですずかちゃんも無事だったし」

さしものなのはもあの瞬間だ けは生きた心地がしなかった。運良くすずかは事なきを得たが…それでもやはり、自分の親友が眼の前であんな状況に陥った。少しショックは大きいだろう。

「それにしても、いったいど うやったんだろうね…そのなのはが言ってる少年って……」

「私にも不思議なんだ…あの 状態でどうやってすずかちゃんを助けたのか……」

あの時は気が動転していて深 く考えられなかったが…今になって思うとどうやってすずかをあの一瞬で助け出せたのか、不思議でしょうがない。すぐ間近にいた自分達でさえ反応できなかっ たものが、何故より離れていたあの少年に可能だったのか……

「まるで、魔法みたいだった よ」

「なのは、今の君がそう言う のはどうかと思うよ」

苦笑じみたツッコミになのは も乾いた笑みを浮かべる。だが、確かにまるで魔法のような出来事だったのだ……まあ、今現在その魔法を使っている自分が言う言葉ではないかもしれない が………

「それで、その少年…名前、 何て言うの?」

「あ…うん。恭君…不破恭君 だって……お兄ちゃんと一字違いなんだけど…結構、雰囲気似てたな」

兄である恭也と一字違い…… それに、その雰囲気もよく似ていた。さらに驚いたのが夕食の席でのこと………

「そう言えば、お父さん言っ てた……不破って、お父さんの前の名前だって…凄い偶然だなって」

そう…夕食の席で家族にも昼 間の顛末を話したところ、不破という相手の名前に父親である士郎が驚きを浮かべていた。

あとから聞いた話だが、『不 破』というのは士郎の旧姓だったらしい……母親の桃子は不思議な縁だと笑っていた。

「今度、家に連れてくるから その時にユーノ君にも紹介するね」

話を聞き終え、桃子も是非お 礼をしたいと言い、近いうちに翠屋に招待しようと考えている。それに、どうやら同じ学校に通うらしい……聞いた話だと、なのは達と同級らしい。

「すずかちゃん、喜ぶかも… アリサちゃんは…どうだろう……?」

まあ、まだ同じクラスになれ るとは限らないが……思考を巡らせるなのはにユーノが話し掛ける。

「それよりなのは、そろそろ 行こう」

今までなごやかだった雰囲気 が消え…ユーノの顔が真剣なものに変わり…なのはもやや表情を強張らせて頷く。

「うん」

そう……深夜はなのはにとっ ては別の時間の始まり……魔法少女としての……ジュエルシードを探索するという……

なのははそのために寝不足気 味なことが多いが…家族が寝静まった深夜にこっそりと家を抜け出し、そして夜の街に繰り出していく。

いくら温かくても夜は冷え る…少し厚着をし、そしてユーノを肩に乗せながら街を徘徊し、ジュエルシード集めに奔走する。

こんな深夜……しかも小学生 が一人で歩いていたらそれこそ補導される……なのははこの時間は気が休まることがないのだ。

それでも弱音を吐かない辺り がこの少女の強さ所以かもしれないが………

夜の街に繰り出すなのは…… 不意に…夜空を仰ぐ………一筋の星が流れ…なのはの眼に映る………

なにかが起こる…そんな予感 を胸に…………

 

 

 

 

 

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【次回予告】

 

覚醒するジェルシード…そし て、私は封印に挑みます。

でも強い…私は追い込まれま す……恐怖が私を縛り、そして狙います。

 

その刻…私の前に黒い影が駆 け抜けます……

2刀の刃を構えし漆黒の剣 士………

 

彼はいったい、何者なので しょうか……

 

次回、魔法少女リリカルなの は THE MAGIC KNIGHT OF DARKNESS

Battle 〜敵? 味方?〜」

ドライブ……イグニッション

 

 


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